紅蓮の牙

二次創作中心。仮面ライダーキバと灼眼のシャナのクロスを連載中。

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第三話・無限/天壌無窮の空.後編



(来た!!)


御崎市のとある廃ビルの屋上。
フリアグネと傍らに並ぶマネキン型の燐子の真正面。
夜景に煌めく月を背に、二つの影が戦場に着地する。


眼も覚めるような真紅。炎髪と血霞の鎧。


ファンガイアの王、キバ。
片や、アラストールのフレイムヘイズ。


「シャナ!!」


悠二は、一声だけ。


「銃に当たるな!!」


叫びが、マネキンの蹴りで途切れる。
見ると、フリアグネの右手にはまた新たな宝具。リボルバータイプの拳銃のようだ。


『む、『フレイムヘイズ殺し』の宝具か』


アラストールが状況を理解する中、


「……」


悠二の声を聞いたシャナが笑ったのを、キバは見た。
悠二の決意と覚悟の音楽。
それはシャナの心を奮わせ、嬉しさという形で満たしていく。


「はは、いいのかい? 大事な…刃を止めるほどに大事なミステスなんだろう?」


フリアグネの揺さぶりにも、もはや動じなかった。
悠二の音楽を、決意と覚悟を感じたからこそ、助けにいかない。


(ただ、戦う!!)


灼眼に力が戻る。
大太刀を構える姿に、憂いや陰りは無かった。


「そうだ。それでいい」


呟いて、キバもまた拳を構える。


「行くわよ!」
「ああ!」


その言葉を皮切りに、戦いの火蓋は落とされた。


「やはり道具は道具か。――なら、死ね」


フレイムヘイズ殺しの宝具『トリガーハッピー』の弾丸を横っ飛びでかわし、フリアグネに向かって、キバとシャナは地を踏み出す。


その軌道を、燐子達が阻む。


『邪魔!』


二人の刀と拳が、燐子を一撃で粉砕する。
その隙に距離を取ったフリアグネが、ハンドベルを振った。


「弾けろ!」


二人に迫っていた燐子が凝縮し、爆発した。
シャナはそれを前に跳躍して回避する。
――と同時に、爆風がシャナの背中を押した。


(爆風を利用して加速だと!?)


燐子の影に跳躍して隠れ、難を逃れるが、ふと気が付く。


(キバは何処だ?)


刹那、フリアグネは何処かで存在の力が増長するのを感じた。
出所は、夜空。


『WAKE.UP!』


「っく!?」


天空から、キバのキックが迫っていた。
キバは爆風を隠れ蓑にし、キバットのフエッスルで右足の翼、ヘルズゲートを解放していたのである。
全くノーマークだったタイミングでの『ダークネスムーンブレイク』が、三日月をバックにフリアグネへと叩き込まれた。


「ちぃ、嘗めるな!」


傍らにいる燐子を下がらせ、フリアグネはダークネスムーンブレイクを真っ向から受け止める。
フリアグネ自身の存在の力と、キバの魔皇力がぶつかった。


「ご主人様!」


ウエディングドレスを纏うマネキン――“燐子”であるマリアンヌが叫ぶ。
キックの重圧から、フリアグネの足元にキバの紋章が浮かび上がるものの、決定打には至らない。


(さすがは“王”、宝具を使うトリッキーな戦法ばかりじゃないか)


キックの体勢を止め、キバはフリアグネから距離を取る。
フリアグネは追撃に備えるが、


(……?)


キバは動かなかった。
動く代わりに、キバはマリアンヌを指差す。


「……その燐子が、お前の大切な存在か?」


予想外の質問に、フリアグネのみならず、マリアンヌも驚きの色を隠せないようだった。


「『都喰らい』で得た存在の力――使い道は、その燐子を一つの存在にすることか」


淡々と、だが妙に真摯な音程で紡ぎ出されていく言葉に、フリアグネは、いつもの余裕を含んだ笑みを消して答える。


「ああ、そうだ」
「そうか」


短く言って、キバは再び拳を振るう。


フリアグネがそれを受け止め、会話は更に続く。


「俺に、お前の願いを否定する資格はない。――だが俺にも、お前がその燐子を大切にするように、大切にしたい人達が、守りたい人達が大勢いる。お前の願いがその人達を傷つけるなら――俺はお前を倒す」
「……それは、王の代行者としての責務だからかい?」
「責務も何も関係ない。大切だから――守りたいから守る」


戦う理由など、それで十分だ。
フリアグネはしばらくキバを見て、僅かに残念そうな表情を浮かべる。


「――キミとは、もう少しばかり話がしてみたかったね」
「無理だろ。俺達の行動理由は、合致しているように見えて、笑えるくらいに背反なんだ」


互いにこれが最後と言わんばかりに、閉口する。
キバがもう一度、ウェイクアップフエッスルを取り出しかけた時、二体の燐子が、キバに飛び掛かっていた。


『やばっ!』


キバとキバットが叫ぶのと、フリアグネがハンドベルを鳴らしたのが同時だった。
耳をつんざく爆音と共に、キバは舞台から転げ落ちる。


「くっ、痛ってーな、畜生……」


直撃は避けたが、ダメージは大きい。
立ち上がれはするが、やはりアレを完全に防ぐにはドッガフォームしかなさそうだ。
そこでふと、こちらに向かってくる人影に気が付く。


(坂井!?)


何処か急いでいるように見える。


(また、『零時迷子』の力で何かに気が付いたのか?)


だが、その直ぐ近く、シャナと戦う燐子の一つが爆発しかけていた。あのままでは、悠二が巻き添えをくってしまう。
だが、こちらから悠二を守るには、距離が有りすぎる。


「チッ、来いブロン!」
『ブロンブースター!』


黄色いフエッスルを取り出し、キバットが軽快な音色を吹き鳴らす。
と同時に、燐子が凝縮し、爆発した。


「う、わっ!」


悠二が迫り来る爆風と爆炎に目を瞑った。
だが、いつまで経っても衝撃は来ない。
爆発音はしたはずなのに、衝撃のベクトルが何かに妨げられたかのようだった。


「……?」


恐る恐る目を開けると、悠二の眼前には、金色の巨大な彫像が鎮座していた。
この彫像が、自分の盾になってくれたらしい。


キバが呼び寄せたゴーレムと呼ばれる人造モンスター『ブロン』だ。
本来の用途とは違う使い方ではあるが、アームズモンスター達によるフォームチェンジを封じられている今、悠二を守れるモンスターはこのブロンくらいだったのだ。


呆ける悠二に、キバが駆け寄る。


「あ、ありがとう……」
「礼はいい。それより、何か俺とあいつに知らせたいことがあるんじゃないのか」


単刀直入に聞くキバに、悠二は初めて聞くキバの声に気を払うこともなく、焦りを混ぜた口調のまま答える。


「あのハンドベルを壊さないと! 『都喰らい』はもう始まってる!」
「! どういうことだ!?」


悠二によると、あのハンドベル『ダンスパーティ』が鳴らす音色には二つの種類があるらしい。
一つは燐子の爆破に使う音色。
もう一つは自分の鼓動――つまり、トーチの鼓動を加速させる音色。


燐子を爆破させる能力はあくまでフェイク。
フリアグネの意図は、『トーチの鼓動を加速させ、御崎市にあるトーチ全てを一斉爆破させること』。


――二世の話が克明に蘇る。
棺の織り手は、潜んだ都の人口の一割を喰らい、トーチを一斉に分解し、そこから出来た歪みを利用して、街全体を莫大かつ高純度な“存在の力”に変えたと。


「チッ……、そういうことか。完全に裏をかかれたな。だが、ハンドベルの音色がキーになるなら」
「そうだよ。シャナの封絶があれば、音色を遮断出来るはずなんだ! 事実、フリアグネは封絶を使ってない。いや、音を遮断してしまうから、使えなかったんだ!」


なるほど。確かに筋は通る。


「坂井悠二、お前はそのことをあいつ――『炎髪灼眼の討ち手』に伝えてもらいたい。
燐子は俺が極力抑えといてやるが、行けるか?」
「うん、大丈夫!」


悠二の真摯な返答に、キバはふと問いかける。


「一つ聞かせてくれ。お前は何故、そこまで頑張るんだ? お前はいずれ消える。お前の行動は、これからの世界には関係のないものだろう?」
「それがなんだ!」


キバの言葉を、真っ向からはね除ける。


「僕が動かなきゃ、シャナが死ぬかもしれない!
僕が動けば、シャナを助けられるかもしれない!
僕が本当に生きているかどうかも、僕がいずれ消えることも関係ないんだ!
動ける今があればいい!
今、僕がやらなきゃいけないことは――」




シャナを生かす、それだけだ!




ついこの前、CDショップで会った時とは比べものにならない、強く素晴らしい音楽が、キバの心を揺らす。


(ああそうか、そうだったよな)


キバとして戦ってきた中で、幾度も教えられたこと。
身を持って、体験したこと。
人は――いくらでも変われるのだ。


「――ああ、気に入ったぞ。お前の答え!」


キバは仮面の下で口端を吊り上げる。


「邪魔なヤツは俺が倒す。お前の覚悟、見せてみろ」
「ああ!」


キバと悠二は頷き合って、ほぼ同時に駆け出す。
もちろん、燐子達が襲いかかってくるものの、それらは纏めてキバが引き受けた。
悠二は思惑通り、その脇を走り抜けていく。
悠二とシャナの間に、もう燐子はいなかった。


(燐子の数も残り少なくなってきたな……。この分なら、都喰らいが始まる前に、フリアグネ当人を叩けるかも知れない)


そうでなくとも、悠二がシャナに今のことを伝えられれば、こっちの勝ちだ。
あの『フレイムヘイズ殺し』の銃があったとしても、こちらは二対一。


大丈夫、もう負けはない。
群がる燐子の一体を砕きながら、キバがそう確信した時だった。




「駄目だ、マリアンヌ!!」




フリアグネの悲痛な叫びが轟く。
見れば、悠二の進行方向。つまりシャナに向かって、爆発の渦中から、マリアンヌが特攻をかけていた。


(何故だ?)


キバは燐子達を相手にしながら疑念を募らせる。


確かに燐子は残り少ない。
『都喰らい』が追い付かず、このままフリアグネが討滅される可能性も出てきているが……。


(もしフリアグネのためならば、特攻はあまり意味がない。爆破しようにも、それより早くシャナがヤツを叩き斬る。足止めは最低でも数分は持たせなければ無意味。確実に相手を封じられなくては――)


浮かんでは消えていく思考の中で、キバは一つの答えに辿り着いた。


ある。
今まで見た情報から、シャナを足止め出来る方法が一つだけ。
そして、フリアグネが狼狽えたのもわかる。


もし、この方法を使えば。


(くそっ、認めてやるよ!)


お前らの『愛』は本物だ!
大切な人のために、命をも賭けられる覚悟があるんだからな!


「坂井悠二、そこから下がれ! 『炎髪灼眼の討ち手』、その燐子を斬るな!」


キバがありったけの声で叫ぶ。


『っ!』


シャナ、悠二がそれに気が付くがもう遅い。
シャナの大太刀は、マネキンのマリアンヌの身体を二つに裂いていた。


「ご主人様のために……“それ”が欲しかったのよ!!」


分かれたマネキンの体の中から伸びた金色の鎖が大太刀に巻き付き、そのままシャナの身体を絡め取った。


「う!?」


マネキンの中から、最初に見た時と同じ、粗末な人形の“燐子”マリアンヌが現れる。
その手には、武器殺しの宝具『バブルルート』の鎖が握られている。


『しまった、本体か!』


アラストールの叫びも虚しく、鎖はほどけない。


(間に合うか!?)


キバがシャナ達の元へ足を踏み出す。
しかし、


「なにっ!?」


残った二体のマネキンが、キバを羽交い締めにしていた。
このまま巻き添えにする気か。


力を込めるが、逃れられない。
先の爆発で、予想以上にダメージを負っていたようだ。
――なら、せめて。


「ブロン!」


キバが命じると、静止していたブロンの目が輝き、空を滑るように飛び立つ。


「坂井悠二、そいつの影に隠れろ!」
「っ! でもそれじゃ、シャナもあんたも!」
「俺達に爆発を防ぐ手段は無い! 坂井悠二! “お前がやるべきこと”は何だ!」


その言葉を聞き、悠二は躊躇いを拳を握り締めることで耐え、飛来するブロンとの距離を詰める。
時間的にギリギリ。間に合うかは運次第。


「さあ、今ですご主人様!」


マリアンヌが促す。
だが、フリアグネは恐怖で跳ね上がる鼓動を聞きながら、ハンドベルを鳴らすことを躊躇している。


この一振りで消える。大切な、人が。


「“フリアグネ”様!」


マリアンヌの一際大きな叫びが、フリアグネを動かした。
それは燐子という仮初めの存在でありながら、自分達となんら変わりない。
マリアンヌがフリアグネに捧げる、心の音楽だった。


「マリアンヌ!」


ハンドベルが、鳴った。
マリアンヌ、そしてキバに纏わる燐子が凝縮。
シャナ、キバを至近からの爆発で吹き飛ばした。


◆◆◆


破裂の余韻を残す夜気の中、キバは瓦礫の中でうめいた。


「う、ぐ……」


力を振り絞り、瓦礫から這い出るが、被害は甚大だ。
身体中あちこちにガタがきている。


「キバット、無事か……?」
「あ、ああ……なんとか、な」


相棒の安否を確かめ、キバは現状を把握する。


燦々たる有り様だった。金網も昇降口も、全て消し飛んだ屋上の景色が広がる。


「……ううう、うう……私のマリアンヌ……私の、マリアンヌ!!」
(……フリアグネ?)


キバは、悲痛な嗚咽と叫びを聞き取る。
見れば、ここから瓦礫の山一つを挟んだ位置。


フリアグネが涙を流しながら、ぼろぼろになって膝をつくシャナに、リボルバーの銃口を向けていた。


「できるとも、するとも、マリアンヌ! ここで得られる力、全てを使ってでも、君を蘇らせてみせる……そして」


右手に銃『トリガーハッピー』。左手にハンドベル『ダンスパーティ』。
フレイムヘイズ殺しと、『都喰らい』の二つの悲願を握り締め、フリアグネは叫ぶ。


「この世で一個の存在にしてみせる! ……そして、いつまでも二人で生きよう、二人で……」


身を擲ったマリアンヌへの答え。
フリアグネの心の音楽は、悲しみに裏打ちされた決意に満ちていた。


「……だから、まず、死ね」


トリガーにかけられた指に、力が籠る。


「フレイムヘイズ……この、討滅の道具が!!」


シャナが歯噛みしたのがわかった。
大太刀は手元に無く、目の前には必殺武器。
何も、出来ないのだ。


(ちく、しょう……動け、動きやがれ!!)


キバが気力を奮い立たせる。だがそれでも、間に合わない。
その時。


「封絶だ!!」


瓦礫に埋もれたブロンの影から、躍り出た悠二の叫びが上がった。

「っな!?」


フリアグネの驚愕。


「……!!」


シャナは一瞬で、悠二が言いたいことを全て理解した。


「止め……!!」
「封、絶!!」


紅蓮色の炎が視界を埋め、因果から空間を遮断する。
これで、『ダンスパーティ』の音は、もう外には届かない。


「私の計画を、見破ったというのか……?」


その傍ら、シャナが最後の力で立ち上がる。


「っ!!」


フリアグネは即座に、トリガーハッピーの銃口を向け直す。


「さ、せるかぁ!!」


シャナに触発されるかのように立ち上がったキバは、両手を大きく広げるような構えを取る。
すると、キバの足元に、赤いキバの紋章が浮かび上がった。


「っはぁ!!」


キバの意思で、紋章は瓦礫の大地を伝い、瞬時にフリアグネの背後に張り付き、拘束。


「ぐ、あぁぁぁ!! くっ、魔術か!」


赤いスパークと共に、キバの紋章はフリアグネを磔にし、自由を奪う。


「キバット!」
「おうよ!」


今なら、シールフエッスルは使えない。


『ガルルセイバー!』


青いフエッスルの音色が響き、ガルルの彫像を呼び寄せる。
だが、それを手にしたのはキバではなかった。


「行け次狼!」
『わかっている!』


次狼の声を発しながら、彫像はガルルセイバーに変型。


封絶内、丸腰であるシャナの手に収まった。


「貸してやる、使え!」
「……!!」


キバの声に頷き、シャナは未だ磔にされているフリアグネに、ガルルセイバーを構える。


「そう、私はフレイムヘイズよ」


シャナは自身を誇り、ガルルセイバーを振り抜いた。
左手。
ハンドベルが、フリアグネの指ごと両断され、宙を舞った。


「………ぁ」


その光景の意味を、フリアグネは深い虚無感と共に理解する。
ハンドベルが無い。
『都喰らい』は果たせない。




大切な人は――もう戻らない。




「っあああああああ!!」


聞くに絶えない、様々な感情が渦巻く絶叫。
キバの紋章が消え、自由になったフリアグネはトリガーを引き絞り、乾いた銃声が轟く。




――シャナが撃たれた時、キバは見た。
シャナと悠二、お互いがお互いを見て、笑い合っていたのを。
全てを理解し、笑い合っていたのを。


(……全く)


世話のかかる教え子だ。
シニカルに笑い、キバの意識は身体中を襲う激痛を感じながら、闇に沈んだ。


◆◆◆


「おい奏夜、起きろよ! なんかヤベーぞ、早く逃げねーと!」


ベルトから外れたキバットが、倒れたままピクリとも動かないキバを揺する。
――シャナが撃たれ、ビルから真南川に落下した時。


“それ”は起きた。


シャナの落ちた水面から、赤い火の粉からなる波紋ができたのだ。
生み出された赤い波紋が広がり、急速なスピードで御崎市全体を覆っていったのである。


「何が……!?」


この現像は悠二やキバットのみならず、フリアグネさえも理解不能らしい。
キバットが危機感を覚えるのも、当然だった。
そこでキバットはふと、ビルの瓦礫の隙間から、赤い影がこちらの様子を伺っているのを見た。


「あっ、シューちゃん!」


キバットにシューちゃんと呼ばれた生き物は、有り体に言うなら赤いドラゴンだった。


正式名シュードラン。
キャッスルドランと同じ、ドラン族の幼生体であり、その未発達な力から、キバの使役モンスターの中で唯一、フエッスルを使い呼び出すことが出来ないモンスターだ。


「ナイスタイミングだぜシューちゃん、早く来てくれ! 奏夜を運び出すから!」


キバットの頼みに頷き、シュードランはキバの近くまで寄ってきて、その身体を口にくわえて、自身の背中に乗せて羽ばたく。
ビルの屋上から脱出し、ほっと一息つくキバットの耳に、馴染みのある咆哮が届く。


――ギャォォォォ!


「おお、キャッスルドラン!」


迎えに来てくれたキャッスルドランの背中へとシュードランは着地する。


「よぅ、ご苦労さん」
「うわ、お兄ちゃんボロボロだね」
「ぐっ、たり」


その背中の展望台には、次狼、ラモン、力の姿があった。
――最も、次狼は一度シャナと一緒に川へ落ちたらしく、タキシードがずぶ濡れになり、力は未だにシールフエッスルの傷が生々しく残り、無傷なのはラモンだけ、という有り様だったが。


「お前ら、なんで」


キバットの問いかけを、次狼は手で制した。


「いいから黙って見てろ。……これから面白いものが見られるぞ」


ニヤリと笑う次狼。
ふとキバットは、キャッスルドランからやや離れた場所に位置するビルに目線を戻した。
そして見た。


“それ”を。


「な、なんだありゃ……!?」


◆◆◆


「ほら、お兄ちゃん起きて」
「うぇいく、あっぷ」


ラモンと力が身体を揺すり、キバの意識は覚醒した。


「あ、あれ? ラモン、力。なんでお前ら……」


上半身を起こそうとするが、直ぐ様針のような痛みが走り、身体を捩る。
どうやらキャッスルドランの屋上らしい。倒れている間に運ばれたのか。


「僕らのライフエナジーを分けてあげたから、傷は直ぐ治ると思うよ」
「あ、ああ。ありがとう……」


未だに現状が理解出来ないまま、キバは自分を乗せていたシュードランから降りる。


「お目覚めのようだな、我が王よ」


次狼が薄笑いを浮かべながらキバを見る。


「次狼……あっ、そうだ! あいつらは無事なのか!? 平井は、坂井は!?」
「そういきり立つな。……今に分かるさ」


不適な態度を取る次狼に、首を傾げるキバ。
とそこへ、キバット、そしてキバーラが飛んでくる。


「おい奏夜、寝てる場合じゃねぇぞ!」
「奏夜奏夜! 見て見て、さっきまで奏夜のいたあのビル!」


二人に促され、キバは廃ビルへと目線を移した。
この距離からなら、屋上にいるはずのフリアグネ、そして坂井が小さく見えるだけ……。


のはずだった。


「……は?」


思わず我が目を疑った。
改めてキャッスルドランから見える夜景を見渡す。
いや、それはもはや夜景と呼べるのかも疑問視される。




空が紅蓮色に燃えていた。




御崎市の全域を巻き込み、煌々と燃え上がる美しい炎。
これが封絶だと気付くのに、時間はかからなかった。
――だが、それは些細な異常だった。


この天壌無窮の空でさえも、





キバの目の前に鎮座する、巨大な影には敵わない。





「まさか“天壌の劫火”の顕現を拝める日が来ようとはな……」


次狼の感嘆を聞き、キバは眼前に広がる“異常”を朧気に受け入れる。
形容することさえ、烏滸がましい。
灼熱に包まれた漆黒の塊。炎で型どられた紅蓮の翼。
キバがかろうじて言えるのはその程度。


後は、圧倒的な存在感だけ。


「なん、てものを……」


なんてものを、あの小さな少女はその身に宿していたのだろう。


――そう。これこそが、シャナが契約する紅世の魔神アラストール。


またの名を――、






「あれが、“天壌の劫火”……」




キバは呆然と、その名を呟いた。




『……“狩人”フリアグネ……己が持てる宝具を弄んだがゆえに、墓穴を掘った愚かな王よ……』


低い、遠雷のように重い声が轟く。
遠くからその声を聞くキバ達も、威厳あるその声に威圧感を受けた。


『その宝具……我が身を目覚めさせることで、契約者の器を破壊するものだったとは……恐れ、かわしていたことも、今となっては笑うべきか……いや……』


僅かに苦笑らしい轟きを残し、ゆらりと炎に包まれた巨大な腕を、フリアグネに向けた。


『……貴様には、我が身の顕現が、何を意味するのか分かるか……? 我が身が目覚めて尚、ここに顕現し続けていられる理由が分かるか……? その宝具による小細工は、他のフレイムヘイズには通じても、この子には効かぬ……』


アラストールは、自らの契約者を誇り、唸る。


「効かないって……どういうことだ?」


傍らに立つ次狼に、キバは問う。
あの銃『トリガーハッピー』の仕組みはわかった。
契約者の中に眠る王の休眠を破り、その王の存在を受け入れ切れなくなった器――フレイムヘイズの破壊を可能とする宝具。
契約者が死に、休眠を破って顕現した王もまた、消費する存在の力故に、“紅世”へと帰還することが通例だと――先代キングの日誌にも書かれていた筈だ。


キバの質問に対し、次狼はつまらなそうに告げる。


「簡単な話だ。あの炎髪のガキが“天壌の劫火”を容れるに足る器を持っていた――それだけのことだろう」
「なっ……」


あんな圧倒的な存在を包括できる『器』。
そんなものが、この世に存在し得るのだろうか。
あの少女は、それほどまでに“強大”な存在のだろうか。


『炎髪灼眼の討ち手』。
人智を越える“王”をもその身に宿す、『偉大なる者』。
畏敬と畏怖を入り混ぜながら、キバ達はこの戦いの結末を見届ける。


身動きすら許されないフリアグネを、“魔神”は見据える。


『受けよ……報いの、炎を』


――アラストールからすれば、吐息の一撫で。
ただそれだけの動作で、屋上全域が纏めて吹き飛ばされた。
裁きの焔が、“狩人”を焼き付くした。




――マリ、アンヌ。




弦を一本弾いただけのような、儚い音色。
心の音楽を聞き取るキバだけが、彼の零れ落ちるような断末魔を聞いた。


◆◆◆


いつの間にか封絶は解かれていた。
キバはシュードランに乗り、焼き払われたデパートの屋上に来ていた。


その一角に、仰向けに横たわる悠二と、その手を取るシャナがいる。
――アラストールの炎の巻き添えを喰うことになった悠二だが、どうにか無事だったらしい。
恐らくは、掌の中にあるフリアグネがつけていた指輪のおこぼれなのだろうが、キバにはよくわからなかった。


――しかし、それも意味のない話だ。
それに関わらず、もう悠二の存在の力は消えかけている。


時間切れ、だ。


「シャナ」
「なに」
「ずっと考えてたことの答えが……やっと出たよ……消えてしまういつか、なんて、どうでもよかったんだ……今いる僕がなにをするか、だったんだ」


キバは敢えて近付かず、一歩離れた場所から、二人の交わす会話を聞いていた。


「……自分が何者でも、どうなろうと、ただやる、それだけだったんだ……」


シャナはくすりと笑う。


「バカな悩み」
「そうだな……やったことも、あんまり格好よくなかったし」
「うん、格好悪かった。でも……」




笑ってくれたね、最後に。




穏やかな顔で、シャナは告げる。


「ありがと」


――キバはなんとなく、この時点でシャナの考えていることに気が付いていた。
気が付いて、笑った。


「シャナ」
「なに」
「お願いが……あるんだ、けど」
「なに」
「シャナって、名前。ずっと、使って……くれないかな」


シャナは返事をせず、ただ笑って頷いた。
それだけで全てを察し、満足そうに悠二は目を閉じた。




最後の時――零時を迎える。




◆◆◆


「……っあははははは!!」
「っく、はははは!」
「…………え?」


シャナとキバ、二人分の笑い声で、悠二が目を開く。呆然と、自分の身体を見る。


消えかけて、いない。
トーチの灯も、元の明るさ。


「驚いた? なぜ私たちが襲撃を待ってたと思う?」
『ふ、ふ、万が一のときを考えての措置だったが、こうも場面と時間が重なると、安堵よりも笑いが出るというものだ……ふ、ふ、ふ』
「ほら、元通りだ。坂井悠二」


キバに軽く背中を叩かれた悠二は、わけがわからないという風に慌てる。


「な、なな、何がどうなって……?」
「おまえ、一つ忘れていたでしょう? 大事なこと」
「?」
『貴様の“ミステス”としての中身のことだ』
「それ」


キバがトーチの灯を指差す。


「それの名は『零時迷子』」
「零時……迷子?」
「かつて、一人の“王”が生み出した宝具だ。これを宿したトーチは毎夜零時を迎える度に、その日の内に消耗した“存在の力”を取り戻すことが出来る」
『うむ。封絶の中で動けるのも、鼓動を感じるのも当然……時の事象全てに干渉する“紅世の徒”秘宝中の秘宝だからな』


真夜がキバに、警鐘を促していたのも、このためだった。
もし紅世の徒がこれを得れば、“存在の力”の消耗を気にせず、力を振るえるという代物だからだ。


「つまり、おまえにはまだまだ、私たちに見届けてもらえるだけの未来があるってことなのよ、“悠二”」


初めて、シャナは悠二の名を呼ぶ。
悠二がそれに気付き、シャナは悪戯っぽく笑う。


「……あ、それじゃあ……」
『うむ、しばらく貴様という危険物を、この街で見張ることにする』
「そういうこと。なによ、文句があるっての?」


悠二は首を振る。


「ない」
「よろしい」


返事に満足したシャナが差し出した手を、悠二はしっかりと取り、立ち上がった。


(……一件落着か)


キバはそれを見届け、仮面の下で笑いながら、近くに待たせていたシュードランの背中に乗った。


「あっ、キバ!」


羽ばたきかけるシュードランに乗るキバに向かって、悠二が叫んだ。


「ありがとう!」


キバが驚いたように、シャナと悠二を見る。


「剣、助かった」
『うむ、世話をかけたな。ファンガイアの王よ』


シャナとアラストールも礼の言葉を述べる。


「………」


キバは無言のまま、手を軽く挙げてそれに答える。


(嬉しいなら嬉しいって言えばいいのによ)
(うるせぇ)


キバットの小声を突っぱね、シャナと悠二が見守る中、キバを乗せたシュードランはビルの影に消え、見えなくなった。


◆◆◆


翌日のカフェ・マル・ダムール。


「なるほど。では“紅世の王”とやらはもう倒れたということか」
「そういうことになりますね。
……う~、やっぱ身体のあちこちが軋むなぁ」


身体のあちこちを揉み解しながら、奏夜は嶋への報告を続ける。
――ライフエナジーで回復力の底上げはしたものの、さすがにあの傷は一日で治るほど浅いものではなかった。


しかも、授業は容赦なくやってくる。
結局奏夜は身体を襲う痛みに耐えながら、授業をする羽目になった。公務員も甘くない。
……ただ、命張って街を守った結果がこの激痛、というのは、いささか理不尽と思わないでもなかった。


「だが、キミの話では、これから新たな戦いが始まるということだったが」
「だから、あくまでも予想ですってば。起こるかも知れないし、起こらないかもしれない。俺としちゃ、後者の方がありがたいんですがね」
「ふむ。そう言えば、フレイムヘイズの少女についてはどうする気なんだ? やはり、キバの正体を明かして、これからも共に戦うのか」
「さぁ、一緒に戦うかどうかについては何とも。向こうの事情もありますし」


今日も昨日となんら変わらず、シャナと悠二は学校に来ていた。
――その際、吉田がシャナに対して「負けないから」発言をしたり。
――吉田に少し心動かされた悠二に対し、シャナが不機嫌(という名のヤキモチ)になったり。
様々なラブコメ展開があったりしたのだが、それはまた別の話だ。


「ただ、正体は隠して置こうかと思ってますよ。その方が面白そうですしね♪」
「……真面目な話をしてるんだが」
「真面目な話ですよ。それに、もしあいつらが敵に回った時、俺の正体がバレてない方が都合がいいでしょう」


敵に回るなんてことは万に一つもないとは思うけれど。
それは今回の戦いでよくわかった。


「まぁ取り敢えず、気を抜き過ぎず、張り詰め過ぎずってことで」
「ああ、わかった。今回は役に立てなかったが、引き続き『素晴らしき青空の会』もキミに尽力しよう」


今後の方針を纏め終えて、奏夜と嶋は頷き合う。


「さて、と。一先ずは厄介な仕事も片付いたことだし、これから食事でもどうかね。恵くんと由利ちゃんも誘ってあるんだが」


嶋の申し出に、奏夜はばつの悪そうに「あー、すみません」と頬を掻く。


「これから野暮用があるんですよ」
「野暮用?」
「ええ」


奏夜は片手に下げたバイオリンケースを見せる。


「ちょっとそこまで、演奏をしにね」


◆◆◆


ひしゃげたドアを蹴り破ると、未だに瓦礫で埋まった屋上の景色。
嶋と別れ、フリアグネと戦ったビルの屋上に、奏夜は再び足を運んでいた。


「……なーんで俺はここに来ちゃうかなぁ」


誰に言うでもなく呟き、奏夜はケースを開け、中身を取り出す。
父の遺作にして、最高傑作――ブラッディローズ。
弓を弦に当て、奏夜の演奏が始まった。


美しい調べを奏でながら、奏夜は思う。


(やり方が違うだけで、俺とあいつは同じだったのかも知れない)


フリアグネや棺の織手と同じく、奏夜もかつて願った。
過程は違えど、その願いで得たかったものはただ一つ。


『大切な人の存在』。


一人は大切な存在との子を授かりたかった。
一人は大切な人に、確かな存在の力を与えたかった。
――そして、一人は大切な人を取り戻したかった。


時間を歪めてでも。


(……だからこそ)


奏夜はフリアグネの願いを止めようとしても、否定はしなかった。
ほんの少しだけわかっていたからだ。
大切な人を思う“どうしようもない気持ち”が。
――フリアグネがマリアンヌを想い、マリアンヌがフリアグネを想う“愛情”が。


いずれは、あのフレイムヘイズの少女も知るだろう。彼女が“ミステス”の少年に向ける感情が何なのか。
それが果たして、奏夜やフリアグネのような結末を迎えるのかどうかはわからない。


(俺に出来るのは、ただあいつらを選択の岐路に導くこと)


それが今の奏夜の仕事であり責務。
かつて誰かを愛した自分が、違う誰かの幸せを願うことは、なんら不自然なことではない。


――できるなら、あの“紅世の王”と“燐子”にも、幸せになってもらいたかったけれど。
その幸せを踏みにじった自分がそれを言うのは、図々しいだけだ。


『――ポロン♪』


弦を一本弾き、演奏を終えた奏夜は、夕暮れの空を見上げる。
捧げた調べは鎮魂歌。
もしかしたら、分かり合えたかも知れない二人に向けた、せめてもの贖罪。


「“狩人”フリアグネ、“燐子”マリアンヌ」


――ただ、せめて。





「輪廻転生の果てに、貴殿方の幸せがありますよう」
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  1. 2012/03/16(金) 10:17:47|
  2. 仮面ライダーキバ/BLAZING.BLOOD
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