紅蓮の牙

二次創作中心。仮面ライダーキバと灼眼のシャナのクロスを連載中。

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第三話・無限/天壌無窮の空.前篇

『お前、何を戸惑ってる?』


あの奇妙な男は、そう問いかけた。
あまりにも、今の自分にとって時を得た質問。まるで全てを見透かされたかのようだった。
考えたくなかったことを、的確な言葉を持って突き付けられることに耐えられず、ただシャナは逃げた。


(気持ち悪い)


自分の中に、自分でどうにもならないことがある。
それが例えようもなく不愉快で、早くこの不確かな感情を飲み下してしまいたかった。


――だが、そうしたくないという気持ちも、同じくらいあった。
自分を掻き乱すこの感情が、何なのか自覚してした時、何が起きるのか。
自分にとって何を意味するのか。


完全な形で、それを理解してしまうのが、怖かった。
自分の存在を根底から覆されそうな、強く、しかし名前の無い感情。


(……戦いが、欲しい)


シャナは願った。


戦う間なら、何も考えなくてもいいから。
余計なものを、全て吹き払ってくれるから。




――それが勘違いだと知るのに、時間はかからなかった。




◆◆◆


「あちこちで封絶が張られてやがるな。キバット、どう思う?」
「多分ああやって、トーチを消してるんだろうな。消えかけのトーチ使ってるみたいだから、世界の歪みも少しで済んでるみてぇだ」
「フリアグネをおびきだすだけじゃなく、世界の歪みが起これば、仲間のフレイムヘイズも集まる。一石二鳥か。中々やるな、平井も坂井も」


奏夜がマシンキバーのアクセルを踏み込み、その傍らをキバットが追い掛けていく。
現在二人は、次々と張られていく封絶を頼りに、シャナと悠二の足跡を辿っている。


「動くかね、フリアグネは。もしあいつの狙いが『都喰らい』じゃなく、トーチもただのフェイクって可能性もあるんだしよ」
「そりゃないだろうな。なにせ情報源は父ちゃんなんだぜ?父ちゃんは『闇のキバ』を操るほど、力の扱い方や知識に長けてるんだ」


間違いないさ。
キバットは殊更自身に満ちた顔を作る。


「ま、お前の二世への尊敬度はさておいて、信用に足る情報ソースだってのには同意するけどよ」


シニカルっぽく言い放ったところで、封絶の生成が突如止まった。
それと同時に、覚えのある強大な存在の力を、二人は察知する。


「出やがったぜ、フリアグネの野郎だ!」
「この距離ならもう直ぐだな。いくぜキバット!」
「おっしゃあ、キバッて、GO!」


マシンキバーに乗りながら、奏夜は器用に片手を掲げる。


「ガブッ!」


左手に噛み付くキバットから奏夜の身体全身へ、アクティブフォースが流れ込んでいく。


「変身!」


腰に巻かれたベルトにキバットが止まり、奏夜の身体を覆った鎖が弾け飛び、キバへの変身が完了する。
と同時に、ここからそう遠くない場所で、二つの存在の力同士が激突した。


「向こうじゃもうドンパチやってるみたいだな。奏夜、このままぶっちぎろうぜ!」
「っしゃあ!」


覇気勇々としたコンディションに比例させるかのように、キバはマシンキバーのスピードを更に上げる。


避けられぬ戦いを制するために。





◆◆◆


『っ!』


燐子を蹴散らしていくシャナ、戦いを見守る悠二、不適な笑みを浮かべたフリアグネ。三人が全く同時に、こちらへと近づいてくるそれに気が付いた。


市外の一角。人通りの少ない路地裏。
エンジンの爆音を唸らせながら、猛スピードで迫ってくる真紅のバイク。
乗り手であるキバは、ウイリー走行で、進行方向にある金網を飛び越えて戦場に乱入してくる。
群がる燐子の何体かを撥ね飛ばすのも忘れない。


予想の斜め上をいく登場の仕方に、三人はしばらく呆けたように動かなかった。
原因たるキバは特に悪びれた様子もなく、口を開かぬままマシンキバーから降り、そのままシャナの隣へと立つ。


「随分と遅い登場ね」
「悪い悪い、追っかけるのに手間取ったんだよ」


平静を取り戻したシャナの棘を含んだ出迎えに、同じく悪びれないキバットが軽く答えた。


「キバ……うふふ。なるほどね」


宙を優雅に浮遊するフリアグネは、乱入者であるキバに目線を向ける。


「私を追うために、フレイムヘイズと手を組んでいたか。やれやれ、他人のことを言えた義理じゃないが、君達も大概手段を選ばないね」
「けっ、手段を選んでて誰かを救えなかったら世話ねぇぜ」
「ははは、それは正論だね。が」


キバットが敵意剥き出しで返すと同時に、フリアグネは両手を広げた。


「手段を選ばなかったとしても、何かを成し遂げられるとは限らないよ」


薄白い炎が、路地裏に所狭しと並べられ、中からさっき撥ね飛ばしたものと同タイプの人形――燐子が現れる。
同タイプ、というのは、それらの人形の分類が、カジュアルだったりメイドだったりメガネだったりと、製作者の意図的な趣味が滲み出ているものだったからである。


「ふん、いい趣味してるぜ」
「うふふ、誉め言葉として受けとるよ」


キバットの皮肉を軽く受け流し、フリアグネが指を鳴らした。
それを合図に、人形達がシャナとキバへ襲い掛かってくる。


「雑魚に構うな。狙いは“狩人”のみだ、邪魔な燐子だけ斬り捨てて走れ」
「うん、わかってる。アンタもそれでいいわね?」


キバに同意を求めると、キバは一瞬、一歩退いた場所で戦いを見守る悠二を見る。


――守らなくてもいいのか?
キバの意図を正確に読み取り、悠二はシャナに言ったのと同じように、自分の意思を示す。


「僕のことはいいから。キバ、もしあんたが僕を利用できるというなら、そうするのがいい」
「……」


悠二の固い意思に、キバも力強く頷き、シャナと背中合わせに、周りを包囲する燐子へと拳を構える。


『援護に期待はするな、己の取り分は己で始末しろ』
「そりゃこっちのセリフだ魔神。そっちの仕事が無くなっても知らないぜ」


アラストールとキバットのやり取りを最後に、シャナとキバは大太刀と拳を携えて、


『はっ!』


襲い掛かる燐子の大群を迎え撃った。
シャナの大太刀が燐子を胴と足、二つのパーツに分け、キバの拳が燐子の身体を見事に貫通する。


何処にでもある路地裏で繰り広げられる、人知を越えた戦い。


「せいっ!」
「ハッ!」


シャナの剣技が、キバの拳が振るわれる度に、燐子が消失していく。
そう、一体一体は全く問題がない。


しかし数が多い。
あのフリアグネの余裕な態度から推察するに、まだまだ燐子には余裕がありそうだ。
何体来ようが倒せる自信はあるが(ましてシャナもいるのだ)、それではいかんせん燃費が悪い戦いになる。


(それなら、パワーで一気にぶっ潰す)


群がる燐子から距離を取り、ベルトから紫の拳を型取ったフエッスルを引き抜く。


「殴ってダメなら叩くまで!」


キバットがくわえたフエッスルが、空気を震わす重低音を奏でる。


「ドッガハンマー!」


◆◆◆


「あ、呼び出しだ」
「今回は力か」


キャッスルドラン内、ドランプリズン。


奏夜の指示から、再びキャッスルドランで待機を命じられた次狼、ラモン、力が主からのコールを聞き取る。


「あの“紅世の王”と戦ってるのかな」
「さあな。だがなんであれ俺達のやることは――」
「おん、なじ」


力は立ち上がると、今までいじっていたチェスの駒を、手で粉々に握り潰した。


「ぬぁァァァ!」


前髪をかき上げると、力の周囲に紫電が弾け、彼の正体たるフランケン族の戦士、ドッガの姿が移り込む。
彫像へと姿を変えた力は、キャッスルドランのドランポットから射出され、キバの元へと飛び去っていく。


◆◆◆


彫像が形態変化した魔鉄槌『ドッガハンマー』をキバの両手が掴み取る。
即座に両腕を介して封印の鎖、カテナがキバの胸部にまで巻き付いていく。ガルル、バッシャーのそれよりも更に厳重かつ、桁違いの量の鎖だった。
ドッガのポテンシャルに適応出来るよう、両腕と胸部がそれぞれが紫の装甲、ライトニングシールドとアイアンラングに覆われる。
キバットの目がパープルに染まり、ドッガの幻影が憑依したキバの仮面も同色に染まった。


『キバ・ドッガフォーム』。


単純な力だけならば、キバの基本4フォームを遥かに凌駕するパワー強化形態だ。


「フンッ!」


気合い一発。
片手に持つドッガハンマーを引き摺りながら、何処か気だるそうな足取りで、燐子達に向かっていく。
当然、その緩慢な動きは的になる。
燐子の人形たちが、四方八方から作り物の腕を、キバに叩き込んだ。


――バキッ。


不快な音。音源は燐子の腕。
なんと、キバの装甲を殴った燐子の腕が逆にひしゃげたのだ。


その光景を見ていたのは、戦いに専念するシャナとアラストールを除く、フリアグネと悠二の二人だったが、フリアグネは感嘆の口笛を吹き、悠二は唖然としていた。


――ドッガフォームは、ガルルフォームやバッシャーとは異なり、機動力が致命的なまでに欠落している。それを補うべく、ドッガフォームの装甲は、戦車でも傷一つ付かないという驚異的な防御力を誇る。
かわさず、受け流さず、ただ捨て身で防御する。
これがドッガフォームの戦闘スタイルだ。


――だが、ドッガフォームの真骨頂は防御力にあらず、攻撃力にある。
徒手空拳は無意味と見たのか、人形の一人が右手を掲げる。
いつの間にかその右手には、ドッガハンマーの三倍はあろうかという巨大な鉄槌が握られていた。


人形はそれを振りかぶり、キバにスイングする。
人外の存在たる燐子、ハンマーも何かの宝具と考えれば、その威力は戦車の弾丸以上のパワーがあるだろう。
だがまたしても、キバはかわさなかった。


――ガンッ!


(嘘っ!?)


悠二はもはや完全に絶句し、その光景に見入っていた。
キバは片手で軽々と、真正面からハンマーを受け止めていた。


「グゥ……ガァッ!」


とん、と軽く張り手をしただけ――に悠二は見えた。
しかしそれだけで、ハンマーは押し返され、燐子は彼方まで吹っ飛ばされ、封絶の壁に叩き付けられた。
封絶が無ければ、更なる飛距離を叩き出していたことだろう。


『こいつら、どうする?』


ドッガハンマーから聞こえる力の声が、残りの燐子達を指しているのだと気付き、キバはドッガにしか聞こえないくらいの小声で答える。


(存分にぶっ潰しゃあいい。ちょいと手助けしてくれ)
『わかった』


間髪入れずに、キバは片手に握ったドッガハンマーを両手持ちに切り替え、自分を軸の中心点に、全方位にスイングする。


「ウガァ!」


紫電の鉄槌。
遠心力が付加されたその一撃だけで、優に十体もの燐子が紙屑のように消し飛んでいった。


「フンッ!」


これくらいは何でもないこと、そう誇示するかのように、自らの仕事を片付ける。


「やるじゃない」


やや不服そうに、同じく燐子を片付けたシャナが、キバと並び立つ。
二人の目線は再び、真の標的であるフリアグネへ。


「っふふ、中々だ。炎も自在法も無しにここまでやれるとは大したものだね、すばらしいよ」


下僕の呆気ない敗走にも崩れないフリアグネの余裕。
キバと後ろに控える悠二はそれに引っ掛かりを覚えたが、疑念を吟味する暇は無かった。


「だが、その刃と鎚も、私に届かなければ意味が無い」


純白の長衣を揺らめかせると、再び四・五体の人形が現れる。


(人形の配置はほぼ一列)
(このままフリアグネまで押し切れるか)


図らずもシャナとキバの思考が一致する。


「おいお嬢ちゃん、俺様達は援護に回っちゃる。隙を見てあいつを叩き斬れ」
「ふーん? えらく殊勝ね」
「つかこの形態だと援護しか出来ねーんだよ」
(……ゴメンナサイ)
(いや、お前はお前で誇れる分野があるから気にすんな)


キバットとシャナが話す傍ら、さりげなく落ち込んだ力をキバが慰める。
前述の通り、ドッガフォームは機動力に乏しい。高い防御力の代わり、装甲にかかる重量はケタ外れ。
よって、宙に浮くフリアグネに、直接ドッガハンマーを叩き込めるほどのジャンプは不可能なのである。


「まぁ、いいわ。私に当てたら承知しないわ、よッ!」


軸足に力を込め、シャナはフリアグネ目掛けて跳躍した。


キバはそれを見計らい、手近にあった瓦礫の欠片を拾い上げる。
軽く手元でそれを弄んでいると、瓦礫の輪郭を紫色のスパークが覆った。
手首のスナップでそれを放り投げ、キバはドッガハンマーを振り被る。


所謂、野球のノックと同じ。
ドッガの力で強化された瓦礫は、ドッガハンマーの衝撃に砕けること無く、帯電したまま燐子へと投擲され、目標を粉砕する。
――キバによって開けた視界の中に、シャナが飛び込んだ。


「はぁっ!」


大太刀の切っ先を右後方に振り、フリアグネを一刀両断しようと構える。


「っふふ……!」


フリアグネは一枚の金貨を親指で弾く。
重力法則に従いながら、残像が連なっていき、一本のチェーンへと姿を変えた。


(あれは!)


以前、マリアンヌとかいう燐子が使用していた宝具『バブルルート』だ。
あのチェーンでガルルセイバーを封殺したことは記憶に新しい。


「!?」


案の定、ガルルセイバーと同じく、バブルルートを斬ろうとしたシャナの贄殿遮那の刀身は、金色の鎖に絡めとられる。


「ちっ!」
「うふふ、どうだい、私の『バブルルート』は。その剣がどれほどの業物でも、こいつを斬ることは出来ないよ」


舌打ち三寸。
シャナは鎖を斬るのを諦めて距離を詰め、持ち主たるフリアグネ目掛けて刃を走らせる。
キバが援護のために、瓦礫をスイングしかけた時だった。


「シャナ、下がれ!」


後ろの悠二が叫んだ。


「な!?」
「!!」


フリアグネの驚きと共に、いつの間にか彼の手元にあったハンドベルが鳴らされる。
突如、周りからシャナににじり寄っていた人形が凝縮され、大爆発した。


「ぐ、あう!!」
「くっ!」


シャナは地に叩き付けられ、キバも爆風と炎の余波を受ける。


即座に立ち上がり、キバは悠二を見る。


(またか)


ガルルセイバーの攻撃に気付いたのと同じ、あのハンドベルの特性にも気が付いた。
あのままシャナが突っ込んでいたら、勝負は決していた。


だが、事態はまるで好転していなかった。


「は、は、ははは!!」


驚愕から立ち直ったフリアグネは、興奮を混ぜた笑い声を上げる。


「その中にあるのは、相当に珍しい宝具らしい……」
「っ!」


不気味な雰囲気にあてられ、悠二は思わず一歩下がる。
彼を庇うように、キバが前に躍り出た。


「余裕かましてらんねぇぞこりゃ……、一気に決めようぜ!」


キバットの合図と共に、キバはドッガハンマーの柄をキバットに噛ませようとする。


『ドッガ・バイ……』
「甘いね」


フリアグネの声が、それを遮る。


「私が、君に何の対策も考慮していなかったと思っているのかい?」


バブルルートのコインを持つ手で、フリアグネは器用に、長衣の袖口から取り出した黄色い『笛』を吹き鳴らす。


「ウ、グアァッ……!?」


キバが突然、地に膝を付いた。


「キバ!?」


悠二が慌てて駆け寄る。
だが、キバは悠二の声に耳を傾ける余裕は無かった。


(身体中が、痛ぇッ……)


キバの身体にぶれが生じ、キバフォームとドッガフォームの中間を行き来しているように見えた。


『ば、かな……! これは……』
「シール、フエッスルだと!? ありゃあ『闇のキバ』しか持ってねぇハズ……」


シールフエッスル。
『闇のキバ』が使用する多種族を封印するためのフエッスル。
かつて先代キングの操る『闇のキバ』はこのフエッスルで、次狼、ラモン、力の三人を封じたことがあった。


キバ、キバット、力が激痛にうめく。
フリアグネは得意気に、吹き終えたフエッスルをひけらかした。


「そう、コウモリくんの言う通り、こいつはレプリカさ。『闇のキバ』の持つオリジナルには及ぶべくもないが……」


苦しむキバを見ながら、フリアグネは言う。


「多種族の力を借り、その存在の力を溶け合わせている以上は、当然キバ本人にも影響が現れる。しばらくは動けないよ。
……やれやれ、こいつには、ただの芸術品としての価値しかないと思っていたのだがね。まさか実際に使う日が来るとは思わなかったよ。っふふ、これだから因果の糸は面白い」


再びフリアグネはハンドベル――燐子を弾けさせ、爆弾にする宝具『ダンスパーティ』を鳴らす。
キバのすぐ側で、燐子が爆発する。


「っうぐ!」


地面を転がるキバを、更なる痛みが襲う。


隣にいた悠二も、爆風に引き摺られたようだが、気にしていられるだけの気力がない。
だんだんとシールフエッスルの影響は消えてきてはいるが、まだ戦えるほどとは言い難い。


(くそっ! キバット、一旦ドッガフォームを解除出来ないのか!?)
(無理だ! 魔皇力が乱れ過ぎてて、下手すりゃキバの鎧がぶっ壊れちまう!)


キバットのNGと同じくして、キバは新しい爆発を聞き取る。
爆発した場所は――


「しまった!」
「狙いは、兄ちゃんか!」


キバットとアラストールが声を上げた。


『!!』


突っ伏すキバとシャナはその意味を理解する。
その時既に、フリアグネは悠二の目の前で、歪んだ愉悦と好奇心に瞳を輝かせていた。


「……中に、なにが、あるのかな?」
『っく!』


うめき声を上げながらも、未だに動けぬキバ。
片やシャナは、ダメージを押し殺し、炎髪を爆風に靡かせて、フリアグネに迫る。


(殺った!)


傍目から見るキバは確信した。
だが、フリアグネは、大太刀の軌道へ、あるものを配置する。




首を鷲掴みにし、無造作に悠二を突き出したのだ。




ぴたり。


そんな擬音が聞こえそうなくらい静かに、シャナは大太刀を止めていた。
悠二の手前で、目標を失った刃は静止し続ける。


まるで――




彼の身を案じるかのように。
フレイムヘイズであるはずの、彼女が。




「っ!?」


それに一番驚いたのは、シャナ自身だった。
キバは仮面の下でギリッ、と歯噛みする。


学校でした予感が的中してしまった! よりによって、この大事な局面で!


「は……はは、はははははは!!」


フリアグネは堰を切ったように、狂笑する。


「何だ今のは? ミステスを斬らせて中身を頂こうとしただけなのに、まさか…」




まさかフレイムヘイズが刃を止めるとは!




「そうか! このミステスには、どうやら利用価値がありそうだ!」


悠二を連れて飛び上がりながら、フリアグネは叫ぶ。


「ははは! アラストールのフレイムヘイズ! そしてキバ! この“ミステス”が惜しければ、街の一番高い場所まで来るがいい……最高の舞台を用意して待っているよ!!」


――刹那。キバは立ち尽くすシャナと連れ去られる悠二、二人の表情を見た。


激しい後悔。
それが二人に共通した感情だった。


少年と出会い、変わってしまった自分への後悔。
少女と出会い、彼女を変えてしまった自分への後悔。


(……ったく、つまらねぇことでウジウジ悩みやがって)




――そんなもの、本当はどうでもいい悩みだってのによ。




激痛渦巻く意識の中、キバは、フリアグネが置き土産に鳴らした『ダンスパーティ』の音色を聞き取っていた。



◆◆◆


全てを炎で埋め尽くす大爆発に、シャナとキバの影は呑まれていく。
爆発で崩れたビル(だったもの)により、路地裏は瓦礫の山と化していた。爆弾となった燐子に使われていた存在の炎が、か細く燃えている。


封絶が解かれていないのが救いか。
と、瓦礫の一つが不自然に動めく。


「っだぁ!」


周囲の瓦礫を吹っ飛ばし、キバが現れる。
多少煤けてはいるが、ドッガフォームの恩恵で、ダメージは少ない。
しかし、


「あ、危なかった! マジ危なかった!」


今回は本当に危なかったのである。
シールフエッスルの影響により、ドッガフォームの制御が不随になっていた中で、あの爆発を喰らったのであれば、どうなっていたかわからない。
ギリギリでキバットの制御が落ち着いたから良かったものの、危機的状況だったのは間違いないだろう。


「ひゃあ~、ヤバかったなぁ……! フリアグネの野郎、まさかシールフエッスルのレプリカなんざ持ってやがるとは」
『“かりうど”……伊達じゃない……』


ドッガハンマーから聞こえる力の声が、僅かに疲弊しているのに気が付いた。


「力、大丈夫か?」
『だいじょうぶ。ちょっと、つかれた、だけ……』
「全然大丈夫に聞こえねーよ。一旦キャッスルドランに戻ってろ」
『……“おとこば”に、あまえる』


手に持つドッガハンマーが彫像に戻り、キャッスルドランへ飛び去っていく。
ドッガフォームからキバフォームへと戻ったキバは、ベルトから外れたキバットに話し掛ける。


「で、どうするよ? シールフエッスルがある限り、バカ狼達は呼べないぜ」
「ああ、基本的にキバフォームでなんとかするしかないな」
「けど、あの爆発はかなりの威力だから、少しリスクの高くなりそうだぜ」


キバフォームでは、確実にダメージを負ってしまう、ということだ。
当たらなければいい話ではあるが、恐らくフリアグネはまだ燐子を控えさせている。
大群で囲まれるとなると、一人での対応は難しい。


「――あ、そういや、灼眼の姉ちゃんは無事かね」


キバットが思い出し、周囲をキョロキョロと見渡す。


「多分無事だろ。爆発を直接喰らったわけじゃなさそうだし。……まぁ、無事かどうか気にすべき点は、そこじゃないんだがな」
「えっ?」
「いや、何でもねぇよ。んじゃ取り敢えず、平井を探そうか」


キバットの浮かべた疑問符を解消すること無く、キバは瓦礫の山を掻き分けて、シャナを探す。


「生き埋めになってたら、掘り出すの面倒くさいな」と、教師にあるまじき暴言を吐いたりもしたが、程なくしてシャナは見つかった。服はあちこちボロボロだが、命に別状は無いだろう。


(……けど)


肉体面の心配はいらない。


問題は精神面だ。


瓦礫に膝を抱えて踞るその姿は、あまりに痛々しく、今にも立ち消えてしまいそうなくらい儚かった。
甲冑が擦れる音を響かせながらキバが近づいてきても、何の反応も無い。
――目の前にいるのは、見た目通り、年端もいかないただの少女だった。


『無事だったか』


口を開こうとしないシャナに代わり、アラストールが口火を切る。


「どうにかな。で、これからどうすんでぇ? 連れの兄ちゃん拐われちまったけど」
『行くしかあるまい。あ奴――坂井悠二の中に眠る宝具は、“徒”に渡れば、実に厄介なことになる』

「『零時迷子』だな」
『……本当に貴公達の情報網は計り知れぬな』


苦笑のような声を残して、アラストールは続ける。


『“狩人”は去り際、坂井悠二の存在の力を使い、封絶を施していた。万が一を考え、零時より少し前あたりを突入の目処としたい。
人質として使ったくらいだ。我々が行くまで、坂井悠二の無事は保障されよう』
「ああ、俺様達なら構わないぜ」


キバとキバットが首肯する。


『すまない。……この子にも少々、自分を落ち着かせる時間を与えたいのだ』


こうして三人が話している間にも、シャナは黙りっ放しだった。
キバは小さく溜め息をついて、手近にあった瓦礫を椅子代わりにする。
この場合だと、シャナと真正面から向かい合う形だ。


「何故だ」


キバが口を開くと、シャナが僅かに反応する。
出会って以来、キバは言葉らしい言葉を発していなかったし、会話はキバットに任せきりだった。違和感があって当然である。


だが、すぐにシャナは興味を外す。
それ以上に混沌とした感情が、自分の中に渦巻いていたからだ。
――キバの仮面の下から聞こえるその声が、何処かで聞いたような声であるとも気付かないくらいに。


答えないシャナに、キバがもう一度言う。


「何故、刀を止めた」


シャナの肩がビクリと震えるのがキバには見えた。


「フレイムヘイズは人を守っているわけじゃないんだろう? 世界のバランスを保つ存在の筈だ。そのフレイムヘイズが何故、刀を止める。――坂井悠二は、お前にとっては“なんでもないモノ”だろう?」


キバの言い草に、シャナの中で激しい怒りが込み上げ、一瞬で消える。
キバの言うことは正しい。
自分だってそんなの、言われるまでもなく理解している。


なのに、どうして私は刀を止めたんだろう?


――いや、違う。


(私は、わかってる)



刀を止めた理由を、わかっている。
ただ、認めたくないんだ。


「消えて欲しくなかったのか? 坂井悠二に」


シャナの心情を読み取ったかのように。キバは言う。


「無くしたく、なかったのか」
「……わからない」


シャナがようやく返答する。
キバはそれを聞き、やや投げやりな口調で言う。


「戦うのが怖いなら、戦うことで、坂井悠二を失うのが怖いなら、それもいい。戦わないのは――別に悪いことじゃない」


足手まといになるなら来るな。
言外に、そう言いたいのがわかった。
シャナは、自分の存在意義をかけて、キバに言い返した。


「戦う」


伏せていた顔を上げて、精一杯気丈に振る舞う。


「私は、アラストールのフレイムヘイズ。私が、そうあるように望んだ、だからある存在。それが、全て。それが、私」
「それが全て、か」


しかしキバは、シャナの宣言を「馬鹿馬鹿しい」と一蹴する。


「心は、そんなに簡単なものじゃない。一つの目的や存在で全てを満たすなんてことは、絶対に有り得ない。……そんな状態で戦っても、お前はまた同じことを繰り返すだけだ」


キバは、シャナが心に纏う仮面を正確に読み取り、それを剥がしていく。


「自分の気持ちを偽るな。気丈に振る舞うフリをするな。――口に出してみろ、少しは楽になる」


最後の言葉は、とても優しい口調で紡がれた。
シャナの中で、再び感情の奔流が暴れ出す。


きりきりとした痛み、戦いの時とは違う痛みが、自分の中の何かを傷つけていく。
やがてシャナは、虚ろな表情で、酷く掠れた声で、呟く。


「……わからない」


さっきと同じ答え。
だがキバには、それが全く違う感情から生み出された答えだということがわかった。


「全然……わからない。なんで…私は、こんなはずじゃ、ないのに。ねぇ……“これ”って何なの? 何で私のことなのに、わからないの?それさえも……わからない。……ただ」
「ただ?」




「苦しい」




それは、いままでシャナが発したどんな言葉よりも感情の起伏に満ち、同時に、いままでのどんな言葉よりも、悲壮に溢れていた。


「……そうか」


キバが答え、それきり二人は長い間、互いに沈黙したままだった。
シャナは俯き加減のまま、キバは瓦礫に腰かけたまま、キバットとアラストールさえ喋らないまま、時は流れていく。


「……世の中に、正しい選択は無い」


突然のキバの言葉に、シャナは再び顔を上げる。


「誰が見るかによって、その選択は正解も間違いにも成り得るからな。
だが人は、例え他人から何を言われようが、自分の選んだ答えを貫き通さなきゃならない。
それは選んだ者への責任だ」
「……お前は」


シャナが絞り出すように言う。


「私は、間違えたと思う?」
「お前はどう思うんだ?」


少し意地悪な口調で、キバは問い返す。


「“ミステス”、坂井悠二を助けたことは、『炎髪灼眼の討ち手』にとって間違いか、正解か」
「……」


答えは見つからなかった。
いつもなら、間違いで切って捨てられるはず。
でも、今は。


「人は前を向くもの。答えが欲しいなら、進むしかない」


答えを躊躇うシャナに対し、キバはひょいと瓦礫から降りる。


「――本当はな、他人の眼なんかどうでもいいんだよ。大切なのは、その選択をしたことを、自分がどう思い、どう変えていくかだ。選択は正誤が存在しないがゆえに、いくらでも変えられる。
坂井悠二を助けたことを正解にするか、間違いにするかは――」




お前次第だ、『炎髪灼眼の討ち手』。




ついとシャナをキバは指差す。


「私、次第」


復唱するシャナにキバは頷き、仮面の下で眼を閉じる。
遠くから聞こえてくる、悠二の心の音楽。
シャナと同じように、迷いが聞き取れるかと思いきや、それとは違う、一貫した強い意思が聞き取れた。


――これは、シャナを呼んでいるように思える。


『僕は、大丈夫だから』と。
『だから、君は全力で戦えばいい』と。
そんな、ただ強い覚悟。


(面白い音楽だな、坂井)


僅かに笑い、キバはシャナに向き直る。


「……さて、そろそろ行くぞ」


シャナは顔を強張らせる。
また同じことをしないだろうか。戦うことへの緊張から来る表情だ。


「そう緊張するな。――答えを、探しに行くんだろう?」


キバの覚悟を促す声。
シャナはほんの少し、緊張が和らいだ気がした。


「……うん、行く」


弱々しく、しかし誤魔化しもなにもない声音で、シャナは頷いた。
選択の責任を、取るために。
フリアグネを倒すために。


――悠二の元へ、行くために。
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  1. 2012/03/16(金) 09:55:14|
  2. 仮面ライダーキバ/BLAZING.BLOOD
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コメント

これから大変でしょうが

大変な事態になりましたよね…でも一条先生の作品が読み続けられることに喜びを感じます。
これからバックアップや書き写しなどで大変でしょうが頑張って下さい。

これからも応援し続けます。心より声援を送ります。
  1. 2012/03/16(金) 13:30:35 |
  2. URL |
  3. リュウガ #-
  4. [ 編集 ]

ありがとうございます。

そう言って戴けるだけで本当に幸せに思います。
期待に応えられるよう執筆していきたいと思っていますので、どうかこれからも応援よろしくお願いしますm(_ _)m
  1. 2012/03/18(日) 00:04:54 |
  2. URL |
  3. 一条ツカサ #rJKRZMV6
  4. [ 編集 ]

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