紅蓮の牙

二次創作中心。仮面ライダーキバと灼眼のシャナのクロスを連載中。

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第十二話・威風堂々/滲むパープルアイ.後篇


『ペニィ! ペニィ! ペニィ! ペニィ積もればお金持ち、っと!!』
『ヒャーッ、ハーッ、ターマヤー!!』


炎弾の流星群が、水中のシュドナイを容赦なく撃ち抜いていく。


「ぐはおおおお!!」



屠殺の即興詩は次々と浮かんでくる。
憂いはもはやどこにも無かった。


「絶好調だな、『弔詞の詠み手』」
「ええ、何か気分良いわ。なんだ、憎しみ以外でも結構、戦えるじゃない」
「みてぇだな、ッヒヒ!」


二人の様子にイクサは笑って、トーガの肩から腕に移る。


「思い切り頼むぞ!」
「りょーかい、いっくわよーーッ!」


ブオンッ、という風切り音と共に、弾丸よろしく、イクサは飛んでいく。
その先には、炎弾により、水面に海蛇の身体を出しているシュドナイ。


「ハァーーーッ!」


スピードにより貫通力が追加されたイクサカリバーが、シュドナイに迫る。


「ぬっ!! 舐めるなぁ!」


間一髪、身を反らしたシュドナイ。
イクサの斬撃は、彼の身体を掠めるだけに終わった。瞬時に、顕現した虎の剛腕が、イクサに襲い掛かる。


「ちぃっ!!」


空中で身動きの取れないイクサは、両腕をせめてものガードに回す。


――キュルオオーーッ!!
と、そこへシュードランが猛スピードで突進してきた。
シュードランはイクサを間一髪のところで救出し、シュドナイの腕は空を切る。


「す、すまない。助かった」


――キュルルル。
ぶら下がるイクサが礼を言うと、シュードランは嬉しそうに喉を鳴らす。


「人間風情が、俺を退けようなどと、身の程を知らんのか!」
「身の程を知らない、か。ふん、舐めているのはどっちかな、“千変”」
「……何だと?」


不敵な態度をいぶかしむシュドナイをよそに、イクサはシュードランの背中に乗る。


「言ったはずだ。人間の力を、イクサを甘くみるなと。人間は確かに弱い」


だが。とイクサは言葉を継いだ。




「その分、諦めが悪い。勝つまで、いくらでも食らい付くぞ」




仮面の下で、名護は余裕のまま、ニヤリと笑った。


「見なさい、イクサの本当の姿を!!」


叫び、イクサは右手を口元に翳す。
すると、マスク部分が外れ、携帯端末『イクサライザー』へと変わった。
慣れた手付きで、イクサはボタンをタッチしていく。


【1・9・3】
『ラ・イ・ジ・ン・グ』


起動の電子音が鳴り、最後にイクサは【ENTER】キーを押した。
胸部のイクサエンジンが完全開放され、白いアーマーが弾け飛ぶ。


剥き出しのボディは、新たに青空を思わせる装甲、『ガーディアンコバルト』に覆われ、ソルミラーがあった中央には、血脈を思わせる赤いエンジン『コロナコア』が覗く。
クロスフィールドがイクサメット上で組み変わり、雄々しき黄金の衝撃防御装置、『ライジングホーン』に変化した。
最後に、イクサライザーへグリップ部分となるフエッスルをセットし、ブラスターモードに移行させれば、完了。




――ライジングイクサ。


22年のパワーアップの末にロールアウトされた、通常形態で抑制されているイクサの力を、最大限発揮出来る強化形態だ。




「行くぞッ!!」


甲高いリズミカルな発砲音と共に、イクサライザーから、オレンジ色のエネルギー弾が発射される。


「はっ、今さらこんなものを使って何になる!!」


イクサカリバーの弾丸と同じように、シュドナイはそれらを腕で薙ぎ払おうとする。
だが――、


「がふっ!?」


押し負けたのはシュドナイだった。
海蛇の身体が仰け反り、弾痕が浮き上がる。


「私に同じことを二回言わせてくれるなよ、“千変”。『人間の力を、イクサの力を舐めるな』」
「くっ……!」


ライジングイクサの嘲りに、シュドナイは屈辱余り、サングラスの奥の瞳を怒りに血走らせている。
イクサライザーの火力は半端なものではなく、当初はライジングイクサ自身も持て余していたレベル。


ましてや、油断していて防御出来る代物ではない。


『ヒューウ、やるじゃねぇの兄ちゃん! ヒッヒッヒ!』
「んなかくし球があるなら、もっと早く使いなさいよ」
「奥の手は、取っておくからこその奥の手だ――おっと」


シュドナイの反撃を、トーガとシュードランは危うくかわす。


「畳み掛けるぞ」
「言われなくてもッ!」
『そのつもりだぜ、ヒャー、ハー!!』


一匹の竜と、一匹の獣は縦横無尽に水面を飛び回り、敵の攻撃を軽々回避していく。


勿論、反撃も忘れない。イクサは【2】を押し、トリガーを引く。


『ブ・リ・ザ・ー・ド』


すると、イクサライザーから霧のような氷結ガスが噴射される。


「なっ!?」


シュドナイの周囲の水が一瞬で凍り付き、その動きを奪う。


『薔薇の花輪を作ろうよ、っは!』
『ポッケにゃ花が一杯さ、っと!』


分裂したトーガがシュドナイを囲み、一斉に弾けた。
爆発の衝撃に悶えながら、シュドナイは悔しさに歯噛みする。


(おのれ、こうも一方的に……!)


こんなことをしている場合ではないというのに。
ようやく『零時迷子』を見つけたというのに。


だがマージョリーも、イクサも、シュドナイをして異常だと思い足らしめる強さだった。


それに、愛染兄妹も、もう保たない。
微かに感じる気配を辿ってみれば、あの兄妹が劣勢なのは明らかだった。


(しかし、だとすると、あの兄妹と独力で渡り合っているフレイムヘイズも、相当な使い手ということになるが……何者……)


思考に挟み込まれる形で、イクサとマージョリーのエネルギー弾と炎弾が、二方向から浴びせられる。


「――うぉッ!?」


蝙蝠の翼を使い、上空へと退避する。
シュドナイの視界が一気に開けた。


――もちろん、もう一つの戦いも目に入る。


「!」


始めに、煌々と燃え上がる炎。
次に、空に刻まれた赤きコウモリの紋章。


(紅蓮の炎!! しかも、あのマークはまさか……!!)


忘れるはずもない。




紅蓮色を宿す、唯一人のフレイムヘイズ。
世界の闇を支配する、破壊の魔帝。




「――『炎髪灼眼』に『ファンガイアの王』だと!?」
「ごめーとー!!」
『あ、た、り、だ!!』
「イクサ……、爆現!!」


らしくもない隙を作ったシュドナイに、トーガの両腕と、ライジングイクサのイクサカリバーが叩き込まれた。


「ぐわあっ!!」


真南川に叩き落とされながらも、シュドナイの頭に浮かぶのは、後悔と危惧だけだった。


(最悪だ! “天壤の劫火”が!! 『破壊の魔帝』キバが!! 『零時迷子』と一緒に!!)


最高と最悪の状況が同時に来たことを知り、シュドナイは何も出来ないもどかしさに、握り拳を作る。


(過干渉は出来ない!! 我々との関わりを気取られたら終わりだ!! くそっ、この場に『弔詞の詠み手』と、あの白騎士さえいなければ、すべてが上手くいくものを……)


後ろ髪引かれる思いで、だが冷静に、彼は行動を選ぶ。


「ん!?」
『なぬっ?』
「何?」


三人の追っていた水面の影は薄まり、すぐ見えなくなる。


マージョリーが目を見開いた。


「“千変”が……逃げる?」


戦いの痕を感じさせない、いつも通りの真南川が、そこにはあった。




『弔詞の詠み手』マージョリー・ドー&『仮面ライダーイクサ』名護啓介vs“千変”シュドナイ。
リターンマッチ。
“千変”シュドナイ逃走につき、『弔詞の詠み手』マージョリー・ドー&『仮面ライダーイクサ』名護啓介、判定勝利。


◆◆◆


「――はあっ!!」
「ヴアァ!!」


シャナは紅蓮の大太刀が射出し、ガルルフォームとなったキバは、俊敏さを生かし、上空からソラトに斬りかかる。
片や、ソラトはシャナの炎を真っ正面から突き破り、そのままガルルセイバーを受け止めた。


「ちっ!!」


『吸血鬼』とは斬り結べない。
直ぐ様キバは跳躍し、ソラトと距離を取る。


「防がれた」
『さっき宝具に打ち込んだのは、火除けの自在式か』


シャナとアラストールの分析は、キバの耳に入らない。
――自在式は、確かに“ソラト”を守った。


だが、もう一人は適応範囲外だ。


「私の――お兄様」


紅蓮に飲まれる時さえも、ティリエルは最愛の兄のことを想っていた。




「なんでも――なさって――私が、許し――」




真名の通り、愛の為に生きた少女は、霞となって消え果てた。


「………」


キバはガルルセイバーを握り締め、顔を上げる。


「『炎髪灼眼』」


キバの声に、シャナは耳を傾ける。


「最後は、俺にやらせてくれないか」


沈黙したシャナに、キバは告げる。


「落とし前は、自分でつけたいんだ」
「――わかった、任せる」


刀を収めた彼女に頷き、キバはガルルフォームを解除し、新たなフエッスルを取り出す。


「こいつなら負けないぜ! 力には力だ!」


キバットが紫のフエッスルを吹き鳴らした。


『ドッガハンマー!』


重厚な音色に誘われ、ドッガの彫像が飛来し、魔鉄槌『ドッガハンマー』に変形。
それを掴んだ両腕から鎖が巻き付き、腕をライトニングシールド、肩をハンマーショルダー、胸部をアイアンラングと呼ばれる紫の重装甲が覆う。


キバとキバットの瞳も同じ色に染まり、キバ・ドッガフォームへの変身が完了した。


「ハァァァ……フン!!」


肩を回し、ドッガハンマーを引き摺りながら、倦怠感溢れる動きで、キバはゆっくりと前に進む。


「もう! じゃましないでっていってるじゃないか!!」


妹の消滅も意に返さず、ソラトはキバに斬りかかる。


「ハッ!!」


その腕を片手で弾き、流れるようなモーションで、ドッガハンマーを振り被る。


「フン!!」


拳の形をした本体が、強烈なインパクトをもって、対象物を破壊する。


「ごぶっ!?」


腹への衝撃に身を折りながら、ソラトは主塔の床をざりざりと滑る。


「一気にキメるぜ!! キバ!」


キバットの掛け声に応じ、キバはドッガハンマーの柄を、彼にくわえさせる。


『ドッガ・バイト!』


コールと共に、キバの魔皇力が周囲を支配する。
作り出された夜空には、ドッガのパワーを最大まで引き出す朧月が浮かんでいる。


――ピシャアアッ!


「っ!!」
「うわぁ!」


突然起こった紫の落雷に、近くにいたシャナと悠二は目を覆った。
キバがその身に雷の力を呼び込むと、紫の仮面、キバ・ペルソナが妖しく輝く。


「うああぁぁ!」



動かないキバを好機と見たのか、ソラトが突っ込んで来る。
キバからすれば、愚作でしかない。
ドッガハンマーを地面に立てたキバは、後部のレバーを外した。


――ガチャン!


ドッガハンマーの拳が開き、中に内臓された巨大な眼『トゥルーアイ』が、ソラトを睨む。
刹那、『トゥルーアイ』から放出された魔皇力が、ソラトの身体機能を麻痺させる。ソラトはまるでビデオの一時停止のように、走る姿のまま、動きを止めた。


「ハァァ……ッ!」


キバがドッガハンマーを天高く持ち上げ、横に振り回していく。
放出されたオーラが象るのは、巨大な拳の幻影『ファントムハンド』。





――ドッガハンマーを振り被る瞬間、キバは微かな声で、ただ一言だけを、送る。





「……すまない」





真上から振り下ろされたドッガフォームの必殺技、『ドッガサンダースラップ』が炸裂し、ソラトを圧倒的な力をもって粉砕した。





持ち主を失った『吸血鬼』が、墓碑のように突き刺さる。
キバは無言のまま、取り残された剣を目に収めた。


「キバ?」


いつもと様子の違うキバに、悠二が駆け寄ろうとする。


「どうかし……」
「今は」


だがキバは、悠二にも、同じように走り出していたシャナにも、振り返らなかった。


「話し掛けないでくれると、嬉しい」


有無を言わせぬ口調に、シャナと悠二はもう何も言えずに口を閉ざす。





――寂寥が刻まれたキバの背中は、まるで泣いているようだったという。




『炎髪灼眼の討ち手』シャナ&『仮面ライダーキバ』紅奏夜vs“愛染自”ソラト&“愛染他”ティリエル。
深くつらい傷を残して、勝者、『炎髪灼眼の討ち手』シャナ&『仮面ライダーキバ』紅奏夜。


◆◆◆


「………」


しばらくして、キバは振り返らぬまま、主塔から去ろうとする。


「あ……」


悠二は思わず声を上げる。
どうしてはわからない。ただ、このままキバを行かせてはいけない。


何故か、そう思った。


「キバ!!」


話し掛けるな、という禁を破り、大声を上げた悠二を、キバは振り返りこそしなかったが、動く足を止めた。
シャナも驚いて、悠二を見ている。


「……えっと」


引き止めこそしたものの、何を言えばいいのか。
迷った挙げ句、悠二は口を開く。


「――キバは、守ってくれたよ」
「……?」
「キバが、何でそんな悲しそうなのかわからないよ。……でも、キバはシャナと一緒に、この街を守ってくれた。そのことだけは、間違ってないと思う。だから、その……」


何を持って、励ませばいいのかわからないままに、悠二はがむしゃらに言葉を選ぶ。
シャナもまた、悠二と同じ気持ちのまま話す。


「私も、助けて貰ってる。お前が自分を認められなくても、私達はお前を認めてるわ」
「………」


不器用で、わかりづらい言い方。
だが、キバには、二人が言いたいことは、伝わっていた。


「――ありがとう」



キバの礼にも、やはり力は無かった。
結局キバは、二人を見ることなく、主塔から降り、姿を消す。


――下から聞こえてきた、静かに響くエンジン音が、キバの空虚さを表しているように、悠二は思った。


◆◆◆


シャナ達よりも早く、キバは御崎学校に戻り、奏夜の姿に戻る。
だが奏夜は、元いた屋上に戻ることなく、校舎裏の木に腰掛けていた。


いつものふざけた調子は無く、彼にしては珍しい、物憂げな表情だ。


「なぁ、奏夜」
「ねぇねぇ、元気出してよ~」


隣に座るキバットとキバーラが声をかけるが、何の反応も無かった。
無理もない。そうキバットは思う。


(また、あんな辛い選択をしちまったんだもんな……)
(お兄ちゃん、私は先に戻るわね。お兄ちゃんと二人だけの方が、奏夜も話しやすいだろうから)
(ああ。悪いな、キバーラ)


気を利かせたキバーラが去った後も、奏夜はだんまりを貫いていた。


「奏夜。その、さ」


堪らず、キバットは話し掛け続ける。


「ここにゃ今、俺しかいないし、泣いてもいいんじゃねぇかな」
「……泣き方なんか、とっくの昔に忘れたよ」


いや、泣く資格すら無い。


「俺はまた、人の音楽を守るために、人の音楽を奪ったんだからな」
「そりゃ、仕方ないだろ。……そうしなきゃ、こっちがやられちまうんだから」
「でも、罪は罪だよ」


何の迷いもなく、奏夜は言い切る。


「俺は、ソラトとティリエルを良いヤツらだって知ってた。けど、最後にはあいつらを殺しちまった。
――俺は結局、掟破りのファンガイアと何も変わっちゃいない」


ガブッ!


キバットが奏夜の腕に本気で噛み付いた。
キバに変身するわけではないため、傷口からは赤い血が流れる。


「オイ!! 最後のセリフ、俺様の前で二度と言うんじゃねぇぞ!」


奏夜は僅かに、表情に驚きを混ぜる。
温厚なキバットが、本気で怒っていた。


「俺様を見くびんじゃねぇ!! てめぇは俺様が、罪もねぇ人間を喰う連中と、親友になるとでも思ってんのか!!」


耳の穴かっぽじってよーく聞きやがれ!!
前置きし、キバットは奏夜を怒鳴りつけた。


「お前は紅奏夜で、人とファンガイアを守る戦士で、バカがつくほどのお人好しな、俺様の親友だ!! そんなヤツが、掟破りのファンガイアと同じなわけあるか!!」


息を切らせ、尚もキバットは止まらない。


「俺様はお前が優しいってことも、そのせいで苦しんでることも知ってる! だから俺様も次狼達も、お前を見捨てねぇ! 誰が否定しようが、お前の味方でいてやる!」
「……何で?」
「親友だからに決まってんだろ、バカたれ」


最後にもう一度だけ、軽く奏夜の頭を翼で叩き、キバットは彼の肩に止まった。
急に、奏夜は目頭が熱くなるのを感じた。


そんな自分自身に驚き、慌てて顔を附せる。
こんな情けない顔、もう誰にも見られたくなかった。


精一杯の強がりの中、奏夜は震える声で、呟いた。


「――なら、他力本願で悪いけどさ」
「何だよ」


奏夜は顔を附せたまま、キバットに言う。


――小さな声だったが、それは確かに、奏夜の弱さだった。





「俺の手を、離さないでくれ。相棒」
「ああ。ドンと任しとけよ、親友」





前触れなく、街を囲っていた封絶が消えていく。


創り手を示すように、咲き乱れる山吹色の火の粉。まるで花園だ。


『あ……』


刹那の芸術に、顔を上げた奏夜とキバットは目を奪われた。
戦火から生まれた美しさは、傷ついた心に染み渡っていく。


「……ああ、綺麗だなぁ」


抑え切れなかった感情が、感嘆の声となって零れる。


(ソラト、ティリエル。お前らが、見せてくれてるのか?)


馬鹿な幻想とわかっていながら、そう思わずにはいられなかった。
手のひらに舞い込んだ火の粉を見て、奏夜は僅かに、顔を綻ばせる。





――唯一つ、大きなミスを犯していたことも知らずに。




【断章】

「――とまぁ、そういうわけだ」
「……本当に、とても良い知らせと悪い知らせですね」


冷然と、だが僅かに狼狽したように、少女は答える。筍よろしく立つ柱、先の見えないほど広がる床、天井は満天の星空。
そんな場所で、“千変”シュドナイは、とある少女と話していた。


小柄な体躯に、大きな帽子とマント纏い、冷ややかな表情が特徴的な少女――“頂の座”ヘカテーである。


「ままならないものですね。最大の目的と最大の敵が一つ所にあるとは」
「あの場には『弔詞の詠み手』もいた。恐らく〔仮装舞踏会〕絡み、というくらいは知られてしまっただろう。どう思うね、俺の可愛い“頂の座”ヘカテー」
「私はあなたのものではありません。確かに思いもよらない事態ですが、誤差の範囲内でしょう。私からベルペオルにも話しておきます」
「ふん、腕を、落として、拾ってきた情報が、その程度、か。落ちたものだな、“千変”」


会話に割り込んできた声に、二人は反応する。
フードに身を包んだ長身の姿が、そこにはあった。


「――ドラゴンファンガイア。盗み聞きとは、ずいぶんと無粋な真似をするな」


シュドナイは不愉快そうに、顔をひきつらせた。


「ふん。だとしたら、ずいぶんと、無意味な、盗み聞きだ。今さら、『キバ』や、『零時迷子』の、事とは」
「何だと? どういう……」


言いかけて、シュドナイは気が付く。
ヘカテーも同じだった。


「知っていたのですね。『キバ』のことも、『炎髪灼眼の討ち手』のことも、そして『零時迷子』のことも』」
「知らいでか。キバは、我々にとって、最も、警戒すべき存在。そこに、『炎髪灼眼』や、『零時迷子』が、転がっていて、気付かぬわけが、あるまい」
「ならば何故、それを黙っていた?」


鬼気迫る口調で、シュドナイは問う。


「忘れたか? 我々の、契約は、『我々が、お前達の命に、従う限り、お前達は我々を、保護すること』。命令外で、何が起ころうが、知ったことでは、ない」
「貴様……!」


ドラゴンファンガイアに詰め寄りかけたシュドナイを、ヘカテーが手で制す。


「落ち着いて下さいシュドナイ。――“逆鱗に触れし者への断罪”よ、確かに我々の契約は、あなたが申し上げた通り。
ですが、我々に話すべきことの区別がつかないほど、貴公は愚かではないでしょう。次はこのようなことが無きように」
「ふむ。命令とあらば、仕方がない。次から、そうするとしよう」


慇懃無礼な態度で、ドラゴンファンガイアは再び、暗闇へと消えていった。
苦虫を噛み潰したような表情で、シュドナイは煙草に火を点けた。


「なぁ、ヘカテーよ。長らく留守にしていた身で言うのもなんだが、いつまであの連中を置いておく気だ?」
「確かに信用は出来ません。ですが、我々と違い、彼らは表立った行動が出来る分、扱いやすいのもまた確か。一先ずは、利用出来るだけ利用させてもらいましょう」
「ふむ、それはごもっともだがな」


取り敢えずは気を落ち着かせ、シュドナイは煙草の煙を吐いた。
……。


「…………」
「…………煙草は止めて下さいね」


ヘカテーが彼女にしては珍しく、心底嫌そうに、シュドナイを睨んでいた。



◆◆◆


「よーう、ドラグ!」
「……ゼブ、か」


広い回廊を進んでいたドラゴンファンガイアに、後ろから肩を回す男がいた。
黒い仮面に、ブラックコートをつけた青年、ベルゼブブファンガイアだ。


「お使いは終わったぜい? これで俺の仕事はしばらくナッシングってことでいいんだよな?」
「ふん。ここに、来るまでに、あちこち寄り道をしておいて、よく、言えたものだな」
「うげ、お見通しか」


ゼブは、大袈裟に仰け反る。


「それだけ、道楽を尽くしたなら、貴様には、新しい仕事を、やってもらおうか」
「しかもやぶ蛇かよ……。仕方ねーじゃん、ここの生活、窮屈でたまらねーんだからよ。なぁ、いつまであんな奴らといるつもりだ?」
「利用出来るまで、つまり、“我が主”が、お戻りに、なられるまで」
「やっぱし」


決まりきったドラグの答えに、ゼブは益々落ち込んだ。


「だが、そう遠い話でも、あるまい。“我が主”が戻られれば、貴様もまた、存分に羽を伸ばせると、いうものだろう」
「ま、そりゃそーだな。うっし、一丁頑張りますかね!」
「ああ、それで、いい。……私も、そろそろ、考えておかねばなるまい」


ドラグのフード下の笑顔は、狂喜に満ちていた。




「新たな、タイムプレーをな」




◆◆◆


「あれ? なぁ、池」


御崎高校屋上、池との話を取り敢えず済ませた悠二は、池に聞く。


「先生、何処行ったんだ?」
「先生?」
「奏夜先生だよ。さっきまで一緒にいたじゃないか」
「……? 何言ってんだよ坂井。屋上に来たのは僕とお前の他には、吉田さんと平井さんだけだったろ」
「いや、だから吉田さんが飛び出した後すぐに……」


尋ねかけた途中で、悠二の声が小さくなっていく。


何だ? 何か、とんでもない事実に行き着いてしまう気がする。
悠二の脳裏に、ここへ来る前、アラストールと交わした会話が蘇ってくる。


『もし封絶が解けた時に僕らがいなかったら、どうなるんだ?』
『トーチ消滅の場合と、原理的には同じだ。不自然さを無理矢理に納得させるために、意識と記憶の変化が起こる』
『元からいなかったように思わされる、ってこと?』
『そうだ』


(……そんな、まさか)


答えを導き出したる思考が、感情によってフリーズした。
あるはずがないと、悠二は否定したかった。
だが、一つに繋がった情報の欠片は、提示された信じられない事実を肯定する。






(先生が、封絶の中で動いていた……!?)






世界は優しくない。
だが、それ以上に気まぐれである。
制約の鎖に縛られた者のことなど、気にも止めない。
ただ、雲のような気儘さで揺れ動くだけだ。



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  1. 2012/03/30(金) 22:08:43|
  2. 仮面ライダーキバ/BLAZING.BLOOD
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