紅蓮の牙

二次創作中心。仮面ライダーキバと灼眼のシャナのクロスを連載中。

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第二十二話・蒼天/空は我に在り.後篇


「もう夜明けですね……」


古城の一室。レティシアは天井のステンドグラスを見上げていた。
色彩豊かなガラスに光が差し、煌びやかな輝きが彼女に降り注ぐ。


この場所は好きだ。血生臭い出来事ばかりの中にあって、唯一心が安らぐ場所。


「世界は、こんなに美しいものを作れるのに」


私達は何と愚かしく、矮小なことか。
くだらない理由で互いに牽制し、争い、傷つけ合う。その中に安息の時など無い。


レティシアは自身もまた、そんな世界のシステムに組み込まれた存在だと自覚している。
所詮は自分も、己の願望の為に争っているだけなのだから。



(影のキングが愚かしいというのなら、私も同じなのでしょうね)


所詮、同じ穴の狢。しかし、それがどうした。


今更、自分の罪など数え切れはしない。
迷いは愚の骨頂。
目的の為ならば、そんな汚名も喜んで被ろう。


影のキングをもはや危惧する必要はない。注意すべきはやはり、フレイムヘイズと世界の破壊者か。


「大丈夫」


ライフエナジーを集め、キバの鎧を手に入れ、ようやくここまで来たのだ。
余計な邪魔を入れさせはしない。
祈りを捧げるかのように、首にかかったペンダントを握り締めるレティシア。


「待っていて。もう少し……もう少しだから」
「レティシア」


振り向くと、カラスの頭部を持つ異形――自分の宿願になくてはならない“徒”。カロンが立っていた。


「首尾の方は?」
「問題はやはりライフエナジーと存在の力じゃが……まぁ差し支えはなかろう。あとはぬしのキバがあれば、不足分に補えようて」
「そうですか。では」
「うむ、いよいよじゃ。儂が死者の王となり、ぬしは非情なる運命から、己の過去を奪い返す」


それぞれの望みを確認し、頷き合った二人。
しかし――いざという時に、余計な邪魔は入るものである。


「!」


カロンとレティシアはほぼ同時に、ここへ近付いてくる気配を感じ取った。


「……まったく、黙って見ておればよかろうに。往生際の悪いことじゃな」
「忌まわしきは、諦めの悪い人間の血ですね。カロン、私が行きますから、準備の方は任せましたよ」
「良いのか。ぬしが出向かずとも、守護の為の兵は配置しておろう?」
「別に彼を迎え撃つわけではありません。彼が来たところで、今更私達を止められるわけがないでしょう?」
「ならば、何をしにいくと?」


レティシアは肩を竦め、淡白な口調で答える。


「一応は、答えを聞いてあげようかと思いましてね」
「?」


疑問符を浮かべるカロンに、レティシアは苦笑する。
自分でも馬鹿げているとは思う。
こんなこと、本当は意味などないというのに。


「まぁ、所詮は与太話の類いですよ」


直ぐ戻ります。レティシアがローブを翻すと、細かな光の粒子が輝き、彼女の姿は掻き消えた。


「……」


カロンは彼女の消えた虚空をしばらく見つめ、ステンドグラスの部屋を後にした。


◆◆◆


「薄気味悪い森ねぇ……奏夜、普通に整備された道を通った方が良かったんじゃないの?」
「舗装された道の先は結界が張られてる。通れるのはこっちしかない」


森に轟くバイクのエンジン音。
写真館を出た奏夜とキバーラは目下、レティシアの魔皇力を感じ取った場所――町外れの森林地帯へやってきていた。


朝方だというのにも関わらず、光の差さない森は、キバーラの言う通り薄気味悪い。


「でも何で、この森しか結界が張られてないのかしら?」
「侵入経路を絞る為だろ。八方を防ごうとすれば、必ず無理が生じる。迎撃し易いポイントを敢えて用意するのも手だ。……ま、よっぽど腕に自信が無きゃできない策だがな」


実際、それだけの力はある。
カロンとかいう“徒”については分からないが、レティシアに関して言うなら、彼女の力はチェックメイトフォークラス。
Rキバーラさえも完封したのだから、そのポテンシャルの高さは認めざるを得まい。


(せめて『黄金のキバがあればいくらか違ったんだろうが……)


やはり夜中の内に、海東の荷物にガサ入れしておくべきだったか。
と、奏夜が今更な後悔をした時だった。


「!!」


マシンキバーが土を巻き上げながら止まり、奏夜は森林地帯を貫くように伸びる道の先を見る。
行く手を阻むように立つ、黒いローブに蒼眼蒼髪の女――レティシア・リネロと目が合った。


「貴方も相当往生際が悪いですね」
「お褒め戴き光栄だ、レティシア・リネロ」


台詞こそ軽口めいたものだったが、奏夜の表情は真剣そのものである。
このファンガイアに対し、一片たりとも油断できないのは、もう理解していた。


「答えは」


レティシアは問う。


「答えは……出ましたか?」
「……」


奏夜は言葉を発せなかった。
答えを提示しようと思えばできないことはない。
だが、考え抜いた結果に生まれた解答は、どれも味気ない定型文のようなもの。


そんなものでは、誰も納得などしない。
レティシアも――それこそ奏夜でさえも。


だから、奏夜は口を開かない。言わばこれは、記号選択式ではなく記述式なのだ。
問題の意を理解しなければ、部分点すら与えられない。


「……わからねぇよ」
「そうですか」


レティシアは感情の読めない口調で、短く返す。
呆れたとも、幻滅したとも取れた。


「お前には分かんのかよ。俺の望む理想が、果たして希望なのか絶望なのか」
「絶望だと――“私”は思います」


強い口調で言い切るレティシア。


「いかに貴方の思想が素晴らしかったとしても、百人中九十九人が貴方の思想に共感しても、私は認めません。
それが私の選んだ答え。選んだことで、いずれ報いを受けることになったとしても、この意志だけは奪わせない。
私は人間を憎み、私の願いの為に生きる。それだけです」


僅かな迷いも感じられなかった。
正しさも間違いも全て飲み込み、前に進む覚悟。
レティシアにはあって、今の奏夜にはないもの。
奏夜が――見失ってしまったもの。


(こいつは“本物”だ)


ある種の敗北感さえ、抱いてしまう。
――頼りなく立つ影の王。
既にレティシアの瞳からは、彼への興味が失われていた。


「答えを出せぬ貴方が、ここにいる資格はありません。今度こそ、転生の輪廻に沈めてあげましょう」


パチンとレティシアが指を鳴らした途端、上空や木々の影から、数多のファンガイアが姿を現す。
レティシアの揃えたアヴェンジャーの精鋭と、カロンの蘇らせた死者の軍勢だ。


「今の貴方など、私が手を下すまでもない。我が同胞よ、貴方達の好きになさい。私が許します」


――ウォォォッ!
覇気雄々と、ファンガイア達は己の持つ殺気を、容赦なくぶつけてくる。


「では、ご機嫌よう」


指をもう一鳴らしして、レティシアの姿は掻き消えた。
一抹の虚無感を覚えながらも、奏夜は戦いへと思考を切り替える。


「奏夜、この数いける?」
「やるっきゃねーだろ」


正直なところ、まだ本調子ではない。
回復率は全体のニ割。
精神はガタガタに揺れ、燃料供給がストップしたかのように、何の闘志も湧き上がってこない。


(――ソラトとティリエルが襲ってきた頃のマージョリーも、こんな最悪のコンディションだったんだろうな)


戦いへの矜持がまるで生まれない、というのは予想以上のハンディキャップだが、それでも『逃げる』という選択肢だけは浮かんでこなかった。


闘志を失っても――戦えないわけではないのだから。


「行くぞキバーラ」
「オッケイ!!」


ポケットから飛び出したキバーラが、奏夜の指先に噛み付く。


「か~ぷっ♪」
「――変身」


静かに唱えた奏夜を、スペード型の紅光が覆い、ステンドグラスとなって弾け飛ぶ。
不調を賭して光臨したRキバーラの姿は、それでもその凛々しさを失っていなかった。


「断罪の牙の下、転生の輪廻に沈めぇ!」


鼓舞するように叫び、手元の二刀剣を交差させるRキバーラ。
それを皮切りに、ファンガイアの群れはRキバーラへと襲いかかっていく――


◆◆◆


「なんで奏夜を一人で行かせたの!?」


机をばんっと叩くシャナ。傍らには彼女ほどではないが、険しい顔をした悠二もいる。
が、士は終始表情を変わらず、しかめっ面のままだ。


「ちょっと士くん、シャナちゃんと悠二くんの話聞いてるんですか?」
「あー、聞いてる聞いてる。やっぱりダヴィンチコードは映画より原作の方が……ってちょっと待て、わかった。冗談だから親指を立てながら近付いて来るな夏みかん」


夏海に笑いのツボ発動を示唆され、はぐらかそうとした士の目論見は失敗に終わる。


「真面目に答えて下さい。なんでみすみす奏夜さんを行かせたんですか。何故かユウスケまで出て行っちゃいましたし」
「そうですよ。先生はまだ怪我も治りきってないし、例えユウスケさんが着いていったとしても……」
「あいつ――奏夜は、誰かに命令されて足を止めるようなタイプじゃない」


悠二の言葉に被せる形で、士は自分の考えを述べる。


「むしろ、一度決めたら頑固に突っ走るタイプだ。お前らも分かってるだろ?」
「それは……」


反論しかけて、シャナは口を噤む。
確かに、奏夜はそういう性格だ。力もあるし、本気になれば誰も奏夜を止められないだろう。


「でも士さん! 今の先生はいつもの調子を取り戻せてません! このままじゃ、今度こそ大怪我じゃ済まないかも知れないじゃないですか!」
「だったらどうする。確かお前らは、奏夜がキバにならなきゃその気配を追えないんだろ? すぐに追い掛けたユウスケならいざ知らず、今更どこに行ったかなんてわかるかよ」


もっともな意見に、悠二も言葉を無くしてしまった。
事の発端であるレティシアの気配を探ろうにも、シャナの話によれば、彼女は魔術で気配を消しているらしく、奏夜や太牙クラスでなければ、その所在地を探ることはできない。


「大人しく、太牙かマージョリーとかいう女が来るのを待ってろ。……それに、奏夜にはユウスケもついてるだろうしな」


淡白な口調。しかしその台詞からは、士がユウスケに抱く信頼感が滲み出ていた。


「あいつはバカがつく程のお人好しだが、頼りにはなる」
「……あいつ――ユウスケって、そんなに強いの?」


ディケイドの強さを知るシャナからすれば、士が一目置くという時点で、その相手は凄まじい強さを持っていると思わざるを得なかった。


「ああ、あいつは強いよ。何より『心』が強い」


士はふっと笑って、


「俺を止める為に、究極の闇にまでなるような奴だからな」
「……?」


どういう意味。と問おうとしたのとほぼ同時に、写真館のドアが勢いよく開け放たれた。
館内の人間が肩を跳ね上げるのを後目に、名護、太牙、マージョリーの三人が入ってくる。
なにやら不穏な空気を感じ取ったマージョリーが、


「んー? なんかお取り込み中だったかしら」
「いや、別に何でもない。何かあったのか?」
「ああ、太牙が集めた情報を元に、連中の目的が見えてきたんだ」


名護の報告に館内がどよめく。
太牙がテーブルに抱えていた資料を広げ、全員の目をこちらに向けさせる。


「奴らの目的は、単なる殺戮じゃなかった。――誰もが願う、だが決して願ってはいけない望みの為に、人々を喰っていたんだ」


◆◆◆


『WAKE.UP!!』


キバーラのコールと共に、二本の剣が紅い光に包まれ、Rキバーラの背中から輝く両翼が顕現する。


「ウォォォォッ!!」


急降下から繰り出される斬撃『ソニックスタップ』が、ファンガイア数十体を薙ぎ払う。砕け散ったステンドグラスが視界に入るが、気にしている隙は無い。


――グルォォォッ!!


仲間の屍を踏み越え、新たに現れた数十体が、間髪入れずになだれ込んでくる。


「チィッ!!」


キバーラサーベルとザンバットソードを振り抜き、目の前の敵を斬り捨てていく。
だが、相手は一向に減る気配がない。


(クソッ、今何体倒した? あと、何体倒せばいい?)


連日の無理が祟ったのか、Rキバーラにも疲労の色が濃い。
剣技のキレも鈍ってきている。


「なかなかにしぶといな。影のキング」


軍勢を押し分け、一体のファンガイアが姿を現した。
外観はラットファンガイアと似ているが、外皮の一部がハリのように尖った亜種――スパイキーラットファンガイアである。
はっきりした言語を話したのを見ると、屍ではない。
アヴェンジャーの一派か。


「次の相手は、お前か?」
「そして、貴様の最後の相手になる」
「ほざいてろ!!」


Rキバーラの姿がぶれ、超高速の世界に消える。


(一撃で決める!)


同じスピードを持たない限り、Rキバーラは認知できない。
こちらが劣勢である以上、相手の力が発揮される前に潰すべき。
現状を鑑みれば、Rキバーラの判断は満点と言えるものだった。


――しかし、


「ぬうん!」


それは適わなかった。
突如、スパイキーラットファンガイアの外皮――突起状になっている毛皮が、全方位に張り巡らされたのである。


「なっ!」


これでは加速しても意味はない。
展開された防御膜は、Rキバーラの攻撃を阻み、彼の鎧の一部を貫く。


「全力を出せぬ身でこの力とは恐れ入る……しかし、ここまでだな」
「はっ、傲るなよ。その針だって、剣をぶつけ続けりゃいつかは壊れるぜ」


肩の傷を押さえながら、Rキバーラは魔皇力を再び高める。
また超加速を発動させる為だ。


「いや」


スパイキーラットファンガイアは動じず、薄く笑う。


「ここまでだ」


――スパイキーラットファンガイアがそう呟いたのと、Rキバーラの鎧に電光が走ったのがほぼ同時だった。


「が、あぁぁああぁぁぁ!!」
「じ、時間切れ……!? は、早く解除しなきゃ……!!」


聞くに耐えない絶叫を挙げるRキバーラのベルトから、キバーラが外れた。同時に鎧が弾け飛び、そのまま奏夜は地面に倒れる。


「ぐ、が……」
「きゃぷ~……」


奏夜は地を這いながら激痛に悶え、キバーラは目を回している。
だが、ファンガイア達はまだ動ける連中ばかりだ。


「だから言っただろう。終わりだと」
「て、てめえ、制限時間のこと知ってやがったのか……!!」


Rキバーラはキバと違い、魔皇力消費が激しく、変身時間は短い。
数で押しながら持久戦に持ち込み、確実に倒す。奏夜はスパイキーラットファンガイアの策にまんまと嵌っていたわけだ。


「レティシア様ほどではないが……我々にとっても貴様は憎むべき相手。悪いがその命、貰い受けるぞ」
『おい、俺達を忘れてくれるなよ。アヴェンジャー共』


不躾に聞こえてきた声。
見れば、Rキバーラの変身解除時、突き刺さったザンバットソードが輝き、ザンバットの中から、三体の異形――ガルル、バッシャー、ドッガが現れる。


「次狼、ラモン、力……」
「ここは任せて、お兄ちゃん」
「やす、んで、ろ」
「ほう、希少種族最後の生き残りか……面白い」


スパイキーラットファンガイアの合図に応え、新たな標的達をファンガイア達が取り囲む。
三人がいかに歴戦の戦士といえど、この数はさすがに厳しいだろう。


「ラモン、力。何体までいける?」
「さあね。ま、やるだけやるしかないんじゃない?」
「ぶっ、つぶ、す」


三人は劣勢にも動じぬまま、自らの主を傷付けた敵を睨む。
恐らく、全ての敵を倒すことはできない。だが、このままみすみす主を死なせては、従者の名折れ。


――何よりも、親友との約束を破ることになる。


全力を賭し、一体でも多くの敵を倒す。
その覚悟で挑まなければならない。


(俺もヤキが回ったな……)


ガルルが僅かに笑い、鋭い爪を立てる。
遂に来るか、とファンガイア側にも緊張が走った。
だから、理由を付けるならそのせいだろう。





誰もが、森に近付いてくるバイク音に気が付けなかったのは。





――ブォン!


重厚なバイクの叫びが森に轟く。
ファンガイア達を跳ね飛ばしながら、フロントに金色の装飾が施されたマシン――トライチェイサーが現れた。


「ハァッ!!」


バイクの乗り手は、アームズモンスター達の前で急停車。ウィリー走行の要領で前輪を上げ、そのまま後輪を支点に、バイクを一回転させる。
車体がヒットし、ファンガイアの何体かが吹っ飛ばされた。


乗り手はバイクから降り、無造作にヘルメットを取り、奏夜の方を見やる。


「ごめん奏夜。遅くなった」


ヘルメットの下には、小野寺ユウスケの屈託の無い笑顔があった。


「ユ、ユウスケ? お前、何で、どうしてここに……?」
「助けにきた。それだけじゃダメか?」


戸惑う奏夜にそう告げ、ユウスケは、打って変わって険しい顔つきでスパイキーラットファンガイアを睨む。


「随分好き勝手してくれたみたいだな。ファンガイア」
「……ふん、人間か。この結界に入ってきた以上、ただの人間ではないようだが……まぁいい。侵入者は侵入者、偽物の王を片付ける前に、貴様を始末してやろう」
「……奏夜が偽物だと?」


反応したユウスケに、スパイキーラットファンガイアは、高らかに宣言する。


「そうだ!! あと少し……あと少しでレティシア様は、王をも超える力を手に入れる。人間は駆逐され、ファンガイアの新たな時代が始まるのだ!!
そうなれば、そこにいる王は、偽物へと成り下がるのだよ!」
「……そうか。なら、お前のご主人様は、王にはなれないよ」


ユウスケは一片の躊躇もなく言い放った。勿論、スパイキーラットファンガイアも黙ってはいない。


「何……? 貴様、レティシア様を侮辱する気か!?」


憤怒の感情にも気圧されず、ユウスケは奏夜を一瞬だけ振り返り、強い眼差しでスパイキーラットファンガイアに啖呵を切る。




「人間とファンガイアがいがみ合うのを望む王なんか間違ってる!
――俺が認める王は、奏夜だ!」




「!」


胸が熱くなるのがわかった。何故ならユウスケの台詞は、今奏夜が最も欲しかった言葉だったから。


ユウスケは、認めてくれているのか。
――自分が、王だと 。


ユウスケは変身の前段階として、腹部を覆うように手を当てる。


「遅いッ!」


しかし、アークルが出現するよりも早く、一瞬で距離を詰めてきたスパイキーラットファンガイアに首を掴まれ、木へ打ち付けられる。


「ぐっ!?」
「ユウスケ!?」


奏夜が声を挙げる。


「次狼、ユウスケを!!」
「分かっている!」


主の命を一瞬で察し、アームズモンスター達が早々に動くものの、敵はスパイキーラットファンガイアだけではない。
幾多のファンガイア達が、三人の行く手を阻む。


「もうっ、邪魔しないでよ! ――ぷっ!!」
「フンガッ!!」


ガルルの爪、バッシャーの水球、ドッガの剛腕が次々とファンガイアを消していくが、ユウスケの元に辿り着くには、まだ時間がかかる。


「くっ、キバーラ……! 変身は、まだ出来ないのか?」
「む、無理……。あと三十分は待たないと……」


舌打ちし、奏夜はふらふらの身体を気力だけで立たせ、スパイキーラットファンガイアとユウスケの方へ足を進めていく。
幸いにも、雑兵のファンガイアはガルル達を相手にしている。危険は少ない。


満身創痍の自分に何が出来るのかという疑問は、既に存在していなかった。


「馬鹿なヤツだ……あのような王の為に命を捨てるのか?」
「が、うっ……!!」


首を掴む力を緩めず、スパイキーラットファンガイアは彼に哀れみの言葉を投げかける。


「人とファンガイアがいがみ合うのは間違いだと言ったな……。だが、実際はどうだ? ファンガイアに虐げられた人間。我々のように、人間に虐げられたファンガイア達。『共存』などという道を選んだが為に、行き場を無くした者も数多くいる」


ユウスケの言葉で生まれた熱さが一瞬で消し飛び、奏夜はまた、胸を刺す痛みに苛まれる。


「人間とファンガイアは、所詮相容れぬ種族だ。
我々は最初から、どちらかがどちらか一方を支配するしか道は無い!!」
「がっ!!」


ユウスケはスパイキーラットファンガイアに勢いよく放り投げ、そのまま土を巻き上げながら地面に叩き付けられた。


「ファンガイアは人間を貪り尽くし、人間はファンガイアを恐れる。そこにあるのは殺し合いしかない!!
共存をなど、現実の見えていない綺麗事に過ぎんのだ!!」


ぐらり。
奏夜は、自分の意思が暗転仕掛けるのを感じた。
唇を血が出るまで噛み締め、意識をつなぎ止める。
しかし、痛みは止まらない。
ずきずきと、奏夜を内側から壊していく。


頑張ってきたつもりだった。
誰も不幸にならないよう、努力してきたつもりだった。
でも事実、奏夜が作った世界を望まないものがいる。
そればかりか今目の前で、ユウスケやガルル達も、奏夜への憎しみに巻き込まれ、傷ついている。


(きれい、ごと……)


その言葉だけが反芻される。
自分の理想は結局、何も解決しない、新しい怨磋を生むだけだったのだろうか。
誰も幸せに出来ないのだろうか。


脳が思考を止め、痛みでさえも薄れていく。
姿の見えない何かが、奏夜を暗闇へ引き込んで――





「……綺麗事の」





奏夜は一気に、現実へと引き戻された。
小さく、しかし何故かよく聞こえる声を漏らし、ユウスケは立ち上がったのである。


スパイキーラットファンガイアが怪訝そうに彼を見る中、ユウスケは自分の感情を爆発させた。





「綺麗事の何が悪いんだよ!!」





ここにもし、士や夏海がいたのなら、さぞ驚いたことだろう。
その時、ユウスケが発したあまりに鋭い語調は、長い付き合いの彼らでさえ、数えるほどしか聞いたことがないであろう力強さを持っていたからだ。


「奏夜の言っていることは、確かに綺麗事なのかもしれない。酷い現実ばかりの世界で、それを叶えるのは絶対に無理なのかもしれない」


事実、現実は酷いことばかりだ。
守ると誓った人を失うこともある。
自分を助けてくれた親友と、世界のために戦わなければならないこともある。


「でも、それの何がいけないんだ!? 人間もファンガイアも関係ない、みんなが笑顔でいられる世界を願って何がダメなんだよ!
酷い現実のせいで誰かの涙が流れるなら、誰も泣かない綺麗事を現実にしなきゃいけないんじゃないのか!?」


ユウスケの言葉の一つ一つが聖なる泉となって、傷付いた心に降り注いでくるようだった。
呆然とする奏夜を庇うように立ち、ユウスケは言う。


――かつて、無二の親友が自分にかけてくれた言葉を。





「奏夜が誰かの笑顔を守るなら、俺も一緒に守る!! みんなの笑顔も、奏夜の笑顔も!!」





響き渡る声を聞きながら、奏夜はずっと、前に立つ青年の背中に目を奪われていた。
見た目よりも、遥かに大きく見える背中。
まるで、浄も不浄も選ばず全てを包み込み、太陽の温かさを与える――偉大な青空だ。


高ぶったユウスケの魂に呼応するかの如く、彼の腰に銀色に輝くベルト――『アークル』が現れる。


突き出した右手をスライドさせながら、ユウスケは叫んだ。




「変身ッ!!」




スライドさせた右手を、左手と共にベルト右側へと押し込む。
希望の霊石『アマダム』が真紅に輝き、ユウスケの身体を変えていく。


甲殻を思わせる赤いプロテクター。
雄々しく伸びる黄金の二本角。
プロテクターと同じ真紅の瞳は、燃える炎の如く輝いていた。


「なっ!? 貴様、何だその姿は……何者だ!?」
「仮面ライダー……クウガ!!」


――邪悪なる者あらば、希望の霊石を身につけ、炎の如く邪悪を打ち倒す戦士あり。


超古代の能力を宿した戦士、仮面ライダークウガは拳を握り締め、戦場に降り立った。
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  1. 2012/05/31(木) 10:59:55|
  2. 仮面ライダーキバ/BLAZING.BLOOD
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