紅蓮の牙

二次創作中心。仮面ライダーキバと灼眼のシャナのクロスを連載中。

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第十七話・歪曲/非常なる現実.前篇

ファンガイア。人間を糧とし、それは太古より栄えてきた闇の一族。
チェックメイトフォー。ファンガイアを管理し、その秩序を守る四人の戦士。
キバ。サガを始め、装着した者に絶大な力を与える魔の鎧。


そして――キング。チェックメイトフォーの中でも一線を画し、ファンガイア全てを統率する権限を持つ王。


◆◆◆


「そのキングが……、太牙さんなんですね」
「うん。闇の一族の王にして、サガの鎧の資格者。それが僕、登太牙だ」


御崎市のとある路地裏。
結局あのまま、カムシンのマーキングに付き合うことになった吉田一美と登太牙の両名。
カムシンは現在「この辺りのマーキングは複雑なので、しばらくここで待っていてください」と言い残し、何処かへ消えていた。


結果的に、この二人きりという状況下は、太牙にとって逃げ場が無くなったのと同義だった。


不可抗力とはいえ、サガの変身を見せてしまった太牙は、吉田への説明を余儀無くされてしまったのである。
ここまでしてしまったのなら、知らないよりも知った方が、彼女の危険は減るとの考えだった。


(『儀装の駆り手』のことも言えないな……)


度重なるショックに俯く吉田を見つつ、太牙は自己嫌悪に陥る。
幾分か配慮はあるものの、結果的に彼と同じことをしてしまった。


「……僕らの名誉の為にも言っておくけれど、今のファンガイアの殆どは、人間を餌としていない。“徒”と比べれば、格段に友好的な種族だよ」


口から出る励ましも、今の吉田にとっては、酷く頼りない支えに過ぎない。


(なんで……私は“こんなところ”にいるんだろう)


自分の認知から外れた世界、そこから現れるファンガイアの恐ろしさを、彼女は身を持って体感してしまった。
常識をいとも簡単に破壊する恐怖は、なかなか拭い去れるものではない。


『◆〇〆¥!!』
「きゃっ!?」


突然視界に現れた円盤――サガークに驚く吉田。
外に出られた喜びからか、くるくると吉田の周りを飛び回る。


「この子って、さっき太牙さんと一緒にいた……」
「ああ、サガークと言ってね。悪いやつじゃないよ」
『☆△●∂!』


サガークはしきりに奇妙な言葉を発しているが、無論吉田に、その意味はわからない。


「えっと、サガークくんは何て言ってるんですか?」
「サガークの円盤に手を置いてごらん」


太牙に促され、吉田はサガークの頭部(?)にある青い円盤へ手を乗せる。


『ハジメマシテ』


緩やかに円盤が回ったかと思うと、吉田の脳に、機械的な声が届く。
奇妙な感覚に驚きつつも吉田は、


「は、初めまして」


ぺこりと可愛らしく頭を下げるサガークに、吉田も軽く会釈する。


『ゴメンネ。サッキハコワガラセチャッテ』
「う、ううん。別に太牙さんやサガークくんが悪いわけじゃないよ」
『デモ、ヤッパリイマモコワガッテル』


心中を見抜かれ、吉田は肩を跳ね上げる。


『ダイジョウブ。タイガハツヨイカラ、キットマモッテクレルヨ』


機械的な声からでも、はっきり伝わる温みのある言葉だった。
……今のは、なぐさめてくれたのだろうか。
太牙がこそばゆそうに頬を掻く一方、吉田は暗くなりかけていた心が、少しだけ軽くなるのを感じた。


自然と、顔が笑みを作る。


「……ありがとう。サガークくん」
『∞◎●☆!!』


気を良くしたのか、サガークは吉田の頭の上へちょこんと乗る。


「珍しいなサガーク。一美ちゃんが気に入ったのか?」
『∂◆£◎!』


サガークの表情は変わらないものの、吉田と同じく笑っているようだった。


「すまないね。こう見えて子供っぽいヤツだから」
「あ。いえ、気にしないでください」


サガークが与えてくれる和やかさは、吉田も純粋にありがたかった。
が、その空気を読まないのが、あの老成したフレイムヘイズである。


「ああ、お待たせしました」


音も立てず、路地裏に現れたカムシンに、吉田の肩が跳ね上がった。


「マーキングとやらは終わったのか?」


太牙が変わらず、不機嫌そうに問う。


「ええ。少々手こずりましたが、これで昨日からつけておいたものと合わせて、何とかなるでしょう」
「……」
「本当に手伝ってもらうのはこれからですが……よいですか、お嬢ちゃん」
「安心してくれてよいぞ。この作業が終われば、まずお嬢ちゃんの生きている内は、人喰いがこの街を襲うようなことはあるまい」


ベヘモットの言葉がどこから本当で、どこからが希望的観測なのか、吉田には判断する術がない。
よいですか、と聞かれても、彼女にはそれを信じるしかなかった。


吉田が頷いたのを確認し、カムシンは彼女の手を握る。


「お嬢ちゃん。怖ければ、目を瞑っているように」


今までの恐怖からか、吉田は言われたとおり目を閉じる。


「キング、あなたは自力で着いてこられますか」
「みくびるな、僕を誰だと思っている」
「ああ、これは失敬」


そんなやり取りを聞きつつ、吉田が次に感じたのは、まるでジェットコースターにでも乗っているかのような圧迫感と風の轟音。
目を開けた時、吉田の視界は御崎駅付近にある、高いビルの屋上へと移動していた。


「っと」


隣で太牙が、左足から地面に着地した。
――彼の姿を見るに、どうやら自分はカムシンに連れられ、ここまで飛んできたらしい。


「では、そろそろ始めるとしましょう」


手際良く、カムシンは準備を進めていく。


「おかしなところを直すために、あちこち行くんじゃなかったんですか……?」
「ああ、それはそれで間違っていませんが、例えでもあるんです。さっきまで行っていたマーキングによって、お嬢ちゃんはこの街を自由自在に感じることになります」
「?」
『◆〆?』


吉田が首を傾げ、頭に乗ったサガークがそれを真似た。


「ああ、そうですね。とりあえず、作業を始めた方が早いかもしれません」
「うむ。キング、少々自在法の操作を手伝ってもらえんかね」
「僕がか?」
「ええ。何分この街は魔皇力の色が濃く、自在法の発動が僅かに阻害されるのです。
私の力は全体を上手く纏めるのに向いているのですが、そのせいかそこら中の魔皇力まで自在法に組み込んでしまうようでして」
「成る程。だから魔皇力が入らないようにしたいというわけか」


自在法と魔皇力は、互いに発動システムが大幅に異なるため、併用すればどちらかが誤作動を起こす。
ここ一帯には、人造ライフエナジーのプラントもいくつかあるため、それも無理からぬことだった。


「いいだろう。だが、一美ちゃんに手荒な真似はするなよ」
「勿論」


カムシンとしても、そのつもりはまるでない。 もっとも、彼からすれば、それも何十回と繰り返してきた手順に過ぎないのだろうが。
カムシンは無造作に、オレンジ色のフードを取った。


『!!』


その下にあった顔の全体に、吉田のみならず、太牙も息を呑んだ。
褐色の肌に、痛々しく走る無数の傷跡。


二人がその異様さに身を強ばらせる。


「……フレイムヘイズに、視覚的な変化は起こらないと聞いていたが」
「本当は全て治せたんじゃが、こ奴がきかなくてのう」
「治、せた……? 消せた傷を、残したんですか」


背中に背負っていた布巻き棒を、片手で巧みに操りながら、カムシンは吉田の疑問に答える。


「ああ、これは私の戦いの思い出なのです。
キングの言う通り、我々の体は本来変化しないのですが、誰かとのやり取りを……その結果、刻みつけられたものを受け入れることで、自然と跡が残ることがあるのです。戦歴が長いとその分、思い出もたくさんたまってしまう」


一言一句に、歴戦の中で培われた貫禄が垣間見えた。
僅かな畏敬を感じつつ、太牙は魔皇力の操作を手伝いつつ、隣のカムシンに問う。


「『儀装の駆り手』。なぜわざわざ、過酷な戦いの傷跡を、思い出として刻む?」
「つらいからこそ、です。痛みを覚えていなければ、そこにあった他の思い出をも忘れてしまいますから。
――あなたも立場上、似たような感情を抱いたことがあるのでは?」


太牙の顔が、引きつり、次に苦虫を噛み潰したような表情に変わる。


「……随分、見透かしたようなことを言ってくれるな」
「失礼。気を悪くされましたか」


琴線に触れたのを感じ、あっさり退くカムシン。だが、太牙の心に落ちた不快感は消えない。
四年前のつらい戦いがあったからこそ、自分はここにいる。




“あの人”との別れも――また然り。




否応なしに、今の喜びは過去の悲しみによって培われたということを、再認識させられてしまった。
魔皇力を操る手は止めないまま、太牙は隣に立つ淡白なフレイムヘイズを睨む。


どうも太牙は、カムシンが好きになれそうになかった。


◆◆◆


場所は移って『カフェ・マル・ダムール』。
既に店は閉まり、限られた人間のみが店内に残る程度。
普段ならば、マスターが静かに明日のコーヒー豆の準備をしている時間。


――そう、普段ならば。


「さすがにそれは聞き捨てならんぞ奏夜君!」


名護の鋭い声が、店内に響く。
テーブルには、本日の夕飯、クリームシチューとご飯。


「そりゃこっちのセリフです! いかに名護さんと言えど、こればっかりは譲れませんよ!」


奏夜の下にもシチューはあるが、傍らにあるのはご飯ではなくフランスパンだ。


「黙りなさい! 俺は常に正しい! 俺が間違うことはない!」
「懐かしいフレーズをどうも! だが俺は謝らない!」
「……まーだやってんのね、向こうは」


別のテーブルで、同じくシチューを口に運ぶ恵が、悲しいものを見るような目で、奏夜と名護を見ていた。


「静香お姉ちゃん。お父さんと奏夜お兄ちゃんは何やってるの?」
「今の二人を見ちゃいけません。大丈夫、由利ちゃんは永遠に理解しなくていいことだから」


静香の淡々とした答えに首を傾げる由利だったが、食欲には勝てないのか、すぐに食べる作業へ戻る。


――状況説明。
祭りの約束をした奏夜と静香は、そのまま紅家で夕飯を食べる予定だった。
だが、ここ連日忙しかった(主に第X話の騒動)奏夜は、買い溜めしていた材料が切れていたのを忘れていたのである。


年頃の女の子にインスタントは忍びない。ということで、マル・ダムールへと足を運び、夕飯にあやかろうとしたわけだ(ちなみにキバットとキバーラは、インスタントで満足したため留守番)。


幸い、名護ファミリーもまたマル・ダムールで夕飯作りをしていたため、二人は手伝いをする条件で、夕飯をご馳走になることとなった。


「ここまでは良かったんだけどね……」
「まさか奏夜と名護さんに、こんな無駄なこだわりがあったなんて……」


シチューに目を落としつつ、恵と静香は溜め息をつく。そう、シチューを作ったまでは良かったのだ。
問題はその付属品。
主食となるべきものに対し、奏夜と名護の意見がはっきり分かれたのだ。


要するに、


「私に同じことを二度言わせるな! シチューはご飯と合わせてこそ美味いんだ!」
「考えらんねぇ! カレーでもあるまいし! シチューに合う主食はパン以外ありえません!」




こういうことである。
ありがちな、食べ物に対する無駄なこだわりだ。


『どっちでもいいのにねぇ』


恵と静香は、騒がしい二人を捨て置き、自分のペースで食を進める。


「ここまで言っても分からないか! ならばそのふざけた精神、食の神に返しなさい!」
「いいでしょう、ただしその頃には、名護さんは八つ裂きになってるでしょうけどね!」


奥の席では物凄い激論が繰り広げられているが、まぁ、あの二人のことだから、その内自然と仲直りするだろう。
長い付き合い故に許される、完全スルー。


「そう言えば静香ちゃん。ミサゴ祭りって誰かと行くの?」


奥の席の二人に意識を向けないよう、恵はタイムリーな話題を振る。


「もし静香ちゃんが良かったら、私達と一緒に回れないかなーって思ってたんだけど」
「静香お姉ちゃんも、由利たちと行こうよ!」
「あ……えっと」


期待100%の笑顔に、歯切れ悪く言いよどむ静香。


「ごめんなさい。私、その日はちょっと……」
「あら、もう予定入ってたかな」
「や、あの、予定っていうか……」


静香の目線が、恵の背後へと動いた。
目ざとくそれに気付いた恵は、振り返って静香の視線の先を追う。


行き着いた先は、自分もよく知る茶髪の青年――紅奏夜。


「……あぁ」


ニヤニヤと、楽しいおもちゃでも見つけたような笑みを浮かべる恵。
片や静香は、顔を耳まで紅潮させていた。


「? 静香おねえちゃん、顔まっかだよ?」
「だ、大丈夫よ由利ちゃん。にゃんでもないから」


動揺からか、見事に言葉を噛んでいた。
恵は口に手を当て、笑いを堪えている。


「そっかそっか。静香ちゃんもよーやく、そういうアクションが取れるようになったかー」
「茶化さないでくださいよ……。私にとって、今回はかなり冒険だったんですから」
「あはは。ごめんごめん。けど、まだ安心しちゃダメよ」


恵は静香ちゃんの前で、人差し指をビシッと立てる。
自分と名護のことを思い出し、世話を焼きたくなってしまったようだ。


「奏夜くん、他人のことに目が行きがちで、自分のことが疎か気味だから、かなりはっきりした好意を見せてあげなきゃ、静香ちゃんの気持ちには気付かないわ」


静香は頷く。
それは常日頃から思っていることだ。


「だからさっさと押し倒しちゃえ♪」
「っ!? いいい、いきなり何言ってるんですか!」


奏夜に聞かれないかと様子を見るが、幸いにもシチュー道を語るのに忙しい彼には届かなかった。


「いいじゃない。なんかもう色々と捧げちゃいなさいな」
「何をですかっ!? 突飛な話しないでください! 大体、私と奏夜はまだそういう関係じゃないですっ!!」
「ふ~ん?」


まだ、か。


(そういうことしたい願望が無いわけじゃないのね♪)


これをネタにしようかと思うも、顔を赤く染め、若干涙目になりつつある静香をこれ以上いじめるのは、さすがに可哀想だった。
その思考を飲み込み、恵の静香いじりはひとまず終息する。


「――でも、静香ちゃん。これだけは覚えておきなさい」


さっきのからかい口調から一転、恵は真剣なトーンと共に唇を動かす。




「あなたが奏夜くんに向ける感情は、必ず彼を苦しめる」




貴女が報われるか報われないかに関わらず、ね。と恵。


「……」


静香は閉口し、恵の話を聞く。


「それに、もしすべてが上手くいったとしても――」
「わかってます」


自分がどれだけ、身勝手なことをしているのかは、とうに理解していた。 ――奏夜が、“その感情”のせいでどれだけ傷付いたのかは、まだ記憶に新しい。


(私が想いを伝えたら、きっと奏夜は“その感情”を思い出してしまう)


それはあまりに醜悪で、残酷こと。だが、それだけではない。


恵の言う通り、静香の想いが実るということは――





奏夜の中から、“あの人”を消し去るという意味だ。





奏夜はいつも前を向いて生きている。
“あの人”との約束だから――と奏夜は言っていた。 だが時たま、奏夜はとても辛そうに、顔を曇らせる時がある。
その時、静香は気付いた。


――奏夜は心のどこかで、まだ“あの人”のことを、自分のせいだと思っている。


幸せになってはいけないと、自らを縛り付けている。
心の暗闇を見据える奏夜に、自分の想いを伝えればどうなるか――それは容易に想像できる。


「……わかってますよ、恵さん。私は本当に自分勝手で、酷いやつです」


それが当然、と言わんばかりに、静香は言葉を紡ぐ。


――私は奏夜がたまに見せる、悲しい顔が凄くキライだった。
だから、暗闇なんて抱え込まなくてもいいから、奏夜に心から笑って欲しかった。
ずっとずっと、そう思い続けて、いつの間にか彼は、自分の一番身近にいる男性になっていた。


『静香、大丈夫か?』


四年前、そう言って私を背負ってくれた彼の背中は、とても大きくて、頼もしかった。


――それは、自分の想いを認識するには十分過ぎる出来事で。


「でも私、諦められないんです」


“あの人”の影がどれだけ強敵であっても。
この選択が不幸しか呼ばなくても。


それに負けないくらい、奏夜を幸せにしたい。


「そのためなら、奏夜を幸せにするためなら、どんな茨道でも歩いていきます」


だって、私は。




「奏夜が好きですから」




迷いのない表情の静香を見て、恵は「……そっか」と呟く。
本当にこの子は――奏夜くんにはもったいない。


「だったら私からは何も言わないわ。友達として、静香ちゃんを全力で応援してるわよ!」
「はい!」


強く頷き合う二人。間に挟まれた形の由利は、ただきょとんとしていた。


片や、恵と静香がそろそろ仲直りしたかな、と思い、奏夜と名護の方を見てみると、どれだけ暴れたのか、二人とも仰向けで床に倒れていた。


「っはぁ、はぁ、どうやら、勝負はドローのようですね……」
「その、ようだな……。ライス派とパン派、どちらが正解か、答えを出すのはまだ先のようだ……。その日まで、勝負は預けよう」
「はい、きっと今度は、俺が勝ちますよ……」


何故か『いがみ合っていた味方同士が、拳と拳で語り合い、互いの実力を認め合った』みたいな空気が漂っていた。
しかも奏夜のセリフが、某沢木さんのようになっている。


……いまだかつて、ここまで無意味な割に激しいバトルがあっただろうか。
そのおかげで、恵と静香の会話が、奏夜に聞こえなかったのだから、複雑な話だ。


取り敢えず、言えるのは一つ。


『二人とも、食事の時はなるべく静かに』
『……………すんません』


女性二人の低い声に、身の危機を感じた男二人は、即座に詫びを入れた。
確かに、テンションが上がりすぎていたのを自覚し、そのまま何事もなく、夕食は終了。


各々談笑に戻る中、店のドアの鈴が鳴った。入ってきた人物を見て、マスターが手を上げる。


「お疲れ様、嶋ちゃん」
「やあマスター。お、奏夜くんと静香くんも一緒か」
「ちわっす」
「お邪魔してます、嶋さん」


二人が頭を下げる傍ら、嶋は何やら、長方形の箱をテーブルの上に置いた。


「あ! 嶋さん、出来上がったんですか?」
「ああ。ギリギリだったが、何とか間に合った。出来る限り、恵くん達の要望に答えたつもりだと自負している」
「ありがとうございます、嶋さん。わざわざ時間をかけさせてしまったようで……」
「気にするな、名護くん。君達のためなら、いくらでも時間を割かせてもらうよ」


礼を言う名護夫妻に、嶋は疲れなど微塵も見せず、むしろ達成感に満ちた顔をしていた。


「嶋おじちゃん、これなぁに?」
「見たとこ、そんなに大きいものじゃないっすよね」
「このサイズだと、服とかですか?」
「静香くん、少し正解」


おどけた口調で、嶋は箱の蓋を外し、中にあったものを由利に手渡す。


「はい由利ちゃん、お父さんとお母さんからのプレゼントだ」
「わぁ!」


箱の中身は、子供サイズの浴衣だった。


ピンクの布地に、黄色い花がよく映えた可愛いらしいデザインだ。
由利が瞳をキラキラさせながら、嶋から浴衣を受け取る。


「へぇ。可愛い浴衣ですね。名護さんと恵さんが頼んだんですか?」
「まあねー。由利も大きくなってきたし、そろそろお洒落してみるのもいいかなって」
「デザインは私と恵で決めてみたんだが、どうだ由利、気に入ってくれたか?」
「うん! ありがとう! おとうさん、おかあさん!」


由利は本当に嬉しそうに、愛情の詰まった宝物を抱え込みながら、華のように笑う。
無邪気な笑顔に、店内がほんわかした雰囲気に包まれた。


「あ、そうそう」


名護ファミリーが浴衣の話題で盛り上がる中、嶋が奏夜へ向き直る。


「奏夜くん、キミに言伝がある」
「? 俺に?」
「ああ、さっき連絡があってな。太牙がこっちに帰って来ているらしい」
「兄さんが!?」


先程の由利のように、目を輝かせる奏夜。


「今日ってことは、もう御崎市にいるんですよね!」
「ああ、だが昼間に少し用事があったらしくてな。今日はどこかのホテルにでも止まって、明日会いに行くと言っていたよ」
「明日か……。じゃあどうせなら、ミサゴ祭りを一緒に回れるようにすれば……」
「えっ」


隣にいた静香が、小さく声を漏らす。
恵が「あちゃー」と額に手を当てる。


「? 恵、どうした?」
「名護くん、ちょっと……」


首を傾げる名護に、恵が耳打ちする。
その間、二人の視線は奏夜と静香に向いていた。


やがて名護が「……なるほど」と呟き、


「奏夜くん、太牙には私達と合流するように言っておくよ」
「へっ?」
「実はミサゴ祭りが終わった後、『マル・ダムール』の前で、花火をやろうかと思っていてね。太牙となら、そこででも会えるだろう」
「は、はぁ、わかりました」


――何だろう、名護さんと恵さんから有無を言わせないオーラが……。


無言の圧力に畏縮する奏夜。
隣で静香が口パクで「ありがとうございます」と伝え、「気にしないで(するな)」と名護と恵もまた、口パクで返事をした。
奏夜の鈍感さ加減には慣れているのか、名護と恵も、これくらいの気遣いは手慣れたものである。


無論、そんな気遣いなど知るよしもない奏夜は、祭りへの期待を胸に、拳を高く上げる。


「じゃ、明日はみんな楽しく盛り上がろう!」
『おー!』


なんだかんだで、キバの周りは今日も平和だった。


――そう、“今日”は。




◆◆◆


時間は少々巻き戻り、夕方。
ビルでの調律を終えたカムシン、吉田、太牙の三人の姿は、夕方で込み合う大通り沿いの道にあった。


「では明日の夜八時、西側堤防の大石段で待ち合わせ、ということで」
「か、勝手を言って、すいません」
「ああ、構いませんよ。ただ、私としては」


カムシンは自分が貸し与え、今は吉田の手が握っている、片眼鏡のような宝具『ジェタトゥーラ』に目を落とし、


「それを使うのは、止めた方がいいと思います」
「……」
「ありきたりな言い回しをするのなら、『知らない方が幸せなこと』もありますからね」
「うむ。我々は助言したぞ? 使わぬ方が良い、と。だからあとは、おじょうちゃんが『良かれ』と思う方を選ぶんじゃ」
「……はい」


カムシンとベヘモットの言葉を重く受け止め、吉田は頷いた。


「ああ、ではまた後ほど。キングも、助力感謝致します」
「別に大したことはしちゃいない。……調律の件については、こちらも礼を言っておくよ。『儀装の駆り手』」


未だ刺々しい太牙の返事を最後に会話は途切れ、カムシンは街の雑踏へと消えていった。


手持ち無沙汰なまま、吉田と太牙はフラフラと大通りを歩く。その間吉田は、ずっと片眼鏡『ジェタトゥーラ』を見つめていた。


「一美ちゃん」


見るに絶えず、太牙は口を開く。


「迷うくらいなら、僕もそれは使うべきではないと思う」
「……」
「その――悠二くんと言ったか。その子が喰われたかどうか確かめたところで、やはりキミにはどうにも出来ない。キミのみならず、誰にもね」


酷なことを言うようだが、こうでもしないと、吉田は迷ったままだろう。


「……分かってます」


ぎゅっ、と両手で片眼鏡を握り締める。


「分かってます、けど」


やはり、簡単に結論は出せない。


(どうしたら、いいんだろう)


その思考だけが、吉田の中で蓄音機のように再生され続けていた。


――調律における、吉田の手伝い自体は、すぐ終わった。
カムシンのマーキングを中継点に、この街の存在の力の流れを、吉田が感じ取れるようにリンクさせる。
街本来の姿を知る彼女が、歪みによってズレた場所を、存在の力の流れから見つけ出していく。要するに、間違い探しのようなものだ。


あとは、修正ポイントを把握したカムシンが、調律によって歪みを正すというだけ。
問題はその後だ。


――カムシンとの会話の中から、吉田はある可能性に行き着いた。行き着いてしまった。
何故気が付かなかった、と思うようなレベルの話。
だがそれは、吉田の心に恐慌をもたらすには十分だった。


かつて、この街にいたという人喰い。
大量に生み出された、力の残り滓『トーチ』。




――その中にもし、自分の知り合いがいたのなら。




坂井くんが、いたら。




吉田は、カムシンにそれを打ち明けた。
だが返ってきたのは、『それは、どうしようもありません』という至極当然で、残酷な答え。
どちらにせよ、ただの人間である吉田には、仮に坂井悠二が消滅しても、その違和感を感じ取れない。認識出来ても、そこにあるのは悲しい別れ。


勿論、無事な可能性も十分にあるが、確実とは言えない。
その“もし”という考えが拭いきれなかったのだ。


葛藤する吉田を見て、カムシンは何を思ったのか、彼が彼女に貸していた、人間をトーチかどうか見分ける宝具『ジェタトゥーラ』を、もう1日預けると言ってきた。


『それを使うかどうか、おじょうちゃんが、自分で選ぶのです。無事だという十分な可能性に賭け、それを使わず、今までと同じように暮らしてゆくか……それとも、リスクしかない真実を欲してそれを使い、安心を得るか……それとも、結局は忘れてしまう、その場だけの懊悩を得るか』


あくまでも、選択を吉田に任せる形で、カムシンは『ジェタトゥーラ』を渡したのである。


「『良かれ』と思う方を選びなさい」


カムシンの言葉が、脳内で幾度も反芻される。


(……坂井くんとの、『良かれ』と思える選択……)


カムシンの与えたきっかけをトリガーに、吉田はある決意を固めつつあった。


確かめるか否かの結論はまだ出せないが、代わりに自分が真に望んでいたものを、得ることが出来た。


強い想い。 『良かれ』と決めた選択。


――明日のミサゴ祭りで、絶対に。


「……」


太牙は、不安そうにしながらも、芯の通った決意をした少女を複雑そうに見ていた。


話を少し聞く限りでもわかる。その坂井くんという子は、この子にとって、どういう存在なのか。


(奏夜は、この子にどんな風に言葉をかけたんだろうな)


きっと、必要以上に親身になっていただろう。
“あの人”のようには、なって欲しくなかっただろうから。


(……いけない。どうも考えが後ろ向きになる)


太牙が髪を軽く引っ掻いたところで、大通りが四つ辻に別れる。


「じゃあ、一美ちゃん。僕はこの辺りで失礼するよ」
「えっ?」


唐突な別れに声を挙げるが、よくよく考えれば、太牙は自分が付き合わせたようなものだ。
時間的にはむしろ、振り回し過ぎてしまっている。


「その、ごめんなさい。散々付き合わせて、大したことも出来なくて……」
「いいさ。弟の生徒さんと話すのは初めてだったからね。僕も楽しかったよ」


カムシンと違い、会おうと思えばいつでも会えるのだ。


(……そう言えば)


吉田はもう一つ、引っかかりを覚える。


(太牙さんがファンガイアなら、先生は――)


異父兄弟とは、言っていたけれど。
吉田は太牙に聞こうとしたが、すぐに止めた。


(太牙さんがこんなにいい人なんだもの)


だったら、先生は、あの鳥のファンガイアみたいに、誰かを傷付けたりしない。


トーチの時と違い、吉田は恐れずに受け入れることが出来た。 ファンガイアである太牙が自分を守ってくれた、というのが大きかったのだろう。


「それと一美ちゃん、最後に一つだけ」


去り際、太牙は言い残す。


「もし誰かを好きになったなら、悔いは残さないようにね。何があっても、最後までその人を好きでいるんだ」


吉田は目を瞬かせ、小さく笑う。


「太牙さんは、やっぱり先生のお兄さんなんですね」
「えっ?」
「さっきの言葉、先生も言ってましたから」
「……そっか」


可笑しさからか、つい太牙も、口元を緩めてしまう。


「じゃあまたね。一美ちゃん」
「はい。サガークくんもまたね」
『◆〆〇*!』


太牙のバックから、僅かにサガークの声が聞こえてきた。


多分『マタネ』と言ってくれているのだろう。
また会いたい、ということを心に留め、二人は別々の道へと歩き去っていった。




――次の邂逅が、二人にとって、思いもよらない状況下になるとも知らずに。


◆◆◆


どことも知れない空間。


「しかぁーし、あぁの街は本当に興味深いでぇーすねぇ」


背骨に針金が入ったかのような細身の体格に、白衣を纏う男“教授”が、手を淀みなく動かし続けながら言う。


「えーっと、例のファンガイアがどうとかってヤツですよね。けど教授、前にドラグだかゼブとかいうヤツを引っ張りこんで、ファンガイアについては粗方理解しははひはいひはい」


ガスタンクのように真ん丸なボディを持つ“燐子”が、ガシャンガシャンと、機械らしい擬音を響かせながら言う。
ちなみに後半のセリフは、教授のマジックハンドにより、頬を抓られた為に出た声である。


「ドォーミノォー、分かぁーり切ったことを言うーんじゃありません。わぁーたしが興味深ぁーいと言ったのは、ファーンガイア云々とは似ぃーて非なるものです」
「ふぁ、じゃあ、なにが気になっとひはいひはい」


抓る力が更に上がる。


「がぁーくがありませんねぇ。
フレェーイムヘイズの連中に加え、ファーンガイアの連中が集まる街にぃー、おあぁーつらえ向きの“歪み”。 こぉーんな偶然が、はぁーたしてただの偶然と呼べるのかぁーという話でぇすよ!」


今がまさに至福の一時。


教授の特徴的なしゃべり方からは、飽くなき探求心が伺い知れた。



「こぉーたびの実験は、ひょぉっとしたら本来の目的以ぃー上の結果がでぇーるかも知れませんねぇ! 嗚呼、すぅばらしい! 真理の探求はやはり、なにものにも勝る、ェエーキサイティングでェエークセレントなものですねぇ!」


教授と燐子の背後で輝く自在法が、教授の意志に呼応するかのように蠢き続けていた。


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  1. 2012/04/03(火) 21:51:55|
  2. 仮面ライダーキバ/BLAZING.BLOOD
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