紅蓮の牙

二次創作中心。仮面ライダーキバと灼眼のシャナのクロスを連載中。

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第十一話・メトロノーム/その想いは誰が為に.前篇

◆◆◆

「そこっ!」
「喰らえッ!」


マージョリーの火弾が、寸分違わずターゲットに叩き込まれ、イクサのイクサカリバーが、シュドナイの伸ばした虎の腕を切り捨てる。
だが直ぐ様、シュドナイの放った紫色の爆発が、二人を吹き飛ばす。


『ちぃっ』


「“全く本気を出せず”にこの戦闘力……さすがはフレイムヘイズ屈指の殺し屋だ。そこの白騎士も、人間とは思えん力を持っている。――だが、この“千変”シュドナイを倒すには弱すぎる」


イクサが切断した腕は紫色の火の粉になって弾け、また新たに、今度は右肩から、シュドナイの腕が生えてくる。


「趣味の悪い虚仮脅しね、“千変”」
「あれが、あの“王”の力なのか」
『ああ、フツー“徒”の連中は定めた姿を変えねーもんなんだがな。コイツはその場その場で姿をコロコロ変えやがるんだよ』
「文字通り、『変わりもの』というわけか。だがしかし、悪趣味なことには私も賛同するところだ」
「素の自分を常に晒している、と言って欲しいな」


煙草を吸う余裕さえ見せ、シュドナイは片腕をみるみる肥大させる。
瞬く間にそれはスーツを突き破り、中から虎の剛腕が現れた。


(……よう、マージョリー。それと白騎士の兄ちゃん)


マルコシアスがグリモアから、マージョリーとイクサにのみ聞こえる声で話し掛ける。


(なによ)
(どうした、“蹂躙の爪牙”)
(ここは一旦退こうぜ)
(何?)


イクサが怪訝そうな声音になる。


(まだ闘いはこれからだろう)
(言い分はわかるがな、“千変”が只モンじゃねぇのはもうわかったろ? “愛染”の張った妙な自在法もあることだしよ、ちぃと体勢の立て直しってやつさ)
(――む、確かに一理あるが……お前たちはそれでいいのか?)


逆にイクサが聞き返す。しかし、返事は余りにもあっさりしたものだった。


(……そうね)
(……?)


それにイクサは違和感を覚えた。
二人の付き合いはほぼ皆無に等しい。
だが、自分が戦った時のマージョリー・ドーは、こんなに気軽さで闘いから身を退くような人格ではなかった。


むしろ、誰が止めようと闘いを求める戦闘狂……というイメージである。


――何か、理由があるのだろうか?
イクサが勘繰る間に、マルコシアスが話を進める。


(つーわけよ。付き合わせちまうが……悪ぃな、白騎士の兄ちゃんよ)
(いや、私は構わない。敵を倒すのも重要だろうが、状況の把握が必要なのも確かだ)
(決まりね。注意を引いたら、地下に逃げるわよ)


言うが早いか、群青の炎がマージョリーを中心に回りだし、刹那、まばゆい閃光が通りを包む。


「ぬっ!?」
『イ・ク・サ・ナ・ッ・ク・ル・ラ・イ・ズ・ア・ッ・プ』


目眩ましから、火弾とイクサの必殺技『ブロウクンファング』の衝撃波がシュドナイを捉えた。


「くっ!!」


背中から生やした蝙蝠の翼を防御にまわし、マージョリーとイクサの攻撃を凪ぎ払う。
――が、注意を外した僅かの隙に、マージョリーとイクサは砕いたマンホールの下へと逃げ去っていた。


「――まさか『弔詞の詠み手』が逃げを打つとは」


手際の良さと、僅かの呆れを込めて、シュドナイは異形の翼を引っ込めた。


「それにあの白騎士も中々やる。舐めてはかかれんな」


――しかし。
ふと、シュドナイは顎に手を当てる。


(――異形を討つ白騎士、か)


はて、何処かで聞き覚えがある噂だ。


(ババアに聞いたのは確かなんだが……いつだったかな)


確か『大戦』の頃だった筈だ。
フレイムヘイズ側に与し、同胞を幾人も討滅したとされる『白い騎士』の話。


「……考え過ぎか。あの騎士は人間で、あれは四百年も前の話だ」


意味のない考察を止め、シュドナイは、ぽっかりと口を空けた地下への穴を見下ろした。


◆◆◆


「っせい!!」
「甘いわっ!!」


キバが拳を振るうと、ムースファンガイアは剣の腹でそれを防ぐ。


「ぬうんっ!!」


直ぐ様剣が、キバの鎧を切り裂く。


「がっ!」


鎧から火花が散る度に、キバが仰け反っていく。


「どうした! その程度か!」
「うるせぇよっ!」


キバは右足のヘルズゲートで、剣の連撃を受け止め、そのまま腕ごと剣を蹴り上げた。


「だりゃあっ!!」


機を逃さず、渾身のパンチを叩き込む。


「ぐっ……、ふん。腐っても王の兄弟か」


殴られた部位を見下げ、ムースファンガイアは呟く。


「しかし解せんな。何故『黄金のキバ』にならない?」
「……」
「私の力が分からぬ馬鹿でもあるまい。何より、私を滅した力は、『黄金のキバ』のものだったはずだ。その力を持った貴様を倒さなければ、私の復讐の意味は薄れてしまう」
「……うっせぇな。こっちにも事情があんだよ」


出来ることなら、とっくの昔にそうしている。
いや、『黄金のキバ』どころか、通常のフォームチェンジすら儘ならないのだ。


(タツロットはあのヤローに“盗まれたまま”だし、次狼達は平井のとこだし……畜生、意外にピンチだな)


――まぁ。


(やるしかないんだけど、なっ!!)


再びキバが駆け出したのを見て、ムースファンガイアは、


「……まぁいい。出し惜しみをするなら、それも構わん。その判断を後悔して死ぬがいい!!」


落とした剣の代わりに、右手から紫の波動を撃つ。
近くの地面が爆発したが、怯まずキバは突き進む。


――しかし、キバの狙いは攻撃では無かった。


「ハッ!」


キバはムースファンガイアを、タイミングよく飛び越える。


「何っ!?」


キバはムースファンガイアの後方に乗り捨ててあったバイク、マシンキバーに乗り込んだ。


「ド凄いのが来るぜぇ~?」


ニヤリと笑うキバットに、キバはベルトのケースから黄色のフエッスルを引き抜き、口にくわえさせる。


『ブロンブースター!!』


キバットは軽快な音色を吹き鳴らした。


◆◆◆


現在無人のキャッスルドラン。
廊下の明かりに次々と火が灯り、その奥にある影を照らし出す。
黄金の彫像はドランポッドに包まれ、キャッスルドランから飛び出していった。


◆◆◆


空の彼方から飛来した黄金の彫像『ブロン』はキバの頭上で二つに分かれ、マシンキバーのフロントと後方のエンジン部分にジョイントした。


――『ブロン』。
その昔、著名な魔術師が製造したとされるゴーレムという名の人造モンスターだ。
内部に巨大な魔皇力を宿し、融合したもののポテンシャルを拡大に上げる力を持っている。


――ブォン、ブォン!
威嚇するかのようなアクセルを鳴らし、後方のマオーブーストエンジンが爆炎を吐き出す。
それを推進力に、マシンキバーはムースファンガイアに特攻をかけた。


「! くっ!!」


横っ飛びにそれを回避する。


「逃がすかっ!!」


即座にマシンキバーを反転させるキバ。
車体をウィリーさせ、反転した勢いのまま、先端のブレイカーホーンでムースファンガイアを跳ね飛ばす。


「ぐおっ!!」
「よし!」


地に転がるムースファンガイアへ、だめ押しの突進を加える。


「くっ、舐めるなよキバ!!」


だが、ムースファンガイアは直ぐにダメージから復活する。
猛スピードで迫り来るマシンキバー。


「っはぁ!!」


ムースファンガイアはギリギリのタイミングでマシンキバーを再び回避。
更には、紫色のエネルギー弾を、乗り手であるキバの左肩に喰らわせた。


「うぁっ!」


危ない。
ダメージは浅いが、バランスを崩されかけた。


(やるな。ブロンブースターのスピードにまでついてくるか)


やはり、一筋縄ではいかない。


(――ヤツの言う通り、出し惜しみは無意味だな)


キバは再び、マシンキバーのアクセルを入れる。


「バカめ! 同じ手が何度も通用すると思うか!」


今度は完璧にタイミングを合わせ、ムースファンガイアはエネルギー弾を乱射した。
耳を貫く轟音と共に、マシンキバーを駆るキバへ、弾丸は寸分違わず命中する。


――乗り手を失ったマシンキバーが、虚しく横転した。


「――ッ、ククッ、ハハハハ! 最後は無様な散り様だったなぁ、キバ!」


やった。ついに、黄泉の淵から這い戻ってまで、果たすべき復讐を完遂した。
達成感に、口から狂笑とも言える声だけが飛び出してくる。


(クックッ、手土産はこれで十分だろう、何せキバの首だ。これで“我が主”の元での私の地位は磐石なものにな――)


急に、ムースファンガイアの笑い声が小さくなっていく。


目の先は、横転したマシンキバー。
その座席には――。


(キバがいない!?)





「同じ手なんて使うかよ、ばーか」





――ザンッ!!


ムースファンガイアがその声に気付いた時には、もう彼の身体は叩き斬られていた。


「がふッ……!」


斬られた箇所を抑え、よろめくムースファンガイア。


(私の攻撃の粉塵を目眩ましに、バイクを足場に飛び上がっていたのかッ……!)


つまり、マシンキバーは囮。
注意を散漫にさせるための策。


「だ、だが、有り得ぬ! 私の肉体を、素手で砕くなど……」
「素手じゃあな」


キバの手には、いつの間にか一本の剣があった。だが、ガルルセイバーではない。
封絶の中にあろうとも、高貴な輝きを失わない、美しき黄金の魔剣。





「ザンバット……ソードだと!?」





魔皇剣、ザンバットソード。
ファンガイアのキングに脈々と受け継がれてきた宝具であり、キバフォームでも扱うことが出来る。
――無論、ファンガイアの外皮と言えど、この剣の前では紙切れ同然。


「馬鹿な!? その魔剣は、貴様のような出来損ないが扱える代物ではない!」
「四年前まではな。あれから俺が、コイツを扱う努力を怠ったとでも思ったか?」


そう、四年前の奏夜は、ザンバットソードを使用すると、剣に宿る邪悪な意思に操られてしまっていた。制御するには、ガルル、バッシャー、ドッガが融合した幻影モンスター『ザンバットバット』が必要不可欠。
だが、奏夜はこの四年で、魔皇力の扱いにも慣れ、この剣をザンバットバット無しでも使えるようになっていたのである。


「――急所は外してある。お前には聞きたいことがあるからな」


キバはムースファンガイアを見下ろす。


「お前を蘇らせたのは誰だ?」
「……」
「再生態が意思を持ったまま蘇るなんて聞いたことがない。今伝わる魔術にも、そんなものは存在しない」


あのビショップでさえも、再生態に意思を持たせることは不可能だった。


「――誰が、こんな真似をした?」


ザンバットソードをムースファンガイアの首筋に当てる。
ムースファンガイアはしばらく沈黙し、やがて唸るような声を絞り出す。


「……貴様らに、勝ち目はない」
「?」
「黄金のキバも、サガも、青空の会の戦士も、闇のキバも、全てが無に帰る」
「何を言っている。俺の質問に答えろ」
「ハハハッ! 何もかも終わりだ! 人間は駆逐され、再びファンガイアが全ての頂点に立つ!」


ムースファンガイアは狂ったような笑いを止めようとはしない。
まるで、それが自分に残された唯一の感情であるかのように。


そうだ。勝てずともよい。
ただ、キバに絶望を与えられれば。
感情に支配され――彼は憎むべき敵に、その事実を告げる。





「貴様らが勝てるものか……我が“新たな主”に……!」





「おいおいダメだぜ。勝手なことして貰っちゃァ」


◆◆◆


一瞬の出来事だった。
ムースファンガイアの身体を、何処からともなく投擲された、ステンドグラスの剣が刺し貫いたのである。


「ぎっ、グガアァァァァ!?」


聞くに絶えない断末魔の悲鳴を上げるムースファンガイア。


「なっ!?」


どういうことだ。
キバは勿論、ザンバットソードを突き立ててはいない。
だが、全く攻撃が認知出来なかった。


「ったくよ―、せっかく蘇らせてやればコレだもんな」


戦場にはあまりに似つかわしくない声。
発生源は、空から。


「っ!?」


キバが咄嗟に上空を見上げると、そこには黒い翼をはためかせる一匹のファンガイア。


「いやはや、ドラグの読みは大正解か。『雑魚ファンガイアは感情に任せて、余計な事を口走る』か。どんだけ先を読んでんだっつーハナシだよ」
「蝿の姿……。そうか、お前が名護さんと戦ったっていうファンガイアか」
「おー。アンタがキバの継承者か。戦い見させて貰ったぜ。中々やるじゃん


フレンドリーに手まで上げて――ベルゼブブファンガイアは着地する。


「がっ、あ……ゼ、ゼブ様。な、何を!?」
「あん? 決まってんだろ、制裁だよせーさい。ただの捨て駒の癖して、俺達のことバラそうとしたヤツへのな」
「す、捨て駒?」
「え、何? まさかお前、本気でキバに勝てると思ってたワケ? あはははは!! いい歳こいて何言ってんだよ!」


腹を抱えながら、ベルゼブブファンガイアは、ムースファンガイアに刺さった剣に手をかける。


「あー、笑った笑った。んじゃ取り敢えず、ご苦労さん♪」
「ま、待ってくれ! も、もう一度――」


――ドシュッ。


嫌な音を立てて、剣が引き抜かれた。
続けざまに、ムースファンガイアの身体はガラスとなって砕け散る。


「はーい、お仕事おしまーいっと」
「……」


何の感慨もなく、同胞を殺したベルゼブブファンガイアに、キバは戦慄する。


(ヤバい、あの龍のファンガイアの時も思ったが、こいつも絶対ヤバい)


本能的に、キバはそれを理解した。


「……」
「ん? キバ、何かずいぶん口数少なくなったな」
「目の前で他人が消えて、気分良くなるヤツがいるか?」
「はぁ? 何を今更。お前今まで、何人ファンガイアを殺してきたんだよ」
「――っ、一緒にすんな! 俺は好きでファンガイアを殺してるんじゃない!」


それが――自身の背負った責任だからだ。


「もういい、話していても苛々するだけみたいだな」


ザンバットソードの切っ先を、ベルゼブブファンガイアに向ける。


「単刀直入に聞くぞ。お前の目的は何だ? 今みたく、俺を消しにでもきたのか」
「……なーんかイクサといいお前といい、この街には血の気が多いやつばっかだなぁオイ。たださっきのファンガイアの始末に来ただけって言ったっしょ」


ベルゼブブファンガイアはおどけるように肩をすくめる。


「ドラグ――お前が会った龍のファンガイアの事な。あいつも言ってたんじゃないか? 俺達は“まだ”お前らと闘う気はねぇんだよ」
「それを信じろってか?」
「それはご自由に。――ってか、アンタはこんなことしてるヒマないんじゃないの? あのフレイムヘイズのガキとかさ」
「……」


確かに、そうだ。
次狼達三人を向かわせてはあるが、不安は拭えない。出来れば、すぐにでも加勢に行きたいところだ。
――何より、チェックメイトフォークラスの敵と戦うのに、『黄金のキバ』が無いのはキツい。


「……行け。だが、次は容赦しねぇぞ」
「ではお言葉に甘えて」


ベルゼブフファンガイアはわざとらしく頭を下げ、背を向ける。


――が、


「あ、そうそう。一ついいか?」


思い出したように振り向く。




「アンタさぁ、何でザンバットソード使えんの?」




――急に、キバが閉口した。


「ザンバットソードは、修行したからってどうこうなるモンじゃねぇ。何せキングに伝わる魔剣だ。アームズモンスター無しとなりゃ、問題になるのは技術じゃなく、血筋のハズだろ?」


ややあって――キバは口を開く。


「……別に。使えたから使えた。それだけだ」
「ふーん。ま、シラを切るならそれもいいけどさ」


んじゃな。
それを最後に、ベルゼブブファンガイアは光となって消えた。


「……」
「……おい奏夜、大丈夫か?」


立ち尽くすキバに、キバットが気遣わしげに声をかける。


「……ああ、問題ねぇよ」
「本当か?」
「しつこい。さっさと平井のトコ行くぞ」


淡々と答えて、キバもまたマシンキバーに跨がり、新たな戦場へと向かう。




『仮面ライダーキバ』紅奏夜vsムースファンガイア。



ハンディキャップを背負いつつも、勝者、『仮面ライダーキバ』紅奏夜。


◆◆◆

『はぁ……』


とある廃ビル、宝具『玻璃壇』を前にして、三人の人間が深い溜め息をついた。


「マージョリーさん、大丈夫かな……」
「名護くん、大丈夫かな……」
「佐藤、恵さん、そのセリフもう五度目」


佐藤、田中、恵、三人の待機組である。


「繰り返したくもなるわよ。いきなり御崎市を変な霧が覆っちゃって、名護くんとあの女の人が戦いに行って、避難した先には怪しいビルで、もうワケわかんないわ」


恵は何だか心配のあまり、苛々し始めているようだった。
ぎすぎすした雰囲気になるのはゴメンなので、佐藤と田中は話の矛先を反らすことにした。


「あの、恵さん。旦那さんはどうして、マージョリーさんについてったんですか?」
「?」


質問の意図が分からず、恵は首を傾げる。


「えっと、つまり旦那さんが、どうしてマージョリーさんと一緒に戦えるのかってことです」
「そうそう。それに恵が“紅世”のことを知ってるのも不思議ですし」
「……ん―」


果たしてどう答えたものか。
恵は思考を巡らせ、当たり障りの無い答えを返す。


「私が“紅世”のことを知ってるのは、ある人に教えられたからよ。提供者は企業秘密。名護くんが戦いに行けるのは……」


恵はそこで、悪戯っぽく笑う。


「彼がヒーローだから、かな?」
『ヒーロー?』


今度は佐藤と田中が首を傾げた。


「啓作くんと栄太くんは知らないだろうけれど――四年前のこの街にはね、三人のヒーローがいたの。人知れず、仮面で正体を隠して戦うヒーローがね」
「四年前っていうと……失踪事件が流行ってたころですよね?」
「あら啓作くん、よく覚えてるわね。そう、その失踪事件のことよ。で、一連の事件の犯人である怪物達を倒してたのが、三人の仮面のヒーロー」
「……?」


佐藤と田中の頭に、どんどん疑問符が浮かんでいくのを見て、恵は苦笑しつつ、


「今はそんなに深く考えなくていいわ。名護くんが帰ってくればすぐわかるわよ」


――まぁ、あなた達の近くにも、そのヒーローの一人がいるんだけどね。
恵が彼らの担任の顔を思い浮かべたところで、フロアの入り口からダルそうな声が響いた。


「ふーん、私のいない間に随分仲良くなってるのね」
「あ、マージョリーさん!」
「姐さん、お怪我は?」
「あるわけないでしょ、誰に言ってるつもり?」
『かーなり、ヤバかったがな、ヒッヒ。白騎士の兄ちゃんがいなけりゃどうなってたかね』
「お黙り、バカマルコ」
「白騎士? 姐さん、誰の……こ、と」


田中の声がどんどん小さくなる。佐藤も絶句していた。


マージョリーとマルコシアスが言い合う後ろには、二人にとっては見慣れぬ白い姿、イクサが立っていたからだ。


「ちょ、ちょっとマージョリーさん、なんか知らない人が立ってるんですが……!」
「名護くん!」


佐藤の言葉を遮り、恵がイクサに駆け寄る。


「大丈夫だった?」
「ああ、問題ない。恵も大事ないようだな」


イクサは佐藤と田中に軽く頭を下げる。


「佐藤君に田中君、ありがとう。妻が世話になった」
「――あっ、その声! それに、名護さんって……!」
「ちょっ、何なんですか、その白い鎧!」
「すまないが、質問はまた後にしてくれ。今は“徒”への対策を練らなければならない」


名護の変身に驚く佐藤と田中をイクサが制している間、マージョリーは調査の準備を始めていた。


「『玻璃壇』起動。んで、トーチのみの表示っと」


部屋中央に置かれた、御崎市の精巧なミニチュアに、不気味な灯りが点った。


「どうだ、『弔詞の詠み手』。あの三人以外に敵は?」
「今んとこ、それらしい気配はないわね」
「……その三人って、この前の“屍拾い”ってやつよりも強いんですか」


佐藤が心配そうに聞く。


「そーね。実害では比べ物にならないくらい厄介よ。だから状況把握のために一回逃げて来たんだけど……」


佐藤と田中は、その言葉に微妙な違和感を感じ取った。


(“逃げて来た”?)


覇気――憎悪――燃え盛るような闘争心、圧倒的なまでの力を持つ、自分たちの憧れが、急に霞んでしまったような気がしたのだ。


二人の危惧をよそに、話は続く。


「御崎市全体を覆っている、この奇妙な模様は何だ?」
『このデケー封絶を維持するためのモンだろーよ。やたら配列が装飾だらけだけどな』
「たぶん、式の本体を隠す偽装がほとんどね。式の効果やら、連中の目的を探すなら、直接目でみるしかなさそうだわ」
「地道に潰していくしかないということか……」
「? 名護くん、ここで動いてる点はなにかしら?」


恵が指差す先には、確かに御崎市を猛スピードで移動する点がある。


「ホントだ。姐さん、これってトーチと人間しか映さないんですよね?」
「そうよ。――たぶんキバでしょうね、これは」
『キバ?』
「この前のいざこざで、屋上で戦ったヤツのことよ。チビジャリをぶっ飛ばした後、変な影が出たの見てたでしょ」


マージョリーは軽く溜め息をついて説明を加えた。


「キバ……そうか、彼はハーフファンガイアだから、これにも映るのか」
『キバの兄ちゃんに関しちゃ、放っといてもいいだろ。あの兄ちゃんは、勝手に動く方が性に合うタイプだろうしな』
『確かに』


キバ――紅奏夜を知る、イクサ、マージョリー、恵の答えがシンクロする。


「それで、マージョリーさん、その“徒”たちが今どこにいるか、この前の気配を探るジザイホーとかで探ったりはしないんですか?」
「馬鹿。こっちが気配察知なんか使ったら、逆に相手に場所を報せることになるでしょうが。今はこっちが狩られてる立場なのよ? せいぜい隠れて、この封絶もどきをぶち破る算段をしないと」


狩られてる。
隠れる。


それらの単語はあまりに、マージョリーとは縁遠いものだ。
田中が、おそらく佐藤も思っただろう、不安な気持ちを声に出す。


「……なんか、弱気ですね、姐さん」
「弱気? ……誰に、言ってんのよ」


僅かに声を揺らすマージョリー。


「……」


イクサは一連のやり取りを、冷静に見つめていた。


――率いる者は、率いられている者のために、決して揺らいではならない。


(それをわかっているのか? それをわかって、彼らを選んだのではないのか? 『弔詞の詠み手』)


イクサは、やるせなさに苛まれる佐藤と田中に心の底から同情した。
そして、彼ら二人のために、イクサは彼女に問いかける。


「『弔詞の詠み手』」
「何よ」
「私は戦うつもりだ。さっきも、逃げずに戦い、あの“千変”に勝つ気だった」
「だから何を……」




「戦う気があるのか? 君に」




「――っ」


マージョリーが顔を歪め、閉口する。


「力を持つ者には、様々な責任が伴う。力を高めること。力を正しく使うこと。力を持たない者を全力で守ることも、またしかりだ。――だが今のキミは、力の使い方を見失っている」


イクサは的確に、マージョリーの不調の原因を見抜いていた。


「……っ」


思わずマージョリーは、握り拳を作る。


(わかってんのよ、そんなことは)


燃えたぎらせるものが、ない。
あれだけ渦巻いていた“徒”への殺意も、今は消えている。
『トーガ』も纏えず、即興詞さえも作れない。


なんと――無様な話か。


「……回りくどいわね。何が言いたいのよ。アンタは」
「足手まといになるなら、戦いに出るのは止めなさい」


シンプル、それ故にイクサの言葉は、マージョリーの心に深く突き刺さった。
怒りが生まれ、だが一瞬で消える。


こんな――言い返すことさえも、出来ないのか。


佐藤、田中が一触即発の雰囲気に冷や汗を流し、恵とマルコシアスは無言で、事態を静観する。


――ふと、佐藤が二人の険悪さを直視出来ず、『玻璃壇』に目線を移した。


「マ、マージョリーさん?」
「……なに」


不機嫌そうではあったが、彼女は一応受け答えはした。


「『玻璃壇』のここ……トーチが動いてます」
『あん?』
「なんですって?」


その場にいた全員の目が、『玻璃壇』に向かった。


◆◆◆


キバが戦った場所とは、別の大通り。
こちらでも白熱した戦いが繰り広げられていた。


「っだあ!」
「ヴルァァ!」


ビルを平行に駆け上がる、シャナの炎剣とガルルの爪が、ソラトへ牙を剥く。


「ひらーり……」


だがソラトは、二人の攻撃を難なく『吸血鬼』で阻み、圧倒的なエネルギーの波をもって押し返す。


「くっ!」
「ちぃっ!」


シャナとガルルが別のビルに飛び移ると、
さっきまでいたビルが、力の奔流を受け止め切れず、倒壊する。


「なんて滅茶苦茶な奴!」
「パワーだけなら力にも劣らないな……」
「っふふ、余所見をする暇は無いのではなくて!?」


ビルに貼り付く二人に、ティリエルの操る蔓が襲いかかる。


「ラモン、頼む!」
「了解っ! ――ぷぅっ!」


地上にいたバッシャーの口から、しゃぼん玉のような水球が発射される。
勢いのついた水球達が、蔓を引き裂いていく。


「くっ、これならどう!?」


ティリエルは蔓の標的をバッシャーに変える。


「むだ、だ。――っふん!!」


ドッガがバッシャーを庇うように立ち、拳で地面をブチ砕く。
隆起した瓦礫の盾は、蔓の攻撃をすべてを弾く。


「――すごい」
「蔓は無視しろ、ラモンがなんとかする。俺達はあのガキを仕留めるぞ」
『うむ。手の内が分からぬ以上、一撃で決めるべきだろうな』
「わかった」


頷いて、シャナは足の裏を爆発させる。
ガルルも自らの跳躍力を用い、シャナに負けず劣らずのパワーで飛び出す。


「させませんわ!」


蔓が再び、行く手を阻む。


「無駄だよ、――ぷぅっ!」
「フンガッ!」


バッシャーの水球と、ドッガが投げた岩石弾が、壁を蹴散らす。
二人の作った勝利への道に、シャナとガルルは勢いを殺すことなく飛び込む。




赤と青の影が、ソラトに飛び掛かった。


「あ―― 」


ソラトの声が、中途に途切れる。
――刀と爪が煌めき、真正面の目標を一閃した。




「キャアアアア――――!!」


ティリエルの叫びが虚空を貫く。
だが、シャナとガルルは止まらなかった。


(次で終わりだ!!)


二人は既に目標をティリエルへと移していた。


ソラトの残骸を飛び越えて、次なる敵を滅すべく飛ぶ。
だが、


「すごい!!」
『っ!?』


来るはずのない方向からの声に、シャナとガルルは驚愕する。


そこには、シャナの炎剣により黒炭と化したはずのソラトがいた。
ただ――山吹色の蔓が間に合わせの身体を作っているという、間に合わせの姿ではあったが。


「炎髪灼眼、離れろ!!」
「っく!?」


ガルルの警告に、ほぼ反射的に身体を動かすシャナ。
爆発による加速で距離を取ると、ガルルもそれに追い付き、バッシャーとドッガもそれに続く。


「それが『にえとののしゃな』のちから? ほのおのけんだ!」


無邪気にはしゃぐソラトの身体は、急速なスピードで回復しつつあった。


「再生……?」
『馬鹿な、早すぎる』
「何かの、自在法」
「確かにおかしいね。あそこまで深手を負ったら、いくらなんでも再生なんて……」
「いや、僅かだが、存在の力の流れを感じる」


ガルルの指摘に、シャナもそれに気付く。


「そうか……!」
『この巨大な結界はそのためのもの、ということか』
「そうだ」


無意味に巨大な異界の力は、封絶のみではない。彼らに存在の力を供給する能力も兼ね備えているのだ。


「なら、この結界を破らなきゃ、再生は続くね」
「だが破ろうにも、自在法の構造まではわからんな。“天壌の劫火”、何か策は?」
『いや、看破しようにも、我らにその類いの自在法は使えぬ。与えられた情報を分析するしかあるまい』
「……やれやれ。努力不足だな。『炎髪灼眼』」


あからさまに、ガルルは落胆の溜め息をつく。


「魔神の契約者なら、それくらいの自在法は会得しておけ」
「う、うるさいわね! ……その手の自在法は、得意じゃないのよ」
「すききらい、よくない」


と、微妙に緊張感の抜けた会話の間に、ソラトは破けた鎧の代わりに、ティリエルが用意した新しい鎧を身に纏っていた。


「新しいお洋服に、新しい鎧……はい、出来ましたわよ」


最後に彼女は、ビルに突き刺さった『吸血鬼』を蔓で絡め取り、兄に差し出す。


「剣は、もう少しの間、これで我慢してくださいね。――あの剣を、すぐに、いただきますから」
「うん!」


ソラトが剣を無造作に取り上げ、片やティリエルはシャナ達に、負の感情をすべて叩き込んだような声で、


「許せない……私のお兄様に傷をつけた報い、その命で償って貰いますわよ」
「ふん、今のうちに言ってなさい」


シャナが、二人のやり取りへの不快感を口にし、再び大太刀を構える。
と、そこでガルルが、何か気が付いたように耳打ちする。


「炎髪灼眼。あの蔓を見ろ」
「蔓? あの女が操ってるヤツ?」
「ああ。さっきの戦いを思い返して気付いたんだが、あの蔓は一定の巨体に固まり、“愛染他”の意思に応じて起動している。しかし、そのリモートコントロールの中で、さりげなく、常にある一方向を塞ぐよう動いているんだ」
「……その方向に、あの自在法の種がある?」
「確証は無いがな。状況の打開策にはなるかもしれん」


シャナはもう一度、愛染兄妹の身の回りを、具に観察する。
――確かに、ソラトへのエネルギー供給は、蔓を媒体に行われ、ケーブルの如く一つの方向へ向かっている。


「――わかったわ。他にヒントも無いし、お前の案に乗る。私が飛び込むから、あいつら抑えるのは任せていい?」
「僕はいいよー♪」
「おれも」
「小回りが効くのはお前だろうからな。やむを得まい」


ガルル、バッシャー、ドッガもそれに同意する。


「それともう一つ、お前、使える武器は刀だけか?」
「? ううん。武器なら大抵のものは使えるけど」


元々、フレイムヘイズのための修行では、様々な武器の扱い方を学んできていた。
今では刀が一番扱い易いが、あくまで最初に手に入れた武器が『贄殿遮那』だったというだけのことで、他の形態の武器も、使おうと思えば使える。


「そうか。ならば、少しは突破の確率が上がるな」
「お話は済んだかしら?」


ティリエルが挑発的に笑う。
闘争心をたぎらせた眼光でそれに応じ、四人は再び――今度は一丸となって駆け出した。
浮き上がる二人の脇を走り抜け、そこで四人は散り散りに走る。


「あら、不恰好ですこと。数が多ければいいとでも思ったのかしら?」


ティリエルが指を走らせ、四人を追う形で蔓を操る。
狙いは、一番機動力に優れたシャナ。


「っはぁ!!」


一喝、炎で蔓を凪ぎ払う。


「にがさないぞ、『にえとののしゃな』!!」


ソラトがさっきのように蔓を滑りながら、シャナに迫る。


「あぶ、ない!」


近くを走っていたドッガの身体が、紫に輝く。
紫のオーラはドッガを包み、光球となってシャナの手元へと飛んでいく。


「わ! な、何!?」


見れば、シャナの手には魔鉄槌『ドッガハンマー』が握られていた。


『つかえ。おれ、がんじょう』
「っ!」


一旦『贄殿遮那』を夜傘にしまい、シャナはドッガハンマーを両手に持った。


「っだあ!」


スイングされたドッガハンマーは、ソラトの腹部に重厚な衝撃をブチ込んだ。


「うぎゃっ!」
「お兄様!」


吹っ飛ばされたソラトにティリエルが駆け寄る。


「うっ、重たっ、キバはこんなの振り回してたのね……」
『いいから、おれをおいて、はやくいけ』


ドッガの言葉に、シャナは直ぐ様、ドッガハンマーを放り、走り出す。
足止めにはなったか。シャナはそれに期待するが、その見積りは甘かった。


「逃がしませんわ!」


シャナの行く手を、四方八方からの蔓が覆っていく。


「いかん、完全に道が塞がれるぞ」
「お姉ちゃん、僕を使って!」


見れば、今度はバッシャーが光球となって飛んでくる。
新たに来た武器は、魔海銃『バッシャーマグナム』。


「銃の扱いはそんなに上手くないけ、どっ!」


――バァンッ! バァンッ!


そう言いつつも、シャナは肉眼でバッシャーマグナムの照準を合わせ、蔓を的確に撃ち落とした。


『なんだ。お姉ちゃん、結構上手いじゃん♪』
「ありがとっ!」


役目を終えたバッシャーにそう答え、シャナは足の裏を爆発させて、スピードを維持しつつ、ゴール目掛けて走る。


やがて――、


(あった!)


少し先に見える、コの字のマンションの中庭に、奇妙な山吹色の花が咲いていた。
あれが、自在法の仕掛けを担う、存在の力を集める燐子か何かだろう。


だが、もう少しというところで、ソラトとティリエルが追い付いてきた。


「き――ん……」


ソラトはティリエルに支えられながら、


「――がぁん!」


気の抜けるような口調で、『吸血鬼』を降り下ろす。


「っく!」


即座に『贄殿遮那』を取り出し、攻撃を受け止める。
ダメージは無いが、道は二人によって封鎖された。


(あと少しなのに)


舌打ちするシャナの手に、再び青い光球が飛んできた。
その光は剣の姿を型取り、魔獣剣『ガルルセイバー』へ姿を変える。


『二刀流は使えるな』
「勿論」


ガルルの言葉に短く答え、二本の剣を掲げる。
相変わらず、兄と身体を絡めながら、ティリエルが声を放る。


「ああ、退屈ですわ、あなた。お仲間さんとばかり話して、全然お喋りしてくれないんですもの。トモガラガニクイー、とか、ワタシノフクシュウノリユウハー、てか、なにか場を盛り上げるようなことを仰る気はありませんの?」
「……」
「もしかして、その余裕もないと?」
「……」


しばらく黙って、シャナはより一層不機嫌そうに、『贄殿遮那』とガルルセイバーを持つ手を、左右に広げて構える。



「教えたげるわ」
「?」
「おまえたちと話をしないのは、おまえたちが」


ぐっ、と踏み込む足に力を込める。


「ベタベタして不愉快だからよ!」


蹴った地面が砕けるレベルの力で、生み出された瞬発力は、シャナを難なく標的へと運ぶ。


「だぁーーっ!!」


『贄殿遮那』とガルルセイバー。二刀の猛追が、ソラトの『吸血鬼』と火花を散らす。


――ガンッ、ガンッ!!


凄まじい力で叩き付けられる剣圧は、ソラトの剛腕でさえも、やすやすとは捌き切れない。


「わっ!」


とうとうソラトの手から、『吸血鬼』が弾かれる。


「っく――!」


ティリエルが蔓を伸ばして、剣の柄を掴もうとするが――、


「いくわよ!」
『ああ、思い切りやれ!』


合図もそこそこに、シャナはガルルセイバーを、蔓目掛けて投げた。
ガルルセイバーは回転しながら、丸ノコのように蔓を切断する。


(これで、武器はしばらく使えない)


同時に、自分への対応も遅れる。
シャナは、兄妹が動きを止めた隙に、紅蓮の両翼を顕現させ、二人を上空から抜き去った。
遮蔽物がなくなった今、残るはあの花のみ。


「ふ――」


『贄殿遮那』が、彼女のイメージする魔神の炎を纏い、煌々と輝いた。




「――っ燃えろぉ!!」




大気を震わす轟音と共に、全てを灰塵へと変える火柱が、シャナを起点に燃え上がる。
怒濤の勢いで膨れ上がった豪炎は、巨大花をあっという間に飲み込み、焼き尽くした。


(これで、状況に何かの変化があるはず――)


突破口を開いた。――少なくとも、シャナはそう思っていた。




『いや、まだだ!!』
「うふ、かかった」




アラストールの鋭い声と、ティリエルの嘲りはほぼ同時だった。
しかし、気付いたところでもう遅い。


シャナが破壊した花の焼け跡へ、御崎市全体から、急速に力が供給される。
それは幾重にも重なった円形の文字列――“愛染兄妹”が仕掛けた、自在法の罠を起動させた。


「しまっ――!!」


◆◆◆


「しまった、罠か!!」
「お姉ちゃん!」
「これ、は!?」


驚くアームズモンスター達の前で、シャナは山吹色の光る自在式により、磔にされ、四肢の自由を奪われていた。


「わあ、すごいよティリエル! こんどもつかまえたね!」
「ええ、当然ですわ、お兄様。フレイムヘイズってみんな、頭が悪いんですもの」
「くっ……!」


兄妹の罵りに歯噛みし、シャナはどうにか枷を外そうとするが、彼女の力をもってしても、ビクともしない。


「着眼点は悪くなかったのですけれどね。そこの狼さんが言った通り、その花は『ビニオン』という“燐子”の一種で、存在の力の供給、放出を担うものですわ」


互いに抱き合う“愛染兄妹”が、ゆったりとシャナの眼前に降りてくる。


「ただ、あなた方の誤算はその数と仕組み。『ビニオン』は『揺りかごの園』全体で……そう、二、三十は設置してありますの。無論、壊そうとすれば、今の貴女のように、よりどりみどりの罠が発動するようになっていますわ。
一つで足りないというのなら、どうぞいくらでも壊してくださいな。……ああ!」


わざとらしく、気付いたような仕草をするティリエル。


「そういえば、最初の一つ目で、もう動けにくくなっているのでしたわね、ふふ」


歪んだ笑みを浮かべ、ティリエルは巨大な蔓を操り、シャナの腹を打った。
何度も何度も、どんどん痛々しい音が連なっていく。


「――っかは!」
「やっぱり動けないようですわね、ふふ」


悪びれなど欠片も見せないティリエル。


「では、そろそろ『贄殿遮那』を、渡していただけます?」
「ボクにちょうだい! はやく!」


しかし再び、シャナを打つ蔓が切り裂かれた。
ガルル、バッシャー、ドッガが、シャナを庇うように“愛染兄妹”と対峙する。


「おい、俺達を忘れて、もう勝利を確信か?」
「まだまだこれからだよ!!」
「俺達、たたか、える」




「あら、まだ歯向かいますの? 『ビニオン』からの供給は止められず、かといって『ビニオン』そのものを破壊することも出来ない。
それとも『揺りかごの園』内の存在の力が切れるまで、攻撃し続けてみますか?
何年かかるか、わかったものじゃありませんけれどね、ふふ」
「……」


ティリエルの言う通りだった。


(俺達に“愛染兄妹”は倒せない……ならば)


できることは、せいぜい時間稼ぎだ。
損な役回りだな、とガルルは俄に苦笑した。


その時である。




――バイクのエンジン音が、周囲の静寂に轟いた。




「な、何っ!?」
「……来たか」


“愛染兄妹”とシャナは驚愕を、アームズモンスターは歓喜を込め、戦いへの乱入者を見る。


紅のバイク、マシンキバーが、山吹色の霧から現れた。
その乗り手は、ただ一人しか有り得ない。


「――キバ!!」


最初に声を上げたのは、シャナだった。


「キバ……ですって!?」


ティリエルの声に、僅かな畏怖が混じる。
バイクを急停車させたキバに、アームズモンスターが駆け寄る。


「悪い。遅くなったな、次狼、ラモン、力」
「まったくだ。一体どこで油を売っていたんだ」
「お兄ちゃんおそーい!」
「たいへん、だった」


緊迫した状況を鑑みないやり取りに、シャナは僅かながらに安心する。


――キバなら、負けるはずがない。
そんな無条件の信頼感が、シャナの中にあったからだろう。


(私も早く、この枷を外さないと)


少なくとも、自分がこの枷を解除出来るくらいの時間は作ってくれるはずだ。


――頼りっぱなしなんて、イヤだ。
そう考え、シャナはゆっくりと、だが着実に存在の力を溜め――、




(――あれ?)




シャナが“それ”に気が付いたのは、それからすぐだった。


「………」


バイクから降りたキバが、まるで世にも恐ろしい存在を見るような様子で、“愛染兄妹”と向き合っていたからだ。


「――そん、な」


キバの声は、震えていた。
シャナは目を剥いた。こんな弱々しい声をキバが挙げるなんて、信じられなかった。


(キバが……怖がってる?)


どうしてだ。と思考を巡らせる間もなく、キバは、呆然と言葉を絞り出す。




――この世の、どうしようもなく残酷な巡り合わせに。




「お前らが……、“紅世の、徒”?」




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  1. 2012/03/26(月) 10:35:42|
  2. 仮面ライダーキバ/BLAZING.BLOOD
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