紅蓮の牙

二次創作中心。仮面ライダーキバと灼眼のシャナのクロスを連載中。

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第十話・トライアングル/つがいの愛染兄妹.前篇

「くわぁぁ~~」


早朝、奏夜は気だるそうに大欠伸をして、御崎高校へと足を進めていた。


「ねむねむ」
「何がねむねむだ。名護の早朝トレーニングも意味なしかよ」


鞄に入ったキバットが、やれやれといった風に溜め息をつく。


「しゃーねーだろ。昨日はドッジボール漬けだったし、おまけに名護さんは新しいファンガイアに会ったって言うしさ」
「ふむ。やっぱあの竜の仲間なのかね。例の蝿のファンガイア」
「さあな。分かってるのは一つだけ。あいつらは俺達を試してるってことだ」
「試すねぇ。どっちかと言えば戦力を計ってるって感じだよな。……やば。悪い予感しかしねぇや」
「今までファンガイア絡みで、一度でもいい予感があったか?」


戦うなら迎え撃つだけさ。


大した感慨もなく言い放ち、奏夜は大通りを外れて袋小路に入っていく。
この裏道は人気こそ無いが、学校への近道でもある。
物騒な世の中、カツアゲの恐れもあるが、奏夜ほどの力があれば、その心配は皆無に等しい。


「む」


ふと、奏夜は立ち止まり、自分が向かう方向とは違う道に目をやった。


「ったく、日本語喋れねえのかよ、こいつ!」
「日本語できねえなら、日本に来んじゃねえっての!」


ガラの悪い五人ほどのグループが、十代半ばの少年を蹴り飛ばしていた。


「むう」


奏夜は教職に就く人間である。
この状況下で取るべき行動は、もはや決定していた。


「――いや、そういう義務や責務じゃないか」


何というか。
ああいう光景は見ていて実に、


……不愉快だ。


奏夜は頭をがりがりと掻きながら、不条理な暴力の嵐へと足を進めていく。


「おい、そこのパッとしないモブキャラ共」


初対面の人間に対し、間違いなく最悪の部類に入る態度だった。


「あぁ?」


水を差されたことに苛ついた様子で、青年グループ達が奏夜を見る。


「よってたかってよくもまぁ……恥ずかしくねーのかよ。お前らあれですか? 触れるもの皆傷つけ、盗んだバイクで走り出し、暗い夜道の中を行く思春期ですか?」


気だるそうに言い放つ奏夜を、青年達は「なに言ってんだコイツ」みたいな目で見ていた。


「大体、今からそんな遊んでたら苦労するぜ? 髪を染めるのもマイナスだな。後々ハゲるぞ」
「わけわかんねぇこと言ってんじゃねぇよ! なんだてめブッ!?」


青年の言葉は最後まで続かなかった。
奏夜の鮮やかなシャイニングウィザードが、青年の顔面を撃ち抜いたからである。


青アザと共に、青年は地に崩れ落ちた。


「なっ!? てめえ!」
「世の中に、嫌いなものが二つある。糸こんにゃくと、間違ったことを平気でやるバカ野郎共だ」


いきり立ち、奏夜を取り囲む青年に対し、奏夜はいっそ清々しいまでにマイペースな口調で告げる。


「さぁ、お前らの罪を数えろ! ってか?」


余裕綽々の奏夜を、青年達の拳が襲った。
難なくそれを避け、一人の腕を掴み、見事な一本背負いをキメる。


「ほいっと」


唖然とするグループの隙をつき、奏夜は見事なアッパーカットを繰り出す。
ものの数分で、五人の内の四人が殲滅されてしまった。


「う、うあぁぁ!!」


危機感を覚えたらしいリーダー格の青年は、ポケットからバタフライナイフを取り出す。


「おっと」


それを見越していたのか、奏夜は右足で青年のバタフライナイフを蹴り上げる。


「なっ……!」


状況が飲み込めぬ青年をよそに、奏夜は落ちてきたバタフライナイフを器用にキャッチする。


「世間の荒波を知らん坊っちゃんには、過ぎたオモチャだ。俺を相手にするなら青竜刀でも持ってこい」


笑顔の奏夜から右ストレートを貰い、リーダー格の青年もまた、地面に沈んだ。


「やれやれ、未成年でもこんなもんを持つ時代か。世知辛ぇな」


奏夜はナイフを投げ捨てた後、暴行を受けていた少年に近付く。
びくり、と少年は肩を震わせたが、奏夜は少年を安心させるように手を差し伸べる。


「大丈夫か? 少年」


おずおずと、躊躇うように、少年は奏夜の手を取ろうとした。
――時だった。


「お兄様に――」


つかつかつか。
間隔の狭い足音が聞こえてくる。
その細い声の方を見た奏夜の顔面に――、





「気安く触れるなこのゴミ虫がぁ――っ!!」


「あばぁっ!!」





……少女の見事な飛び蹴りが炸裂した。


◆◆◆


「申し訳ありません。お兄様を助けて戴いたのに、とんだ非礼を……」
「痛てて……。ああいや、状況が状況だったし、気にすんなよ」


素直に頭を下げる金髪に高貴なドレス姿の少女に対し、奏夜は額をさすりながら答える。
少女――ティリエルのダークネスムーンブレイク顔負けのキックを喰らい、奏夜が気を失っている間に、助けた少年(こちらはソラトと言うらしい)が事情を説明してくれたらしく、どうにか誤解は解けていた。


その流れで、三人はに路地を抜けて、大通りを一緒に歩いていた。


「見たとこ日本人じゃないよな。観光か何かか?」
「ええ、そんなようなものです。少々、探しものがありまして。――もう、駄目でしょう、お兄様。私が待っていてと言ったら、ちゃんと待っていないと」


ティリエルの後ろで、ソラトが弱々しく縮こまる。
ただ、ティリエルもさして怒っているわけではなさそうで、奏夜にはむしろ微笑ましい光景に見えた。


「仲良いんだな。兄妹二人で」
「あら」


奏夜の素直な感想に、ティリエルは顔を綻ばせた。


「そう思われますか?」
「ああ、俺にも一人兄さんがいるんでな。小さい頃には色々事情があって、一緒に遊ぶ機会が少なかったからさ。だからティリエルとソラトが羨ましいよ」
「ふふ、ありがとうございます」


年相応の少女らしく、ティリエルは笑い、ソラトに肩を寄せた。
周りの何人が奇異の眼差しを向けるが、奏夜はなんら変わらず、二人を見ている。


「奏夜さんは、あまり体裁を気になさらないのですね。日本人は陰に籠ってせせこましい印象があったのですけれど」
「外面なんて飾りだろ。そりゃあ整ってるに越したことはないけどさ」


ティリエルの手厳しい評価に苦笑して、奏夜は答える。


「それが二人の趣味嗜好なら、俺が口出しできるものじゃないだろ」
「――本当に卓越した見解をお持ちですね。そういう考えの方が増えれば良いのでしょうけど」
「まったくだ」


さすがに『毎日もっと奇抜なものを見てるからさー』とまでは言えない奏夜だった。


「そうだ。ここで会ったのも何かの縁だし、この辺りを案内しようか。確か、探しものがあるんだろ?」
「いえ、そこまでお世話になるわけには。――それに」


私たちの探し物は、そう簡単には見つからないものなので。


今までとは違う、含みを持たせた言い回し。
奏夜はその違和感に首を傾げる。


「おい。ソラト、ティリエル」


だが、奏夜がその感情を処理する間もないまま、三人を呼び止める声があった。


振り替えると、一人の男が立っている。
ダークスーツをすらりとした長身に纏い、オールバックの髪に、目線を隠すサングラスという出で立ち。
あだ名を付けるならTー800だな。と、奏夜はいらない判断を下した。


「シュドナイ! あなた、いったい何処にいたの!」


ティリエルがさっきまでの和やかさを消して、男に食って掛かった。
シュドナイと呼ばれた男は、ゆったりとした口調で彼女に対応する。


「そうピーピー喚きなさんな。勝手に何処かへ行ったのはお前さん方だろう。それに、ソラトが一人になったところで、どうなるわけでもあるまい」
「何を言ってるの! あなたが目を放したせいで、あんなゴミ虫共がお兄様に触れることになったのよ! 奏夜さんがいなかったら、どうなっていたか考えるのもおぞましいわ!」
「奏夜さん? ああ、そちらの青年か」


あくまでもマイペースに、シュドナイは奏夜を見る。


「珍しいなティリエル。キミが見ず知らずの人間と話すとは」
「話を逸らさないで! このような怠慢、今度は許しませんことよ!」


ティリエルはフン、と鼻を鳴らして、ソラトに抱き着きつつ、シュドナイに険悪な眼差しを向け続ける。


「すまんな。連れが世話になったようだ」
「いや、別に構わないよ。アンタ、ボディーガードか何かか?」


二人の高貴な雰囲気から判断した奏夜に、「ああ、そんなようなものだ」とシュドナイは答えた。


「なら、俺はお役御免か。じゃあ、あとはお任せでいいのかな?」
「お任せ、ね。――人間に関して言えば、こいつらに俺の護衛など意味が無いと思うがな」
「えっ?」
「いや、何でもない。だが、一応礼は言わせて貰おう。青年」


シュドナイはシニカルに煙草のケムリを吐いた。
不信感だけが募るが、ティリエルとソラトの手前、表情には出さない。


「じゃあな。ティリエル、ソラト。縁があったらまた会おうぜ」
「ええ、また」


花のように笑うティリエルの後ろで、ソラトもおずおずと手を振った。
軽く手を振り返して、奏夜は三人組に背を向ける。
ティリエル、ソラト、シュドナイの姿が見えなくなったころに、奏夜は嬉しそうに口を開く。


「いやいや、人間関係のもつれが嘆かれる世の中だけどさ、まだまだ捨てたもんじゃないよなー。あんな仲良し兄妹がいるんだからさ」
「………」


バックの中にいる相棒は、何のリアクションも取らない。


「キバット?」
「奏夜、さっきの奴ら……」
「? ティリエル達がどうかしたか?」
「……いや、何でもねぇ」


――まさかな。


あり得ない。キバットは頭を振った。


――だが、キバットの懸念は、最悪な形で的中することになる。




もっとも、それは奏夜にとって、だが。


◆◆◆


「~~~♪」
「上機嫌だな、ティリエル」


シュドナイは、意外と本気で驚いていた。
ティリエルは兄のこと以外で、ほとんど朗らかな笑顔を見せないからである。


「さっきの男か? 見たところ、君の目を惹くような特徴は無かったが」
「外見だけを見るのは浅はかね、シュドナイ。着飾る者ほど、中身が空虚なものよ」
「ふむ」


ならまず、自分達の派手な服装を止めろ。
そう思いつつ、シュドナイは口には出さなかった。


このあたり、分を弁えている。


「本当、“人間”にしておくには勿体無いわ。それに加えて、私とお兄様を仲良しだなんて! ね、お兄様!」
「うん!」


――もしこの場に奏夜がいたのなら、確実にソラトの言葉へ違和感をもっただろう。


なぜなら、ソラトの発した言葉は、もはや音として形容出来ないような、不気味極まりないものだったのだから。


「――まぁ、キミでも人間に興味を持つことがある、というのは実に救われる話だがな。それはそうと、本筋の方はどうなっているんだ?」
「磐石とまではいきませんが、フレイムヘイズ一匹への罠としてはもう十分。あとは、こちらから仕掛ければ直ぐにでも。――ではお兄様、参りましょうか」
「うん、ティリエル。はやくみつけようね。『にえとののしゃな』!」


互いに笑みを交換し合って、紅世の徒“愛染自”ソラトと“愛染他”ティリエルは、深く唇を重ね合う。
その傍らで、紅世の王“千変”シュドナイは、やれやれと溜め息をついて、煙草に火をつけた。


◆◆◆


早朝の御崎高校。
教師からすれば普通のタイムテーブルだが、生徒の登校時間にはやや早い。
奏夜は人気の少ない廊下を鼻歌混じりに進み、教室へと足を運ぶ。
今朝の連絡を黒板に書き込むためだ。


引き戸を開け、一年二組の教室に入る。
と、そこには先客がいた。


「よう、早いな吉田」
「あ……。おはよう、ございます」


誰もいない教室にただ一人。吉田一美は机に俯いてぼつんと座っていた。


「ちぇっ。今日は一番乗りだと思ったんだがなぁ。早起きってのも難しいもんだよ」
「そう……ですね」


歯切れ悪く、吉田は曖昧に相槌を打つ。
力無く肩を落としている様子からは、悲しみ以外の感情が読み取れない。


(――ああ、こりゃなんかあったな)


溜め息混じりに、奏夜は教室正面の黒板に向かう。


「何か悩みがあるなら聞いてやるぞー。連絡書くついででいいならな」


言って、奏夜はチョークを片手に、黒板へ連絡事項を書き連ね始めた。


カッ、カッ、カッ。チョーク特有の乾いた音がしばらく続く。
やがて、奏夜の背中にか細い声がかけられた。


「……今朝、早くのこと、なんですけど」
「ふむ」


奏夜もそれに軽く言葉を返す。


「その……忘れ物を、届けようと思って」
「所有格が抜けてるぞ吉田。忘れ物って、坂井の持ち物か?」


しばし沈黙。ややあって「……はい」という声が聞こえた。


「そこまでは普通の学園モノだな。あまりに出来すぎな展開なのが腑に落ちんが……っと悪い、脱線したな。続けてくれ」


奏夜が促し、吉田はより一層元気のない様子で、声を絞り出した。


「それで……その、途中、真南川の方から……来るのを、見て」
「今度は主語が抜けてるぞ。俺が現国教師と知っての挑戦かコラ」


お前、頭は良い設定だろ。
しかし、奏夜なりの気遣い(もとい、渾身の笑い)にさえも、吉田は反応らしい反応を見せなかった。


奏夜は黒板にチョークを走らせながら、軽く頭を掻いて、


「……纏めると、平井(多分)と坂井が一緒にいるのを見た。そういうわけか?」


言葉に出して言われると尚つらくなるらしく、吉田は更に顔を俯かせた。


――見た、というのは、文脈やら人間関係から察するに、シャナと悠二が一緒にいる光景か何かだろう。
鍛練とやらは続けているようだから、その最中を吉田は偶然見てしまった、こんなところか。


軽くはない衝撃だったはずだ。吉田が悠二に好意を抱いているのは、奏夜も知っている。
シャナは精神面を除いて、才色兼備で魅力的だろうから、敵わないと思って、吉田が落ち込むのもわかる。


「……」


うん。
いや、わかるよ? すっごくわかる。


わかるんだけど……。


「……………………………………」


バキッ。
手元のチョークが折れた。
奏夜は苛々と呆れを半々に込めて、言った。




「――バカだなお前」




振り向き様に放たれた鋭い一言に、吉田は驚いて顔を上げた。


「それのどこが悩みだ。身構えちゃったじゃねぇか」


呆ける吉田の前に、奏夜は早歩きで移動して、ビシッ! と人差し指を突き出す。


「それに何の関係がある」
「えっ……?」
「平井と坂井の仲が良いことと、お前が坂井を好きなことが、一体全体何の関係があるんだよ」


――自分がそうだったからか、人の成長や心の機微に対し、奏夜は出来る限り、解決策を用意するよう心掛けている。
だが今回ばかりは、解決策など用意できるはずもない。


これは悩みですらないのだ。


「前にお前が、俺の音楽を聞いた時のこと、覚えてるよな? そん時にも言ったはずだぜ。『誰かを好きになったなら、悔いは残すな。ただその相手を好きでいろ』ってな。お前、開始2ヶ月ちょいでそれを破る気か」
「で、でも……」
「でももデモナータもねぇ」


奏夜は、吉田の頬をぐにっと引っ張った。


「ふぇ、ふぇんふぇい、いひゃいれふ!!(せ、先生、痛いです!!)」
「黙って聞け。お前は平井には無いものを持ってる。お前はあいつを強いと思ってるかも知れないが、どっこい、そういうわけでもない」


シャナは、自分が悠二に抱く感情を知らない。
しかし吉田は、“その感情”が何なのかを知っている。


シャナは、そのイレギュラーな感情を恐れている。
吉田は、それを恐れてはいない。


この差は、とても大きい。


奏夜はゆっくり、吉田の頬を放す。


「それが何なのか、よく考えてみろ。――お前はいろんなことから逃げ過ぎだ。ちゃんと向き合え」
「……?」


ひりひりする頬を押さえ、吉田は疑問符を浮かべ続けている。……まだよくわかってなさそうだが、これは自分で気付かなければ意味がない。


奏夜に出来るのはここまでだ。
少し後ろ髪を引かれる思いで教室を出ると、ちょうどそこには、登校したばかりの池がいた。


「あ、先生。おはようございます」
「おう池、バットモーニング」
「……朝の爽やかさが一気に消し飛ぶ挨拶ですね。先生が珍しく早朝登校したと思ったら」


ほっとけ。


「――ああ、そうだ。池、お前ちょっと教室にいるヤツの相談乗ってやってくれや」
「はい?」


池は首を傾げ、だがすぐに何か気付いたような表情を浮かべる。


「もしかして、吉田さんですか?」
「察しがいいな。俺がいくらか言っといたけど、まだ落ち込んでるっぽいから。お前からもどうにか慰めといて」
「……わかりました」
「うん。頼んだぜい、メガネマン」


吉田を池に任せ、奏夜は教室をあとにした。
池は頼りになるヤツだし、少なからず、吉田に好意を抱いているはずだから、まぁ悪いようにはなるまい。


そう判断してのことだった。


――しかし、この判断は、後に思いもよらぬ事態を巻き起こすことになる。



◆◆◆


『あ』


さて、場所は移って御崎市内の商店街。


道の真ん中で、四人と一人のフレイムヘイズが間の抜けた声を上げた。


片や、由利を嶋に預け、日用品の買い出しに来ていた名護夫妻。
片や、暇を持て余し買い物に出た『弔詞の詠み手』マージョリー・ドーと、そのお供、佐藤啓作と田中栄太である。


『恵さん!』
「あら、栄太くんに啓作くんじゃない!」
「? 恵、知り合いか?」


一瞬だけ、マージョリーと火花を交錯させた名護が、恵に問う。


「ええ、佐藤啓作くんに、田中栄太くん。二人とも奏夜くんの教え子よ」
「――ああ、成る程。そういうつながりか」


名護は二人に手を差し出す。


「名護啓介だ。よろしく」


その手を、佐藤と田中はおずおずと握り返す。


(この人が恵さんの旦那さんか。ちょっと厳しそうだけど……)
(でも、先生の言う通りカッコいいなぁ)


奏夜の弁で言うなら「俺よりずっとカッコいい旦那さん」だったが、容姿に関して言うなら、奏夜がそういう気持ちもわかる。


無論、奏夜がカッコよくないというわけではないが。


「それで」


佐藤、田中と握手を交わした名護が、一転して低い声を唸らせる。
その対象は、二人の隣――マージョリーに向けられる。


「何故キミがここにいる。『弔詞の詠み手』」
「っ!!」


佐藤と田中の肩が跳ね上がった。


何故。


『弔詞の詠み手』。自分たちの憧れである女性――マージョリーの決して知り得るはずのない二つ名を、この男性は知っているのだ。


「……はん。私が何処にいようが勝手でしょ」
「私が言っているのはそういうことではない。キミがどういう目的でその少年たちと一緒にいるかだ」


名護の警戒心は更に強まったようだった。


「何か力任せな協力を強いているなら……」
「しないわよ。そんなめんどくさいことするくらいなら、最初から一人でどうにかしてるわ。こいつらは――」


言いかけて、ふと唇の動きが止まった。


こいつらは――なんだろう?
最初はただの道案内のつもりで、次は寝床を間借りして、あの戦いで負けた後も、何故か一緒にいて――


ちらりと目線を泳がせると、佐藤も田中も少し不安そうに、マージョリーを見ていた。
二人もまた、自分がマージョリーにとって何なのか、気になったらしい。


(……私にどう答えろってのよ)


マージョリー自身にすらわからないのに。


心の中で愚痴るマージョリーに、意外なところから助け船が出た。


「何なに? このキレーな女の人、名護くんの知り合い?」


一人蚊帳の外だった恵が、二人の間に割って入る。
何処か焦っているようにも見えた。


「あーいや、知り合い……というか何というか」
「いいから名護くん、はっきりしなさい!!」


今度は名護が言い澱む番だった。
はっきりしなさいも何も、奏夜こそすれ、名護とマージョリーにはほとんど接点は無い。


せいぜい“刃を交わしあった仲”とでも言うべきか。


「何!? 私に言えないような仲なワケ!?」
「め、恵、首が絞まる首が絞まる! 何をそんなに怒る必要が……!」
「お、怒ってなんかないわよ! いいからさっさとあらいざらい吐いちゃいなさい!」


……ある意味、典型的とも言える夫婦のすれ違いに、


「……なぁ、あれどうすりゃいいかな」


と佐藤が、


「さぁ……? ここはやっぱ止めたほうがいいのか」


と田中が、それぞれコメントして、


「ッヒヒ、やめとけやめとけ。痴話喧嘩にゃあ首突っ込まねぇ方がいい」


声を潜めたマルコシアスが、ニヤついたような笑い声で答えた。


◆◆◆


「さあて、昼飯昼飯っと」


午前の授業を滞り無く終えて、奏夜は弁当片手に屋上へ向かっていた。
弁当喰う時に、夏の青空ってなんかオツだよね。という思いつきの結果である。


「そう言えば、坂井達も今日屋上って言ってたっけか」


正確には、シャナ、悠二、池、吉田の四人だったが。


「ふむ。たまには生徒と交流を深めるのも悪くないかもな」


言いながら、奏夜は屋上まで辿り着き、鉄扉に手をかける――。




「やめて!!」




開けた瞬間、飛び込んできたのは鋭い一声。


「うおっと?」


目をぱちくりさせて、奏夜は事態の理解を急ぐ。


えっと……吉田が泣きながら弁当放り捨てて、坂井と池がそれを見て絶句して、平井はきょとんとしてて……。
……すみません。理解が追い付きませんでした。


「た、頼んでないよ、池君! こんなこと!!」
「よ、吉――」
「私、そんなのじゃないの! 違うの!」


吉田は駆け去り、奏夜に目もくれず、階段を駆け降りていった。
一連の光景に、その場にいた全員がフリーズしている。


「ちょっと、席外してくれないか?」
「? ……うん」


悠二の言葉に素直に従い、シャナは屋上から出ていく。
その時、奏夜と目が合った。


「あいつ、どうしちゃったの?」
「……さあな」


シャナの問いをはぐらかし、奏夜は彼女と入れ違いに屋上へと入る。


「先生」
「あー、お邪魔だったか?」
「……いいえ、むしろいてくれるとありがたいです」


悠二が反応の無い池に代わり、苦々しく笑う。


「何処から聞いてました?」
「吉田がシャウトしたあたりから」


奏夜は、俯く池に目線を移す。
さっきは軽く動揺してしまったが、今なら状況は大体わかる。


簡単に言って、池は悠二に怒っていたのだ。
今朝のことで落ち込んだ、吉田の代わりに。


――自分が少なからず好意を抱く少女の代わりに。


(シャナと吉田の間をフラフラしてる坂井に苛立って、けどそれは吉田が望んでいたわけじゃなくて……)


だからこその『頼んでないよ!!』か。


(他人の厚意におんぶだっこな吉田にも問題はあるけどな……)


それはまた、後で問い質すとしよう。
今はこの悩める少年だ。


「池、こんなこと言われなくても分かると思うが、お前――いや、お前らのために言っておく。俺は吉田を慰めろとは言ったが、坂井を糾弾しろとは言ってない」
「っ! 何も池はそんなつもりで言ったんじゃ……」
「いいよ、坂井。悪いのは僕だ」


悠二の弁明を、池は遮った。
奏夜は、悠二と池を交互に見て、溜め息をつく。


――ったく、本当にガキってやつは。


「……まぁ、俺にも責任が無いわけじゃないからこれ以上は言わん。ただ、謝るべき人間には謝っとけ」


わかってます、と頷いて、池は坂井に向き直る。


「……すまん、坂井。さっきも、いきなりカッとなっちゃって」
「いいよ。おまえの言った『半端な気持ちが相手を傷つける』っていうのは……ホント、情けないけど……全然間違ってないしさ」


お互いに覇気のない声で謝る。
奏夜は取り敢えずフェンスに寄りかかり、お握りを頬張る。


「……おまえでも失敗するんだな、池」
「する、みたいだな。するとは思わなかった……。なんていうか、お節介が過ぎたっていうのかな」
「後悔先に立たずだ。次に生かせ次に」


さらりとした口調だったが、隣にいた悠二にも奏夜が「池を慰めてるんだろうな」というのは感じ取れた。


それからしばらく、悠二、池、奏夜は手持ち無沙汰に青空を眺めていた。無言のまま、陰鬱になりかける気持ちを叱咤して、悠二は池に聞く。


「なあ」
「ん――」
「……吉田さんのこと……好きなのか?」


◆◆◆


「腹減った~」
「お腹すいた~」


校庭裏庭の木。
枝に止まる二匹のコウモリがいた。
キバットバット三世とキバーラである。


「奏夜のヤツ、昼飯食べ終わったら差し入れ持ってくるって言ってたのによぉ~」


「しかもそれまで隠れとけだなんてぇ……。お兄ちゃん、もしかして奏夜、私たちもう忘れちゃってるんじゃない?」
「大いに有り得るな」


キバットとキバーラの予想、大正解。
すっかり屋上で黄昏ている主を待ちながら、キバットとキバーラは枝の上でお腹を鳴らす。


「……むむ?」


ふとキバットが、木の下の景色に目を向けた。


「どしたのお兄ちゃん」
「キバーラ、下、下」


お笑い芸人のようなフレーズに誘われ、キバーラも同じように裏庭を見る。そこには、二つの人影。


「あれって、シャナちゃんと吉田さんかしら?」


そこにいたのは、目許に涙の跡を残す吉田と、彼女を追いかけてきたシャナ。
ただ――二人の間には、かなり近寄りがたい雰囲気があった。


やがて――吉田が、意を決したように口を開く。


「ゆかりちゃんは、ずるいよ」
「……何が」


シャナは何故か、この問いかけに恐怖心を覚えていた。
謂われのない侮辱ともとれる。
だが、例えそうだとしても、シャナは言い返せなかった。


――ただ、怯える。


吉田は、決意を込めたまま、シャナにその感情を突き付ける。





「坂井君のこと、好きなんでしょう」
「――っ!!」





心臓が脈打ち、衝撃が身体を、心を駆け抜ける。


(……好き? 私が、悠二を……?)


押し潰されそうな圧迫感が、胸を締め付ける。


なんだろう。吉田の言葉は、自分の中の何かが、覆されてしまうような、凄まじい力だった。


(きゃ~~♪ ナニナニ? この急転直下なラブコメパート!)
(おいキバーラ、身を乗り出すなって! 見つかっちまうだろうが!)
(お兄ちゃん何言ってるのよ! こんな美味しい展開だからこそ、身を乗り出して見る価値があるんじゃない!)
(だからって今見つかってみろ! 逆に俺様達KY路線まっしぐらだぞ!)
(大丈夫よ、その時は私、お兄ちゃん置いて逃げるから)
(怪しい笑みを浮かべるな、我が妹よ! 本当にやりそうで怖いわ!)


キバーラがブラックな一面を覗かせる間にも、二人の会話は続いていく。


「なのに、素っ気なくして、知らない振りして、なのに、私よりもずっと、ずっと近くにいて……ずるいよ」
「……ぅ……」


シャナは、まるで言い返せなかった。


吉田の気迫に気圧されていたのだ。
――あの後、シャナがここに来るまで、吉田はずっと考えていた。


(私って……なんていやらしい子なんだろう)


いつも優しく、自分を助けてくれた池に甘え、自分が聞けなかったことをあっさり聞ける彼に嫉妬して、あんな酷いことを言ってしまった。


『お前は色んなことから逃げ過ぎだ。ちゃんと向き合え』


先生も、教えてくれていたのに。
結局自分で動けなかった。


(誰のせいでもない。全部、私の覚悟が足りなかったから)


私の覚悟――それは。


(誰かを好きになったなら、悔いは残しちゃいけない。ただ、最後まで好きでいる)


ちゃんと向き合って、逃げ出さずに。
凄く怖いけど――すべてに向き合うのは本当に怖いけど。


それでも、やるしかない。





彼を――好きでいたいから。





「……な、なんでお前にそんなこと言われなきゃならないのよ」
「言う資格、あるもの」


シャナの威圧感は、もはや吉田にとって何の意味も為さなかった。


「私も、坂井君が好きだから」
「!!」


彼女の突き放すような言い方は、吉田にとって薄っぺらな精神武装でしかない。


『お前は平井には無いものを持ってる』


今なら、わかる。
奏夜の言っていたことが何なのか。


(ゆかりちゃんは、怖がりだ)


“その感情”がなんなのかわかっているはずなのに、肯定も享受もせず、否定し、拒絶する。
なのに、自分以外の誰かが、その感情を見せようとすれば、ただ怯えるだけ。


(それが先生が言ってた、私が持ってて、ゆかりちゃんが持っていないものだ)


私は、この思いを受け入れられる。
ゆかりちゃんは、この思いを拒絶する。
それが、二人のあまりに大きすぎる違いだった。


――だから、


(負けない)


ゆかりちゃんには、負けない。


「私……私、決めたの。もう、あやふやなままにはしない。って。他の人にしてもらうことを期待したり、頼ったりしない……自分で、頑張って、やってみようって」
「……あ」


シャナの胸の痛みは止まらず、吉田の決意も衰えない。
――自分が立っている場所がぐらりと揺れる。


「私、坂井君にもう一度、今度こそはっきり自分の口で、好きです、って言う」
「っだめ!!」


シャナは叫び、理解した、理解してしまった。
曖昧だった気持ちが、はっきり形を持って具現する。


(私が、悠二を――私は、悠二を――)


嫌だった。
誰か違う人間が、悠二と話したり、一緒にいることが。


それは誰でもない、自分の本当の気持ち。奏夜が見抜いていた“好き”という感情。


「だめよ、そんなの!! 言っちゃだめ!!」
「ううん、言う。決めるのは坂井君。好きだ、って言ってもいないゆかりちゃんには、負けない……!」


お互い、一歩も譲らなかった。
シャナは崩れそうになる脚を叱咤し、涙をこらえ、あらん限りの力で、宣言する。




「私、私だって――!!」




その時――再び世界が閉じた。


◆◆◆


山吹色の霧が漂い、目の前の吉田が、全ての動きを停止した。


(えっ、何なの、この変な霧!?)
(自在法だ!!)


固唾を呑んで、シャナと吉田のやり取りを見ていたキバットとキバーラも、突然の事態に動揺を隠せない。


「―――っ」


片や、シャナの心に浮かぶのは動揺ではなかった。


「っな、に、すん、のよ!!」


怒号に呼応し、灼眼、炎髪、黒衣、大太刀『贄殿遮那』。
それらが全て、自分の使命に加え、やり場のない怒りと共に顕現した。


「すぐに聞かせてやる! 私の気持ちを、おまえなんか、全然、悠二は、私と、ずっと、もっと、たくさんあるんだから!!」


時を止めた吉田に、シャナは烈火の如く、咆哮した。


「おまえなんかに、絶対に負けない!!」


『炎髪灼眼の討ち手』、その魂の叫びを、二匹のコウモリだけが聞いていた。
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  1. 2012/03/26(月) 10:33:48|
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