紅蓮の牙

二次創作中心。仮面ライダーキバと灼眼のシャナのクロスを連載中。

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第十八話・トラジコメディー/絶望を振り切れ.後篇

「こーいう他力本願ってあんまり好きじゃないんだけどさ……」


奏夜達三人、調査を終え、合流した名護とカムシンの前で、マージョリーは口火を切った。


御崎駅の繭は破壊出来ない。
“教授”の目的も分からずじまい。
別行動だったカムシンも「調律への干渉は、ものの見事に阻まれました」と、まさに八方塞がり。


そんな中で、まさに不確定要素とも言うべき可能性に、彼女は手を伸ばした。


「あの“ミステス”の坊やに協力してもらうってのはどう?」


シャナが肩を跳ね上げたのが分かる。 しかし奏夜は、気付かないフリをした。
名護は顎に手を当て「なるほど」と同意する。


「確かに彼は、“愛染兄妹”の自在式を見破った。今の状況、彼の意見が突破口になる可能性は高い」
「ああ、その“ミステス”は何を蔵しているのですか?」


カムシンの事務的な質問に、アラストールが短く答える。


『零時迷子だ』
「! ……ほほう」
『ふむ、それは、また大したものじゃ』
「普段はヘタレだけどな」


しれっと、奏夜は辛辣な評価を下す。


「結構やるのよ。戦力としちゃ論外だけど、頭は切れるわ」
『あの“千変”相手にも、ハッタリで勝負をかけるようなムチャな兄ちゃんでなあ、今度もなんとかやってくれんじゃねぇか?』


名護やマージョリー達の口調からは、悠二に一目置いているのが窺い知れた。
――自分以外の人間が悠二を褒めることを複雑に思い、シャナは、


「……ちょっと共闘したからって、悠二のこと全部分かったみたいに」
「シャナちゃんよ」


シャナの小声を目ざとく聞いていた奏夜は、自らもまた、小さく唇を動かす。


「独占欲は、中途半端だと見苦しいだけだぜ」
「――っ! う、うるさ」
「反論は『うるさい』以外で頼むぞ」


心中を見抜かれ、シャナは反射的に怒鳴ろうとするが、即座に奏夜は言葉を被せてくる。


「『うるさい』はその場しのぎの防波堤だって言ったよな? 意見があるなら、誤魔化さずにはっきり言え」


口調こそいつも通りだったが、一方で奏夜の横顔は無表情だった。
畏縮し、シャナは黙りこくる。


何度目かの、整理がつかない気持ち。
悠二のことを考えると、冷静でいられなくなる。さっき悠二を怒鳴りつけてから、ずっとこの調子だ。
悲しくなったり、嬉しくなったり。どっちつかずで、訳が分からない。


(これも、“どうしようもない気持ち”なの……?)


思い詰めるシャナを余所に、マージョリー達とアラストールは、調律師達に悠二の特徴を伝え、捜索にかかろうとしていた。
去り際、カムシンは単なる情報追加のつもりで訊いた。


「ああ、そういえば、その“ミステス”の少年、名はなんと言うのです?」


マージョリー、奏夜、名護は無言で、シャナの方を見る。
不承不承といった風に、シャナは口を開く。


「坂井悠二」
「!」


カムシンの無表情の仮面が、僅かに揺らいだ。


「ああ、サカイ……“坂井君”?」
『ふうむ……なんと』
「悠二を知ってんのか?」


シャナに代わり、奏夜が問う。


「知っている……というより、どうやら、我々の協力者の知り合いのようでしてね」
『ふむ、そうか。出会った当初に匂っていた気配は、『炎髪灼眼の討ち手』の……』
「ああ、“見ていなければ”、いいのですが」


カムシンの言い回しに、奏夜は奇妙な違和感を覚えた。シャナも同様である。


(“見ていなければ”?)


思考が次々と連結していくのが分かった。
つい先刻の、悠二が口走った言葉が、二人の脳裏をよぎる。


(――「吉田さんに“、知られた”んだ」)


辿り着いた結論が、か細い声に乗った。


「……吉田、一美」
「……そうか。“お前が巻き込んだ”んだな」
「ああ、やはり知り合いでしたか」


シャナは、吉田がとうとう、自分と悠二の立つ世界に入ってきた、という事実から、凍るような恐怖を。
奏夜は、関係ない少女を巻き込んだ、目の前にいるフレイムヘイズへの怒りを、それぞれ抱く。


「ああ、では早々に、その坂井悠二君を探しに行くとしましょう」
『ふむ、必要性以外の理由でも、早く見つけることができればよいのう』


カムシンらが夜の虚空へ消えた後も、二人はしばらく、無反応のままだった。


「……マージョリー、名護さん」
「何よ」
「何だ?」


奏夜の低い声音に、マージョリーと名護は僅かに身構えた。


「俺はカムシンに付き添って、悠二を探します。名護さん達は名護さん達で、悠二を探してください。くれぐれも、俺のあとを追わないように」
「まぁ、バラけるのには賛成だけど、何であとを追っちゃダメなわけ?」




「お前や名護さんに、八つ当たりしかねないからだよ」




言い捨て、奏夜は振り返らずにマシンキバーへ乗り込む。
――マシンキバーは、乗り手の憤怒を主張するかのような、悪魔の唸り声を挙げ、遠ざかっていった。


「……」


シャナもまた、紅蓮の双翼を羽ばたかせ、刹那の煌めきを描いて飛び去った。
後には、名護とマージョリー達が取り残される。


『ありゃ、二人とも相当キてるよなぁ』
「……ねぇケイスケ。チビジャリはともかくとして、あの状態のソウヤは大丈夫なわけ?」
「大丈夫でなかったとしても、ああなった奏夜君は誰にも止められないさ」


名護が肩を竦めて見せる。


普段温厚な分、奏夜はキレると怖い。飄々としつつも、あれでキングと同格の実力を持つ戦士だ。
頭が冷えるまで、放っておくしかないだろう。


やれやれ、と名護は首を振りながら、イクサリオンに乗り込む。


「まったく……、この忙しい時に、太牙はどこで油を売っているんだ?」


◆◆◆


「落ち着いたかい? 一美ちゃん」
「は、はい……ありがとう、ございます」
『◆〆#〇!』


一方、太牙は神社へ続く石段に腰掛けていた。


隣には、顔を俯かせる吉田一美と、彼女を心配そうに見るサガークの姿があった。
吉田はサガークをそっと膝へ移し、円盤に手を乗せる。理解不能だったサガークの意思が、テーブルを通じて伝わってきた。


『カズミチャン。ダイジョウブ? マダ、ドコカイタイノ?』
「うん……大丈夫だよ。ありがとう、サガークくん」


言葉とは裏腹に、吉田の声は僅かに震え、泣き腫らした瞳は未だに潤んでいる。


名護と同じく、街境の調査を終えた太牙は、戻る途中、河川敷にうずくまっていた吉田を発見。
直後、急に泣きつかれたことから、並々ならぬ事情があると察し、彼はこうして、彼女の傍らに鎮座している。


――ただ、


(僕は、どう声をかければいいんだろうな……)


事情は、吉田の嗚咽混じりの言葉から、全て理解した。
カムシンから借りた宝具『ジェタトゥーラ』を使ってしまったこと。
彼女の想い人、坂井悠二が、トーチであったということ。


――もう彼女の気持ちが、どうにもならなくなってしまったこと。


これはもはや、絶望的としか言えない状況だった。 太牙が何と声を掛けようが、坂井悠二を人間に戻すことは出来ない。
動かしようがない世界のルールに、太牙は歯噛みする思いで一杯だった。


(ふざけている……ッ!)


理不尽だ。
何故、こんな年端もいかない少女が、世界の闇に苦しまなければならない。


この子のように、表の光ある世界で生きる人々が、世の裏側に引き込まれないようにする為に、自分はずっと戦ってきたんじゃないのか。


無力感から、太牙は拳を握り締める。何がサガだ。何がキングだ。


(僕は結局、何も出来ちゃいないじゃないか……!)


吉田の前で、サガに変身し、ファンガイアという非日常を教えてしまった時にも、思ったこと。


――僕は、奏夜のようにはいかない。
いつだって、誰かに手を差し伸べられる弟と違い、自分は何もできないまま、その手を取った人でさえ、助けられず、傷つけてしまう。


今、隣で泣いている少女のように。


(……奏夜、か)


あいつなら、どうするのだろうか。
太牙はおろか、誰にも見つからない答えを、あっさり用意してしまう気がする。


だが、ここにあいつはいない。
吉田に救済の光を与えられるのは――太牙だけなのだ。


(……そうだ。僕にしかいないなら、僕がやるしかないじゃないか)


自分でも気付かないうちに、太牙は選んでいた。


(一美ちゃんに、僕と同じ道を歩かせちゃいけない)


『良かれ』と思う決断を。





彼女が抱いている想いは、自分が二度と取り戻せないものだから。
それを、失くして欲しくないから。





「一美ちゃん」


固い決意を思わせる口振りで、太牙は吉田に向き直る。
吉田はゆっくりと、顔を上げた。


「一つ、昔話を聞いてくれるかい?」
「……昔、話?」
「ああ。二人の男と一人の女の、ひどい昔話だ」


◆◆◆


「昔々、あるところに一人のファンガイアがいました。
彼は生まれる前から、ファンガイアを統率する使命を背負う、言わば王族の血を引く存在でした。
成長した彼は、血筋、才気、地位、全てに恵まれた、歴代最強の王と称えられるようになります。
彼自身もまた、自分が王であることに、誇りを持っていました」

「やがてある時、彼はある女性を好きになりました。
彼が王ならば、その女性は王女に当たる存在であり、いずれにせよ、彼と結ばれる運命にあったのですが――彼はそんな運命とは関係無く、彼女を愛していました」

「ですが、その想いは、ずっと離れ離れだった彼の弟が現れた頃から、徐々に崩れ始めました。
女性が好きなのは彼ではなく、彼の弟だったのです。
そして彼の弟は、同朋を狩り、人間を守る戦士――言わば、彼の敵だったのです」

「初めこそ、彼は弟を自分の右腕として、自らが率いるファンガイアに引き込もうとしていました。
しかし、王としてのプライドと、弟への下らない嫉妬心から、彼は弟を敵視するようになっていきました。
二人の兄弟の絆は、同じ女性を好きになったことで、醜く歪んでしまったのです」

「やがて兄弟は互いにぶつかり合いました。
人間を喰らうファンガイアを倒す戦士と、ファンガイアの掟を守る王として。
同じ女性を好きになった恋敵同士として。
宿命の鎖は二人を引き寄せ、戦いはもはや避けられませんでした。
戦いでしか、ファンガイアの存亡と女性への愛を勝ち取れないまでに、二人の男と一人の女の関係性は狂っていたのです」

「そして運命は、二人の男に相応しい罰を与えました」





「二人を止めようとした女性は、兄弟の戦いに巻き込まれ、命を落としたのです」





「兄の絶望は計り知れませんでした。
やがて兄は、女性を殺した真の仇を見つけ出したのですが――それが切欠となり、兄は王の座を追われ、弟にその権威を奪われてしまいました」

「愛する人を失い、キングの資格を失い、自棄になった兄は失意の果てに、封印されていた『闇の鎧』を纏い、キングの座を奪い返すべく、弟に戦いを挑みました」

「しかし、彼はそこで、弟の真意を知りました。
弟がキングとなったのは、傷付いた兄を守る盾となり、ファンガイアの業を全て背負う為だったのです」

「全てを知り、兄は犯した罪から、王の座を諦めるつもりでした。
そんな時、弟は言いました。『違う、やっぱりキングは兄さんだよ。兄さんならきっと、ファンガイアと人間に、明るい未来をつくることができるはずだから』と。
敵であった兄さえも恨まず、弟は逞しく成長していました。
キングなどというものが、ちっぽけに見えるほどに」

「そして兄は、再びキングの地位に就きました。
人間もファンガイアも関係無く、みんなが笑っていられる未来を目指すために。
弟の想いに報いるために。
そして――彼女のような存在を、もう二度と生み出さないために」

「――ただ、彼は今でも思うことがあります。
彼女が自分と関わらなければ。
彼女を、王の資格にかこつけて、自分の傍に縛り付けていなければ。
彼女は幸せになれたのではないか、と。
どうしても――考えずにはいられないのです」




「そうして、彼は今も、罰を受け続けています。
正しさと過ちの狭間で、一生答えを探し続けるという罰を――」




◆◆◆


「そういう――昔話だ」


太牙の瞳は、まるでそこに風穴が空いたかのように、空虚だった。
傍らの吉田は、呆然と、彼の話に聞き入っている。


「今の話、は……」
「一美ちゃんが想像したので、間違ってないと思うよ」


言いながら、太牙か浮かべた笑みは、酷く自嘲めいていて、ふとしたことで消えそうなくらい、儚かった。


「僕はとっくの昔に絶望した人間だ。けどね……絶望なんて、それこそいつでもできるんだよ」


諦めさえしなければ、絶望は何処にもない。
希望への道が、どれだけ苦しくとも、そこに至る道筋は、決して不幸ではない。


太牙は、吉田の頭を軽く撫でた。


「一美ちゃん。キミなら、きっとまだ間に合う」
「……でも」


吉田が頷けないのももっともだ。


坂井悠二がトーチであるという事実は、動かしようがない。支えも何もない中、何を信じろというのだろうか。


――それこそ、都合のいい奇跡でも起きない限り。


「都合のいい奇跡か。いいね、それで十分だ」
「えっ?」
「可能性は0じゃない。ジタバタ動くには、十分過ぎる支えじゃないかな?」
「……」


吉田は目を瞬いた。
世の非常を目の当たりにしたばかりの吉田に、太牙は世のご都合を信じろと言っているのだ。


「坂井君が、本当は無事だっていう奇跡。確かにそれは、百分の一の確率かも知れない。けど万が一、それが起こったらどうする?諦めたら、全ての可能性は0だけど、諦めなければ、可能性は決して0にはならない。
現に僕は、百回目の確率で起きることが、一回目に起きるところを、何回も見ている」


太牙自身、こんな無茶苦茶な戯言が、正しいとは思っていない。常識的な判断とは思えない理屈を、妙な自信で固めているだけだ。


だが――そうだとしても、太牙は吉田を立ち上がらせたかった。


それがどんなに脆弱な希望でも、彼女に諦めて欲しくなかった。


「『誰かを好きになったのなら、悔いは残すな。最後まで好きでいろ』。一美ちゃんは、もう悔いはないのかい? こんな救いの無い終わり方で、本当に満足してるのかい?」
「……っ」


満足している、わけがない。


この絶望は、だからこそ生まれたものだ。 吉田の『何にもならない』気持ちを感じ取り、太牙は問う。


「どんなに脆い奇跡でも、それを信じてみたいかい?」
「……はい」
「そうすることで、更に傷付く覚悟はあるかい?」
「……はい」





「悠二君への想いを、諦めたくないかい?」
「……っ、はい!!」





普段からは考えられないほどに大きく、強い覚悟を込めて、吉田は叫んだ。


また涙が出そうになるが、ぐっと堪える。
こうすることで、絶望を振り切れなくても、もう後悔する気はない。
覚悟と、自分に出来る全てを懸けて、吉田は選んだのだ。


――だって、私は。


「……決して」
「?」


ぎゅっと拳を握り、吉田は自分の心を吐き出す。


「決して変えられなくても、絶対にどうしようもなくても……」





私は、坂井悠二君が、好きなんです。





曖昧さもごまかしも無い、真摯な決意。
太牙はただ、真正面からそれに応える。
かつて同じ感情を持っていた者として。


「好きでいることに、理由も境遇も関係ないよ」


太牙は立ち上がり、彼女に手を差し伸べる。


「キミ自身が好きでいさえすれば、ね」
「……はいっ!」


太牙の手を取り、吉田もまた立ち上がる。


『◆▽*!』


もはや定位置と化したのか、立った吉田の頭の上に、サガークが鎮座した。


「こらサガーク。お前は飛んでいけるだろう」
『□▼∞!!』


イヤイヤ、と身体を揺らし、退かないという意思を示すサガーク。


「ふふっ」


二人の緊張感の無いやり取りに、表情が緩む。


そこで吉田は、笑っていられる余裕が戻っていることに気が付いた。
不安定だったように思えた地面も、今はしっかりと踏みしめることが出来る。


「……大丈夫」


吉田の表情は、もう誰かに助けられてばかりの、弱い少女のものではない。


前に進むと決めた者にしか出せない、心の強さに満ち溢れていた。


「ちゃんと、進める」




――私の『良かれ』と思う選択は、坂井君を好きでいることなのだから。




◆◆◆


「カムシン」
「ああ、何でしょうか」


マシンキバーを走らせる奏夜と併走しながら、カムシンが答える。


バイクと、見た目子供なカムシンが、同速度で走るというのは、傍目から見ればとんでもない光景だったが、すぐに『平静の波』がその違和感をかっさらってしまう為、問題はない。


「お前さ、なんで吉田を巻き込まなきゃならなかったんだ? 協力者とか言ってたが、吉田の任意同行とは思えねぇし」
「ああ、調律のイメージ採取の為、ですね。この街で生まれ育った人間でなければ、イメージ採取は不可能なので」
「ふーん……」


感情の読めない口調で相槌を打つ。
奏夜の横顔は、不機嫌というより、完全な無表情だった。


興味本位から、カムシンは与太話として尋ねる。


「ああ、やはり怒りましたか?」
「怒ってないさ、ただぶん殴りたいだけだよ」


鉄面皮を一切崩さず、某池袋最強の男のようなセリフを吐く奏夜。
カムシンもまた、フード下の表情を、ピクリとも変化させなかった。


「ああ、殴るなら今の内ですよ」
「マゾ?」
「私への個人的な怨磋で、あなたの士気が下がっても困りますからね」


奏夜の額に青筋が浮き出る。
どこまでも、合理性に徹するフレイムヘイズに、形容し難い苛々が募った。


「ですから、あなたの怒りが晴れるのなら、それもやぶさかで無いと、思っただけですよ」
「魅力的な申し出ではあるが、止めておこう。 よくよく考えれば、殴るくらいじゃ収まりそうにねーわ」


殴るにしても、オベリスクゴッドハンドクラッシャーくらいの勢いでなければ気が済まない。


「だから、早くこの戦いを終わらせちまおう。お前とは、その後でじ~~っくり話をしよう」
「ああ、ではそのように」


まったく無関心なその様に、奏夜は本気でキレかけた。


――取り敢えず、こいつとは仲良くなれそうにない。
浅倉威もびっくりな苛立ちオーラを発散すべく、更にアクセルを入れる。


「!!」


と、奏夜は加速させかけたマシンキバーを急停車させる。


「この気配は……」
「ああ、向こうから知らせてくれましたか」


どうやら悠二は、自ら存在の力を放出し、それを狼煙として使ったようだ。
そう遠くもないから、すぐに辿り着けるだろう。


(だがこれは、場所を知らせるつもりって言うより……)


奏夜が気掛かりなのは、そこだった。


感知した気配は、確かに悠二のもの。しかし、そこにはいつもの柔らかさは無い。
響いてくる心の音楽も、弦をひたすらかき鳴らしているような、激しいビートだ。





(悠二のヤツ、怒ってるのか?)


確証を得られない内に「早く行きましょう」とカムシンは先へ。
一抹の不安を抱えながら、奏夜もマシンキバーの方角を変え、後を追う。


適当な場所でマシンキバーを停め、辿り着いた先は、河川敷だった。


教授の思惑が着々と進む中でも、夜店の賑わいは相変わらずである。
平静の波のせいで、何ら異常無く生み出される祭りの空気が、かえって非日常とのズレを明確にしていた。


――そして、肝心の悠二はその先にいた。
人だかりから離れた、祭りの余剰機材が積み上げられた広場。
二人を真っ直ぐに見据えるその様は、待ち構えていた、という表現がよく似合っている。


(ああ、やっぱキレてる)


もっともそれは、奏夜ではなく、カムシンに向けられたものだが。
彼がカムシンに怒る訳など、一つしか思い浮かばない。


奏夜と、同じ理由だ。


「ああ、実は、あなたに――」
「どうして」


簡単な自己紹介を済ませ、本題に入ろうとしたカムシンの声を、悠二は遮る。


「なんで、彼女を巻き込んだんだ」
「調律に必要な、人間の適性者だったからです」
「っ、そういうことじゃない!!」


滅多に聞かない悠二の怒声に、奏夜は少し驚いた。
だがカムシンは、やはりそれを平然と受け止め、


「ああ、つまり、彼女に“本当の姿”を見られてしまったのですね」
「!!」
「なぜ自分が“ミステス”だとばれるような真似をしたのか、と言いたいのですか?」


恐れからぼかしてきた事実を、カムシンは淡々と声に乗せていく。


「ああ、しかし、その怒りはお嬢ちゃんの選択への侮辱ですね。我々は、お嬢ちゃんに本当のことを……あなたのことを、知ろうとすべきではない、と勧めたのですから」
『ふむ、それでもお嬢ちゃんは自分で『良かれ』と思える方を選んだのじゃから、儂らを非難するのは筋違いというものじゃよ』


絶対的な正論に打ち負かされ、悠二は言葉を押し込められてしまう。


「だ、だからって、そんな……」
「悠二」


弱々しい反撃を止めたのは、意外にも奏夜だった。


「今は“それどころ”じゃねぇ。わかってんだろ?」
「っ!!」


見えない鎚が、頭に振り下ろされたような衝撃を受けた。


――悠二はこれまでの付き合いから、紅奏夜に全幅の信頼を置いていた。
間違ったことを許せず、一を切り捨て九を救うような、合理的な考えはしない。形振り構わず、十を救おうとする人だと思っていた。


だが今の、今の言葉は――、


「ここまで来ちまったんだ。決めるのは吉田だろう。
俺達には俺達で、やることがある」


――そう。吉田のことを、放っておけと言っているのだ。自分が傷付け、泣いているだろう少女を。
そうでないとわかっていながら、悠二は裏切られたような錯覚に陥る。


「先生は!!」


耐えきれず、悠二は叫んでいた。


「先生は、それでいいんですか!?」
「アホ。良いわけないだろ」


真っ向から言い返され、悠二は押し黙った。


「お前がカムシンに怒る気持ちも、俺に怒る気持ちもよく解る。けど、さっきお前が、吉田を探しに行く時も言ったよな? 優先順位を考えろって」


奏夜は駄々っ子に言い聞かすような口振りで、言葉をかける。


「吉田を放っておけなんて言ってねぇ。ただ、それは後からでも出来る。
吉田は聡い子だから、ちゃんと話しさえすれば、お前のことを理解してくれるだろうよ。だが、吉田を説得する前に、この街が滅んでもみろ、本末転倒じゃねぇか」


カムシンと同じ正論。違うのは、未熟な少年への気遣いがあるかないかだ。
奏夜の温情に、悠二は怒りに熱くなっていた頭が、急速に冷えていくのがわかった。


「この状況、突破するにはお前の力が要る。その後で、吉田を説得するなり、俺やカムシンを怒鳴るなり、好きにすりゃあいい」


伝えるべきことを伝え、奏夜は会話を切った。


(やっぱり、僕は馬鹿だ)


自分の浅はかさに嫌気が差し、拳を握りしめる悠二。
こんなことだから、彼女を傷付けてしまうんだ。


――先生が、誰かを気遣わないわけがないじゃないか。


素直に謝罪の言葉が、口から出てきた。


「……すみませんでした先生。勝手なこと言って」
「いいよ、別に」


軽い返答を聞き、悠二はカムシンに目線を移す。
その眼差しは、やや厳しいものではあったが。


「まず、その調律ってやつを、詳しく説明してくれ」


スイッチが切り替わったように、凛とした雰囲気を纏う悠二。
こうなった彼が導き出した答えは、戦況を大きくひっくり返すことになる。


◆◆◆


「ふむ、“探耽求究”は、随分と、面白いことを、しているらしいな」


特徴的な舌足らずの口調で、ドラゴンファンガイア――ドラグは、フード下の唇を動かす。


頭上を見上げれば、奇妙な自在式。
見れば見るほど不気味な空だが、自分達にとっては好都合だ。


「今なら、キバも、イクサも、サガも、動けはしまい。裏で動くには、またとない、機会だ」
「えぇー、もう行くのかよぉ?」


ブラックコートに、シンプルな仮面を被ったベルゼブブファンガイア――ゼブが、不満に口を尖らせる。


彼の両手には、一本ずつリンゴ飴が握られ、金魚が入った袋まで吊っている。


「……貴様は、ここに何をしにきた」
「祭りをエンジョイする為じゃね? あ、ドラグも一本どうよ?」


差し出されたリンゴ飴を、無言で受け取るドラグ。
次の瞬間、ドラグはリンゴ飴の割り箸部分だけを、力づくで引き抜いた。
流れるような動作で、割り箸をゼブの仮面――穴の空いた眼の部分へと突き刺す。


「ぎゃああああああ! 目が、目がぁーー!!」


某ラピュタ王の如くのたうち回るゼブを捨て置き、ドラグは目的地へと足を進める。


「急がなければ、なるまいな」


“アレ”は、我々の計画に不可欠なものなのだから。


◆◆◆


「一応、思いつきは、したけど……」


すべての事情を聞き、悠二はあまりにあっさりと答える。


「ああ、そんな、簡単に……?」
『ふむう?』
「おお、さすがだな。悠二」


三者三様の反応が返ってくる中、悠二はそれ以上先を言わなかった。


良策ではあるが、僅かなデメリットの為に、使うのを躊躇っている。
そんな印象から、奏夜は適当な推測を立てた。


「もしかして、吉田が関係しちゃってたりするのか?」
「!!」


易々と心中を見抜かれた悠二の動揺が、二人に伝わってくる。


どう促したものか、と悩む奏夜に対し、カムシンはなし崩しに話を進める。


「ああ、お嬢ちゃんを、そんなに巻き込みたくないのですか? それは、どうしてです? 彼女を恋愛対象として大切に思っているからですか?」
「な! なんで、そんなこと言わなきゃ……」


ド直球な物言いに、悠二は身じろぐ。


『ふむ、この場合は、割と重要な問いのように思えるがのう』
「俺も興味あるな。ここらでハッキリさせといたらどうだ?」
「先生まで……」


無回答、という選択肢は用意されていなかった。


「……吉田さんは、優しい人なんだ」


本心を絞り出すように、悠二は言葉を紡ぐ。


「いくら一度巻き込まれたからって、またこんな惨いことしかない世界に、覚悟もないのに、連れ込むようなことは、しちゃいけない人なんだ。できるのなら、元の世界に……」


都合のいい話だとは思う。 切欠はカムシンでも、彼女を傷付けたのは、間違いなく自分だ。


ただ、そうだとしても、悠二は吉田に、日常の中で生きていて欲しかった。 彼女と、日常の中で感じてきた思い出は、紛れもない幸福だったのだから。


「吉田さんは、僕が零れ落ちてしまった“あそこ”に、いるべき人なんだ」
「ああ、シャナ、と呼ぶあの少女は、違うのですか?」
「――シャナは、違うよ」


シャナの強い有り様と生き方から、単純な事実を口にする。


「シャナは、フレイムヘイズなんだ。彼女があの生き方を選んで、そこで強く、そうあるべきだと信じて立っている」
「つまり、シャナには、非日常で生きる覚悟があり、吉田にゃ非日常で生きる覚悟がないと?」


悠二が頷くと、奏夜は何故か、意地の悪い笑みを浮かべた。


「そいつはどうかな? あいつはお前が思ってるほど、弱い女の子じゃないぞ」
「えっ?」


含みのある言い回しに、問い返しかけた悠二の背に、





「シャナっていうのは、ゆかりちゃんのことですか?」





「!!」


反射的に振り返ると、見慣れた姿がそこにはあった。


「!! 吉田、さん」
「注意力散漫だな、悠二君?」


奏夜のみならず、カムシンまでもが、クックと笑っている。
あっ、と悠二はようやく気が付いた。


「さっきから変な質問ばかりすると思ったら……」
「ああ、さすがの『零時迷子』の“ミステス”も、人間の気配を察知することはできないようですね」
『ふむ、儂らのせいで、悲しい目に遭わせてしまった、ほんの罪滅ぼしじゃよ』
「気付かないお前も悪いって。なぁ、吉田?」


急に話を振られながらも、吉田は微笑み返してくれた。


「俺がなんでここにいるかは……わかってるみたいだな」
「来る途中、太牙さんから、全部聞きました」
「そっか」


まぁ、そんなことだろうとは思っていた。
カムシンと太牙が知り合いであった以上、そこに吉田がいたことは、想像に難くない。
そして太牙が、ファンガイアのことを話せば、彼の兄弟である奏夜の素性も、自ずと知れてくる。


「吉田、ここまで知っちまった以上、選ぶのはお前だ。後悔しないように選べ」
「――はい」


頷き、吉田は悠二の傍らに駆け寄っていく。
短い激励だけを送った奏夜は、手近にあった機材に腰掛け、その様子を見守る。


「彼が悠二君か」


と、その背後にはいつの間にか、太牙が立っていた。
身体を反らし、下から彼を見上げる。


「お疲れ様。随分と吉田に世話焼いたみたいだね」
「なに、僕は選ぶチャンスをあげただけだ。動いたのは、一美ちゃん自身の力だよ」
「うん。確かに吉田のヤツ、いい顔してる」


前に進むことを、非日常にいることを、選んだ者の顔だ。


「どうなるかな?」
「信じよう。一美ちゃんは不幸になっちゃいけない子だ」


兄弟が見守る中、二人の男女の会話は続く。


「覚悟」
「えっ」


吉田の瞳は、目を逸らすことを許さないほど、強い意志に満ちていた。


「私にだって、あります。ここに、坂井君のいるここに、入る覚悟が」
「駄目だ!」


悠二の即断でさえ意に返さず、吉田は続ける。


「ゆかりちゃんには、あるのに?」
「シャナはこのカムシンと一緒の、フレイムヘイズって特別な存在だからだよ! 吉田さんは普通の人間じゃないか!?」
「名護さんとかも普通の人間なんですけどー?」
「揚げ足取らないでください!」


振り向き様に奏夜を黙らせるも、吉田の勢いはまるで止まらなかった。


「坂井君は、先生やカムシンさんや太牙さん……ゆか、シャナ、ちゃんと同じなんですか?」


答えづらい質問に、しかし吉田がこちら側に来ることを認めたくない一心で、悠二はその事実を突き付けた。


「僕は……僕も、人間じゃないんだ」


零時迷子を蔵された“ミステス”であること。
自分はフレイムヘイズを助けられる力からこそ、ここにあること。


だが、それらをどれだけ突き放すように告げても、吉田はまだ反論してくる。


「でも、坂井君の考えた、私の関係している街を救う方法というのも、あるんでしょう? なら、坂井君と私は、役に立つっていう意味では、同じ立場のはずです」
「う……」


いよいよもって、手立てが無くなってきた悠二に、吉田は告げた。
すべてを包み込むような、温かい笑顔と共に。





「坂井君は、人間です」





何気ないそれに、悠二の思考がフリーズした。
全身を駆け巡った衝撃の正体は、吉田の言葉に込められた、真摯な想い。


「あんな風に私のことを言ってくれる人が、人間じゃないなんてこと、絶対にありません」
「……吉田、さん」


吉田が自分の手を握る。
再び、あの心地良い温かさが押し寄せてくる。


もう、彼女を止めることは出来そうになかった。
それだけの想いを、覚悟を、見せられてしまったから。


奏夜と太牙も、取り敢えず一安心し、悠二と吉田の微笑ましいやり取りを静観していた。


「ああ、さて、同意が得られたところで、話の続きをしたいのですが」


まるで空気を読まず、不躾にカムシンがそのムードを台無しにする。


『ふむ、時間も差し迫っておることじゃしのう』
「あっ、す、すいません!」


今になって恥ずかしさが押し寄せてきたのか、吉田は慌てて悠二の手を放す。


顔は耳まで真っ赤だ。


『………』


口を閉ざしたままではあったが、悠二、奏夜、太牙の心中は一致していた。


――やっぱりカムシンとは、仲良くなれそうにない。



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  1. 2012/04/03(火) 21:57:17|
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