紅蓮の牙

二次創作中心。仮面ライダーキバと灼眼のシャナのクロスを連載中。

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第零話・プレリュード/覚醒の夜.前篇




この世界は汚れている。


空、海、大地、動物、人間。
どれもこれも鬱陶しくて堪らない。
同じ空気を吸いながら生活するなんて虫酸が走る。
こればかりは、生まれついた性格だったのだから仕方がない。
俺がそもそも“そういう存在”だったというだけの話だ。


まぁ、それを差し引いても、色々と歪んでいたのは間違いないだろう。


ガキの頃に抱いていた思想が『ヒーローなんか殺されて解されて並べられて揃えられて晒されればいい』というひねくれ具合からも、それは想像に難くない(ひねくれる、という言葉では済まないかもしれないが)。


何を好き好んで、ヒーローは他の人間なんか守っているのだろうか。
しかも、傷つくのは自分で、さしたる見返りもない。ハイリスクローリターンにも程がある。


どちらかといえば、怪人の方に共感していただろう。
彼らが見せる見事なまでの散り様は、ある意味、ストーリーの中で憎まれ役を買って出た結果だ。
ヒーローの引き立てとしての仕事を全うし、ただ物語の舞台を降りていく。


悪役であるという、それだけの理由で。


自分と同じく、何の文句も言えないまま、ヒーローに淘汰されていく怪人を、俺は幼心ながらに可哀想と思ったものだった。


――あの頃の俺は、常人からすればあまりに逸脱した価値観を包括しながら、数少ない友人と共に、打算的な生き方を貫いていた。


変わることはない。その必要もない。


そう、思っていた。




だから多分――何かが変わったとするなら、あの日が全ての発端だったんだろう。




◆◆◆


御崎市某所の公園。
午後と言えど平日であるため、人の数はまばらだ。


「オイ、何黙ってんだよ!」


と、その和やかな風景に、一際似付かわしくない罵声。
柄の悪い三人組の男に、一人の青年が絡まれていた。


「なぁ、ぶつかっといて詫びも無しかァ!?」
「あ! こいつ知ってるぜ、近所でお化け太郎とか言われてるヤツだ!」
「格好もおかしけりゃ、態度もおかしいみたいだなぁ!」


三人組の言う通り、青年の姿はやや異質だった。


右手には薔薇の花びらが詰め込まれたビニール袋。
目深に被った毛糸の帽子に、目元全てを覆うゴーグル。
極めつけに風邪予防のマスクを付け、表情は完全に隠れている。
体躯から男性だというのはわかるが、不審者と捉えられても文句は言えない格好だった。


「………」


青年はゴーグルの奥で目を細め、ポケットから手帳を取り出した。
片手で器用にページをめくり、三人組に突き出す。


『うざい、五月蠅い、鬱陶しい。さっさと消えろ雑草が』


それは、沸点の低い三人組を怒らせるには十分なセリフで。


「あぁッ!? テメェ馬鹿にしてんのか!」


振り被られた拳が、青年の顔面を狙う。
青年は面倒臭そうに、拳を突き出してきた男の足を払った。


死角からの攻撃に男はバランスを崩し、ひっくり返る。
青年はそのまま、思いっ切り男の胸を踏みつけた。


「ごぶっ!?」


奇声を挙げ、肺から空気が全て吐き出される。


「こ、このっ!!」


残る二人も拳を振り上げるが、それよりも早く、青年の放つ拳が、彼らの顔に炸裂した。
バキッ、という気味の悪い音を鳴らし、二人は地に沈み、激痛に悶える。


「……」


青年は踏みつけた男を見下げ、再び足を宙に浮かせる。
確実なトドメを刺すためだ。


「ひっ……!」


自分の辿るであろう末路に、男は声を漏らす。


――が、


「奏夜!」


聞こえてきた甲高い声。
奏夜と呼ばれた青年が足を寸止めし、声のした方に目をやる。


「ちょっとなにやってるの! 喧嘩なんか私が許さないわよ!」


現れた中学の制服に身を包んだ少女――野村静香は、後ろで纏めた髪を振り乱しながら近付いてくる。


「……チッ」


去り際、男の腹を蹴飛ばしつつ、奏夜は静香を無視して、公園を後にする。


「あっ、こら! 待ちなさいよ!」


静香は律儀にも男達に「ごめんなさい」と謝罪し、慌てて彼の後ろ姿を追いかける。


「……オイ、着いてくんじゃねぇ」


心底鬱陶しそうに、奏夜はゴーグル下の目を細めた。


「奏夜!  喧嘩なんかしちゃダメって、何度言えばわかるのよ!」
「……お前は俺の母親か? あいつらが勝手に絡んできやがったんだ。正当防衛だろうが」
「だからってすぐ暴力を使うなんて最低だよ! 言葉があるんだから話し合えば……」
「アレが話し合いでどうこうなるシチュエーションに見えたかよ。状況よく見てからモノは言え」


奏夜はゴーグルの下で、静香を睨む。
苛烈に研がれた視線には、一片の温かみもなかった。


「いいからもう俺に関わるな。鬱陶しいんだよ。お前」


苛々を吐き出し、頭に上がった血が退いていく。
冷静さが戻った時、静香は今にも泣き出しそうに震え、涙目になった顔を俯かせていた。
さすがに罪悪感が生まれるが、それでも奏夜は突き放すような口調を止めない。


「……ヴァイオリンを教わりたいなら余所を当たれ。それこそ部活に入るなりしろ」
「っ、私は、奏夜に教えて貰いたいの!!」


そこだけは譲れないとばかりに、静香は声を荒げた。


「音楽が大好きで、あんなに凄い演奏が出来るんだから、教えるのだって……」
「買いかぶりだ。例え教えたとしても、二流三流が関の山だって何度も言っただろうが」
「……私に、音楽を習うだけの才能が無いってこと?」
「俺に、教えられるだけの余裕が無いんだ」


そこだけは、刺々しい口調ではなく、卑下するようなトーンだった。
そう、本当に余裕など無い。 まして、他人に教えられる才能など。


――否。俺はそもそも、


(他人になんか、興味は無い)


世界は、自分だけが全てだ。
他人だからこそ得られるものがある?
吐き気がする。 そんなもの、自分が大切に保ってきた世界への侵略に他ならない。


――イラナイ。




「他人なんか、いらない」




◆◆◆


「これは……確かに酷い臭いだ」


鼻を突く異臭に、呼ばれた警察官は顔をしかめる。


場所は、御崎市某所のとある邸宅。
通報は、付近の住人から。
この家から漂ってくる異臭に、ほとほと困り果てているのだと言う。
城門の前には、警察官の他、訴えを起こした住人達が詰めかけていた。


「強制立ち退きでも何でもいいから、とにかく何とかして!」
「その前に家宅捜査だろ!」
「遺体でもでりゃ、それこそ大事件だよ!」
「いや……それはさすがに」


飛躍し過ぎた話に、警察官が苦笑していると、邸宅に続く坂道から、二人の男女が歩いてくる。


奏夜と静香だ。


「あ、ほら、お化け太郎よ!」


我が家に向かおうとする奏夜に、住民達は指差した。


「あ~、君がここの住人だね」


警察官が、「近所の人も迷惑してるから」だの「下手をすれば公害の可能性もある」だの、形式的な質問をする傍ら、奏夜は終始無言だった。
周囲に群がる住民に目もくれず、まるで自分が世界の中心、とでも言いかねない立ち振る舞いだった。


「ちょっと! マスクとんなさいよ! おまわりさん聞いてんだから!」


奏夜の態度にじれたのか、小太りした体格の中年女性が、無理やりマスクを剥ぎ取ろうとする。


「まったくもう、こんな迷惑かけやがって! 親の顔が見てみたいもんだ!」


住民の誰かが口走った台詞に、奏夜は初めて反応した。


「………あ゛?」


ゴーグル下の目は据わり、激怒一歩手前といった声音だった。
鋭い眼孔に睨み付けられ、警官を含めた住民達が、恐怖にたじろぐ。
張り詰めた空気を、危険信号と捉えた静香が、慌てて奏夜と警官の間に入る。


「あの、すいません! この人アレルギーなんです!」
「アレルギーって……花粉症には、まだ早いんじゃないか?」


疑わし気な警官の目の前で、静香は無造作に、奏夜のマスクを剥ぎ取った。


「……!! うぅっ!?」


さっきまでの剣幕が嘘のように、奏夜は晒された口を、両手で抑えながら、うずくまった。


「『この世アレルギー』」
「こ、この世アレルギー?」


どよめく住民に、静香が淡々と告げる。


「病気というより、奏夜の特異体質みたいなものです。
なんていうか、この世界の全てに、免疫機能が過剰反応を起こし、下手にマスクを外すと、最悪命にかかわります。
それでもというのなら、こちらでも医師の立ち合いを求め、家宅捜査をするのであれば、捜査令状の提示を要求します」


凛とした態度の静香と、苦しみながら、彼女からマスクを取り返そうとする奏夜。


異様と言えば異様な光景に、住民と警官は二の句が継げなくなっていた。


◆◆◆


一連の様子を、紅邸の窓から眺めている影があった。
羽音を鳴らす翼と、暗闇でも怪しく輝く、赤い複眼。


犬歯を覗かせながら、金色のコウモリは、ニヤリと笑う。


「静香、グレイト」


◆◆◆


「はいOK!! 恵ちゃん、お疲れ様!」
「お疲れ様でしたー!」


場所は市内某所の撮影スタジオ。
アイドル界期待の新星である彼女――麻生恵は、達成感を含んだ挨拶で、今日の仕事を終えた。


「ふう……やっぱり笑顔を作るとなーんか疲れるのよねー」
「ふっ、相変わらず呑気なものだな、キミは」


撮影室から出ようとした矢先、恵は先ほどまでの笑顔が嘘のように、表情をひきつらせた。
彼女と同年代位の、猫っ気のある髪をした長身の男――彼女の天敵とも呼べる人物が、入り口の壁に寄りかかっていたからだ。


「今こうしている間にも、世界では数多くの人々が、不幸になっている。キミには戦士としての自覚が足りな過ぎるな」
「……こんなとこにまで来て言うことが嫌味? 自覚がないのはどっちなのかしらね、名護くん」


入り口に立ち、恵に辛辣な言葉を投げかけてきた男。


名前は名護啓介。
恵の“本職”の同僚にして、その中でも卓越した能力を持つエリートだ。
恵の皮肉を意に返さず、名護は笑みさえも浮かべてみせる。


「馬鹿を言うのは止めなさい。まだ私がイクサに選ばれたことを妬んでいるのかな?」
「妬んでないわ。ただ、貴方みたいな人にイクサを渡す『素晴らしき青空の会』の行く末が心配なだけよ」
「手厳しいな。私は選ばれた人間なりの責任を果たすつもりなのだがね」



よく言うわこの偽善者が。
喉元まで出掛かった罵倒をどうにか飲み込み、代わりに恵は溜め息をつく。


「もういいわ。他に要件が無いなら、私はこれで失礼させて貰うわよ」
「待ちなさい。嶋さんからの伝言だ。いつだったかキミの取り逃がした蜘蛛のファンガイア――再び動き出しているらしい」


取り逃がした、の部分を強調され、恵は再び青筋を浮かべるが、名護は素知らぬ顔で続ける。


「しかも、今度はキミを狙っているようだ。どうやらあのファンガイアは昔、君の母親にご執心だったらしくてね。当時からストーカー紛いの行動を続けていたらしい。その娘だと知られた以上、ヤツの目は必ずキミに行く。用心するように――とのことだ」
「……ふん、母さんからの因縁なら望むところよ。次に来たら今度こそ返り討ちにしてやるわ」
「出来るのかな? キミの力で」
「なんですって?」


恵の瞳に剣呑な光が宿る。
名護はやれやれと首を振り、恵に背を向けた。


「まぁ、努力は怠らないようにしなさい。何かあれば、私が助けに向かおう」


名護の姿が通路の端に消えるまで、恵は怨磋の視線を向け続け、


「~~~っ! あぁーー! ムカつくムカつくムカつくムカつくーーっ!!」


腹癒せに近くのゴミ箱を蹴飛ばした。


◆◆◆


結局、ゴミ箱を蹴飛ばしても苛々が収まらなかった恵は、スタジオ近くの定食屋でヤケ食いに走っていた。


「ったく、あの偽善者がどうしてイクサの資格者なのよ! 店長、ごはん(大)追加!」
「はいよっ!」


今日の恵ちゃんは荒れてるなぁと思いながらも、店長は自分の職務を果たし、大盛のご飯をテーブルに置く。
ちなみに、恵の机には優に20枚の皿が積まれている。


「ふぅ……ま、八分目ってとこかしら」


そら恐ろしいことを呟きながら、怒声と食事によって苛々が払拭された頭が、冷静な思考を生み出していく。


(……でも、私がイクサに相応しくないっていうのも確かなのよね。名護くんは性格がずば抜けて駄目だけど、それ以外は完璧超人だし)


恵も、名護の強さだけは認めている。
あの偽善的な態度だけは絶対に認められないが、裏を返せばそこさえ直してくれるなら、名護がイクサを使うことには何の問題もないとさえ思っている。


(だとしたら……やっぱ単純に、名護くんを妬んでる部分もあるのかな、私)


イクサは恵の祖母が立案し、恵の母、ゆりが完成させたもの。
言わば麻生家の志だ。
祖母、母の魂が籠もったイクサを、麻生家以外の者に使われたくない。という気持ちは、そうそう拭い去れるものではない。


「……あー、もう! ヤメヤメ!」


後ろ向きな考えではダメだ。
こんな体たらくでは、それこそ名護に馬鹿にされる。


イクサは今、恵の手元にはない。
けれど、自分がやらなければならないことに変わりはないのだ。
イクサを手にしたいという気持ちはあるが、先ずは目先のことから片付けていかなくては。


「よし! そうと決まれば『マル・ダムール』に行かなきゃね! 店長、お勘定を――」


席から立ち、飯代を払おうとしたところで、恵は言葉を切る。
無い。さっきまで白米と共に自分が食べていた魚料理。
その残りである骨が消えていた。


「あれ? 店長、片付けるなら皿も片付けな、きゃ……?」


恵は視線の端に、奇妙な人影を捉える。
毛糸の帽子とマフラーをつけ、厚手のコートを着た青年。
――その手元には、ビニールで包まれた魚の骨。


「ちょ、ちょっとキミ!」


恵の声が轟き、青年は面倒そうに振り返る。
マスクをした口から声は発さず、ゴーグル下の眼が恵を睨む。
彼はビニールを持っていない方の手で、開いた手帳を彼女に突き付ける。


『いらないでしょ。別に』
「いや、そりゃそうかも知れないけど、女性が食べたものを勝手に持っていくっていうのは倫理的に……ってだから無視して出て行こうとしない!」
「グッ!?」


マフラーを引っ張られ、苦しそうに喘ぐ青年。他の客の奇異の視線など、もはや恵の頭の中には無い。


「人の話も聞かず逃げようとするってどういう了見よ! キミ、ちょっと着いてきなさい!!」


飯代を置き、『はーなーせー!!』と書かれたページを広げる青年を引きずりながら、恵は料亭を後にする。




――二人はまだ知らなかった。
この出会いが、彼らの運命を大きく変えてしまう結果になることを。


◆◆◆


なんでこんなことになったんだろう。


「だ~か~ら、何で魚の骨なんか盗もうとしたのよ?」


向かいの席に座る恵の執拗な追究に、青年――紅奏夜は鬱陶しそうに視線を逸らした。


あの後奏夜は、恵によって馴染みのないコーヒーカフェ『マル・ダムール』なる店に連行され、魚の骨を盗った理由を、根ほり葉ほり聞かれる羽目になった。


他の客のことなど歯牙にもかけず、恵は奏夜に詰め寄り続ける。


(うざいなぁ……)


どうせ魚の骨なんか食わないんだから、ここまでしつこく理由を聞いてこなくてもいいのに。
気だるそうな動作で、奏夜は会話用の手帳をめくっていく。


「……キミ、取り敢えず、そのマスクとゴーグル取りなさい! 表情が見えないんじゃ会話し辛いわ!」
「!!」


何を言ってるんだこの女は。
俺に死ねと言うのか。


「――! ――!」
「こら、暴れないの!」


決死の抵抗を見せる奏夜だったが、日頃から鍛えている恵には適わず、マスクとゴーグルを剥ぎ取られてしまう。
恵は初めて、奏夜の素顔を正面から見た。


「あら! 意外とかわいい顔してるじゃない!」


恵の言う通り、奏夜は鋭い風貌ながらも、どこか子供っぽいあどけなさを残し、大多数の人間がイケメンと評する顔をしていた。


「――むぐっ!?」


慌てて口を押さえるが、焼け石に水だ。
空気を遮断するものが無くなり、この世アレルギーが奏夜を蝕む。
だが、そんな事情を知る由もない恵は、


「え? なに、どうしたの? ……はは~ん。私があまりにも美人だから緊張してるんだ」
「ち……がうっ!!」


間髪入れず否定する青年に、さすがの恵も顰めっ面を向ける。だが、命に関わる状況で、奏夜に恵のことを気にしている余裕は無かった。


「お、俺は、アレルギーなんだよ……! この世アレルギーって言って……と、とにかく、早くマスクとゴーグル返せ……!」


奏夜からすれば切実な要求だったのだが、『この世アレルギー』などというふざけた病名を、常識人である恵が信じるはずもなく、


「この世アレルギー? 何言ってるの、有り得ないから。ほら、深呼吸深呼吸」


恵は奏夜の背中に回り、彼の腕を持ち上げて万歳の姿勢を取らせる。


「あ、アンタ、なんで更に空気吸わせようとしてるんだよ! うっ!? し、死ぬ! 本当に死ぬ!」
「死ぬわけないでしょ、アニメの見過ぎ。……ほら、吸って~吐いて~吸って~吐いて~」


腕を上下させながら、奏夜の深呼吸を手助けする恵。
最初こそ吐き気に身悶えしていた奏夜だったが、呼吸を繰り返す度に、その苦悶に満ちた表情も和らいでいく。


――数十秒後には、奏夜の息は完全に整い、あの気持ち悪さも消えていた。


「ほら、全然平気じゃない。なーにがこの世アレルギーよ。気のせいよ気のせい」
「…………」


恵の言葉も、驚愕した奏夜の耳には入らない。
自分の身体に起きた事実を受け入れることができないまま、奏夜は魚のように口を開閉させることしか出来なかった。



◆◆◆


その様子を、一世代前の望遠鏡で覗く男が一人。


「あれが恵ちゃんかぁ……う~ん、やっぱり母親と同じで綺麗だねぇ」


ややウェーブのかかった髪に、白いタキシードに手袋。音楽家のような出で立ちだが、木の幹に身を潜め、女性の様子を覗き見している姿はただの変質者だ。


「二十二年前は失敗したけど……今度は逃がさないよ。待ぁっててね恵ちゅわ~ん……チューリッヒヒヒヒヒ!!」


手にはめたネズミのパペットを不気味に動かし、男――糸矢は意地汚い笑みを浮かべた。


◆◆◆


カポーン。
この擬音を考えたのは某有名漫画家らしい。


「おい、奏夜。お前まだ昨日の女のこと考えてんのか?」


紅邸の浴室。
体育座り気味に浴槽へ浸かる奏夜へ語りかける声。


声の主はなんと、赤い複眼に金色の身体を持つコウモリだった。
ヴァイオリン型の小さな桶に乗り、湯の上を漂いながら、コウモリ――キバットバット三世は問う。


「そんなにいい女だったのか? ジャンヌの肖像画みたいな!」
「誰だよ。それ」
「お前、何度言ったら分かるんだ! 偉大なる画家、モディリアーニが描いた肖像画の女だよ! あの長い首がど~~にもたまらん!」
「関係ねぇよ、ってかどうでもいいよそんなこと。
問題なのは、俺が本当はこの世アレルギーじゃないかもしれないってことだ」
「何だ、そんなことかよ。それならそれでいいじゃねーか!」
「そんな簡単なことかな……」


奏夜は蒸気の立ち上る天井を、ぼんやりと見上げた。


「こんな汚れた世界の空気を吸っても生きていけるってことは、俺も汚れた人間なんじゃないか? ……そう思うと、なんかショックでさ」
「へっ、アホゥ」


見当違いな悩みを抱える友人に呆れつつ、キバットはぽつりと呟く。


「やれやれ。まだ『鎧』を渡すには早いかねぇ……真夜」


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  2. 仮面ライダーキバ/BLAZING.BLOOD
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