紅蓮の牙

二次創作中心。仮面ライダーキバと灼眼のシャナのクロスを連載中。

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第十三話・英雄/天才再臨.前篇


御崎高校一年二組。
四時間目、科目は現国。
いつもの授業風景。


「あ、先生」


そんな中、クラスのメガネマン、池速人が右手を挙げた。


「何だ?」
「和歌の作者名が、小野小町じゃなくて小野妹子になってます」
「……おお、すまん」


ベタな間違いをした奏夜は、黒板消しを手に取るが、


「……あの、先生」


池に続いたのは、田中栄太だ。


「それ黒板消しじゃないっすよ。はんぺんです。何処にあったんですかその加工食品」
「……悪い、間違えた」


どこをどう間違えたら、はんぺんと黒板消しを取り間違えるのだろう。
躊躇なく、手にしたはんぺんをゴミ箱に捨てる奏夜。


食べ物は大切に。


「あと先生。俺からもいいですか?」


ようやく誤記を訂正した奏夜に、佐藤啓作がまたまた手を挙げた。


「最初、授業始まった辺りからツッコミたかったんですが……」
「……んだよ」
「片手に広げてる教科書、DSライトです」


確かに、奏夜の片手にあるのは、銀色に輝く携帯ゲーム機である。


「……内容は同じだからいいだろ。文部科学省推薦ソフトだし」
「いやそれ、問題は出してくれますけど、教科書見るシステム無いでしょ。てか、今までよく板書出来ましたね」


逆に凄い。


「あの、先生……体調が良くないなら、無理しない方が……」


吉田一美が奏夜を気にかけ、おずおずと提案する。


「……何を言うか。俺は絶好調だよ。さ、下らないこと言ってないで授業の続きガッ!?」


言いつつ、奏夜は誤って、DSを取り落としてしまった。
DS落下箇所の爪先から、全身駆け抜けた痛みに、身悶えする奏夜。
クラス中が、疲れたような溜め息に包まれた。


◆◆◆


――紅奏夜の元気がない。


そんな噂が流れ出したのは、愛染兄妹が討滅されて、一週間後のことだった。


他愛ない噂話――そう捉えられるだろう、普通なら。
だがこれは、御崎高校内の人間にとって、かなりハイランクに位置するビックリイベントだったりする。


天上天下唯我独尊。
世間体など路傍の石。
常に幸せ満開状態。
こんなレッテルを貼られた男が落ち込むなど、紅奏夜を少しでも知る人間なら思うだろう。


だが、その噂は確かなものだと、奏夜自身が証明していた。


まず、さっきの授業のようにらしくない、というか、神がかかったドジが目立つ。
遅刻をしない。
勝手な行動を取らない。
言動が常識的。


――ほとんどが人として当たり前の項目だが、軽く社会人失格状態の奏夜が、今までそれを実践してみせたことは無かったのである。
生徒と教師が、そのギャップ戸惑いつつも、奏夜の不調は治る気配を見せていなかった。


――此度の騒動は、そんなある日の昼休み、一年二組在席の女子、緒方真竹の一言から始まった。


◆◆◆


「これは由々しき事態よ!」


ぐっ、と握り拳を作り、緒方は熱の籠った口調で、一年二組の直面している問題を提示する。
昼食を終えた現在、一年二組にて、数人の生徒が各々の机をくっ付け合い、まるで会議でもするかのような雰囲気を醸し出していた。


ちなみにメンバーは緒方の他に、シャナ、悠二、吉田、池、佐藤、田中といういつもの面々だ。


「知っての通り、ここ数日の先生はあまりにもおかしいわ!」
「確かに、オガちゃんの言う通り、最近の先生、輪をかけて奇行が目立つよなぁ」


田中が腕を組みながら唸り、佐藤も頷く。


「そうそう。なんつーか、冗談やらギャグやらにキレが無いって感じ? 池はどう思う?」
「うーん、冗談やらキレはさておき、元気が無さそうなのは確かだよな」
「奏夜先生、どうしちゃったのかな……」


吉田も本気で心配しているらしく、顔を附せがちに呟く。


「気にし過ぎじゃないかな。先生だって、落ち込むことくらいあるよ」
「あれ? 意外だな坂井。お前が一番、先生を心配しそうだと思ったんだけど」
「……いや、別に、今までの奏夜先生からして、そこまで大事に捉えなくてもいいんじゃないかなって」


いぶかしむ池に対し、悠二はそう答えた。
だが緒方は「甘い!」と一蹴する。


「先生がテンション下がってる理由はこの際どうでもいいの! 問題は、それに比例してクラスの雰囲気まで、暗くなってるってことよ!」


指先をビシッ、と立てる緒方の指摘には、他の六人も反論は出来なかった。
奏夜は、明るいキャラ立てもあってか、教師でありながら、クラスのムードメーカーの役割を担っていた。


そのためかここ数日、一年二組の持ち前の明るさが、やや損なわれ気味なのである。


「だからここは一つ、ズバッと先生の憂いを晴らすのよ、このメンバーで!」
「どうやって?」


シャナがストレートに聞いた。
シャナもなんやかんやで彼には世話になっている。
だから彼女自身、協力するのはやぶさかでは無い。


問題は、どう彼の元気を取り戻すかだ。


「えっと、ほら、先生の喜びそうなこととかで!」
「奏夜の喜びそうなことって?」


またしても直球。
だが、シャナの質問に、緒方含む六人は一先ずシンキングタイムに入った。


言われてみれば、いつも一緒にいる割に、意外と彼のプロフィールは謎だらけである。
急に喜びそうなことと言われても、なかなか思いつかない。


が、


『……あ』


悠二、吉田、佐藤、田中、そして質問者であるシャナ、五人の頭に一つの案が浮かんだ。


「あるな。先生の喜びそうなこと」
「うん、やっぱアレだろ」
「あれ、佐藤と田中も知ってるのか?」
「私も知ってるわよ。実際奏夜に聞かせて貰ったし」
「わ、私も」


思い付いた案について、五人は話を進めていく。


「ちょっとちょっと、五人だけで話進めないでよー!」
「みんな、何か知ってるのか? 先生の喜びそうなこと」


置いてきぼりの池と緒方がストップをかける。
五人は顔を見合せ、口を揃えて言った。


◆◆◆


「よし、今日の授業終わり。半日授業だからって、ハメ外し過ぎんなよ」


それから数日後。
諸連絡を終えて、奏夜は教室を出た。


(……ツマンネ)


ここ最近、本当に絶不調だ。


自分をぶん殴りたい。いつまで引き摺っているつもりだ、と。


気持ちの折り合いはついた。
だが、どうしても嫌なわだかまりは残り続けている。


(情けないよな……、あれだけキバットが叱咤してくれても、このザマだ)


あの気のいいコウモリには、本当に感謝している。
だからこそ、逆に申し訳なかった。
何がキバだ、何が破壊の魔帝だ。



(自分さえ、どうこう出来ない癖に)


ふと――昔読んだ本に、こんな架空のヒーローがいたのを思い出した。
悲しみを仮面に隠し、人類のため、人知れず戦うヒーロー。


名を『仮面ライダー』。


(確か本のタイトルは、『仮面ライダーという名の仮面』だったか)


ベストセラーにもなった本で、話の種に読んだ記憶がある。
当時は「まるでキバそっくりだな」と思ったものだが、今にして思えば随分と滑稽だ。




――俺が仮面に隠しているのは悲しみじゃなく、どうしようもない弱さじゃないか。




「……はぁ」


止めよう。気持ちのベクトルが後ろ向きにしかならない。


「今日は早いとこ帰って、コーヒー飲んで風呂入って寝……どわっ!?」


ネガティブ状態の奏夜を、背後から衝撃が襲った。


「……おい。佐藤、田中、いきなり腕掴んで何のマネだ?」
「先生っ!! 今日、このあと暇っすよね?」
「俺達と一緒にちょっと出掛けませんか?」
「は?」
「ふふふ、先生に拒否権はありません! 佐藤、田中! そのまま先生をポイントAに!」
『イエッサー!』


いつの間にか後ろにいた緒方の指示に従い、佐藤&田中は奏夜を引き摺っていく。


「おい、ちょっと待てコラ! 何勝手にストーリー進行させようとしてやがんだ! せめて理由を……」
「あーもう、じれったいわね! ゆかりちゃん、GO!」
「分かった」


短く答え、シャナは助走をつけ飛び上がり、


「えいっ!」
「あべしっ!!」


暴れる奏夜に当て身をキメた。
糸が切れた人形のように、がくりと頭を垂れた奏夜が運ばれていく。


一部始終を見ていた吉田は、つい言葉を漏らす。


「あの……これ、何か間違ってませんか?」
「さ、さぁ……?」
「……僕はもうツッコミたくない」


悠二が苦笑いし、池が額に手を当て、溜め息をついた。


◆◆◆


「………うおう」


目を覚ますと、そこは何処かのコンサートホールだった。
人が集まっていて、開演丁度なのか、辺りが暗くなってきている。


覚えがあるホールだ。
御崎高校が合唱コンクール等で世話になったことがある。


「あ、先生起きました?」
「いいタイミングっすね」


ひょいと、後ろの席から緒方と田中が顔を覗かせる。
悠二、シャナ、吉田、池、佐藤も一緒だ。


「……俺を拉致したことに関しちゃ不問にしてやる。だからいい加減、お前らが何をしたいのか吐け」
「すぐにわかりますって」


佐藤が笑いながら、ステージを指差した。


首を傾げ、奏夜は佐藤の指先を目で追った。


ややあって。一人の少年が入ってきた。
ぎこちなくお辞儀をして、手に携えたバイオリンを弾き始める。
音がホールに反響し、聴き手の耳を揺さぶった。


「――おお」


奏夜は目を閉じ、演奏に聞き入る。


(荒削り……だがそれ故に、熟達した者には無いひたむきさがある音色だ)


心地好い。


さっきまでの憂いを忘れ、奏夜は素直に、バイオリンの世界へと入り込んでいた。
――そんな奏夜の様子を、七人はほっとしたように見つめていた。


◆◆◆


「このコンサートのためだったのか? こんな手の込んだ演出までして」


ホールから出るなり、奏夜はそんなことを言う。


「あはは、まぁ、そういうことっすね。ちなみに、立案も企画もオガちゃんです」
「えへへ♪ やっぱりこういうサプライズの方が、先生は喜ぶと思って」


田中に言われ、緒方は悪戯っぽく舌を出す。


「あの男の子――芸名がワタルくんって言うんですけど、最近、巷で有名な天才少年なんですよ」


池の説明に、佐藤が更に説明を加える。


「そうそう。チケットも超人気でなかなか手に入らないし」
「……大変じゃなかったか?」
「坂井くんが、色々準備してくれたんです」
「い、いや、僕は大したことしてないよ。なつき先生に頼んで、チケットとかが手に入り安いようにしてもらっただけだし」


吉田に褒められ、焦ったように顔を赤くする悠二。
隣でシャナが「むっ」と顔をしかめた。


「さあさ、まだ時間は余りまくってますし、次行きましょ次! ゆかりちゃん、どうせまた先生は抵抗するだろうから、また当て身よろしく!!」


一瞬、不穏になりかけた空気を、緒方は手を叩いて払拭する。


「次!? まだ俺色々振り回されるのか!? ……っておいちょっと待て平井、坂井が吉田に照れて不機嫌なのはわかるが眉間に怒りマークつけつつこっちくんなさっきのは地味に痛かったのですが――!!」


不調なりに必死の抵抗を試みるも、そんな状態で、イライラモードなシャナに敵うはずもなく、


「うる、さいっ!!」
「ぐがっ!」


完全に八つ当たりなシャナの一撃を喰らい、奏夜、本日二度目の昇天。


◆◆◆


その後、奏夜含む八人は、プランナー緒方の予定に従い、様々な場所を回ることになった。
色んな、と言ってもカラオケやゲームセンター等の娯楽施設がほとんどで、奏夜が楽しめるかどうかが問題ではあった。


が、奏夜は何だかんだ言いながら、生徒達に付き合っている。……決して、シャナの当て身が怖いだけではないと信じたい。


「………」


と、前方で佐藤、田中、緒方と話す奏夜を、複雑そうに見る少年がいた。


――坂井悠二である。


「………」
「坂井くん?」
「悠二?」


黙りっぱなしの悠二の両脇から、シャナと吉田が話しかける。


「え? ああ、ごめん。何か話してた?」
「い、いえ。そういうわけじゃ、ないですけど……」
「坂井、先生もそうだけど、お前も最近変だぞ?」


池が心配そうに聞き、シャナも頷く。


「悠二、この間からぼーっとしてる」
「……そうかな。僕は全然、そんなつもりじゃないんだけど」


はぐらかして、悠二はシャナの首にかかったペンダント『コキュートス』を見る。
アラストールの声が、聞こえてくるようだった。


(余計なことは言わずともよい)
(……わかってるよ)


目線だけで会話し、悠二は溜め息をついた。


――話は、数日前に遡る。


◆◆◆


――数日前、坂井家二階、悠二の部屋。


『紅奏夜が封絶内で動いていた?』


愛染兄妹の襲撃後。
悠二は直ぐ様、アラストールにこの事実を報告した。


ちなみにこの時、下でシャナは千草と話しており不在。
アラストールもついさっきまで、千草と話していたらしく、携帯電話に収納されたままである。


自室で、繋がっていない携帯電話と話す男子高校生。……見た目だけなら、かなり痛々しいシチュエーションだ。さすがの千草も卒倒するだろう。


閑話休題。


『確かか?』
「うん。“封絶”が張られた時と解除された時で、先生のいる場所が変わってた。間違いないよ」
『………やはり、そうなのか』
「やはり?」


思わせ振りに唸るアラストールに、悠二は詰め寄る。


「アラストール、何か知ってるの? 先生はやっぱり“紅世”に関係あるのか?」
『……』


さて、どうしたものか。
紅奏夜が何者なのか……一応、アラストールに仮説はある。
だが、あまりに突拍子のない話なため、証拠はなかった。


下手に話して、悠二を動揺させてもつまらない。


『坂井悠二』


しばらくし、アラストールは口を開いた。


「な、何?」
『お前はキバをどう思う?』


アラストールは遠回しに、自分の答えを述べる。
だが、悠二は、


「えっ? 何でここでキバの話なんかするんだよ。先生とキバは“全然関係ない”じゃないか」
(……こ奴は)


本当に、頭がキレるのかキレないのか。


『……話しにくいな、どうも』


アラストールの嘆息に、悠二は首を傾げた。


◆◆◆


「坂井?」


はっと気が付けば、考えにふけってしまっていたらしい。
メンバーのほとんどが、自分の前を歩いており、目の前では奏夜が、自分の顔を覗き込んでいた。


「どうした? 体調悪いわけじゃなさそうだが」
「い、いえ。何でもないです」
「そうか? ならいいが……」


再び、奏夜と悠二は肩を並べ、歩き出す。
悠二は横目で、奏夜をちらりと見た。


(……やっぱり、“徒”みたいな気配は感じないけど)


彼が封絶内で動いていたのは、事実。
“徒”か、フレイムヘイズか、自分のような特殊なミステス、という考え方も出来る。


(フレイムヘイズとかならまだいいけど、もし先生が“徒”だったりしたら……)


嫌な予感が、悠二の心を締め付けた。




――嫌だ。今まで、自分やシャナに向けられた笑顔が偽物だなんて、思いたくない。




「……お前らにも、心配かけちまったみたいだな」
「えっ?」



急に、奏夜がそんなことを言ってきた。


「なんか……悪かったな。俺がしっかりしてねぇから、お前らに変な気を使わせたみたいなもんだし」


頭を軽く掻いて、奏夜はぎこちなく、悠二に笑いかけた。


「ありがとよ。すぐ立ち直るのは無理かも知れねーけど、なるだけ早く、いつもの調子に戻るようにするからさ」
「……いつもの調子だと、それはそれで困るんですけどね」
「あははは」


いつもより少し元気は無さそうだけれど、それでも奏夜は笑う。
笑顔を見て、悠二はまた思った。


(やっぱり、信じたくない)


――だから、証明しよう。
奏夜が、人を喰う化け物なんかじゃないと。


「結構色んなとこ回ったなぁ、そろそろどこかで一休みするか?」
「ああ、いいな。コーヒーとか飲めたりするとなお良しだ」


佐藤と田中の何気ない提案に、奏夜が食らいついた。


「コーヒーか……、いいな。それなら俺、良い店知ってるぞ」


奏夜に案内されるがまま、一同が辿り着いたのは、白い外壁に囲まれた古い店。


「わぁ……可愛い店」
「中身は80年代の世界だけどな」


吉田の評価に苦笑し、奏夜が扉を開け、中に入っていく。
ふと、悠二は店の名前に目を止めた。


「『カフェ・マル・ダムール』?」


はて、何処かで、聞いたことがあるような……。


悠二が首を傾げる中、奏夜に連れられ、店内へ。
一世代前の店内BGMが、一同を迎えた。


「マスター。コーヒー八人分ね、今日は俺のおごりで」
「やあ、奏夜くん。今日は大人数だねぇ、みんな生徒さんかい?」
「はい。お前ら、こちら、マスターの木戸明さんだ」
「よろしく、少年少女たち♪」


カウンターにいた50代くらいの男性が、陽気に挨拶する。
全員が、ぎこちなく挨拶を返した。


「そう言えばマスター、名護さんと恵さん、いますか?」
『!!』


奏夜の口から意外な名前が出たことに、悠二、シャナ、佐藤、田中が反応した。


「ああ、恵ちゃんと一緒に厨房だよ。名護くーん、恵ちゃーん!」


マスターの呼び掛けに、カウンターの奥から、スタッフ用のエプロンを着た男女二人組が現れた。


「名護さん、恵さん、こんちはー」
「あら、奏夜くんじゃない! そちらは制服着てるの見ると、生徒さんかしら?」
「そんなとこです。……なんか、名護さんがキッチンスタッフって似合いませんねぇ」
「少々人手不足でな。手伝いに回っていたんだ」


と、そこで名護と恵は、呆けたように三人のやり取りを見ていた、シャナ、悠二、佐藤、田中の顔を見つけた。


『……あ!!』


すっとんきょうな声が、マル・ダムールに響いた。



◆◆◆


その後、全員が全員の立場(もちろん、“紅世”やファンガイア関連のことは伏せて)を理解し、名護や恵も、一年二組の生徒達と打ち解けつつあった。
特に恵は、シャナと吉田が気に入ったらしく、「ゆかりちゃんに一美ちゃん可愛いわねー♪」と抱き着いて頬擦りする始末。


「はーなーれーろー!」
「は、恥ずかしいです……」
「ああ、抵抗する様子がますます可愛いわ!!」


頬を染め、ジタバタ暴れるシャナと吉田の様子に、店内の雰囲気が花が咲いたようにほわんとした。


「わ、私も……」
「オガちゃん、気持ちはわかるが悪ノリは止めとけ」


シャナと吉田の可愛さに、セーフティが外れかかった緒方を、田中が抑える。


「先生、止めなくていいんですか?」
「止められるヤツがいたら、そいつは勇者にクラスチェンジ出来るな」


池と奏夜も、あの女の園に入っていく勇気は無かった。
佐藤もまた、我関せずを貫きつつ、奏夜に聞く。


「恵さん、いつもあんな感じなんですか?」
「ああ……良くも悪くもノリがいい人だから。バンド始めるって言った矢先、ギター用意してきたし」


恵のあの性格は好きだ……が、あのノリの良さは、たまに迷惑にもなる。


――ちなみに、悠二はというと。


「……どうもキミは、度胸があるのかないのかわからないな」
「返す言葉もありません……けど、今度は逃げて正解だと思いますっ!」


名護のいる奥の席に避難していた。


(ごめん。シャナ、吉田さん)


あの状態を直視し続けていたら、確実に理性がぶっ壊れる。
――屋上での一件以来、悠二はあの二人をそういう目で見るのは避けたかった。
なので、気を紛らわすべく、名護にひそひそ声で話を振る。


「名護さん、少し聞きたいことがあるんですけど」
「聞きたいこと? いいぞ、なんでも聞きなさい」
「名護さんって、先生と長い付き合いなんですよね」
「ああ、もうかれこれ四年になるかな」
「先生って、どういう人なんですか?」


――ごく普通の質問に、名護はすぐに答えなかった。
直感的に、この質問の重さを感じ取ったのである。


紅奏夜――仮面ライダーキバ。悠二の質問の答えを、名護は持っている。


(だが、答えれば彼の危険も増える)


考え、名護はこう言うに留めた。


「悠二君、キミはキバをどう思う?」
「だから! なんで名護さんまでキバのことを聞くんですか! キバと先生は“全然関係ない”でしょ?」
「………」


名護は半ば呆れるように、額に手を当てて、一言。


「言いにくいな……どうも」


◆◆◆


「あらら? 空が曇ってきたねぇ」


マスターがカップを拭きつつ、窓の外を見る。
全員がつられて外を見たが、次の瞬間、


――ピシャッ!


雲の切れ間に光が走り、轟音が鳴り響いた。


「ひゃうっ!」


吉田が肩を震わせた。


「雷か……。梅雨の時期だから、らしいっちゃらしいけど」


吉田を宥めつつ、恵が言葉を漏らす。言う間に、外は雨が降りだした。


「うわっ、雨降ってきた!」
「ニュースでは通り雨と言っていた。今3時だから、4時には止むだろう。
それまでここにいなさい」


佐藤の危惧に、名護が冷静なまま答える。


「4時か……、結構暇になるな」
「仕方ないだろ田中、濡れて帰るよりはマシだ」


田中がぼやき、池が正論を述べる。


「それならいい暇潰しがあるよぉ……」


妙に間延びした声を出すマスター。
全員が、皆に背を向けたマスターを見て、尋ねる。


『な……、何を?』
「何って、決まってるでしょ。そろそろ、夏のミサゴ祭りも始まる時期だし……」


くるり、とマスターが振り返った。




「か・い・だ・ん♪」




『わっ!!』
『ひゃっ!!』


全員(シャナ以外)が驚きに仰け反った。
――いつの間にか手にしていた蝋燭が照らすマスターの顔は、ただただ不気味だった。


◆◆◆


こうして、脈絡のない怪談は始まった。
薄暗いカフェで、テーブルを片付け、床に円を組むように座る。


(何故私がこんな非科学的な真似を……)
(俺達はもっとオカルトチックなもの見てますしねぇ)
(まぁまぁ、ここは二人とも空気を読んで!)


小声で文句を言う奏夜と名護を、恵が諌めたところで、怪談話スタート。
じゃんけんで負けた人間から、それぞれが持つ怪談話をしていこうという運びにより、最初に負けたのは――、




「私負けた」


シャナだった。
一年二組の面々の心中に、同じ思いが走った。


(最も怪談話と縁遠そうな人が……)


絶対、怪談話のストックなど持ち合わせてはいまい。
仕方なく、悠二が助け船を出した。


「あの……シャナは飛ばしても」
「じゃあ、私から話すわね」
『ええっ!?』


一年二組+奏夜の叫び声に、シャナはきょとんとした顔になった。


「どうしたの?」
「いやいやいや! どうしたのじゃなくて!」


本気で驚いた悠二は、シャナに詰め寄る。


「シャナ、本当に怪談わかってる!? というか、怪談なんて語れるの!?」
「知ってるし語れるわよ、それくらい」


あっさりと言い切るシャナ。
だが、悠二の心境はそんな生易しいものではなかった。


(シャナが怪談話ぃ!?)


シュール過ぎる!
色んな意味で怖いが、逆に気にもなる。
他の一年二組勢も、そう思っているらしかった。


「じゃ、じゃあ、話してくれる? シャナ」
「? 変な悠二」


怪訝そうにしつつ、シャナはこの怪談を教えてくれた『教育係』のことを思い出す。


(そう言えばヴィルヘルミナ、怪談の前はこう宣言するといいって言ってたっけ)


蝋燭を手に取り、シャナは妖しく笑った。


「十字架背負わせたげるわ」


そのセリフにぞくり、と全員の背筋が凍った。


◆◆◆


「昔、あるところに大きな古い屋敷があった。
そこは昔、高名なバイオリニストが、スランプを理由に自殺した場所で、近くに住む人間は気味悪がって誰も近づかなかった」


(平井、俺へのあてつけか?)


バイオリニスト、という単語に奏夜が反応しつつ、話は続く。


「でもある時、四人の子供が、興味本意でその屋敷を探検しにいったの。
そして、寂れた屋内で、一器のバイオリンを見つけた。
傷んでて、しかも弦が張られてなかったのだけれど、年代物だったから珍しい品だとでも思ったんでしょうね。四人はそれを持ち帰った。
でも、次の日から“それ”は始まった。
――四人の内の一人が、翌朝冷たくなって見つかったの」


外が更に暗くなった……気がした。
全員がごくりと息を飲む。


「その死に方がおかしくてね……。
耳の神経が、細長い糸みたいになってるのは知ってると思うけど、それが意図的に“抜き取られた”上で、天井から吊るされていたの。
……そう、まるでバイオリンの弦のように細い糸でね」


なかなか恐怖心を煽られる語り口だった(吉田なんかは、もう涙まで浮かべている)。
しかもシャナが、彼女は性格上、かなりフラットな声音で語るため、恐怖も倍増する。




「ここまでなら、ただの不幸な話で終わっていた。
けど、次の日また、四人の内の一人が死んでいた。
一人目とまったく同じ死に方で。
さすがにおかしいと思った四人の内の一人――現在、例のバイオリンを持っている人間なのだけれど――が、ふと持ち帰ったバイオリンを見たの。
そしたら――」




無かったはずの弦が増えていたの。


死んだ人間の数――つまり二本分。




「『あの屋敷に住んでいた音楽家の霊が、足りない弦を探しているんじゃないのか』。
『殺した人間の数だけ、弦を増やしているのではないか』。
そう思った矢先、三人目が死んだ。
やはりまた一本、弦が増えていた。最後に残ったのは自分だけ――いよいよ次の晩は、自分が死ぬ。
そしてやってきた、真夜中」


遠くで、雷が鳴った。


「当然、恐怖で眠れなかった。
震えながら布団に隠れてた。
――そして聞こえてきたのは、バイオリンの音色。
何処から聞こえてくるのかもわからない、奇妙な音色……。
それに伴い、ひた、ひたと響く足音……」


シャナの語り口に熱が入っていく。


「――けれど、突如音が全て止んだ。
おかしく思い、布団を上げて、辺りを見回してみても、何もない。――助かった。
安堵し、布団に戻ろうとすると、」





首が奇妙に曲がった男が、そこに立っていた。


音が聞こえなくなったのは、男が既に耳の神経を取り出していたから。


白い糸のようなそれを手に持って、男はにやりと笑った。





「ああ、やっとバイオリンが弾ける……」





――ピシャッ!


近くで落ちた雷が、シャナを背後から照らす。オチの恐怖を煽る効果としては、最適だった。


『わあぁっ!!』
『ひゃあぁぁ!!』


悠二、池、田中、佐藤が大声を挙げ、吉田、緒方、恵は目に涙を浮かべ、身体を震わせている。
名護やマスターはさすがに大声こそ挙げなかったが、どちらかといえば雷に驚いたようだった。


「……そんなに怖い? この話」


自分がヴィルヘルミナから聞いた時は、そこまででもなかったのだが。


「い、いや、確かに話自体はありきたりだったけど……」
「平井さんが語ると、怖くなるというか……」


悠二と池が、鳴り止まぬ心臓を落ち着けながら言う。


そう、話自体はそれほどでもないが、シャナの語り口が怖いのだ。
怪談のコツは内容よりも、相手を引き込むこと。
シャナはそれが群を抜いて上手かったのだ。


「こ、怖かったぁ~。一美なんか、途中で気絶しかけてたもの」
「……わ、私、しばらく、バ、バイオリン、見られない、かも……」
「それは奏夜くんが可哀想ね……ってアレ? 奏夜くんは?」


わんわん泣いている吉田を落ち着かせつつ、恵は奏夜がいた方を見る。


――奏夜は、床に倒れて気絶していた。


「そ、奏夜くん!?」
「奏夜くん? どうした、しっかりしなさい!」


名護の呼び掛け、だが、奏夜は目を覚まさなかった。
――空は、さっきまでの雨が嘘のように、晴れ渡っていた。


◆◆◆


もちろん、奏夜は怪談の恐怖に気絶したわけではなかった。


(あ、あれ……? 頭がぼーっと……)


シャナの話が始まった辺りから、奏夜は意識が朦朧としていた。
眠気ではない、不思議な感覚が、精神を揺さぶっているような、そんな感覚。


「ああ、やっとバイオリンが弾ける……」


そして、オチと同時に雷が轟いた時、とうとう奏夜は微睡みに負け、倒れてしまった。


(ダメだ、思考が、ぼんやり……なんか、もう眠りたい……)


頭を必死に働かせるが、思うようにいかない。
身体が、自分の制御下を離れようとしているようだった。





(まるで、誰かが、俺の中に……入っ、て…く……)





その思考を最後に、奏夜は意識を手放した。




◆◆◆


がばっ!


眠っていた奏夜が、ベッドから跳ね起きた。


『わっ!』


周りにいた全員が身を引く。
――あの後、「安静にできる場所に移した方がいい」という名護の提案から、奏夜は紅邸へと運ばれていたのである。


「そ、奏夜……?」
『先生……?』
「奏夜くん?」
「大丈夫か?」


一年二組勢、恵、名護が起き上がった奏夜を覗き込む。


「………」


ギギギギギ……。


奏夜の首が、奇妙な形で回ったように見えた。
不気味さに全員が驚く。そんな全員の様子に、奏夜は沈黙したままだった。


――が、急に顔をしかめたかと思うと、突然奏夜は口を開いた。





「何だ貴様ら!! ひとん家に勝手に上がり込みやがって! ……こそ泥か?」





『は?』


いきなりな言動に驚く一同。
奏夜はというと、恵に視線を合わせ、にやっと意地の悪そうな笑みを浮かべる。


「ほぅ……こそ泥にしちゃいい女だな」
「え? えっ?」


慌てる恵の手を取り立ち上がる奏夜。


「何だ? オレのハートを盗みに来たのか? いいだろう、存分に盗んでいくがいい! オレのハートに続く扉は、全ての女性に対して常に解き開かれている!」
(先生が壊れたーっ!?)


両手を広げる大胆なアピールまで披露する奏夜。
いくら自由奔放がウリの奏夜とはいえ、ここまでの奇行はしない。


「せ、先生、どこか頭でも打ちましたか?」


悠二が皆を代表して聞く。


しかし、


「先生? おいおい、残念ながら、オレはお前のような坊やを弟子にした覚えはない。大人の恋愛を教えるのに、お前はまだ若すぎる。後ろの坊や達も、あと10年したらまた来るがいい。
オレの華麗なテクニックをたっぷり伝授してやろう!」


これである。


(ダメだこの人……早くなんとかしないと……)


僅か数秒で、今の奏夜のダメさを全員が理解した。




怪談のショックで、頭のネジが外れでもしたのだろうか。
世間的に色々と問題がありそうな奏夜は、次にシャナ、緒方、二人の間に隠れる吉田に目をつける。


「おやおや、よく見れば、ダイヤの原石ばかりじゃないか。安心しろ仔猫ちゃん達。今にお前達も、目も眩まんばかりに輝く宝石となる! このオレが保障しよう!」
「ひう」
「あそこまで言うと逆に天晴れね……」
「?」


吉田が怯え、緒方が呆れ、シャナが首を傾げた。


「いい加減にしなさい! キミはいつからそんなだらしない人間になった!?」


さすがにこれ以上、今の奏夜を放置するのはまずいと思ったのか、名護が止めに入った。


――だが、奏夜の口から飛び出したのは、名護にとって思いもがけないことだった。


「ああ、お前どっかで見たことあると思ったら、前に『未来から来た』とか言って、オレからイクサを盗ろうとしたガキか」
「っ!?」


名護が驚愕に目を見開いた。
奏夜は恵と名護を見比べ「……なるほどな」と、口の端を吊り上げる。


「惚れた女は出来たみたいだな。どうだ? お前なりの『遊び心』は見つかったか?」
「……キミは、いや、“お前”は……?」
「まさか、あなたもう一人の奏夜くん!?」


恵の発した名前に、ぴくり、と奏夜が反応した。


「奏夜? お前、奏夜を知って……」


言い掛けて、奏夜は自分の手をじっと見る。
次に、慌てた様子で、部屋に飾られていた鏡を見た。


「……どういうことだ、これは。何故オレが“奏夜”の姿をしている……?」


鏡に映る事実が信じられない、とでも言うように、奏夜は何度も自分の顔を触る。


「――あー、もう! さっきから何言ってるのよ奏夜! いい加減目を醒ましなさい!」


焦れたシャナが、奏夜を蹴っ飛ばす。


「痛って!? おいコラ、いきなり何すん……!」


奏夜は額に青筋を浮かばせ、自分を蹴飛ばしたシャナを見た。


正面から――はっきりと。


「っ、お前……?」


まじまじと、奏夜はシャナを穴が開くほど見つめる。


「な、何よ……?」


シャナが身動くと同時に、奏夜は言った。





「お前……、ひょっとしてマティルダか?」





(なっ!?)


驚いたのはシャナではなく、アラストールだった。


何故、その名を知っている。
この現代に生きる奏夜が、どう転んでも知り得ないはずの情報だ。


(まさか……いや、さっきまでの言動や行動、まさに“奴”そのものだ……!!)


疑念が核心に変わりかけた時、奏夜の手が、アラストールの蔵されたコキュートスに伸びた。


「……っ! やっ!!」
「うぉっ!?」


――まぁ、女性の胸元にかけられたペンダントを取ろうとする行為は、はたから見れば軽くセクハラなわけで。


反射的に、頬を染めたシャナは、奏夜に見事な一本背負いをキメた。
結果、奏夜は落下の際、床に頭を打ち付ける。


「がっ!!」


鈍い音――同時に、奏夜は憑き物が落ちたように、呆けた表情になる。


「あ、あの、平井サン? 何故オレは寝起き早々、背負い投げをキメられているのでショウカ?」


そう言った奏夜の口調は、普段のものだった。


「先生? 大丈夫ですか、僕らのこと分かりますか?」
「何故、重症患者に呼び掛けるみたいなフレーズを……」


顔をぺちぺちと叩く悠二の手を払う奏夜。
どうにか、元には戻ったらしい。


――だが、部屋の二階から、一部始終を見ていたキバットは、気が気ではなかった。


「おいおいおい、まさか、また奏夜に“あいつ”が乗り移っちまったのか……?」





キバット、名護、恵、アラストール。


四人の危惧をよそに――また一つ、紅蓮と牙の物語は繋がった。


――過去の願いを、未来へ繋いだ男によって。





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  1. 2012/03/30(金) 22:10:04|
  2. 仮面ライダーキバ/BLAZING.BLOOD
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