紅蓮の牙

二次創作中心。仮面ライダーキバと灼眼のシャナのクロスを連載中。

スポンサーサイト

上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。
  1. --/--/--(--) --:--:--|
  2. スポンサー広告

第六話・カルテット/心の声を聞け!.後篇


「やれやれ、自在法の震源を突き止めたと思えば、よりによってここかよ……」


愚痴りながら、奏夜はヘルメットを外す。
紅邸を飛び出したシャナを追うべく、マシンキバーを走らす奏夜が辿り着いたのは、フリアグネとの決戦の舞台となった、あの廃デパートだった。


あの戦いは『爆発事故』で片付けられているが、それでも未だにブルーシートがあちこちに張られ、バリケードとなるカラーコーンも置いてある。


「屋上に封絶が張られてるな」


頭上を見上げながら、キバットが言う。


「多分平井と『弔詩の詠み手』がドンパチやってんだろ。……平井もツラいだろうな。『なんてところにいるのよ』か。全くその通りだな」


この場所は否応なしに、悠二のことを思い出させるはず。
ただでさえ落ち着きや冷静さが欠如している今のシャナへ、更に追い討ちをかけるファクターだ。


「んじゃま、課外授業の監督に行きますか。――キバット!!」
「よっしゃあ、キバッて行くぜぇ!!」


奏夜が翳した手に、キバットが勢いよく噛み付く。


「ガブッ!!」


ステンドグラスの紋様が奏夜の顔に浮かび上がり、鎖となって腰に巻かれたキバットベルトにキバットが止まった。


「変身!!」


奏夜を覆う光の鎖が弾け飛び、その姿をキバへと変えた。


「はっ!!」


常人離れした跳躍力で、近くにある建物から建物へと飛び移りながら、キバは屋上へと文字通り駆け上がった。


マシンキバーは決して遅いバイクではないが、フレイムヘイズたるシャナと比較すれば、後者が圧倒的に速い。


間に合っているといいのだが。


段々と、屋上の景色が見えてくる。
紅蓮と群青の炎の中に、炎髪を靡かせるシャナと『トーガ』を纏うマージョリーの姿も視認出来た。


「とうちゃ~くっと」


上手く着地地点を調節し、二人の目を盗んでキバは屋上に降り立つ。
そこは丁度乗降口で死角になっており、影から戦いの様子を知ることが出来た。


「むっ、シャナちゃん劣勢?」
「みたいだな」


そう言っている内にも、シャナは獣が振り上げた右腕の一撃を喰らい、コンクリートの床に叩きつけられた。


「ぐ、う……」


瓦礫の山からふらふらと、贄殿遮那を杖代わりにしてどうにか立ち上がる。


「……本当にガキみたいな戦い方だな。ほとんど本能で攻撃してる上に、反撃とか防御とか、攻撃の繋げ方もすっ飛んじまってる」


悠二とのいさかいで心乱れているのは解るが、不甲斐ない。
敗北したとはいえ、キバの鎧と互角の戦い方をした存在とは思えなかった。


キバの抱くそれは、マージョリー側も同じらしく、


「あんた、本当にあの『炎髪灼眼の討ち手』? 本当にあの“狩人”をブチ殺したの?」
『ちいっと弱すぎんぜ。これだったら昨日の兄ちゃんの方がよっぽど歯応えがあったなァ。それとも、“狩人”が噂ほどでもなかったのか、ヒャッハ!』


獣の口元から顔を覗かせたマージョリーとマルコシアスが言う。
さすがのキバでも、フォローの言葉が見つからなかった。


「も、あんたいいわ。これ以上邪魔しないってんなら、あと一撃で見逃したげる」
『そだな。あんま楽しめねえし、でけえの一発でシメにすっか』


マージョリーが再び顔を引っ込めた途端、周囲を浮かぶ火の玉が勢いよく燃え上がる。


『月火水木金土日、誕婚病葬、生き急ぎ』


――破壊の旋律が紡がれる中、キバはシャナの唇が僅かに動くのを見た。


「……どうして」


悔しさに顔を滲ませながらも、シャナはまだわからないようだった。


何故、悠二がいないことが不満なのか。
何故、自分の中の『なんにもならない』気持ちが消えてくれないのか。


『ソロモン・グランディ♪』


火の玉が七本の炎剣に変わり、シャナの周りに突き刺さった。
と同時に、獣の中で膨大な存在の力が圧縮される。


「お、おい奏夜! アレやべーんじゃねぇか!?」
「……」


逸るキバットに対し、キバは無言でシャナを見るだけだ。


「奏夜、何ボサッとしてんだよ!! あんなもんマトモに喰らったらいくらシャナちゃんでもただじゃ済まねぇぞ!」


キバは動かない。
まるで何かを待っているかのように。




『はい、それまで、よッ!!』




マージョリーが最後の詞を詠み終え、獣の口から群青の業火が吐き出される。




炎が小さなその姿を飲み込む直前、キバはシャナの心の音楽を聞いた。




「……悠二」





奏でられたのは、一人の少年の名前。


「――遅いんだよ」


キバの呟きと共に、シャナは屋上から放り出された。 ――奇しくも、フリアグネから落とされた場所から。


ただ――あの時と違うのは、シャナの表情が苦悶に満ちていたこと。


彼女が落ちた川の波紋が、燃え上がらなかったことだ。


◆◆◆


「………」


探査の場を荒らしたシャナを排除したマージョリーは、トーガの中で僅かに顔をしかめた。


「……マルコシアス」
『あぁ、気のせいじゃあなさそうだな。俺にも見えた』


勝利に酔いしれる間もなく生じた、一抹の違和感。そう、二人には見えたのだ。


――シャナが突き落とされる瞬間、彼女の前に現れた、コウモリを模した紋章を。


紅の魔皇力によって生み出されたシャナを庇い、群青の業火から彼女を守った。
タイミングこそ外れ、シャナは下に落ちてしまったが、それでもダメージはかなり緩和されただろう。


『ヒャーッ、ハァ!! 今日は客が多いなぁ!! そのくせ“屍拾い”には現れねぇってか、因果な話だぜオイ!!』
「お黙りバカマルコ。――出てきなさい」


つり上がった目付きのまま、乗降口付近に目をやる。




金属が擦れるような甲冑の音を鳴らして、異形の王が現れた。




「やっぱりアンタか」
「ご挨拶だな、『弔詩の詠み手』マージョリー・ドー。わざわざ俺が訪ねて来てやったのによ」
「思ってもないこと口にするもんじゃないわよ。何? アンタって意外と軟派なワケ?」
「おいおい、言葉に気を付けた方が良いぜ。俺は『軟派』という言葉にいい思い出がないんだよ」


唯一尊敬する人間の、唯一尊敬したくない部分を重ねられ、キバは仮面の下で眉をひそめた。


「それで? お前達は相も変わらず“屍拾い”とやらを探しているわけか。俺が処理すると言ったはずなんだがな」
「アンタに指図される謂れは無いわ。ファンガイアが“紅世”の事情に首突っ込むもんじゃないわよ」
「そうもいかねぇな。俺様達にとっても、この街は意味がある。退けと言われてハイそうですかと納得はできねぇさ」
『そいつぁ、俺達にも言えることじゃねぇのかい、コウモリくん? ヒッヒヒ!』


キバットとマルコシアスにも、険悪な雰囲気が否めない。


「わからないわね。アンタ何しに来たのよ。昨日はケンカ売ってきたと思ったら、尻尾巻いてとんずらしちゃうし」
「言ったろ。俺はお前の邪魔をすると。――まぁ、今はちょっと喧嘩してる暇は無いんだけどな。下に落っこちたヤツを早めにピックアップしたいんだよ」
「……ああ、アンタあのチビジャリと知り合いだったんだ。
まったく、とことん軟弱なもんね。仮にも“天壌の劫火”のフレイムヘイズが他人と、しかもファンガイアの王と仲良しごっこなんて。弱いならいざ知らず、手を組む相手も選べないのかしら?」
「ふむ、確かに『今』のあいつが弱いのには同意しよう。だが、仲間とか手を組むとかいうのとはちょっと違うな」
「……?」


首を傾げる獣に、キバは宣告する。


「俺は教師で、あいつは生徒だ。可愛げの無いヤツだが、俺にはあいつを監督する義務があるんだよ」


キバとシャナの事情を知らないマージョリーの頭には、疑問符しか浮かばない。
だが、逐一説明してやる義理も義務も無かった。


「ま、それに関してはいいさ。俺はさっさと『炎髪灼眼の討ち手』を回収したいんだ。勝負ならまたしてやるから、そこどいてくんねぇかな」
「はッ! 冗談でしょ、正面切って邪魔をするなんて言ってきたヤツを、このまま逃がすもんですか」
『ヒーッハッハー!! 兄ちゃん、前回は消化不良のまま終わっちまったんだ、少しは付き合ってくれてもバチは当たんねーだろぉ!?』


沈静化していた群青の炎が再び弾ける。
シャナの違う色の存在の力が、キバの眼前に展開された。


「やれやれ、どうしてこう俺の周りには、面倒事しか集まらないのかね」
「お前が面倒事に首突っ込んでるからだろ。お前さんはもっと楽に生きるべきだと、俺様は常々思ってんだがな」
「っはは、違いない」


キバットの淡々とした意見に苦笑し、キバも腕を広げ、構える。


「第二ラウンドってとこかしら?」
「ファイナルラウンドかも知れないぜ?」


実力者の余裕。
敵と相対する高揚。
群青の炎がパチリと跳ねたと同時に、それは全て闘争本能に還元された。


『ハァッ!!』


第二ラウンドか、はたまたファイナルラウンドか。
経過と結果はどうあれ、キバと『弔詩の詠み手』の第二戦目が、こうして幕を開けた。

◆◆◆


――キバ、そしてマージョリーの激突から遡ること一時間。
坂井悠二は、吉田一美と共に、彼女の弟への誕生日プレゼント探しに付き合っていた。


本来なら、二人の友人であるところの池速人も一緒だったのだが、彼本人の粋な計らい(空気を読んだ、とも言う)により、現在は二人きり。
吉田がその間、ずっと顔を紅潮させっぱなしだったのは言うに及ばずだが、沈んだ気分にプラスして、その姿を微笑しく思ってしまう悠二に、その真意は伝わらない。


奏夜が指摘した通り、彼は元来鈍いのだ。


「ずいぶん歩いたし、少し休もうか」
「は、はい」


御崎アトリウム・アーチと呼ばれる高層ビルの広場にて、悠二は吉田にそう提案した。


「何か飲みたい物ある?」
「えっと、それじゃあオレンジジュースを…」
「うん、わかった。買ってくるから、そこのベンチで待っててよ」
「はっ、はい!」


悠二と吉田の朗らかな会話。


――その和やかに続く会話を引き裂いたのは、すぐ近くで上がった悲鳴だった。


『!!』


驚いた二人が悲鳴の上がった方に目線を向ける。


「ごちゃごちゃ騒ぐな、どきやがれ!」


見ると、ボサボサの髪に眼鏡をかけた中年男性が、女性の首筋に先端の尖った傘を突き付けながら、周囲の人々を威嚇していた。


余りにも衝撃的な光景に、吉田はびくりと肩を震わせ、身体を強張らせる。
片や悠二は、驚愕に支配されながらも、冷静に思考を巡らせていた。


あの男、見たことがある。
数日前に都内の収容所を脱獄して、指名手配になっている殺人犯だ。
ニュースでも取り上げられて、悠二もそれを目にしている。
慌てぶりから察するに、警察に見つかりでもして、人質を取りながら逃走中、というところだろう。


(それなら警察の人も直ぐ来るだろうけど、でもその間、人質の人が無事でいる保証は……)


沈み込んでいたとは思えないほどの頭の回転の速さだったが、状況が把握出来ても、今の悠二では何も出来ない。
何かを成すだけの強さを持つ少女も――今はいないのだ。


(くそっ! これで一体何度目だ? 悔しい……なんてちっぽけなんだ!)


お前は何もわかっちゃいない。
奏夜から受けた言葉の刃が、再び悠二を斬りつける。


何だ、何がわかってないんだ?
何がわかれば、このちっぽけな存在を変えられるんだ?


重く、苦々しい、自分の弱さを噛み締める悠二。
その間、状況にも動きがあった。


犯人の前に、スーツを着込んだ男性が躍り出たのだ。
顔は良く見えないが、警察の人間だろうか。


「杉村隆! もう逃げ場は無いぞ、大人しく捕まり、罪を償いなさい!」
「うるせぇ!! こんなところで捕まってたまるかよぉ!」


杉村と呼ばれた犯人は、人質だった女性を男性に向かって突き飛ばす。
男性が慌てて人質の女性を受け止めた隙に、杉村は再び逃走を始めた。


「待て!」


人質の女性を近くにいた群衆の一人に預け、男性は杉村を追いかける。
だが、スタートダッシュにタイムラグがあった分、杉村にアドバンテージがあった。


――そこまでいって、悠二は気が付く。


杉村の走る延長線上には、何がある?


杉村の逃走ルート。
悠二のいる方向に向かっているものの、この辺りは広場であるからして、道幅が広い。悠二からはやや逸れた道を杉村は走ってきている。




そう――悠二から少し離れた場所にいる、吉田一美に向かって。




「吉田さん!!」
「っ!」


悠二が呼び掛けるが、吉田は動けない。
日常有り得ない恐怖は、人の精神、肉体を簡単に縛ってしまう。


「どけぇ!!」
「ひっ」


元々引っ込み思案な性格の吉田だ。
杉村の怒号は完全に追い討ちとなる。


吉田が退かないと判断した杉村は、もはや凶器となった傘を振り上げる。


「危ない!!」


もはや理屈も何もなく、悠二は吉田の前に躍り出ていた。


「坂井くん!?」
「どけって言ってんだろーがぁ!!」


対象が変わっただけで、杉村の手が止まる筈はない。
振り上げた傘は、容赦なく悠二へと降り下ろされる――




はずだった。




「っ!?」


杉村の手が止まった。


その場にいた全員が驚く。
しかし、一番驚いたのは杉村だった。


なぜだ? 手を止めるような理由は何もなかった。
だが傘を振り下ろす刹那、悠二の眼を見たと途端、何かに縛られるかのように凶器を持つ手が動かなくなったのだ。


――土壇場で、感情の統制が効かなくなった悠二が見せた表情。
それは吉田を傷付けようとした、杉村に対する敵意。
杉村を止まらせたのは、その敵意だった。




零時の狭間をさ迷う迷子。
その奥に眠る深い深い“銀色”の怒りに。




「杉村!」
「っ!」


傘を止めていた手を別の掴む。
先ほど杉村を捕らえようとした青年だ。


「悔い改めなさい」


強烈な右ストレートが、杉村の顔面を打ち抜く。
完全に不意を打たれた杉村は、その一撃で地に沈んだ。


激痛に悶えながらも暴れる杉村の右腕を後ろで押さえ、青年は杉村の服から器用にボタンを一つ千切る。


「記念に戴いておく。更正し、罪を購え」


青年は着ていた背広を使って杉村を縛り上げた。


「驚かせてすまない。怪我はないか?」
「は、はい。大丈夫、です……」


涙声でしきりに頷く吉田。
次に青年は悠二に目線を移す。
そこで悠二は、始めて青年の姿をはっきりを視認する。


「あっ」
「君は……」


青年――少し前、白い騎士となって悠二を助けた名護啓介もまた、彼の姿を見て声を上げた。


◆◆◆


杉村を警察に引き渡した後、名護は後ろにいた悠二と吉田を振り返る。


「こんなところで出逢うとは、奇妙な縁だな、少年」
「……? あの、坂井くん、お知り合いなんですか?」
「……うん、まぁ」


悠二は曖昧に言葉を濁す。
まさかあんな非日常的な場面で出逢ったなどと、口外出来たものではない。


「警察の方だったんですか?」
「いや。だが似たようなものだ」


名護もまた、自分の素性をぼかした。
『素晴らしき青空の会』は、一般人には知られてはならない存在だ。


「――しかし、さっきは見事だったな。君のおかげで杉村を捕まえることが出来たよ、ありがとう」
「いえ、そんな。大したことは何もしてないです」


偶然杉村が止まったから良かったようなものの、あのままなら自分も無事では済まなかった。


自分の身を省みず他人を守っても、それは意味がない。
自分が傷ついた分だけ、他人を傷つけるだけなのだ。


それに、


(――シャナの凄さには、全然及ばない)


名護は、悠二の顔に浮かんだ憂いの表情を見逃さなかった。




――ふっと、ある少年の顔が彼と被る。
落ち込んでばかりだが、何度挫折しても、立ち上がってきた少年の姿が。




「……いや、君の取った行動は正しいものだった」
「えっ?」


落ち込んだ悠二を名護は労いつつ、悠二に諭す。


「確かに無謀な部分は否めない。しかし、人間は何かを守りたいと思う時、理屈ではない行動を取ることもある。それに良し悪しはないんだ。
君は正しいと思ったからそうしたんだろう?なら、自分を卑下してそれを後悔してはいけない。――現に、君は彼女を助けているんだ。もっと自分を誇りなさい」


肩を叩き、悠二と吉田の間を通り、名護は立ち去っていく。
悠二は叩かれた肩を見て、慌てて名護の後ろ姿を追う。


「あ、あの!」


再び振り返る名護に、悠二は聞く。


「名前……、教えてくれませんか?」

「名護だ、名護啓介。まぁ、他に何か相談事があるなら、この先にあるマル・ダムールという喫茶店に来なさい。大抵はそこにいる。『君の身に振りかかったこと』については話せないが、それ以外なら何でも聞こう」


さりげなく、イクサや燐子の言及を封じて、今度こそ名護は広場の階段の向こうへと姿を消した。


「凄い、人でしたね……」
「……うん」


吉田の感嘆に、悠二も同意した。
しかし心の内では、ずっとさっきの名護の言葉が引っ掛かっていた。


『人間は何かを守りたいと思う時、理屈ではない行動を取ることもある』


それは――フリアグネの時にも思った。


シャナを助けたい。
それは自分に何が出来るかではなくて、ただ悠二自身がやらなければならないと、心に決めたことだった。


けど、


(……ならなぜ、あんな言葉を吐いたりしたんだ……あんな言葉を吐かせた僕の胸の奥は、どうなってるんだ、あの時の力は、いったいどこに行ってしまったんだ……)


さっきは、そう思えたのに。
ただ、助けたいと。


吉田を助けようとした時にはそう思えたのに、またすぐ、その気持ちは霧散してしまった。


(……先生、僕に、何がわかるっていうんですか。自分のこともわからないのに、その上シャナの気持ち、なんて)


シャナが抱いたものと同じ疑念。
その答えを、悠二はもうすぐ得ることになる。




とある“徒”によって。


◆◆◆


舞台は変わり、御崎市廃デパート、フリアグネの忘れ形見、宝具『破璃壇』の安置場所。


「あれ? 戦う相手が変わった?」
「ああ、みたいだな」


奏夜受け持ち一年二組のクラスメート、佐藤啓作と田中栄太らは、自分たちを『非日常』へと誘った存在、マージョリーとマルコシアスの戦いを、彼女の残した盤によって見ていた。


不鮮明な映像には、不可思議に蠢く影がある。
さっきまでマージョリーと戦っていたフレイムヘイズとは違う姿だ。


「さっきのフレイムヘイズは、姐さんが倒したよな。じゃあ、今姐さんは、誰と戦ってるんだ?」
「さぁな、ただ……」


佐藤の質問に、田中は自分の疑問を告げる。


「なんか、戦い方がさっきとは全然違う」
「? そりゃあ、相手が違うんだから当たり前だろ」
「そうじゃなくてさ。ほら、炎を全然使ってないってことだよ」
「あ……」


佐藤も気付く。
先ほどからマージョリーは、自分達に幾度か見せた『ジザイホー』という力で戦っていたが、それらは全て炎を使う物。
マージョリーと戦っていたフレイムヘイズも、僅かながらに炎は使っていた。


しかし、今戦っている影にはそれが見られない。
ほとんど肉弾戦で戦っているらしかった。


「……フレイムヘイズじゃない、“徒”って奴らでもないってことか?」
「んなもん俺に分かるかよ。何となくそうなんじゃないかって、思っただけだ」


二人は、再び盤へと視線を戻した。


と、マージョリーと戦う影が、何かを取り出す。
映像が鮮明でないから分かりづらいが、影はそれを、自分の腰あたりに持っていく。


「なっ!?」
「うわっ!!」


佐藤と田中が声を挙げる。
影は一瞬で、生物的なデザインに、手には銃を携える姿へと変わっていたのだ。


◆◆◆


「お前には、これが丁度いい」
『バッシャーマグナム!』


キバットが緑色のフエッスルを吹き鳴らすと、キャッスルドランから射出されたバッシャーの彫像が、キバの手に収まった。
彫像はバッシャーマグナムに変形し、腕と胸部が緑色の装甲、スケイルアームとスケイルラングに覆われ、キバの仮面にバッシャーの幻影が重なり、その色を緑に染め上げる。


キバットの瞳も同色に変わり、『キバ・バッシャーフォーム』への変身が完了した。


「フン!」


トリガーを引き、獣へと水の弾丸を発射する。
寸分違わず、弾丸はヒットするが、その中身は空。


「あっははは! ハズレー!」
『つ~ぎは当たるかな? ッヒャッヒャ!』


周囲からは、エコーのかかった声が重なって聞こえてくる。


炎弾を利用して作られた、トーガの獣の分身体。
優に四十はいる獣へ、キバは手当たり次第にバッシャーマグナムを撃ちまくる。
だが、また空。
そして分身は増えていき、炎弾を浴びせてくる。


「ちっ!」


地面を転がってそれを回避し、バッシャーマグナムを構えながら、本物のマージョリーを探す。


『ヒャハハハ! んな豆鉄砲じゃあ、百万発撃っても俺達にはブチ当たんねーぜぇ!?』


マルコシアスの挑発に、キバットはニヤリと笑う。


「ふっふ~ん、本当にそうかなぁ?」


キバがバッシャーマグナムの後部を、ベルトに止まるキバットにくわえさせる。


『バッシャー・バイト!』


キバットのコールと共に、キバは円を描くように腕を動かす。
すると、赤い霧が、夜の帳が、昼の空を包み込む。


「なっ!」
『夜とォ!?』


マージョリーとマルコシアスの驚愕をバックコーラスに、夜は更に深みを増し、気が付けばキバと獣の立つ地面には、バッシャーフォームのテリトリーたる、大気中の水分で作り出した『アクアフィールド』が生成されていた。
そして唯一の光源たる半月は、バッシャーフォームの力を最大限引き出すためのもの。


「ハァ~~~ッ!」


キバは祈りを捧げるかの如く、半月に向けて手を広げ、バッシャーマグナムを翳す。
マグナムに付帯したヒレ、トルネードフィンが回転し、アクアフィールドの水を巻き上げる。
さながら竜巻のようにキバを取り囲む水流は、バッシャーマグナムの発射口に凝縮され、一つの大きな水球を作り出した。


「俺からのプレゼントだ。――ハァッ!」


獣の大群に銃身を向け、トリガーを引く。
バッシャーフォームの必殺技『バッシャーアクアトルネード』が、獣目掛けて射出された。


水の弾丸は、まるで意思を持つかのように弾道を変えながら、トーガの獣を蹴散らしていく。
あっという間に分身は排除され、残る獣はただ一匹。


「っと!?」
『危ねッ!!』


獣はどうにか身体を反らし、水球をかわすが、


『無駄無駄。僕の弾丸は標的に当たるまで止まらないよ♪』


バッシャーマグナムから聞こえるラモンの声が言うように、『バッシャーアクアトルネード』にはキバの魔皇力が籠められており、その弾丸は狙いを定めた敵をホーミングし続ける恐ろしい技だ。
しばらく弾丸をかわし続けていた獣も、やがて水球を捉えきれなくなり、


「っぐ、うあっ!!」


トーガの獣に水球が着弾し、その身体にバッシャーの文様が浮かんだかと思うと、微動だにしなくなった。
『バッシャーアクアトルネード』により、物質としての結合が緩くなった獣にキバは近付き、


「フン♪」


キバが人差し指でちょんと触れただけで、トーガの獣は簡単に砕け散った。
中にいたマージョリーにも、ダメージが加算される。


「っ、はぁ、はぁっ……!!」


髪から水を滴らせながら、マージョリーはつり上がった眼差しで、周囲を見渡す。


しかし、キバの姿はもう何処にもなかった。
マージョリーに止めを刺す気は無かったようで、キバは本来の目的であるシャナの救出に向かったようだ。


『よ、よぉ。無事か? 我が麗しの酒盃、マージョリー・ドー?』
「……えぇ、何とかね」


清めの炎で滴る水を消し、マージョリーはグリモアを抱えて立ち上がる。


『ったく、とんでもねぇ野郎だぜ。異種族の力を完璧に使いこなすたぁな。しかも前の狼とは違ぇ奴を使ってやがった』


フレイムヘイズで言うなら、複数の王を従えているようなものだ。


『どーするよ? あの嬢ちゃんに比べて、キバは面倒だぜ。俺からすりゃあ、ブチ殺し甲斐があるってもんだが、“屍拾い”を先に見つけられると面倒だな。ヒッヒ』
「……ふん。向こうは探査の自在法も無いんだから、トーチに寄生して姿を隠してるラミーの野郎を見つけんのは無理よ。乱入してくんなら、次こそブチ殺してやるわ」
『ヒャーッハッハ!! 勝利の余韻が消されてご機嫌ナナメってかブッ!』
「お黙り」


マージョリーは沸き立つ敗北の苛々を、本をブッ叩くことで解消した。


◆◆◆


その頃、ビルの真下を流れる真名川の水面に、気泡が浮かんだ。


気泡は次々と生まれ、やがて水飛沫を立てながら、キバが飛び出し、岸の堤防に着地する。
その左手には、川に落ちたシャナが、ずぶ濡れになりながらも掴まっていた。


「ご無沙汰だな、“天壌の劫火”」
『キバ……! 何故ここに?』
「なに、ただの成り行きだ。気にしなくていい」
『……いや、礼を言わせて貰おう。手を煩わせたな』


コキュートスから聞こえるアラストールの普段と同じ声音に反し、シャナは先ほどから一言も喋らない。


目が完全に沈み込んでいる。


「――酷い顔だな」


シニカルな口調のまま、ついでにと思い、シャナへバッシャーマグナムの銃口を向け、ぼろぼろになった彼女の制服から水を吸い出した。


『ちょっと! 僕の力を脱水機代わりにしないでよね!』
「あー、悪い悪い」


ラモンの抗議をやんわりと流し、キバはシャナへと語りかける。


「『弔詞の詠み手』との戦い、見させてもらった。――実に無様だったな」


口から出たのは容赦ない叱責。
しかし、シャナにはもう言い返す気力すら無かった。


「なんだアレは? 考えも何もなく、突っ込んでいくバカが何処にいる。――事情は知らないが、大方あの“ミステス”とつまらない言い争いでもしたんだろう」


ピタリと言い当てられ(当たり前ではあるのだが)、シャナは肩を震わせ、膝を抱えて顔を伏せてしまう。


(こりゃ、ちょっと灸が効きすぎたかな)


キバは溜め息をついて、シャナの隣に座る。


「……詳しい内容には、知らないし興味もない。だが『炎髪灼眼の討ち手』。お前がやらなきゃならないことは、『弔詞の詠み手』と戦うことだったのか?」
「……?」


急な問いかけだった。


世界のバランスを守る。それを乱す者を止める。
それが、自分の使命だ。
間違ってなど、いない。


「世界のバランス? ふん、だからバカだと言うんだ」


キバはシャナを見ながら、ぴしゃりと言い放つ。


「フリアグネの時も言ったはずだ。自分の心を偽るなと。雑念があるまま戦って、果たせる使命などあるわけがないだろう。
ましてや世界のバランスを守るだと? 自惚れるなよ、未熟者が」


もはや侮辱ともとれる言い草に、しかしシャナは反論する気になれなかった。
極度の虚脱と悔しさからか、今の自分は、吃驚するほど冷静だったのだ。


(……私は)


戦って、何が得られた?


悔しさと敗北感だけだ。


違う。そんなモノを得たくて、あの場所に行ったんじゃない。


(私の、偽り……)


真実の扉を開きかけている少女を、キバは後押しする。


「俺の唯一尊敬する人の言葉をやろう」


――信頼している人、大切な人は多けれど、自分が尊敬する人物は、後にも先にもただ一人。
その人が未来に残し、自分を後押ししてくれた魔法の言葉を、今度がキバが伝える。




「これからは本当にやりたいことをやるんだ。心の声に、耳を澄ませろ」




「……心の、声に」


澄み切った言葉は、それこそ音楽の如く、シャナの心に響く。


「そうだ。心の声を聞き、どうするかはお前次第。――まぁ、頑張ることだ」


最後の言葉は、とても優しい口調で紡がれた。
キバはそのまま、呼び出したマシンキバーで去っていったが、キバの残した教えは、シャナの中に灯り続けている。


「私の、心の声」


眼を閉じ、自分を見つめ直す。


使命への渇望は、消えていない。
だがそれは酷く薄っぺら。


脆弱な感情の奥の奥。自分が、戸惑いと拒絶から、しまい込んでいた願い。


私が今、本当にやりたいこと。


それは――


「戦いじゃ、ない」
『………』


アラストールは否定しなかった。


使命を忘れたのか、と叱りつけても良い言葉にも関わらず、彼はただ黙って、自らの契約者の、零れ落ちるような声を聞いていた。


「嫌だ……、一緒にいてくれないのは、嫌だよ……」


涙声が混じる。
僅かなプライドから涙は流さない。
代わりに、拳をきつく握りしめ、それに耐える。


戦いじゃない。


本当に望んだのは、傍らにいてくれる少年の姿。
自分に笑いかけてくれた、あの不思議な“ミステス”。




「私は、悠二に……」


感情の渦を塞き止めかけるが、もう遅い。


彼女の願いは、ついに心の奥から吐き出された。
本当にやりたいことは。
本当に望むことは。





                                                            
「悠二に、いて欲しかった……っ!」





――ずっと目の前にあって、けれど気付けなかった鎖。
それらを解き放つ想い――目に見えぬ繋がりは、確かな信頼と共に、再び動き出す。

スポンサーサイト
  1. 2012/03/18(日) 17:06:29|
  2. 仮面ライダーキバ/BLAZING.BLOOD
  3. | トラックバック:0
  4. | コメント:0
<<【感想】仮面ライダーフォーゼ 第27話.変・身・却・下 | ホーム | 第六話・カルテット/心の声を聞け!.前篇>>

コメント

コメントの投稿


管理者にだけ表示を許可する

トラックバック

トラックバック URL
http://syanakiva.blog.fc2.com/tb.php/14-70289993
この記事にトラックバックする(FC2ブログユーザー)
上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。