紅蓮の牙

二次創作中心。仮面ライダーキバと灼眼のシャナのクロスを連載中。

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第十五話・開演vib/キバの正体

「はぁっ!」


両手を大きく広げる独特の構えのまま、キバはヘルホーネットファンガイアに特攻をかける。


「くっ!」


もう認識操作は無意味と悟ったのか、ヘルホーネットファンガイアもまた肉弾戦を取ったらしい。
キバのジャンプからの踵落としを腕で防御する。


「甘いっ!」


防御された右足を支えに、キバは空中で、残った左足をヘルホーネットファンガイアの顔面にヒットさせた。


「う、ぐおっ!」


よろめくヘルホーネットファンガイア、着地したキバはすかさず、ヘルホーネットファンガイアの身体に拳を次々と叩き込む。
ガガガッ、とパンチの音が連なり、比例してダメージも蓄積されていく。


「せいっ!」


フィニッシュにキバは、ヘルズゲートの装備された右足での回し蹴りを放つ。


「ごぶッ!」


肺の空気を吐き出しながら、ヘルホーネットファンガイアはキックの勢いに負け、アスファルトの地面に沈む。


「っしゃ! 一気にキメっか!」
「あっ、先生待ってください!」


ウェイクアップフエッスルに手を伸ばすキバを、悠二の声が止める。


「倒す前に、そいつからシャナの解毒方法を聞き出さないと!」
「解毒? ――ああ、成る程」


ただの怪我にしては妙にシャナが大人しいと思っていたが、そういうことか。
状況を把握し、キバはウェイクアップフエッスルをしまって、


「じゃ、こいつがいいな」


ウェイクアップフエッスルの代わりに、緑色のフエッスルをキバットに吹かせた。


『バッシャーマグナム!』


空から飛来したバッシャーマグナムを右手でキャッチし、キバは『バッシャーフォーム』へとフォームチェンジ。


「さて、さっさと解毒法を読み取るとしますか」


バッシャーマグナムを構え、キバはヘルホーネットファンガイアを凝視する。


バッシャーフォームの能力は遠距離戦だけではない。
緑色に染まった仮面『エメラルドレンズ』は4フォーム中最高の視力を持ち、敵の観察力にも優れているのだ。


――キバの視界が、相手の全てを見透かしていき、やがてヘルホーネットファンガイアの一点に照準を合わせる。


「そこだッ!」


バッシャーマグナムのフィンが回転し、射出されたアクアバレットは、ヘルホーネットファンガイアの右腕に装着された針を弾き飛ばす。


「っ、しまった!」


宙を舞った針を、キバは即座にキャッチし、悠二へ放った。


「その針刺して、平井を解毒しろ」
「で、でもこれ、毒針なんじゃ……」
「毒を使う者は、解毒の術を常に持っていなくてはならない。つまり、ヤツの中には必ず免疫成分が存在する。あいつが、あいつ自身の毒で死なないようにな」


いつもの授業のように、キバは言葉を繋いでいく。


「さっきの観察で、ヤツの体内にある免疫成分もまた、その針から分泌されているのはわかっている。外部から衝撃を受けた時、ほんの少しだけな。
さっきのオレの攻撃で、その針にはもう免疫成分しか残ってはいない」


悠二は舌を巻く思いだった。
たった一瞬で、キバはそれだけのことを理解し、行動に移している。


(やっぱり……先生はキバなんだな)


真実を改めて自覚し、悠二はシャナの解毒作業に取りかかる。
横目でそれを確認し、キバはバッシャーマグナムのトリガーを引く。


「ハッ!」


寸分違わず、アクアバレットはヘルホーネットファンガイアへ吸い込まれていく。


「ぬぅっ! 舐めるなよキバ!」


着弾したアクアバレットにも怯まず、ヘルホーネットファンガイアは残った左腕の針を発射する。


「チッ!」


地面を転がることで針を避け、体勢を瞬時に立て直し、バッシャーマグナムを撃つ。
片やヘルホーネットファンガイアもまた、キバの攻撃を寄せ付けず、針による反撃を繰り返す。
キバとヘルホーネットファンガイアの戦いは、平行線を辿っていた。


「ハハハ! 最初の勢いはどうしたキバ!」


ヘルホーネットファンガイアの嘲りにもキバは動じない。
バッシャーマグナムを撃ち続けるだけ。


「クックック、話す余裕も無いか?」


だとすればしめたものだ。
遠距離戦は、ややこちらが有利。
このまま長丁場に持ち込めさえすれば、いずれは――、




「油断し過ぎだよ」




キバが仮面の下で笑うのとほぼ同時に、解毒を終えたシャナがヘルホーネットファンガイアの背後に回り込んでいた。


「なっ!?」


ヘルホーネットファンガイアが青ざめる。どうにか贄殿遮那による斬撃は免れるが、


「だぁっ!!」


回避した先にあった、シャナの回し蹴りは防げなかった。
蛙を踏み潰したような呻き声をあげ、ヘルホーネットファンガイアは数メートル床を転がり、地に臥す。


着地したシャナは、隣に歩み寄ったキバの仮面を見上げる。
その下にある表情は伺えないが、なんとなく笑っているような気がした。


「……いろいろ言いたいことはあるけど」


シャナは贄殿遮那を構え直す。


「今はこいつを倒すのが先ね」
「よくわかってるな」


言いつつ、キバは新たに、二本のフエッスルをサイドケースから取り出した。


「片付いたら、きっちり全部説明してもらうから」
「ああ、そのつもりだよ。なんならコーヒーもお付けしましょうか、お客さん」
「コーヒーは好きじゃない。それよりも、一回殴られることは覚悟しときなさい」
「手厳しい」


大袈裟に肩をすくめて、キバは二本のフエッスルをキバットにくわえさせる。


『ガルルセイバー! ア~ンド、ドッガハンマー!』


青と紫の彫像が現れ、キバの左腕、胸部と融合する。
キバフォームをベースに、左腕にはガルル、胸部にはドッガ、右腕にはバッシャーの力が憑依。
四位一体の形態、ドガバキフォームだ。


「さあて、一気に終わらせるぜ、乗り遅れんなよ!」
「そっちこそ!」


何処か余裕のあるやり取りを交わし、二人は強く地を蹴る。


「くっ!!」


敵は二人。どちらを迎え撃てばいい?
今まで幻覚により、圧倒的な勝利を修めてきたヘルホーネットファンガイアにとって、これは普段有り得ないことだった。


その一瞬の逡巡が、決定的な隙を作る。


「フンッ!!」


ドッガハンマーのスイングが、ヘルホーネットファンガイアの腹部に叩き込まれる。
ダメージに呻く暇も与えぬまま、キバはバッシャーの能力を使い、地面を覆う水面、アクアフィールドを展開した。


「そらよっ!!」


アクアフィールドを滑るように移動するキバ、右手のバッシャーマグナムから、バンバンバンッ、と連なった発射音が鳴り響く。


「ぐ、あっ、き、貴様ァ――!!」


逆上したヘルホーネットファンガイアは防御を捨て、キバへと突進してくる。


「冷静さを欠いたら、勝負は負けだぜ?」
「っ!?」


キバが言い終わるより早く、シャナが上空から怒涛の勢いで、贄殿遮那を振り下ろす。


「はぁっ!!」


鋭い剣閃は、ヘルホーネットファンガイアの片翼を切り落とした。
つんざくような悲鳴を上げるヘルホーネットファンガイアに、シャナは不敵な笑みを向ける。


「暗示が効かなくなった途端これ? 基礎からやり直してきなさい」
「くっ、う……!」


暗示にばかり頼ってきた報いが、ここにきて表面化していた。


「お、のれぇ……!」


ヘルホーネットファンガイアは屈辱に歯噛みする。


激情のベクトルを向けられたキバはそしらぬ顔で、ゆっくりとアクアフィールドに右手を浸す。


「さて、化学は専門外だが、ここで特別授業といこう」
「……?」


指先からドッガの能力である雷の力が、アクアフィールドを伝っていく。


「化合物を水溶液、または溶融状態として、これに電気を通し、化学変化を起こすことを『電気分解』と言います。ではここで問題」


水を分解した場合、生成されるものは何でしょうか?


「―――っ!」


ここでようやく、ヘルホーネットファンガイアは、キバの意図に気が付いた。
慌てて上空に退避しようとするも、片翼 のため、飛ぶことができない。
――シャナの攻撃は、このための布石だったのだ。


『正解は』


シャナとキバが口を揃える。




『水素と酸素』




贄殿遮那から、小さな火の粉が弾ける。


――大気を震わせる轟音と共に、屋上は爆炎に包まれた。




生み出された暴風による衝撃、煌々と燃える炎の熱。
それらの渦中から、最初に這い出たのはヘルホーネットファンガイアだった。


「が、は……!」


吹き飛ばされることはどうにか避けられたものの、ヘルホーネットファンガイアのステンドグラスのような外皮には、あちこちにヒビが入っている。


水素爆発によって再び生まれた水を被り、ヘルホーネットファンガイアは膝をつく。


「し、信じがたい連中だ……はぁっ、まさか、こんな、自分たちまで吹き飛ばすような爆発を……」


自分がこのザマだ。
相手も無事ではいまいが……。


そう、ヘルホーネットファンガイアが考えた時である。




『WAKE.UP!!』




粉塵と硝煙を隠れ蓑に、キバとシャナが飛び出してきた。


「なぁっ!?」


バカな。
あんな爆発の後で、すぐ攻撃に転じられるわけがない。
しかも、二人はまったくの無傷。
混乱するヘルホーネットファンガイアだが、キバとシャナの背後――煙の中の一点が紅く輝いているのに気が付く。


「僕が持ってたものは、イクサだけじゃないんだよね」


――そこには、いつの間にか悠二が立っていた。 火除けの指輪『アズュール』の結界を張り巡らせて。




「ハァァーーッ!!」
「っだぁ!」




事態を理解するのと同時に、キバの『ダークネスムーンブレイク』とシャナの炎剣が炸裂した。




「が、ぐぅ、く、おのれぇ、キバぁぁぁぁァァァァ!」


聞くに耐えない絶叫が、ヘルホーネットファンガイア最後の言葉だった。


――ギャオォォォ!


砕け散った身体から飛び出したライフエナジーも、飛来したキャッスルドランが飲み込んだ。


◆◆◆


「あら」
「ん?」
『ああん?』


施設前で戦っていた名護、マージョリー、マルコシアスの動きが止まる。
操られていた人々が、急に大人しくなったのだ。


立ち尽くしたまま、だらりと頭を垂れている。


「支配からは、みんな逃れたみたいね」
『つーことは……』
「奏夜くんか『炎髪灼眼の討ち手』が、やってくれたようだな」


名護はほっと胸を撫で下ろし、マージョリーも戦い詰めだった身体を伸ばす。


「さて、あとは操られていた全員の混乱を治めるだけだな」
「あー、私がやるわよ。ここにいる理由を刷り込むくらい、封絶の応用で簡単にでき……!?」


マージョリーが言葉を切った。
名護も緩めていた緊張を張り直し、操られていた人々を見る。


『こりゃあ、もうひとオチありそうだなオイ』


マルコシアスがうんざりしたように、グリモアから火の粉を吹き出す。




――何かにあてられたかのごとく、操られていた人々が一斉に奇声を上げた。




◆◆◆


その様子を、別の三人が屋上から見下ろしていた。


「ど、どうなってるんだ。あのファンガイアは倒したのに」


悠二が見つめる先には、声を上げながら、奇妙な行動に走る人々の姿があった。
ある者は他の人間を殴りつけ、ある者は頭を抱えてうずくまり、ある者は自傷に走り、混沌としか表現できない状況だった。


「まだあいつの洗脳が残ってるの?」
「でも、街を包んでた違和感は無いわ。あの人間達にも、変なところは感じない」


キバーラの推測を、シャナが否定する。


「マズイな。心の音楽が暴走してる」


理解不能な現況に、キバが答えを出す。


『どういうことだ、キバ――いや、紅奏夜』
「今まで強制的に操られてたのが、あのファンガイアが消えたせいで、暴走しちまったんだろうよ。普通、魔術はかけた本人が死ねば消えるが……あいつが操ってた脳は複雑な作りだからな。
――脳内操作なんて負担をかけられてたとこに、コントロールを失って、誤作動を起こすのは当たり前だ」


淡々と説明するキバに対し、悠二の顔は青ざめていく。


「じゃあこのままじゃ……」
「ああ、泣き喚く赤ん坊と同じで、何が起こるかわからないな。マトモな判断が出来ないだろうから、最悪高いトコから飛び降りたり、なんてことも考えられる」
「っ!」
「大変じゃないですか!」


シャナが焦燥に駆られ、そのまま下へ飛び降りようとする。
だが、キバがそれを呼び止めた。


「止めとけ。大方、暴れてる人間を気絶させようとしてるんだろうが、大元の解決にゃならん」
「じゃあどうしろって言うのよ! 他に何か手があるの!? 頭の中の誤作動なんて、一人一人診てたら拉致があかないわよ!」
「殴ってどうにかなるもんでもねぇだろ。壊れたメガドライブじゃあるまいし。
――ま、ここは俺の出番かな」


危機感など微塵も感じさせない口調だった。
いつの間にか、キバの手には一器のヴァイオリン――ブラッディローズが握られている。


「先生、ヴァイオリンなんか出してどうするんですか?」
「要はヴァイオリンの修理やチューニングと同じさ。ズレた弦を戻してやればいい。幸いにも、ここにはあのファンガイアが使ったアンテナもある」
「……まさか、今度はヴァイオリンの音色で人間を操る気なの?」
「ばーか。んなことするかよ。街の人達の脳は、あのファンガイアの操作に気を取られてるようなもんだ。だったら、それ以外のものに目を向けさせればいい。
“俺達を襲え”なんて負担のかかるものじゃない、もっと楽しいものにな」


つまり、




「俺はただ、演奏をするだけだよ」




シャナと悠二、アラストールとキバーラが見守る中、キバはパラボラアンテナに、魔力を注ぎ込む。
もっとも、流す音はヘルホーネットファンガイアのような超音波ではないため、キバにとっては巨大なアンプのようなものだ。


「さあ、野外コンサートの時間だ」


ヴァイオリンを顎と鎖骨部分で固定し、右手で弓を弦に添える。





「俺の音楽を聞け!」





◆◆◆


――次の瞬間には、音楽が全てを支配していた。


拡張されたヴァイオリンの音色が、電波塔のみならず、御崎市全域に響き渡っている。
洗練された技術によって生まれる旋律。
それが届く対象は、暴走した人も例外ではない。


破壊の音楽により傷を追った心を、優しく包み込んでいく。


「――凄い」
「うわぁ……」
「やっぱり素敵だわ、奏夜の音楽!」
『まったく……、とことん“あ奴”を思い出させてくれる』
「これ、ソウヤが?」
「相変わらずの腕だな、奏夜くん」
『ったく、自在法顔負けだぜ』


操られていない者達も、演奏者への賞賛を捧げながら、安らかな音色に聴き入る。


――ポロン。
弦を一本弾き、キバは演奏を終えた。


悠二とシャナがもう一度下を見ると、操られていた人々は眠るように倒れていたが、気絶しているだけのようだ。直に意識を取り戻すだろう。


――ブラッディローズを下げ、キバは静かに変身を解除した。


シャナと悠二を振り返った奏夜は、いつもと同じ――正体を明かす前と変わらない、柔らかい笑顔を浮かべた。




「ご静聴感謝します」




恭しく、演奏者は鑑賞者に頭を下げる。
その姿に惜しみない拍手が贈られたのは、言うまでもない。


◆◆◆


「名護さん、これ、お返しします」


テーブルの上に置かれたイクサナックルを、名護が懐にしまい、悠二が頭を下げた。


「すいませんでした。勝手に借りたりして……」
「気にするな、今回は状況が状況だ。――それに、盗ったのはキミではないからな」
「俺にゃまったく覚えがないんですけどね」


名護の非難がましい目に、奏夜は苦笑いを浮かべる。
自分のそ知らぬところで、犯罪者扱いされるのはさすがに嫌らしい。


「言い訳は見苦しいわよ、ソウヤ」
『ヒャーハッハ! ネタは上がってるんでぇってか?』
「ちょっと、どーでもいいのよそんなことは」


シャナが脱線しかけた話を軌道修正し、奏夜を睨む。
悠二も、いつになく真剣だ。


「何もかも、全部、きっちり、説明してもらうわよ、奏夜!」
「……も」
「先に選択肢潰しておきますけど、『黙秘権を行使します』とか言わないでくださいよ!」
「……坂井、お前最近逞しくなったな」
「ええ、お陰様で!」


シャナと悠二の剣幕は相当なもので、やや奏夜も引き気味である。


――戦いが終わり、奏夜、シャナ、悠二、名護、マージョーリー、キバット、キバーラは、人払いが済んだカフェ・マル・ダムールに集まっていた。


人々の混乱は警察の迅速な対応により(『素晴らしき青空の会』が根回ししたらしい)、ひとまず沈静化され、街の住人は元の日常に戻っている。
死者は出ず、こちらの知り合いにも、マスターが「なぜか腰が痛いんだよね~」とぼやいていたこと以外は、被害ナシである(名護が思い切りばつが悪そうにしていた)。


そして現在、シャナと悠二の希望通り、奏夜にキバやその他諸々のことを説明してもらおうと、こうして審問……もとい集会を開いているわけだ。


「ま、まぁ、悠二くんもシャナちゃんも落ち着いて、ね?」
「そーそー、こちらとしてもやむを得ない事情があったりなかったりだったわけで」


キバットとキバーラが二人を宥めるが、逆に火に油を注ぐ結果となった。


「キバーラも知ってたのよね? 奏夜がキバだって!」
「キバットも何で教えてくれなかったんだよ。言う機会はいくらでもあったのに」


思わぬ叱責に、キバットとキバーラはしゅんと頭を垂れた。


『シャナ、坂井悠二、気持ちはわかるが落ち着け』


アラストールが諫め、二人は取り敢えず勢いを静めた。
その様子を見て、奏夜が言う。


「アンタは気付いてたみたいだな、アラストール。俺がキバだって」


放たれた言葉に、アラストールは特に動じた様子もなく答える。


『……ふん。今までの貴様とキバを照らし合わせ、答えに至ったまでのことだ』
「そんな簡単にバレちゃうもんかなー。キバと俺を結び付けられないよう、俺はこんなキャラ立てをしていると言っても過言ではないのに」


嘘つけ。
その場にいた全員がそう思った。


「まぁアレだ。さっき見せた通り、キバの正体は俺だよ。んでもって、ファンガイアの王様……の代行人なんだけどな」
「……じゃあ先生は、やっぱりファンガイアなんですか?」


悠二が恐る恐る、といった風に問う。
それは悠二の中で『奏夜が味方なのかどうか』という質問にも似ていた。


「半分だけ正しい。俺はファンガイアと人間のハーフなんだよ」
「ハーフ?」
「そう、だから俺はキバになれる。人間とファンガイア、どちらでもあるし、どちらでもない。それが俺さ」


奏夜は九九でも唱えるかのように、自分の身の上を説明する。


「だから安心していいぜ。坂井」
「えっ?」
「とぼけんなよ。俺の正体知って、俺が味方なのかどうか分かんなくなっちまったんだろ」


見透かされていた。
決まりが悪そうに顔を俯かせる悠二に、奏夜は軽い調子のまま告げる。


「心配すんなよ、俺は今まで通り、お前らの味方だ。『人とファンガイアの共存』の提唱者が、余所様に迷惑かけられるはずもねーしな」
「じゃあ、なんで私達に正体を隠して来たの?」


今度はシャナが、まっすぐ奏夜を見た。


「やましいことが何もないなら、私達に話してたでしょう? 私達に話さなくて、『弔詞の詠み手』に話したのだっておかしいじゃない」
「………」


奏夜は閉口し、頬を掻いた。


ごまかしは利かない。 直感的に、奏夜はその雰囲気を感じ取っていた。


「……あー」


後ろめたさに苛まれながらも、奏夜は意を決して、重い唇を動かした。





「ぶっちゃけ、言うタイミング外してたから」





『………』


急に静かになったシャナと悠二は、ゆっくりと、奏夜の言葉の意味を理解していく。


段々と、シャナの目元がピクピクと震え出す。
ピシリ、とシャナが触れていた机の一部にヒビが入った。


悠二は破壊衝動にこそ駆られてはいないものの、額に青筋が浮かんでいる。
器用にも、表情はにこやかな笑みのまま。


その場にいた全員が固唾を飲んで見守る中、二人は息を吸い込み、溜め込んだ感情を解放する。






『なんだそりゃあああああああ!!』






「なによそれ! そんな理由で納得できると思ってるの!?」
「さんざん勿体付けた挙げ句、何ですかその微妙なオチ!」
「いやあ、そう言われてもねぇ」


事実は事実だ。
はっきり言って、それ以外に理由が思い付かない。


「マージョリーに正体明かしたのも、ほとんど成り行きだしな」
「そうね。私が初めて会った時、ソウヤはキバになってなかったし」
『んでそのままバトルに突入しちまったもんだから、兄ちゃんも仕方なくキバになったって感じだったからなァ』


マージョリーとマルコシアスも同意する。
要するに、奏夜は特に本腰を入れていたわけではなかったが、極力隠すようにはしていたというわけだ。


「私はてっきり、奏夜くんが何か理由があって隠していたと思っていたからな」
「名護に同じ」
「名護さんとお兄ちゃんに同じ」


名護、キバット、キバーラも、あまり気を払ってはいなかったらしい。
『いつか気付く時には気付くだろう』という雰囲気だ。


『我は一応、それとなく話していたのだがな、坂井悠二』
「うっ……で、でも、あんな遠回しな言い方じゃ分かるわけないだろ」


確かにアラストールは、悠二に奏夜のことを聴かれた際、『キバをどう思う』と聞かれていた。


だが、そこから答えを連想するのは、シャナでも難しかったかもしれない。
――わざとかどうかはさておいて、さっき奏夜の言ったように、キバ=奏夜のイメージは、なかなか浮かばないのだ。


『……………はぁ』


――全てを知り、シャナと悠二は大仰に溜め息をつき、肩の力を抜いた。


「……なんか、どうでもよくなっちゃった」
「だね。いちいち聞いてたら、自分が馬鹿みたいに見えてきたよ」
「おいお前ら、自分から話せとか言っといてそりゃねーだろ」


拍子抜けした、と言外に語る二人に、さすがの奏夜も眉をひそめる。


しかしシャナは、


「だって、全然変わらないんだもの」
「は?」
「キバだってことが分かっても、全然奏夜の印象が変わらないんだもの」


シャナの表情は苦笑いには違いなかったが、僅かな喜びのようなものが感じられた。


「うまく言えないけど、キバが奏夜で良かった」
「うん。今考えてみれば、変に納得しちゃいましたよ。先生はいつも、僕達を助けてくれてたんですね」
「助けるって……んな大層なことしてねぇよ」
「先生はそうかもしれないけど、僕達からすれば、そういうことなんです。シャナもそうだよな」
「――まぁ、謙遜されたら、こっちの立場が無いってくらいにはね」


奏夜に向かって、二人は声を揃えた。




『ありがとう。助けてくれて』




「………」


どうしよう。
顔にこそ出さなかったが、奏夜はかなり戸惑っていた


(すげー嬉しい)


火照った表情を悟られぬよう、奏夜は顔を逸らす。


「あー。そういうの止めようぜ。辛気くさい」


奏夜は頭を軽く掻いた。


「助けるのなんか当たり前だろ。俺はお前らの担任なんだしさ。だからさ、これから俺がお前らを助けても、礼なんか言うなよ。お前らが俺を助けた時も同じだ。
そういう理屈抜きで助け合うのが、“仲間”ってもんだろ?」


ま、要するに。
席から立ち上がり、奏夜はシャナと悠二 に手を差し出した。




「今後ともよろしくな。“シャナ”、“悠二”」




奏夜が二人の呼び方を変えたことが、全てを物語っていた。


改めて、奏夜は認めたのだ。


二人を、仲間だと。
一緒に戦おうと。


シャナと悠二は、込み上げた嬉しさを隠すことなく、笑顔で手を握り返した。


「うん。よろしく、奏夜!」
「よろしくお願いします、先生!」


◆◆◆


「結局学校はサボっちゃったね」
「しょうがないでしょ。封絶も張られてなかったから、操られてた時の記憶はごっそり抜け落ちちゃってるだろうし。授業どころじゃないわ」


今頃は臨時休校よ、とシャナが締めくくる。


マル・ダムールからの帰り道。
悠二はふと、周囲の景色に目線を向ける。
警官の姿をちらほら見かけるものの、御崎市からはようやく混乱が消えつつあるようで、人々がそれぞれの生活に戻ろうとしていた。


あれだけのことがあっても、日常はそう簡単には揺るがない。
悠二はそれがとても頼もしく、そして少し怖くもあった。


(でも今日は、僕も早く休みたいな)


顔にこそ出ていないが、シャナもそうだろう。


色々、驚くことがありすぎた。
そのほとんどに、奏夜が絡んでいるのは笑える話だが。


(――そういえば)


思考が非日常から日常にシフトし、悠二はふと、あることを思い出した。


(あの時――)


ヘルホーネットファンガイアにシャナが拐われた前、悠二は攻撃を喰らった。
そして気が付いた時には、学校の保健室に運ばれていた。


――そう、“運ばれていた”。


「アラストール」
『何だ?』
「あの時、誰が僕を保健室まで運んでくれたんだ?」


アラストールは一瞬沈黙して、


『……紅奏夜だ』
「あ。やっぱり先生だったんだ」


肝心な部分を隠した答えに、あっさり悠二は納得してしまい、以後、この話題を振ることはなかった。


だが、この答えにしろ、嘘は言っていない。


(それに、本当のことを言って、どうなるものでもないだろうな)


――あの時交わした会話は、限られた者にしか通じないのだから。




◆◆◆

――あったかも知れない会話。


『なるほど。俄には信じ難いが、そうすれば全て説明がつく』

「頭の固いお前にしちゃ、案外すんなり信じたな」

『貴様を最初から理解しようとなど思ってはおらんわ。いや、理解しようとしても出来んだろう。なら、最初から全て受け入れてしまう方が利口だ』

「相変わらず気にくわねぇな、堅物魔神。ま、話が早いならそれに越したことはない。
オレが時を渡って“大戦”時代に現れたことと、この身体――ってか、奏夜がオレの息子で、キバだってことを信じてくれりゃあいい」

『誰か他に、それを知っている者はいるのか?』

「マティルダには話したぜ。ヴィルにも話したが、ありゃ信じてなかっただろうな」

『あれだけ毛嫌いされていれば、それも致し方無かろうな。あの跳ねっ返りと我が、何度『万条の仕手』から貴様に関わる愚痴を聞かされたか……』

「そういや、ヴィルはどうしてんだ?  てっきり一緒かと思ってたんだが」

『いや、あの子が独り立ちした時に別れたきりだ』

「独り立ちね……。じゃあ、お前もヴィルもメリヒムも、約束を果たしたわけだな」

『ああ。だが、我にしろ、『万条の仕手』にしろ、“虹の翼”にしろ、きっかけを作ったに過ぎん。それが実を結ぶかどうかは、あの子次第だ』

「ああ、それについちゃ大丈夫だろ」

『?』

「そいつ――確か悠二だっけ? あの嬢ちゃんとそいつが奏でる音楽、お前とマティルダが奏でた音楽にそっくりだ」

『……こ奴はまだ、“そういった者”に足る器ではない』

「はっ、過保護者」

『黙れ軟派が』

「……」

『……』

「……っくく」

『……ふ、ふ』

「変わんねー」

『変わらんな』

「いいことだから、別に構わないんだけどな。……さて、オレはそろそろ行くぜ。約束は守れよ、堅物魔神」

『お前が“大戦”でやったことを、紅奏夜には言わない、だったな』

「頼むぜ。代わりにオレが、あの嬢ちゃん助けるのを手伝ってやろう」

『……嫌な予感しかせんが』

「気のせいさ、好意はありがたく受け取っとけよ。じゃあな堅物魔神、また会おう」

『ああ、できれば、三度目は無いとありがたいがな……待て、何故我を持つ。ぬぉっ!? 止めろ、わざとらしく枕の下に入れていくな――!』




――こうして、過去と現在を繋ぐ橋は再び閉じた。


だが、全ては起こるべくして起こる。


運命の鎖は再び、紅蓮と牙を引き合わせるのだ。




◆◆◆


奏夜が去った後、謎の噴水広場。
音也は噴水の縁に腰掛け、高層ビルを眺めていた。


「別れは済んだようですね」


と、涼やかな印象を受ける声を、音也の耳が捉える。


「別れじゃないさ。あいつは、俺の魂を立派に受け継いでくれた。奏夜がオレの魂を未来に繋いでくれる限り、オレは常にあいつと共にある。――お前も、そうだろ?」
「……ええ。その通りです」


ビルから零れる光と月明かりが、暗闇から現れた声の主を照らし出す。


音也とそう年齢は変わらない青年だった。


髪は音也と同じ、茶髪。
その下にある表情は物憂げだが、端正な顔立ちも手伝ってか、むしろミステリアスな雰囲気を醸し出している。
白いセーターにマフラー。青いジーンズが、背の高さを引き立てていた。


「で? 今日はどうした。お前が来たってことは、何か計画に狂いが出たのか?」
「ええ。少々……いえ、かなりマズい状況です。“世界の破壊者”が、九つの世界のライダーを、すべて仲間にしてしまいました」
「――世界の破壊者は、全てのライダーと戦い、消えゆくライダー達の歴史を繋ぎ、人々の記憶に刻まなければならない。だったな」
「はい。大ショッカーからは、アポロガイストが動いているようです。世界の融合は更に加速するでしょうね。――このままでは、『完全なる融合を果たしたこの世界』でさえも、滅びの現象に呑み込まれる可能性があります」
「予断を許さない状況ってわけか……。よし、オレが“あいつ”を見極めてくるとしよう。“あいつ”に、旅を続ける資格があるかどうかをな」
「お願いします。ではこれを」


青年が手渡したものは、マゼンダと黒でカラーリングされたタッチパネル式の携帯端末だった。


「世界の破壊者にその資格があるなら、これを渡して下さい」
「わかった。オレはどの世界に渡ればいい?」
「彼は今、光夏海の世界の裏側――ネガの世界に向かっています。先回りできるよう手筈を整えますから、その間に準備を整えてください」
「ネガの世界……。確かダークライダーの世界だったな」
「ええ。あなたには仮の身体と『闇のキバ』の力を与えます。今後のためにも、ネガの世界を支配し、ダークライダーとモンスターを抑えておくべきでしょう」
「悪役を演じろってワケか。嫌な役回りだぜ」


不服そうに、音也は鼻を鳴らす。


「世界の破壊者が使命を全うしさえすれば、世界は再生されます。少し間だけ耐えてください」
「やれやれ、人気者はツラいな」


おどけるように言いながらも、音也はシニカルな笑みを作る。


「ま、仕方ないか。――他ならぬ“息子”の頼みだからな」


青年は少し驚いたように目を見開く。
無表情だった顔に、僅かな笑みが浮かんだ。


「――どの世界にいても、あなたは変わらないんですね」
「はっはっは、オレ様の天才性は、世界すら越えるのさ」


青年に見送られ、音也は地面から現れたオーロラの中に消えていった。


残された青年は、ふと夜空を見上げる。
そこには、先ほど奏夜が見たビルの代わりに、無数の青い惑星――地球が瞬いていた。


「……この世界を頼みましたよ。紅奏夜――僕に最も近い、仮面ライダーキバ」
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  1. 2012/04/03(火) 21:49:27|
  2. 仮面ライダーキバ/BLAZING.BLOOD
  3. | トラックバック:0
  4. | コメント:2
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コメント

ここまで

ここまで来ましたか…

ふと思ったのですが…コラボした章はどうなるのかと考えてしまいまして…この物語はコラボした話を含めて一つの物語だと思ったのですが…

今後コラボ章はあるのでしょうか、お聞かせ下さい。
  1. 2012/04/04(水) 01:01:50 |
  2. URL |
  3. リュウガ #-
  4. [ 編集 ]

返信

今んとこコラボ編は残す予定ですね。

エジェビル先生は連絡出来なかったんですが、神崎先生と闇丸先生はpixivで活動なさっているので、そちらへのリンクを貼る形で、未見の方への配慮にしようかと思ってます。
  1. 2012/04/05(木) 17:21:07 |
  2. URL |
  3. 一条ツカサ #-
  4. [ 編集 ]

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