紅蓮の牙

二次創作中心。仮面ライダーキバと灼眼のシャナのクロスを連載中。

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第十四話・再演/天才の贈り物.前篇


「紅、音也だ」


名乗りを上げ、奏夜――否、音也はヘルホーネットファンガイアと睨み合う。


「……ふん。まぁいい、魂は違えど、貴様を始末することに変わりはない」


ヘルホーネットファンガイアは、意識を失ったシャナの右腕を掴み上げる。


「御崎市の電波塔まで来い、私はそこで待つ」


そう言い残し、ヘルホーネットファンガイアの姿は、シャナごと金色の光となって消えていった。


「……ハァ、面倒なことになってんなぁ」


ファンガイアが消えた虚空を見ながら、奏夜はダルそうに頬を掻く。


『紅音也』
「あん?」


足元から声がした。


「おやおや、遂にオレの名はコンクリートにまで轟いちまったか」
『……その軽口も、久方ぶりに聞くと勘に触るな』
「はっはっは、ジョークだジョーク」


言いつつ音也は、シャナが――恐らくは掠れる意識の中――外したであろう、コキュートスを拾い上げ、目の前にぶら下げる。


「久しぶりだな、堅物魔神。またお前の辛気臭い声を聞くとは思わなかったぜ」
『ああ、我も貴様の腹ただしい軽口を、再び聞くことになろうとは思いもよらなかったぞ、紅音也』


――紅世の魔神と希代の天才。
再会の文句は、二人とも毒からだった。


◆◆◆


「――う」


悠二が目を覚ますと、薬品の匂いが鼻をついた。


(――保健室?)


背中にベッドの感覚もある。
眩しい照明の光を右手で遮りつつ、状況把握のため、悠二は頭を整理していく。


(えと、授業抜け出して、ファンガイアが来て、攻撃に巻き込まれて、シャナが……)


直ぐ様、ベッドから飛び起きる。


「そうだ、シャナは!?」


慌ててベッドから這い出る悠二を、くぐもった声が呼び止める。


『坂井悠二』
「え、あ、アラストール? あれ、どこから話してるんだ?」


『枕の下だ』


今まで頭を乗せていた枕の下を探すと、見慣れたペンダントが出てきた。



『あ奴め、話し終わった矢先、枕の下に隠していきおって……』
「? 何が?」
『いや、こちらの話だ。坂井悠二、どこまで状況を覚えている?』
「ええと、あいつに吹っ飛ばされたあたりまで」
『うむ。あの後の話だがな、シャナがあのファンガイアに捉えられた』
「えっ、ど、どういうことだよ!?」
『そのままの意味だ。キバをおびき寄せるため、あの子を使う気だろう。電波塔で待つと言っていたが……』


淡々と告げるアラストールに対し、悠二の思考は焦燥に塗り潰されていく。


「……まずい、早く行かなきゃ!!」


次の瞬間には、悠二はコキュートスをひっ掴み、保健室を飛び出していた。
アラストールが何か言っていたが、悠二の耳には入らない。


(シャナ……シャナ!)


シャナの安否、それだけを思い、悠二は冷静さを欠いていた。
校門前まで来たところで、ようやくアラストールが制止が届く。


『落ち着け。あの子にも言われただろう、貴様が行って何になる』
「っ……でも!」
『とにかく頭を冷やせ。何もするなとは言っておらん。先ずは、『弔詞の詠み手』とあの白騎士に会うべきだ』
「名護さん達に?」
『うむ。『弔詞の詠み手』は怪しいが、あの白騎士ならば、協力も望めよう』


こちら側に戦力が無い以上、助けを求める。至極妥当な案だ。


けれど、


「……それしか、僕に出来ないのか?」
『………』


アラストールの提案に、悠二は悔しさに拳を握り締めた。


「助けを呼びにしか、行けないのか?」


無力さを嘆くように、悠二は気持ちを吐き出していく。


出来るなら、今すぐにでもシャナの元へ向かいたいのだろう。
アラストールもそれはわかっていた。


(だが、現実にそれは通じぬ)


ここで悠二を止めなければ、シャナを助け出すことはより困難になる。
だからこそアラストールは“悠二”のためにも、厳しい言葉をかけた。


『――ああ、そうだ』
「そうそう、やめとけ。お前の力じゃ勝負にもならん」


だが、かかった声は一つでは無かった。
悠二が振り替えると、いつの間にか校門脇の壁に、一人の男性が寄り掛かっていた。


「……先生」
「いや違う。オレ様は通りすがりの愛の天使だ。そう言わなかったか、少年?」
「そうですか。なら、僕は忙しいので失礼させて貰います」


今、悠二にこの奇妙な状態の奏夜を相手にする余裕は無かった。


「くっくっく、つれないねぇ」


歩き去ろうとする悠二を見ながら、奏夜は心底楽しそうに相好を崩した。


「まぁ確かに、忙しいのは当たり前だな。呼び止めて悪かったよ」




自分じゃ何一つ出来ない、無力な少年くん。




ぴたり、と悠二は足を止めた。


「ほらほら、さっさと行けよ。あのイクサ泥棒のガキなら、このくらいどうにかしちまうだろうさ。お前みたいなただの坊やは、裏方役がお似合いだ」
「……何が言いたいんです?」
「別にぃ? ただ、情けないと思うだけさ。惚れた女一人助けようとしないなんてな」


思わず、悠二は奏夜の胸倉を掴んでいた。


以前にも、こんなことはあった。
ただ、以前は確実に自分の落ち度だったが、今回は違う。


「何の真似だ? オレは当然のことを言ったまでだぞ。あの化け物のトコに行くなんざ、愚の骨頂だ。お前は助けを呼んだら、どっか安全なとこでじっとしてろ」
「……っ、じっとしてるなんて、出来るわけないだろ!?」
「じゃあ聞くが、オレから離れて何処に行こうとしてたんだ?」


奏夜の質問に、悠二は押し黙る。
燻る思いこそあれど、あのまま奏夜が呼び止めなかったら……。
自分は、名護やマージョリーの元へ、足を動かしていた。


「そうだろ? 認めろよ、そいつがお前の本心だ。戦略だの、力の無さだの、もっともらしい理由をつけて、お前は結局あの娘を助けにいく自信が無いんだ」
「そんな、こと……」


ない。
そう言い切れるだけの正しさも強さも、悠二の中には無かった。
奏夜は悠二の腕を払い、伝える。


「お前は、あのイクサ泥棒のガキと違って、遊び心を持つだけの余裕がある。
力も、まぁ、その歳にしちゃなかなかだ。けど、強くなるにはまだ足りない」


奏夜は、悠二の目先に指を突き出す。


「覚悟だ」
「かく、ご?」
「そうだ。大切な人のためになら、何でも投げ出せる覚悟。投げ出した結果、誰かを傷付けたとしても、その傷すら背負う覚悟だ」


悠二は、呑まれていた。
普段から、奏夜の言うことには含蓄がある。
だが、今の奏夜の言葉には特に、まるで吸い込まれるような力があった。


「人間、覚悟さえあれば大抵のことはできる。吸血鬼の王をブッ飛ばすことだって夢じゃない。オレがその生き証人……いや、この場合死に証人か。どっちでもいいけどな」


さて




「お前にはあるのか? それだけの覚悟が」




「………」


悠二は即答できなかった。


彼女のために強くなろう。そう誓ったことはある。
でも、それは果たして、本当に心からの決意だったのだろうか。


(もし、僕にそれだけの覚悟が無かったら……)


そう考えると、自分がとても恐ろしいものに思えてきてしまう。


――この質問に、軽々しく返事をしてはいけない。故に悠二は、口を開けなかった。


「……ま、お前さんにはちょっと難しい話かもな」


奏夜が頭を軽く掻き上げた。


「誰かを頼るのを否定するわけじゃない。だがもし、お前が自分の力であの娘を救いたいなら――」


言いつつ、奏夜は悠二に“ある物”を押し付けた。


「!! これって……!」


「オレ様からのプレゼントだ。コイツを上手く使えば、お前さんでもあの娘を助けられる、かも知れん。あとは、お前の覚悟次第だ」


最後に、軽く悠二の肩を叩き、奏夜は立ち去っていった。
悠二はその後ろ姿を呆然と見送り、次に奏夜から手渡されたものに目を落とした。


「――何なんだよ。僕に、一体どうしろっていうんだ」


誰にともなく、悠二は問う。
だが、答えは無い。
そんな悠二を見て、アラストールは、


(まったく、余計なことをしていきおって……)


心の中だけで、こっそりと不満を漏らした。


◆◆◆


「さて、もうそろそろ、こちらに向かっている頃か……」


御崎市内の電波塔。
市の中央付近に位置し、高層ビルの少ない御崎市では五指に入る高さという、それなりに大規模なもの。
それに隣接する、コントロール用施設の屋上に立ち、ヘルホーネットファンガイアは、御崎市を一望していた。


「では、始めるとしよう。最高のショーをなぁ」


口角を吊り上げ、ヘルホーネットファンガイアは透明な羽を広げた。
羽は残像を見せるほどに振動し、高く耳障りな音を生み出す。
空気の震えに乗って、その怪音波は御崎市全域に伝達されていく。


「人間どもよ聞くがいい……我が『破壊の音楽』を!」


◆◆◆


「ぐっ!?」


名護啓介はその日、『マル・ダムール』にいた。


バウンティ・ハンターとしての仕事を滞りなく終え、いつものようにコーヒーを啜り、至福の一時を過ごしている……はずだった。


「な、にを……する!! マスター!」


マスター、木戸はその質問には答えず、ただ名護を押さえつけ、彼の首を絞めようとする。


――突然のことだった。
普通に皿洗いをしていたマスターが、いきなり目の色を変えたかと思うと、名護に襲い掛かってきたのだ。
マスター以外にいた他の客も、力のないふらふらした足取りで、名護に向かってくる。


(ファンガイアか、それとも“徒”の仕業か……っ!? どちらにせよ、マスターも他の客も、普通の状態じゃない!)


早く、状況を把握しなければ。


「マスター、すまない!」


マウント体勢のマスターを蹴飛ばし、無理やり引き剥がす。
マスターは机に激突したが、軽い打ち身程度だろう。他の客を振り切り、名護はマル・ダムールの外へ。
だが店外にも、大勢の人が待ち伏せしていた。


「くっ、戦うしかないか……?」
「ケイスケ!」


と、戦う覚悟を決めようとしていた名護にかかる声。
声の主は、握りられかけた名護の拳を一瞬で掴み、そのまま空中に舞い上がる。


「グッドタイミーング!」
『ヒャーハハッ! 無事だったかい? 白騎士の兄ちゃんよ!』
「――ああ、助かったよ、『弔詞の詠み手』」
「あら、えらく素直な礼じゃない」
『よく言うぜ、礼言わなかったら言わなかったでふてくされブッ!』
「お黙り」


グリモアで浮かぶマージョリーとマルコシアスのやり取りを、名護はぶら下がりながら聞いていた。
眼下には、獲物を探すかのように蠢く人の影。


「それより、状況を説明してくれ。一体何がどうなっているんだ?」
「どーもこーも、こいつは相手方の魔術でしょうね」
「魔術……ということは、ファンガイアか」
『そーゆーこった。俺達みたいに耐性があるヤツは大丈夫みてーだが、大抵のヤツは操られちまってる』
「ならば、御崎市の人間全員が操られているとみた方がいいな。手の込んだ真似を」
「手が込まなきゃ、こんなもの作れないわよ。……この分じゃ、ケーサクもエータも同じ状態か」


苦々しく、マージョリーが舌打ちした。


「『弔詞の詠み手』。何かこの魔術の解除法は無いのか?」
「魔術は専門外よ。見たとこ『操られていない人間を攻撃しろ』って命令をインプットしてるみたいだけどね……。時間かけりゃ理解はできるだろうけど、それまで相手が待ってくれる保証はないわ」
『こりゃ解除するよりも、これを仕掛けたクソッタレを潰した方が早そうだぜ』
「場所は分かるのか?」
「さっき気配探知で調べたわ。あの電波塔よ」


何故か同じ場所に、もう一人のフレイムヘイズの気配もしたのだが、それをマージョリーは口にしなかった。


「少しかっ飛ばすけど、勢いに負けて、手放さないようにね」
「ふん、誰に言っている」
『揺れますので、シートベルトをお付けくださぁい!! なんてな、ヒーッヒヒ!』


軽口を叩き合い、マージョリーの乗るグリモアは、空に軌跡を描いて宙を滑っていった。


◆◆◆


場所は移って、紅邸二階。
奏夜はバイオリン工房を見渡し、机の上に置きっぱなしだったバイオリンの原型に目をつけた。


手近にあったノミを使い、型を丁寧に削っていく。


――と、そんな奏夜を窓から覗く影があった。
キバットである。
手がないため、歯で「ちくしょう、開けこんにゃろ!」とぼやきながら、ようやく窓を開け、中に入る。


「おい、奏夜!」
「ん? おお、二世の息子。元気にしてたか?」
「……俺様をそう呼ぶってことは、やっぱりお前音也なんだな?」
「む。つまらんリアクションだな。もっと驚けよ」
「お前にゃ前科があるからな。……ってんなことはどうでもいいんだよ!
外がえらいことになってるんだ! 街のみんなが誰かに操られちまってる!」
「……ほう、ヤツも動いてるってわけか」


音也はノミを置いた。


「二世の息子、よく聞け。お前らも知ってるフレイムヘイズのガキが拐われた」
「んなっ!?」
「敵はハチみたいなファンガイアだ。御崎市の電波塔にいる。理由は分からんが、キバを狙っているらしい。オレが身体から離れたら、奏夜にそう伝えろ」
「ちょ、ちょっと待て!! お前が何でシャナちゃんのことを……」
「悪いが、説明してる時間はない。じゃ、頼んだぜ」


キバットが止める暇もなく、奏夜は膝から崩れた。
次に目を開けた奏夜の雰囲気は、いつものものだった。


「え? あ、あれ? 俺、何で家に戻って来てるんだ?」
「奏夜、大丈夫か?」
「キバット? 俺、一体何を……」


奏夜が言いかけたところで、一階から物音が聞こえてきた。
二階から見てみれば、子供から大人十数人が、紅邸に押し寄せていた。


「うぉっ、何だありゃ!? 目がヤバイ人達が怒涛のように家宅侵入してきてるんだが!?」
「話はあとだ! 今はとにかくキバッて逃げるぞ!」
「何故に!? 話の脈絡がまるで見えないんですけど!」
「いいから早く!!」
「……あー、畜生っ!」


舌打ちし、奏夜は窓から飛び出しかけるが、


「……っと、これだけは置いていけないな」


ケースに入っていたバイオリン、ブラッディローズを掴む。
人々が二階まで上がってきた。
その様子を横目に捉え、間一髪、奏夜は窓から飛び降り、紅邸を脱出した。


「わけわかんねー! いつから御崎市はラクーンシティになったんだよ!」


◆◆◆


「いつから御崎市はラクーンシティになったんだー!」


同時刻、悠二は追ってくる人々から逃げながら、奏夜と同じツッコミをしていた。


『恐らくは魔術の一種だろうな。キバ以外の敵を効率良く始末するためだろう』


悠二の首にかけられたコキュートスから、アラストールの声がする。
奏夜と別れ、これからどうするかを決めていた矢先、悠二は操られている人々の襲撃を受けた。


以後、ほとんどノーインターバルで走り詰めだった。


「キバは、もう電波塔に着いたかな?」
『どうだろうな。ただ、存在の力の大きな衝突は、今のところ無い。ところで坂井悠二、お前は今、何処に向かっているのだ?』


悠二は少し黙って、


「電波塔だよ」


と答えた。


『……坂井悠二』


呆れるように溜め息をつくアラストール。
当然だろう。あれだけ、助けを求めにいけと言ったのに。


(ああそうさ。僕はただの分からず屋で、身の程知らずなガキだ)


悠二自身も、そう思っていた。でも、


「操られた人がこんなにいるなら、もうマル・ダムールにはたどり着けないよ。
ここまで大きな騒ぎになったら、いくらなんでも、名護さんやマージョリーさんは動いてるはずさ。だったら、向こうで合流できるかも知れないだろ?」
『……む』


確かにそれはそうだ。
マル・ダムールに行くよりは、電波塔の方が近い。
もし名護やマージョリーがいるなら、むしろ危険は減るだろう。


「それだけじゃ、ないけどさ」


小さな声で悠二は付け加えた。
アラストールはまた呆れかけたが、声には出さず、代わりに深い溜め息をついた。


『わかった。もう何も言うまい。状況を見ても、それが最善だろうからな』
「ありがと」


悠二が礼を言ったのを最後に、二人はしばらく互いに話さなかった。
襲い掛かってくる人をやり過ごしつつ、悠二はようやく電波塔前に辿り着いた。


悠二は目を閉じ、シャナの気配を探る。


(よし、ここまで来れば、気配は分かる)


シャナの位置を把握した悠二、だが直ぐ、唸るような声が背後から聞こえてきた。
操られたたくさんの人々が、悠二を取り囲み始めたのだ。


「くそっ、あと少しなのに……!」
「悠二君!」


と、悠二の頭上から声が聞こえてきた。


上空を見上げると、グリモアに乗ったマージョリーと名護が、悠二の眼前に降り立ったのである。


「名護さん! マージョリーさん!」
「無事だったようだね、良かった」
「まーたアンタはチョロチョロしてたのねぇ」
『ま、何にもしねーよりかはマシだがな、ヒッヒ』


言って、名護とマージョリーは周囲を取り囲む人々を見る。


「ほらほら、事情はなんとなくわかってるから、アンタはさっさとチビジャリ助けてらっしゃい」
「えっ、でも……」
『ヒヒ、俺達の都合だから気にすんなよ兄ちゃん。どっちにせよ、こいつらを黙らせねーと、目一杯暴れられねぇんだ。間違って殺したりすると、それだけで存在の歪みが出来ちまうからな』
「それに、彼らを人質にされたりするのも厄介だ。ここで食い止めよう。
悠二君、我々に構わず早く行きなさい」


悠二にはまだ葛藤があったようだが、躊躇いがちに頷いた。


「――分かりました。気をつけて下さいね」
「ああ、任せなさい」
「誰に言ってんのよ」


頼もしい言葉を聞き、悠二は電波塔へと入っていった。


「さあて、と。手加減はあんまし得意じゃないんだけどね」
『ヒャーッハハ! つい最近まで絶不調だったヤツの発言たぁ思えブッ!』


間髪入れず、グリモアをブッ叩くマージョリー。


「お黙りバカマルコ。それはそうとケイスケ、アンタあの白騎士になっときなさい。
あいつら、操られてる分動きにキレは無いけど、力はちょっと強くなってるから」
「――人間にイクサの力を使わないのが私のポリシーなのだが、まぁ、仕方ないか」


気が進まなそうに、名護は懐に手を入れる。


「……?」


怪訝そうに名護は顔をしかめ、彼にしては酷く慌てた様子で、服のポケットに手を突っ込みまくっていく。


「ケイスケ?」
『どうしたんでぇ?』


名護は呆然としたように、唇を動かした。


「……………無い」
『は?』




「イクサナックルが、無い……」




◆◆◆


施設内に、階段を駆け上がる音が反響する。


「この階のはずなんだけど……」


やたらに広い分、探すのが大変だ。薄暗く、石柱の多さに比例して物陰も多くなるため、見落としも起こる。
敵がいる可能性もあるから、早く探さなきゃならないのに。


「あのファンガイアもいるのかな」
『いや、屋上から動く気配は無い。当分は大丈夫だろう』
「ってことは、キバも来てないんだな。何やってるんだろ。……やっぱりこの前のこと、まだ引き摺ってるのかな?」
『さてな。だが、いない者のことを気にしてもいられまい』
「そりゃそうかも知れないけどさ……っ!?」


会話を途中で切り、悠二は柱の後ろに隠れた。


(シャナ!)


見つけた。張り巡らされたパイプの先、発電用の機械の傍らに、ぐったりと横たわっている。


『やはり、あのファンガイアの毒が効いているらしいな。あの子の力が弱まっている』
「だ、大丈夫なのか?」
「そこまではわからん。今は無事としか言えぬな。それよりもまず、“あれ”を見ろ」


アラストールの示す“あれ”とは、先ほどからシャナの周囲を巡回する三体のファンガイア、ワーカービーファンガイアだ。
ヘルホーネットファンガイアと似ているが、体色も違うし、若干小柄である。


『ヤツの分身態、といったところか』
「これじゃ近付けないな……よし」


奏夜から貰ったものを取り出しかけた悠二を、アラストールが止める。


『待て。確かにそれを使えば、あのファンガイア三体には勝てるかも知れんが、同時に親玉に感付かれるぞ。シャナが勝てなかった相手に、貴様が立ち向かっても結果は同じだ』
「じゃあどうするのさ!」


このまま待ち続けても、ヤツらが警戒を怠るとは思えないし、モタモタしていると、自分が見つかってしまうだろう。


「悠二く~ん」


踏み込めないでいる悠二に、後ろから小さな声がかかった。


「こっちこっち」


そこにいたのは、小さな白いコウモリだった。


「キ、キバーラ? 何でここに?」
「いきなり街の皆がおかしくなっちゃったから、シャナちゃんか悠二くんなら何か知ってるかなと思って探してたのよ。けど、それよりよっぽど厄介なことになってるみたいね」


キバーラはワーカービーファンガイアを横目で見る。


「わたしがあいつらの注意を引くわ。その隙にシャナちゃんを助けてあげて」
「――大丈夫?」
「余裕よ。あいつらは分身態だから、知能は高くないから」


本当なら、キバーラを危険な目に合わせたくない。
だが、明確な作成もない。


「……じゃあ、頼むよキバーラ。でも危なくなったらすぐ逃げてくれ」
「まかせて、トモダチのためだもん♪」


ウインクし、キバーラはワーカービーファンガイアの方に飛んでいく。


「鬼さんこ~ちらー♪」


――ギィィィッ!
反射的に反応したワーカービーファンガイアは、逃げ惑うキバーラを追いかけていく。


警備は手薄になった。


「今だ!」


キバーラに感謝しつつ、物陰から飛び出した。


「シャナ、大丈夫!?」


力無く横たわるシャナのもとに駆け寄る悠二。
軽く揺さぶると、シャナは目をゆっくり開けた。


「ゆう……じ?」


息は荒く、顔もやや紅潮しているが、それでもシャナは反応を示す。


「なん、で……悠二が、ここに?」
「助けに来たに決まってるだろ! さ、早く逃げなきゃ。キバーラが時間稼ぎをしてくれてるから」


悠二は手早く、シャナを後ろに背負った。
シャナが、毒とはまた別の意味で顔を赤くした。


「ば、ばか悠二、な、に……すんのよ……!」
「文句なら後でいくらでも聞くから!」


シャナはまだ何か言いたげだったが、毒がつらいのか、大人しく悠二の背中に身を預けた。


「悠二くん! シャナちゃん助けたなら急いで! あいつらが来るわよ!」
「うん!」


舞い戻ってきたキバーラと一緒に、悠二はその場から逃げ出した。


シャナは体躯通り、とても軽く、走る上で苦にはならない。ワーカービーファンガイアの鳴き声を振り払うように、悠二は走り続ける。
だが、


「……あれ?」


おかしい。
もう階段が見えてきても、おかしくはないはずなのに。
一向に周囲の景色が変わらない。


『気付いたか、坂井悠二』
「アラストール、これってまさか……!」
『ああ、不味いな。また魔術だ。同じ場所を何度も巡らされているぞ』
「えぇ!? ど、どうするのよ!」
『ひとまず隠れろ。物陰なら山ほどある』


アラストールの提案で、四人は柱が密集しているエリアに隠れた。


「どう? 悠二くん」
「無理みたい、ここから全然動く気配がないよ」


隠れてからも、ワーカービーファンガイアの鳴き声は止まず、この近辺を探し回っている。


「アラストール、そっちは?」
『ダメだ。清めの炎でも毒は消えぬ』


再びシャナの首にかけられたコキュートスから、アラストールが言う。
シャナの顔色は一向に良くならず、息づかいも荒くなる一方だ。


『解毒の術は、あのファンガイアしか分からぬだろうな』
「マズイわ、見つかるのも時間の問題よ」


キバーラの緊張は、三人にも伝染していく。
掴まれば、シャナが戦闘不能な以上、このままでは確実にやられてしまうだろう。


「……だい、じょうぶ」


か細い声に悠二が振り替えると、夜傘から取り出した『贄殿遮那』を杖代わりに、シャナが立ち上がるところだった。
だが、足は覚束なく、酷く頼りない。


「シャナ!?」
「はぁっ、わ、私、なら……戦える、から……」
「ダメだよ、君はもうふらふらじゃないか!」
「そうよシャナちゃん! その毒だってどんな特性を持ってるかわからないのよ!? いくらフレイムヘイズだからって、死んじゃうかも知れないわ!」
『勇気と無謀は違う。シャナ、お前も分かっているはずだろう』


満身創痍にも関わらず戦おうとするシャナを、三人が阻む。


「……じゃあ、他に、手が、あるの……?」


シャナの瞳は、どんなことがあっても退かないと語っていた。
気圧される三人を見て、シャナは安心させるように言う。


「……だい、じょうぶだよ、悠二、キバーラ、アラストール。わたしは、フレイムヘイズ、だから……。あんな奴らに、負けないから……」


果敢にもそう宣言し、シャナは紅蓮に染まりつつある目で、悠二を見つめ、微笑む。
それは――触れれば砕け散ってしまいそうな、今にも消えてしまいそうな、儚い笑顔だった。毒が回りつつあり、意識も朦朧としている筈。


だがそれでも、シャナは笑っていた。




「安心、して……。悠二も、皆も……私が、絶対に守るから」




「……っ!」


衝撃が、悠二の身体を貫く。


以前、悠二はシャナに頼んだ。
『皆を、守ってくれるかい?』と。
そう。シャナに皆を守ってくれるように頼んだのは、悠二だ。


彼女をこうあるように変えたのは、悠二だ。


シャナはその約束を果たすため、こうしてボロボロの身体を引き摺ってまで、戦おうとしている。
――だが、悠二の心の中に沸き上がったのは、喜びではなかった。


「――けるな」
「?」


小さくつむがれた言葉を、三人が認識するより早く、悠二は、





「ふざけるな!」





反響するのも構わず、シャナを怒鳴り付けていた。


キバーラは目を丸くし、アラストールも何も言わないでいるが、驚愕はしているらしい。
シャナもまた、自分が慕う少年が、どうしてこんなにも怒っているのかわからず、茫然自失とするばかりだった。


「僕は……僕はそんなつもりで、キミに『皆を守ってくれ』なんて言ったわけじゃない!!」


立ち上がろうとしていたシャナを、強引にまた座らせる。


「キミだって、自分の身体のことくらい分かってるだろ!? だったら何で戦おうとするんだよ! 何で死ににいくような真似をするんだよ!」
「だ、だって……」
「だってじゃない!」


溜め込んでいたものを吐き出すように、悠二は叫ぶ。


「キミも、大切なんだよ」
「……?」
「キミだって、僕にとっては皆と同じ、守りたい人なんだよ!」


普段滅多に聞かない、悠二の怒り。
それはまさに心の咆哮だった。
そこに気恥ずかしさなどは微塵も見られず、その剣幕には、シャナでさえ威圧するほどの、力強さがあった。


「なのに何でキミは、自分を守らないんだよ! 自分を大切にしないで皆を守ってもらっても、僕は全然うれしくない! たとえそれで、敵を倒せても、僕や皆が助かったとしても――」





そのせいでキミがいなくなったら、守れなかったのと変わらないじゃないか!





「………」


シャナは唖然とし、同時に、胸の奥から何か熱いものが込み上げてくるのを感じていた。
毒の痛みすら忘れるほどの熱を持ったその感情は、シャナの中に広がり、心を満たされていく。


(……なに、これ)


悠二を想う心とは違う、名前のつけられない感情に戸惑うシャナ。
片や、悠二は立ち上がり、物陰からゆっくりと出ていく。


「キバーラ、シャナをお願い」
「えっ、ゆ、悠二くん! ダメよ、キミが行っても……」


キバーラの静止も聞かず、自分の声に寄ってきたファンガイアと向かい合う悠二。


眼光は鋭く、迷いもない。
普段とは比べ物にならない雰囲気だ。


悠二の態度の裏には、あの奇妙な状態の奏夜が発した問い掛けがあった。


『お前にはあるのか? それだけの覚悟が』


そんなの、今更だろう。


(最初は覚悟なんて何も無く、僕はこの非日常に放り出された)


そしてシャナと出会い、彼女を助けたいと願った。もうとっくに、覚悟はしていたじゃないか。


(そうだ。だったら、力があるとかないとか、そんなもの関係ない)


結果なんか気にしても仕方ない。


(今はとにかく動けばいいんだ、理屈も何もなく、大切な人のために)


大切な人のためなら、何でも出来る。
それで、大切な人を守れるなら。


「――ああ。覚悟なんか、いくらでもしてやるさ」


深い決意が刻まれた悠二の目に、三体のワーカービーファンガイアは、怯えていた。
今までは確実に『狩る』側だった自分達が、いつの間にか『狩られる』側に回った、そんな悪寒に苛まれていた。


――力に頼るものは、それ以上の力を持つものに、逆らう術を持たない。


悠二は無言のまま、懐から、奏夜から貰ったものを取り出した。
悠二の手に握られているのは、白と金色の装飾がされた手甲型の機械――イクサナックルだった。





「シャナに、僕の大切な人達に、手出しはさせない!」






悠二は腰にイクサベルトを巻き、イクサナックルに、左手を押し当てる。


『レ・デ・ィー』


待機音が流れ出し、悠二はまるで何処かのヒーローの如く、右から左へイクサナックルをスライドさせる。


――図らずもそれは、26年前、このイクサを最も使った男と同じポーズだった。


そして悠二もまた叫ぶ。


無力な自分を捨て去る、魔法の言葉を。





「変身!」





『フィ・ス・ト・オ・ン』


電子音と共に、足下から、イクサナックル内に圧縮されていたアーマーの映像が現れ、悠二の身体と重なった。
――純白の鎧を身に纏い、悠二は仮面ライダーイクサへと変身を遂げる。
名護の変身時とは異なり、イクサメットの防護装甲『クロスシールド』は展開されておらず、セーブモードでの変身だった。


「着心地は、悪くないな」


イクサはワーカービーファンガイアに手を突き出す。伸ばした指を自分の方へ曲げる姿は、完全に相手を挑発していた。


「さぁ、かかってこい!」


自分を鼓舞するように、イクサは宣戦布告する。
三体のワーカービーファンガイアは雄叫びを上げ、イクサへ襲い掛かっていく――
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  1. 2012/03/30(金) 22:11:16|
  2. 仮面ライダーキバ/BLAZING.BLOOD
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