紅蓮の牙

二次創作中心。仮面ライダーキバと灼眼のシャナのクロスを連載中。

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第十一話・メトロノーム/その想いは誰が為に.後篇

「あんた、封絶の中で動けるくらいしか能ないんでしょう。なんで隠れてないわけ?」


フラットな口調のまま、グリモアに乗って低空飛行するマージョリー。


「うぐ、ちょ、うげ、苦、ぐ」


その手がズルズル引き摺り、軽く呼吸困難となっている少年。


『玻璃壇』によって見つけられ、先ほどマージョリー&イクサと合流した坂井悠二である。
さすがに気の毒になったのか、マルコシアスが、


『よお、マージョリー、首だ』
「……ん? ああ」
「私の方に乗りなさい、悠二君」
「げほっ、げほっ、は、はい……お願いします、名護さん」


マージョリーの手から、悠二はイクサの駆るイクサリオンの後部へと移る。


ちなみにこのイクサリオン。
マージョリーによって自在式が組み込まれ、封絶内でも活動が可能となっていた。


「名護さん、市街地の方で戦ってるって、キバットから聞きましたけど、無事だったんですね」
「ああ、大事ない。それはそうと悠二君、あまり無茶をするな。君はあくまで、普通の高校生なんだ」
「う……」


イクサにたしなめられ、悠二は少し肩を落とした。


「『弔詩の詠み手』、恵達から、何か報告はあるか?」
「あー、ちょっと待ちなさい」


マージョリーは『玻璃壇』と通話を始める。が、悠二からすれば、ただの独り言だ。


「なにをしてるんですか?」
「別の場所にいる協力者と、連絡を取っているんだ」
『紹介は勘弁な。今後の活動に支障が出るといけねぇんでよ、ヒッヒ』


――その協力者の中に、自分のクラスメートである田中と佐藤がいることを、悠二はまだ知らない。


「子分二人が言うには、式がぐちゃぐちゃで何が何だか、だそうよ。あの女――メグミだっけ? メグミからも似たような報告が来たわ」
『つまるとこ、なーんの手掛かりもナシだな』
「そうか」


イクサはさほど落胆した様子もなく、辺りの観察に戻る。
マージョリーは取り敢えず、イクサリオンの後ろに乗る、この頼り無さそうな少年に話を聞いた。


「そういや、なんであんた、あんな所にいたわけ?」
「え、ああ、あそこにあった“存在の力”を集める仕掛けを、なんとか壊そうと思って、急いで走って……まぁ、“燐子”だったことは知らなかったし、あんなのが相手じゃ、実際何ができたとも思えないけど……」
『!! おめえ、あの仕掛けがあることを、発動する前から察知してたってえのか!? 自在法の心得もねえのに!?』
「え? ……と、特別なことなのか?」


悠二が、マルコシアスの予想外な反応に戸惑う。


この町は現在、偽装や撹乱の自在式が張り巡らされている。
そんな中で的確に、“燐子”ビニオンの位置を特定するのは、かなりの神業らしい。


(『零時迷子』の力、なのかな)


つい悠二は、自分の中に見える炎に目を落とした。


「なるほど、チビジャリも案外良い子分を持ってるじゃない。――あんた、私の嫌がらせに協力しなさい。チビジャリの方は、あの陰険変態兄妹との戦いで忙しいし。結果的に、チビジャリを助けられるわよ」
「待ちなさい、『弔詩の詠み手』」


ここで異議を唱えたねはイクサだ。


「彼は少し普通と違うだけで、ただの人間だ。我々が連れ回して、彼を危険に晒すわけにはいかない」
「じゃあどうすんのよ。はっきり言って、私でもコイツほど的確に、花モドキの場所は探知出来ないわ。第一、ここから『玻璃壇』まで連れてく道中の方が危険じゃない?」
『だったら、俺様達と一緒の方がアンゼンってもんだろうよ』
「だが……」
「名護さん」


尚も渋るイクサを制したのは、悠二本人だった。


「名護さんが、僕を心配してくれてるのは、凄く分かります。けど――もう、決めたんです。この戦いで、少しでもいいから、僕にできることをするって」


みんなを守ると言ってくれた、そして今も頑張ってくれている、あの子のために。


「だから、僕に出来ることがあるなら、頑張らなきゃいけないんです。お願いします、やらせて下さい」
「……」


自分を見つめる真摯な眼差しに、イクサはしばらく口を閉ざす。
やがて、仮面の下から聞こえてきたのは、満足そうな笑い声だった。


「“彼”が君を気に入った理由がわかった気がするよ」
「えっ?」


首を傾げる悠二に、イクサは、かつての“彼”――紅奏夜を重ね合わせていた。


(まるで、四年前の彼を見ているようだ)


例え自分に力が無くとも、決して諦めず、立ち上がれる信念。
それを、この少年は持っている。


「――わかった。だが、勝手な行動は取らないようにしなさい。危なくなったら、逃げることを第一に考えるんだ。逃げるのは決して恥ではないからな。わかったね?」
「はいっ!」


勢いのある声でそう言って、悠二はマージョリーとマルコシアスに向き直る。


「じゃあえっと、取り敢えずその、変態? 兄妹……とか、事情を説明してくれよ」


◆◆◆


この世は決して優しくない。


どんなに頑張っても、叶えられないことはある。
楽園がいきなり地獄に変わることもある。
人はゴミのような死を迎える。
勧善懲悪など、戯れ言もいいとこだ。


「こんな汚れた世界の空気を吸って平気なら、俺も汚れた人間ってことなんじゃないか?」


――かつて、世の中を拒絶してきた青年はこう言っていた。


やがて彼は、この世のリアルを、その身を持って知ることになるのだが――、




知っていることと、それに耐えられることは、別の話だ。




◆◆◆


「お前らが……“紅世の、徒?」


キバを震えさせているものが何なのか。
それは、キバとキバットしか知り得ない。


愛染兄妹も、アームズモンスターも、アラストールも、そしてシャナも。


恐怖をもって戦いに臨んだキバを、奇異の眼差しで見つめていた。


(何で……、何でこの二人が、平井や次狼たちと戦ってるんだ!?)


感情は、事実を否定する。
しかし理性は、この現実を、直ぐ様受け入れていく。


気付く機会はあった。この兄妹に会った時、キバットは何かに気が付いたような素振りを見せている。
今にして思えば、油断していたとしか言いようがない。
キバットが気付けていたなら、奏夜にも気付けたはずだ。


ただ――あの時は、


(……ああ、そういうことか)


混乱していた頭が、急速に冷えていく。仮面の下で、奏夜は唇を噛み締めた。




――ただ嬉しかったから、気が付けなかったんだ。




二人の仲の良さと、笑顔を見て、いい奴らだと思った。
自分の力は、この兄妹のように、儚く、だが素晴らしい存在を守るためにあるのだと。


――だが、違った。
兄妹は守るべき存在ではなく、むしろ、倒さなければならない存在。




人の音楽を喰う、“紅世の徒”だ。




「……この街は、人間とファンガイア。両者の架け橋となる場所だ」


威圧的な口調に、キバへの警戒を続けていた兄妹が身動く。


「お前達は、人間やファンガイアを喰ったのか?」
「……?」


シャナは、さらに不信感を抱く。


(なんで、あんなことを)


兄妹に聞くまでもない。人を喰った痕跡を嗅ぎとったからこそ、自分達は動いた。
キバが知らないわけがない。


ティリエルも同じようなことを思ったらしく、


「……高貴な身分の割に、おかしなことを聞きますのね。キバ――ファンガイアの王」


やや落ち着きを取り戻したのか、ティリエルは再びソラトへ寄り添う。


「そんな解りきった質問など無意味でしょう。なんなら、もう一度同じことをして差し上げましょうか?」
「……」
「私達は早く、そちらのフレイムヘイズの持つ刀を戴きたいのです。邪魔をするのなら、貴方も贄となって貰いますわよ」
「……そうか」


これで、兄妹を見逃してやることは出来なくなった。
一縷の望みに掛けてみても、結果は同じ。


(――情けない)


やっぱり、俺はバカだ。
こんなになってもまだ、戦いたくないと思っている。


だが、もうそれは通用しない。


「ならば――俺も容赦はしない」


残された選択は一つだけ。
――キバとしての責任を果たさなければならない。
全ての感情を仮面に封じ込め、キバはゆっくりと、兄妹に人差し指を突き出す。




「――お前達に、夜が来る」




宣告と共に、キバはベルトのケースから、三本のフエッスルを引き抜いた。


「キバット、五分でカタをつける。やれるな?」
「……いいのかよ?」


キバットの言葉。だがキバの答えは、


「それに答える意味は無い」
「――わかった、んじゃ、出血大サービスといくか」


冷ややかな返事に、キバットは、いつものハイテンションさを消していた。


(……どうして、こいつばっかり)


いいヤツなのに。
俺様の無二の親友なのに。
どうしていつも、こんな重みを背負わなきゃならないんだ。


「……カミサマ、恨ませてもらうぜ」


ぽつりと言った呟きを最後に、キバットは押し黙った。


「次狼、ラモン、力。来い!」
「……ああ」
「みんなで行っくよー!」
「てんこ、もり」


そしてキバットは、青、緑、紫、三本のフエッスルを吹き鳴らした。


『ガルルセイバー!』


ガルルが青い彫像に。


『更に、バッシャーマグナム!』


バッシャーが緑の彫像に。


『そして、ドッガハンマー!』


ドッガが紫の彫像に。


三つの彫像は光球となり、それぞれ右腕、左腕、胴体と重なり、その部位に鎖が巻き付き、その姿を変えていく。


――ドガバキフォーム。
キバフォームをベースに、左腕はガルルフォーム。右腕はバッシャーフォーム。胴体は、ドッガフォーム。
アームズモンスター全ての力を取り込んだ、まさに四位一体のフォームチェンジ。
キバットの魔皇力コントロールの関係から、五分以上変身を続ければ、キバの鎧が大破するばかりか、五人の命も危険に晒されるという、リスキーな姿。


だが反面、その力は絶大だ。


「――行くぞ」


ゆっくりと歩いてくるキバに、


「もう! ボクのじゃましないでよ!」


飛び出したソラトが『吸血鬼』を振り被る。


「無駄だ」


剣筋を見切ったキバは、剣を難なく受け止める。


「つかんだな!」


ソラトが存在の力を『吸血鬼』に込める。
『吸血鬼』の能力、触れた相手を切り刻む見えない斬撃が、キバを襲う。
だが、


「……今、何かしたのか?」
「えっ?」


ソラトが間の抜けた声を挙げる。


存在の力が込められたにも関わらず、キバは無傷だった。
それもそのはず。ドガバキフォームは、全てのフォームの力を取り込んだ形態。
ドッガの鉄壁の防御力が、キバを守ったのだ。


「この距離なら、鎧も意味が無いな」


『吸血鬼』を掴んでソラトを固定したまま、キバは右手に構えたバッシャーマグナムを向ける。


――バァン!
連なった音が合計七発。0距離でソラトに命中した。


「っ、うわあぁ!」
「お兄様!」


ティリエルが蔓を伸ばし、兄をキバから引き剥がす。


「ティリエル。あいつ、なかにいっぱい、かいぶつをとりこんでるよ!」


ソラトの身体は『揺りかごの園』により、すぐ回復する。


「ええ、お兄様。……さすがはファンガイアの王、というところですわね」


言いつつ、ティリエルの声にはまだ余裕があった。


(でも、あれだけの力をそう長く維持は出来ないはず……。それに『揺りかごの園』は依然起動中。上手く逃げ切れば、向こうが勝手に自滅してくれるわ)


ティリエルの読みは、的確なものだっただろう。
しかし、兄妹は見くびっていた。


キバの力を。


「戦いの最中にお喋りとは、随分余裕じゃないか」
「っ!?」


いつの間にか、キバが後ろに回り込んでいた。
見れば、足元がバッシャーの能力により、水が張られたアクアフィールドと化している。
キバはその上を高速で滑り、二人の背後に回り込んだのだ


「ッハァ!!」


アクアフィールドを使い超加速。


「うぎっ!!」
「う、あぁぁぁ!!」


目にも止まらぬスピードで、左腕に持つガルルセイバーを振るい、二人を斬りつけていく。
兄妹の悲鳴が、キバの耳を貫く。


「……っ」


赤い血が舞うのを、キバはガルルセイバーを、きつく握り締めることで耐える。


(――いかんな)


ガルルセイバーとなっている次狼は思う。


(完全に戦いのことしか考えていない)


奏夜が“こう”なると、ロクなことにならない。だが、今の自分に止める術は無かった。
あくまで次狼は――彼の臣下の身なのだ。


「ヴァァ!!」


最後の一太刀で、ソラトは数メートル先まで斬り飛ばされる。


「ぐ、あぅ……」


回復よりも、痛みが先に立つようになったのか、ソラトがうめいた。
キバは無言で、ドッガハンマーを引き摺りながら、ソラトに近づく。


「無駄、ですわ……」


回復を急ぐティリエルが、キバの背中に語る。


「『揺りかごの園』の中なら、私達は無敵。何度でも、再生が出来ます……」
「そうか。それは大層な力だ」


だが。とキバは言葉を繋ぐ。


「回復に使う力が無限でも、一度に供給出来る力には限界があるんじゃないか?」


キバが淡々と言い放つ。


「見たところ、お前の蔓から存在の力は供給されている。だが、お前の兄の再生は正確には一瞬じゃない。ダメージに比例するが、大体2、3秒のラグがあった。
――つまり、ダメージ量が供給量を越えれば、再生は無意味だ。回復が追い付かないからな」
「!!」


さぁっと、ティリエルの顔が青ざめた。
わかったからだ。
ドッガハンマーを構えたキバが――何をするつもりなのか。





「力の供給が追い付かなくなるまで、叩き潰してやる」





――ッガァン!!


倒れたソラトへ叩き込まれたドッガハンマー。
ソラトの呻きが聞こえるが、キバは手を緩めない。ただ一心不乱に、ドッガハンマーを振り下ろし、叩く。


叩く叩く叩く叩く叩く叩く叩く叩く叩く叩く叩く叩く叩く叩く叩く叩く叩く叩く叩く叩く叩く叩く。


「あ、ぁぁ……!!」


圧倒的力による蹂躙。
ティリエルが涙まで浮かべながら、愛する兄に向けられる、殺意の嵐に呑み込まれていた。


「い、いや……! 止めて、止めてぇ!!」


それでも懸命に蔓を伸ばし、キバの動きを封じようとする。
だが、ドッガのパワーの前では無意味だ。
ティリエルの悲痛な叫びにすら、耳を貸さず、キバはまるで機械のように、一つの動作を繰り返す。



◆◆◆


「………」


磔にされたシャナもまた、その非情なまでに凶悪な力へ、畏れを抱いた。
その一方で、シャナの中に、それとは違う感情が沸き上がってもいた。


(どうして……?)


“愛染兄妹”に同情するわけではない。
けれどシャナは確かに、キバの戦いを見るのを、嫌だ。と思っていた。


(今のキバを見てると、凄く悲しくなる)


シャナの知るキバの力は、あんな狂った強さじゃない。
自分や悠二を導いてくれたような、聡明さがあったからこそ、シャナは彼の強さを信じていたのだ。


だが、今のキバは違う。


(力に身を任せて、感情を圧し殺してる)


感情を押さえ付けるのが、どれほど大変なのか、シャナはマージョリーとの戦いで、よく知っていた。


――キバは今、それをやっている。内に眠る力を、暴走させてまで。


(どうして、そうまでして戦うの?)


自分は、まだいい。
それが使命だから。そうあるように生まれたから。
ただ“徒”を討ち滅ぼす存在として、割りきれる。


でも、キバは違うはずだ。


最初から、守るために戦っていた。守る強さが、キバの強さなのに。


(どうして)


シャナは、悠二の時とは違う胸の痛みを感じた。


(どうしてそんな、今にも泣きそうになってまで戦うの?)


シャナの問いに答える者は、いなかった。


◆◆◆


「……」


キバは静かに、ドッガハンマーを地面に降ろす。
ソラトはもはや、声を挙げることも出来ず、形容するのも惨たらしい状態だった。
再生こそしているが、シャナの時ほどの速度はない。


「――ザンバット」


ドガバキフォームを解除すると、三体の彫像がキバから飛び出してくる。
三体の彫像が一つに集まると、光の中から、幻影モンスター『ザンバットバット』が現れた。
キバは何処からともなく、魔剣ザンバットソードを呼び出し、ザンバットバットが刀身部分を噛むように取り付く。


「キバット、行くぞ」


ザンバット頭部の仮面に付いていたフエッスルを外し、キバットに吹かせる。


『WAKE.UP!!』


ザンバットバットを刀身の上まで引き上げるにつれ、ザンバットソードが紅の魔皇力に染まっていく。
ザンバットソード使用時の必殺技『ファイナルザンバット斬』が発動する。


「……」


キバに――紅奏夜としての優しさは無かった。
感情を殺し、ただ目の前の敵を滅する。キングの代行者――キバの頭にあるのは、それだけだった。





「断罪の牙の下……転生の輪廻に沈め」





ソラトを一瞬だけ見下ろし、キバが低く言い放った。
ザンバットソードが、紅の軌跡と共に牙を剥く――、





「!!」


突如、キバの刃が止まった。
彼とソラトの間。


そこへティリエルが、髪を振り乱し、割って入ってきたからだ。
目には涙の痕があり、息を切らせ、シャナへ見せていた余裕の態度もない。
ただ両手を広げ、キバの行く手を阻む。


意味が無いのは、分かっている。しかしそれでも、ティリエルは必死だった。


――兄が死ぬ。
それは自分にとって、世界が閉じるのと同じことだった。
兄を助けたい。その一心で、ティリエルは叫ぶ。




『「やめて!!」』
「っ!!」




◆◆◆


『どうして……どうしてこんなことを!!』
『人間など価値のない存在だ。何も悲しむことはない』
『許さない……、絶対に!!』


対峙する『黄金の戦士』と『蒼の戦士』。


『WAKE.UP.フィーバー!!』
『やめて!!』


一つの影に、守るはずだった人に、自らの力が牙を剥く――。


◆◆◆


「……ぁ」


仮面の下に封印した感情が戻ってくる。
僅かな畏れは、水面に落ちた雫の如く、心に波紋を広げていく。


(……俺は今、何をしようとした?)


右手が震え、取り落としたザンバットソードが、乾いた音を立てた。


――最もやってはいけないことを。
二度としてはならない過ちを、再び犯そうとしていたのではないか?


「あ、あ……!!」


自分へのおぞましさに、後退りするキバ。
そこに、一瞬の隙が生まれた。


「っだぁぁあ!!」


ようやく回復が追い付いたソラトが、ティリエルを飛び越え、キバへ『吸血鬼』で斬りかかったのだ。


「っ!!」


反応が遅れ、ザンバットソードを拾おうとする。
しかしそれより早く、ソラトはキバに、『吸血鬼』の刃を合わせ、存在の力を注ぎ込んだ。


「っぐ、あああ!?」


ドッガフォームほどの防御力が無いキバフォームに、『吸血鬼』の斬撃は防げない。
キバは血の雫を撒き散らせ、大剣のスイングに吹き飛ばされた。
その勢いのまま、戦いで崩れたビルに、キバは叩き付けられる。


『キバ!!』


シャナと次狼達の声を最後に、キバの意識は闇に呑まれた。


◆◆◆


「……ッハァ、ハァッ」


ティリエルが息を切らし、緊張の糸が切れたのか、その場へ座り込みながら、気絶したキバを見る。


(生きて、いる……?)


ティリエルが、自分の生存に疑問を持つのも、無理からぬことである。


(あの時、キバが刃を止めなければ、確実に討滅されていた……)


何故刃を止めたのか、それはわからない。
だが今は、その幸運に感謝するしかないだろう。


(……けれど、いつキバが目覚めるかわからりませんわね)


立ち上がったティリエルに、先程とは打って変わった無邪気さを、ソラトは見せる。


「ねぇティリエル! あいつやっつけたよ! はやく、『にえとののしゃな』をもらおうよ!」
「ええ、もちろんですわお兄様」


一部始終を静観していたシャナへ、ティリエルは僅かな焦燥を込めた瞳を向ける。


「あまり、モタモタはしていられなくなりましたわ。早く『贄殿遮那』を、渡していただけます?」


◆◆◆


「背理、回帰順配列!」


マージョリーが掛け声と共に、光る指先を動かす。


現在、マージョリー達は『ビニオン』の削除に動いていた。
悠二が偽装された『ビニオン』を見つけ、マージョリーが分解し、再構成。イクサはその間、二人の護衛だ。


「あと何個だ、悠二君」
「ええと、多分二・三個くらいです」
「そうね。でも残念」


マージョリーがグリモアを宙に止めた。
イクサと悠二も、気が付く。


「……来たか、“千変”。悠二君、手筈通りに行くぞ」
「けど名護さん、マージョリーさんも本当に大丈夫なんですか? その、囮役なんて」
「なーにを今更言ってんのよ」
『提案したのはお前さんだろがい、ヒッヒヒ』


――かつてのフリアグネが使った“都喰らい”のように、自在式の核となる“何か”は効果範囲の中心にあることが通例である。
だが無論、敵はそこに気を配っているはず。
そこで、悠二は二人にある作戦を持ち掛けた。


早い話が囮作戦。
“愛染兄妹”はシャナが押さえている。ここで“千変”をマージョリーとイクサが押さえれば、ノーマークの悠二は、核探しに集中できる、というものだ。


「私は別に反対しないわよ。それに、こっちで百年も過ごしてない、ちょいと物隠すのが上手いからって調子に乗ってるガキ共に舐められっ放しで黙っていられるほど、私は人間が出来てないの」
『んーなもん、見れば分かるってブッ!』
「お黙り、バカマルコ」
「悠二君、キミが私達を本当に心配してくれるのなら、必ず核を見つけてくれ。――危険な役になる。だから、私との約束を忘れないようにしなさい」
「――はい! 二人も、気を付けて!」


悠二が走り去るのを見て、マージョリーとイクサは気配の方を睨む。


「戦えるのか?」
「さあね」


イクサの問いに素っ気なく答えると、


《マージョリーさん》
《姐さん》


佐藤と田中の声が、頭に響いた。


「お黙り。集中したいのよ。粘れるだけ粘ってみるつもりだけど、結果はわかんないしね」
《最初からそんな弱気なんて、マージョリーさんらしくないですよ!》
《以前の、あの強くてかっこいい姐さんは、どこにいったんですか!》


怒鳴りたくなる気持ちを、マージョリーはぐっと押さえた。


(私は、お前たちが思ってるほど、強くも格好よくもない! 間違えるときは間違えるし、負ける時は負けるし、逃げるときは逃げるし、落ち込む時は落ち込むのよ!!)


苛立つマージョリーに、また違う声がかかる。


《あの、マージョリーさん》


恵だった。


「……何よ」
《私も前に、マージョリーさんと同じことで迷ったことがあります》
「……?」
《戦士として戦うか、戦わないかを》


名護と同じファンガイアハンターだった恵。
母、ゆりの意志を受け継ぎ戦う。それに迷いは無いはずだった。
――しかし一度だけ、戦うことに、恐れを抱いてしまったことがあったのである。


《でも、ある人に言われたんです。『自分の弱さを受け入れろ』って》
「……弱さを、受け入れる?」
《あなたは、戦う理由を見失ってる。だから、戦えない。それはあなたの弱さです。けど、弱さは悪いことじゃない。強くなるためには、弱さが必要なの。
――憎しみ以外で戦う理由が見つからないなら、他に理由を探せばいいじゃないですか》
「……今まで好き勝手やってきたからね。今更新しい理由なんか湧かないわよ」
《そう……なら、啓作くんと栄太くん達を守るっていうのはどうかしら?》


恵の案に、マージョリーは唖然とする。


《会ってすぐの私でも分かるくらい、啓作くんも栄太くんも、あなたが凄く好きなの》
《!! め、め、恵さん!?》
《な、何をイ、イキナリ!?》


後ろで二人の慌てる声が聞こえるが、恵は構わず続ける。


《自分を好きでいてくれる人と、その周りにいる人達を守るくらいできるでしょ? 名護くんと一緒に戦えるあなたなら、それだけの強さがあるはずだわ》
「……あまり、買い被らないでくれる?」


恵の必死な言葉から逃れるように、マージョリーはそう呟く。
言う間に、タイムリミットが来てしまった。


『お三方、戦闘中は話し掛けんじゃねぇぞ』
「――また、後でね」


マルコシアスとマージョリーの声を最後に、通話が終わった。


と同時に、周囲を包む紫色の爆炎が、相手の到着を告げた。


「さて、本当どうしましょ」
『てめえで考えろい』
「ここまで来たんだ。腹をくくりなさい」


三者三様の言い合いをする間に、近くのビルを突進で破壊し、それは到着した。


「どうやら今度こそ本気、最後の最後までやり合えそうだな」


口角を吊り上げるシュドナイの姿は、虎、鷲、蝙蝠、蛇、様々な姿が合わさった奇妙な生き物へと変貌を遂げていた。
“千変”とはよく言ったものである。


「存分に、狂宴を楽しもう。殺戮の美姫、異形を狩る白騎士よ」
「ふん……あんまり、その気にさせてくれない格好ね」
「悪趣味もこれ極まりだな。見てくれに少しでも気を配るなら、さっきの人間の姿をお勧めする」
「やれやれ、せっかくの誘いだというのに、つれないことを言ってくれる……が、まぁ先程よりは、幾分かマシな力が期待出来そうだな」


虎の口を苦笑に歪め、シュドナイを力の奔流が覆う。


「ではそろそろ、幕を引くとしようか」


◆◆◆


「……う」


ビルの瓦礫が蠢き、意識を取り戻したキバが、中から出てくる。


「あ、やっと起きた!!」
「だい、じょぶ、か?」
「ラモン、力……」


身体を起こすも、まだ少しフラついた。
あれだけの存分の力が直撃したのだから、これくらいで済んで御の字だろう。


「お目覚めか、我が王よ」
「奏夜、何処か悪いトコはあるか?」
「……ああ、何とかな」


次狼とキバットの気遣いも、あまり耳に入らない。


全身を襲う疲労感に、キバは膝をついた。


――戦いの場からは、そう離れてはいないらしい。
建物の隙間から、紅蓮の劫火がちらほら見える。


「あれから、どうなった?」
「『炎髪灼眼』がまた戦っている。お前が奴らの相手をしている間に、“存分の力”を溜めて、拘束の自在式から脱出したらしいな。
『贄殿遮那』は“愛染自”に奪われたようだが……まぁ、さしたる問題はあるまい。奴らの『揺りかごの園』とやらも、ミステスのガキ達が壊しているようだから、ご自慢の高速再生も使えないだろうさ」
「……坂井達も、動いてたのか」
「そうだ。だからお前が戦わずとも、カタがつく」


最後の言葉には、遠回しな非難が込められているような気がした。
畳み掛けるように、次狼が問う。


「何故、止めをささなかった?」
「……ごめん」
「何か理由があるのか?」
「……ごめん」
「……最近、マスターが新しいコーヒーメニューを作っていたな」
「……ごめん」


重症だこれは。
次狼は溜め息をつき、頭を掻く。


――古い友人の息子は変わった。
具体的には、親父に似てきている。
だが次狼に言わせれば、根っこの部分はまだまだヒヨッコ。


どうしようもない、お人好しのままだ。


「謝るな奏夜。別に怒っているわけじゃない。俺達の主はお前で、俺達はお前に従うだけだ」


それに。と次狼は言葉を次ぐ。


「――“あそこで刃を止められる”からこそ、俺達はお前を主と認めたんだ」


次狼の言葉にキバが顔を上げると、ラモンと力もまた、キバに詰め寄る。


「お兄ちゃんがふらふらしてどうするの。もっとしっかりしてよね、僕達もついてるんだからさ」
「おれたち、なまか」
「お前がその優しさを失わない限り、俺達はお前を裏切らない。お前が新たな罪を犯すなら、俺達が少しずつ背負ってやることも出来る。お前が苦悩する時、助けてやるのが、音也との約束だからな」


次狼が手を伸ばす。
キバが躊躇いがちに、その手を掴み、立ち上がった。


「……次狼、ラモン、力。俺は……どうすれば」
―お前の心に従え。音也はいつもそうやって、先に進んできた」


また何かあれば呼べ。
次狼達が彫像となり、キャッスルドランに帰っていく。


「……」
「奏夜、ツラいなら、行かなくてもいいんだぜ」


天に昇る紅蓮の炎を見つめるキバに、キバットは言う。


――答えは、分かりきっているけれど。
それでもキバットは、奏夜に傷付いて欲しくなかったのだ。


「……ありがとな、キバット」


いつも一緒にいてくれる相棒に礼を言って――キバはまた選ぶ。


己の道を。


「でも、行かなきゃならない」


拳を握り締め、迷いを振り払う。


「選んだ責任は、自分で取るさ」


◆◆◆


「っはあ!!」


シャナ自身が持つ炎により、形成された一対の紅蓮の刃が、地面に振り降ろされた。
大爆発が起こり、ソラトとティリエルを熱波が襲う。


「な、なんてこと――」


ティリエルの焦りも、爆音に掠れていく。
片やシャナは冷静に、二人を観察する。


『やはり、先程までの再生スピードはないな』
「うん」


アラストールの声に頷き、


(悠二が、やってくれたんだ)


そのことに、嬉しさが込み上げてきた。


(私達は、こいつらとは違う)


こんな、お互いにすがり合うようなことはしない。


(共に在ってすがらず、ただ互いを強く感じ、力を得る)


そうあるように、私が自身が選んだ。


(悠二と、一緒にいたい)


心の声は、そう叫んでいた。


――本当にやりたいことをやるんだ、心の声に耳を済ませろ。


キバが、教えてくれたことだった。


(キバなら、きっと大丈夫)


どうして、あんなにも彼が取り乱したのかはわからない。
だが、シャナは心配していなかった。


(キバはいつもこの街を――人間を守るために戦ってる)


人は誰かを守るためなら、何でも出来る。いくらでも強くなれる。
これは、あの奇妙な教師の教えだった。


(だから、キバも大丈夫)


――本当のキバはもっと、ずっとずっと強い戦士だから。
戦いに集中し直して、シャナは両翼で空を滑空し、兄妹の距離を積める。


「っ! お兄様!!」
「うん、ほのおのけん――」


奪った『贄殿遮那』に、ソラトは力を込めるが、無駄なことだ。
大太刀に広がっていた紅蓮の炎は、あくまでシャナの『炎髪灼眼の討ち手』としての力。
ソラトでは、火の粉一つ起こせはしない。


隙を逃さず、シャナは頭上からの斬撃をキメる。


ソラトは反射的に『贄殿遮那』でそれを受け止める。


「!」


ティリエルが眼を見開いた。
シャナの手にはいつの間にか、『贄殿遮那』を奪った際、ソラトが捨てた『吸血鬼』があったからだ。


「お兄さ――」


ティリエルが兄に警鐘を鳴らそうとするが、もう遅い。


「っだあああっ――!!」


力の供給に反応し、『吸血鬼』の波紋が広がり、ソラトの身体を切り刻んだ。


「あっ?」


呆けた声を漏らし、ソラトの身体から血渋きが上がる。
ソラトの手からこぼれ落ちた『贄殿遮那』を、キャッチし、


「返す」


流れるような動作で放られた『吸血鬼』が、ティリエルの胸に突き刺さった。


二人は悲鳴すら挙げることなく、
ティリエルの鍔広帽子だけが、儚くふわりと舞う。


インターバルを置かずに、飛翔するシャナの瞳と髪が、輝きを増した。


(悠二)


ちゃんと私を助けてくれた。
近くにいなくても、離れていても、ちゃんと繋がっている。


(――そう)


燃え上がるような熱さで、心が満たされていく。
フルボリュームで奏でられた、強くも激しい心の音楽が、更なる紅蓮の力をシャナに与える。




(これが、一緒にいるってことよ!!)




煌めく紅蓮の奔流が、火柱となって、二人の“徒”を覆い尽くした。





◆◆◆


「はーっはっはっは! 弱い! 炎と言うなら、これくらいはやって欲しいものだ!」


マージョリーが放った群青の炎弾を、涼風の如く掻き消し、シュドナイの口内から、紫色の火炎が吐き出された。


「っち!」


爆砕した道路を見て、マージョリーは舌打ちしつつ、折れた道路標識を拾い上げた。


「せえ、の!」


群青の炎を纏わせ、投擲した。
だが、この勢いでさえも、シュドナイは片手で受け止める。


「込める“存在の力”が足りないな。これでは、簡単に自在の干渉を受けてしまうぞ」


余裕のシュドナイの背後から、白い影が斬りかかる。


『イ・ク・サ・カ・リ・バ・ー、ラ・イ・ズ・ア・ッ・プ』
「はぁァァァー―ッ!!」


フエッスルを装填したイクサの、光粒子を纏った刃『イクサ・ジャッジメント』が炸裂する。


「ぬぅっ!?」


すんでのところで、シュドナイはイクサカリバーを白刃取りで止める。
尚もイクサは踏み込んで来るが、イクサカリバーはシュドナイに届かない。


「その命、神に返せ“千変”!!」
「フッ……、人間が、よくここまでの力を発揮出来るものだな……だがッ!!」


横から、シュドナイが虎の剛腕を振り被った。


「!! しまっ――」


反応が遅れたイクサは、そのまま勢いに乗り、近隣のホテルの一階まで激突した。


「ケイスケ!!」
「余所見とは舐めてくれるな!!」


マージョリーが気を取られた一瞬の内に、シュドナイは両の掌で、マージョリーを押し包む。


「無様だな。再戦も、所詮無謀の産物だったか」
「――くぅっ!!」


声すら挙げられず、万力の如きパワーからは抜け出せなかった。


「別れは常に寂しいな」


言いつつ、シュドナイに悲しみは見られない。
マージョリーを掴んだ腕を伸ばし、思い切り振り回し始める。


「せめて安らかに逝けるよう、激しく抱き締めていよう。――腕だけで、な」


シュドナイの両腕が、ブツンと切れ、遠心力に従い、マージョリーは立体駐車場に激突し、
中にある機材や車を粉々にする。
止めに、彼は最大級の炎弾を、マージョリーが作った穴目掛けて撃ち出した。


紫色の爆炎が上がり、全てを焼き尽くしていく。


生死など、確認するまでもあるまい。


――暫くの間、マルコシアスの顕現を警戒したが、群青の残滓には何の変化もない。
イクサが叩きつけられたホテルの方にも、動きは見られなかった。


(……特異な存在とはいえ、人間は人間か)


僅かな落胆を滲ませて、シュドナイは人間の姿に戻り、せめてもの手向けに、短く呟いた。


「せめて、よき地獄を、マージョリー・ドー。異形を狩る白騎士」


『弔詞の詠み手』マージョリー・ドー&『仮面ライダーイクサ』名護啓介vs“千変”シュドナイ。
不調を押しての戦いも虚しく、勝者“千変”シュドナイ。


◆◆◆


キバがそこへ着くと、丁度シャナの炎が、兄妹を呑み込んだところだった。


「……」


心に、重く淀んだ何かが沈殿していくのがわかる。


「キバ」


彼に気が付いたシャナが、眼前に舞い降りてきた。


「無事だったのね」
「……ああ。すまない。助けに来たつもりが、逆に助けられた」
「いつも、お前の助けが必要なわけじゃない。困った時はお互い様って言ったのは、お前だったでしょ?」
「……はは、そうだったな」


乾いた笑い声を漏らすキバだが、そこにいつもの覇気は皆無だった。
シャナは躊躇いがちに、口を開いた。


「……ねぇ、キバ、さっきどうして――」


シャナの問いは、最後まで続かなかった。


『!!』


キバとシャナが、同時に身構える。


瓦礫の山が、蔓の柱によって巻き上げられ、山吹色の光球が飛び出してきたからだ。
光球の中から出てきたのは、やはり『吸血鬼』を携えたソラトと、兄の首に腕を絡める形で寄り添う、ティリエル。


「あれだけの攻撃を喰らって――」


驚きつつ、シャナは『贄殿遮那』を向け直した。


「ボクのだ! ボクの『にえとののしゃな』を返せ!」
「……まだそんなことを」
「――渡して、ぃた――だきま、す――わよ」


紡がれたティリエルの声には、遠くから聞こえてくるような違和感があった。
不審に思ったキバとシャナは、彼女に目を向ける。




「――!!」




二人とも、言葉を失った。
ティリエルの身体の輪郭は、半分ほどもソラトと重なり、まるで陽炎のように、儚い姿となっていたからだ。


「おまえ……まさか、その周りの力は……!」
「“自分を構成する”存在の力……!?」


霞がかかった声で、ティリエルは答えた。


「『揺りかごの園』が――崩れたぃま――ぁの――とんでも、なぃ、一撃――防ぐこと――私のぉ兄様――治す――と、両方行ぅに――、“存、在の力”――足りな、か――たんですもの――」


二人は呆然と、彼女の言葉の意味を理解させられた。


堪らず、キバが問う。


「本質を構成する領域の力は、削ればもう戻らないんだぞ?」
「知って――ぃます」
「もう、元の姿には戻れないんだぞ?」
「知って――ぃます」
「君は――死ぬんだぞ?」
「知って――ぃます」


ティリエルはただ、優雅に笑うだけ。


いつの間にか、キバは彼女に魅せられていた。
容姿にではない。彼女の奏でる――心の音楽にだ。


「……なぜ、そこまでするの? 私なら、自分たちを守るための自在式が破綻したら、敵なんか捨てて、迷わず逃げる」


シャナの真っ当な疑問にも、ティリエルの音楽は動じなかった。
ただ純粋に“一つの想い”だけを弾き続ける。


「何度も――ぃって、差し上――たはずです――けれど?私は、ぉ兄様――望み――叶える――守る、それが私――全て。私の――ぉ兄様――望み――まだ、叶って、ぃなぃ――だか、ら――私――叶える――邪魔を、す――者から、ぉ兄様――守る」




理由は、ただそれだけ。


兄のために、自らをも差し出す。
誰に何と言われようと、その“想い”だけは否定させない。


(そうだ。この子が奏でる想いは――)


キバは思い出した。
彼女のあまりに悲しくて儚く――だが、この世の何よりも純粋で、美しい音楽の名前を。
シャナがキバの心を代弁するかのように、確かめる。


「それが、お前の……?」


ティリエルは、シャナに初めて、嘲りや侮蔑ではない、本当の笑顔を向けた。





「そう、愛」





迷い無き想い。ティリエルの音楽を聞き終えたキバは、言い知れぬ切なさを感じていた。


「ソラト、ティリエル」


もう二人には届かないと知りながら、それでもキバは呼び掛けた。


「違う形で、会いたかったよ」
「……?」
「――『お前達が仲良くしてる姿が、羨ましかったんだけどな』」


覚えのある言葉に、霞んだティリエルがハッとした表情を浮かべる。


「……そぅ、でしたの。“ぁなた”が――キバ、だった――ですね」


納得して、ティリエルの微笑に悲しみが混じった。


「申し訳、ござぃませんでした――剣を止めて――くださった、のに」
「謝るなよ。君が大切に思うのはソラトで、俺が大切に思うのは、君達の糧である人間達だ。決して相容れず――戦うことでしか、俺と君達は分かり合えない」


キバが、突き放すような口調で言った。




「――終わらせよう、“愛染兄妹”。あってはならない出逢いだったんだ」
「――ぇえ」




二人の間で交わされたそれは紛れもない、決別だった。


「ティリエル、はやくほしいよ!」
「ぇえ、ぇえ、――分か、って――すわ、ぉ兄様」


妹の様子を気遣うでもなく、ソラトはただ自らの欲望を満たそうとする。
シャナは我慢出来ず、馬鹿な質問だとわかっていながら、


「なんで、そんなやつに」
「理屈じゃないんだよ。“どうしようもない”んだ」


ティリエルの代わりに、キバが答える。


「ぁなたにも――この、どぅしよぅもなぃ――気持ち、感じ、させてぁげ――しょうか?」
「――えっ」


微笑を崩さず、ティリエルは告げる。


「ぁの橋に、ぃま――しょぅ年が、一人――ぃますの」
「!!」


ティリエルは、顔を青くしたシャナを満足そうに見て、


「――やっぱり、ぉ兄様――橋、に――」
「うん!!」


二人を再び山吹色の光が包み、舞い上がった。


「待っ――!!」


シャナは紅蓮の両翼を羽ばたかせ追う。


「……」


シャナが飛び去って、キバは無言のまま指をパチンと鳴らす。
轟音を唸らせて、マシンキバーが自動走行してくる。座席に跨がり、アクセルを入れた。


兄妹とシャナを追い掛けながら、キバは思う。


(俺はまた、こうやって誰かの音楽を奪う)


自分が大切に思う人の、音楽のために。


(四年経った今でも、俺にはまだ分からない。何が正しいのか)


あるいは、正しさなど何処にもないのかも知れない。
――世の中はいつだって、“どうしようもない”から。
なにもかもが、理不尽に奪われ、消えていく。




(だけど、それでも俺は――)




グリップを握る手に、力を込める。




「――ああそうさ。命ある限り、戦ってやるよ」




それが俺――キバなのだから。



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  1. 2012/03/26(月) 10:36:24|
  2. 仮面ライダーキバ/BLAZING.BLOOD
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