紅蓮の牙

二次創作中心。仮面ライダーキバと灼眼のシャナのクロスを連載中。

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第二十二話・蒼天/空は我に在り.前篇


「……またこんなパターンか」


目を覚ました奏夜を待っていたのは、身体中を襲う痛みと、見慣れない天井だった。


「……何処だろ。ここ」


少なくとも病院ではなさそうだ。
あちこちに包帯が巻かれた身体を叱咤し、奏夜は上半身を起こす。
周囲を見渡すと、自宅に少し似た作りだが、部屋のレイアウトはまるで違っている。


「えっと……」


何がどうして自分はこんな怪我をし、見知らぬ部屋に横たわっていたのか。


(門矢のとこから出て、あのレティシアってファンガイアが来て、戦って、負けて、シャナ達が来て……)


俺が今までしてきたことを、真っ向から否定されて。


「……」


胃の中に、澱んだ何かが重々しく沈殿していく。
物理的なそれとは違う痛みに、奏夜は再び上半身を倒した。


今まで見えていた道が、いきなり崩れ落ちてしまったような、明確な道標を失ったような不安。
奏夜を苦しめるのはそれだった。
目を閉じれば、すぐレティシアの言葉が浮かんでくる。


――共存などと下らない絵空事を掲げた連中に、私の痛みが分かるものか!!


「あそこまで否定されると、流石にこたえるよな……」


何も言い返せないのだから、余計に苦しみは増す。


レティシアの痛みは――とても身近に感じる痛みだ。
だからこそ否定は出来ないし、彼女が選んだ道も理解できる。
そして彼女の道が、自分の道にとって強大な障壁となることも。


――貴方の理想は果たして、本当に人間とファンガイアを幸せに出来るものなのですか?


「……わからねぇよ」


これは模範解答が存在しない問題だ。
賛成率100%の政策は存在しない。
誰かが幸せになるということは、必ず誰かが不幸せになるという意味でもある。


レティシアが正にそうだ。
レティシアに限らず、誰か一人でも不幸せになれば――それは奏夜の理想とは違う。


(分かってたはず……なんだけどな)


みんなを幸せにすることが、限りなく不可能に近くても、そうあるように努力しなければ、本当に望みは閉ざされてしまう。


――だから頑張ってみよう。がむしゃらでも何でもいいから、誰も不幸にさせないようにしよう。


そうやって、自分にできることをしてきたつもりだった。
しかしレティシアの凄惨な過去が、『現実』という形で奏夜にのしかかってきたのである。


(結局は、綺麗事なのか?)


倦怠感に包まれた動作で、蛍光灯の光に手を翳す。




「俺は、間違ってるのかな」




――がちゃり。


「!」


虚を突いて開いた扉に、奏夜は肩を跳ね上げた。


「あ! 気が付いたんですね」


入ってきたのは、氷枕を抱えたユウスケだった。


「良かった良かった。結構危なかったんですよ? 傷もかなり深かったし」
「ユウスケ……ここは何処だ? あれからどのくらい寝てた?」
「光写真館の二階ですよ。今はちょうど、1日経った後の夜ですね。
あ、まだ身体起こしちゃ駄目ですよ。ハーフファンガイアでも、一週間は安静にしてなきゃって話ですから」


言いながら、パッパッと氷枕を代えていくユウスケ。
手際の良いヤツだな、と奏夜は思った。


「……お前が、ここまで運んでくれたんだよな。ありがとよ、これで二回も助けられた」
「気にしない気にしない。困った時はお互い様ですって」


ユウスケは屈託の笑顔を浮かべる。
やや気落ちしている奏夜は、その笑顔に応えないまま、ユウスケに問う。


「キバーラは、無事だったか?」
「大丈夫。怪我はしてますけど、奏夜さんと比べればずっと軽傷です。明日には治りますよ」


良かった。
奏夜は胸を撫で下ろす。
自分に付き合わせて、一緒に大怪我を負わせてしまっては洒落にならない。


「あれから奏夜さんが眠った後……」
「奏夜でいいよ。あと敬語もいらない」
「えっ、でも……」
「気にすんなよ。見たとこ、歳も変わらねーだろ」
「そう? えっと、じゃあ奏夜が眠った後の話なんだけど、士やシャナちゃんが中心になって、今後の方針を決めたんだ」


――あの後、レティシアがディケイドから逃げおおせたとほぼ同時刻に、“冥夜の船頭”カロンも、サガとマージョリーの前から姿を消した。


『貴様らに裂く力はあまり持ち合わせておらんでな、とか言いながら、屍を盾にしてすたこら逃げてったわ。あのカラス爺』


とは、獲物を逃がして不満そうにするマージョリーの談。


その後、全員の聞いた情報を踏まえ、太牙の指揮下にあるファンガイア達を、御崎市全域の巡回に当てて犠牲者を減らし、相手の出方を見るということになった。


太牙は、ファンガイア側への手回しの為にD&Pへ戻り、名護とマージョリーは吉田、田中、佐藤を送り届け、彼ら三人の護衛についているらしい。
彼らは事情を知りすぎている為、狙われる危険性が高いと判断された為だ。


「一美ちゃんも、栄太くんも、啓作くんも、去り際までずっと奏夜を心配してたぜ」
「そっか……」


ばつが悪そうに頬を掻く奏夜。
生徒に心配されているようでは、教師の名折れである。


「シャナと悠二は?」
「士達と一緒に一階にいるよ。俺達の中じゃ、奏夜が一番狙われやすそうだから、護衛の意味も兼ねてるんだって」
「……迷惑かけてばっかりだな、俺」


気分は重くなるばかりだ。
ユウスケから視線を外し、ぼんやりと天井を見つめる。
突っ走った挙げ句、この体たらく。笑い話――いや、もう笑うことすらできない。


奏夜は暗い表情を見て、ユウスケは、


「なぁ。何か俺にできることってある?」
「……?」


奏夜はユウスケの方に顔をもたげた。


「あのファンガイアが最後に言ってたんだ。あんたの理想は綺麗事だって。何か、あいつに言われたから悩んでるんだろ?」
「……」
「話したくないなら話さなくていいし、話したいならいくらでも話を聞くよ。俺は俺にできることをやりたい。だから、俺に何かできることがあるなら、何でも言ってくれ」


ユウスケの目は真剣そのものだった。
何故そんなにも自分を気遣うのかは分からなかったが、これが彼の優しさなのは、奏夜にも伝わってきた。


――が、ユウスケの言葉にも、奏夜は表情を変えられなかった。
気落ちした奏夜の心が欲するものは、条件反射の如く口から飛び出す。


「そうだな……。じゃあ爆笑必至のジョークを一つ」
「ハードル高ッ!?」
「はい。3、2、1、スタート」
「え、えーっと、宿に止まったグレースとマイケルが、食堂で肉料理を注文すると……」
「ありがとう。もういいや」
「いや、せめて最後まで聞いて!? 自分でもつまんないかもって予感はあったけど!!」
「肉料理か……そういえば腹が減ったな。何かない?」
「本筋と関係ない部分に食らいついた!!」


ブルーな奏夜は扱いづらかった。
食べ物など用意していないユウスケは慌てて、ジャケットのポケットを漁る。


「……あ」


そんな中、ユウスケが見つけたのは、ある意味“キバである奏夜”へ渡すに相応しいものだった。


「こんなもんしかないけど」
「棒付きアメ?」
「昔、ある世界で出会った友達の好物なんだ。あれ以来、癖で持ち歩いててさ」
「……誰か知らないけど、ガキみたいなヤツだな。その友達」


いや、実際にワタルはちびっ子だったんだけど。というユウスケの心境など露知らず、奏夜は棒付きアメを口元に運ぶ。


「甘い」
「そりゃ良かった」


オレンジ味を舌で楽しみながら、奏夜はぽつぽつと語り出す。


「なぁユウスケ」
「何?」
「さっき、話したいなら話を聞くって言ったよな」
「? ああ」


奏夜は何故か、言葉を紡ぐのに躊躇いを覚えなかった。
まるで昔から知っていたような、違う世界で出会いでもしたかのような、奇妙な安心感をユウスケから感じていたからかも知れない。


「じゃあさ、ちょっと俺の下らない話を聞いてくれよ」


◆◆◆


「ねぇ」


写真の現像作業をしていた士に、背中から声がかかる。
手を止め、士が振り返ると、泊まり込みで奏夜の護衛についたフレイムヘイズ――シャナの姿があった。


「何か用か? ちびっ子はもう夕飯の時間だぜ」
「子供扱いしないで。お前に聞きたいことがあるの」


シャナはじっと、自分を睨むように見つめてくる。
本当なら話したくもない。とでも言いたげな眼孔だ。


「……ふん、まぁいい。ちょうど作業も一段落したところだ」
「お前。奏夜のこと、何か知ってるの?」
「意味が何重にも取れるな。具体的に言えよ、赤チビ」


シャナの額に青筋が浮かんだが、ここは自重すべきと思ったのか、大人しく質問を変える。


「私が怒鳴った時、お前言ってたわよね」


――成る程、そういうことか。面倒くさいヤツだ。


「……キバットを盗られてから、奏夜はどんどんおかしくなってる。
仲間をいいようにされているからってだけじゃ、説明がつかないくらいに」


士への態度が正にそれだ。
普段の奏夜には、良くも悪くも余裕がある。それは彼の強みであり、戦いにおいて冷静な判断力にも繋がる。
だが今の奏夜は、戦いどころか、他人に気を配る余裕すら無くなっている。
それは、悪い結果にしか繋がらない。


「だから、何か思い当たったなら、教えて欲しい」
「心配なのか? あいつが」


シャナは沈黙を持ってそれに答えた。
すなわち肯定である。


「――俺は今まで、多くの仮面ライダーに会った」


士は手近にあったアルバムを開く。
今まで巡った世界で、彼の写した写真の数々が収められているものだ。


「世界が変わればライダーも変わる。姿形からその資格者までな。が、ただ一つだけ、どこの世界のライダーでも変わらなかったものがある」
「変わらなかったもの?」
「戦う理由――常に誰かを助ける為に戦うってことだ」


多少の違いはあれど、全てはそこに直結していた。
最後にはそれぞれの世界を守る為、互いに戦うことにまでなったのだから。


「あいつも仮面ライダーなら、誰かを守る為に戦ってるハズだ。そんなヤツが、他人を遠ざけているんだとしたら、そこに何のメリットがあると思う?」


シャナの脳裏に、今までの奏夜の姿が浮かぶ。
思いのほか、その答えは早く導き出された。


「……他人を巻き込みたくないから?」
「正解」


士は笑い、アルバムのページを進めていく。


「あのレティシアとかいうファンガイアは、俺からみても中々の敵だ。キバまで盗られりゃ、いよいよ危険度は増す。自分の落ち度で敵を強くして、誰かが傷付かせたくないんだろうよ。
……わざわざ、会ったばかりの俺にまで気を使ってな」


シャナも今なら分かる。
思えば奏夜が、士に一番剣呑な態度を取ったのは、士が奏夜に協力を持ち掛けた時だ。
あれは、出会ったばかりの士達を、自分のせいで傷つかせたくなかったのだろう。


「要するに、あいつは変な所で不器用なんだ。他の世界のキバと同じようにな」


本当に面倒くさいヤツだ。と士は繰り返す。シャナは浮かない顔で口を開く。


「奏夜は、大丈夫だと思う?」


ああ見えて、奏夜は頑なだ。シャナ達が何度言おうが、協力を求めたりはしないだろう。


「また、無茶なことをしてしまうかも」
「さあな。結局はあいつ次第だが……まぁ多分、問題ないだろう」
「どうして?」
「あいつが無茶しても、お前達が止めるだろ」


急な言葉。
呆気にとられたシャナを、士は指差す。


「お前が俺を怒鳴った時、奏夜とそれくらいの信頼関係は築いてると思ったんだが?」


淡白な口調は変わらない。
しかし、シャナはその士の言葉から、僅かに柔らかさを感じたように思えた。


「……お前も、奏夜を不器用って言えないと思う」
「どういう意味だよ」
「別に」


不機嫌そうに口を尖らせた士を見て、シャナは僅かに笑う。
まだわだかまりが溶けた訳では無いが、シャナは少しだけ、士への認識を改めた。


「奏夜が起きたら、また話を纏めましょう。邪魔したわね」
「まったくだ。神聖な現像室へ勝手に入ってくるな」


シャナが部屋から出て行くのを見送り、士はアルバムを片付けながら呟く。


「そう……。あいつらが奏夜を信頼しているように、奏夜もあいつらを信頼している」


――しかし、もしそうなら、シャナに話した理由では、説明がつかない。


「分からない。紅奏夜……お前は何を考えている?」


◆◆◆


一方、シャナと共に泊まり込みの護衛についている悠二は、


「シャナ~? ……はぁ、どこ行ったんだか」


シャナを探し、写真館をうろうろしていた彼は、溜め息をつきながら、撮影用のカーテンロールのある居間に戻ってくる。
手近にあるテーブルにつこうとするが、そこには先客がいた。


「やぁ、“ミステス”くんじゃないか」
「……海東さん」


気さくな海東に対し、悠二はやや固い声だ。
彼がシャナの刀を狙ったことを考慮すれば、当然のことだが。


「『炎髪灼眼の討ち手』なら現像室だよ。何か用でもあるのかい?」
「いえ、これといって特別な用は無いんですけど」


海東は「そう」と短く相槌を打ち、悠二から目線を外す。


「海東さんは、何やってるんですか?」
「ん? お宝の手入れだよ。すぐ壊れるようなショボいお宝を集めてるつもりはないけど、どうしても埃とかは溜まるからね」


意外に几帳面な性格のようだ。
清掃用の布を動かす海東の前――円形のテーブルには、確かに悠二が見たこともない物品が置かれていた。


「突っ立ってないで座れば? せっかくだから、僕のお宝を見ていたまえ。ただし、手は触れないでくれよ」
「はぁ……」


お宝至上主義な言動に、なんとなくフリアグネを思い出しながら、悠二は席につく。
そのまま海東に促された通り、彼のお宝を眺める。


(確かに、これは『お宝』かも)


それが悠二の感想だった。
彼には理解不能なものばかりだったが、その『わからなさ』に、興味をそそられる。


携帯電話と一体になったベルト。
豪華な宝石が散りばめられた黄金のピストル。
奇妙なアルファベットが描かれたUSBメモリ。
動物の刻まれた赤と金のメダル。
そして、何故か何の変哲もないコショウ。


「このコショウは何ですか?」
「コショウとは失礼な。士から貰ったお宝でね。大航海時代、かのバスコ・ダ・ガマが命がけで捜し求め、金と同じ値段で取引されたという伝説のスパイスさ」」


ぜってー嘘だ。


悠二は即座にそう判断したが、得意気な顔をする海東を見た途端、真実を語る気が削がれてしまった。
世の中、優しい嘘を信じさせたままの方がいい時もある。


(そう言えば……)


ふと悠二は、宝の山の中から“あるもの”を探そうとする。


「断っておくけど、あのキバが探してるお宝は別で保管してるから」


悠二の意図を見透かした海東が先手を打つ。


「言ったろ。同じ価値のお宝がなければ、魔皇竜は返さないって。なんなら、キミの中身を差し出すかい?」
「……さすがにそれは出来ませんけど」


零時迷子を取り出されることは、坂井悠二消滅を意味するのだから、当たり前だ。さして期待はしていなかったのか、すぐ作業に戻った海東に、悠二は問う。


「貴方は先生から何を盗んだんですか?」


奏夜のあの様子じゃ、相当大切なもののようだったが。


「魔皇竜と呼ばれるドラン族の子供だよ。キバの鎧を最終覚醒(ファイナルウェイクアップ)させる存在さ」
「魔皇竜……」


今聞いた役割からすれば、その魔皇竜もキバットや次狼達と同じ、自分達と出会う前からの大切な仲間ということだろう。


「じゃあ、尚更返してください」
「やだよ。何度も言わせないでくれたまえ」
「っ、何でですか! 仲間を失えば誰だって辛い! あなたにも仲間がいるなら、それは分かる筈でしょう!?」


あんまりな言い草に声を荒げた悠二に、海東は一瞥をくれる。


「……仲間、ねぇ」


独り言のように呟く海東。悠二の怒りには微塵も威圧されていないようだ。


「キミの言う仲間が士達のことを言っているなら、それは少し違うな」
「えっ?」
「いや、キミ達の言う仲間とは違うってとこか」


海東は机に頬杖をつく。


「僕にとっては、仲間もお宝の一つなんだよ」
「仲間が、宝?」
「ああ。ただ、これがまた価値の判断しづらい代物でね。士はしょっちゅう口にするんだけど、仲間が一体どういう意味を持ち、何を与えてくれるのか、僕には分からないんだ」


冗談を言っているようには聞こえなかった。
今までのフラットな口調とは打って変わって、海東の声は明らかに本気の感情が籠もっている。


「要するにさ、僕はまだよく分からないんだよ。仲間ってヤツがどんなお宝なのか。僕はそれを知る為に、士達に引っ付いてるってワケ。
ほら、キミ達の言う仲間とは違うだろ?」


もはや悠二は絶句していた。
仲間をお宝を定義するのもそうだが、何より海東の考え方そのものが、明らかに常識を逸脱していた。


(ああ、そうか)


ようやく理解した。
海東大樹は、あまりに特殊な価値観を持った人間であり、シャナや悠二とは明らかに違うのだと。


だが、


「あまり、深く考えなくてもいいんじゃないですか?」
「えっ?」


悠二は躊躇いがちに口を開いた。


「仲間の意味なんて、人それぞれ違いますよ。海東さんが『仲間ってこういうものなんだ』って思えば、それが答えです」
「……答えを決めるのは、僕自身ってことかい?」
「はい。仲間の意味が分かれば、仲間を失う気持ちだって分かる筈です。僕達からすれば、海東さんと士さん達は、もう十分仲間だと思いますけどね」
「ふむ……」


また思案顔になる海東。深い思考の海へ入り込んでしまったようだ。


(僕が説得できるのは、ここまでかな)


海東がちゃんと、奏夜の友達を返してくれるといいのだが。
自分の手で奪い返す力の無い悠二にできる、これが最大限の努力だった。


席を立ち、部屋から出ようとする悠二に、


「キミにとってのお宝は“炎髪灼眼の討ち手”なのかい?」
「は?」


海東は予想外の質問を投げかけた。


「違うのか? てっきり恋仲か何かかと思ってたけど」
「こっ……!!」


最初は反応が鈍かった悠二だったが、海東の言葉にどんどん顔が赤くなっていく。
――海東としては、自分に『仲間』の意味を教えようとした少年に興味を持っただけで、特に他意は無いのだが。


「それとも吉田って女の子の方? 他の友達と比べれば随分親しげだったけど」
「い、いや、あの、二人は、そういう話とはまた別で」
「別? それなら一体……」
「し、しし失礼します!!」


追求を恐れた悠二は、顔を染め上げたまま、居間から逃走した。


「何なんだ?」


自分のせいだという意識は一切無いまま、海東はお宝の乗ったテーブルに目線を戻す。


「……仲間の意味は人によって違う、か。そうかも知れないな」


海東は足元の鞄から、鎖の描かれた小箱を取り出す。


「他人にとってはガラクタでも、人によってはそれが『お宝』だってこともあるしね」


小箱の中にあった“黄金のフエッスル”を撫でながら、海東はぼやいた。


◆◆◆


そして、全員が寝静まった夜中。


「……ダメだ」


小野寺ユウスケは寝付けずにいた。
原因は分かっている。先程、奏夜から聞いた話のせいだ。


――彼を悩ませている、答えのない問題。
奏夜は「聞くだけでいい」と前置きしてくれたが、いずれにしても、ユウスケが明確な答えを出すことは不可能だっただろう。


結局はユウスケも、奏夜と同じ深みに嵌ってしまったわけである。


「俺も……って言うか、誰にも答えられないだろ。こんな質問」


言い方を変えれば、結局は奏夜の気持ち次第という話だが、そこで納得できないのが小野寺ユウスケという男だ。


友を止める為、『究極の闇』にまでなった彼のこと。目の前で困っている人間を放っておける筈がなかった。


(あー、でもそれだけじゃないんだろうな―)


単純な自分に苦笑いを浮かべるユウスケ。
奏夜を助けたいと思うのは、自分の性分だけでなく、どこかで――。




――ブオンッ!!




「わっ!」


突然の音にユウスケは跳ね起きた。
一階から聞こえてきた音は、なるべく大音量にならないようにしているようだが、どう聞いてもバイクのアクセル音。


「……まさか」


ユウスケは嫌な予感がした。
他の人を起こさないよう、しかし出来る限り早足で、隣の奏夜が寝ている部屋へ。


扉を開けると、心地の良い夜風が通り抜ける。
しかし、ユウスケにそんな心地良さを感じる隙は無い。


――部屋のベッドは蛻の殻。近くの開け放たれた窓から流れる風が、カーテンを靡かせていた。


◆◆◆


「身体は……ま、全快時の二割ってとこか?」
「そんなんで大丈夫なの?」
「何とかなるだろ。それよかキバーラ、お前の方こそ大丈夫なのか?」
「奏夜よりは大丈夫よ。もう怪我も治ったし。それに最初、キバの鎧を取り返すまで付き合えって言ったのは奏夜じゃない」
「……悪いな」
「気にしてないわ」


キバーラをポケットに隠し、奏夜はマシンキバーのアクセルを入れようとする。


「こんな夜中にお出かけとは、有明の海でも見に行くのか?」


と、夜の静寂を突然の声が破る。
気が付けば、いつの間にか光写真館の表札の柱に、誰であろう、門矢士が寄りかかっていた。


「……バレねーように気は払ったんだがな」
「俺は人の気配を探ることにおいても、頂点に立つ男だ」


その言葉の意味はわからないが、とにかく凄いのは分かった。


「分かってるだろうが、止めても無駄だぞ。それに、お前の手は借り……」
「俺達やお前の生徒達を巻き込まないように、か?」
「……そこまで分かってるなら」
「ああ、俺も止めるつもりはない。そうする義理も義務も無いしな」


士は眠そうに欠伸をする。
……まさか奏夜が抜け出すのを予想し、出るタイミングを待つ為にずっと眠気と戦っていたのだろうか。


「だが、本当にそれだけなのか?」
「? 何がだよ」


士は表情を変えないまま、何の前置きも無く言い放つ。





「俺達やあいつらを巻き込みたくない理由は、本当にそれだけなのか?」





「………………」


閉口した奏夜の顔に 、感情の色はなかった。
シャナ達がみたらさぞ驚いたであろう――あまりに虚ろな顔だった。
しばらくして、奏夜は士から目線を外す。


「何の話だ? これはあくまで俺の落ち度で、お前らは何も……」
「とぼけるな」


奏夜の声が揺らいだのを見て、士は畳み掛けるように言う。


「お前の生徒達と話せば、お前達が本当に信頼し合っているのは分かる。その信頼する相手を、自分のいざこざに巻き込みたくないって気持ちに、嘘は無いんだろう」


奏夜は無表情のまま、ただ黙って士の言葉を聞いていた。


「だが、お前がそこまで仲間を思いやれるヤツなら、本当の信頼がどういうものか分かっているハズだ。一人で突っ走ってお前が傷付けば、仲間も同じだけ傷付くってこともな。
多分、普段のお前なら、仲間を信じて、一緒にキバットを取り返そうとするんじゃないか?」


持論を展開していく士に、奏夜は段々と無表情だったその顔を曇らせていく。
だが、無論士は止まらない。


「お前にはまだ、何か隠してることがある。何か、あいつらに知られてはならない秘密がな。敢えて予想するなら」


親友だってこと以外にも、早くキバットを取り返さなきゃならない事情がある、とか。


「………んー」


奏夜は士の問いには答えず、困ったようにそう呟く。
首を変に曲げたり、あらぬ方向に目線を向けたり、身体をゆらゆら揺らしたりと、奇妙な動揺の仕草を繰り返し、


「参ったねこれは」


奏夜は薄く笑った。
笑みを作るだけの余裕はあるようだが、困惑した雰囲気は消えていなかった。


「本当に変なヤツだな。お前」
「お前に言われたかねぇよ」
「あはは。そりゃそうだ」


マシンキバーを止めて機体から降り、奏夜は士に向き直る。


「さて、お前は誤魔化せないだろうし、聞きたきゃ聞かせてやるが……シャナや悠二に言わないでくれよ?」
「ああ、そんなつもりはない」


士としてはあくまで、気付いてしまったから聞く、程度の興味だ。
奏夜に不都合があるなら、シャナ達に話す気は皆無である。


「門矢。確かお前は、二つのキバの世界を巡ったらしいな」
「ああ、そうだ」
「その世界のどちらかで、ハーフファンガイアにも会ったか?」
「勿論。まぁ、あの世界でハーフファンガイアは、キバの資格者くらいのものだったがな」
「……つまり、二人だけか」


――しかし、すぐ士は後悔することになる。
興味本位で奏夜の――奏夜の抱える『爆弾』の話を聞いてしまったことに。


「門矢、ここで一つクイズだ」





なんでハーフファンガイアは、数が少ないんだと思う?





含みを持たせた奏夜の問いに、士は何の気なしに答える。


「昔から、人間とファンガイアが交わるのが禁忌だからじゃないのか?」
「50点だな。確かにその掟のせいもあるだろう。けど、お前の巡った二つのキバの世界では、人間とファンガイアの共存が果たされてたんだろ?
ならもう少し、ハーフファンガイアが増えていてもいいんじゃないか?」
「それは……」


言われてみれば、確かにそうだ。
単純に、偶然出会ってないだけという話かも知れないが、そんな偶然が果たして成り立つだろうか。


「時間切れだな。では正解発表」


士の思案顔に満足しながら、奏夜は笑顔で言い放つ。


――そう、“笑顔”で。





「ハーフファンガイアには、“時間”が無いからだよ」





◆◆◆


「――とまぁ、そういうわけ。理解したか?」
「………」


すべてを聞き、士は言葉を失った。


有り得ない。
奏夜の行動の全ては、まさに生命の暴走だった。
自らの全てを燃やし尽くし、その先のゴールが決して救いではないと分かっていながら、尚も進む。


――かつては士も似たようなことをした。世界を蘇らせる為、ただ一人だけで歩む道を選び、孤独にライダーを倒し続けた。
だが、そんな士でさえも、奏夜の生き方には、畏敬の念を抱かざるを得なかった。


「何故だ」


耐え切れず、士はバイクに戻ろうとする奏夜に問う。


「そんな運命に縛られて、お前は何故先に進もうと思える? お前は、自分を待つ未来が怖くないのか?」
「……怖いよ。怖くて仕方ない」


今だって、レティシアにもう一度会うのを考えただけで、足が竦んでしまう。


「でも、俺は止まれないんだ」


まだ、レティシアの問いへの答えは出ていない。
結局、いくら考えても分からなかった。
しかし――例えが出なくとも、立ち止まることだけは許されない。


「俺はキバで、仮面ライダーで、人とファンガイアを繋ぐ架け橋だから」


平和な世界で、みんなの顔に浮かぶ笑顔。
それを背負った自分が、立ち止まってなどいられるものか。


「俺の理想が間違ってたとしても構わない。みんなが笑っててくれれば、俺は立っていられる」
「……お前が、その笑顔の中にいなくてもか」
「ああ。……少し、残念ではあるがな」


小さく本音のようなものを漏らし、奏夜はマシンキバーのアクセルを入れる。


「ああ、そうだ門矢」
「何だ?」
「言い忘れてたよ。レティシアの時、助けてくれてありがとな」


朗らかな笑顔だった。しかし士は何かが気に喰わず、つんと顔を逸らす。


「空元気の笑顔で礼を言われても嬉しくねぇよ」
「そっか。悪いな、今はちょいと上手く笑えねーんだ」


それじゃあな。と言い残し、マシンキバーはあっという間に夜の闇へ消えていった。士がその姿を見送ると、入れ違いに写真館の中から、ユウスケが飛び出してきた。


「士! 奏夜がここに来なかったか?」
「夜のお散歩だとさ」


それが言葉通りの意味でないのは、さすがにすぐ分かった。
ユウスケは舌打ちしつつ、止めてあった彼のマシン、トライチェイサーに乗り込む。


「行くのか」
「ああ」
「――今のあいつを、本当の意味で笑わせるのは難しいぞ、ユウスケ」
「それが何だ」


ユウスケはヘルメットを被りながら答える。





「目の前の人を笑顔に出来ないで、世界中の人を笑顔になんか出来るかよ」





ヘルメットのグラス越しに見えるユウスケの目は、強い光を宿していた。
重厚なエンジンとアクセルの音と共に、トライチェイサーはユウスケを乗せ、あっという間に士から見えなくなった。


「単純なヤツめ」


どこか喜びを含んだ表情のまま、士は二人が消えた夜の闇を見つめていた。



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  1. 2012/05/31(木) 10:59:19|
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