紅蓮の牙

二次創作中心。仮面ライダーキバと灼眼のシャナのクロスを連載中。

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第九話・レッスンマイウェイ/先導遊戯.前篇


御崎市内某公園。早朝6時。


「イクササーイズ♪ 俺は正しい! 着いて、来なさーい!」
「な……、名護さん」
「叩きなさい、叩きなさい、悪い奴らを叩きなさい!」
「あの、名護さん……、す、少し休みませんか?」
「どうした奏夜君! この程度で膝を折るようでは、いざという時に体力がもたないぞ!」


だから、ハーフファンガイア以上に高い貴方の体力が異常なんです。
そう言いたいのを必死に押さえ、奏夜は身体を動かす。


朝の公園、何もラジオ体操は珍しくはない。
しかし、二人しかいないラジオ体操というのは、さすがに浮く。しかも流れているのは名護自作の鍛練体操『イクササイズ』、加えて、名護本人はまたしても自作の青いTシャツを着ていた。ロゴには753(=名護さん)の文字。


羞恥もさることながら、とにかく疲れるのだ。


(それもこれも、静香とキバットが余計なことを言わなけりゃ……)


原因が自分だとわかっていても、何処か納得がいかない。


――事の次第は、最近、名護が帰って来たのを知った静香が、キバットと共に、名護に上訴したことだ。
『名護さん、奏夜の寝坊癖を何とかして下さい!』と。
名護も『奏夜君、戦士に怠慢は敵だ! 私の早朝トレーニングに付き合いなさい!』と超ノリノリで、それを承諾した。


ハッキリ言おう。完全にいい迷惑だ。
しかし、多分名護は善意100%でやっている。だから滅茶苦茶断りづらい。ますます奏夜に逃げ場はなかった。


(まさかその辺も静香は織り込み済みか? くっ、静香。恐ろしい娘)


未だに、あの少女には逆らえそうになかった。


「奏夜君、ペースが遅れているぞ! しっかり着いて来るんだ! 蹴りなさい、蹴りなさい! 悪い奴らを蹴りなさい!」
「……」


とにかく今は、名護に付き合うしかないようだ。
結局その後、奏夜は丸々30分、名護と共にいい汗をかく羽目になった。



◆◆◆


「ああでも、身体は活性化されるから、あながち間違いとも言えないんだよな……」


複雑な気分で、名護から解放された奏夜は、ようやく帰路につく。


(けど、名護さんのあの様子じゃ、しばらく続くだろうな……。あー、ダルいダルい)


死んだ魚のような目で、頑なに自堕落な生活をキープしようとする奏夜の姿は、完全にダメな大人である。
かような人間が教師になれるのだから、世の中わからない。


「まずは何かしらもっともらしい理由を考えねぇと……ん?」


ふと、奏夜の足が、とある邸宅の前で止まった。
紅家よりも敷地は広く、十分豪邸の範疇に入る家。


「佐藤の家、だよな……」


職務上、何度か訪れたことのあるクラスメート、佐藤啓作の家に、奏夜は決定的な違和感を嗅ぎ取っていた。


「――なんで“あいつ”の気配がここからする?」


早朝。まだ活動を開始した人間は少ない。


「……」


奏夜は一瞬迷い、結局好奇心に負けた。


――パチンッ!
指を一鳴らしすると、次の瞬間にはもう、奏夜の姿は消え失せていた。


◆◆◆


「で、これは一体どういう状況なんだ?」


奏夜はうんざりしたように額を押さえる。


「ん? こりゃ珍しい客だな、ヒッヒ」


カウンターの椅子に置かれた本『グリモア』が、意思表現を示す炎を灯す。


「よう、“蹂躙の爪牙”。アンタの酒盃はお取り込み中か」
「ヒッヒヒ、見りゃわかるだろい。それと、あんま仰々しい名前で呼んでくれなんなよ、キバの兄ちゃん」
「ん。そいつぁ悪かったな、マルコシアス。――しっかし、酒臭いなここ」
「勘弁してやってくれや。我が麗しの酒盃は、景気が悪くていらっしゃブッ!!」
「バカマルコ……いらないこと、言うんじゃない、わ、よ、うぇっぷ」


佐藤家室内バーのカウンターテーブル。
奏夜が見たのは、青ざめた顔で、二日酔いの脅威と戦う『弔詞の詠み手』マージョリー・ドーと、その相手をする“紅世の王”、“蹂躙の爪牙”マルコシアス。


いやもう、なんというか、マージョリーの様子が形容し難いレベルに達している。
容姿が整っている分余計に。親が見たら泣く姿だ。


「あー、水とか出すか」
「……カウンターの奥」


答える代わりに、マージョリーは水の場所を提供してきた。
もうそれは答えに近かったので、奏夜はそそくさとカウンターに入り、水の入ったポットを見つけた。


「……アンタ、なんでここにいるわけ?」
「いや、何のへんてつも無い民家でお前の気配を見つけたもんだから。なんとなく」


コップに水を入れながら、奏夜は答える。


「人間の法律ってあんま詳しくないんだけどさ……、アンタのそれ立派な家宅侵入ってヤツじゃないの?」
「はっはっは、魔術で入りましたので法律は適応されませんな」


完全犯罪。否、ドラマ的に言えばSPEC犯罪だ。
奏夜の入れたコップを一気に煽り、マージョリーはまた机に突っ伏した。


「まったく、二日酔いがツラいなら飲まなきゃいいのに」
「俺様もまったくの同意見だな」
「それ、以外、やることないで、しょう、うう、うううう」
「はぁ、ったく、こんなもんの何がいいんだか」


空の酒瓶を拾い上げる奏夜。本気で理解出来ないという顔だった。


「ヒッヒ、何だい兄ちゃん。意外に下戸ってわけか」
「いや、飲めなくはないんだけどな。ずっと前に、知り合いの結婚式の二次会で、一度だけ酒飲んだことがあったんだよ」
「ああ、それで二日酔いの気分がトラウマになったってか?」
「いや、それもあるんだけどさ。――酒を飲んだ後の数分間くらい記憶が飛んで、気が付いた途端に、同席してた全員から『お前は二度と酒を飲むな』って言われたんだ。アレはトラウマだったな……」
「……」


マルコシアスは閉口した。
酒を飲んだ後、何があったのだろう。


――マルコシアスは知るよしもないが、その時奏夜へ『禁酒勧告』を出したメンバー内に、名護、太牙、アームズモンスター三人という歴戦の戦士がいたことからも、その凄まじさが伺えた。


「ただまぁ……どっちにせよ、教師っていう立場上、酒飲好きはあまり歓迎されないんだよな」
「あん? お前さん、センセーなんてやってたのか」
「ああ。この家に住んでる坊っちゃんも受け持っていたり」
「……ケーサクの、教師?」


マージョリーが僅かに反応を示した。


「ふーん……世間って狭いわ。ケーサクの教師ってことは、エータの教師でもあるわけよね」
「……やっぱりあの二人、アンタを手伝ってたんだな」
「手伝い……っていうか、子分みたいなもんよ。……巻き込んだこと怒ってんの?」
「いや全然、選んだのはあいつらだろ」
「ふーん、そう……うぷっ」


マージョリーはまたうめき出した。
その姿からは、この前のような苛烈さも、燃え上がる殺意も感じられなかった。


「なんかお前、本当に調子悪そうだな。酒とか関係無しに」
「……半分は、アンタとあのチビジャリのせいだと思うんだけどね」
「あん?」


首を傾げる奏夜に、マージョリーは愚痴るような口調で告げる。


「あの戦いの後……、何か思い出せなくなっちゃったのよ」
「何を」
「私が、今まで何を理由にブチ殺してきたのかってこと。アンタらに、負けたから」


あの戦いで、シャナ、悠二、アラストール、キバ、イクサと対峙し、彼女は破れた。
持てる力、戦う理由、自信ら全てを打ち砕かれて。


「――要するに、なーんか、やる気が出ないのよ。どう動いたらいいか、何のために動いたらいいのか、全然思い付かないのよ」
「“銀”とかいうヤツはどうすんだよ。ラミーが言うには、いつか必ず現れるみたいな話だったが」
「……いつか勝手に会えんなら、私から動くことなんかないじゃない」
『……』


奏夜とマルコシアスの二人分の沈黙が、薄暗いバーを支配する。
やがて、奏夜が無言でカウンター席に座り、


「大体わかった」


面倒くさそうに口を開いて、


「お前は贅沢だよ」


そう続けた。マージョリーが怪訝そうに顔を上げる。


「やることがわかってるなら、それをやればいいだけの話だろうが。復讐? 大いに結構。お前が選んだことなら、一つの目的地には違いない」


奏夜にしては珍しく、かなり真剣な言い方だったろう。
止まることなく、口はしっかり動き続ける。


「なのに一度負けたくらいで意気消沈すんのかよ。やることがわかってて悩むなんざ、怠慢以外の何物でもないぜ」
「……負かしたアンタがそれを言う?」
「ふん。そんなの言い訳だろ」


奏夜はマージョリーの反抗をピシャリとはね除ける。
そこには有無を言わさぬ雰囲気があった。


「敗北は勝利よりもよっぽど価値がある。得るものが多いからな。今回のことは、お前にとって無意味じゃないだろ」
「知った風な口を聞くわね……。アンタの――最強を謳われる、ファンガイアのキングの人生に、一体幾つの敗北があったっていうのよ」
「そりゃあもう。負けっ放しの人生ですよ?」


意地悪めいた質問の答えは、逆にマージョリーを驚かせた。
あっさりと自分を敗北続きの存在と認めた青年は、シニカルな笑みを浮かべる。


「だからこそ、今の俺がある。敗北はプラスだ。プラスファクターに一喜一憂して、自分の全てを棒に振ってるようじゃ、お前はまだまだ贅沢の領域を出ないさ」
「……そんなもん?」
「そんなもん」


言いながら、奏夜は空瓶を弄んでいる。


「……復讐を、否定はしないのね」


話の勢いが消えたせいか、投げやりな口調でマージョリーは言った。


「アンタの最初の印象って……頭ごなしに復讐を否定するような、偽善者っぽく見えてたんだけど」
「失敬な。他人の意思決定を無下にするようなことはしないよ。――本当、お前は恵まれてるよ」





復讐ヲ果タスベキ相手ガ――殺意ヲブツケラレル相手ガイルンダカラ。





「―――っ!!」


酔いが一気に消し飛んだ。
頭痛も忘れ、マージョリーは反射的に奏夜の方を見た。


――しかし、そこにはもう奏夜の姿はない。
代わりに、ひやりとした刃の如き殺意の残痕が、マージョリーを襲う。


「っはぁ、っはぁ……。マ、マルコシアス」
「……ああ」


マージョリーの言わんとすることを察し、マルコシアスはただ同意する。


「とんでもねぇな、あの兄ちゃん。俺達と戦った時にゃあ、まるで本気じゃなかったってワケだ」


ほんの一瞬、吹き出した奏夜が持つ力の片鱗は、マージョリーの価値観をひっくり返すには十分だった。


――あれで、まだ本気じゃない。
キバに変身して尚、封印の鎖『カテナ』を施して尚、奏夜はまだ力を押さえ付けている。


「……この力で、この殺意で負け続け? よくそんなことが言えるわね」


苦笑いを刻み、マージョリーはカウンター席に沈み、再び顔を俯かせる。





――奏夜の辿った道を、“紅世”に属す者達はまだ誰も知らない。
奏夜の人生が負け続きであったということが、決して嘘ではないことも、今なお、闇の中だ。


◆◆◆


場所と時間は移って、御崎高校。


時刻はあと少しで1時。
御崎高校では昼放課で、昼食を買う生徒やら、場所取りやらで、廊下がごった返す時間だ。
そんな中、ここにも廊下を歩く人間が二人。


「『風都騒然! 蘇る死者と謎の骸骨戦士!』か。平井、お前幽霊とかって信じる?」
「はむっ、状況や、証拠次第。けど、物事には必ず確固たる理由があるから、はむっ、信じてないと言えば信じてない」
「なるほどね。ごもっともだ。――風都か。翔太郎とフィリップ大丈夫かな」
「? どうかした?」
「ああいや、何でもないよ」


言って、奏夜は新聞を畳む。
隣を歩くシャナは少し首を傾げたが、すぐにまた幸せそうにメロンパンをかじる。


――昨今、シャナと話す機会が増えたように思う。
今にしろ、下の購買で会っただけで、こうして一緒に歩いている。


(最初の頃から考えれば、あり得ないよな)


マージョリーとのいざこざの時、相談にのって以来、名前で呼ばれることから始まって、今では普通に話したりもしている。


(坂井ほどで無いにせよ、気を許してくれてんのかね)


それはそれで、普通に喜ばしいことなのだけれど。
結果的に、坂井や吉田、他の生徒と話す機会も増えているのだから、決してマイナスではない。
今から坂井達に誘われ、一緒に昼食を取る予定もあったりと、フレンドリーさは更に上がっている。


(その原因が、一番協調性の無かった平井だってんだから、面白い話だよな)


心の機微に疎かったこのフレイムヘイズの少女も、しっかり成長しているということだろう。


うん。善きかな善きかな。
階段を上がる奏夜に、シャナが「あ」と思い付いたように、メロンパンをかじる手を止めた。


「ねぇ、奏夜」
「? 何だよ」
「一つ、訊きたいことがあるの。ずっと調べてみたけど、やっぱりわからなかった」
「へぇ、お前にもわからないことがあるなんて、珍しいな。いいぜ、俺が答えられることなら答えてやる」


奏夜の許可を確認して、シャナは簡潔に、しかし奏夜にとって、とんでもない質問をした。




「キスって、どんな意味があるの?」




――ばさり。
持っていた新聞紙が滑り落ち、乾いた音を立てる。


((―――っな!?))


奏夜、そしてシャナの胸に下げられた神器“コキュートス”に蔵されたアラストールが、ほぼ同時に、心中で叫び声を上げる。


((なななななななななななな))


もはや言葉が見つからないほどに、二人とも動揺していた。


何だ、こいつは今何を聞きやがった!?
フリーズ状態の奏夜を不思議そうに眺めて、首を傾げる。


「奏夜もわからないの?」
「いや、わからないというか何というか……」


頬を軽く掻きながら、周囲に誰もいないことを確認する。


「何でそんなこと聞くんだ?」
「少し前、不安になったら私にキスしろ、って悠二に言った奴がいたの。『それで、なにもかもが、すぐに分かる』って」
(ラミーぃぃぃ! てめぇが元凶かぁァァァァァ!!)


確かに言ってたけど!
去り際にいらんアドバイスしてたけど!


恐らくは今も何処かでトーチを集めている老紳士に、呪詛の言葉を呟く奏夜。


そこで奏夜は、自分にも負の波動が向けられていることに気が付く。
出所は“コキュートス”、というかアラストール。
もはや言わずともわかる、この保護者魔神が何を言いたいのか。


『余計なことを吹き込めば、明日の朝日は拝めぬと思え』


決して冗談ではないだろう。
一つでもアラストールの琴線に触れたが最後、顕現してでも、奏夜を叩き潰すに違いない。
冷や汗を一筋滴らせ、奏夜は「あー、うー」と悩んだ挙げ句、


「平井、そういうのはな。あんまり男に聞くもんじゃないよ」
「? そうなの?」
「ああ。別に悪いわけじゃないんだけどな……。ただこれは、凄く繊細で曖昧な問題だ。俺の答えが必ずしも、お前にとっての答えになるとは限らないんだよ」
「……よくわからない」
「うん、正直な話、俺も上手く説明が出来ないんだ。もし聞くんなら……そうだな。千草さんあたりに聞いてみろ」
「千草に?」
「知り合いなんだろ? 今度聞いてみろよ。俺が答えるよかよっぽどいい」


シャナは少し納得いかなそうだったが、千草に相談することに対しては頷けるらしく「わかった」と言う。


取り敢えず、危機は脱したか。
アラストールからも、負の波動は感じられなくなった(と思いたい)。


「ほら、早く教室行こうぜ。昼休みが終わっちまう」
「ん」


二人はようやく止まっていた足を再び進ませる。
しかしその途中、またシャナは口を開いた。


「奏夜は――」
「ん?」
「キスしたことあるの?」
「…………………」


奏夜はたっぷり十秒間沈黙して、やや低い声で呟く。


「いや、無いよ」


と答えたあと、





「これから先もな」





と続けた。


「……?」


声のトーンの違いを感じ、シャナは奏夜の顔をのぞきこんだ。


いつもと変わらぬ様子で刻まれている表情。――しかし、その表情は何処か、憂いを帯びていた。


◆◆◆


「えー、んじゃあ授業始めんぞー」


ボードを肩に担ぐようにして、奏夜は指示を出す。


一年二組六時間目、科目は体育。
今回、奏夜は体育担当の教師から、臨時の監督者を頼まれ、こうして生徒達の前に立っている。


「本日は体力測定の予定だったが、臨時監督者の俺がやってもグダグダになるだろうから、今日は自由競技とする」
「でも先生、測定するだけなら、誰がやっても変わらないと思いますけど」


池が至極もっともな意見を出す。


「うん、まぁぶっちゃけ俺が面倒なだけなんだけど」
「だろうと思いました」


さらりと言ってのける奏夜に、池が苦笑いすると共に、クラス全員も似たような表情になる。


「このコートで出来るやつ限定だ。お前らで何かアイディア出せ。ちなみに俺のオススメは50分間耐久泥玉投擲戦線だが」
「……あの先生、ちなみにそのゲームのルールは?」


先頭にいた悠二が聞かなくてもいいことを聞く。


「タイムリミットは文字通り50分。参加者は二チームに別れ、コート内に仕掛けられた様々な罠を掻い潜り、泥玉をぶつけ合う。相手チームが一人も動かなくなったら勝ちだ」
「もはやゲームじゃなくてサバイバルですよねそれ!?」
「しかも一瞬聞き逃しそうでしたけど“罠”っていう単語が聞こえましたよ!?」
「相手チームが動かなくなったらってどんだけ過酷なんですか! 戦時の国民学校じゃあるまいし!」


悠二、そして佐藤と田中までもツッコミに回る。
しかし奏夜は止まらない。


「ちなみに罠のレパートリーとしては、大型地雷に召喚のワナ、大洪水のワナを考えている」
「不思議のダンジョン!?」
「無論、エンカウント率は意図的に上げてある」
「モンスター出現するんですか!?」
「つるはしを使えば、地面の下には黄金の間に続く隠し階段が」
「隠し要素まで!!」


奏夜は話をどんどん脱線させていく。
付き合いの良い悠二、佐藤、田中にも責任が無いわけでもないが。


――結局、その後の良識的な話し合いの結果、ドッジボールという結論に落ち着く。
少なくとも、泥玉投擲戦線よりは数倍マシな結論だ。
奏夜は最後まで不服そうだったが(つまりあの提案は本気だった)、最終的にその案を容認した。


で、ゲームスタート。


アバウトな組分けとしては、池のいるAチーム。佐藤&悠二のいるBチーム。田中のいるCチーム。シャナのいるDチーム。吉田のいるEチーム。


「やれやれ、こんな寒空の中子供は元気だねぇ」


なんて、年寄りくさい感想をぼやきつつ、奏夜は試合状況を見学。
最初はAチームvsBチーム。試合開始からしばらくして、ふと奏夜は悠二の視線が、コート外に逸れていることに気が付いた。
悠二の視線の先を追うと、


「……ああ」


納得した。
Dチームの生徒たちが、シャナに親しげに話しかけている風景が、そこにはあった。


(平井がクラスのみんなと打ち解けてるのは嬉しいが、自分以外の奴と話しているのもまた面白くない、か)


若いねぇ。ただ、ドッジボールで余所見は禁物。


「あ、バカ!」
「へ、ブッ!?」


佐藤の警鐘と同時に、ボールが悠二の頭へとクリティカルヒット。
当然の結果として、悠二は衝撃でひっくり返る。


「うわっ! さ、坂井、大丈夫か?」


ボールを投げた池が心配する中、コートに奏夜が入り、悠二の容体を見る。


「足元がふらついてるし、軽い脳震盪だろうな。取り敢えず座って休んでろ」
「だ、大丈夫です……」


何とか立ち上がろうとするも、そう言ったそばから、また足がふらつき、地面に倒れる悠二。


「そんなナリでどうボールを回避するつもりだ? さっさと座って休め」


奏夜の呆れ調の指示に、悠二は覇気のない声で返事をし、生徒達の待機場へ。


試合結果。佐藤が最後まで健闘したものの、押しきられる形で、Aチームに軍配が上がった。
CチームとDチームがコートに入るのをぼんやり見ていると、コートから出た佐藤が奏夜の隣に座った。


「お疲れさん」
「は、はい……」


流石に疲れたのか、
息を切らしながら、佐藤が答える。


「あー、悔しいなぁ。勝てない勝負じゃなかったのに」
「けど、お前中々頑張ってたじゃないか。いつもより気合いが入ってたな」
「あ、わかっちゃいますか?」
「わかっちゃいますねぇ」


冗談めかした奏夜の言い方に、佐藤は疲れを忘れて笑う。
一方コートでは、田中とシャナが火花を散らす。


「ふっふっふ、ソフトでの凡退の借りを、今日この場で返すぜ。泣いてくれるなよ、平井ちゃん。俺が悪者になるからな」
「ふん、どうせ負けは決まってるんだから、無駄に疲れる前に降参したら? 優しく当てたげるわよ」


いつになく闘志に満ち溢れた試合である。
というか普通、授業の一環でここまでドラマチックにはならない。


「田中も何だか妙に気合い入ってるねぇ。――そう言えば、この前休んだ頃からだったっけな。お前らが変に頑張り出したのって」


びくっ!
佐藤の肩がはね上がった。


「何か素敵な出会いでもしたか?」
(す、鋭い!)
「具体的には、女性?」
(エスパー!?)


以前の電話の時も思ったが、この教師のポテンシャルは計り知れない。


「まぁ、お前にせよ田中にせよ、頑張るのはいいことだ。若い内は特にな。どいつもこいつも簡単に境界線を越えていく」
「……先生だって若いでしょう。そんな爺くさい」
「俺なんか。これからの世の中を面白くするのは、お前みたいなヤツだよ」


奏夜はけらけらと笑う。
そうこうしてる内に、舞台が整ったようで、クラスが緊張と興奮に包まれた。


「頑張れよ田中ぁ!」
「いよーっ、待ってました御大将!」
「平井さーん、頑張って!」
「体力バカに負けないでよー!」


エールの嵐に佐藤も加わる。


「田中ぁ! “こんなとこ”で負けてんなよ!?」
「………」


佐藤の言葉に、奏夜は違和感、というか確信を覚える。


(マージョリーに感化されたかね、これは)


悠二がシャナに憧れたように、マージョリーの強さに佐藤と田中が魅せられたのならば、あの頑張りの理由にも説明がつく。


(大方、マージョリーとマルコシアスに着いていきたいとか考えてんだろうな)


世間は狭い。知らないところでまた二人、非日常に巻き込まれていく。
他人が選んだ道に、いちいち干渉する気は無いのだが……。


それにしたって、である。


(どうしてこう、俺の周りの人間ばっかり……)


これじゃ、冗談じゃなく四年前と同じような状況になるかも知れない。
――ただ、成長する人間が変わるだけで。


「……面倒くさくなってきやがったな」
「えっ? 先生、何か言いましたか?」
「あ、いや、何でも」


思考がつい口から出ていたのに気付き、奏夜は慌てて佐藤にそう言う。
尚も首を傾げる佐藤の視線を振り切るように、試合の様子に目線を戻した。


試合はほぼイーブン。
ムード的には、シャナと田中の一騎討ち。また一人アウトになり、田中サイドにボールが移る。


「――っ!?」


シャナの目線が驚愕に染まり、コート外に集中する。
奏夜はなんとなーく、その目線の先にある光景を予想していたが、半ば仕方なしに、そっちにシャナの見る方向を確認する。


「……あー、やっぱり」


そこには予想通りというかなんというか、吉田が悠二を介抱していた。少し血が滲んだ坂井の指に、吉田がハンカチを当てている。


(平井、お前は悠二を見て何を学んだんだ?)


敢えてもう一度言おう。
ドッジボールに余所見は禁物。


「っせい!」


田中の放ったボールが、シャナの小さな体躯へと吸い込まれていく。


「――っ」


やや遅れてシャナが反応する。
踏ん張りが効かず、シャナが吹っ飛ぶ。


「っ、と!」


尻餅を付きながらも、シャナはしっかりボールをキャッチ。


「……これは、セーフなのよね?」
「かーっ! なんてしぶとい奴だ、ったく!」


田中、お前は何処の下っぱ戦闘員だ。
「平井さん凄ーい!」と女子の喝采が上がる。


「平井ちゃん凄いっすね……。田中だって、運動神経悪いわけじゃないのに」
「田中のポテンシャルが低いんじゃないよ。田中の力が上の中で、平井の力が上の上なのです」
「先生、それは某大手企業社長の台詞です」


律儀にツッコむ佐藤。ボケ役には欠かせない存在だ。


「ふーーっ」


シャナが気合いを入れて、ボールを構える。
洗練された空気に、田中のみならず、全員が気を張り積めた。
そして、鋭い瞳と共に、シャナが体重を片足に乗せる。


「っだぁ!!」
「来い!!」


田中が受け止める姿勢を取る。


だがそこで、シャナが体勢を崩した。
転んだ? いや違う。シャナは足でグラウンドの砂埃を巻き上げた。


アンダースローのようなフォームで、砂塵の壁の中へとボールを叩き込む。


(フェ、イント!?)


――アッパーカットの如きボールが、田中の顎に直撃した。


判定など取るまでもない。シャナの勝ちだ。


女子を中心に、クラスの皆が拍手喝采を上げる中、唖然とする佐藤の隣で奏夜がぽつりと、


「砂塵を巻き上げてボールの姿を隠すか……、あんな技あったな。フルスイングな野球漫画で」


メタな発言を呟いていた。


◆◆◆


その後の経過としては、田中という要を失ったCチームはDチームに敗退。


「痛って……」
「惜しかったな、田中」


顎を押さえる田中を、奏夜は肩を叩くことで労う。


「良い試合だった」
「あはは、お恥ずかしいっす、男として」


そんなことはない、と奏夜は思う。
事実大健闘だったし、シャナが相手なら当然の結果だ。


「授業終わったら保健室には行っておけよ。――後は俺に任せるがいい」
「えっ?」


田中の反応を見るより早く、奏夜はコートに入っていく。
腕時計が指す時刻によると――まだ授業終了までには余裕はある。


「平井」


女子陣の歓声に包まれるシャナに、奏夜がボールを拾いつつ、声をかける。


「勝負しねぇか? 俺と」


きょとんとした表情になるシャナ。
周りの生徒たちも同様だ。


「どうして?」
「いや、まだ時間が余ってるし、俺も少し身体を動かしたくなったんでな。お前が疲れてるなら、無理強いはしないが」


奏夜の挑戦的な眼に、シャナの瞳にも、戦いの時を彷彿とさせる光が宿った。


「いいわよ」
「よし」


笑い返し、生徒たちがコートから上がり、奏夜とシャナの二人のみとなる。
勝負の波乱を示唆するかの如く、日光を遮る曇天が空を覆っていく。


「教師でも容赦しないわよ、奏夜」
「やってみろ。田中の弔い合戦だ」


先生、俺死んでません。
コート外から田中の訂正が入る。


「音楽は凄かったけど、こっちではどうかしらね。勝つ気満々みたいだけど」
「当然だろ」


奏夜は、人差し指を天に掲げる。
すると厚い曇り空から、一筋の陽光が。


「一番強いのは俺だからな」


何処かで聞いたような台詞と共に、試合スタート。

◆◆◆


「基本ルールは同じ。ただし、ボールは必ずキャッチしなければならない。取り落としや、外野ボールが出た時点で負けだ」
「わかった」
「先行はくれてやろう」


余裕の雰囲気を漂わせる奏夜に、シャナは少しむっとくる。
だが、冷静さは失わない。


(あの余裕は、驕りからじゃない)


自分の力に、絶対の自信を持つが故の態度だ。


(なら)


様子見は無用。
奏夜を眼前に、シャナはボールを構え、


「っやぁ!!」


無駄なモーションを省いたシャナの投球が、奏夜へと放たれる。


――バシッ!
防御の構えすらそこそこに、なんと奏夜はその豪速球を片手で受け止めた。


「!!」


さすがのシャナも、目を見開く。


観戦する生徒たちも同じだ。
大人の身体能力があっても、あの豪速球は、両手こそすれ片手で受け止められるものではない。


「いい投球だ。だが、直線的過ぎるな」


ボールを弄びつつ、奏夜が笑う。


「確かに、普通に受け止めることはほぼ不可能だろう。それなら答えは簡単だ、インパクトの前にその威力を落としてやればいい」


両手をひらひらと見せる奏夜。
片手で受け止めたにも関わらず、両の手が赤くなっている。


それを見て、シャナがハッとした。


「あっ!」


「その通り。まず、投球の側面を右手で押さえる。摩擦力と回転でスピードの落ちたボールを、左手で受け止めりゃあいい。あはは、種明かしをすると大したことないね☆」


いや、もはや超人の領域だ。
☆マークなどでは誤魔化されない。


「――やるわね」
「音楽だけの優男だとでも思ったか?」


意地悪い表情の奏夜に対し、シャナも好戦的に口角を釣り上げる。
それからしばらく、この世のものとは思えないラリーが続いた。
クラス全員が、そのプロ顔負けの試合に釘付けとなる。


と、そこで一旦は差し込んだ光も影を潜め、暗い雲から生み出された大粒の雨が、グラウンドに降り注ぐ。


「わーっ、雨!?」
「ちょっ、強っ!」


観戦席から悲鳴が上がる。


「ふむ、酷くなってきたな。おーい、濡れたヤツや汚れちまったヤツは、クラブハウスのシャワー室を使うよーに。緒方、みんなに場所と使い方教えてやれ」
「えっ、いいんですか?」


いきなり話をふられた緒方は当惑する。
無論バレー部員として、あの施設の使い方は知っているが。


「ああ。カギは自分で取りに行けよ、俺から許可が出ましたって言えばいい。それで大体通る」
「はぁ……」


その傲岸不遜な言い方はどうかと思うけど。


「さて、平井。雨天途中中断なんざ、味気ないよなぁ?」
「当然!」


雨に打たれながら、奏夜とシャナは互いに同意し、試合続行。


「いいぞーやれやれー!」
「せんせーい、シャワーはこの試合終わってからにしまーす!」


抜け出す人間は一人も出なかった。
シャナvs奏夜の対戦カードは、シャナvs田中と同じくらいに白熱していたのである。


(さてと、このまま行ってもジリ貧だしな……)


あの手で行くか。
奏夜は軽く助走をつけ、足を大きく前に踏み出す。


バシャッという水音がし、水溜まりから泥水が跳ね上がる。
シャナが使った、ボールを隠したフェイント技だ。


(どうして、二番煎じが意味を為さないのはわかってるはずなのに)


自分が使った手なのだから、タイミングをずらすことも予想は出来ている。
泥水の壁の何処かからボールが飛び出してくるのは間違いないのだから、自分はそれを待てばいい。


――だが、シャナの目論見に対し、ボールは一向に投球されてこなかった。


「……?」


跳ね上がった泥水が、重力法則に従って落ち、泥水のベールが剥がされる。
そこに立っていたのは、無論奏夜。だがその手に、ボールはない。


「何処に……」
「さて、どこでしょーか♪」


軽く両手を広げた奏夜。


「!!」


シャナは気付いた。


(しまっ――)


だが、気が付いたとしても僅かに遅い。




ポーーン。




“上空に打ち上げられていた”ボールが、シャナの背中に当たり、気の抜けた音を立てた。


(……泥水の壁は、そこに私の気を剃らして、その隙に上空へ投げたボールを悟らせないため)


自分の肩から地面に落ちたボールに目をやりながら、シャナは本当に悔しそうに拳を握り締める。
ギャラリーの生徒たちは勝負が決したと理解するのに、数秒を要した。


決着。奏夜の勝ちだ。
勝利の余韻に浸るでもなく、奏夜はシャナの側まで雨水に濡れながら歩いていく。


「いやー、強いな平井。ギリギリだった」


嫌みも何もない、純粋な労いがかけられる。


「最後のも不確定要素が結構あったし、次は負けるかもしれねぇな」


嫌な気分にはならない。
悔しさはあるが、むしろ清々しい気分の方が大きい。
だがそれでも、シャナの負けず嫌いな部分が、せめてもの強がりを言う。


「……かもじゃない。絶対勝つ」
「っはは、おっかないおっかない」


シャナは笑いながら、奏夜の手を自分の手で打ち鳴らす。
パシッ、という乾いた音が、雨中の決闘の終結を告げた。


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  1. 2012/03/21(水) 20:57:16|
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