紅蓮の牙

二次創作中心。仮面ライダーキバと灼眼のシャナのクロスを連載中。

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第十八話・トラジコメディー/絶望を振り切れ.前篇

歪んだ花火と、それになんら反応しない人々。


怪現象――非日常からの侵略。
温かな日常への幻想を捨て、奏夜は非日常の自分――キバとしての自分へと、スイッチを切り替える。


「次狼」
「わかっている。もう呼んだ」


次狼の二つ返事と共に、周囲に爆風が巻き起こる。


――ギャオオオッ!!


上空を仰げば、ビルの体躯を持つ紫色のドラゴン――キャッスルドランが飛翔していた。
奏夜とアームズモンスターズ、非日常との付き合いから、違和感を多少感じ取れる静香を除き、普通の人間には視認出来ない。


「静香。ドランに乗って、母さんのいる洞穴に避難しとけ」
「えっ?」


奏夜は真剣なトーンで告げる。


「あの花火を見りゃ分かるだろ。またこの街は戦場になる。程度によるが、正直、お前を守りながら戦える自信は無い」
「……足手まといってこと?」
「あほ。心配してんだよ」


静香の額を指先で弾く。


「痛ぁっ!?」
「ほら、さっさとドランの中に入れ。 お前にはちゃんと役割があるんだからよ」
「や、役割?」


額をさする静香に、奏夜はふっと相好を崩す。


「『マル・ダムール』での花火。ちゃんと計画立てとけ」


これから戦いに赴くとは思えない余裕。


奏夜は、今日という日を、戦いだけで塗り潰すつもりはさらさら無い。
先の言い回しは、静香の身を案じるばかりではなく、ちゃんと彼女のいる日常に帰ってくるという、決意でもあった。


それを理解した静香は、強く頷き、しかし何処か不安そうに、


「うん、わかった。奏夜も怪我しないでね?」
「善処するよ」


くしゃりと静香の髪を撫でて、次狼達に向き直る。


「静香をドランに入れたら、すぐ恵さん達を迎えに行け。お前達はみんなを母さんのとこに送ったら、ドランプリズンで待機してろ」
「仰せのままに」
「いつでも呼んで!」
「気を、つけて」


静香と次狼達に見送られながら、奏夜は河川敷を駆け出した。
次々と後方に流れていく屋台の景色。
やがて奏夜は目の端に、赤い浴衣に身を包んだ小柄な影を捉えた。


「シャナ!」


探し人を見つけ、下駄で器用に急ブレーキをかける。


「奏夜!」


少女――シャナも動きを止め、こちらに歩み寄ってくる。


「オイ、どうなってんだこれ?」
「解らない。最初は調律の失敗かと思ったんだけど……」
「調律、ってこの前言ってた、歪みを直す作業のことだよな。それを使うヤツってのは、未熟な連中が多いのか?」


シャナに代わり、彼女の内に宿る紅世の王、アラストールが遠雷の如き声を、ペンダントから発する。


『いや、調律師とは通常、使命感の塊となるまで戦い抜いた、熟練のフレイムヘイズが請け負う。加えて、この地へ来た調律師は、最古のフレイムヘイズと名高い存在だ』
「失敗は考えにくいってわけか。じゃあやっぱ、“徒”だな」
「恐らくはね。ファンガイアに動きは無いの?」
「いや、今のところ、その兆候は無い」


ブラッディローズの音色が、頭の中で鳴っていないのが良い証拠だ。


「いずれにせよ、判断材料が少な過ぎる。調律師――『儀装の駆り手』の下へ向かい、現状を把握すべきであろうな」
「だな」


何処かにいる名護とマージョリーも、きっとそう考えるだろうから、向こうで合流も可能だろう。


「後は悠二も拾ってきた方がいいだろうな……ってシャナ。我が儘は聞かんぞ」


悠二、という単語に顔を曇らせたシャナを、奏夜がたしなめる。


悠二の洞察力と、彼の中に眠る宝具『零時迷子』の超感覚は役に立つ。戦いへの骨組みとして、外すわけにはいかない。


「悠二の居場所、わかるか?」
「大体でいいなら」


シャナも私情を抑え込み、奏夜と共に、悠二の気配を追いかけ始める。
歪んだ花火が、嘲るように、周囲を照らしていた。


◆◆◆


滑稽――そう表現するのになんの不足があるだろう。


「あ、あ……」
「吉田、さん?」


非日常は、日常を食い潰す。
少女の儚いユメなど、歯牙にもかけない。


(どうして、そんな顔を)


普段の愛しみに満ちた笑顔はかき消え、吉田の瞳には暗い感情が揺れていた。


(どうして、なぜ、そんな顔で、僕を)


“本当はわかっている”にも関わらず、悠二は認めたくなかった。
吉田が自分をあんな風に見る理由など、他に無いというのに。


「……よ」
「っ――」


一歩、吉田が後ずさる。


非日常下での洞察力 が働いてしまったのは、幸か不幸か。悠二は吉田が何かを握っているのに気が付いた。


見事な意匠が成された片眼鏡。


(“宝具”だ)


直感的に片眼鏡『ジェタトゥーラ』の正体を見抜く悠二。
だが、この際それが宝具であるか否かはどうでもいい。 それが、吉田に何をもたらしたかだ。


(眼、鏡……“眼鏡”?)


単純な推測が、次々と組み上がっていく。
眼鏡。見る。そのガラスを隔てて。宝具。“紅世”から生まれしモノ。


今、彼女は何を見た? 自分だ。
なら彼女は、自分に何を見た?


それ以前に、自分は何だ?


(“トーチ”)


喰われた人間の形をした、陽炎。




既に死した人間の、残り滓。




「吉田さん」
「あ、ああ――」


吉田の震えが加速する。
瞳は潤み、絶望へと彩られていく。


二人の間は、歩幅にして僅か二歩。だが今や、その距離はあまりに遠く感じた。
それでも悠二は、凍りついた時の中で、吉田へと手を伸ばそうとする。


「吉」


「いやああああああああああーーーー!!」


拒絶。この世の、あまりに残酷な現実を知り、吉田は逃げ出した。


「田、さん……」


後には、呆然と立ち尽くす悠二が取り残された。
伸ばした手は空を掴み、そこにあった大切なものの喪失を、否応無しに伝えてくる。


“トーチ”であることを、彼女に知られた。


彼女が紅世を知るに至った経緯も、理由も分からなかったが、それだけは歴然とした事実。
空洞化した胸中、ただ悠二は、吉田からの拒絶に打ちのめされていた。


「おお、いたいた」
「悠二!」


と、吉田とほぼ入れ違いになる形で、よく聞き知った声が、悠二の耳を突く。


「……シャナ、先生」
「ったく、探したぞ」
「“これ”、分かるわね」


シャナは私情も何もかもを押し込み、ただ使命のみを告げる。
悠二もまた、単純な事実として答えを返す。


「う……うん」
「攻撃だと思う?」


彼の土壇場での洞察力に期待しながら、シャナは答えを待つ。
自分と悠二の間にある、信頼関係から来る言葉だった。


――しかし、悠二は口を開かない。


「悠、二?」
「おい、ちゃんと話聞いてんのか?」


シャナのみならず、奏夜も怪訝そうに尋ねる。
悠二は行動も熱意もなく、ただ祭りの雑踏に意識を向けていた。


――その様子と、ここにいるはずの人間がいないことから、奏夜は適当なアタリを付ける。


「悠二、吉田はどうした?」
『!!』


悠二とシャナが、同時に身を強ばらせた。
しかし仕草は同じでも、胸にくる痛みは別種だった。


「知られたんだな、あいつに」
「……はい」


肯定する悠二に、奏夜は溜め息をつきかけた。


(お前は何だっていつも、戦いの最中に戦い以外の厄介事を……)


白けたように視線を逸らす奏夜、片や、悠二は覚束無い足取りで、半歩踏み出そうとする。


「追いかけなきゃ」


自分が怖がらせてしまった少女を。


「追いかけて、説明しないと――」
「オイ、気持ちは分かるが今は――」
「“そんなどうでもいいこと”、放っときなさいよ!!」


奏夜と悠二の声を、無理やりシャナは遮った。


怒りしか無いように思えた。
しかし、奏夜は裏打ちされた想いを感じ取る。 悠二も同様だったろう。




――吉田一美なんかよりも、私と一緒に。




その想いに奏夜はやるせなさを、悠二は何故か、猛烈な怒りを覚えた。


「シャナ!!」
「あ、っ」


悠二の怒号に、シャナは身じろぎ、奏夜はそろそろ止めるべきか、と思いつつも、静観するのみだった。


「なんでそんな――」
「っ、うるさい!! うるさいうるさいうるさいうるさぁい!!」


割り込むようにシャナは怒鳴る。


「なんで今、今みたいなときに、そんなこと言うの!?」


悲しみと怒りを入り混ぜて、シャナは叫んだ。


「シャ――!」





「“うそつき”!!」





「!!」


直接ぶつけられた感情に気圧され、悠二は今度こそ、完全に思考が停止したようだった。
声の主であるシャナも、強く歯を噛んで俯く。


「……空気読めねぇな。お前はよ」


奏夜が髪を掻き上げつつ、悠二の後方を指差した。


「後でいくらでも説得できるとは思うが……ま、吉田を追うってんなら止めない」
「先、生」
「ほら、さっさと行け。ただ、優先順位くらいは頭の中に入れとけよ」


俯いたシャナを見て、しかし葛藤を押さえ込み、悠二は告げる。


「……ごめん、なさい」


ただ一言、謝罪を残し、悠二は人混みの中に消えていった。
シャナが何事か口にした気がしたが、それは人々の喧騒に紛れてしまう。


「大丈夫か?」
「……うん、大丈夫」


奏夜の気遣いが、無性に嬉しかった。


「あのバカは放っといてもいつか来るだろ。俺達は先に、その『儀装の駆り手』とか言うヤツのとこに行こうぜ」
『うむ。幸いそれほど遠くはない。直ぐに向かうとしよう』
「うん」


奏夜に続く形で、シャナは髪を揺らしながら走り出す。




「大丈夫。ちょっと前までと――同じ」




◆◆◆


気配の端を辿り、二人が着いた先は御崎大橋だった。
そこには既に、マージョリー、名護、カムシンの三人が揃っていた。


「遅いわよ」
『ヒーッヒッヒ、俺達の方も来て一分と経ってねえだろブッ』


普段のやり取りは、状況が状況なので全員スルーした。


「奏夜君」
「どうも、名護さん。キャッスルドランは行きましたか?」
「ああ、助かったぞ。恵と由利だけでなく、嶋さんとマスターも避難済みだ。礼を言おう」
「いえいえ、恐悦至極。……で」


名護から、隣に立つ小柄な影――カムシンに目を移す。


「あんたが『儀装の駆り手』か」
「ああ、お初に御目にかかります。もう一人の王、『キバ』。御兄弟より、お話は伺っておりました」
「は? 御兄弟?」


聞き捨てならない単語に、奏夜が顔をしかめると、


「おい、『儀装の駆り手』。近くのマーキング位置を見てきたが、やはり僕では詳しい分析が――」


背後から聞こえてきた懐かしい、しかし聞き知った声。
振り返れば、そこには、白いジャケットに青いジーンズを着た姿。


「兄さん!?」
「太牙!?」
「奏夜、それに名護」


奏夜と名護を見た太牙も、再会への喜びを見せる。


「久しぶりだな。元気そうで何よりだ」
「兄さんこそ久しぶり!」
「帰ってきてたとは聞いてたが、また妙なところで会うな。太牙」
「ああ、僕もそう思うよ。名護」


フレンドリーな会話を展開する三人。
吃驚したのはフレイムヘイズ二人だ。


「兄さん?」
『あん? 兄貴なんていたのかよ?』


マージョリーとマルコシアスが、現れた青年を見ながら、驚愕を刻んだ声を発す。
さすがのシャナも、目を見開いていた。


「奏夜の、兄弟?」
「ああ、シャナやマージョリーには話してなかったっけ。兄さん、電話で話したろう。俺の仲間」


シャナとマージョリーに向け、太牙は頭を下げる。


「『炎髪灼眼の討ち手』と『弔詞の詠み手』だな。奏夜から話は聞いてる。チェックメイトフォーのキング、登太牙だ」


似てない。
シャナとマージョリーは素直にそう思った。


礼儀正しいなんて言葉とは無縁の奏夜と、こんな礼節をわきまえた人間が兄弟なわけがない。


「なんかすげー失礼なこと考えなかったか?」


奏夜は鋭かった。無駄に。


「ああ、そろそろ話を進めても?」


場の空気をまるで読まないカムシンだったが、今回ばかりは、その判断は正しいだろう。
奏夜絡みの話は、どうやっても、会話の本筋から反れる。


「ああ、頼むよ。一体何がどうなってるんだ?」


奏夜の言葉を皮切りに、六人の話は始まる。


◆◆◆


「つまり、纏めるとこういうことか」


粗方の事情を聞き終え、名護が現状を整理していく。


――現在行っている“異常”は、カムシンの作り出した、調律の自在式の支配を、ある“紅世の王”に奪われたことが原因である。


“探耽求究”ダンタリオン。通り名は“教授”。
彼は紅世とこの世の双方に関心を持ち、それらの有り様を解き明かす、研究者のような活動をする強力な王。
知識欲に忠実かつ、気分屋な彼の行動は、熟達したフレイムヘイズでも読みづらい。


端的に表現すれば、紅世の王屈指の変人だ。


事実、カムシンやマージョリーといった歴戦の猛者までも、今回のダンタリオンの『目的』は想像がつかなかった。


「ふむ。なるほどね……なぁカムシン。参考までに聞くが、調律のコントロールってのは、そのマッド博士が目をつけるほどのモンなのか?」
「正直な話、あまり価値があるとは言えませんね」
『ふうむ。こと教授の知識欲を満たす、という点で言えば、調律は既に確立し尽くされた自在式じゃしのう』


カムシンが短く答え、ベヘモットが補足する。
事件の糸口は、そう簡単に見つからないようだ。


「だが、やはり妙だな」


そこへ太牙が口を挟む。


「いずれにせよ、高度な自在式であるのは確かだ。なら、使用者の気配がまるでない、というのは可笑しいだろう」
『あー、確かにキングの兄ちゃんの言う通りだぁな。こーやって自在法は動いてんのに、あのトンチキ発明王の気配を気ほども感じねぇ』
「そうね。あの“愛染の兄妹”でも、自在法の起動後には気配を現してたのに」


経験と照らし合わせ、マージョリーとマルコシアスも唸る。


「とにかく、ここで考えてても埒があかねーぜ。その調律とやらの自在式を、片っ端からぶっ壊していこう」
「そうね。調律ならやり直しが効くし、ぐずぐずしてたら、何かしらの手が打たれてしまいかねないわ」


奏夜の単純な提案に、シャナも同意する。


「ああ、できればいいのですが」


だが、カムシンは同意しかねるという風に、重々しい仕草で、顎に手を当てる。


「はあ? その自在式はあんたたちが設置したんでしょ?」
「僕に破壊は無理だったが、仕掛け人であるお前が、破壊できないということはないだろう」


太牙とマージョリーの抗議にも、カムシンは思案する態度を崩さない。


「ああ、いえ、単純な推測です。あの“探耽求究”が、自らの仕掛けの鍵とした血印に、易々と手出しをさせるとは思えませんから」
「確かに。聞いた限りでは、かなり狡猾なヤツのようだからな。罠を仕掛けている可能性は高い」


名護も慎重に、これからの行動を見極めていく。


「じゃあさ、マッド博士の自在法の範囲から、発生源――中心を推測して辺りを探ってみるってのはどーよ? 何か俺達がアクションを起こしゃ、向こうもリアクション取るだろ」
『まー当面はそんなトコか。隠れてる奴を炙り出してブチ殺す。基本中の基本だ。ヒッヒ』


マルコシアスは安直に同意したが、全員もとりあえず、それが最善策と取ったらしく、太牙がカムシンに聞いた。


「自在式の中心地はわかっているのか? “儀装の駆り手”」
「ああ、感じていますよ。答えはごくごく単純です」
『ふむ。つまりは市街地の、人通りの多い駅前から大通り辺りじゃな』


カムシンとベヘモットが言い終わるか言い終わらない内に、シャナは紅蓮の翼をはためかせ、


「じゃあ、行く」


言い捨て、夜の帷へと舞い上がった。


「なに焦ってんのかしら、あいつ」
「そっとしといてやってくれ。シャナも思春期真っ最中だからさ」
「いや思春期……ってああ、そっか。坊やと喧嘩でもしたの?」
「ご明察」


奏夜の適当なフォローを聞きながら、マージョリーもグリモアに腰掛け、宙に浮かぶ。


「それじゃ、私たちも行きますか」
「そだな。あ、名護さんと兄さんは、念のため、別の場所調査してみて下さい。
こっちの頭数は、三人で十分ですんで」
「わかった、任せなさい。適度な時間で落ち合うとしよう」
「よし、啓介と僕は市境を中心に当たろう。御崎市以外にも、被害があるのか否か、探りは入れるべきだ」
『ふむ。では我々も、マーキングしたカデシュの血印を探し、本当に妨害があるか、その動きで奴が僅かでも、尻尾を出すか試してみるとしようかのう』
「ああ、結構、それでいきましょう」


各々方針を定め、成すべきことを果たすべく散っていく。


戦いの狼煙が、夜の闇に上がった。



◆◆◆


「シャナァー―! 何か見えっかぁ!?」


御崎市大通り。
爆音を轟かせながら、真紅の鉄馬・マシンキバーは走らせる。


来る途中、浴衣から着替え、普段の着崩したワイシャツとスーツに戻った奏夜は、自在式の中心地に向かっていた。


紅蓮の翼で飛翔するシャナが、上空から声を張り上げる。


「御崎駅! 繭みたいなものが巻き付いてる!」
「マッド博士の気配は!」
「ううん、やっぱり“王”の気配は感じない!」
『あの妙な建造物が隠蔽しているようだ!』
「成る程。――それなら!」
「うん!」


奏夜とシャナ、二人の声が重なる。


「ぶっ壊すッ!」
「焼き払うッ!」


シャナの双翼が、煌々と輝く軌跡を描き、コードや電気パイプが絡みつく奇妙な繭へ突っ込んでいく。


「奏夜ぁ~~!」


マシンキバーを駆る奏夜、そこへ金色のコウモリ、キバットバット三世が飛んでくる。


「探したぜぇ! 一体何がどうなってんだこりゃ?」
「話は後だ。あの繭を壊す、キバの鎧出してくれ!」
「うぇ? いいのかよ、ここかなり人目につくぜ?」
「安心しろ。今回は大丈夫だ」


――現在、御崎市には“平静の波”というものが発生している。
簡単に言えば、“そこにある異常を、それが普通だ”と強制的に納得させてしまう作用。


カムシンが言うには、誤作動を起こした調律の“歪みを正す”という特性が中途半端に生きた結果らしい。


「だから、キバへの変身も思う存分にできるってわけさ」
「なるほどねぇ~。よっしゃ、んじゃま、キバッて行くぜ!」


奏夜が翳した手を、飛び回るキバットが力強く噛む。


「ガブッ!」


アクティブフォースが注入され、奏夜の頬にステンドグラスが浮かび上がる。


『変身!』


キバットベルトにキバットが止まり、奏夜に光の鎖が巻きつき、弾け飛ぶ。
夜の闇に、蝙蝠の仮面を輝かせ、キバへの変身が完了した。


「おい、あれ!」「蝙蝠、いや吸血鬼?」「違う、あれ仮面ライダーだ!」「マジで!」「風都以外にも居たのか!」「でもあれって都市伝説だろ!」「すげー、本物だ!」


ギャラリーの歓声が、バイクが切る風に乗って入ってくるものの、構いはしない。
また平静の波が来れば、キバの姿も常識に埋もれてしまうのだから。


「シャナ! 同時攻撃だ!」
「わかった!」


贄殿遮那の刀身に、紅蓮の炎が渦を巻き、キバはベルトからバッシャーフエッスルを取り出す。


『バッシャーマグナム!』


キバットが吹き鳴らす音色。呼び寄せられたバッシャーマグナムを掴んだキバは、バッシャーフォームへと変わる。


「ラモン、手加減なしでいくぞ!」
『りょうかいっ!』
『バッシャーバイト!』


キバットが銃身の後部を噛み、魔皇力がチャージされる。
夜空に浮かぶ月が霧に覆われ、キバBFのテリトリーである半月へと変わった。
バイクを止め、繭に向けて照準を合わせる。


『いけぇ!』


シャナが生み出す凄まじい熱量の奔流が、キバBFがアクアフィールドから作り出した水球『バッシャーアクアトルネード』が、御崎市駅へと牙を剥く。


――しかし、


「なっ!?」
「げっ!?」


急に、攻撃の道筋が反れた。
シャナの火炎流は、天に向かって直角に立ち上り、キバBFの水球に至っては、進んでは戻り、進んでは戻りを繰り返している。


「くっ!」
「……いい攻撃だ。感動的だな。だが無意味だ」
『この状況でそのセリフ止めてくれます?』


ラモンのしょげた声を聞くに、余程自信のある一撃だったのだろう。


バッシャーアクアトルネードは、狙いを定めた敵をどこまでも追いかける、ホーミング攻撃。
しかし、その追尾能力はターゲットをロックできたに過ぎず、何らかの力に阻まれ、弾丸はいったり来たりを繰り返している。


「これじゃ多分、次狼も力も効果ナシだな」


遠距離戦は無意味と悟り、一旦バッシャーフォームを解除するキバ。


「なら、直接突入して」
「だな」
『待て、キバ、シャ』


アラストールの警鐘を無視し、シャナとキバはそれぞれ、繭に向かって特攻をかける。が、


「っあ!?」
「っとぉ!?」


突然だった。


シャナは双翼のコントロールを失い、アスファルトの地面を砕きながら落下。
キバは、マシンキバーの前輪があらぬ方向に向き、そのまま見事に横転した。


「く……しまった」
『どうした、迂闊だぞ』


アラストールの冷静な声がシャナを諭す。


「……なぁキバット。マシンキバーに保証書って付いてたっけ」


「心配しなくても、新型プリ○スみたいな問題はこのマシンにねぇよ」


早よ立て、とキバットに促され、キバは気怠そうに、シャナの傍へ。


「俺達自身も、軌道を反らされる範囲内ってわけか」
「うん。いきなり翼が操れなくなった」


予想以上に堅牢な防御に立ち往生する二人。と、そこへようやく、グリモアに乗ったマージョリーが舞い降りた。


「見事な横転だったわね」
「言っとくが、車検にはちゃんと行ってるからな。で、お前の方はどうだ?」
「うーん、そうね……」


グリモアに手を添え、自在式を繰るマージョリー。


「とりあえず、こんなもんかしら」
『あいあいよー。弾は』
「あれ」


マルコシアスに答えるマージョリーが指差した先――ビルの避雷針が根元から折れ、群青の炎を噴きながら、彼女らの元に飛来する。


『バンベリーの街角へ』
『馬に乗って見に行こう』
『白馬に跨る奥方を』
『指には指輪、胸に鈴』


『弔詞の詠み手』の十八番『屠殺の即興詩』が紡がれ、避雷針に幾多の自在式が巻き付いていく。


『どこへ行くにも伴奏つき、よ!』


駅を指差したマージョリーに呼応し、群青に輝く避雷針が、閃光となって突撃する。
バッシャーアクアトルネードが阻まれた先へ、避雷針は突き進んでいく。


しかし、進む距離に比例して、避雷針に刻まれた自在式は剥がれ落ちていき、最後には弾かれてしまった。


「あーらら、あれだけ念入りに干渉への防御を施したってのに、半分もいかない内に解除されたか」
『こーりゃ、ちょいと厄介だな。我が技巧の自在師、マージョリー・ドー?』


さすがに行き詰まりの空気は否めない。


優れた自在師たるマージョリーでどうにもならなければ、シャナとキバなど論外だ。


「闇雲にやるだけじゃダメってことね」
『うむ……さすがは世に名だたる“探耽求究の自在式よ。色々と不審な点もあるが、正攻法で崩すのは難しかろう』
「かといって、こっちにあるカードじゃ、対抗策は練れそうにないぜ。 幻想殺しか赤い鉄砕牙でもあれば、話は別だけどよ」


キバの例えはともかくとして、確かに事態は深刻だった。
繭を忌々しげに睨みながら、全員が頭を抱えることになる。


そんな時だった。


《姉さん!》
「わっ!?」
「おっ」


マージョリーとマルコシアスしか聞こえない声が、二人の意識内に入ってくる。


「遅い! なにグズグズしてたのよ」


傍目から見ると、独り言にしか聞こえない様子に、キバとシャナは怪訝そうな顔つきになる。


「マージョリー、誰と話してんだ?」
「こっちの協力者。ソウヤも知ってんでしょ」
『ちぃっと離れた場所から、この自在式の観察頼んでんだよ、ヒッヒ』
「協力者……って、ああ。なるほど」


田中と佐藤のことか。


浴衣姿のマージョリーからして、祭りに来ていたのは明らかだった為、田中と佐藤が一緒にいるのは、別に可笑しくない話だった。
マージョリーは最初、通話先と揉めているらしかったが、すぐ的確な指示を与える。


「で、自在式はどうなってるの。表現できる範囲でいいから説明して」


シャナとキバに向き直りつつ、マージョリーは人差し指を二人の額に添える。
マージョリー達にしか聞こえない会話を、二人にも聞かせる為のものだ。


《道路沿い、でしょうか。以前の“愛染の兄妹”の『ピニオン』みたいに、街のあちこち、所構わず、って状態じゃなくて……ほとんど道路だけに張り巡らされてます》


頭に響く声は、田中栄太のもの。


「……? この声、どこかで……」


マージョリーと彼の関係を知っているキバはともかくとして、シャナはそれを奇妙に思う。


『うーむ、やっぱ規模から見ても、トンチキ発明王が自分で直接、ドでけえ自在法をしかけなきゃなんねぇはずだがな』
「それって、気配消して出来る芸当なのか?」
「難しい……っていうか、ほぼ無理ね。“教授”はかなり力の強い王だから、どうやっても気配の残滓くらいは残るわよ」


それが無いから、問題なのだ。
キバは顎に手を当てる。


「完全に雲隠れってわけか。ちっ、今にも立木さんボイスで『INVISIBLE』とか聞こえてきそうだ。いくらなんでも手掛かり無さ過ぎだぜ」
「この分じゃ、気配探知にも引っかからないわね」
《?》


通話向こうで、田中は首を傾げた。
この気だるさの権化のような声と、凛とした張りのある声。
どこかで聞いたような気がしたからだ。


『いっそ、でけぇ封絶でも張って、人間以外を吹き飛ばしちまうってのはどうだ? ヒッヒヒ』
「そーね。自在式が消えたら御の字。そうでなくても、街に自在式が仕込まれてんだから、街をブチ壊せば、手掛かりくらいは見つかるんじゃない?」
「うーん、気乗りしねーけど、確かに封絶張っとけば、街や人は再生可能だしなぁ」


かーなーり渋々ながら、キバはゴーサインを出しかけて――


「待って」


シャナが制止の声をかけた。


「なによ、文句――って」


言い返しかけたマージョリーが固まる。


『馬鹿な』
『どーいうこった?』


声を驚愕に染める二人の王。


「なるほど。俺達は初動捜査からして間違ってたわけだ」
「見つからねぇわけだぜ」


キバとキバットも、遥か彼方――“教授”のけたたましい気配を感じ取っていた。


初動捜査の誤り。
この周辺――御崎市から“教授”の気配はしない。


当たり前だ。




そもそも“教授”本人が御崎市にいなければ――気配など捕捉しようがないのだから。




◆◆◆


御崎市から遥か遠くに位置する白峰駅。
ここでも一つの“異常”が、日常を食い潰していた。


なんと、御崎市方面への線路上――それこそ戦隊モノのセットよろしく、地面が開き、奇妙な車両『我学の結晶エクセレント29182―夜会の櫃』が姿を表したからだ。


地の文にするのも躊躇われるネーミングのそれは、ウィーン、ガシャン! というお約束極まりない効果音を立てながらせり上がってくる。
同時に拡張機から無駄にハイテンションな声が轟く。


《ェエークセレント! やーはり発進は地ぃー下からが基本ですねえ―?》


“教授”がよくわからない美学を語りつつ、


《そぉーれでは、いぃーよいよ実験もクライマーックス!! 『我学の結晶エクセレント29182―夜会の櫃』……発―――ッ、――ッ、進!!》


教授の合図とポチッ、という人によってはかなりイラッとくる音と共に、機体とエンジンからは蒸気が沸き立ち、付属する汽笛が一斉に雄叫びを挙げた。


《いーざ征かん!! 心ときめく実ーっ験場へ!!》


凄まじいスピードで、教授の研究成果は御崎市に向かい始める。


◆◆◆


(助けて)


吉田一美は河川敷の一角にしゃがみこんでいた。


浴衣はやや着崩れ、目を泣きはらしている。
悲哀、絶望を体現したようなその様を、道行く人々は物珍し気に眺めるが、その視線に構っている余裕は、吉田に微塵も残ってはいなかった。


(ここから、私を出して)


――受けたショックを鑑みれば、当然の話だった。


(お願い、誰か、ここから、私を、坂井君を、助け出して!)


彼女が味わった絶望は、どう見積もっても、一般的な高校生の女の子が許容可能なレベルを超えている。


否――誰にでも、許容など不可能だろう。
ただ一つ信じたかった現実――大切な人は生きているということを、『坂井悠二は生きている』という希望を、根刮ぎ打ち砕かれたのだから。


失意の内の逃避も、至極当然な反応。奈落の底に叩き落とされた少女はただ、世界の理不尽さを嘆く。


(坂井君が、もう……どうして、坂井君が、坂井君だけは無事でいてって、“それだけ”なのに!!)


泣こうが喚こうが、どうしようもない願いを聞けるほど、世界の真理は暇ではない。
世界はただ、少女を苛み続ける。


――坂井悠二はトーチ。
いずれは燃え尽き、墓標もない忘却へと消える存在。





彼女の抱いた想いさえも、全ては無に帰す。





(嫌だ!)


認めたくないと、吉田は懸命に抗う。
それが決して、世界に聞き届けられない“どうしようもないこと”だと、自覚したくない一心で。


(嫌だ嫌だ嫌だ! 私は坂井君が好きなの、なのに、どうして――)




「一美ちゃん?」
『◆〆〇▲?』




なんの前触れもなく、そこにいた。
声に振り向き、吉田の眼前に飛び込んできたのは、銀色の浮遊物体。


『◎∂◆〇?』
「サガーク、くん?」


吉田の掌に乗るサガークの瞳は、何処か心配そうに、彼女を見つめていた。
次いで、土手沿いの道から掛かる、聞き知った声。


「こんなところで、何かあったのかい?」


白いジャケットを羽織った青年もまた、吉田の纏う雰囲気に、目を瞬かせていた。


「太牙、さん……」


吉田の頼りなく、縋るような口調から、太牙は慎重に言葉を選ぶ。


「なにかあったなら聞こう。泣き顔は、女の子には似合わないよ」
『◆◎∇∂!』


太牙の優しい笑顔と、サガークの励ますような声。


――今の吉田にとって、それはあまりに温かく、安らぎを与えてくれるモノだった。


「――ぁ」


抑え切れなかった感情が、涙となって零れ落ちる。
次の瞬間、吉田は堰を切ったように泣き出した。
太牙達がくれた安堵も、未だに残る不安も、全てがごちゃ混ぜになり、ただ嗚咽を洩らすことしか出来なくなる。


「え、ちょ、一美ちゃん!?」
『◆∂〇!?』


太牙とサガークが慌てているのが分かったが、結局それを止めることは出来なかった。




――世界に助けは届かずとも、違う誰かに助けは届く。


絶望の淵に立つ少女の声は、確かに裁きの蛇へと届いていた。


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  1. 2012/04/03(火) 21:53:54|
  2. 仮面ライダーキバ/BLAZING.BLOOD
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