紅蓮の牙

二次創作中心。仮面ライダーキバと灼眼のシャナのクロスを連載中。

スポンサーサイト

上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。
  1. --/--/--(--) --:--:--|
  2. スポンサー広告

第零話・プレリュード/覚醒の夜.後篇


気絶状態から覚醒した奏夜は、休む間もなく街を駆け回っていた。


「はぁ、はぁっ……くそっ!!」


苛立ち紛れに舌打ちし、辺りに目を走らせていくが、恵の姿はない。
あんな目立つ化け物と一緒にいるのだから、誰か目撃者がいてもおかしくはない。
しかし相手はファンガイア。証拠を残さない完全犯罪はお手のものだ。


「おい!」
「は、はいっ! なんでしょうか?」


近くにあった弁当屋の店員に声をかける。
人嫌いだなんだと言っている場合じゃない。


「このあたりで怪しいヤツ見かけなかったか!?」
「あ、怪しい人ですか? さ、さぁ……私は今日、朝からずっとここにいましたけど」
「おーいバイトくーん、ちょっとこっち手伝ってくれー!」
「あ、はーい! あの、お役に立てなくてすみません」


ぺこりと頭を下げ、店員は弁当屋の中に消えていく。
時計を見ると、気絶時間込みで一時間は過ぎている。


「マズいな……早くしないと」


奏夜はまた駆け出す。
商店街から離れ、どんどん人影が消えていくが、肝心の恵だけは何処にも見あたらない。


「畜生、どうしろってんだよ……」


焦りと苛立ちをミックスさせながら、奏夜は御崎市外れの雑木林に差し掛かる。
今は使われていない幽霊物件が乱立し、恵を連れ去ったのなら、隠し場所にはもってこいなのだが……。


「うぉーい、奏夜ぁ――!」


パタパタと小刻みに聞こえてきた羽音。
飛来した金色の影は、奏夜のよく見知った相棒の姿。


「キバット!!」
「ふいー、ようやく見つけたぜぇ。こんな町外れで一体何やってんだ?」
「一切合切全部後だ! お前、ここに来る途中までにファンガイア見かけなかったか!? 早くしないとあの人が!」
「あの人? 誰のことだよ」
「あーもう! 前に風呂場で話したろう! お前が言ってたモ、モデ……」
「モディリアーニ?」
「多分それだ! お前がモディリアーニがどうとか話してた時!」
「……ああ! お前のマスク取ったって女のことか!」


キバットは羽の先で器用にポンと手を打つ。


そして切羽詰まった奏夜の様子。そしてブラッディローズの覚醒から、キバットは大体の事情を察した。


(にゃるほどねぇ……)


僅かな時間で変わるもんだ。
本当に成長する兆しはどこにでも転がっている。
だがキバットは、敢えて聞いた。


「探す分には構わねぇけど……いいのかよ?」
「は?」


奏夜は本気でわからないという顔をした。
ほんの数時間前まで、浮かべなかっただろう感情である。


「お前、そのモディリアーニの姉ちゃん助けようとしてるみてーだけど、もし助けたら、今までのお前にゃ戻れねぇぞ?」


奏夜はあからさまに表情を曇らせ、口を閉ざした。


「誰にも関わらない。自分だけが世界の全て。モディリアーニの姉ちゃんを助けるってことは、今までのお前を全て否定するってことだぞ。
それだけじゃない。お前は今まであまりに排他的だった。今更他人を受け入れるなら、そのツケを支払わなくちゃならない。それ、とんでもなくツラいことだと思うぜ」


それでも。





「助けるのか? その姉ちゃんを」





「……」


奏夜はぎゅっと拳を握り締める。
改めて、自分が今までどういう人間だったのかを自覚させられた。
紅奏夜を理解しようとしてくれた人達を全て拒絶し、容赦なく傷付けてきた。


わかっている。
今頃になって誰かを助けても、これまでの罪状は消えない。ただ、苦しいだけだ。


けど。それでも。




「…………助けるよ」




小さく、しかしハッキリとした口調で答える。


「正直、まだ人間は苦手だ。ファンガイアと敵対するのだって凄く怖いし、そもそも助けられるかどうかだって怪しい」


どう見てもリスクしかない行動。
まさに奏夜の嫌いな正義のヒーローの如き行いだ。


「けど、動かなきゃいけない気がするんだ」
「ほーう?」
「俺、さっき初めて、心の底から人を助けたいって思ったんだ。そしたら、ブラッディローズの音色が聞こえた。『戦え、戦え』って」


あの音色が聞こえてきた時から、胸の鼓動が止まらない。
奏夜の心は、名前のつけられない衝動で満たされていた。


「正義のヒーローになるつもりはない。でも、俺の心が言ってるんだ――ここで動き始めなきゃ俺、絶対に後悔する!」


制御不能な感情が、戸惑いを焼き払い、昨日までの自分を忘失させていく。
生まれ変わっていく自分を止められないまま、奏夜の『心の音楽』は、一際大きな波動を生み出した。
世界中に響き渡るかのように。
新しい自分の目覚めを伝えるかのように。





「俺がどれだけ変わったって構わない!
ただ俺は、あの人を助けなきゃいけない! いや、助けたいんだ!」





魂の咆哮と共に吹き上がった魔皇力。
奏夜が忌み嫌い、抑えつけてきた力が今、再び覚醒した。


(文句なしの合格だな、真夜)


ニヤリと笑うキバット。しかし不敵な仕草とは裏腹に、その表情はどこか嬉しそうでもあった。


「よーし、お前がそこまで言うんなら、このオレ様が力を貸してやるよ」
「……力?」
「ああ。真夜から預かってた、ファンガイアにも負けない特別な力だ」
「母さんから、預かってた力? おいキバット、どういう……」


奏夜が尋ねるよりも早く、キバットは奏夜の左腕あたりにまで降下した。
その口からは、鋭い犬歯が覗く。


「ファンガイアに受け継がれし至高の魔装具『黄金のキバの鎧』。これより継承の試練を執り行う!!」




――ガブッ!!




膨大な魔皇力――アクティブフォースがキバットの牙を介し、奏夜の中に流れ込んでいく。力の注入に伴い、奏夜の頬にはファンガイアと同じ、ステンドグラスの紋様が浮かび上がった。


「う、あああああああぁぁぁぁぁぁ!?」


焼け付くような痛みを感じながら、奏夜の意識は遠のいていった――


◆◆◆


そこは、漆黒の闇が支配する世界。
美しい三日月が、下界の人間を嘲笑うかのように浮かんでいる。
そして、月が放つ孤高の光をバックに立つのは、禍々しい容姿を持つ異形。


「誰、だ」


異形は答えない。
蝙蝠を模した仮面越しに此方を見続けるだけだった。
やがて、銀色の甲冑を揺らしながら、異形はゆっくりと近付いてくる。
淀みない動作で、血に染まったように赤い手が差し出された。


「……」


一瞬、躊躇いに手が震えた。
弱い感情と戦いながら、恐る恐る手を伸ばし、相手の手をしっかりと握る。
異形は頷くと、仮面の下からくぐもった声が聞こえてきた。





「継承の儀は終わった。闘おう、共に」





うん――頼りない主だけど、よろしく。




◆◆◆


御崎市郊外にある寂れた礼拝堂。
若い男女が永遠を誓う祭壇の傍らには、気を失い、黒い気品溢れるドレスを纏った恵が、花の詰まった棺の中で眠っていた。やはりダメージが大きかったのか、気絶から目覚める様子はない。


「おぉ――! 美しいぃぃぃぃ……! まぁさに天使だぁ……」


その側には、歓喜に身体をくねらせるスパイダーファンガイア。
ドレスを着た恵の美しさには誰もが同意するだろうが、スパイダーファンガイアの喜び方は、完全に変態のそれだ。


「さぁて、衣装も整ったし……遂に、遂に念願の結婚式をぉぉぉぉぉぉぉ!」


一際オーバーな動きをしつつ、スパイダーファンガイアは顔と思わしき部分を、眠り続ける恵に近付けていく。


「めぇぐみぃ……これでお前は俺のものだ――」


ステンドグラスから零れ落ちる月光が照らす礼拝堂。
歪んだ誓いが、神の下で交わされる――






ガッシャーーン!!





「ヒッ!」


突然の轟音。
礼拝堂上部にあるステンドグラスの窓が次々と割れ、彩りの破片がぱらぱらと落ちていく。
まるで虹の雨だ。


「な、何が……!」


スパイダーファンガイアに思考の余裕は与えられなかった。
割れた窓から、無数の黒い影が、礼拝堂になだれ込んで来たからである。


「ヒッ、な、なんだこりゃあ!?」


影の正体は、無数の蝙蝠だった。
夜の獣達はスパイダーファンガイアの視界を奪い、再び漆黒の闇に消えていく。


「くっ、一体何がどうなって……っ!?」


言いかけて言葉を失う。
いない。さっきまで棺で眠っていたはずの花嫁――恵がどこにもいない。


「恵!!」


慌てて外に飛び出したスパイダーファンガイア。
眼前にある荒れ果てた広場には霧が漂い、より不気味さが募っていた。


「!! 誰だ!!」


ファンガイアの鋭敏な聴覚が、物音を捉えた。
霧は段々と彼方に消え、仇なす敵を映し出す。


「貴様は……!」


愛しの恵を両手に抱き抱える男――紅奏夜を、スパイダーファンガイアは憎しみを込めた目で睨む。


「何故ここが分かった!?」
「聞いただけだ。この人の――恵さんの『心の音楽』をな」


そっと、恵を近くの柵に寄りかからせながら、奏夜は抑揚のない声で告げた。


「一応忠告しておく……。死にたくなければ、さっさと消えろ」
「ふざけるな! 恵は俺のものだ、人間風情が出しゃばるな!」
「そうか。なら……」


手加減できなくても恨むなよ。
奏夜はゆっくりと、その左手を掲げた。


「キバット!!」
「おう!!」


飛んできたのは金色の蝙蝠、キバットバット三世。


「よっしゃあ! キバッて、行くぜ!!」


キバットを右手でキャッチし、そのまま左手を強く噛ませる。




「ガブッ!!」




牙から注入されるアクティブフォース。
鎖と共に巻かれる真紅の止まり木『キバットベルト』。
そして、頬に浮かび上がるステンドグラスの紋様は『破壊の魔帝』覚醒の証。


突如、スパイダーファンガイアの顔が恐怖に歪んだ。
先刻まで狩る側の目だったそれは、更なる強者に狩られる獲物でしかない。


「き、貴様……それは、その、力は……!!」


奏夜は研ぎ澄まされた眼差しで、スパイダーファンガイアを睨んでいた。
自らの力となった『鎧』を保有するキバットを手前に突き出し、奏夜は叫ぶ。





「変身!!」





キバットベルトに逆さまに止まったキバットの瞳が点滅し、円環状のウェーブが巻き起こる。


変化はそれだけではなかった。
光で構成された鎖が、奏夜の身体に巻き付いていく。


じゃらり、と鎖が軋み、まるで、生まれた力に耐え切れなくなったかのように、光は弾け飛んだ――


◆◆◆


(……う)


暗い夜の冷たさが身を貫く。
背中に堅い感触。
少なくとも家にいるわけではないのは分かった。
首を僅かにもたげると、ぼんやりと古めかしい教会が見える。


(なんで、こんなとこに……)


寝起きで動作不良を起こす頭を全力で回しながら、恵は今までのことを思い出していく。


(……そうだ。私、あのファンガイアに負けて、気を失って……)


身体を起こそうとするが上手くいかない。ダメージは大きいようだ。


(……っそうだ。あのコは……)


さっきまで一緒にいた青年。
自分が無事だからといって、彼が無事である保障はない。
段々と意識が覚醒し、それに伴い、霞んでいた目の視力が戻っていく。
――庭園の中心部。対峙する2つの影。


一人はスパイダーファンガイア。





そしてもう一人は――





「……っ!!」


恵は言葉を失った。
その瞳に飛び込んで来たのは、血の如き真紅の外皮。
重厚感溢れる目映い銀色の甲冑。
夜の闇の中にあっても、狩り人の鋭い光を失わない、蝙蝠を模した仮面。


(あれ、は……まさか!!)


間違いない。
その名をファンガイアに轟かせ、リーダーである嶋からも、幾度となくその危険性を聞かされてきた『ファンガイア以上の脅威』。





「キバ……!!」




全てを無に帰す破壊の魔帝。
その存在が今、恵の目の前にいた。



◆◆◆


「ハッ!」


両腕を大きく広げた独特の構え。
重量感漂う鎧からは想像もつかないスピードで、キバはスパイダーファンガイアに真っ正面から突っ込んでいく。


「グッ……、うぉぉぉ!」


思わぬ敵の出現に怯みこそしたが、スパイダーファンガイアも負けるわけにはいかない。
花嫁を取り返すべく、こちらも小細工抜きでキバを迎え打つ。


―-ガンッ! 
生物同士が奏でるとは思えない重厚な音が激突する。
拳がぶつかり合ったことを認識した瞬間、両者はすぐさま次の攻撃に転じる。


「はっ!」
「しゃあっ!!」


拳と脚の壮絶なラッシュ。間合いをとったかと思えば、次の瞬間には距離が詰まっている。人外としての強大な力が、夜の暗闇の中でしのぎを削っていた。
激しさを増す戦いは、雑木林に場所を移していく。


「ふっ!」


未だに続く攻防戦の最中、キバは突如スパイダーファンガイアに背を向け、彼の拳を回避しつつ、鮮やかな宙返りを決めた。
しかし、それは防御を優先させての行動ではない。
キバは空中にある脚を、近くに立つ木の枝に引っ掛け、そのモチーフに恥じぬコウモリのように、逆さまの状態でぶらさがったのだ。


「はぁぁぁぁっ!」
「ご、はっ!」


宙吊りから、スパイダーファンガイアへの猛烈なパンチの嵐。
雑木林に移動したことをすぐさま駆け引きの中に取り入れる手腕が、キバの戦闘センスを物語っている。


「クッ……出でよ!」


肉弾戦では不利と判断したのか、スパイダーファンガイアは左腕に魔力の流れを集める。すると、左腕のステンドグラスの外皮が輝き、ぱらぱらと細やかな破片を落としていく。
落ちたガラスはひとつの形として集束し、一本の長剣を生成した。


「はっ、せいっ!」


鈍く輝く剣が振り抜かれる。伸びたリーチにキバは一旦距離を取るが、攻守が逆転してしまったのは痛い。キバも徐々に追い詰められ、逃げ場を失っていく。
ふいに、背中に何かが当たる感覚。
木が邪魔で後退できない、追い詰められた。


「ハァッ!」
「ぐっ!?」


生まれたチャンスに、キバへと浴びせられる無数の斬撃。
斬られた部位の鎧からは紅い火花が散り、装着者へのダメージも着実に蓄積されていく。


「トドメだぁ!」


勝利を確信し、スパイダーファンガイアは最後の一撃を放つ。


――ドスッ!!


申し分ないスピードで突き出された鋭き刃が、キバの胴体を貫いた。


「あっ!!」


キバを追いかけてきた恵が、息を呑む。
スパイダーファンガイアに勝利の余韻が、恵に「まさか」と思う気持ちが、それぞれ錯綜する。
しかし、


「へっへっへ~~!」
「何ィ!?」


必殺の一撃にも関わらず、キバには傷一つ無かった。
ベルトに止まっていたキバットが、刃を口に咥えることで防いでいたからだ。


「じゃんにぇん(残念)でした!」
「はぁっ!!」
「ごふっ!?」


驚愕に注意力を削がれたスパイダーファンガイアは、キバの強力なストレートをモロに食らう。
木々を薙ぎ倒しながらもその勢いは止まらず、木々の切り開かれた広い伐採所まで、スパイダーファンガイア吹き飛ばされてしまった。


「ぐ、おのれぇ……!」


悔しさに歯を軋ませるが、ダメージは大きい。
動けぬスパイダーファンガイアの前に、甲冑が擦れるような音を響かせながら、キバが近づいてくる。
月明かりを浴び、敵を冷たく見下すその姿は、まるで処刑人だ。


キバは静かに、ベルトのサイドケースから、水晶のように輝く笛『ウェイクアップフエッスル』を取りだし、ベルト中央部のキバットにそれを咥えさせる。


「よし、行くぜぇ!! 『WAKE.UP!』」


ベルトから外れたキバットはキバの周囲を飛び回りながら、高らかにフエッスルを吹き鳴らす。まるで夜の静寂を切り裂くように。


「ハァ〜〜〜ッ!!」


キバが両手をクロスさせた途端、何処からともなく立ち込めた紅い霧が、夜空に立ち上っていく。
すると、半円だったはずの月が突如、キバフォームの力を最大限にまで発揮できる三日月へと変貌する。
世界の摂理以上に優先される力。その恐ろしさとは裏腹に、夜の漆黒に浮かぶ三日月は妖艶な美しさを放っていた。


「ハッ!」


キバが右足を振り上げると、周囲を飛び回っていたキバットが、右足に装着されている甲冑『ヘルズゲート』の鎖――否、強大な力を抑える封印を解き放つ。
地獄の門が開かれ、顕現するは悪魔を思わせる赤い翼。
残った左足に力を込め、天高く飛び上がるキバ。真紅の両翼は彼を夜空へと誘っていく。
三日月をバックにキバは空中反転。スパイダーファンガイアへと狙いを定め――




「ハァァァァァァァ―――ッ!!」




勢いをつけての急降下攻撃。
天より闇を裂く必殺キック『ダークネスムーンブレイク』が、スパイダーファンガイアに叩き込まれた。


「ぐっ、おおおおおおおおお!?」


スパイダーファンガイアは正面からそれを受け止めるが、凄まじい勢いには勝てず、土埃を上げながら後退していく。
まずい。このままでは――!!


「うっ、あああああ―――!」


『逃げ』へと転じる判断はすぐに下された。
渾身の力でスパイダーファンガイアは身体をよろけさせ、ダークネスムーンブレイクのプレッシャーから逃れる。腕が深く抉られはしたが、命には代えられない。


「!!」


キバが驚愕するも、発動した技は方向転換できない。
空振りに終わったキックの力は大地へと叩き込まれ、コウモリを模したキバの紋章を、クレーターとして遺すだけに終わった。
一応周囲を見渡すも、既にスパイダーファンガイアは逃げ延びた後だった。


「……逃した」
「じゅーぶんじゅーぶん。犠牲者もいねーし、初めてでこれだけやれりゃあ上出来だ」


ふうっ、と一息入れるキバ。しかし、難はまだ去っていなかった。


「――キバ」

振り向くと、そこには恵が立っていた。こちらに突きつけられているのは、銀色の銃器・ファンガイアバスター。
彼女の瞳には驚愕と恐怖の二つが宿っている。


「動かないで」
「……」


キバは動かない。
なめられているのか。自分など、簡単に消せるという意思表示か。
恵は内心冷や汗をかきながら、キバと対峙する。


「……うっ」


突如、キバの身体がふらりと揺れ、地面に倒れた。
魔皇力強化による負担が身体に襲いかかり、キバの鎧も強制解除を余儀なくされる。


「……えっ?」


これにはさすがの恵もきょとんとする。
恐る恐るといった風に、キバがいたはずの場所に倒れている人影へと近づいていく。
やがて月光が、キバの正体を映し出す。


「! キミ……!」


そこにいたのは、ついさっきまで自分と一緒にいた青年――紅奏夜が倒れていた。
傍らには、奇妙な金色のコウモリ、キバットが「お、おーい。大丈夫か奏夜~!」と声をかけ続けている。


「そんな、キミが……キバ?」
「う……」


次から次へと襲い来るサプライズの連続に混乱する恵だったが、すぐに我に返る。
キバだなんだというよりもまず、倒れた奏夜へのケアが最優先ではないか。


「ちょ、ちょっとキミ! 大丈夫!?」
「う……、は、は……」
「は?」


何が情報になるか分からない。恵は必死に奏夜の声を聞き取ろうとする。


「腹、減った……」
「……」


……何のことはない。ただのベタ過ぎる欲求だった。




出会いの夜は明ける。
覚醒の時を、告げるかのように。




◆◆◆


――後日。市内某所のトレーニングジムにて。


「キバが現れたとは、確かなのか?」
「はい。私もこの目でキバを見るのは初めてなのですが……」


恵が話しているのは『素晴らしき青空の会』リーダー、嶋護。彼女の上司にあたる男だ。


「そうか……わかっているとは思うが、名護君には言うな。彼が聞けば、真っ先にキバを倒そうとするだろうからな」
「はい。……あの、嶋さん」
「なんだ」
「嶋さんは以前、キバをファンガイア以上の脅威と言っていましたよね?」
「……ああ」


嶋は重量感のあるバーベルを持ち上げながら答える。


「だが私も、キバに関して詳しいわけではない。相手のカードがわからない以上、こちらからカードを切るのは危険だ。
キミの情報を疑うわけではないが、キバに関しては、しばらく様子を見た方がいいだろうな」
「……はい。了解しました」
「? どうした。何か言いたいことがあるのか?」
「いえ、何でもありません。……失礼します」


ぺこりと頭を下げ、恵は嶋に背を向けた。
嶋が首を傾げたのがわかったが、努めて平静を装い、トレーニングジムの扉を開けて外に出た。
歩きながら、恵は考える。


(……どうしよう)


嶋には言えなかったこと。
知ってしまったキバの正体――紅奏夜。


素晴らしき青空の会の一員としては、嶋に報告するべきだっただろう。人類の脅威を野放しにはできない。
だが、奏夜がキバであると知れれば、最悪彼は処分される。
彼の普段の姿を知っている手前、それは嫌だ。


「はぁ……ホントどうしよう」


慣れないダブルバインドに重くなる頭で、恵はなんとか『マル・ダムール』に辿り着く。
コーヒーでも飲んでスッキリしよう。
そう考えての行動だったが――




『……あ』




店の扉を開けた瞬間に後悔した。
カウンター席に誰であろう、さっきまで自分の脳内の大部分を占めていた青年、紅奏夜が座っていたからだ。





「あ、恵ちゃん恵ちゃん。ちょーど良かった」


奏夜と話していたらしいマスターが、恵に笑いかける。


「あの、マスター。その子は……」
「うん。なんか恵ちゃんに用があるんだってさ。――ほらキミ、恵ちゃん来たよ」


マスターに促され、 奏夜は立ち上がって恵を凝視する。
どこか居心地が悪そうな、オドオドした顔つきだった。


「……あの、えっと……」
「……なによ。言いたいことがあるなら、はっきり言いなさい」


もしかして、キバについてだろうかと勘ぐりながら、恵は言う。奏夜は尚も唸り続けていたが、ややあって、恵を真っ直ぐに見据え――深々と頭を下げた。


「その……ごめんなさい!!」
「えっ!?」


いきなり謝られた。
しかもあまりにキッチリとした前屈姿勢付きで。


(な、なに!? なんでいきなり謝られてるの私!!)


むしろ助けてもらった手前、自分は礼を言うべき立場だ。
戸惑う恵に、奏夜は傍らにあった包み紙に入った箱を差し出す。


「あの、これ……ひ、ひどいものですが」
「あ、うん。ありがとう……」


ちなみにこの場合、「つまらないものですが」というのが正解である。


「でも、どうしたのキミ。いきなりこんなお詫びの品まで持って……私、何も謝られるようなことされてないわよ?」
「いえ……あなたがそう思ってなくても、その、俺自身のけじめって言うか……」
「――もしかして、今までのつっけんどんな態度のお詫びってこと?」


奏夜は押し黙る。
図星だったらしい。


「俺、あれからいろいろ考えたんです……。変わるには、どうしたらいいのかって。そしたら、生まれた時からの親友が『まずは歩み寄ることから始めろ』って言ってくれて……だからまずは、今まで迷惑をかけた人に謝ろうって、ここに来たんです……」


あの不遜な態度が欠片も見られないほど、奏夜は緊張しているように見えた。
恵はようやく気が付く。恵が会話の中で見抜いた奏夜の本質――奏夜は今、本当の自分と向き合えるように、始まりの一歩を踏み出そうとしているのだ。


「だ、だからその……ひ、ひどいこと言って、ごめんなさい。図々しいお願いだって、分かってます。でも、もしまだ許してくれるなら――」


掌が、恵に向けて差し出された。





「俺の、友達になってください……!」





目を伏せて、掌を震わせて、奏夜は恵の返事を待つ。


「……ふふっ」


恵はついつい笑ってしまう。
なんだこれは。さっきまで悩んでいた自分がバカみたいじゃないか。
何がキバだ。何が人類の脅威だ。


(こんないいコが、人を滅ぼすわけないじゃない)


今目の前にいるのは、臆病で、不器用で、けれど変わるために精一杯の勇気を示している、ただの男の子。
そして多分、これから長い付き合いになるであろう――友達だ。


何の迷いもなく、恵は奏夜の手を握り返す。
顔を上げた奏夜を真正面に見つめ、恵は笑顔と共に言う。


「これからよろしく。奏夜くん!!」


奏夜の表情はみるみるうちに喜びに彩られていく。
――それが、奏夜が恵に見せた最初の笑顔だった。


「はいっ! よろしくお願いします、恵さん!!」






――全てはここから始まった。
これはやがて、紅蓮の炎を引き寄せることになる運命の牙。
その誕生の記録である。


スポンサーサイト
  1. 2012/05/31(木) 11:06:33|
  2. 仮面ライダーキバ/BLAZING.BLOOD
  3. | トラックバック:0
  4. | コメント:0
<< 【感想】特命戦隊ゴーバスターズ Mission14.サバ?救出作戦 | ホーム | 第零話・プレリュード/覚醒の夜.中篇>>

コメント

コメントの投稿


管理者にだけ表示を許可する

トラックバック

トラックバック URL
http://syanakiva.blog.fc2.com/tb.php/75-36b84230
この記事にトラックバックする(FC2ブログユーザー)
上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。