紅蓮の牙

二次創作中心。仮面ライダーキバと灼眼のシャナのクロスを連載中。

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第零話・プレリュード/覚醒の夜.中篇

俺がこの力を自覚したのは、小学生の頃だった。


当時の俺は、いじめから守ってくれる兄さん(この頃はまだ、兄さんだとは知らなかったけれど)がいなくなって、再びいじめの渦中に立たされていた。
所詮は悪戯の域を出ないものであり、学校の教師も手を出さず、俺自身も我慢できていたと思う。


だが、あの一度だけは違っていた。
いじめっ子の一人が、からかい目的で俺のバイオリンに落書きをしたのだ。
そのバイオリンは、音楽を習い始めた俺に、母さんがプレゼントしてくれた大切な宝物であり、顔も知らない内に死んでしまった父さんと自分を繋ぐ、唯一の架け橋だった。


――そして事は起こった。吹き上がった怒りをトリガーに、俺の中で眠っていた魔力が覚醒したのである。


幸いにも、そのいじめっ子は軽傷で済んだが、俺と母さんはその地を後にすることを余儀無くされた。
――俺を「化け物」と恐れる人々の視線を、背中に受けながら。


「奏夜、あなたは悪くないわ。悪いのは、私……」


自分がしたことを知り、泣きじゃくる俺を、母さんはただただ抱き締めてくれた。


今にしてみれば、母さんは俺以上に、自責の念を抱いていただろう。
母さん自身が宿す血を――人としての生き方を許さない異形の血を、俺に受け継がせてしまったことに。


だが勿論、子供だった俺は、そんな母さんの想いに気付かず、一つの結論を出した。


――俺が絶対に誰かを傷付けるなら、俺はずっと一人でいればいい。
誰も近寄らないように、俺がみんなから怖がられるやつになればいい。




そう。まるでTVに出てくるような、ただヒーローに淘汰されるような、『化け物』になればいい、と。




◆◆◆


ぱち。
目を開くと、見慣れた天井。右側には昨日まで睡眠の友としていた筈のベッド。
どうやら寝返りを打って落下してしまったらしい。


「……起きます」


固まった身体をほぐし、今日の新聞を取りに行こうと、テーブルの上にあったマスクとゴーグルに手をかける。





――ほら、全然平気じゃない。なーにがこの世アレルギーよ。気のせいよ気のせい。





「………」


脳裏によぎるのは、あの不愉快な女の言葉。
伸ばした手が、不自然な形で止まる。
――いや、関係ないだろう。あんなどこの馬の骨とも知れないような女の言うことなど気にする必要はない。今まで培ってきた『紅奏夜』という人間の在り方を、たった一日のイレギュラーを原因にひっくり返すつもりか。


「~~~!!」


凄まじい葛藤の中、奏夜はこの世アレルギー対策グッズに腕を近付けたり、引っ込めたりを繰り返す。
端から見ると、その光景は拙いパントマイムようで、甚だ異様な光景である。


「何やってんだ奏夜のヤツ……」


親友の奇行を目撃したキバットは、軽く奏夜との付き合い方を考え直したくなったという。


◆◆◆


結局、マスクとゴーグルは着けて出掛けることにした。この世アレルギーを克服した――いや、してしまったことを認めたくないが為の、見苦しい抵抗である。


(不幸だ……)


某幻想殺しの常套句を心中で呟きながら、奏夜は休日で人も多い通りを歩く。
春も近いこの季節、ゴーグルはともかくマスクをしてる人は多いので、奏夜としては気兼ねなく外出できる。しかし、胸に残るモヤモヤは依然として晴れない。


(俺がこの世アレルギーじゃない、か……)


キバットに言った通り、奏夜は少なからずショックだった。
そもそも『この世アレルギー』はある意味、奏夜自身が望んで生み出したとも言える体質だ。
誰も傷付けたくない、だから誰とも関わりたくない、世界と繋がらなければ、誰も傷付かない。恐れから来る拒絶こそが、この世アレルギーの発生要因だからである。


だが奏夜は『この世アレルギー』を社会的なハンディだと思ったことは一度もない。
むしろ、己の本質とも言える『化物』を封じ込める、鉄壁の監獄だと解釈していた。


この体質を知った時は嬉しかったな。
歪んだ感性だと分かっていつつも、奏夜はつい思ってしまう。
だって、これさえあれば、誰も傷付けずに済む。内に秘めた獣を飼い慣らし、この汚れた世界を生き抜いていけると。


――まぁそれも、あの奇妙な女に、完璧に閉じたはずの扉をこじ開けられるまでの話だったが。


目の前の信号が青に変わった。
ばらばらに歩き出す通行人に混じって、奏夜も足を進める。


(公園で、材料集めでもするか)


物憂げな思考を止める方法は、やはりヴァイオリンしかなさそうだ。
本日のスケジュールを決め、奏夜は公園方面に進路を取る。


――と、反対側の歩道に渡ったところで、子供とすれ違った。小学校高学年くらいの男子で、サッカーボールを片手に、休日を満喫しようとしている。


(子供は呑気なもんだな)


こっちの悩みがどうでもよくなる――否、むしろ子供の無知さが馬鹿馬鹿しくなる、と言うべきか。
マスクとゴーグルの下の表情を僅かに歪め、奏夜は子供から目を離す――はずだった。

「……?」


音楽家の鋭敏な聴覚が、不愉快なノイズを捉える。
奏夜は、横断歩道に交差する車道の先へ顔を向けた。


連なって止まる自動車。その間を縫うようにして、一台のバイクが突っ込んで来たのだ。
乗り手はガラの悪そうな若い男。青信号にじれでもしたのだろう。アクセルを緩めずにマシンを進めている。


魔のホイールが進む先には、先程の小さな男の子。――あの様子では、バイクに気付いていない!!


「っ!!」


余計な理屈を考えるより早く、奏夜は駆け出していた。
地を強く蹴り、一瞬で子供とバイクの間に割って入る。
ようやく互いの存在に気が付いた子供と若者をよそに、奏夜はバイクに向かって手を突き出した――


◆◆◆


「……うそ」


事の一部始終を、恵は反対側の歩道から見ていた。
恵もまた、バイクと子供の存在を認知し、事故を止めるべく飛び出しかけていた。
しかしそれよりも更に早く、反対側にいた奏夜――恵にとっては、昨日出会った奇妙な少年という認識だが――が横断歩道に飛び出し、あのままなら確実に、子供をひき殺していたであろうバイクの前に立ちはだかったのだ。


――そして今。
少年はバイクを“片手”で止め、あろうことか、バイクの前輪を力任せに“捻り切った”。


(回転してるホイールを掴んで止めて、しかもフレームごと捻り切るって……!!)


常識的に考えて有り得ない光景に、恵のみならず、集まってきた野次馬達も唖然とする。

当の奏夜はというと、バイクのホイールを無造作に投げ捨て、最早粗大ゴミと化したバイクのグリップを握り続ける若者を睨み付けた。


「……俺も人のこと言えるほど立派な人間じゃねぇが」


地獄の底から聞こえてくるような重低音に、若者は「ヒッ!」と息を呑む。


「交通ルールくらいは守れよ。ゴミが」
「は、はいぃぃ!!」


壊れた玩具のように首を縦に振り続ける若者を余所に、奏夜は後ろの子供を見た。
自分に迫っていた脅威を知り、横断歩道にへたり込みながら震えている。


「…………大丈夫か」


奏夜は「自分のキャラじゃない」と思いつつ、躊躇いがちに男の子に声をかける。
男の子は小さく、こくりと頷いた。瞳の奥には、人外の技を見せた奏夜への、明らかな『畏れ』があった。


「………ちっ」


別に慣れた反応ではあるが、いい気はしない。
舌打ち混じりに、奏夜は転がっていたサッカーボールを拾い上げる。
球体の表面には、手書きでこの子供のものと思しき名前が書かれていた。


――ふーん、『さかいゆうじ』か。


「ほらよ」


サッカーボールを持ち主に放り投げ、奏夜は興味を無くしたと言わんばかりに、踵を返す。
人も増えてきている。今の規格外な所行を考えると、警察に掴まるのは面倒だ。


「あ、あの!」


呼び声に振り向いた奏夜に、ゆうじはおずおずと、しかしはっきりした声で、


「あ、ありがとう、ございました」


ぺこりと頭を下げる少年。奏夜はまさか礼を言われるとは考えていなかったらしく、紅潮した顔を隠し、逃げるように横断歩道を渡っていく。
そのせいか、恵とすれ違ったことにも、気付いていないらしい。


「あ、キミ!」


恵自身もようやく放心状態から脱し、走り去っていく奏夜を追いかけていった。


◆◆◆


朝の喧騒に邪魔され、一旦は奏夜を見失った恵だったが、ややあって、公園のベンチに座る影を見つけた。
――奏夜は何故か、ノラネコを抱き上げ、肉球の感触を楽しんでいる。


(……いや、確かにネコの肉球は癒されるけど)


何故今やる?
あれか、さっきの事故のショックから抜け出す為か。
だが、この前のやり取りからは、なかなかに図太い印象を受けたのだけれど。


「ねぇ、キミ」
「……」


ゴーグル下の目が不快そうに歪み、恵を捉えた。
また貴女ですか。と言外に訴えている。


「隣、いいかしら」
「………」


ポケットを探る奏夜。しかしそれより早く、恵がその手を掴む。


「こら、ポケット台詞帳で会話しない。返事は口でしなさい。この際マスク着けててもいいから」
「……………………………………どうぞ」
「今、かなり激しい葛藤があったわね……」


隣に腰掛ける恵に意識を向けないよう、奏夜はなお必死にノラネコを愛でる。


「キミ、名前は?」
「……………」


どうやらこの人は、自分を逃がしてはくれないらしい。


「奏夜。紅奏夜」
「ふーん。奏夜くんか……いい響きの名前ね。私は恵、麻生恵よ。一応モデルもやってるんだけど、知らないかしら?」
「……世俗に疎いので」


鬱陶しい。この人の腹は読めている。
どうせこれらの質問は切り出し口で、本当に聞きたいのはさっきの信号の騒ぎについてだろう。あれだけのギャラリーだ。見られていても不思議じゃない。


案の定、恵はやや歯切れ悪そうに、


「ねぇ、間違ってたら悪いけど――キミ、ファンガイアでしょ?」


奏夜は少なからず驚いた。
人間じゃないのがバレることは予想していたが、ごくごく普通な女性の口から『ファンガイア』の単語が出るとは。


「……知ってんのか。ファンガイアのこと」
「そりゃね。私、ファンガイアハンターだから。素晴らしき青空の会って組織、知らない?」
「知らない」
「あら意外」
「世俗に疎いって言ったろが」


だが、ファンガイアハンターの名前から、大体予想はつく。
人間を襲うファンガイアから世界を守る秘密組織――そんなところだろう。


「ハンター、ハンターね。はっ、そりゃあいい。つまり、偶然見つけた俺のことも狩りに来たってわけだ」
「む。見くびらないで欲しいわね。私は人喰いしてるかどうかも不確かなファンガイアを狩るほど、盲目的なことはしないわよ」
「アンタの見てないとこで喰ってるかも知れないぜ? 勝手な価値観で俺を見逃しでもしたら、アンタの面目丸つぶれだぞ」
「だから、見くびらないでってば」


獰猛そうに顔を歪める奏夜だが、恵は何一つ動じた様子はなかった。


「子供を助けるためになり振り構わず飛び出して、幼い命を奪いかけたバカ野郎に怒って、ついでに公園でネコと戯れてるような“人間臭いファンガイア”、狩る方がどうかしてるわ」


ぴくりと奏夜の手が反応する。
奇妙な指の動きに不快感を覚えたのか、野良ネコは奏夜の手から飛び出し、草むらへと走り去っていく。


「まぁ端的に言うと、キミともう少し話して見たくなったのよ。私が今まで会ったファンガイアって、それこそ人間らしさの欠片も無かっ」
「……俺は化け物だ」


奏夜が恵の言葉を遮る。地獄の底から聞こえるような低い声だった。


「俺は人間じゃない。……いや、ファンガイアからも弾き出された、ただの化け物だ」
「ファンガイアからもって……」


説明すべきか否か迷ったが、結局奏夜は何かを諦めたように口を開く。
……そう言えば、キバット以外に自分の心境を吐露する、というのも、久しぶりだった。


「俺は、半分ファンガイアで半分人間なんだよ」
「半分人間? えっと、つまりハーフファンガイアってこと?」


奏夜は小さく頷く。
恵もハーフファンガイアの存在は嶋から聞いたことがあったが、出会ったことは無かった。


「でも、化け物ってどういうこと? ハーフなだから、ただのファンガイアよりか人間に近いんじゃないの?」
「……そんな単純な比率の問題なら、誰も苦労しねぇよ。俺は完全な人間でも、完全なファンガイアでもない。ただそこに存在するだけの亡霊だ」


奏夜の声がどんどん影を帯びていく。
恵は黙って奏夜の話を聞いていた。


「アンタ、世界から拒絶されたことあるか?」
「え?」


いきなりの規模が飛んだ。世界から拒絶? 意味が分からない。


「……世界全てを敵に回すっていう意味なら、無いけど」
「俺はある」


奏夜はぼんやりと空を見上げた。
さながら、世界に恨み言を吐くかのように。




「人間からはファンガイアの力を忌み嫌われて、ファンガイアには人間の血を汚らわしい目で見られる。どっちの世界も俺を拒絶して、世界の全てが俺の害悪になった。
歩み寄ってきてくれるヤツもいたよ。でも、俺の正体を知ったらみんな離れてった。俺のそばにいるヤツなんて、今じゃ俺と同じはみ出し者が一匹だけだ」


いつもヴァイオリンを習いに来る少女も、自分の正体を知れば逃げ出すに決まってる。
さっき助けた子供も、物事が考えられる年頃になったら、バイクを片手で止めた自分をどう思うことか。


……どうせ傷付くなら、一人の方がずっといい。幼い頃、苛めっ子を殺しかけた時に決めていたことだ。


「可哀相自慢をするつもりはねぇ。ただ、アンタも不幸になりたくないなら、俺に関わらないことだ。関われば、ファンガイアどころか人間も敵に回すぜ」




俺は、化け物だ。




繰り返しそう告げ、奏夜はベンチから立ち上がる。


「まぁ、アンタの目につくような行動はしないよ。俺、ライフエナジー吸う必要ないみたいだしさ。……それじゃ」


去り際に、せめてもの別れの挨拶。
だが、奏夜の話を聞いていないのか、恵は口元に手を当て、ブツブツ呟いている。


「……ふむふむ、成る程そういうこと」
「? どうしたんだよ」
「これならこの子の社会復帰にもなるか……けど問題は嶋さんが許すかどうかね……」
「おい、聞いてんのか」
「特に名護くんは要注意ね……取り敢えず身分は秘密にしてればいいか。うん、そうしよう」
「……っ、おいアンタいい加減に」
「キミッ!」


いきなりガシッと両手を掴まれる。
美人の部類に入る恵の行動に、奏夜は驚きと羞恥に顔を染め上げる。


「な、なんだよいきなり!」





「気に入ったわ! キミ、『素晴らしき青空の会』に入りなさい!」





「……」


恵の言葉を脳内で幾度も反芻する。
素晴らしき青空の会。さっきも聞いたファンガイアハンターの組織。そしてファンガイアハンターは、ファンガイアを狩ることを生業とする人間、たち、で……。


「……はぁッ!?」
「いやー、ちょうど良かった! 嶋さんからメンバーが不足してるから、誰か優秀そうな人をスカウトしてくれって頼まれてたけど、まさかこんなとこで、キミみたいな人間らしいファンガイアに会えるなんて思わなかったわ~!」
「な、おい、ちょっと待」
「さっきの横断歩道の様子を見てる限り、体力とか筋力も申し分なさそうだし、キミ、即戦力になるかも知れないわよ」
「いや、だから人の話を聞」
「あ。ハーフファンガイアだとかは気にしなくていいからね。黙っときゃ誰も気付かないだろうし、ファンガイアさえ倒しちゃえば誰も文句は言えないから。
ちなみに仕事にはカフェの手伝いとかもあるから、キミの社会復帰にも役立つし……」
「だからちょっと待てと言ってるだろアンタの耳には相手の反論遮断するフィルターでも着いてんのか!!」


トントン拍子に決まっていく話を、奏夜の大声が強制中断させた。
――ちなみに、これが奏夜の生まれて初めてのツッコミである。


「アンタ頭おかしいんじゃないか!? 俺にファンガイアハンターになれ!? 今までの流れからどうしてそんな話になんだよ!」
「うん? ごくごく自然な流れだと思うけど。言ったでしょ、私は優秀な人材を探してるの。
一番必要な身体能力は超有力株。しかもす~~~っごく優しい。私的に採用基準はオールクリアよ。何の問題があるっていうの?」
「俺の意思が何一つ反映されてねぇのが問題だろが!! だいたい何だ! す~~~っごく優しいって! さっきまでの話聞いてて、何で俺にそんな印象を持つんだよ!」
「何でもなにも、私はさっきの話を聞いて、キミがす~~~っごく優しいって思ったんだけど」
「……何?」


激昂が立ち消え、奏夜の顔に無表情が戻ってくる。
若干引きつってはいたが。


「どういう意味だよ」
「そのままの意味よ。――実を言うとさ、キミに初めて会った時から、なーんか違和感はあったのよね。ちぐはぐっていうか、言動と中身が一致してないっていうか。けど、もう一度しっかり話してみて分かったわ」
「だから何が」
「キミ、自分の力が怖いから、自分の力で他人を傷付けたくないから、そんな態度取るんでしょ?」
「――っ!」


顔が急に強張るのを感じた。
自分の内側に、土足で踏み入れられたかのような感覚。


「な、何を訳の分からないことを……」
「訳は分かってるはずよ。他でもないキミ自身がね。まぁそれでも詳しい話をするなら……」


恵は言う。


「アナタの態度はパッと見だけだと、協調性の無さから来るものに見える。
けど、全体を見るとただの暴言じゃない。それは全て相手を『拒絶』する言葉だった。
これにさっきの話を加えると、アナタの人間性が見えてくる。
化け物である自分が、他人を傷付けるのが怖いから『拒絶』する。す~~~っごく優しいからこそ、キミは他人を傷付けることに耐えられない」
「か、勝手な推測は止めろ! 俺はただ他人と関わりたくないだけだ! 他人なんかどうでもいい、まして優しさなんか持っちゃいない!」
「じゃあ何で、さっきの子を助けたの? 形振り構わず、バイクの前に飛び出してまで」


恵が強く言い放つ。
奏夜は言葉に詰まり、なにも言い返せなかった。


「――キミは優しい。だから他人を傷付けたくないっていうのも分かるわ。でも、一生その生き方を貫けるの? ツラいわよ、ずっと一人きりって」


胸がズキリと痛む。
知っている。嫌というほど。


「他人を拒絶することは、優しいキミにとって楽なものじゃないでしょう?
傷をずっと抱えたままいたら、いつか潰れちゃうわよ。
――だからさ、ほんの少しだけでもいいから、誰かを信じてみなさい」
「……けど、俺はやっぱり」
「難しい? じゃあまず、私から信じてみなさい。
さっきはああ言ったけど『素晴らしき青空の会』に入るかどうかはキミの自由。
でも、キミと私はこうして知り合った。だから『素晴らしき青空の会』に入らなくても、キミが望むならこうしてお喋りだってできるのよ?
私はファンガイアのことも知ってるし、ついでに神経も図太いから、ドーンとぶつかってらっしゃいな」


最後は冗談めかしく、恵は締めくくる。
片や奏夜は震えていた。自分の根底が揺らいだことに対する恐怖心か。心の中を次々と見透かされたことに対する怒りからか。


いや、違う。
混乱こそしているが、その理由は降って湧いた清々しさからくるものだ。
今までのしかかって重圧が取り払われたかのような感覚。


こんな――簡単なことなのか?
こうも軽々と、価値観はひっくり返るものなのか?
孤独を貫いてきた奏夜に、人間を知らない奏夜に、答えは出ない。
人を拒絶してきたことが――今だけは恨めしかった。


「ま、いろいろ講釈並べちゃったけどさ。手っ取り早く纏めると」


すっと奏夜に向けて手を差し出す恵。




「私と、友達にならない?」





◆◆◆


――奏夜が恵の手を取ることはなかった。
真昼の公園に似つかわしくない轟音。
視界を覆う赤い電光が、二人の周囲で弾けたからである。


「っ!」
「きゃっ!」


光に目を覆いながら地面を転がり、どうにか受け身を取る二人。
一体なんだ?
その疑問に答えが出るまで、そう時間はかからなかった。


「やぁ~~。また会えたね恵ちゅわ~ん!」


いやに間延びした声と共に、雑木林の影から奇妙な生き物が現れる。
ステンドグラスに覆われた外皮に、クモを彷彿とさせる八本足と上顎を持つ異形の姿――糸矢ことスパイダーファンガイアだ。


「……ファンガイア」
「あーもう、まーたアナタなの?」


恵がうんざりしたように髪を掻く。
何を隠そうこの糸矢は、以前名護が言っていた、恵を執拗に付け狙うストーカーのようなファンガイアなのだ。


「お~いおい、そんな冷たいこと言うなよぉ。こうしてまた会えたんだ。もっと再会を喜び合おうじゃないかぁ!」
「お断りよ。ぶっちゃけるとアナタ、全ッ然タイプじゃないの。不快さで言ったら名護くんといい勝負だわ」
「ぐわーーん!! な、なんというつれなさ……だが、それでこそ、あのゆりの娘だ!! 絶ぇっ対に手に入れるぞ、お前を!」
「うわウッザ。私に目をつけるとこまでは良かったけど、しつこいのはNGね」


俄然やる気を出したらしいスパイダーファンガイア。
片や心底面倒くさそうにしながら、恵は懐から、小型のボウガンのような銃器『ファンガイアバスター』を取り出し、構える。


「神は過ちを犯した。アナタのような存在を許した過ち――私が正すわ」


鋭い眼差しで、恵はトリガーを引く。
銃口から放たれるシルバーアローが、容赦なくスパイダーファンガイアへと突き刺さる。


「ぐおっ! くっ、恵を手に入れる為、これしきの痛みなど何のこともないっ!」
「チッ、やっぱ一筋縄じゃいかないか……キミ、ちょっと離れてなさい」
「……」


奏夜は迷っていた。
――いいのか? ただ見てるだけで、俺は戦わなくていいのか?


「ちょっとキミ、聞いてるの!?」


ファンガイアバスターからワイヤーを伸ばし、スパイダーファンガイアを薙ぎ払いながら、奏夜に呼び掛ける恵。
だが、奏夜は棒立ちになったままだ。


(……たた、かう)


それは、力を自覚した時から、ずっと禁忌にしてきた行為。
敵も味方も、何もかもを無差別に滅ぼす忌まわしい力。
この力のせいで、自分の中に眠る怪物への恐怖心のせいで、奏夜は他人との繋がりを拒絶した。


(身体中が熱い)


だが今は違う。
煮えたぎるような闘争心が、内から湧き上がってくる。


最初は不快感しかなかった。心に土足で踏み入るこの女性が、鬱陶しくてたまらなかった。


――だが、何故だろう。ずっと閉ざしていた心を開けた女性が、今目の前で戦っている。そして自分は、何もせずに佇むだけ。
力に怯えて何もしない、無能な自分。
それは、凄く――




(嫌、だな)




ほんの数分前まで考えもしなかったこと。


(逃げたくない)


目に見える不安を数えて、立ち止まりたくない。


(動き出したい)


閉ざされた窓の奥に隠れていて、何が始まるんだ?
窓を蹴破って、絡みつく鎖を引き千切れ。


「……たい」


心の底から噴出してくる高揚を感じながら、奏夜は呟く。


「……戦い、たい」






――~~~~♪






「っ!!」


突如、奏夜の頭の中に響く音色。
単調ながら、尚も優雅さを失わないリズムを奏でるそれは――


(ブラッディ、ローズ……!?)


父である紅音也の残した最高傑作。彼と奏夜、親子を繋ぐ唯一の絆が作り出す音色が今、奏夜の頭の中に響いていた。


(――戦え)


リズムの中に紛れる声。


「な、にっ……!?」


(戦え)


頭蓋を襲う激痛。
それに伴い、脳裏に鮮明なイメージが流れこんでくる。





それは三日月をバックに、蝙蝠の仮面と、真紅の甲冑を纏う戦士。





(戦え―――に流れ―――を―る為に!!)





「う、あぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
「奏夜くん!?」


一際大きな痛みの波に、奏夜は膝から地面に崩れ落ちる。
スパイダーファンガイアに応戦していた恵は驚き、一瞬意識を奏夜に向けてしまう。
スパイダーファンガイアにとって、それは大きな隙だった。


「ふっ!!」


スパイダーファンガイアの口から吐き出された糸が、恵のファンガイアバスターを絡め取る。
そのままスパイダーファンガイアが支点である頭ごと振り上げると、糸に付着したままだったファンガイアバスターが恵の手を離れ、宙を舞う。


「!! しまっ……」
「ふんっ!」


間髪入れず、スパイダーファンガイアは体内の魔皇力を集め、紫色のエネルギー弾を射出する。


「きゃああぁぁぁぁ!」


生まれた衝撃が恵と奏夜を吹き飛ばす。
手加減していたのか、それが生み出す結果は、二人の意識を奪うに止まった。


「チュ~リッヒヒヒ! やった、つ~いにやったぞ!! さあ、俺と一緒に行こう! 恵ちゅわ~ん!」


スパイダーファンガイアの勝利の高笑いが、雑木林に轟いた。




◆◆◆


――~~~~~♪


「むむっ!? この音色は!!」


紅邸。
ヴァイオリン型の巣箱から飛び出したキバット。
その瞳が捉えたのは、ショーウィンドウに飾られたブラッディローズ。


演奏者がいないにも関わらず、立てかけられたブラッディーローズの弦は震え、何かの警告の如きリズムを奏でていた。


「遂にこの時が来たんだな……よっしゃ、待ってろよ奏夜!! 今こそお前に『鎧』を渡してやるからな!!」


キバッて行くぜ~~!!
意気込みもハイテンションに、キバットは紅邸から飛び出して行った。

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  1. 2012/05/31(木) 11:05:52|
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