紅蓮の牙

二次創作中心。仮面ライダーキバと灼眼のシャナのクロスを連載中。

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第九話・レッスンマイウェイ/先導遊戯.後編


試合決着より数分後。


「いやいや、実にいい青空だと思わないかね、お二人さん」
「……」
「……」


悠二と池が溜め息をつく中、奏夜はまるで気にした様子もなく、青空観賞を続ける。


――雨天ということで、体育の授業を早めに切り上げたクラスは、クラブハウスのシャワー室を借りていた。
観念的な話から、男子が先に入り、後に女子という順番。
三人は無論、既にシャワーを浴び終えている。
ならばなぜ、まだクラブハウスの前で駄弁っているのかと言えば、端的に言って見張り番である。


(……僕は、このクラブハウスを、カギが外側からしか掛けられないような構造にした人間を恨む)


彼にしては珍しい、負の感情を込めながら、悠二はまた顔を俯かせる。
口には出さないが、池も似たような心境らしい。


「へえ、一美って着痩せするタイプなんだ?」
「えー、うそー?」
「あ、あんまり見ないで」
「いいじゃん、吉田ちゃん。触っちゃおーかなー」


……こんな会話が扉越しに聞こえてくれば気も滅入る。
二人はわざとらしく咳払いをした。


「ていうか池はまだクラス委員って理由もあるけど、なんで僕まで……」
「僕のシンユーだからということ。それに、スケベなことをしたらひっぱたく人、泣いちゃう人、両方揃ってるからだってさ」
「平井と吉田はこういう時に、お前の若さゆえの過ちを防ぐリミッターになるわけだ」
「誤解を招く言い方は止めて下さいよ……」


けらけら笑いながら、この状況に全く動じない奏夜に、悠二はある意味の尊敬を覚えた。


「先生はこういう役割は平気なんですね」


場をもたせるためか、池がなんとなく聞いた。


「ま、担当教師としては仕方ない役割だしな」
「大人の余裕ってやつですか?」
「つーかさ、ここでお前らみたいに一喜一憂してるようじゃ、教員って務まらないと思うけど」
「……成る程、ごもっとも」


さすがにこのくらいの常識はあるらしい。
よくよく考えれば、聞くまでもない質問だった。


「まあ、平井さんだって、ソレはソレで綺麗だと思うけどねー」


三人の(実質二人だが)居心地の悪さなど省みず、女性陣達の会話は続く。


「うんうん、すんごい綺麗、お世辞じゃなくってさ」
「……よく分かんない」
「ありゃりゃ、坂井君も罪な男だこと」
「守備範囲の広いモテモテ君よねー」
「――だとさ」


話し声を拾い、奏夜は悠二を見る。


「要するに、女子のジャッジからすれば、お前はギャルゲの主人公というわけだな」
「皆まで言わないで下さい」
「おや、否定しないのか」
「否定しないんじゃありません。否定させてくれないんです」


悠二はやはり、この状況に困っているらしい。
優柔不断というわけではなく、あまりの目まぐるしさに思考が追い付かない、というのが妥当か。


はっきりしない調子な悠二に、池が問う。


「なあ、坂井」
「ん~?」
「平井さんが好きなのか?」
「っ!!」


悠二が壁に頭を打ち付けかけた。
驚いたのは、奏夜も同じだ。


(おお、まさか池から色恋話を振るとは)


池は、こういう話を間接的にしろしないタイプかと思っていたのだが。


「お、おまえ、こんなときに……」
「どうなんだ」


池はいたって真面目な口調で繰り返す。


「俺も興味あるな。実際どうなのよ、坂井」


奏夜からも追い討ちがかかる。
上辺だけの言葉は意味がない。そう判断したのか、悠二は考えるだけ考えて、今の自分の返答を言葉にした。


「そ、それってはっきりと、そうだ、って分かるようなもんじゃないだろ?」
「ふうん……」


池は納得したような、していないような様子だった。


「なるほど、正しいかどうかはともかく、面白い意見ではあるが」
「……さっき、吉田さんが休んでる僕の所に来たの、お前の差し金だろ」


質問の仕返しのつもりか、拗ねたように、悠二は聞き返した。


「ん~? 何でそう思う?」
「吉田さんが自分から、あんなことしにくるわけないじゃないか、っおぐ!?」


池が裏拳で悠二の胸板をドスン、と叩き、奏夜がまたあの連射式輪ゴム銃を、悠二のこめかみ辺りに発射した。


「そりゃ、吉田さんを舐めすぎだな」
「あいつはな、坂井。お前が思ってる以上に頑張り屋さんだぞ」
「えっ?」


思わぬカウンターを喰らい、戸惑う悠二をよそに、池はぼやいた。


「はっきりと、そうだ、って分かるようなもんじゃない、か……なるほどね」
「……」


奏夜は池の様子に違和感を覚える。
それは――覚えのある違和感だった。


「“お前は”どうなんだ? 池」


敢えて重要な部分を省略して、奏夜は聞く。
池は驚いたようだったが、すぐに自嘲めいた表情を浮かべる。


「どうなんでしょうね」
「……そうか」


言って、奏夜は面倒くさそうに頭を掻く。


「坂井、池」


投げやりな調子で、奏夜は二人に告げる。


「一つのことに悩むのはいい。だが、なるべく早くに決断しろよ」
「えっ?」
「……」


悠二が首を傾げ、池が少しだけ顔をしかめた。


「時間は有限だ。――モタつくと、すぐ手遅れになっちまうからな」


様々なニュアンスを込めた警告をし、奏夜はふと空を見上げる。
いつの間にか、曇り空から日が差し込み始めていた。


◆◆◆


「田中、顎大丈夫か? 平井ちゃんのボール、かなりキレーにキマってたが」
「ああ、大したことねーよ。明日にゃもう治ってるさ」


授業後。


佐藤と田中は、本日の白熱した体育の授業について語り合いながら、帰路についていた。天候はあの大雨が嘘のように晴れ渡り、輝く夕暮れが、空によく映えていた。


「しかし、平井ちゃんはもちろんだけど、先生も凄かったよな」
「ああ、アレはもうプロの領域だろ。現国の教師であの運動神経はさすがにねーわ」


ちなみに、後で佐藤が、どうやってそんな卓越した運動能力を得たのか、と聞いてみたところ、


『愚問だな、それは俺が稀代の天才、紅奏夜だからだ!』


だそうである。
身も蓋もねぇ。


「負けた俺が言えることじゃねーけど、平井ちゃんはやっぱ強い。半分反則気味とはいえ、その平井ちゃんに勝っちまう紅先生も」
「ああ。けど、褒めてばっかりもいられねーぜ?」
「だな」


そうだ。他人のことだけでなく、自分のこともちゃんと考えなければ。
目標――というより、憧れ。
『弔詞の詠み手』マージョリー・ドーに追い付いていくために、ここでモタつく気は二人には無かった。


「さて、さっさと帰るか。今頃姐さん、確実に酔い潰れてるだろうし」
「っはは、想像出来ちまうな」


ちなみにその時、佐藤家内のバーにて、くしゃみをするマージョリーの姿があったとか無かったとか。


「……?」


突然立ち止まった佐藤を、田中が振り返って言う。


「どした? 佐藤」
「いや、今そこの公園で……」


はっきりしない佐藤の態度をいぶかしむ田中、しかしふと、聞き覚えのない音が耳を捕らえる。
鼓膜を震わせる旋律は、


「バイオリンだよな、多分」
「いや、この際バイオリンは問題じゃないんだけど……」


佐藤が公園の奥を指を指す。
数歩下がって、田中は佐藤の指先を目で追う。


次の瞬間、田中は自分の目を疑った。


「――先生?」


人の心を奪うバイオリンの音色。
煌々と輝く夕暮れさえも、背景にしかならない。
そして、ブラッディローズを手に、刹那の芸術を生み出し続ける人物。


それは間違いなく、紅奏夜その人だった。
佐藤と田中は気付かれないよう、入り口の表札近くに身を屈める。


「おい、何で隠れるんだ?」
「いや、何となく」


田中の手を引いた佐藤自身も、いまいち理由がわからなかった。
あまりに普段と違う雰囲気を纏う奏夜に、話し掛けづらいというのが一番の理由かも知れない。
幸いというかなんというか、奏夜は二人には気付いていないようだ。
ただ一心不乱に、バイオリンを操っている。


『ポロン♪』


最後に弦を一本指で弾き、演奏は終わる。
――ぱちぱちぱち。
称賛の拍手に、奏夜は軽く礼をする。


「う~ん、やっぱり奏夜くんのバイオリンは流石ね。何度聞いても飽きないわ。ねー、由利?」
「うん! 奏夜おにいちゃんのばいおりん、やっぱり大好き!」
「ありがとう、恵さん、由利ちゃん」


すぐに視認は出来なかったが、奏夜は誰かにバイオリンを聞かせていたらしかった。
少し佐藤と田中が身を乗り出してみると、ベンチには親子と思わしき、整った顔立ちの女性と、幼稚園服を着た少女が座っている。


「……まさか、奥さんとかかな?」
「だとしたら不釣り合いだろ……」


田中がさらりと酷い事を言う。
まぁ、奏夜は容姿こそ整ってはいるものの、破天荒極まりない人物であり、あのベンチに座る女性は、誰がどう見ても美人の部類に入る。
ある意味、妥当な判断ではあった。


「おかあさん、わたしもばいおりん弾いてみたい!」
「あら、由利もバイオリンに興味を持つようになったのねぇ。
どうかしら、奏夜くん。由利がやってみたいなら、私としては習わせてあげたいんだけど」
「構いませんよ。俺に余裕がある時でいいなら、喜んで」
「やったー!」


由利は両手を上げて喜びを表現する。
その可愛らしい仕草を見ながら、奏夜と恵が顔を見合せ、笑みを交わし合った。


「うーん、奥さんとかじゃないみたいだな」
「でも、ただの知り合いってわけでもないだろ。あんな親しげだし」


佐藤はそう予想して、奏夜をよく見ようと、更に身を乗り出す。


「あっ、おい佐藤っ!!」
「へっ? うわっ!!」


田中はそもそも、表札脇から斜めに身体を仰け反らすという、ギリギリのバランスを保っていた。
そこへ、佐藤が急に体勢を変えたため、彼を下敷きにする形で、ぐらりと地面に倒れ込んでしまった。
派手な音が、公園に響く。


さすがに、奏夜たちも気が付いた。


「……佐藤、田中?」


奏夜は目をぱちくりさせ、乱入者二人を視界に収める。


「あ、あはは」
「こ、こんにちは」


もはや佐藤と田中は、ばつが悪そうに笑うしかなかった。


◆◆◆

「へぇ~、奏夜くんの生徒さんなんだ」


佐藤と田中が粗方の事情説明を終えて、恵が二人に手を差し出した。


「初めまして。名護恵よ、よろしく!」
「なごゆりです! はじめまして!」


『よ、よろしくお願いします』


快活な笑顔と共に差し出された二本の手を、佐藤と田中はかなりドキマギしながら握り返す。
由利はともかくとして、恵の容姿は多感な高校生を動揺させるのには十分なものだった。


「ったくよー、何でお前らわざわざ隠れるんだ。まだるっこしい」
「んなこと言われても、入っていける雰囲気じゃなかったし…」
「第一びっくりしてたんスよ。先生、バイオリンなんか弾けたんですね」


佐藤と田中の弁明を聞き、恵が首を傾げた。


「奏夜くん、バイオリンのこと、生徒さんとかに話してなかったの?」
「何人かには話したことありましたけど、それも成り行きみたいなもんですし、言ったって何にもならないでしょう?」
「やれやれ、そーいう自分の領域を作っちゃうとこは四年前と変わんないのね」


「手厳しい」と、恵の言い種に、奏夜が苦笑いを浮かべる。
二人の間には、立ち入れなさにも似た親密さが伺えた。居心地の悪さを感じ、佐藤は無理矢理にでもと話に入っていく。


「あの、先生と恵さんは、もしかしてご夫婦だったりするんですか?」


そうでないことは何となくわかっていたが、場を保たせるため、敢えて佐藤は聞く。
突如、奏夜と恵の目が点になると、次の瞬間には、奏夜と恵は吹き出していた。


「あはは、違う違う。奏夜くんと私はそういう仲じゃないわ」
「恵さんにゃあ、俺よりもっとカッコいい旦那さんがいるんだなコレが」


抱腹絶倒状態で、二人は否定した。


「じゃあ、どういうご関係なんですか?」


二人の笑い具合に面食らいながらも、今度は田中が質問した。
奏夜と恵は目配せした後、悪戯っ子のような口調で言う。




『死地を共に戦い抜いた親友』




「………」


ぽかーん、と佐藤と田中が呆ける。


「あの、それってどういう……」
「そのまんまの意味だが?」
「いや、陸軍にでも入ってなきゃ出てこない友人関係ですよ……」
「さぁ? あとはご想像にお任せするわ」


恵はそう言い置いて、足にへばりついていた由利を見る。


「じゃあ由利、そろそろ帰ろっか」
「えー!? まだお兄ちゃんとあそびたいよう」
「うん。けど、奏夜お兄ちゃんも疲れちゃうでしょ? またいつでも遊べるから」


「むー」と唇を尖らせるも、由利はこくりと頷く。


「わかった」
「よしよし、いい子♪ ああ、付き合わせちゃってごめんなさいね、奏夜くん」
「いいですって。幼稚園のお迎えくらい、それこそいつでも付き合えますから」


気の良い返事+敬語。
佐藤と田中はもう呆気に取られっぱなしだった。普段の傍若無人な奏夜はどこにいったのだろう。


「それじゃあね、奏夜くん。啓作くんに栄太くんも、いつかまた」
「ばいばーい!」


恵と由利は手を振りながら、公園から姿を消した。
二人が見えなくなるまで、奏夜、佐藤、田中は手を振り続けていた。


「いい人だろ、恵さんも由利ちゃんも」


奏夜がそう言うのに合わせ、佐藤と田中も頷く。


「さて、と。お前らまだ少しは時間あるよな?」
『えっ?』


二人の返事もそこそこに、奏夜はバイオリンをケースに入れて、近くにあった、恐らくは子供が忘れていったのであろう、柔らかい素材のボールを手に取る。
奏夜の真意を計りかねる二人を見て、彼はニンマリと笑う。


「佐藤、田中。俺とゲームをしようか」


◆◆◆


足で地面にラインを引き、即席のコートを作り、「さて」と奏夜は言う。


「ルールは、体育でやったドッジボールと同じだ。俺に当てればお前らの勝ち。
どっちが外野か内野かは、お前らが決めてよし」
「……まだ俺らやるとは言ってないのに、先生やる気満々ですね」


佐藤がもうツッコむのも面倒臭そうに呟く。田中も同じような雰囲気である。
いまいち気乗りしない二人に、奏夜は魔法の言葉を唱える。


「お前らが勝ったら、次の時間の漢字テスト免除」
『やります』


計画通り。
奏夜は死神ノートでも保有しているような勢いで、邪悪に笑う。


「あ、先生。一つ質問が」
「はい、田中栄太くん」
「やるぶんには構わないんですけど、先生はどうするんスか?」
「どうするって?」


奏夜が首を傾げ、佐藤も質問に加わる。


「先生の勝利条件ですよ。内野の一人をアウトにすれば勝ちってことですか?」


「いや、お前らが先にバテたら俺の勝ち」


さらりと言ってのける。
つまり、佐藤と田中の体力が尽きるまで攻撃を避け続けるということだろうか。
そんな無茶な。


「そんな無茶な」


口から出ていた。


「無茶かどうかは、試合すればわかるぜ。それとも何か? 授業での威勢は見かけだけかい、お二さん」


むかっ。
今時小学生でも乗らないような安い挑発に、二人はあっさり乗ってしまう。


「分かりました。受けますよそのゲーム!」
「試合後で泣かないで下さいよ、先生!」
「ああ、存分にかかってこい! 世界の広さと、お前らのセリフが完全なる敗北フラグだということを教えてやろう!」


そんなこんなで、ドッジボール延長戦開始。


◆◆◆


その頃、真南川の河川敷。


「今月で既に八人目か。悪は埃のようなものだな」


少し見過ごすだけで、またすぐに蔓延ってくる。
名護啓介はボタンを指先をしばらく弄ぶと、今まで集めたボタンが連なるホルダーにそれを通し、ポケットにしまう。


――名護は四年前と比べ、自分が随分変わったと自覚している。
そんな中で唯一変わらないのが、犯罪者を捕らえた時の記念である、このボタン集めだ。
恵には「由利の教育上良くないわ」と言われているため、どうにか止めたいものだが、昔に染み付いた癖は中々消えない。
一応由利に見られたことはないが、それにしたっていつまでのことやら。


(ふぅ、煙草より質が悪い癖だ)


自嘲気味めいた考えを消し、名護は夕暮れを目に収めながら、恵と由利が待つ我が家へと急ぐ。




「よぉ。あんたかい? イクサの資格者ってのは」




と、土手から軽い声がかかった。
声の主は土手から立ち上がり、名護の行く道を塞ぐ。


奇妙な出で立ちだった。
暖かいこの時期に、黒いロングコート。
顔は仮面舞踏会でしか使わないような、シンプルな黒い仮面で覆われている。


「……貴様、何者だ。何故イクサを知っている」


名護は警戒心を強めつつ、仮面の男を睨む。


「っとぉ、怖いなぁ。別に誰でもいいだろ。それに、質問に質問で返すのはマナー違反だぜ? もう一度聞くぞ、あんたがイクサの資格者なのか?」
「だったらどうする」
「いや? 別に“俺”はどうもしねーけどな。……ただ、“こいつ”があんたに怒りをぶつけたいみたいでね」


自分を指差しながら、仮面の男はわけのわからない事を言って、ニヤリと笑う。


「あんたに恨みはねぇが、ちぃっとストレス発散に付き合ってくれや」


仮面の男の肌が、ステンドグラスの模様に覆われていく。
やがて、黒ずんだ羽根に、ストローのような口という蝿を彷彿とさせる姿、ベルゼブブファンガイアへと姿を変える。


「やはりファンガイアか。いいだろう、相手になってやる。――変身!」


『レ・デ・ィ・ー』
『フ・ィ・ス・ト・オ・ン』


イクサナックルを手に押し当て、ベルトにセット。
電子音と共に現れたオレンジ色の映像が重なり、名護の姿をイクサへと変える。


「その命、神に返しなさい!!」


クロスシールドを展開し、セーブモードからバーストモードへ移行。
直ぐ様、イクサカリバーの弾幕を、ベルゼブブファンガイアに浴びせる。


「うぉっとぉ!? 危ない危ない!」


回避のため、ベルゼブブファンガイアは地面を転がる。


「今度はこっちからいくぜぇ!?」


ベルゼブブファンガイアの翼から、金色のりん粉が飛び出し、イクサを襲う。
りん粉がイクサに触れた途端、空中で幾重もの爆発が起こる。


「くっ!!」


りん粉を振り払い、イクサはイクサカリバーをソードモードに変える。
狙うは接近戦。


「はっ! いい度胸だ!!」


ベルゼブブファンガイアもステンドグラスの剣を召喚し、イクサを迎え撃つ。


「ハァッ!!」
「うおりゃっ!!」


剣がぶつかり合い、火花を散らす。


(強い。一介のファンガイアではないな)


自分のパワー、スピードに難なくついてくる。
長引けば不利か。


(ならば、一撃で叩き潰すまで!!)


イクサカリバーとベルゼブブファンガイアの剣が交錯した瞬間、イクサはベルト脇のホルダーに入ったフエッスルをベルトに差し込んだ。


『イ・ク・サ・カ・リ・バー・ラ・イ・ズ・ア・ッ・プ』


胸部のソルミラーにエネルギーが集まり、イクサカリバーに伝導していく。


「うおっ!?」


イクサの必殺技『イクサ・ジャッジメント』の力に、ベルゼブブファンガイアの剣が押され始める。
バチバチとスパークが弾け、とうとう剣にヒビが入った。


「わわっ、シャレになんねぇっての! ――カァッ!!」
「何っ!?」


ベルゼブブファンガイアは、イクサに向かって、0距離でりん粉を吐き出した。


――バァンッ!


「ぐあっ!?」


爆炎が光り、衝撃にイクサが吹き飛ばされる。
イクサカリバーに集まったエネルギーも霧散してしまった。


「いや~、マジ終わるかと思ったぜ。さすがに強ぇな。イクサ」
「ふざけるのもそこまでにしなさい!! イクサの力は、まだまだこんなものではない!」


言って、イクサは仮面の口元に手を伸ばそうとするが――


「あー、いやいや、今日はもういいや」


ベルゼブブファンガイアはおどけるような仕草で、変身を解除してしまった。


「!? 何の真似だ!」
「悪い悪い。ホント言うとさ、ストレス発散ってのは建前で、あんたの実力を確かめに来たんだよ」
「何?」
「そっ、オレの仲間は人使いが荒くてよー。まいっちまうぜ。あははは、上司と使いっぱの関係ってこんなもんなのかもな」


パチンと指を鳴らすと、ベルゼブブファンガイアの姿は輝くりん粉に変わり、風に乗って霞に溶けていく。


「なっ! 待ちなさい!」


――イクサの真の力ってヤツは、また会った時に見せてくれや!
キバもサガも纏めて相手してやっからよ!
高笑いを残して、それきりベルゼブブファンガイアの声は消え、周囲には静寂が戻る。


「……」


イクサは無言のまま、変身を解除する。


(私の力を確かめに来ただと? まさか……)


――最近、俺達のことを嗅ぎ回ってるファンガイアがいるんです。これが結構強くて、名護さんも、ちょっと注意してて下さいね。


奏夜から聞いた情報を、名護は反芻する。


「竜のファンガイアと聞いていたが、あのファンガイアがその仲間だと言うのは考えられる、か」


名護は険しい表情のまま、沈む夕日を見つめた。
――どうやら自分も、徐々に巻き込まれつつあるようだ。


四年前と同じ、闘争の渦に。


◆◆◆


(終わった、か)


頭に鳴っていたブラッディローズの音色が鳴り止んだのを感じ、奏夜は一先ず安心する。
本当なら、直ぐ様ファンガイアを倒しに行くべきだったのだが、近くには名護の音楽も感じていたため、一先ずは成り行きを見守るつもりだった(名護の実力を信頼している、というのもある)。


結果、イクサの音楽が残り、ファンガイアの音楽が消えている。
ライフエナジーが放出された気配は無いから、多分逃げただけだろう。


(結構強い力だったし、あの竜のファンガイアと関係してるのかもな……。ま、それは後で名護さんに聞けばいいか)


今はこっちに集中。とはいえ、


「さぁ、どうした! もうおしまいかぁ?」
「……、ハァッ、だ、誰が!」
「はぁ、くそッ、せいっ!!」


田中がスローしたボールが、奏夜目掛けて投球される。
申し分ない威力。まさしく豪速球だ。


「なので避ける」


それさえも難なくかわしてしまう奏夜。
ボールは威力を落としながら、今度は佐藤サイドへ。


「ま、また避けられた……」
「はぁ、あ、アンタどういう体力してんですか!」
「鍛えてますから」


――ゲーム開始から早30分。
その間、奏夜は息一つ切らさず、佐藤&田中チームのラリーを回避し続けている。


(俺と田中で、ほとんどインターバル無しで投げてるってのに……、本当に現国教師かよ)
(普通のコートよりも狭い条件下で、両方向からの攻撃にも、直ぐ様反応してくる……)


滅茶苦茶だ。
はっきり言って、プロのスポーツ選手とタメが張れそうなレベル。
自信の高さも納得だ。




「さあさ、頑張りたまえ。体力が残ってても、日が暮れちまったら流石に俺も帰るよん♪」


佐藤と田中が、西の空を見ると、もう日が沈みかけ、夜の帳が空を覆い始めている。


(もう、疲れたとか言ってられねぇな……)


佐藤はボールに力を込め、田中もまた表情を険しくした。
もはや二人とも、意地の勝負である。
奏夜を凄いと認めても、それは負けた時のる言い訳にはならない。


(“こんなところ”で)
(負けられるか!!)


憧れの存在に追い付くために、意地でも勝つ。


「っらぁ!!」


体力を総動員して、佐藤はボールを放った。


「おっと」


ボールは奏夜の右足近くを通り抜ける。


――パシッ。
向かいの田中が直ぐ様ボールをキャッチし、ボールは戻ってくる。


「ほいっと」


今度は左足付近。奏夜は二人の全力のボールさえも、難なくかわしていく。
そんな全力投球のラリーが続く中、


(これは――)


奏夜は違和感に気が付いた。
さっきから段々と、自身の動きが鈍くなってきていた。
おかしい、まだ余力は残していたはずだ。


(いや、むしろ“動くこと”が少なくなって……)


そして、気付いた。


(成る程、足元か)


動くことが少なくなってきた。
それはつまり“避けるために必要な動き”が減ってきているということ。


――そして、先ほどから佐藤と田中の投球は、一貫して奏夜の足元狙い。


(バランスを崩す気だな)


攻撃対象が足のみ。避けるには激しい足さばきが必要。
しかも地面は、昼の雨で多少ぬかるんでいる。ますます分が悪い。


(バランスを崩してよろけさえすれば!)
(俺達の勝ちだ!)


投球の嵐が奏夜を襲い続ける。
やがて、


「おっと?」


間の抜けた声を上げて、奏夜はボールに気を取られたせいか、ぬかるみで足を滑らせ、身体をのけ反らせた。
今の状態ならば、いくら奏夜でも回避は不可能だろう。
待っていた好機に、佐藤はボールの狙いを定める。


「――っだぁ!」


身体を蝕む疲労をものともせず、ボールは奏夜目掛けて吸い込まれていく。


(決まっ――!)


勝利を確信し、佐藤と田中の口元に笑みが浮かぶ。




「ほいさっと」




奏夜は足の力だけで、バック転を決めた。


「っな!?」
「うそぉ!?」


二人の驚きを他所に、滞空する奏夜に当たることのないまま、ボールは情けなく地を転がった。


「うん。努力賞ってとこかね」


着地し、奏夜は意地悪く微笑む。
その余裕は、二人の戦意と体力を削ぐには十分なものだった。
疲労に足が震え出し、佐藤と田中はふらふらと膝を折った。


「わーい、奏夜くん勝ちましたー♪」


奏夜のおどけた態度に反応する余裕さえ無かった。
息を切らし、佐藤と田中は悔しさに唇を噛む。


「佐藤、田中、そう気落ちするな。最後の作戰、あれは中々よかったぞ」
「ぜぇっ、はぁっ……、そ、そんな反則ギリギリのことやっても、勝てなかったってことじゃ、ないですか」
「反則ギリギリって言っても、十分効果的なやり方だったと思うけどなぁ。――第一、元々この勝負、普通にやったらお前達に勝機は全くないよ」
『えっ!?』


衝撃発言に、二人の声が裏返った。


「考えてもみろ。いくらコートが狭いからって、入る人間が一人なら普通のものと変わらない。これだけのスペースがあるなら、例え二対一でも、ボールの動きをしっかり目で追えば大抵の投球は避けられる。
ましてや、大人と子供の体力差を考慮すれば、先にバテるのは確実にお前らだ」


淡々とした説明に、佐藤と田中は、唖然とする。
奏夜は敢えて、自分に有利なゲームを仕掛けた、ということか?
一体何故?


物知らずな生徒に、物知り顔の奏夜は、このゲームの意図を明かす。


「つーまーり、お前らが勝つには、必然的に正攻法以外のやり方をしなきゃならんわけだ。さっきの足元狙いの戦い方がそうだな。それまではお前ら、ばか正直に投げてただけだったろ?」


確かに、最初の方は、これといった作品もなく、一心不乱に全力投球するのみだった。
体力が尽きかけ、思考がクリアになったことで、あの戦法を思い付いたのである。


「そのひらめきこそ、お前らに必要なものだ。最近、お前ら妙に頑張っているようだが――がむしゃらに努力したところで、それは実を結ばない」


びくり、と佐藤と田中は肩を震わせる。
それはまさに、マージョリーに追い付くため、自分たちのしている行動そのものだったからだ。
二人の仕草を見てみぬふりをして、奏夜は続ける。


「大切なのは、自分に何が出来て、何が出来ないのか。出来ないのなら、いかにして出来るように頭を使うのか、だ。音楽が、発想とひらめきの産物であるようにな」


その何気ない一言は、佐藤と田中の心に染み渡る。


――と同時に、奏夜の底知れなさを否応なしに理解させられた。
この教師に、マージョリーのことは話していない。にも関わらず、ここまでおあつらえ向きのアドバイス。こんな回りくどい真似までして、奏夜は教えようとしていたのだ。


いつの間にか、佐藤と田中から悔しさが消え、代わりに苦笑いが刻まれる。


「あはは……本っ当に、何者なんですか先生は」
「いつものはっちゃけっぷりは何処いっちゃったんです?」
「失礼な。これこそが地の俺ですよ?」


二人の皮肉った言い回しに、奏夜は普段のちゃらけた口調を返す。
一人の教師と二人の生徒を――夕暮れの僅かな木漏れ日が照らしていた。

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  1. 2012/03/21(水) 20:58:27|
  2. 仮面ライダーキバ/BLAZING.BLOOD
  3. | トラックバック:0
  4. | コメント:2
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コメント

どうも、にじファンでの仮面ライダーキバ/BLAZING.BLOODを読み
即座にお気に入り登録いたしました、爆発王です

にじファンでは大変な事になってしまいましたが、こちらでも
仮面ライダーキバ/BLAZING.BLOODが読めると聞き
突貫かましてきました(爆笑)

にじファンでやっていた小劇場ですが、差支えなければ公開してもよろしいでしょうか?

後、アイデアの方も可能であれば貢献いたします。
  1. 2012/03/21(水) 21:20:55 |
  2. URL |
  3. 爆発王 #-
  4. [ 編集 ]

返信

コメントありがとうございます。
こちらでも完結目指して頑張りますので、応援して下さると嬉しいです。

そのうちコメント掲示板でも作りますので、アイデアはまたそちらに投稿してくださいm(_ _)m
  1. 2012/03/27(火) 17:00:03 |
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  3. 一条ツカサ #-
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