紅蓮の牙

二次創作中心。仮面ライダーキバと灼眼のシャナのクロスを連載中。

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第十六話・Roots.of.the.King/裁きの蛇.前篇


「この景色も久しぶりだな」


御崎市最寄り駅、入り口に立つ青年の目には、見慣れながらも懐かしい景色が飛び込んでくる。


――と、青年が片手に下げていたバックが不自然に揺れた。


『●△Φ♯!』
「こらこら、早くみんなに会いたいのはわかるが、ここで顔を出すな。周りに迷惑がかかるだろ?」


中から聞こえてきた理解不能な鳴き声を窘め、青年はバックを担ぎ直す。


「さて、奏夜も母さんも、元気にしているかな」


再会への高揚感に胸を踊らせ、青年は道行く人々の雑踏の中へと消えていった。


◆◆◆


「落ち込むこともあるけれど、俺は元気です!」


教卓に立つ奏夜は、帰りの会が始まるなり、声を張り上げた。


「……いきなり何言ってるんですか先生」


前列に座る池速人が、白けた目線を向ける。


「いや、場面転換の繋ぎに必要だったからな。文章構成上の都合というヤツだ」


またわけのわからないことを。
だか奏夜は「よし、じゃあ諸連絡だけするぞー」と、クラスの反応を鮮やかに無視し、話を進める。


「知ってるヤツがほとんどだろうが、そろそろ『御崎市ミサゴ祭り』の時期だ」


奏夜が放った単語に、クラスのテンションが僅かに上がる。


御崎市ミサゴ祭り。
早い話が夏の風物詩、ありふれた花火大会である。
だが、ありふれたとは言っても、真南川の河川敷をメインに行われ、市外からの参加客も多く、当日には繁華街にも熱気が伝播し、御崎市が誇るビッグイベントだ。
クラス内でも、最近はこの話題でもちきりで、誰と行くーだの、出店どこ回るーだの、ミサゴ祭りに関する雑談に溢れている。


「当日は教師も、交代で見回りに入る。このクラスは大丈夫だと思うが、あまりハシャぎ過ぎて補導されたりしないようにな。節度を守ってれば、面倒くさい大人の介入も少なくてすむぞ。俺からはそれだけだ。夏のイベントを、各々存分に楽しむように。以上!」


形式的な連絡が終わり、礼をして全員が帰り支度を始める。
奏夜もこの後は仕事が無いため、帰宅するだけだ。


「奏夜」


と、そこへ彼の生徒、平井ゆかり――もとい、世界のバランスを守るフレイムヘイズ、シャナが声をかける。


「おう、どうしたシャナ」
「今日の夜、悠二の家に来られる?」
「夜?」


二人の立場上、聞きようによってはかなり危ない会話だが、彼女の素性を知る奏夜は、気にせず答える。


「まぁ時間によるが、多分大丈夫だぞ。一体どうした」
「その時間、悠二の鍛錬をしてるの。 もうお互い知らない仲じゃないし、奏夜がいいなら、悠二の鍛錬を手伝って欲しいって、アラストールが」
「ああ、キバットが言ってたトレーニングのことか……」


――奏夜はつい先日、長らく秘密にしていた自分の正体を、シャナと悠二に明かした。


仮面ライダーキバ。ファンガイアの王。


あれから、同じ敵と戦う者同士、関わり合いが増えてきていた。
紅奏夜としても。キバとしても。
今後、協力していかなければならない仲だ。断る理由は無い。


「わかった。悠二が頑張ってるかどうか興味もあるし、参加させて貰うかな」
「ありがと」


礼を言って、シャナが時間を伝える。


「了解、じゃあその時間に」
「うん」


頷き合って、奏夜はそこでふと尋ねてみる。


「そう言えばシャナ、お前はどうするんだ?」
「? 何を?」


シャナは首を傾げる。


「何って、ミサゴ祭りだよ」


てっきり悠二を誘っていくかと思っていたのだが。


「お祭りって行かなきゃダメなの?」
「いや、だから……」


素朴な、というか、疑問をそのまま跳ね返しているようなシャナの態度から、奏夜は思い出す。


(そっか。こいつはそういう娯楽に興味無さそうだもんな)


フレイムヘイズという職業柄、シャナの性格柄、そういう楽しみからは無縁でも何ら不思議ではない。
それでも一応、奏夜は教師として彼女の視野を広げようとする。


「えっとだな。祭りっていうのは夏のテンション上がる時期に、みんなで集まって騒ぐイベントであってだな。見たことくらいはあるだろ?」
「あるけど、周りが熱狂するのって息苦しくなるから、あんまり好きじゃない」


逆効果だった。


「いや、まぁ、俺も以前は人混みとか熱狂とかって好きじゃなかったから、分からんでもないけどよ」
「そうなの? 今は全然そんなことなさそうだけど」
「ってか出たくても出られなかったんだよ。あの頃は迂闊に人前へ出ると“この世アレルギー”がな……」
「この世アレルギー?」
「あ……いや、何でもねぇ」


自分の語彙に無い単語に反応するシャナをそうあしらって、奏夜は話を戻す。


「とにかくだ。暇があれば行ってみろよ。きっと楽しいぜ」
「わかった。考えとく」


シャナはあまり気が進まなそうに、素っ気なく答える。
と、そこへタイミングよく、帰り支度を終えた悠二が合流した。


「シャナ。用事終わった?」
「ん。お待たせ」


頷き、悠二の隣に並ぶシャナ。


「じゃあ先生、僕らはこれで」
「またね」
「ああ、お前らにゃいらん心配だろうが、気ぃつけて帰れよ」


シャナと悠二はそのまま、取り留めのない会話をしながら去っていく。
二人の後ろ姿を見送りながら、奏夜は一言。


「……うーむ。今回の勝負は、ちょっと展開が読めないな」


よし。ここはシャナの恋敵にも、話を聞いてみるとしよう。



◆◆◆


そんなこんなで下校の途。
以下は、夕方になっても未だに人だかりが出来ている大通りにて、為された会話である。


「そう言えば、ミサゴ祭りの話だけどさ。一美はもう坂井くん誘ったの?」
「ふぇっ!?」


クラスメート、緒方真竹のいきなりな質問に意表を突かれ、吉田の顔が真っ赤に染まった。


「緒方、もう少しオブラートに包めよ。切り出し方が急過ぎだ」
「そんなこと言っちゃって、先生も気になってたんじゃないんですかぁ?」
「……む」


図星。
奏夜は大人しく閉口する。


――現在の場面登場人物は、紅奏夜、吉田一美、緒方真竹という何とも珍しい組み合わせ。
ミサゴ祭りというビッグイベントを前に、何となく吉田がどうするのか(悠二へのアプローチ的な意味で)気になった奏夜が、既に帰る約束を取り付けていた緒方と吉田に付き添った、という経緯である。


「ほらほら、先生も気になってることだし、一美も正直に言っちゃいなさい!」
「そ、そんなこと……簡単になんか、言えないよ……」
「何だ。まだ言ってなかったのか」


吉田の性格を思えば、ある意味予想通り だが。


「もうあんまり時間無いぜ。誘うなら誘っとかねーと」
「で、でも」
「あーもうじれったいわね! 『わたしと一緒に行きませんか?』、これだけなんだからビシッときめなさい!!」


緒方もこの膠着状態に、もどかしさに近いものを感じているようだ。
友人を叱咤激励すべく、緒方はもう一人、悠二の傍にいる女の子の名を出す。


「そんなんじゃ、ゆかりちゃんに先越されちゃうわよ」
「!」


吉田の気弱そうな瞳に、一瞬力が籠もった。


「……地雷起爆」


二人に聞こえないよう、奏夜がボソッと呟いた。
その言葉の通り、吉田は伏せがちだった視線を僅かに上げる。


(ゆかりちゃん)


同じ人を好きである女の子。


(負けたく、ない)


声にこそ出さなかったが、あの少女の名を聞くと、吉田は自然とそう思うようになっていた。


あの屋上での、いや、校庭での一件。
ゆかりちゃんには負けない、と宣言した。
悠二をミサゴ祭りに誘いたいと思うのに、シャナへの対抗心があるのは否めまい。


少し前なら考えられなかった吉田の姿に奏夜は、


(吉田もちゃんと、前に進んでるんだな)


教え子の進歩は、教師としては嬉しいものだ。


――実際に今日、奏夜とシャナが話している間にも、彼女は悠二に話し掛けようとしていた。
もし良かったら、私と一緒に。と。
はっきり言って、これだけでもかなりの変化である。


(あとは、シャナにせよ吉田にせよ、何かきっかけがあればいいんだが……)


いや、それは高望みし過ぎか。


実質的な可能性としては、シャナ、吉田、悠二の三人でミサゴ祭りに行く――という可能性が一番高い気はするが。


(それこそ、俺が考えることじゃないな)


こうして探りを入れてみたところで、結局自分は傍観するしかないのだ。
悲しいかな、誰が誰とミサゴ祭りに行こうが、奏夜には何の影響もない。


影響が無ければ――関わろうと思っても関われないのだ。


(……あ、そう言えば)


ふと奏夜は、緒方に会話対象を切り替える。


「緒方、お前はどうなんだ?」
「えっ?」


急に話をふられ、緒方は戸惑う。
だが、次の奏夜の言葉は、完全に緒方の意表を突いた。


「お前だって、田中とか誘うんじゃねーの?」
「…………」


緒方は急に足を止めた。


「緒方さん?」


驚いた吉田が気遣うのも構わず、奏夜の問いを何回も反芻し、ようやくその意味を理解する。


「――――なっ!?」


彼女にしては珍しく、本気で顔を赤くした。


「な、ななななんなんで、そそそんなこと――」
「……吉田からかう資格ねーぞお前」


プロフィールに設定追加。
緒方真竹は、奏夜の仲間、マージョリーの子分、田中栄太に好意を寄せている。
それも、奏夜からすれば、吉田と同じくらい分かりやすい好意で、何故田中が気付かないのか不思議なくらいだ。


(田中も罪だねぇ。悠二ほど鈍感でもあるまいに)


どいつもこいつもじれった過ぎだ。呆れたように奏夜は肩を竦める。


「お前の方こそ、さらっと誘っちまえば いい気がするけどな。田中もどうせヒマだろうし」


彼が尊敬するところのマージョリーは、お祭り事に興味がありそうなタイプではない。


「な、なんでさっきから田中を誘うこと前提なんですかっ!」
「おや、誘わないのか?」
「さ、誘いませんよ! そんな高校生にもなって、今更……」


否定こそしたが、語気がどんどん小さくなるあたり、まだ葛藤が見られる。


「煮え切らねぇな。お前ら普段から仲良いじゃんよ。佐藤から聞いたけど、中学も同じだったんだろ」
「関係ないですよ、そんなの。……むしろ仲が良過ぎるせいで、逆に田中も気付いてないみたいですし」
「……うわ、難儀だな。お前も」
「ふんだ。同情するなら金下さいってんですよ」


べーっ、と舌を出す緒方。


最後少し誤魔化された気がしたものの、奏夜はそれ以上、緒方と田中について言及しなかった。


「って言うか、先生こそどうなんですか。私と一美にだけ聞いといて、ちゃっかりミサゴ祭りに行く相手とか決めてたりして」


余裕が戻ってきたのか、緒方は仕返しと言わんばかりに、ニヤついた笑みを向ける。


「誰と行くも何も、俺は見回りがあるから……」
「嘘ばっかり。先生がそんなマトモに職務するわけないじゃないですか」
「ひどっ!」


だが何気に、否定はしない奏夜だった。
実際、当日はサボる気満々だったのである。


「ほらほら、ネタは上がってるんですから、言えばラクになりますぜ」
「何で急に刑事口調なんだよ。おい吉田、お前からも……」


助け舟を求める奏夜。
だが吉田は、


「……ごめんなさい先生。私もちょっと、気になります」
「本当に裏切ったんですかーー!」


吉田の目には好奇心が見て取れた。
まさかの裏切り、人生はライアーゲーム。


「だからよ、本ッ当に誰かと行く予定はねぇっつの」
「え~? 先生なら引く手数多だと思うのに。カッコいいし、女の人はべらせてそう」
「おい、俺はプレイボーイかコラ」


父親がああなので、奏夜にとってはシャレにならない話だった。


「それに、当日、知り合いはみーんな予定入ってるから、誘うに誘えないのだよ。分かったかね? 緒方くんに吉田くん」
「……なんか意外です」
「むぅ、つまんないなぁ」


奏夜の面白エピソードが聞けると思っていたのか、少し残念そうに、吉田は肩を落とし、緒方は唇を尖らせた。


そんな顔されても、本当なんだから仕方ない。


名護は恵と由利を連れて楽しむつもりだし(奏夜も誘われたが、家族水入らずを邪魔したくなかっため辞退)、嶋とマスターは、そんな名護ファミリーのために、『素晴らしき青空の会』名義で花火を出すらしい。
次狼達は夜店のアルバイト。真夜は二世と一緒に、遠くから花火を眺めると言っていた。


(静香も多分、大学の友達と回るだろうし、キバットとキバーラは外に出られねーしな)


キバット兄妹に関しては、鞄にでも入れて『ぬいぐるみです』と答えればいいが、それであの二匹が納得するかは疑問だ。


そんなわけで、奏夜はものの見事にぼっちなのである。


(……考えてたら悲しくなってきた)


いかんいかん。前向きに行こう、前向きに。


奏夜が気を取り直したところで、三人は交差点にさしかかる。
帰り道の関係上、ここで奏夜はお別れだ。


「ま、俺みたいなヤツよりも、お前ら自身のことを考えろよ。命短し、恋せよ乙女だ」
「あはは、キザったらしいですねー」
「いやいや、本心からそう願ってるよ。 じゃあな。吉田、緒方」
「はい、また明日!」
「さよなら」


信号が切り替わり、奏夜は軽く手を振りながら、人混みに溶け、見えなくなった。


「じゃあ一美、私も行くね」

二人でしばらく歩いた後、緒方も他の交差点で吉田と別れる。


「あの、緒方さん」


去り際、吉田は口を開いた。


「ん? なに」
「……頑張って」


小さく、しかし不思議とはっきりした声だった。


「私も、頑張るから」
「――うん。ありがとね、一美」


二人とも何を頑張るのかは、言わずとも分かっていた。
緒方と別れ、吉田は一人帰宅路を、どこか物寂しく感じながら辿る。


(頑張るから、か)


本当に、そうしなければならない。ミサゴ祭りに関して言えば、猶予はもうないのだから。
だが、緒方にああはいったものの、その頑張りをどういう形で見せればいいのだろうか。


(どうしたら、坂井君を誘えるのかな)


考えれば考えるほど、思考が堂々巡りになっていく。


(どうしよう)


惑うことしか出来ない自分に、苛立ちさえ覚える。


(どうして、こうなんだろう、私……)


気持ちの整理がつかないまま、吉田は伏し目がちに歩き続ける。




そんな時――だった。




「っ!?」


ぞわり、と得体の知れない悪寒が、吉田を頭上から貫いた。


日常に漂う残滓は、その源泉へと吉田をいざなう。


「ぁ……!」


そこに、いた。


10になるかならないかという少年。
左手には、小さなガラス玉を繋ぎ合わせた飾り紐。
パーカーのフードから覗く褐色の肌をした顔に、表情らしい表情は浮かんでいない。


ただじっと、吉田の方を見ていた。
違和感の極めつけに、少年の背中には、その身の程二倍はある巨大な棒が立てかけられている。


何かが、“違う”。


(な、なに……?)


吉田は自分に直感に問いかけた。
答えは勿論無く、彼女の脳に、奇妙な違和感だけを送信し続ける。
――やがて少年は、ゆっくり口を開いた。


「あなたは、知っているのですか?」


年相応のトーン。


「……ぁ」


しかし吉田は、それにさえも違和感を覚える。
まるで、何年も何年も生きてきた老人――枯れ果て、老成したような口調に思えた。


「さて、はて……」


顎に左手をやる動作、子供には有り得ない仕草だ。


「気配の端が濃く臭ったのですが……協力者ではないのですか?」
「ふうむ」


少年の見た目とは合わない声と違う、嗄れた声が、どこからともなく聞こえてくる。


「偽装して定住する者の傍におるがゆえの影響じゃろう。この歪みを目指す“徒”を警戒しておると見たが、ふうむ」
「ああ、気配だけはやたら大きいですからね。何やら同胞とは違う気配も感じますが……これは、もしやファンガイアですかね?」
「ふうむ。いずれにせよ、仕事の合間にでも、挨拶に出向くとしようか。もしここがファンガイアの領地なら、尚更じゃろう」
「ああ、そうですね。ともあれ、このおじょうちゃんには是非、協力していただきたいところですが」
「……あ、あの」


一人で(吉田にはそう見える)会話を続ける少年に、吉田は声をかける。


あまりにおかしい少年。
日常にはない光景を人は認めない。


この違和感を――早くに拭い去りたかったのだ。


「ああ、すみません」


吉田を置いてけぼりにしていたことに気が付き、少年は軽く頭を下げる。


「申し遅れました。私は『儀装の駆り手』カムシン……カムシン、で構いません」
「儂は“不抜の尖嶺”ベヘモット。儂も、ベヘモットでよいぞ、おじょうちゃん」




――運命の鎖が、吉田一美へと絡みつく。



◆◆◆


「う~ん、月夜の晩、気持ちがいいねぇ~」
「どこがだよ。……ふわぁ~。やっぱ眠ぃな」


零時少し前。人々が寝入り、静寂に包まれる住宅地を、奏夜は歩いていた。
彼の肩に止まるキバットが、眠気覚ましに奏夜の頭を叩く。


「おいおい、行くっつったのはお前だろうが。シャキッとしろシャキッと」
「はぁ……。キバット、お前は夜行性でいいよなぁ。どうせ俺なんか……」
「その某兄貴っぽい態度もやめい。ほら、着いたぜ」


キバットが翼で指し示す先には、二人の目的地、坂井悠二の自宅があった。
もっとも今は、シャナが形成したと思わしき紅の陽炎『封絶』により、あの空間は因果から切り離されてはいるが。


「ま、俺には効果ありませんけどね」


封絶に停止することなく、石造りの門構えを過ぎ、庭に回る。
そこから見える屋根には、見知った姿が月光の下照らし出されている。


シャナ、悠二、マージョリー。そして姿は見えないが、アラストール、マルコシアスの五人。
屋根に飛び乗る奏夜とキバットに、全員の視線が注がれる。


「あら、ソウヤも呼んでたの?」
「うん。悠二の鍛錬ついでにね」
「よー、みんな揃って御機嫌麗しゅう」
『ヒッヒッ、兄ちゃんも相変わらずみてーだな。蝙蝠クンも息災かい?』
「まぁな。変わらずキバッてるよ、“蹂躙の爪牙”」


気軽に話す様は、全員がこのメンツに慣れてきた表れだろう。


「先生、少し遅かったですね」
『約束の時間は11時頃と言っておいたはずだが』


悠二とアラストールの問いに、奏夜は「フッ」と微笑み、右手を翳しながら、夜空の月を仰ぐ。


端正な顔立ちであるため、その様子は(無駄に)絵になっていた。


「ちょっと、池袋の都市伝説になりにな……」
「首無しライダー!?」


確かにライダーはライダーだが。


ちなみに本当の理由は、単純に奏夜が時間を間違えていただけだ。


「いやー、悠二は欲しいところにツッコミを入れてくれるよな。感心感心」
「不本意です! 僕ここまで嬉しくない感心のされ方初めてですよ!」
「タイトルは『キバババ!』か『シャナナナ!』だな」
「語呂悪っ!」


御崎市にはカラーギャングも、情報屋も、コンビニのゴミ箱をぶん投げるバーテンダーもいない。念のため。


「はいはい。遊んでないで、さっさと話進めましょ」


マージョリーが手をぱんぱんと打ち、脱線した話を軌道修正する。


「話って?」
「この前話したでしょ。このボーヤの中にある“千変”の腕のこと」
「――ああ、名護さんが言ってたやつか」


奏夜は手を悠二の頭に置き、存在の力を汲み取る。


「確かに違和感があるな。悠二、何か悪いとこはないか?」
「今のところ特にありませんけど……腕がもう一本あるみたいな感じです」


奏夜と悠二が感じた、正常に機能する流れの中にある一点の淀み。
この街を襲った“王”、“千変”シュドナイが、悠二を分解しようとした時に千切れ、残った腕だ。


奏夜が、マージョリーに問う。


「悠二を分解しようとしたって言うけどよ、なんでシュドナイの腕が千切れたりしたんだ?」
「ボーヤの“零時迷子”には『戒禁』がかけられてんのよ」
『カイキン?』


自分達の魔術に無い名前に、奏夜とキバットが首を傾げる。


『簡単に言えば、『ミステス』に収められた宝具を守るための自在式だ』
『加えて言うとだ、かけた際の意志力に比例して、スグレ物だと封絶の中でも動けたりするわけよ、ヒヒヒ』


無知な二人に呆れることなく(そもそも魔術と自在式はフィールドが違うのだ)アラストールとマルコシアスがレクチャーを入れる。


「『解禁』か、誰が仕掛けたかはわからないのかよ」
『さーな。俺らは“約束の二人”の片割れだと思ってたんだが……』
「“約束の二人”……ああ、『零時迷子』本来の持ち主ね」
『む、聞いたことがあるのか?』


アラストールの問いに、奏夜は何の気なしに答えた。


「ああ、フリアグネと戦った時に聞いたんだ。 ファンガイアなんだけど、その人は『“約束の二人”の片割れが“壊刃”に仕留められた』とかなんとか……」
『!!』


悠二以外、全員の目の色が変わった。


「ちょっと奏夜、なんでそれ黙ってたの!?」
「いや、もう、知ってるもんかと思って……」


詰め寄るシャナの剣幕は、奏夜の話した事実の価値を物語っていた。


『確かなのか』
「ああ。ちなみに情報源は、ファンガイアのクイーンとキバットの父上」
『クイーンだと?』


予想だにしなかった名前に、アラストールの声が揺れた。


(やっぱ知り合いだったのか)


奏夜は、真夜が先代『炎髪灼眼の討ち手』とは知り合いだ、と言っていたのを思い出す。


「クイーンって誰? アラストールの知り合いなの?」


クイーンを知らない現代『炎髪灼眼の討ち手』、シャナが尋ねる。


『うむ。古い友人だ。……そうか。クイーンからの話なら、疑いようがないな』
『でもよぉ、主犯が“壊刃”なら、誰かの依頼を受けてやったってことだよなぁ?』
「しかも、『これほど早く見つかるとは』なんて言ってたし、“千変”の知る範囲で行われたんでしょうね……ん?」


マージョリーは自分の推測の中から、一つの言葉に引っかかりを覚え、


「“千変”の知る、範囲内……いや、そうか、[仮装舞踏会]――!」


マージョリーはパートナー共々、苦々しそうに言う。


「まさか、“逆理の裁者”の絡んだ企みなのかしら」
『おーいおい、カンベンだぜ、“千変”の野郎。今さら忠勤を気取る柄かよ』
「[仮装舞踏会]って何だ?」


奏夜が隣に立つシャナに聞く。


「“徒”の大集団の一つよ。最近は目立った活動をしてないって聞いてたけど……」
『うむ。坂井悠二』
「え、はい!?」


今まで置いてけぼりだったため、アラストールの声に悠二は反射的に背筋を伸ばす。


『貴様の『零時迷子』に関する事態は、我らが考えていたよりも、意外に大きいやも知れぬ』
「……」
『奴らが動き出すとなれば、あらゆる可能性を視野に、今後の方針を決めてゆくことになろうからな』


あらゆる可能性。
それはつまり、




「……お前らが、この街を出てく可能性もあるってわけか? アラストール」
「!!」


奏夜の補足に、悠二は心の中で息を飲んだ。


(旅、立つ……?)


相手が『零時迷子』を狙う以上、一所にいるのは危険だし、何より周りに迷惑がかかる。


いつか来るとはわかっていたこと。だがその事実が、急に眼前へと突き付けられたことで、悠二は平静を保てなくなっていた。


「御崎市を、家を、出る……?」


震える声に、誰も答えを返さない。
シャナだけが、彼の心境を知りながらも、はっきりと告げる。


「そう、出る」


シャナの言葉に、悠二は嬉しさと恐怖が入り混じっていくのを感じた。


シャナ達と一緒に行けるのは嬉しい。むしろ、自分から望んでさえもいた。
けれどそれは、15歳の少年が背負うにはあまりに重い、生まれ育った街や大切な人々との別れと同義だ。


それだけではない。
この街を出る。それは次に何らかの形で“徒”が騒ぎを起こせば、それを迎え撃つ者がいなくなるということだ。
可能性の話、と言って割り切れるほど、悠二は強くも合理的でもない。


――自分の知らないところで、日常が破壊される。
大切な人達の未来がすべて、絶望に彩られている気さえした。


「……」


シャナはただ無言で、悠二の手を握り締めた。


「!!」


手から伝わる暖かさは、悠二を暗い思考の海から引き戻す。


「あ……、ごめん」
「……まだ、今すぐ出るわけじゃねぇんだろ。アラストール」


悠二の気持ちを察してか、奏夜は彼に猶予を与えるべく問いかけた。


『うむ。この街の歪みは大きすぎる。フレイムヘイズの中に、この歪みを調整、修復出来る『調律師』を生業とする存在がいる』
「せめて調律師が来るまでは、“徒”の襲撃を警戒しないと」
「裏を返せば、その調律師が来たら出てくってわけか」


シャナが首肯したのを確認し、奏夜は悠二に向き直る。


「安心しろよ悠二。お前らが去った後も、俺や名護さんはここにいる」
「えっ? ……あ」


そうだった。
彼らは悠二達が出て行こうが、ここにいる。
あの強さだ。“徒”が来ても、街を守り抜くだろう。


「お前がまだ、この街を出て行きたくないのはわかる。だからこれだけは約束しよう。例えお前やシャナがいなくなっても、その後でお前の大切な人達が喰われる、なんてことは絶対にない」
「その通りだぞ悠二。オレ様たちは、ずーっとそうやって、人々を守ってきたんだからな!」


笑いながら告げる奏夜とキバットの姿に、悠二は無条件の安心感が広がっていくのがわかった。
――勿論、大切な人々と別れる決心がついたわけではない。


でも、


(少しだけ、楽になったかも知れない)


みんなを守ってくれる人がいる。
他力本願でもなんでも、悠二はそれが嬉しかった。


「……ありがとうございます。先生」


「は、よせよ。俺は俺の義務を果たしてるだけだ。……ま、俺個人としちゃ、お前らとは別れたくねーってのが本音だけどさ」
「あら、ひねくれ者のアンタにしちゃ素直ね」
「うっせ」


マージョリーの冷やかしに、気恥ずかしさから目を逸らす奏夜。
その様子に苦笑しつつ、悠二はシャナに言う。現実に向き合い、前に進む覚悟を抱きながら。


「もう少し、待ってよ」
「……うん」


シャナもまた、この少年の覚悟を受け止め、頷いた。
一連のやり取りを目の端に捉えつつ、ぼんやりと夜空を見上げる。


(別れ……か)


シャナや悠二が、日常から消える。
果たしてそれは、周りにどれだけの影響を与えるのだろう。


特に――あの臆病なりに、悠二に想いを伝えようとするあの少女には。


(……いや、影響も何もないか)


どのみち、悠二がいなくなる時、吉田の記憶から彼の痕跡は忘失される。




何も変わらないのだ。
例え彼女が悠二を好きであっても、世界は例外を認めなどしない。


(ちっ、なんて虚しいのかね)


軽く舌打ちをし、奏夜は一言。


「面倒くさくなってきやがったな……」


さっきまでただ美しいと思っていた月は、まるで迷える者を嘲笑っているかのように、青白い光を放っていた。


◆◆◆


「ちょっと、早く来過ぎちゃったかな」


翌日。真夏の夕刻という人通りの多い時間。
学校の終わった吉田一美は、大通りに沿うビルの壁に寄りかかり、ぽつりと呟く。


(やっぱり、変な悪戯だったのかも)


そうだったのなら、変な子供に騙され、自分がちょっと馬鹿を見た、ということで済む。
だが、そうなったらいい。と思う一方で、そうなって欲しくない。と思う自分も確かにいて、


(……約束の時間はもう少し先だし、待ってみよう)


結局吉田は、待ってみることにしたのだ。


――昨日出会った奇妙な少年、カムシン。
名乗った後、カムシンはわけのわからないことを羅列していた。


街の歪みがどうだの、違和感を感じ取れる人間を探していただの。
吉田がかろうじて理解できたのは、「この仕事には人間の手助けがいるため、おじょうちゃんには是非とも、その手伝いをしてもらいたい」ということだけだった。


(おかしな子)


そう一笑に付すことも出来ただろう。むしろ、その方が一般的な対応だ。


だが、吉田はここにいた。
つまりは、カムシンが待ち合わせに指定した場所と時間に。
勿論、あの戯言を信じたわけでは決してないが――


(もしかしたら、何かが変わるかも知れない)


自分が何も出来ず、ただ手をこまねいているこの状況に、日常では有り得ない違和感。
うじうじした自分を引っ張り上げてくれるかも知れない力。


それが持つ甘美な誘惑に負け、吉田は、


「じゃ、じゃあ……少しくらいなら……」


と答えたのである。


怖いことがあれば、そこでやめればいい。
騙されただけなら、それもよし。 ただの笑い話になるだけだ。
無理やり自分を納得させ、吉田はここにいる。


自分を変える瞬間を、待ちわびながら。


「……まだ暑いなぁ」


照りつける夕暮れの日差しを、翳した手で遮る。
せめて日除けになる場所って言っておけば良かったかな。


そんな風に、吉田が思った時だった。


「……?」


足元に、何かが当たったような気がした。
目線を落とすと、そこには赤い果実。


「林檎?」


それを拾い上げ、何の気なしにまじまじと見つめる吉田。


「キミ」


聞き覚えのない、張りのある声。
反射的にを振り向くと、そこには一人の青年が立っていた。


艶やかな黒髪の下には、どこか貫禄を漂わせる風貌。
薄手のジャケットにジーンズ。肩に下げる大きめのショルダーバックは、いかにも旅行帰りというイメージ。
違和感があるとすれば、真夏日に、しかも左手にだけに手袋をつけていることか。ちなみに、もう一方の手は紙袋を支えている。


「すまない。その林檎、僕が落としたんだ」
「あっ、ごめんなさい」
「いや、いいんだ。拾ってくれてありがとう」


吉田が慌てて返した林檎を、青年は手袋をした方の手で受け取った。
改めて、吉田はその青年を見据える。


(……あれ?)


初対面の人間を相手に、受けるはずのない印象を持つ。


(なんだろう。どこかで会った……ううん、違う)


“誰かに似ている”ような……。


吉田の視線を気にした様子もなく、青年は彼女の制服に目をやる。


「その制服、御崎高校のだね」
「は、はい」
「懐かしいな。僕もあそこに通ってたんだよ。もっとも、色々あって中退してしまったんだけどね」
「そ、そうなんですか」


自分でもよくわからない相槌を打つ。 初対面の人間とフランクに話せるほど、吉田は対人能力があるわけではない。
青年も、あまり会話の風呂敷を広げるつもりはないらしく、年長者としての注意だけを述べる。


「夏は何かと物騒だからね。気をつけるんだよ」


青年は裏表のない笑顔を浮かべる。


(……あっ)


その笑顔を見て、吉田は気づいた。


この既視感の正体が。
この青年が誰に似ているのか。




「奏夜先生に、似てるんだ……」




吉田が、ついその名前を声に出すと、


「奏夜?」


それを聞き取った青年が反応した。


「キミ、奏夜を知っているのか?」
「えっ? はい、担任の、先生です……」


青年の反応に驚き、吉田は事実だけを伝える。
目を丸くしていた青年はしばらくして、声を上げて笑い出した。


「あははは! そうかそうか、あいつの教え子さんだったのか! いやぁ、まさか帰ってきて早々、こんな出会いがあるとは思わなかったな」


心底愉快そうに、青年は相好を崩す。


「キミ、名前は?」
「よ、吉田、一美です」
「一美ちゃんか。いい名前だね」
「あの……、先生をご存知なんですか?」


話の流れとして、吉田は問う。


しかし、次に返ってきた答えは、吉田の想像を遥かに超えるものだった。




「ああ、すまない。自己紹介が遅れたね。
僕はあいつの兄なんだ」




「……………」


その情報を処理するのに、吉田はたっぷり数十秒かけ、


「……っええ!?」


彼女にしては珍しい、かなりの大声を挙げた。


「せ、先生のお兄さん!?」


吉田にとっては、かなり驚きの素性を持つ青年は、その弟と同じ、柔らかな笑みを浮かべながら頷く。


「ああ、登太牙だ。よろしく。一美ちゃん」




――『偽装の駆り手』は、少女の日常を破壊する。


『裁きの蛇』がもたらすものは、破壊か、救済か。


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  1. 2012/04/03(火) 21:50:14|
  2. 仮面ライダーキバ/BLAZING.BLOOD
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