紅蓮の牙

二次創作中心。仮面ライダーキバと灼眼のシャナのクロスを連載中。

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第十六話・Roots.of.the.King/裁きの蛇.後篇

「先生にお兄さんがいたなんて知りませんでした」
「仕事の都合で外国にいてね。あいつも話す機会が無かったんだろう」


期せずして、奏夜の兄を名乗る青年、登太牙と出会った吉田一美。
最初は吉田も半信半疑だったが、嘘を言う理由も分からなかったし、彼の語る奏夜の人間像はあまりに忠実だった。


――何より、あの奏夜そっくりの笑顔は、なかなか出せるものじゃない。
強いて、疑う余地があるとすれば――、


「でも、太牙さんと先生、苗字が違いますよね」
「異父兄弟でね。小さい頃から互いを知ってはいたんだが、四年くらい前まで兄弟だとは知らなかったんだ」
「あ……」


複雑な事情が想像出来る話に、吉田は聞いたことを後悔する。


「ごめんなさい……。余計なことを」
「いや、気にしないでくれ。僕もあいつも気にしちゃいないから」


吉田の不安を感じ取った太牙がそう言い、ひとまず重い空気は収束する。


「奏夜は元気にしているかい?」
「はい。最近少し落ち込んでたこともありましたけど、今は元気過ぎるくらいですから」
「そうか……いや、元気ならそれでいいんだ。一美ちゃんも苦労するだろう、普段のあいつは元気を通り越して破天荒だからな」
「い、いえ、そんな。いつもお世話になりっ放しです」
「からかわれながら、だろう?」
「……」


否定出来なかった。
その反応は当然だとでも言うように、太牙は苦笑いする。


「奏夜の考えは、理解しづらいと思う。でも一美ちゃん、あいつを嫌わないでやってくれ。ああ見えて、結構寂しがりなヤツだからさ」


太牙の紡ぐ一言一言からは、兄弟としての優しさが伺えた。


(……本当に、お兄さんなんだ)


吉田は今までのやり取りで、段々と太牙の人格を察しつつあった。




――優しいのだ。奏夜と同じく。




「……嫌ったりなんかしませんよ、太牙さん」
「?」
「私、先生が担任でいてくれて良かったと思ってますから」


世辞でも何でもなく、紛れもない本心から、吉田は答える。


先生はいつも、教室を明るくしてくれた。
困っている時、いつも相談に乗ってくれて、滅茶苦茶なやり方ながら、いつも悩み事を解決してくれた。
言ったこと全てを現実にするような、底が知れない人。


「あんな凄い先生を、嫌いになれるわけがないですよ」


太牙はしばらく無言だったが、段々とその目は喜びに彩られていく。


「――ありがとう、一美ちゃん。 安心したよ。あいつをちゃんと理解してくれる生徒さんがいて」
「私だけじゃないですよ。私達のクラスで先生を嫌いな人なんていませんから」


これも本心。というより単純な事実。
彼の奇行に呆れの視線を向ける人はたくさんいるが……それはともかく、彼は何だかんだで好かれてるのだ。


――それからもしばらく、太牙と吉田は他愛ない話に興じていた。
太牙がとても話し易い人物だった、というのもあっただろう。


その心地よい時間が途切れたのは、二人の目の前に音もなく、カムシンが現れた時だった。


「お嬢ちゃん」
「あ、カムシンくん……」
「遅れてすみません。少々、マーキングの位置特定に手間取ってしまいまして」


起伏のない口調で、カムシンは唇を動かす。


「待たせてしまいましたか?」
「う、ううん、私が早く来すぎてたから」


そもそも、吉田が来たのは約束の30分以上前だ。
約束の時間自体には、カムシンはそれほど遅れてはいない。


「ああしかし、私の方に非があるのは確かなので、謝罪はさせてもらいます。本来ならもう少し早く済むのですが、何分この街は複雑な作りで……おや? こちらの方は?」


そこでようやく、カムシンは太牙の存在に気付いたらしかった。


「あ、この人は……」


太牙を紹介しようとした吉田は、突然口を閉ざした。


「……お前」


太牙の声は、吉田を怯えさせるには十分なものだった。
さっきまでの柔らかな物腰は息を潜め、張り詰めた糸のような警戒心を、目の前にいる少年、カムシンに向けている。


「……お前が嶋さんの言っていたフレイムヘイズだな」


思わぬ指摘に、さすがのカムシンも目を見開く。
周囲の雑踏など気にも止めず、カムシンと太牙は視線を交差させた。
やがて「ああ、なるほど」とカムシンが呟き、


「あなたが現代の“キング”ですか」
「ああ、チェックメイトフォーが一人、キング継承者、登太牙だ」
「御会い出来て光栄です。ファンガイアの王よ。フレイムヘイズ“儀装の駆り手”カムシンと申します」


恭しく礼をするカムシンに続き、


「御初にお目にかかる。同じく、紅世の王“不抜の尖嶺”ベヘモットじゃ」


カムシンの飾り紐から、ベヘモットの声が響く。
一連のやり取りに、驚いたのは吉田だ。


(えっ、あれ? 二人って知り合いなの? それにキングって……?)


戸惑う吉田が入る隙を与えず、話は進む。


「ああ、手間が省けました。下準備の折、キングがこの街を管理していると聞きまして、近々挨拶に伺おうと思っていたところだったのです」
「僕を知っているのか」
「現代のキングは名君と名高いからのぅ。我々も聞き及んでおったのじゃよ」


身長差倍以上の男性二人、という奇妙な絵面の会話は、外観とは裏腹に、重い緊張感が漂っていた。


「お手数をかけますが、ご同行願えませんか? 積もる話もありますし、あなたもこの街の状況を知りたいでしょう」
「ああ、いいだろう。――出来れば何も知らない女の子を連れている理由も、教えて貰えるとありがたいな」


頷く太牙の瞳に一瞬、蛇のような獰猛さが走った。


◆◆◆


「……新手のテロかこりゃ」


坂井家を訪れた奏夜は、鼻をつく臭いに顔をしかめた。


「あら、奏夜先生!」


台所に立つ悠二の母、坂井千草の出迎えに、奏夜は軽く頭を下げる。


「勝手にお邪魔してすみません。一応インターホンは押したのですが、灯りが見えたもので。あ、これ、この前お茶に招待して下さった時の御礼です。よかったら召し上がってください」
「まぁまぁ、すみません。お気遣いをさせてしまったようで」
「いえ、お気になさらず。俺としても、あのお茶会は楽しかったですから。……それで、この惨状は一体」
「ええ、ちょっとシャナちゃんが……」


苦笑する千草の傍らには、この焦げ臭い臭いの原因を作り出したと推察される少女、シャナが立っていた。
かなり不機嫌そうに、黒こげの物体Xをへばり付かせたフライパンを睨みつけながら。


「一応確認しますけど……料理、ですよね?」
「はい。シャナちゃんがどうしても、悠ちゃんに作ってあげたいとのことで」


恐らく、吉田がいつも悠二に弁当を作っているのを見ての思い付きだろうが……。


(シャナも随分、積極的になったもんだ)


声に出さず、奏夜は感心する。


「ちなみに、今日のメニューは?」
「野菜の炒めものです」
「………」


簡単な炒めものでこの有り様か。


「――千草さん。台所をお借りしてもよろしいでしょうか」
「えっ? はい、構いませんが……」


千草の了承を受け、奏夜は軽く手洗いをし、別のフライパンを用意する。


「奏夜?」
「シャナ、料理全てに共通するコツを伝授してやろう」


シャナを居間に下がらせ、奏夜はてきぱきと準備を始めた。
一人暮らしなだけあって、経験も豊富な奏夜は淀みない動きでフライパンや食材を操っていく。
食卓に待機するシャナと千草は、料理人の姿を黙って見守るしかなかった。


「お待ちどう様」


フライパンの熱が奏でる音が止み、完成品の乗った皿が運ばれてくる。


「……オムライス?」


出された料理は、何の変哲もない、ただのオムライスだった。
上手には出来ているが、なんら特別な様子は見受けられない。
本当にコツなんて使ったのだろうか?


訝しげに、シャナはスプーンを口に運んだ。


「………!!」


舌に衝撃が走った。


「美味しい……」


思わず声を漏らす。
美味。その一言以外で表現出来ないような一品。
少し味見させてもらった千草でさえも、先ほどのシャナの感想を繰り返すばかりだった。


作り手である奏夜は満足気に笑いながら、


「美味いだろー。コツを掴めば、お前もすぐ作れるようになるぞ」


シャナにとっては、これ以上ない救いの言葉だった。


「教えて! どうしたら奏夜みたいに出来るの?」


身を乗り出すシャナに、奏夜は特に隠し立てもせず答える。


「このオムライスの作り方な。俺の母さんが教えてくれたんだが、ポイントは隠し味だ」


もっとも、真夜は音也に教わったらしいのだが。
しかし音也も真夜も、恋する女の子になら、教えるのを許してくれるだろう。



「隠し味に、食べてもらう人への愛情を込めるんだとさ」
「あいじょう?」
「そ。愛情。お前は、誰に料理を作ってあげたいんだ?」


奏夜の意地悪に、シャナは「うっ」と言葉を詰まらせ、顔を逸らす。


「……さっき千草から聞いたでしょ」
「俺はお前の口から聞きたい。ほらほら、素直に言っちゃえ」
「……………………悠二に」


気恥ずかしそうに呟くシャナ。
微笑ましい限りだ。


「俺が言った愛情ってのは、正確に言うと『お前の作った料理を、悠二に食べて貰いたい』っていう想いのことだよ。その想いがさえあれば、技術なんて後からいくらでもついてくる」


食べさせる相手である奏夜への愛情があったからこそ、真夜 の料理はいつも美味しかった。
今も、奏夜はシャナへ“料理に込める愛情”を伝えたかったからこそ、美味く作ることができたのだ。


「お前は飲み込みは早い方だから、すぐ上手になるよ。俺も協力するからさ、相手への想いを忘れずに頑張れ」


ずっと話を聞いていたシャナは、嬉しさがこみ上げてくるのを感じた。
千草やアラストールとは、違う意味で尊敬する人からの励ましに、自然と笑みを浮かべることができた。


「――うんっ、頑張る!」
「よし!」


この頑張る姿が見られただけでも、このコツを教えた甲斐があった。
着替えのため、居間を出て行くシャナの後ろ姿を見ながら、千草は言う。


「ふふっ、やっぱり奏夜先生は、立派な教育者ですね」
「買いかぶりですよ。千草さんには遠く及びません」


成長する少女の行く末を思い、二人の保護者は笑みを交わし合った。


◆◆◆


「この世には、そこに在るための根元の力……“存在の力”というものがあります。
この街に、その“存在の力”を奪う、人喰いが潜入しました」
「……えっと、ゲームか、なにかのお話?」


カムシンの歩きながらの説明に、吉田は至極当然の反応を示す。


カムシン側も、すぐ納得してもらえるとは思っていない。
絵空事と捉えられても仕方ないことだ。


「いや、心配せずともよいのです。もう私の同志がやっつけました」
「殺人鬼とか、そういう怖い人が来たってこと?」
「……そうだったら、まだ可愛い方だな」


隣を歩く太牙がぽつりと呟く。
カムシンも同意見だが、口には出さない。


「人ではありませんが……ともかく、その人喰いは、自分が人を喰ったのを気付かれないよう、ある細工をしていました。 トーチという仕掛けです」


カムシンがトーチの仕組みを簡単に教えると、吉田は「……怖い話」という、未だ目の前にいる少年の話を、空想と信じているが故の感想を述べる。


信じてはいなくとも、話は聞いてくれている、いい傾向だ。


「私は主に、その後始末を生業としています。人と人、互いに影響し合うはずだった本来の調和の欠如……そこには不自然な歪みができ、規模が大きいと、ひどい災いが起こる可能性も出ます」
「随分と曖昧な表現だな。ひどい災いとは」
「今まで調律が失敗したことは滅多にありませんからね。 記録としてはその前段階……予兆までしか起こっていませんから、詳しいことまでは何とも」
「だが確実に“よくないこと”は起こる、か」
「……?」


顎に手を当て、考え込む太牙を見た吉田は、不自然さを覚える。


あまりに、積極的過ぎるのだ。
ばかなことをしている自覚がある自分はともかく、何故太牙がここまで、この少年の話に付き合っているのだろうか?


「だから私は、災いが起きぬよう、その歪みを修正し、調整するために世界を巡り歩いているのです」


太牙のことを考える間もなく、吉田の思考はカムシンの言葉で遮られた。
慌てて意識を、会話に戻す。


「カムシン君? あの……」
「うむ、訊けることなら、訊いておくのがよい。話しておくれ」


どこからともなく聞こえるベヘモットの声に驚きつつ、吉田は口を開く。


「え、と、カムシン君たちのお仕事がそうだとしたら、この街はもう、人喰いにたくさん食べられた後ってこと? 気付かないだけで、もういっぱい人が死んで、そのトーチだらけになってて……それって大変なこと、だよね?」


正鵠を射た内容に、カムシンは立ち止まり、感嘆の声を上げる。


「ふーむ、おじょうちゃん、あなたは、なかなか……」


今までの話の中から、これだけのことを理解してくれれば、、もういいだろう。


「百聞は一見にしかず、と言うでしょう」


そう判断したカムシンは、左手を手品師か何かのような仕草で、軽く胸元で振る。
金属が擦り合う音が鳴り、カムシンは左手を開いた。
そこにあったのは、鼻にはめるためのブリッジとパッドが付いた小さなガラス板。


「最近は、これの元となった道具もとんと見ませんが……知っていますか?」
「僕はまだ、“見たまま”の年齢なのでね。だが、どういうものかは知っている」
「……眼鏡?」
「ああ、その通りです。片眼鏡(モノクル)というんですが……これで周りを御覧なさい」


――あるいはここで、吉田の側にいた人間が奏夜だったのなら、まだ話は違ったのかも知れない。


(一美ちゃんに何を見せようとしているんだ?)


不幸にも太牙は、奏夜と違って“紅世”の存在との経験が浅すぎた。


(……いや、待てよ…?)


だから――気づくのが遅れてしまった。


(片眼鏡、周囲には人間、街はトーチだらけ、映す、見せる、ただの人間に……!)


今の状況から得られる情報を繋ぎ合わせる。


(まさか――!?)


太牙もようやく理解する。
カムシンが、吉田に何を見せようとしているのか。
片眼鏡が、何を映し出す『宝具』なのか。


「ダメだ、一美ちゃん!」


僕の――“僕達のいる世界”を見てはいけない!
太牙が片眼鏡を奪おうとするが、彼の手は届かなかった。


それよりも早く、吉田は片眼鏡から“見てしまった”。


「――っ!?」


トーチを映す力を持つ法具から、本当のことを――太牙や奏夜、シャナや悠二が立つ世界を。


◆◆◆


紅邸に響くバイオリンの音色――と聞けば、演奏者は紅奏夜と思われるかも知れないが、今回は違う。


「――うん、合格。静香も上手くなってきたな」
「奏夜が言うと嫌みにしか聞こえないよ」


バイオリンをテーブルに置く静香が苦笑混じりに言う。


静香が紅邸に来ているのは、何も生活破綻者の奏夜を気遣っているだけではない。
彼から、バイオリンの技術を学ぶためでもある。
普段何かと静香に頭が上がらない奏夜も、この時ばかりは立場が上だ。


「まぁ、嫌みに聞こえようが聞こえまいが、本当に静香は上手になってきてるよ。 なぁキバット」


バイオリン型の巣箱から、キバットが飛んでくる。


「うむうむ、俺様も大満足の演奏だぜ。……なぁ静香、そろそろ本格的に下克上を……」
「待ちなさいキバット。それはまだ早計だわ。相手の実力は計り知れないし、技術を奪うだけ奪ってから……」
「俺の知らないところで、教え子と親友の間に不穏な動きが!?」


そんなやり取りにキバットと静香が笑い、つられて奏夜も相好を崩す。


――四年前からのメンバー内では、この三人が一番付き合いが長い。
奏夜も静香もキバットも、こんな風に冗談を言い合える仲を気に入っている、


(ありがたいよな)


こうして一緒にいるだけで、“日常”を感じることが出来る。
自分が戦うだけの価値が、ここには沢山詰まっている。
そのことに感謝しながら、奏夜は言う。


「よし、じゃあ今日の練習はここまで。お疲れ様でした」
『お疲れ様でしたー』


三人が一礼し、練習が終わりを迎える。


「静香はこの後どうする? もし夕飯食べていくなら、親御さんに連絡は入れとけよ。帰りは俺が送ってってやるから」
「うん、わかってる。………ねぇ、奏夜」
「ん?」


夕飯の支度のため、一階に降りようとした奏夜が振り返る。


「どうした?」
「あ、あの……えっとね」


歯切れが悪そうに俯く静香。
何事もはっきり口にする彼女にしては珍しい仕草だ。


「そ、奏夜は明日って……誰かと一緒に行くの?」
「明日? ……ああ、ミサゴ祭りのことか。いや、別に誰と行く予定も無いぞ。見回りもサボる気満々だし」
「あ……そう、なんだ」


静香は何処か安堵したように、肩の力を抜いた。


(……今の話に安心するポイントがあったか?)


奏夜にはわからなかった。


「じゃ、じゃあ、さ。もし、奏夜が良かったら、私と一緒に行かない?」
「えっ?」


奏夜は目を丸くする。


てっきり静香は、大学の友達と一緒に回るとばかり思っていたからだ。
静香はというと、顔を耳まで赤くしていたが、その様子は二階の薄暗さに隠れ、奏夜には見えなかった。


「――静香、がんばれ」


夜目が利くため、静香の状態を見ることができたキバットは、小さく親友の女の子を激励する。


「……ダメ、かな?」


答えが無いことを不安に思ったようだ。
今にも泣きそうな静香の表情に、奏夜は慌てて言う。


「い、いや、ダメじゃないぞ。わかった。一緒に行こうぜ」
「ほ、本当?」
「ここで嘘ついてどうすんだよ」


奏夜の答えに、静香の表情がぱあっと明るくなる。


「やった!」
「やった?」
「あ……ううん、何でもない! じゃあ明日の5時くらいに、この家の前で待ち合わせね! 奏夜も忘れちゃだめだよ!」


矢継ぎ早に約束を取り付け、静香は親への連絡のためか、奏夜の脇をすり抜けていった。


「何だってんだ、静香のやつ……?」


一緒に祭りに行くくらいで、今更あそこまで喜ぶなんて。


「やれやれ、お前も罪な男だよなぁ」


怪訝そうに頭を掻く奏夜に、キバットがニヤニヤ笑いを浮かべる。


「罪? 何がだよ」
「何がってお前、あんな可愛い女の子と二人でデートだぜ。いや~ニクいねぇ」
「何がデートだよ。ただ静香が気ぃ使ってくれただけだろ。浮き足立ち過ぎだっつの」
「……」


キバットは、親友のてんで見当違いな発言に、怒りを通り越した哀れみの目線を送る。


「お前は一度、秘密組織にでも誘拐されて、脳改造を受けるべきだ」
「俺そこまで言われるようなことしましたか!?」


奏夜は目を剥くが、キバットはかなり本気だった。


――静香のためにも、こいつは自分の鈍感さ加減を直すべきだろう。




◆◆◆


「――っしゃ!!」


真南川の土手。
柔らかい地面目掛け、カムシンは担いでいた布巻き棒を突き込む。
派手な音と共に、先端の形――円形の穴が空いた。


「さて、これで昨日からつけておいたものと合わせて、何とかなるでしょう」
「……」
「本当に手伝ってもらうのは、これからですが……よいですか、おじょうちゃん」


カムシンの言葉は、吉田にとって虚ろにしか響かなかった。


(私、本当の、馬鹿だ)


愚かな決断をしてしまった、昨日の自分を悔いる。


(なんでこんなこと、引き受けてしまったの)


こんな恐ろしい存在と、関わるべきではなかったのだ。
自分が変わるきっかけになるかも知れない。
そんな――ふざけた理由で。


あまりに残酷な“本当のこと”を知り、俯く吉田を一瞥し、カムシンはあくまで、使命遂行の過程として口を開く。


「おじょうちゃんの精神の平衡を乱したことについては謝ります。
しかし我々への協力には、違和感を決定的に感じてもらう必要があったのです。
おじょうちゃんの賢さに油断して、少々先走ってしまったようです。すいません」
「ふうむ、儂からも、謝らせてもらおう」


飾り紐から、ベヘモットの声が聞こえる。


「じゃがな、我々の行いによって、これから人喰いがこの街を目指す確率を格段に減らすことができるんじゃ。我々を恨んでくれてもよい。おじょうちゃんにはその権利がある」
「しかし、協力はして欲しいのです。 他でもない、おじょうちゃんのためにも」
「……でも、あんな、あんな……」
「『偽装の駆り手』」


肩を震わせる吉田を庇うように、太牙が、彼女とカムシンの間に割り込む。


――太牙の表情にもはや柔らかさはなく、彼が放つ威圧感は空気を震わせ、眼光は蛇の如く研ぎ澄まされている。


「ああ、何かご不満がありますか、キング」


それでもカムシンは一瞬の揺らぎも見せず、太牙と対峙する。
キングの威圧と言えど、歴戦で培われた貫禄の前では意味をなさなかった。


「もし、巻き込んだことに関して不満があるのでしたら、それはどうにもならない。とだけ言わせてもらいます」
「ふうむ、もしおじょうちゃんが、今日の約束に来なかったのであれば、我々は違う人間を探しただろうからのう」
「ああ、そうだろうな」


今回はたまたま、選んだ相手が、弟の教え子だっただけ。
では見ず知らずの他人だったなら不満は無かったか、といえば、それもまた違う。
他人にも、それぞれの世界があり、人生がある。


そしてカムシン達は吉田と同じように、その誰かの世界を、容赦なく破壊するだろう。
もっと大勢の人々を救わなければならない、という大義の下に。


「……御崎市は、人間とファンガイアが共存するための架け橋。キングである僕は、ここを管理し、守らなければならない身だ。 だから、お前達の働きにはむしろ感謝しているし、一美ちゃんを巻き込んだことを、咎めることも出来ない」


自分は誓った。愛する人と弟に、立派なキングになると。
上に立つ人間が、私情に左右されるなど、あってはならない話だ。


「『大勢の命のため、一人の平穏を破壊する』。だが何も、その一人が死ぬわけでもない。お前達のしたことは全て正しいものだ。それくらい僕にも理解できるさ」
「ああ、なら――」
「だが」


カムシンが、次の調律の手順を教えようとした時、もう太牙は動いていた。





「“その行いを理解すること”と、“その行いを許すこと”は別の話だ」





太牙の左拳が、カムシンの頬に叩き込まれた。


骨と骨がぶつかる、気味の悪い音が土手に響く。
太牙の背後、吉田が「ひっ」と声を挙げた。


それはそうだろう。
見た目からすれば、大人が子供を殴り飛ばす凄惨な光景だ。


だが、太牙に躊躇いは無かった。
きっと、弟もこうしただろうから。


「……」


カムシンは、常人なら確実に骨が砕けていたであろう一撃にも仰け反らず、無表情のまま太牙を見つめ返す。


「ああ、さすがはキングですね」
「――避けられただろう」
「あなたの気が済むのなら、いくらでも。“そんなこと”に構っている暇はありませんから」


二人の間に再び、一触即発の雰囲気が漂う。


傍らで見守る吉田はもう、心の許容量の限界を超えかけていた。
張り詰めた糸のように、緊張仕切った状態。


――その膠着は、突然降り注いだ光弾により幕を引いた。


「!!」
「むっ」
「きゃっ!!」


幸いにもエネルギー弾は逸れ、硝煙を巻き上げる。


「一美ちゃん、大丈夫かい?」
「は、はい」


頷くも、突然のことに吉田の動悸は収まらなかった。


「ああ、どうやら、予期せぬ客のようですね」


カムシンは、光弾の飛んできた方向を睨む。


「ギギギ……見つけたぞぉ、キング……!!」


硝煙が晴れ、夕暮れは異形の姿を映し出す。


ステンドグラスの身体に、浅黒い体毛と翼。
平面で大きく湾曲した嘴。
カモノハシを思わせる怪物、プラティプスファンガイアが、不気味な鳴き声を挙げる。


「ギギギ……キングが戻ってきたとは聞いていたが、まさかここまで早く見つかるてはなぁ……」
(な、何? あの、お化け……?)


非日常の存在は、吉田は恐怖に陥れる。


(いや……いや! なんで、なんでこんなことばっかり……!!)


ショック続きの彼女に、もはや身体の震えを止める術はなかった。
目から涙が零れ、平穏が壊れたことを否応なしに自覚させられる。




どうして、どうしてこんなところにいなきゃ――、




「一美ちゃん」


暗い感情に支配されかけた吉田の手を、暖かさが包む。


「たい、が、さん……」
「大丈夫」


静かに、太牙は言葉を紡ぐ。
手袋を隔ても、太牙の手から伝わる熱は、吉田の心を光に照らしていく。


「すまない。キミが巻き込まれるのを、止められなくて」


心の底から申し訳なさそうに、太牙は頭を下げ、立ち上がる。


「……やはり僕は、奏夜のようにはいかないみたいだ」


呟かれた言葉は、誰に向けてのものだったのか。
それは太牙にも分からなかった。


「『偽装の駆り手』。一美ちゃんを頼む」
「ああ、手は貸さなくても?」
「愚問だ。それより、話はまだ終わっていないからな。覚悟しておけ」


突き放すように言い、太牙はプラティプスファンガイアに向かっていく。


「貴様がキングかぁ……ギギギ、人間とファンガイアとの共存を成し遂げた愚かな王……その座、俺が貰い受ける……!!」


欲望にギラつく目を、太牙は路傍の石を見るような目つきで睨み返す。


「キングへの反乱、それが意味することはわかっているな?」
「何を今更ァ! 貴様がキングの器でないことを証明してやる!」
「……そうか」


太牙はゆっくりと、左の手袋を外す。


「ならば、人間とファンガイアの共存を乱す者よ」


太牙の左手の甲と内側、一つずつ刻まれた刻印――チェックメイトフォーの証が、紅く輝いた。





「王の判決を言い渡す。……死だ」





太牙の顔にステンドグラスの模様が浮かび上がり、彼の背後に王冠を模した紋章が現れる。


紋章に記された称号は――【KING】。





「サガーク!」


太牙の呼び掛けに答え、土手に置かれた彼のバックから、白銀の影が飛び出した。


『〇◆∞∂!』
(円、盤?)


それが、その生き物に対する吉田の率直な感想だった。


円盤のような薄い身体を持ち、側面には小さな牙とつり上がった目。
太牙にしか理解できない言語――古代ファンガイア語で鳴きながら、人工ゴーレム『サガーク』は、太牙の腰に取り付き、『サガークベルト』に変わる。


待機音が鳴り、太牙は、右手に握られた縦笛の意匠を持つプロトタイプフエッスル『ジャコーダー』を構え、叫ぶ。





「変身!」





ベルトのスロットに、ジャコーダーをインサートし、一気に引き抜く。





『ヘン・シン』





サガークベルトが回転し、蒼い螺旋状のウェーブが太牙の身体全身に行き渡る。


目映いばかりの光は、やがてガラスになって弾け飛んだ。


キバの鎧に巻き付くカテナとは異なり、サガの力を強化する鎖『デュナミスカテナ』。
ファンガイアの体組織に酷似しているステンドグラス状の胸部アーマー『エターナルラング』。
その中央には、『黄金のキバ』が持つ三つの魔皇石に匹敵し、代々キングに受け継がれてきた『漆黒の魔鉱石』がはめ込まれている。
頭部には魔石『ファングストーン』で作られた、キングの威光を示す王冠『キングクラウン』。
その下にある蒼色の仮面『サガ・ペルソナ』の輝きが、変身完了を告げる。





――仮面ライダーサガ。





『運命の鎧』の異名を持つ、キングのみが装着を許される鎧だ。


「太牙さんが、変わった……?」
「あれが、サガの鎧ですか」
「ふうむ、初めて見るのう」


三者三様の反応を受けつつ、サガはゆっくりとプラティプスファンガイアに足を進めていく。


「ギィッ!」


プラティプスファンガイアは、嘴から先程見せた光弾を三発発射する。


「フン、つまらん技だ」


サガが握るジャコーダーからは、いつの間にかバイパートングと呼ばれる、赤いロッドが伸びていた。


「ッハァ!」


サガがジャコーダーを一振るいすると、ロッドだった部分は鞭のようにしなり、プラティプスファンガイアの弾丸を薙ぎ払った。


「なっ!?」


攻撃はあっさり防がれ、プラティプスファンガイアは動揺した。


ジャコーダーのバイパートングは、ブラッディアイアンという形状記憶合金で出来ており、ロッド剣状の武器である『ジャコーダーロッド』と、鞭状の武器『ジャコーダービュート』に自在に変化する。


つまりはサガの意思に合わせ、多彩な攻撃を可能とする武器なのだ。
動揺の隙を逃さず、サガはジャコーダーを再びロッド剣状態に変える。


「ふっ!!」


ジャコーダーを振るうサガの剣さばきは、突きと払いが主体のフェンシングスタイル。
淀みない動きからの攻撃は、的確にプラティプスファンガイアの身体を斬りつけていく。


「ぐっ、舐めるなよ!!」


言うが早いか、プラティプスファンガイアは、エラのついた鍵爪を構える。この鍵爪には毒が仕込んであり、一掠りでも致命傷を負わせることができる。


爪が走り、サガと激しく斬り合う。
プラティプスファンガイアの戦闘技術はなかなかのもので、サガの攻撃の手を防ぎ、時には反撃までこなしてみせる。


だが、


「甘いな」


距離を取ったサガは、ジャコーダーを鞭状にチェンジ。
ジャコーダービュートを伸ばし、プラティプスファンガイアを絡め取る。
そのまま指揮棒のようにジャコーダーの柄を操り、プラティプスファンガイアを振り回していく。


「あっ、ガァアアァ!!」


固い岩石が敷き詰められた地面に何度も叩き落とされるプラティプスファンガイア。
地を這うプラティプスファンガイアを、サガは威圧感と共に見下す。


「ヒッ……!!」


その時点で、プラティプスファンガイアの心は折れていた。
後悔が全身を駆け巡る。
歴然とした格の違いに呑まれ、プラティプスファンガイアは悲観的なイメージしか浮かべることができなかった。


「そろそろ、終わりにするとしよう」


サガは蛇の紋様が描かれたフエッスルを取り出し、ベルトの上部――サガークの口にくわえさせる。



『ウェイクアップ』


サガークのコールと共に、サガは再びジャコーダーをスロットにインサート。
覚醒エネルギーがジャコーダーを伝い、バイパートングが赤い光に包まれる。
サガがビームサーベルのようなそれを眼前に構えると、蒼い霧が景色を塗り潰していく。


「夜……?」


「こうも容易く、世界の理をねじ曲げるとは……」


「さすがはキング、といったところかのう」


吉田のみならず、カムシンとベヘモットさえも感嘆の声を挙げた。


さっきまで夕日が輝いていた空は、夜の帳に包まれ、サガの仮面と同じ蒼い月が浮かんでいる。


「ヒ、ヒィイイイイイ!」


恐怖しか与えないキングの姿、臆病風に吹かれ、プラティプスファンガイアは敵に背を向け逃げ出す。
だが無論、サガはそれを逃しはしない。


――夜空に、彼の魔力によって作り出された『キバの紋章』が、漆黒の闇を切り裂き顕現した。
絶対的強者の威光は、王に刃向かう愚か者を絡め取る。


「――ハァッ!!」


サガがジャコーダービュートを突き出すと、紅い光に包まれた刀身が伸びる。
伸縮した閃光は、一瞬でプラティプスファンガイアを刺し貫いた。


「グッ、ガァァアア!!」


プラティプスファンガイアの悲鳴をバックコーラスに、サガは上空へ飛び上がる。
キバの紋章を潜り抜けて着地すると、ジャコーダービュートの光は紋章を支点に、まるで絞首刑の縄の如く、プラティプスファンガイアを吊り上げた。




――畏怖しか生まない行為に躊躇うことなく、サガは静かな手付きで、ジャコーダーを一撫でする。




「フンッ!!」


ジャコーダービュートから、生成された増幅魔皇力が注ぎ込まれていく。


「ギャアアァァア!!」


聴くに耐えない断末魔と共に、サガの必殺技『スネーキングデスブレイク』は貫いた対象を内側から破壊した。


――雨のように降り注ぐ、砕けたファンガイアのガラス片
渦中に悠然と立つ一人の戦士。


恐ろしくも、高貴な美しさを漂わせるサガの姿はまさに――王そのものだった。


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  1. 2012/04/03(火) 21:50:53|
  2. 仮面ライダーキバ/BLAZING.BLOOD
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