紅蓮の牙

二次創作中心。仮面ライダーキバと灼眼のシャナのクロスを連載中。

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第二十三話・リバイバル/信じる答え.後篇


眼前に広がる、炎の赤い輝き。
レティシアはその光景を茫然と見つめていた。


「サミュエル……? ジェフ……?」


愛する夫と息子の名前。しかし、その呼び掛けに答える者は誰もいない。
聞こえるのは、周囲を取り囲む人間達の蔑みだけ。


『化けもの』『化けもの』『化けもの』『化けもの』『化けもの』『化けもの』。


事態について行けないレティシア。
ふと彼女は、炎の中に2つの影を捉える。
貼り付けにされ、今まさに業火で身を焼かれる2つの影を。


――ややあって、炎は静かに消えていく。黒く焼かれた大地に残る、二つの消し炭。


「ひっ…………!!」


限界まで見開かれたレティシアの瞳に、『地獄』が映り込む。






――無残な亡骸と化した、夫と息子の姿が。







「いやぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」







◆◆◆


「レティシア!!」
「!」


傍らで自分の肩を揺するカロンの呼び声により、レティシア――アナザーキバの意識は覚醒する。
見ればここは、自分達のアジト二階層にある広いホール。
目の前の床には、自らの悲願を達成するカギとなる、綿密な研究・計算がいくつも書かれた模様――『蘇生陣』。


「す、すみません。カロン。コントロールを手放してしまいました」
「いや、儂も先程まであの気配にあてられ、意識を失っておった。あれは一体なんだったんじゃ……?」


レティシアとカロンの言う『気配』。それは、クウガ・アルティメットフォームの生み出した悪しき波動のことである。
普段ならば威圧こそすれ、気絶するほどのことではないのだが――今回は状況が違った。


「迂闊でしたね。蘇生陣の発動にばかり集中していて、他への警戒が疎かになっていました」
「うむ。ただでさえ、蘇生陣発動に裂く集中力は尋常なものではないからな」


二人は蘇生陣発動に全精神力を注いでいた為、他への警戒心が限りなく削がれていた。

そこに出現したクウガUFの持つ『究極の闇』のエネルギー。
不意を突かれ、心構えさえしていなかった精神に、クウガUFの力は影響が大き過ぎたのだ。


(……あんな白昼夢を見たのも、あの波動のせいですかね)


もはや何かの啓示のように思える。
運命が自分を駆り立て、先へ進むことを促しているかのような。


(……大丈夫。もう少し、だから)


レティシアは掌の上にあるペンダントを握り締める。
あの波動の持ち主が来たとしても、負けるわけにはいかない。


長い間、ただ一つの願いを叶える為だけに、ここまで歩き続けて来たのだ。
どれだけの屍を見ても、どれだけの罪を負っても、どれだけの返り血を浴びても、歩き続けた。






――あと少しで、二人の温もりを感じることができる。





邪魔など、させるものか。


「……カロン、陣発動を続けましょう」
「うむ、今度は更に処理スピードを上げるとしよう。次はあの波動に当てられることも……」


ない。と続けようとしたカロンの言葉は、背後から聞こえた派手な音に遮られた。


――ドガッ!!
凄まじい勢いで蹴破られたドアがホールの床を滑り、壁に激突して止まる。


「!!」


カロンとレティシアが警戒心を露わに、侵入者の姿を捉えた。


「よぉ、お二人さん」
「……貴方ですか」


黄金の魔剣を担ぎながら現れた紅奏夜に、レティシアは敵意に満ちた眼光を向ける。


「今更、何の用じゃ?」
「決まってるだろ」


その隣に立つ小野寺ユウスケが奏夜と声を揃え、カロンの問いに答えた。


『邪魔しに来た』




◆◆◆


「あれが、アヴェンジャーの居城?」


紅蓮の翼で滑空するシャナの眼前には、切り立った崖の上にそびえ立つ、古めかしい城が広がっていた。


その真下でバイクを駆る太牙が頷く。


「ああ。その昔、ファンガイアが使っていた場所だよ」
『ふむ。巨大なアジトだな』
「でもあんな場所、御崎市にありましたか?」


古城を見上げながら、イクサリオンを操る名護の後ろで、後部座席に座る悠二は疑問符を浮かべた。
悠二は生まれも育ちも御崎市だが、あんな城の存在は認知していなかったのである。


しかしその疑問は、シャナと同じく、グリモアで空路を行くマージョリーが解決してくれた。


「ファンガイアの魔術結界の跡があるわ。普段は人間が視認できないようになってたみたいよ」
「跡……ってことは、今は別の結界が張られてるんですか?」
「ええ。今は自在式製の、単純に侵入者の行く手を阻む結界ね。この進行方向だと、あと少しでブチ当たるわ。途中でルート変更すれば、結界は貼られてないみたいだけど……」
「結界が貼られてない方の道はどうせ罠だろ」


マシンディケイダーに乗る士がしれっと言い放つ。
その意見には全員同意するところだ。


「このままの道で問題ない。私が結界を斬るから」


シャナが夜傘から、贄殿遮那を抜く。
異能の力全てを無効化するこの刀なら、結界など紙切れに等しい。


「でも結界が破られてないってことは、奏夜さんとユウスケはもう一つの道を行ったんですよね?」


ならば、何かしらの罠にかかっている可能性もある。
マシンディケイダーの後ろに乗る夏海は二人の身を案じていた。


「余計な心配をするな夏みかん。ユウスケのしぶとさは、お前もよく知ってるだろ」
「奏夜は殺したって死なないわよ」
「こっちが心配したと思えば、すぐケロッとした顔で帰ってくるもんね」


あのバカが付くほどのお人好しが、そう簡単にくたばる訳がない。
あの非常識が服を着て歩いてるような教師が、そう簡単にやられるわけがない。


やや歪んではいるものの、士、シャナ、悠二の評価は二人への信頼に他ならない。
――だからといって、彼らの救援に急ぐ足を緩めようとは思わないが。


そうこう話している内に、遠巻きに見えていた古城が目の前まで近付いていた。
マージョリーの読み通り、進む先には複雑な文字や陣形の刻まれた自在式の障壁。


「ふっ!」


シャナは短く息を吐き、双翼から吹き出す炎の勢いを上げる。
紅蓮の軌跡を描きながら、シャナは障壁に特攻し、


「――だあッ!!」


一閃。
振り抜かれた贄殿遮那は、幾重にも刻み込まれた式を造作もなく切り捨てる。


「やるな」
「どうってことない」


士とシャナの短いやり取りと共に、全員が結界の内側に侵入する。


「!!」


しかし、古城の門まであと少しという所で、全員が足を止めた。


――グルオォォッ!!


周囲の景色から切り取られたような、円形の広場。
重く閉じられた城門を守護するかの如く、大勢のファンガイアが群れを成して待ち構えていたのである。


「再生態のファンガイアか」
「奴らめ……どうやら残る兵力全てをここに集めていたようだな」


名護と太牙が呟く間にも、カロンが生み出したであろうファンガイア達は侵入者を排除するべく進行してくる。


「ふう、屍人形なんてブチ殺し甲斐が無いけど、どーやら蹴散らしていくしかないみたいね」
「それっきゃねぇか。――シャナ、遅れんなよ」
「そっちこそね。士」


二人が好戦的な笑みを浮かべ合い、士はバイクのアクセルを入れ、シャナは翼を羽ばたかせ、ファンガイアの軍勢に向かっていく。


「来い、サガーク!」
『◆〆∞£!!』
「キバーラ、行きますよ!!」
「はいは~い、おっ任せ~♪」


太牙がサガークを、夏海がキバーラを呼び出し、士と名護はディケイドのカードとイクサナックルを構える。




『変身!』




【KAMEN.RIDE-DECADE!!】
『フィ・ス・ト・オ・ン』
『ヘン・シン』
「チュッ♪」


十の虚像、山吹色のアーマー、ブルーのステンドグラス、無数のハート型の光が四人に重なり、彼らの姿をそれぞれ仮面の戦士――仮面ライダーディケイド、イクサ、サガ、キバーラへと変えた。




『そこを退けぇーーーッ!!』




覇気勇々とした戦士達の声が大気を震わせ、両陣営の最終決戦の狼煙は上がった。




◆◆◆


「はっ!!」
「っ!」


古城内のホール。
ザンバットソードの一薙ぎを二の腕で受け止め、至近距離で睨み合う奏夜とアナザーキバ。


「どうしました? 変身しないのですか?」
「へっ、お前なんざ、この魔剣一本で十分だっつの。そっちこそ、自慢の高速移動はどうしたんだよ?」
「……変身していない貴方など、この身一つで十分です!」


強がる二人だが、それぞれの力を使わないのにはちゃんと理由があった。
奏夜は連日の戦いによるダメージと、変身に不可欠なキバーラが、変身時間超過による負担からまだ回復していないことと。
レティシアは蘇生陣発動時、膨大な魔皇力を消費しており、高速移動に避ける力が残っていなかったということ。


「答えを持たぬ者が――今度こそ消えなさい!」
「うおっ!?」


ただ、やはり互いにハンデがあったとしても、奏夜とアナザーキバの力の差は歴然だ。


アナザーキバが呼び出した水球が奏夜を取り囲み、一斉に弾ける。
ギリギリで回避と防御は間に合ったかにみえたが、肩に出来た僅かな傷痕を見て、奏夜は舌打ちした。


「ちっ、さすがに生身じゃ限界があるか……」


唯一の救いは、カロンの相手をユウスケが変身するクウガが引き受けてくれていることか。


「だぁっ!!」
「ぬうっ、小癪な!」


クウガの拳を回避し、カロンが鳥の形を模した炎弾を飛ばす。


ユウスケとカロンも、アルティメットフォームの蘇生陣の負担からか、勝負はほぼ互角だった。
死体を呼び出せない分、カロンの方がやや不利だろうか。


しかし、レティシアと奏夜の戦いは、明らかに奏夜の劣勢だった。


(ま、嘆いたところで、今持ってるカードで戦うしか無いけどな……)


アナザーキバの腕を弾いて距離を取り、ザンバットソードを構え直す奏夜。


「……理解しかねますね」


問いかけるアナザーキバは、拳を構えながらも仕掛けてくる様子は無かった。


「答えを持たぬ時点で、貴方がここにいる資格はない……そう言った筈ですが?」
「………」


奏夜は何も答えない。ただ、視線だけは逸らさなかった。


「何の支えも無く進んでも、それはただ苦しみが続くだけ。
貴方の信念は、所詮夢物語。掲げたとして、それが何の支えになるのですか?」


「ハッ、夢物語はお互い様だ。……さっき発動させようとしていた陣、死者を蘇えらせるものだろう?」


蘇生陣は魔術と自在式が組み合わさったもの。
奏夜には魔術の心得はあっても、自在式の素養は無かったが、今までのレティシアの言動等から、推測は立っていた。


「……夢物語などではありません。私達が今まで集めたライフエナジー、キバの鎧、そしてカロンの死者の書。これらがあれば、死を超越することは十分に可能です」
「そんなやり方で蘇らせて貰って、お前の大切な人達が喜ぶとでも思ってんのかよ」
「強がりは止しなさい。――貴方にだっているでしょう?」




何を投げ打ってでも、蘇らせたいと願う人が。




「………」


奏夜の瞳が僅かに揺れた。


「私達の大命は、敵である貴方にも利を与えるもの。貴方の自分本位な理想郷、どちらに人やファンガイアが着いてくるか、もう分かっている筈です」
「……ああ、そうだな」


奏夜はあっさりとそれを認める。


――出会い方が違っていたのなら、奏夜はレティシアに着いていっただろう。
もし叶うなら、“あの人”との時間を取り戻せるなら。
例え悪魔にでも魂を売ってもいい。


そう思っていた時が、奏夜にも確かにあったからだ。


「貴方と私は似た者同士なのかも知れません。違うのは、叶う理想を追っているか、叶わぬ理想を追っているのかどうか。
貴方が答えを見つけられず、自らの理想に絶望したのなら――まだ遅くはない」


アナザーキバは無造作に、奏夜へ手を差し出す。


「私達と共に来なさい。貴方の過去を、運命の鎖から解放しましょう」


奏夜にとって余りにも甘い誘惑。
身動きさえ出来ず、頭をくらくらと揺らし、冷静な判断を奪う毒。
叶わぬ理想を追って何になる。そんなものの為に、何故大切な人との未来を捨てなければならない。


奏夜の口元に笑みが浮かんだ。
酷く虚ろで、歪んだ笑顔。
担いでいたザンバットソードを下ろし、奏夜はレティシアに近付いていく。


差し出された手に、自分の手を伸ばしながら、奏夜は確かな意志と共に、自分の答えを述べる。






「やなこった」






奏夜の笑みはいつの間にか虚ろなものではない、いつもの人を喰ったようなものに変わっていた。


「!!」


レティシアがそれに気付いたころには、もう遅かった。
奏夜は彼女の手をはたき、返す拳で、アナザーキバの仮面を渾身の力でぶん殴る。


「がっ……!」


生身のものとは思えないほどの力に、アナザーキバは数歩仰け反る。


「あ―、痛ぇ痛ぇ。やっぱ生身だと色々不便だなぁ」


拳から血を滴らせながら、奏夜は緊張感の無い口調で呟く。


「な、何故……ですか!?」


アナザーキバの仮面の下から、驚愕の言葉が漏れると同時に、





『奏夜が、お前とは違うからだ(よ)』





窓に貼られていたステンドグラスが割れ、細かく砕けた破片を浴びながら、二つの影がホールに着地した。


「ようユウスケ、生きてるか?」
「士!」
「ごめん奏夜。遅くなった」
「シャナ!」


颯爽と現れたディケイドとシャナに、奏夜とクウガは呆けたように立ち尽くす。


「外のファンガイア達が思いの外多くてな。ヤツらの相手を名護達に任せて、俺達だけ先に来たんだよ」


ディケイドはすれ違い様に、奏夜の肩を叩く。


「あのカラスは俺とユウスケが相手をする。奏夜、俺もお前の答え、聞かせてもらうぞ」
「……」


まったくコイツは――いちいち見透かしたようなことを言う。
奏夜は苦笑して、


「ああ。頼んだぜ、門矢」


ディケイドは小さく頷き、カロンと戦うクウガに加勢する。


「クッ……世界の破壊者か……!!」
「ユウスケ、いつまでもこんなヤツに手間取ってるな。それとも、主役の俺に見せ場を取られたいのか?」
「……相変わらずすげー自信だな。お前はさ」


皮肉っぽく言いながらも、クウガはこの友人の助けに感謝しつつ、拳を構え直す。


「見せ場はまだまだこれからだよ。何てったって、俺はクウガだしな」
「よし、その意気だ。――行くぞ!」


付近でライドブッカーの弾丸とカロンの炎弾が舞う中、シャナは奏夜を庇うように、彼の前に立つ。


「奏夜、下がってて。その様子じゃ身体もボロボロだし、変身もできないんでしょう?」
「――そーだな。せっかくだ、お前に出番を譲ってゆっくり……と言いたいとこだが」


一度は後ろに退いた奏夜が、シャナを押しのけ再び前に出る。


「これは俺がケジメを付けなきゃならん戦いなんでな。ちょっと任してくんねぇか?」


シャナを見る奏夜の瞳は穏やかで、とても戦いに赴くようなものではなかった。
しかし、シャナにとってはもはや見慣れたもの。


(いつもの奏夜だ)


それを確かめ、しかしシャナは奏夜の背中に回るようなことはせず、代わりに彼の隣に立つ。


「いやよ」
「あん?」
「ここまでずっと奏夜の好きにさせて来たんだから、いい加減私も手を出すわよ。それに」


好戦的な、しかしさながら奏夜の如く、シャナは快活に笑った。


「やるなら二人で、でしょ?」
「……はっ、お前も言うようになってきたな!」


奏夜が、シャナの髪を乱暴に撫でたのを気に二人の武器、ザンバットソードと贄殿遮那が交差した。


「そーいうわけだ、レティシア。残念だが、お前の信念とやらに賛同するわけにはいかない」
「……何故、ですか」


レティシアの声はどこか震えていた。


「貴方は何故、立っていられるのですか? 貴方だって、生き返らせたい人がいるでしょう?まさか本気で、自分の夢物語が現実になるとでも思っているのですか?」
「思ってるんじゃねぇ、信じてんだよ」


仮面ライダークウガ――小野寺ユウスケに教えられたことだ。


「例え夢物語と笑われようが、それを諦めずに信じ続ける限り、可能性は0じゃねぇだろ」


酷い現実を信じ、自分の願いを諦めるな。
優しい綺麗事を信じ、誰も泣かない現実を願い続けろ。


「これが俺の答えだ。誰が何と言おうが、俺は人とファンガイアが笑っていられる世界を作ってやる。信じて、信じて、俺がくたばるまで信じ続けてやるよ。
――レティシア、お前も含めてだ」


奏夜は真っ直ぐ、アナザーキバを見据えた。


「お前の理想が間違っているとは言わない。でも、それは俺の理想と相反するものだ。だったら、俺の理想の中でお前を救ってやるよ」


流れるように告げる奏夜。
しかしレティシアは、それを自分への侮辱として拒む。


「わ、私にそんな絵空事を押しつけるなッ!! 貴方に救われる謂われなど無い!」
「そうか? 今の俺にはお前が自分の理想のせいで、もがき苦しんでるように見えるがな」
「戯れ言を! 私が私の理想に何故苦しめられなくては……」
「なら何故、俺を殺さなかった」


――刹那、レティシアの全ての動きが止まった。
奏夜は言葉を切ることなく、唇を動かしていく。


「よくよく考えりゃおかしな話だ。アンタにゃ俺を殺すメリットはあっても、生かしておくメリットはない。最初に戦った時は、ただでさえマッド博士との戦いでグロッキーだったからな。造作もなく俺を殺せたはずさ」


シャナも――そこは引っかかっていた。
レティシアにとって、奏夜は邪魔にしかならない。
ならば何故、奏夜を殺さず生かしておいたのか。


(奏夜は、あいつがわざと見逃してたっていうの?)


シャナは黙って、奏夜の話の続きを聞く。


「信念だの理想だのと、アンタが執拗に問い掛け続けた問題にもこれで説明がつく。
アンタは俺の理想を夢物語と言ったが、本当は俺がその夢物語を、現実にしてくれるのを望んでいたんじゃないのか?
――理想のために人間を犠牲にし続けるアンタ自身を、止めて欲しかったから」
「ふ、ふざけるなッ!! 人間など価値の無い生き物だ! 私の理想の糧となればそれでいい!」
「いや、アンタは知っているハズだ!」


奏夜はザンバットソードの切っ先をアナザーキバに向けた。


――今から自分が彼女に与える事実は、ある意味では絶望の刃と成り得る。
だが、それでも言わなければならない。


運命の鎖から、彼女を解き放つために。
自分の理想を貫いた上で、彼女にも救いを与えるために。


「アンタは人間の醜さを嫌と言うほど知っているだろうが、それと同じくらい人間の素晴らしさも理解しているだろう!
アンタの――夫と息子から!」
「ッ!」


レティシアの中で、記憶がフラッシュバックする。
だが、先刻の残酷な白昼夢ではない。
自分を呼ぶ声と、三人で暮らした暖かな時間。


「……アンタは非情に成り切れなかった。アンタの夫と息子と同じである人間を、理想のために殺し続ける自分が恐ろしかった。
その感情を『自分の信念』という形で正当化し、無理やり抑えつけていた」


最初の頃と、もはや立場は逆転していた。
奏夜は毅然と立ち、レティシアはその有り様を揺るがされている。


奏夜は、レティシアが投げかけた問いを思い出す。
――自分の理想は果たして、本当に他の誰かを幸せにできるものなのか。





「この問いに誰よりも苦しめられていたのは――他ならぬアンタだったんだ。
レティシア・リネロ」





◆◆◆


「ハァッ!!」
「ぐおっ!?」


ディケイドのライドブッカーが、カロンを横薙ぎに斬りつける。
傷口を抑えながら後退すれば、次はクウガの追撃だ。


「だりゃッ!!」
「ちぃっ、舐めるでないわッ!」


クウガの拳を、至近距離からの炎弾で防ぐ。
クウガが爆炎で吹き飛ばされたのが見えたが、ダメージはそこまで追ってはいまい。


(せめて死者の書を使うだけの力が残っておれば……、いや、いずれにせよこのままではマズい……!!)


足止めの屍達がやられれば、『弔詞の詠み手』達も加勢に来るだろう。
だが撤退するにせよ、レティシアと死者の書、キバの鎧だけは死守しなくては――


「余所事考えてる暇があるのか?」


【ATTACK.RIDE-BLUST!!】


「!!」


マゼンダカラーの光弾が、硝煙の彼方からカロンを狙う。


「ぐ、あっ!!」


カロンが動けない隙をつき、ディケイドは新たなカードをドライバーに装填する。


【FINAL.FORM.RIDE-KU.KU.KU.KUGA!!】


「ユウスケ、ちょっとくすぐったいぞ!」
「げっ! アレやるのかよ!」


クウガの悲鳴も束の間、ディケイドが彼の背中に手を翳すと、クウガの鎧が割れ、中から甲虫を模した装甲が現れる。
クウガの頭が装甲に吸い込まれ、空中で反転。クウガの姿は黒と金でカラーリングされたメカニカルなクワガタ虫『クウガゴウラム』へ変わる。


「ハァッ!」


翼の後ろから噴出されたエネルギーが推進力となり、クウガゴウラムは一瞬で、その銀の二本角を用いてカロンを挟み込む。


「ぐっ、こ、れしきぃぃ!」


振り解こうとするカロンだが、身体はがっちり挟まれている上、飛翔するクウガゴウラムのスピードよってかかるGが、更に彼の活動を緩慢にさせていた。


【FINAL.ATTACK.RIDE-KU.KU.KU.KUGA!!】


「決めるか」


カードを入れ、手を軽く叩くディケイド。
クウガゴウラムはカロンを挟んだまま、広いホールの天井付近で転回。
加速しながらディケイドへと標的を運ぶ。


ディケイドがタイミングを合わせて飛び上がり、マゼンダのオーラに包まれた右足を突き出す。




『ハァーーーッ!!』




「ぐ、ぉおおおおお!?」


クウガゴウラムとの連携技『ディケイドアサルト』が炸裂し、カロンはダメージによって受け身すら取れぬまま、地面に叩きつけられた。




◆◆◆


「ぬ、ぉお……」


傷は、かなり深い。
カロンは自らの存在の力が漏れ出していくのを、まるで他人事のように感じていた。


(……もはや、儂にこの先を見届けることは不可能、か)


――自分には、レティシアのように大層な理由など無かった。
ただ、自らの持つ死者を操る力を、どこまで高められるのか。そしてその力で如何なる景色を見ることができるのか。
それが知れさえすれば良かった。


レティシアと出会い、共に行動してきたのも、言わば探究心の延長に他ならない――


(そのはず――だったのじゃがのう)


カロンは嘴を僅かに歪ませる。
変わった女だった。
激情に駆られた哀れな存在かと思えば、同じ境遇の持ち主にはまるで慈母のように接する一面もある。


所詮は、各々の都合上組んでいただけのこと――だが、数百年に渡る旅路の中を、それだけの理由で共に歩んだのか、と問われれば、確実に嘘となるだろう。
――今ここで自分が消えれば、その旅路も、何もかもが水泡に帰す。


それは、それだけは。


「み、とめぬぞ……!!」
『!!』


ディケイドとクウガゴウラムが警戒する中、カロンはボロボロの身体でホールを進む。
向かう先は、蘇生陣の中心。


「無限に死者を呼び出すことは叶わなんだが――今までに集めたライフエナジーと、我が存在の力を束ねれば、一度限り、歴戦の猛者を呼び出すことが出来る……!!」
「!! あいつ、ここで何かヤバいヤツを蘇らせる気か!!」


ディケイドの瞳に移る死者の書が輝きを増すと、陣の模様が呼応するかのように蠢き始める。


「レティシア!!」
「っ!!」


陣が発動したのを確かめ、カロンは腕に装着されていた『死者の書』を取り外し、アナザーキバに放った。
迷いを見せていたアナザーキバが、咄嗟にカロンの方をみやる。


「許せ、今まで集めていた力をここで使う!! 主は儂が今から呼び出す死者を使い、こやつらを滅ぼせ!!」
「カロン……そんな!!」


アナザーキバ――レティシアの声は震えていた。
普段とあまりにも違うその様子に、カロンは自身の状態も忘れて、笑い声を挙げた。


「何というザマじゃ。貴様の理想は、あの男の言葉程度で失われるものではなかろう?」


カロンの姿は、もはや頭半分しか残っておらず、他の部分は、蘇生陣の光と同化しつつあった。





「最後まで――貴様の理想を貫け――我が、友よ――」





それが、カロンの最後の言葉だった。
存在の力全てを消費し、その身は蘇生陣発動の糧となり果てたのだ。


「あ――あぁ……!!」


アナザーキバの身体から力が抜け、精神状態を乱したのか、ベルトからキバットが外れた。アナザーキバの鎧が弾け飛び、その姿はロブスターファンガイアへと戻る。


「きゅううう……」
「キバット!」


奏夜が呼び掛けると、キバットは「ハッ!」と目を醒まし、主の元へ飛んでくる。



「奏夜~~! 良かったぁ、来てくれんの待ってたぜぇ!」
「再会の挨拶は後だ、今はとにかくこの城から――」


奏夜が言った途端、ホールの床がひび割れ、瓦礫となって下へ落下していく。


「やべっ!!」
「奏夜、捕まって!!」
「士、お前も早く!!」
「ああ!」


クウガゴウラムと紅蓮の翼を顕現させたシャナが、すんでのところでディケイドと奏夜を回収する。
瓦礫の雨を縫うようにして、四人は間一髪、古城を脱出した。
空中で一旦制止し、四人は再び崩れ行く建造物を眼下に収める。


途端、全員が言葉を失った。


「な、なんだありゃ……」


クウガゴウラムからユウスケの驚愕の声が漏れた。
他三人も口にこそ出さないが、この事態について行けないのは同じである。


古城の瓦礫を砕き、中から首をもたげた巨大な影。岩肌のような両翼を広げ、鋭い瞳は、死者の書の支配下にあって尚、強者の光を宿していた。


『……馬鹿な』


この面々の中で、一番眼前の状況を信じられなかったのはアラストールかも知れない。
今、目の前で冥界の淵から蘇ってきたのは、かつての契約者と自分の前に立ち塞がり、死闘の末にようやく倒れた、まさに歴戦の“紅世の王”だったからだ。




『“甲鉄龍”イルヤンカ……!!』




遥か昔に起きたフレイムヘイズと徒の一大戦争、その発端となった組織[とむらいの鐘]最強の将、『両翼』の左、イルヤンカ。
虹の翼“メリヒム”と並び、討たれた後もその名を轟かす実力者。
死者の書は、蘇らせる死者の記憶を、使用者が持っていなければならないはずだったが――


『迂闊だった……“冥夜の船頭”め。“大戦”に参加していたのか……!』
「凄い気配……」


シャナに“大戦”の知識は無いが、あの龍が今までの“徒”の中でも、最上位に入る力を持っていることは理解できた。


「コイツは骨が折れるな……」
「あっ! みんな、あの龍の背中!」


クウガゴウラムが角で刺す先、重厚そうな外皮の上に、威風堂々と立つ影。


「……レティシア」


◆◆◆


「な、なんなんですか。あの龍……!」
「……もしかしなくても、かなり面倒な状況なんじゃない? コレ」


古城を食い破って現れたイルヤンカを見上げつつ、夏海――仮面ライダーキバーラは息を飲み、マージョリーは本気で面倒くさそうに呟く。
無論、周囲に群がるファンガイアに炎弾を叩き込むのも忘れない。


「例えそうでも、我々がやるべきことは一つだ」
「奏夜達のためにも、ここで屍達を食い止めなくてはな」


イクサの銃弾が放たれ、サガのジャコーダービュートが伸び、またファンガイア達がステンドグラスとなって砕けた。


「シャナ、先生……」


空で微かに光る紅蓮の炎を見つめる悠二 。
今は、信じて待つしかない。


◆◆◆


イルヤンカの背に降り立ったディケイド、シャナ、奏夜、クウガの四人。
まだ死者の書の所有者が命令を下していないためか、イルヤンカが暴れ出す気配は無い。
改めて、四人とレティシア――ロブスターファンガイアは真っ向から対峙する。


「……あくまで、戦わなきゃならないのか」


最初に口を開いたのは奏夜だった。


「――ええ」


レティシアは、小さく頷く。
その腕には、カロンから譲り受けた死者の書が光っている。


「私は貴方の理想を否定しなければならない。そうしなければ私……いえ、私達の旅路は、何の意味も無くなってしまう」


一瞬でも揺らいでしまった自分への怒りを込め、レティシアは宣言する。


「私達の理想は、所詮相容れない。――夢は、ただの夢に過ぎません」
「だが、お前は」
「本心からそう思っちゃいない」


しかしディケイドとクウガは、レティシアの揺らぎを見逃さない。
力強く、二人は前に踏み出す。





「奏夜は信じる理想の為に戦える。
目の前に立ちはだかる敵が、例え自分と相反する理想の持ち主だったとしても、それさえも受け入れ、互いが笑っていられるように全力を尽くすことができる!」
「アヴェンジャーのファンガイアが、アンタに着いてきたのと同じだ! その姿にこそ、ファンガイアも人間も、シャナちゃん達仲間も着いてくる! それが、みんなが笑っていられるよう世界を作り出せる、真の王の姿だからだ!」
「お前はそんな世界を望んでいたんじゃないのか? お前と大切な人々との間に起きた悲劇を二度と繰り返させない、人間とファンガイアが手を取り合っていられる世界を!」
「今のアンタを動かしているのは理想じゃない、ただの使命感だ! アンタの選んだ道が間違っているなんて誰も言わない! でも奏夜は、アンタにも幸せになって欲しいと願ってる! なのに、なんで俺達が争わなきゃならないんだよ!」
「――そこまで分かってるなら、こうなることが必然だと言うことも分かっているでしょう?」


レティシアは涼しい口調で、相好を崩す。
異形の姿のせいで酷く分かりづらい笑顔。だがそれは、不思議と好意的なものに見えた。


「私はもう選んだ。今更、救いの道を歩むことは許されない。カロンも同胞も、それこそ糧としてきた人間達も、それを許しはしないでしょう。もはや、正しいかどうかではないのです。
私は最後の時まで、選んだ道を歩み続ける、それだけですよ」


最後通告に似たその言葉に、ずっと話を聞いていたシャナは、


「……なんて、馬鹿なの」


いつだったか、ある“徒”の少女に――最後まで自分の想いに生きた少女に言った言葉を、再び送る。


「本当に――馬鹿だわ」
「ふふ――そうかも、知れませんね」


シャナに笑いかけながら、レティシアは死者の書に手を添える。
もはや――話は終わりだという意思表示か。


「奏夜」
「ああ、分かってるよ門矢。――キバット!」
「あいあい! 俺様ふっかぁ~~つ!」


飛来したキバットが、操られていた分のフラストレーションもあってか、気合い十分に奏夜の手を噛む。


「ガブッ!」


ステンドグラスの紋様が奏夜の頬に浮かび、腰に巻き付いたキバットベルトに、キバットが逆さ向きに留まる。


「変身!!」


アクティブフォースが奏夜の体内を駆け巡り、その姿を仮面ライダーキバへと変えた。




並び立つ四人の戦士にレティシア――ロブスターファンガイアは戯れのつもりで問う。


「最後に聞いておきましょうか――貴方達は、何者ですか?」


レティシアから目を逸らさぬまま、四人は誇るように、自らの名を高らかに告げた。




『通りすがりの仮面ライダーだ!!』
「ファンガイア影の王、キバ!」
「“天壌の劫火”アラストールのフレイムヘイズ、『炎髪灼眼の討ち手』、シャナ!」






『覚えておけ!!』




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  1. 2012/05/31(木) 11:02:12|
  2. 仮面ライダーキバ/BLAZING.BLOOD
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