紅蓮の牙

二次創作中心。仮面ライダーキバと灼眼のシャナのクロスを連載中。

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第五話・暗転/弔詞の詠み手.前篇

【2年前】


「ゾ○レンジャー、ゾ○レンジャー! お前も、ふーまじめーにーなれー!」


変な歌を上手に歌いながら、奏夜は夜の商店街を歩く。


店は既にシャッターが降り、どこか物寂しい風景だ。
歌がサビに入ったあたりで、奏夜は足を止める。
自分の向かう先。商店街のアーチの前あたりに、二つの人影が立っていた。


一人は、自分よりもやや年下の青年。
奏夜と同じく茶が入った髪をして、目は不機嫌そうにつり上がっている。


もう一人は上から下まで黒いローブのような服を着て、顔にはカラスを模した金色の仮面に鉄の額当て。
青年の方はともかく、こっちはかーなーり怪しい。
あだ名をつけるなら、通せんぼをしてるあたり、武蔵坊弁慶。


話しかけてどいてもらうべきか。
奏夜が決めあぐねていると、青年の方が話しかけてきた。


「あんたか。この世界の“仮面ライダー”ってのは」
「……仮面ライダー?」


聞き慣れない単語だ。


「何だよそれ」
「……ああそっか。この世界じゃ仮面ライダーって呼び方はしないのか。ったく面倒くせぇな。……まぁ、いいや。ホラよ」


青年は頭を軽く掻き、奏夜に向かって無造作に何かを放った。
反射的に、奏夜はそれを受け止める。


「何だこれ? カード……じゃないな。電車の定期券か?」


奏夜の受け止ったそれは、黒い面に黄色と緑のラインが書かれたカードだった。数は二枚。


「そいつはゼロノスカード」
「ゼロノスカード?」
「所有している者を、時間の影響から守るカードだ。俺の記憶から作ったカードなんだから、無駄にすんじゃねぇぞ」
「……いや、こんなん貰われても」


色々と説明をすっ飛ばす青年に、さすがの奏夜も困惑気味だ。


「大体お前誰だよ。何で俺のことを知ってる?」
「お前が知る必要はねぇ。いいから黙ってカード持ってろ。――この世界の時間を守るために、いずれ使う時が来る」


それを最後に、青年は質問に答えることなく、奏夜に背を向ける。
と、傍らで黙りきりだった仮面の男が、奏夜の近くに小走りでやってきた。


「あの、すいません。侑斗は本当は凄くいい子なんです…。あ、これお詫びの印にどうぞ」


男はまるで主婦のような言い回しをすると、奏夜の手に袋付きキャンディを渡す。
イラストには、デフォルメされた男の顔が描かれていた。


「おいデネブ! 早く行くぞ!」
「あ、待ってよ侑斗~!」


青年の怒鳴り声が聞こえると、男は慌てて「侑斗をよろしく!」とだけ言って、青年の後を追いかけていく。



呆然とする奏夜の手には、二枚のカードとキャンディが残された。


「……」


奏夜は無言のまま、キャンディの包み紙を開けて、中のキャンディを口に放り込む。


「……美味ッ!」


――その後バイオリン作りの傍ら、奏夜は半年かけてその味を再現したそうな。


◆◆◆

【2年後】


「あ。奏夜くん、いらっしゃい」
「こんにちは、マスター」


授業を終えた足で、奏夜はカフェ・マル・ダムールに来ていた。
犬ブルマンの世話をするマスターにコーヒーを頼み、奏夜は待ち合わせている人物を見つけた。


「やぁ、奏夜くん。久しぶりだね」
「はい。お久しぶりです、名護さん」


カウンターに腰掛け、コーヒーを口に運ぶ青年に軽く礼をして、奏夜も相席する。


――彼の名は名護啓介。
『素晴らしき青空の会』のエリート戦士にして、対ファンガイア用のライダーシステム『イクサ』の資格者。
奏夜とは四年前からの付き合いであり、共にファンガイアと戦った仲間だ。


当時、奏夜は名護の独善的な性格から、様々ないさかいがあったが、現在は和解し、共に良き友人として接している。
今でもたまに、高圧的な態度になる時もあるが、当時に比べれば随分と心に余裕を持つようになった。
恵と由利という妻子を持ったのも、理由の一つだろう。


交友面においても、戦闘面においても、奏夜が頼りにする人物だ。


「キミのスーツ姿も新鮮だな」
「俺からすれば堅苦しくて仕方ありませんよ。それにどっちかっていえば、スーツは名護さんのトレードマークでしょう」


苦笑混じりに奏夜は出されたコーヒーを啜る。


確かに奏夜がネクタイさえも絞めず、ワイシャツに背鰭を羽織った服装なのに対し、名護はボタンもしっかりとめ、ネクタイのズレすらない完璧な着こなしを見せている。
奏夜のスタイルに合っているのは間違いないが、どちらが似合っているかと言われれば、過半数の人間は名護と答えるだろう。


「教師という職業も大変だな」
「いえ、案外楽しくやらせてもらってますよ。最近はファンガイアが活発になってますから、嶋さんのお世話になりっぱなしですけどね」


「ああ、こちらも似たようなものだった。御崎市ほどではないが、諸外国でもファンガイアの活動が目立つ。
青空の会は、ファンガイアの管理者側だけでなく、3WAにも協力を要請しているところだ」
「そうですか……。この前健吾さんからも連絡があって、名護さんと同じような状況みたいです」
「その上、キミの言う“紅の徒”か……」


名護は腕を組んで唸る。


「私も数日前、一匹だが“燐子”を倒した。封絶とやらがなかったから助かったが、もしあれば、イクサに変身していても私は動けないだろう。――キミの話では、何か対策があるとのことだったが」
「もちろん。天才に不可能はありません」


奏夜はポケットから、二枚のカードを取り出す。


「じゃあ名護さん、これを渡しておきます」
「これが対策? ただの定期券にしか見えないが……」


その一枚を手に取り、しげしげと眺める名護に、奏夜が説明を加える。


「ゼロノスカードという代物です。それを持つ人間は時間の歪みの影響から守られる。もちろん、時間や因果から世界を切り離す封絶にも有効ですよ。ちょっと調べてみましたが、効果は本物です」
「……相変わらずファンガイアの技術には舌を巻くばかりだな」
「ええ。そう、ですね」


奏夜は少し答えを濁した。
まさか二年前、通りすがりの二人組に貰ったなど、説明できたものではない。


(必要になるってのはこのことだったんだな)


二年経った今でも、彼らの正体はわからないが、今は素直に感謝しよう。
誰かを守るためになるものなら、何だって構わない。


「ではありがたく使わせて貰うよ。もう一枚は健吾に渡しなさい」
「ですね」


今の健吾なら、十分戦力になってくれる。
健吾も仕事が終わり次第帰国すると言っていたから、次に会った時にでも渡せばいいだろう。


「しかし、ファンガイアが活発化しているタイミングで、“紅の徒”が御崎市に現れたことは、何か関係性があるのかも知れないな」
「俺もそう見てます。それに、今回戦った“フリアグネ”ってやつは、チェックメイトフォークラスの力を持っていました」
「それだけの力を持つ存在が集まれば、また四年前のようになる可能性がある、か」


名護はやや憂いを帯びた表情になる。


名護は外国を飛び回っている分、ことによったら奏夜よりも遥かに多く、掟破りのファンガイアを倒してきた。


心労が増えるのはあまり好ましくないのだろう。
四年前こそすれ――大切な人がいる今なら、なおのこと。


「すみません名護さん。僕らがしっかりしてれば、恵さんや由利ちゃんとも……」
「? 何を言ってるんだ。キミが謝る必要はない」


名護は柄にもなくしょげる奏夜の肩を軽く叩いた。


「キミがこの街で戦ってくれているから、私は安心して戦える。キミが恵と由利を守ってくれているから、私は二人から離れていられるんだ。むしろ感謝したいくらいだよ。もっと自覚を持ちなさい」


名護の言葉に、奏夜は驚いたように目を見開き、


「――はい」


――かつて奏夜は名護に言われた。キミは本当に変わったと。
でもそれは、自分に限ったことではない。


みんなみんな、変わった。


名護にしろ、かつてからこんな柔軟な見方が出来たわけではない。
むしろ昔は、張り摘めた弦のように刺々しい音楽を奏で、自尊心の強い性格だった。


この四年でそれが改善されたのはひとえに――


「うふふー、名護くんも言ってくれるようになったわねー♪」
『!!』


シリアスな雰囲気を破壊する軽い声に肩をはね上げ、口に含んだコーヒーを吹き出しかける。
軽くむせかえりながら、奏夜と名護は後ろを振りかえった。


途端、名護さんに飛び付く小さな身体。


「お父さん、おかえりなさい!」
「おかえりなさい、名護くん」
「ゆ、由利? 恵?」


名護のみならず、奏夜も驚きである。


「い、いつの間に……」
「ん? 『キミのスーツ姿も新鮮だね』のあたりから」
「ほとんど最初からですか!」


多分、後ろのテーブル席にいたのだろうが、話に夢中で気が付かなかった。


「名護くんのいい感じなセリフも聞かせてもらったわよん。
『キミが恵と由利を守ってくれているから、私は二人から離れていられるんだ』
……つまり裏を返せば、本当なら片ッ時も離れたくないってことよねー♪」


恵、超ご機嫌。片や名護、超動揺。


「ま、待ちなさい! 違う、さっきのは言葉のあやで……」
「じゃあ私達は大切じゃないのかしら? 悲しいわねー、結婚してもう四年になるのに」
「い、いやいや。別に大切じゃないとは……」
「あら、ならいいじゃないの。さ、せっかく帰ってきたんだし、久しぶりに家族で過ごすましょう!
さぁ由利! パパに全力で抱き着くわよ!」
「だきつくー!」


恵は名護の背中に腕を回して抱き着き、そして恵の命を受けた由利は、腹部あたりにしがみつく。


名護の動揺、更にヒートアップ。
顔を真っ赤にして二人をどうにか振りほどこうとするが敵わない。


「めめめ恵! ゆゆ由利! 今すぐ離れなさい!」
『やー♪』


恵と由利は声を揃えて名護の要求を却下する。
そんな三人を見る奏夜と、コーヒーを煎れるマスターは、口の端が歪みながらも、懸命に笑いを堪えていた。


(名護さん(くん)が面白すぎる)


二人の思考がシンクロし、そしてこれまたほぼ同時に言った。


「超ラブラブですね(だね)、名護さん(くん)」
「茶化すのは止めなさぁーい!!」


――カフェ・マル・ダムールの店内に響く笑い声は、嶋が名護を訪ねてくるまで続いたという。


◆◆◆


「見上げる星、それぞれの歴史が、輝いて~♪」


カフェ・マル・ダムールの帰り道。
夕日が煌めき、帰宅する人達がちらほら見える道路沿いを、奏夜は歩いていた。
ゼロノスカードを貰った時のことを思い出したせいか、あの時と同じように鼻唄を歌っている。


(案外、また面白いヤツに出会ったりするかもな)


そんな朧気な期待をしつつ、奏夜は信号前で立ち止まる。四方と十字型に横断歩道がある、小さなスクランブル交差点。
車が行き交い、たくさんの人が信号が変わるのを待っている。


(――あの中にも、トーチがいるんだろう)


我ながら嫌な創造をする、と思いながらも、奏夜は顔を曇らす。


(……名護さん、俺は貴方に安心してもらえる程、誰かを守れちゃいませんよ)


フリアグネの存在に気が付く頃には、もう相当数の人間が喰われていただろう。


例えば、坂井悠二。
例えば、本当の平井ゆかり。


結局、犠牲者は出てしまう。
奏夜がどれだけ変わろうとも。
奏夜がどれだけ強くなろうとも。


それに日常か非日常かは関係ない。
それ以前の問題。この世のリアル。


(――父さんなら、守れたのかな)


全てに愛された男。
真の天才、紅音也。
もし父がここにいたのなら、今の自分をどう評価するのだろうか。
立派になったと言うのだろうか。それともまだまだだなと言うのだろうか。


……いや、こんな考えをすることこそ、まだまだ未熟ということなのだろう。


(ったく、煮え切らないヤツだな。俺も)


ネガティブ思考な自分の頭をゴンと叩いたところで、信号が青に変わった。
奏夜は群衆に混じって、横断歩道を渡る。




――世界が閉じたのに気が付いたのは、スクランブル交差点の真ん中まで来た時だった。




「……」


立ち止まって至近の様子を伺う。
自分以外の人間は皆動きを止め、静寂だけが支配する空間。


「封絶か」


世界を切り取るドーム状の炎。
幾度か見たことのある光景だが、炎はまるで覚えがない、群青色だった。


「――予感的中」


ぽつりと奏夜が呟く。
封絶の発生。それが意味するものは、


「封絶の雰囲気はあまり好きじゃないんだ。
俺の庭であるこの街を、無意味に引っ掻き回す真似は止めろ」

「ふん、私はアンタの存在がこの街の不協和音に聞こえるけどね」


互いに好意的でないことがわかる口調のまま、二人は互いの姿を視認した。
奏夜の真正面、交差点を渡った先の歩道に、いつの間にか一人の女性が立っていた。


外見は二十歳過ぎ。
欧州系の風貌に、栗色のストレートポニー。
縁無し眼鏡の向こうにある目は鋭く、表情もやや不機嫌気味。
奏夜は女性をそういった目で見ることがないが(奏夜が唯一、音也から受け継がなくて良かったと思うものである)、万人に聞けば確実に美人と答えるだろう。
持ち物らしき、肩にかけた下げ紐のに先に吊られている異様に分厚い本が、妙に目立っていた。


女性は奏夜を見るなり、深く溜め息をつく。


「デカい気配がすると思って来てみれば、ワケわかんないヤツ見つけちゃったわね」
「そらこっちのセリフだ。いきなり封絶使って話し合いのフィールド作りやがって。
何なんだお前。パッと見、フレイムヘイズみたいだか」
「……へぇ。大体のことは知ってるみたいね。手間が省けるわ」
『ヒャーッハハ! お前の場合、知ってようが知ってまいが説明面倒くさがブッ!』


女性の持つ『本』がいきなりハイテンションな声で喋り出した。
ちなみに最後の声は、女性が本をブッ叩いた音だ。


「一応は自己紹介しとこうかしらね。“弔詞の詠み手”マージョリー・ドー。んで、こっちが“蹂躙の爪牙”マルコシアス」
『よろしくなぁ! 茶髪の兄ちゃん、ッヒヒ!』
「さて、それでアンタは一体何? 同業者でも“徒”でもミステスでもないみたいだけど」
「紅奏夜。ハーフファンガイアだ」


ファンガイア、という単語に、マージョリーとマルコシアスが反応する。


「ふーん。あんたファンガイアなんだ」
「ああ、しかしアンタら、よく気が付いたな。知り合いに一人フレイムヘイズがいるが、そいつでも俺がファンガイアとは気付いてないのによ」
「誰のことか知らないけど、そのフレイムヘイズかなりお粗末なヤツね。確かに一目じゃ気付かないでしょうけど、気配探知の自在法使えばすぐにわかるわよ」


(ほう、そんなことも出来るんだな。自在法ってのは)


そういえばフリアグネも、シャナを『炎も満足に出せないフレイムヘイズ』と称していた。
ならば、マージョリーの言う気配探知の自在法が使えないのも頷ける。


「ま、そいつは与太話か。それで……マージョリーとマルコシアスだっけか。アンタらはこの街に何をしに来て、俺になんのようなんだい?」
「フレイムヘイズの目的なんて知れてるでしょう。“徒”をブチ殺しに来たのよ」


何やら穏やかでない空気が、マージョリーから流れ出ていた。


「私達が今追ってるのは“屍拾い”ラミーっていうクソ野郎よ。アンタに声をかけたのは、そいつの居場所を突き止めるのに使えそうだったから。それだけよ」
「なるほど、要はこの街の案内役ってとこか」
『ヒッヒッヒ、頭の回りが早ぇな兄ちゃんよ!』


マルコシアスの笑い声を聞きながら、奏夜は思考を巡らせる。
街に“徒”がいる以上、放ってはおけない。
だがシャナと違い、こいつらが自分にとって味方であるとは限らないだろう。


(――何にせよ、話を聞かないことには始まらんか)


そう結論付けて、奏夜は口を開く。


「そのラミーってヤツは、どんな“徒”なんだ?」
『あっちこっちでトーチを喰って、チマチマ存在の力を集めてるせせこましい野郎さ。ヒッヒ!』
「トーチを喰う?」


つまりトーチから存在の力を奪っているということだろうか。
だが、何故そんな面倒なことをするのだ。
トーチの持つ存在の力は、所詮仮初めに過ぎない。
普通に喰った方が、より効率良く存在の力は集まるだろうに。


奏夜の疑問を察したのか、マージョリーは補足を入れる。


「わざと消えかけのトーチを喰って、世界のバランスを崩さないようにしてんのよ」
「は? そんなの“徒”にとっちゃどうでも……」


言いかけて、気が付く。


そうか。トーチ、しかも消えかけのものだけを喰う。
その程度ならば、存在の消滅による世界のバランス崩壊は生まれない。
無害であるならば、フレイムヘイズがわざわざ討滅する理由はない。


上手いことを考えたものだ。


「ちょっと待てよ。それならほかっとけばいいじゃねぇか。そのラミーって奴」


奏夜は淡々と指摘する。


「世界のバランスを崩さず、普通に生きてる人間を喰わないなら、余計な戦いをしなくて済むだろ」
「……ハッ、同じように人の存在の力を喰う身でよく言えたもんね」


マージョリーの表情に苛立ちが混じる。
奏夜もまた、仲間への侮辱に対し、僅かに目を細めた。



「“紅世”についての経験が浅いようだから教えといてあげるわ。“紅世の徒”に例外なんてない。今はたまたま奴の都合で、他の気に障らないように動いてるだけよ。いつ溜め込んだ“存在の力”を使って災厄を起こすか、わかったもんじゃないわ」
「そいつが災厄を起こすって証拠はあるのかよ」
「“紅世の徒”は人喰いの化物なのよ、証拠なんてそれで十分! 同じことを何度も言わせないでくれる!?」


奏夜の耳を、彼女の奏でる心の音楽が揺らす。
激情に吼えるマージョリーの音楽は、まさに燃えたぎるビート。
調和など欠片もなく、ただ全てを巻き込む、暴音。
それらのバックミュージックには、鮮烈に刻まれた深い深い憎悪が鳴り響いている。


――荒れ狂うマージョリーの音楽を聞き終え、奏夜は表情を変えぬまま、


「なるほど、大体わかった」


奏夜は額に手を当てて溜め息をつき、答える。


「悪ぃな。俺、アンタらの邪魔することにするわ」
「は?」
『あ?』


マージョリーとマルコシアス。二人分の疑問符が浮かぶ。


「いやいや、最初は協力してもいいかなーって思ったんだけどな。ただ前回の件で、“紅世の徒”にも色々事情があるって知っちゃったからさ。何の話し合いも無しに、すぐ殺すのはやや憚られる気分でしてね」


それに。と奏夜は『笑った』まま告げる。


「俺さぁ、他人と解り合う気がないヤツって、あんまり好きじゃないんだよ」


奏夜は言い終わると同時に、下げていたバックを地面に放る。


「要するにだ。ラミーってヤツに関しては俺が処理する。アンタらの出番はありませんので、さっさとお帰り下さいな」
「――へぇ、言うじゃない」
『ヒャハハハハーッ! いーじゃねーか、いーじゃねーか! 滅茶苦茶面白ぇヤツだな兄ちゃんよぉ!』


マージョリーの好戦的な笑みと、マルコシアスの大爆笑に呼応するかのように、群青の炎が勢いよく弾け出した。


「交渉決裂ね。私たちの邪魔すんなら、さっさとブチ殺させてもらおうかしら?」
「やれるもんならな。――キバット!」
「あいあい! キバ~ッと!」


奏夜の呼び掛けに答え、何処からともなくキバットが飛来する。


「ガブッ!」


キバットが奏夜の左手に噛み付き、アクティブフォースを注入。
奏夜の顔にステンドグラスの模様が浮かび上がる。


「変身」


奏夜が静かに唱え、キバットがキバットベルトに止まる。
光の鎖が弾け飛び、奏夜の身体をキバへと変えた。


「断罪の牙の下、転生の輪廻に沈め!」


突然の変貌に驚く二人を、キバは人差し指で挑発する。


「赤い鎧に、蝙蝠の仮面……! っふふ、なるほど、最近よく聞いちゃいたけど、アンタが『キバ』!! ファンガイアの王!!」
『ヒャッ、ハハハハァ!! なんだってこんなちっちぇ街にこんな大物がいんだぁ!? 物好きな王様だなオイ。ッヒャ、ハハーッ!』


戦意をみなぎらせ、マージョリーとマルコシアスはキバを睨む。
戦うに足ると認めた相手を。


「ま~た面倒くさそうなヤツだな。フレイムヘイズってみんなこうなのかぁ?」
「さあな。ただ、平井とは違う面倒くささだとは思うぜ」


キバットのやや呆れ調の質問に、キバはあくまでもマイペースに答える。
マージョリーは肩から下げた本、神器グリモアを片手に持つ。
留め具は独りでに外れ、古めかしい字の書かれたページが捲れていく。


「準備万端ってか?」
「さぁ、どうかしらね」


はぐらかすような調子で二人は会話を交わす。
グリモアは半分ほどまでめくられ続け、付箋の挟まれたページで止まった。
それを合図に、キバは動く。


「ハッ!!」


両手を大きく広げるような独特の構えを取り、キバはマージョリーに突進していく。
キバの拳が彼女を捉える。


だが拳を突き出すキバの目の前で、吹き荒れていた群青の火の粉が、マージョリーを中心点に集まり出した。


「なんだぁ!?」


キバットが言い終わらないうちに、彼女を包み込む炎の塊は、奇妙な獣の形を型どった。
耳はピンと立ち、大柄な体格。両腕は熊のように太く、ギザギザの牙に瞳の無い丸い目が、まるでどこぞのマスコットキャラのような印象を与えていた。


『こっちも変身! ってかぁ? ッヒヒ!』


キバの拳が届くタイミングに合わせ、奇妙な獣は息を吸い込むような仕草を取る。
何かを吐き出すかのように。


「! キバ、よけろ!」
「チィ!!」


舌打ち三寸、キバットの警告に従い回避。


「ッバハァッ!」


群青の炎が獣の口から溢れ出す。
紅蓮の本流による津波を、キバはギリギリでかわす。


「ふうん、あの位置から回避したのを見ると……」


笑いの表情を取る獣の中からマージョリーの声が聞こえ、


『ま、合格点だぁな。ヒッヒ』


マルコシアスが言葉を継いだ。
息を整えて、キバとキバットは冷静に相手の戦闘スタイルを分析する。


「嬢ちゃんと全く戦い方が違うな」
「ふむ。自在法ってやつをメインに戦うフレイムヘイズ……ってとこだな」
「ならあの炎に加えて、攻撃方法も多彩にあるってことか……、こいつぁいくらキバッても、素手でやるには骨が折れるぜ」
「フン、なら狼には狼だ!」


キバが取り出した青色のフエッスルを、キバットが吹き鳴らす。


『ガルルセイバー!』


◆◆◆


「う~ん、負けちゃったか」
「ハッハッハ、手先が物を言うスピードなら、まだお前には負けんぞ」


「ちぇ~」と口を尖らせるラモンに対し、次狼は得意気に鼻を鳴らす。力はケーキを食べながら、二人のやり取りを見物していた。


――と、賑やかなドランプリズンに軽快なリズムが響き渡る。


「あ、お呼びだね」
「このけはい……またフレイムヘイズ」
「……ったくあいつは。トラブルメーカーなとこまで音也と似やがって」


次狼は溜め息混じりに呟き、ラモン、力が見守る中、彫像形態となって、キャッスルドランから飛び出していった。


◆◆◆


飛んできたガルルセイバーの柄を握り締めると、キバの腕が青き装甲『ガルルシールド』に覆われ、胸部もまた『ウルフェンラング』に変化。


キバの仮面とキバットの瞳が青く染まり、『ガルルフォーム』へのフォームチェンジが完了した。


『ヒッヒッヒ!! 青い狼と来やがったか! なんでぇなんでぇ、俺様のお株を奪うつもりかぁ!?』
「ふん、色が変われば強さが変わるのかしら」
「さぁ、どうかな!」


キバが吠え、再び獣に向かって駆け出す。


『ヒャーッハハ、お次はこいつだぁ!!』


獣が腕を一振りすると、無数の炎弾がキバ目掛けて射出された。


早く、数も多いが、ガルルフォームは身体能力に特化した形態。
防御と回避はキバフォーム時よりも格段に洗練されたものになる。
ガルルセイバーを使って炎を切り裂きながら、キバはガルルセイバー、次狼に問いかける。


「困った時の次狼さん。あのデフォルメ狼は何だ?」
『腹の立つキャッチコピーをつけるな』


律儀にツッコミを入れてから、次狼は答える。


『俺も実際に見たことはないが、恐らくアレは“蹂躙の爪牙”顕現の証、炎の衣『トーガ』だ』
「衣、ね。ならあの怖~いお姉さんを中から引きずり出さないと駄目なわけか」
『あいつらは自在法に長けている。炎髪のガキと違って、直線的な攻撃は無いぞ』
「はっ、上等!!」


炎の雨を持ち前のフットワークで回避し、キバは地を思い切り蹴る。
ジャンプした勢いで、近くにあった信号機の上に着地。


「逃がすかよぉ!!」


炎弾が飛ばされる瞬間、キバは信号機を足場に再び跳躍。
信号機が燃えないゴミに変わったのを横目に収め、キバは落下の勢いに任せるまま、ガルルセイバーを獣目掛けて振り降ろす。


「なっ!!」
『やべっ!!』


炎の嵐を一旦止め、獣は両腕を交差し、防御体勢を取る。


「甘い!」


キバは空中でくるりと身体を捻り、ガルルセイバーを振り降ろすことなく着地。
上段に腕が置かれ、獣の正面はがら空きだった。


「ハァッ!」


ガルルセイバーの剣閃が煌めき、獣の身体を切り裂く。
二撃、三撃と刀身が振り抜かれる度に、獣の身体を作る焔が散った。


「ぐっ!!」
『っの野郎がぁ!!』


獣は僅かによろめくが、アンバランスな体勢のまま、炎弾をキバに吐き出した。


「がっ!!」


火球がキバの真ん中にヒットし、その身体を打ち上げる。
ざりざりざり、と地面との摩擦で火花が散るも、キバは直ぐ様身を起こしてリカバリングした。


「……やるな」


僅かに焦げた自らの鎧を見て、キバは呟く。


「ハッ、お互い様でしょうが」


苦々しげなマージョリーの声が聞こえ、獣が起き上がる。


『いやいやおでれーた。さすがはキバってとこかぁ? ヒッヒ』
「この程度と思ってもらっちゃ困るぜぇ?」


マルコシアスのシニカルな言い回しにキバットが答え、両者は再び睨み合う。
戦いが仕切り直され、一触即発の雰囲気が漂う。
互いが剣と爪を構え、隙の伺い合いが続いていた。




『――~~~♪』




彼にしか聞こえない音色――ブラッディローズの旋律が、キバの思考を揺らした。


「なっ!?」
「おいおい、このクソ忙しい時にファンガイアかよ!!」


狼狽えるキバに、獣は不審そうに首を傾げる。
一方でキバは大慌てだ。
このまま『弔詞の詠み手』を放っておけば、後々面倒になるのは確か。
しかし現段階で、優先させるべきは掟破りのファンガイアだ。


「……あ~、畜生!!」


苛立ちを含んだ語長のまま、キバは指をパチンと鳴らす。


すると、何処からともなく、キバ専用のバイク――マシンキバーが爆音と共に走ってきた。
マシンキバーは馬型モンスターの脳を移植されているため、キバの指示一つで自走が可能なのである。


やってきたバイクに跨がり、キバはガルルセイバーの柄をマージョリー達に向けた。


「お前らの相手はまたしてやる!」
「は? あんたら逃げられるとでも……」


――アォォォォン!
マージョリーが言い終わるか言い終わらない内に、ガルルセイバーから放たれた衝撃波が、道路を砕いて上がった砂煙を巻き上げ、マージョリーの視界を覆った。


「くっ!?」


マージョリーは直ぐ様目を開けたが、既にキバの姿はそこにはなく、バイクのホイール跡だけが虚しく残されていた。


しばらく獣は、呆けたようにその場に立ち尽くし、群青の炎が霧散すると、再びマージョリーの姿を現す。


『ヒャーッハハハハ!! 言ったそばから逃げられちまったなぁ! 我が鈍重なる追跡者、マージョリー・ドブッ!』
「お黙りバカマルコ」


普段よりもやや強めな一撃がグリモアへと飛んだ。


◆◆◆


交差点からやや離れた路地裏。


『ガルル・バイト!』
「ヴルァァァ!」


満月をバックに、キバは『ガルルハウリングスラッシュ』を決め、三体のラットファンガイアを撃破する。
ステンドグラスの欠片となったファンガイアの肉体から、虹色に輝くライフエナジーが放出された。


「ふうっ……」とキバは息を吐いて、ガルルセイバーを手放す。
彫像となったガルルセイバーを見送って、キバットが言う。


「奏夜。こいつら、量産体のファンガイアだぜ」
「誰かが使役する、意思のない操り人形だ。でも、一体誰が……っ!!」


そこでキバは言葉を切る。
突如、浮遊していたライフエナジーが、キャッスルドランに向かうことなく、飛び去っていったのだ。
行き先を目で追いかけると、それはすぐ近く、路地裏の入り口で止まる。


いつの間にかそこには、黒い人影があった。
ライフエナジーはその人影の手のひらで踊り、影の体内に吸収される。


「また、会ったな。キバの、継承者よ」


フードの下から漏れる独特な口調には、聞き覚えがあった。


「お前は、あの時のファンガイア…!!」


フリアグネの一件で自分を襲ってきた謎の存在、ドラゴンファンガイアだ。


「あのファンガイアは、お前の差し金か」
「フッ、だったら、どうする?」
「掟を破ったファンガイアとして、許すわけにはいかない」


拳を向けるキバに、ドラゴンファンガイアの口元が怪しく歪む。


「戦う、か。それも、悪くない。しかし、今は、まだ、その時では、ない」
「何だと?」
「私は、まだ、自分の身を、危険に晒す、わけには、いかないのだ。前の戦いは、お前の力を測るためのものに、過ぎない。いずれ、来たるべき時に、貴様との戦いも、喜んで受けよう。フレイムヘイズの連中も、一緒にな」
「フレイムヘイズのことまで……。お前、何者だ!!」




――お前達の、過去を作りし者。




そう言い捨て、ドラゴンファンガイアは指を鳴らすと、霞となって消えた。


「俺達の、過去……?」


変身を解除し、奏夜はドラゴンファンガイアの言動を反芻する。
混迷するばかりの疑念を示すかの如く、夜の帳はただ深みを増すだけだった。


『弔詞の詠み手』と“蹂躙の爪牙”。
“屍拾い”ラミー。
そして、ドラゴンファンガイア。


誰に言うでもない奏夜の愚痴が、虚空に虚しく反響する。




「さあて、面倒くさくなってきやがったな」
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  1. 2012/03/17(土) 17:52:11|
  2. 仮面ライダーキバ/BLAZING.BLOOD
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