紅蓮の牙

二次創作中心。仮面ライダーキバと灼眼のシャナのクロスを連載中。

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第六話・カルテット/心の声を聞け!.前篇

(おいしくない)


学校を出て、シャナはただ歩く。
目に映る全てをうざったく思いながら、片手に持つメロンパンを頬張る。
普段なら、それは至福の時間のはずだった。


なのに、


(おいしくない)


厳選した銘柄にも関わらず、まるで砂をかじるような思いだった。


(おかしい)


原因不明の苛々は募るばかりだ。


いや、原因はわかっている。
至極単純な話――のはずだ。


(悠二が、やる気を無くした)


そう、ただそれだけのこと。
いつもと変わらない。
この街に来る前と、なんら違わない。




――悠二と出逢う前と、何も変わらない。




(それなら、どうして)


こんなにも、平静をかき乱される。


悠二が自分を拒んだだけだ。
悠二が一緒に来なかっただけだ。




悠二が――いないだけだ。




大したことはない。
……そのはず、なのに。


「全ッ然、おいしくない!!」


一際力を込めて、メロンパンを噛み千切る。
ピリピリした雰囲気は一向に消えることなく、ふと気が付けば、いつの間にか河川敷を歩いていた。
奏夜と悠二が話した河川敷でもあるが、それはシャナの預かり知らぬことである。


遮蔽物のない広々とした景色は、中々心の和むものだったが、今のシャナにとっては焼け石に水だ。


「焼き芋~、おいしい焼き芋だよ~」
「おひとつ~、いらんかね~」


メガホンで拡張された宣伝文句と共に、堤防沿いの道、シャナの進行方向から、一件の屋台が近付いてきた。
やや古めかしいデザインの服を着た少年と、屋台を引っぱる筋肉質な青年――ラモンと力の二人組。


シャナと屋台が近付き、双方目が合う。


『あ』


ラモンと力はシャナの姿を視認し、声を上げる。


「……なに?」


やや喧嘩腰でシャナが顔をしかめる。
――ラモンと力はシャナの正体を知っているが、シャナの方は彼らの姿を『バッシャーマグナム』と『ドッガハンマー』でしか知らない。
キバと彼らを結び付けられようはずがなかった。


「ううん、なんでもない。お姉ちゃん、焼き芋いらない?」
「おすすめ」


ラモンが慌てて誤魔化し、力が屋台の中から取り出した焼き芋をシャナに差し出す。
シャナはしばらく無言だったが、やがて力の手から焼き芋を引ったくるように受け取り、代わりに千円札を押し付けた。


「まいどあり」
「あ、お姉ちゃん、おつり……」


ラモンが言うより早く、シャナは河川敷に座り込み、焼き芋を頬張りにかかる。
その隙に二人はシャナに見られないよう、屋台の影に隠れた。


「ねぇねぇ。これってまずいんじゃないかな? お兄ちゃんが正体を隠してるんだから、僕らの正体も、お姉ちゃんに感付かれちゃうとまずいだろうし」
「いまの、うちに」


ラモンと力が逃げる算段をつけていた時だった。


「な~にやってんだお前ら」


いきなり割り込んできた声に、ラモンと力は飛び上がり、シャナはぼんやりと一瞥をくれる。


「お前……」
「お、お兄ちゃん?」


そこには、怪訝そうに首を傾ける紅奏夜の姿があった。


「お兄ちゃん、今日は平日でしょ。学校は?」
「振替の授業が重なって、午後は暇だったんでな。お前らこそ何やってんだよ」
「何って、見てわからない?」
「ばいと」
「いや、それはわかるんだけど」


わかるんだけど。


「そうじゃなくて、金とかならキャッスル……ゴホン、家にたくさんあるだろうが。今さら働かなくても」
「浅はかだねー、お兄ちゃん。汗水流して働いた結果得たものにこそ、本当に価値があるのさ」
「きんろう、たいせつ」
「……前にも言ったが、お前ら何で最近、目に見えて世俗的なんだよ」


下手な人間より人間らしい。
最近、彼らがモンスターであることを忘れつつある奏夜だった。


「……正体、バラしてないよな」
「も、もちろんだよ」
「のー、ぷろぶれむ」


やや冷や汗をかきながら、ラモンと力は答える。
二人は早足のまま、屋台ごと去っていった。
後には、奏夜とシャナがぽつんと残された。


『……』


奏夜とシャナは、互いに無言のまま、同じ方向に歩き出した。


「……ついて来ないでくれる?」
「俺の家はこっちだ」
「じゃあ道を変えなさい」
「めんどくさい。お前が変えろ」
「嫌よ」
「じゃあ俺も嫌だ」
「……っ」


シャナの顔に明らかな苛立ちが生まれる。


それからしばらくの間、二人は言い合いながら(正確にはシャナが一方的にがなり立て、奏夜がそれをのらりくらりとあしらっていただけだったが)、河川敷を抜け、住宅地にさしかかったところで、奏夜は立ち止まった。


見事な邸宅だった。
二階建ての洋風な外装に、広い庭園までついている。
門には、『紅』の表札。


一瞬、呆けたように紅家を見上げていたシャナを見て、奏夜は悪戯っぽく言う。


「入ってみるか? 俺の家」


◆◆◆


奏夜に連れられたシャナは、居間に案内された。


「適当に座ってろよ。今、何か出すから」


そう言い残して、奏夜は奥の台所に姿を消してしまう。
手持ちぶさたなのにまかせて、シャナは居間のあちこちを見て回った。


「……なにやってるんだろ」


ぽつりと、口から愚痴るような声が零れる。


――考え方が、虚無的になっている気がしてきた。
普通なら、理由なく誰かの家に上がりこんだりしないのに。
今日のことがあってから、何を思うにしても、悠二の顔が頭から離れない。


「……関係ない」


儘ならない苛々が、正常な思考をかき乱しているのだろうと、シャナは自分を無理やり納得させる。
部屋をうろうろするのに飽きたのか、シャナは次に、目についた二階への階段を上がった。


「……?」


二階に上がると、部屋の雰囲気がガラリと変わった。
職人の工房――そう表現してなんら遜色がない。
作りかけの型、ニスやその他の機材が、無造作に置かれていた。


(バイオリンだ)


音楽はあまりたしなまないが、一般的な知識としてなら心得ている。
その証拠に、試作品と思わしきバイオリンがあちこちに飾られていた。


素人目からしても、熟達した技術で作られているのがわかる芸術品の数々が、シャナを見下ろす。


――その中でふと、一器のバイオリンに目がいった。
ショーウィンドウに飾られた作品であり、それだけでも、他とは一線を画することが予想出来るが、シャナが注目したのは、バイオリンが放つ、強い力だった。


もはや異様――と言ってもいいだろう。


「何、これ……? 宝具じゃないけど、何か不思議な感じがする」


妙に気になるそのバイオリン。シャナは立て掛けられている作品の名を読む。




「BLOODY.ROSE。血塗られた薔薇……」




「っ!?」


今まで沈黙を守っていたアラストールが、息を飲んだ。


「アラストール?」
「……すまぬシャナ、バイオリンの横にある写真を、我によく見せてくれ」


アラストールが珍しく、焦燥を含んだ声で言う。
確かにアラストールの言う通り、ショーウィンドウの隣には、写真立てが飾ってあった。
ショーウィンドウに鍵はかけられておらず、それは難なく、シャナの手に渡り、コキュートスの前に示される。


写真に映っているのは、セミロングの髪の毛に、80年代の服装を着た二十代前半の男。快活な笑みを浮かべながら、バイオリンを構えている姿が収められていた。


(OTOYA.KURENAI、紅音也……?)


写真立てに走り書きされた名を読むシャナ。
確かあの男――奏夜の姓も『紅』だった。
ならば、この紅音也という男は、奏夜の縁者なのだろうか。


しかし、アラストールの受けた衝撃は、シャナのそれを遥かに越えるものだった。




『聞きたくば、教えてやろう!! 俺の名は、紅音也。えら~い人だ! いずれ、全世界の教科書に俺の名が載ることになるだろう!』




フラッシュバックする思い出。
傲岸不遜なあの男の態度が、脳裏を過る。


「なんだ、ここにいたのか平井」


振り替えると、奏夜が階段を上がってくるところだった。


「バイオリン、作ってるの?」
「ん? ああ。まあな」


ついと尋ねるシャナに、奏夜は特に気兼ねもなく肯定する。


「けど、まだ目標には到達していなくてな。必死に切磋琢磨してるトコだよ」


奏夜はそこで、シャナが写真立てを持っているのに気が付いた。


「――おっと、ケースの鍵閉め忘れてたか。ほら、その写真に入ってる人と、そこにあるバイオリン――ブラッディローズが俺の目標だよ」
「目標?」


奏夜は頷いて、ケースの中からブラッディローズを取り出し、シャナに掲げて見せる。




「俺の父さん。紅音也の作った最高傑作、ブラッディローズ。こいつを越えるバイオリンを作るのが、俺の目標なんだよ」




今度こそ、驚愕を隠すことは出来なかった。


(父親、だと!? 馬鹿な、紅音也は『あの時』に……)


混線していく情報を処理するアラストール。
奏夜はそのまま、バイオリンの弓を構えた。


「よし、いい機会だ。お前にも、俺の十億の演奏を聞かせてやろう。苛々した心に、音楽は良薬になるぞ」
「わ、私は別に苛々してなんか……!」
「はっはっは、遠慮することはない。音楽とは、いかなる人間にも与えられる」


シャナの意向をやんわりと無視し、奏夜の弓と弦が動き出した。


――音楽が、空間を支配した。


部屋のいたるところに反響する音色は、世界の総てを掌握し、その場にいる者を魅了していく。
それは、人外の存在も例外ではない。


(………綺麗)


最初は癪な気分で聞いていたシャナも、音楽が心に染み渡っていくにつれ、涼やかな音色に聞き惚れていく。
片やアラストールは、それを複雑な心境のまま鑑賞していた。


(紅の姓、風貌、言動、バイオリン……。確かに見逃せない共通項はある。だが、紅音也――あやつは確かに人間だった。これだけの歳月を、人間が生き抜くなど考えられぬ)


そう、有り得てはならない可能性、のはずだ。
だが、


『――ポロン♪』


弦を弾き、演奏を終えた奏夜は、柔らかく笑う。




「『どうだ? 俺の演奏は』」




笑顔に、あの男のそれが重なる。
あのプラス思考の塊のような表情は、誰にでも出せるものではない。


(他人の空似というには、あまりに――似すぎている)


そこまで考えて、アラストールはある情景を思い出す。


――今の契約者と同じく、この上なく誇りに思う存在。
最後の戦いを前に、あの男は現れた。
数多の戦いを共に駆け抜けた契約者“炎髪灼眼の討ち手”。
その生き様を愚弄する“太古の王”を葬り去るために。




眼も眩むような――




『蝙蝠もどき、力を貸せぇ!!』
『ガブリ!!』




真紅の鎧を携えて。




(まさか、キバを受け継ぐ者は……)


生まれた真実の欠片。
矛先が向かうのは、この紅奏夜という存在。
アラストールの疑念に対する答えを持つ彼は、先ほどの真剣な様子を引っ込めて、演奏を終えた後、一言も喋らないシャナを見る。


音楽の感想を求められているのだとわかり、シャナは眼を反らしながらぶっきらぼうに告げた。


「……良かった」
「さいですか」


満足そうに頷いて、奏夜はブラッディローズを棚に戻す。


「さて、と。コーヒーでも飲むか?」


――炎髪の仔獅子と、牙の皇子の奇妙な対談は続く。


物語を、加速させながら。


◆◆◆


「あれ、お前飲まないのか?」


机を挟んで、奏夜とシャナは向かい合う。
淹れたコーヒーを奏夜は何の問題もなく啜るが、シャナは黒い湖面を睨んだまま微動だにしない。


何か気に食わないテイストなのかと勘繰ったが、やがてシャナは、


「砂糖」
「は?」
「砂糖。あとミルク」
「……ああ、お前甘党だもんな」


普段の生活を見る限り、シャナの食生活はほとんどが甘味料で占められている。
フレイムヘイズに栄養バランスは関係ないのだろうが、さすがに駄目だろうというレベルで。
そんな超甘党さんに、コーヒーは大人の味なのかもしれない。


取り敢えずはリクエストに応じ、戸棚からミルクとスティックシュガーを袋ごと取り出し、スプーンを添えてシャナに手渡す。


――途端、シャナはスティックシュガーを軽く六本は開け、コーヒーの中にブチ込んだ。
コーヒーの中身が、『かつてコーヒーと呼ばれていたゾル状の何か』に変わる。


「………」


さすがの奏夜も引いた。
お前は何処かの猫背甘党探偵か。


「平井……、自分で淹れておいてアレだが、それ飲むの止めた方がいいと思うぞ」
「? 何でよ」
「いや、だってそれ、もはやコーヒーじゃないもん。液体じゃなくて固体だもん」
「私が何をどう飲もうと勝手」


忠告を聞き入れることなく、シャナはそれを口に運ぶ。
見ているだけで胸焼けがしてきた。


「……苦すぎて飲めないなら飲めないで、別の飲み物くらい出すぞ」
「別に構わない。わざわざ変えるのも面倒」
「だからってそんな飲み方するなよ。お前いつか成長バランス崩すぞ。せめて牛乳を飲め牛乳を。そうすりゃその小学生で通用しそうな背丈も、ぺったんこな胸も多少は大きなガッ!!」


気功砲ばりの速度で発射されたコーヒーカップが、油断していた奏夜の額にクリティカルヒットする。
痛みに悶える奏夜の前では、顔を真っ赤にしたシャナが息を切らしていた。


気にしてたのか。


とまぁ、そんな馬鹿馬鹿しい会話も交えながら、二人は静かに時を過ごす。
しかし、このまま何も話さなければ埒があかない。
奏夜は取り敢えず、自分からボールを投げることにする。


「今日、お前が癇癪起こして飛び出した後の話だがな」
「?」
「坂井と話したよ」
「っ!!」


――ピシッ。
コーヒーカップにヒビが入った。


悠二の名を出した途端これだ。実に分かりやすい動揺である。


「大変だったなぁ、平井。彼処まで検討外れなこと言われたら、イラつきもするわな」
「言いたいことはそれだけ?変な説教ならいらない」


どうやらこのことは、シャナの中で早くに抹消したい出来事のようだ。
その気持ちは十分わかるが、そうさせてはならない。


――拗れた関係から目を背けたところで、何も好転しないのだから。


「勘違いするなよ平井。別にお前を叱ろうってわけじゃない。今回のことは、どっからどうみても坂井が悪いしな。ただ、お前の対応次第で、この問題は早期解決も可能だった、という話さ」


努めて仏頂面をキープするシャナに対し、奏夜は反応を求めないまま続ける。


「お前が坂井に怒鳴っったのは聞いていたよ。訳の分からん単語が飛び交っていたが、それらを総合するに、お前はあいつに、何処かへ着いてきて貰いたかったんだろう?」


シャナは表情を曇らせ、顔を背ける。


――うるさい、嫌なことを聞いてくるな。


言外に、そう叫びながら。


「だったらあの喧嘩腰な態度はマイナスポイントだったな。着いて来て貰いたいのなら、そう頼めばいいことだ。それこそ、小学生でも知ってることだよ」


うるさい。


「もちろん、一番問題だったのは坂井の対応だ。けど、そこで一歩お前が譲歩すれば、ここまで面倒な状況にはならなかっただろうな」


うるさい。


「一時の感情に流されて、自分が真に望むことから、お前は目を背けた。いや、違うな。お前の場合は――」




「うるさいうるさいうるさい!!」




シャナの何もかもを拒絶する激昂に、奏夜が閉口した。


気に食わない。
この男のする質問全てが、自分の神経を逆撫でする。
自分の内側を観察されるような、嫌な気分。
形容し難い不快な感情に、シャナは襲われた。


しかし奏夜は、シャナの激情などまるで意に返さない。
ただ冷ややかな眼差しを向けるだけだ。


「楽だろうな、平井」
「……?」
「そうやって、自分の中に無かったイレギュラーな感情を隠し、拒み、戸惑う。それらが自分に跳ね返るのも厭わず、本当の自分から逃げ惑うだけ」


本当に楽な生き方だよ。
言い放つ奏夜の眼力に怒るでもなく、シャナはただ気圧されていた。


(どう、して)


フレイムヘイズである自分が、どうしてこんな只の人間に、威圧されているのだ。


「よく聞け平井、『うるさい』ってのは免罪符じゃない。酷く脆弱な、一時しのぎの防波堤だ。他人との間に生まれる関わりや感情から逃げ続けるのなら、お前の成長はそこで打ち止めだ」
「……関わりなんていらない。私に必要が時に、あるだけでいい」
「ほざきやがれ。ロクに人生積み重ねてねぇ癖に、生意気言うな」


シャナのせめてもの反撃さえも、奏夜は軽々と撥ね飛ばす。


「お前が言うのは、『持たざる者』の強さだ。成る程、確かに煩わしいものが存在しないのなら、そりゃあ強いだろうさ。だが、そいつの強さは『そこまで』だ。底の見える、見せかけだけの強さに過ぎない。
――お前、およそ人に関わらないような生き方をしてきただろ」


当たり前だ。


完全なフレイムヘイズは誰にもすがらない。
その一念は、『炎髪灼眼の討ち手』という存在を形成する過程の一つだった。


「それじゃあ駄目なんだよ」


シャナの根底を、根こそぎ否定する宣告。
奏夜は一瞬、人との関わりを削る要因の一端を握るであろう、“紅世の王”が蔵されるペンダントを非難がましく見て、直ぐに視線を戻す。


「自分を真に強くするのは、『他人から得られるモノ』なんだよ。『持つ者』には、弱点や面倒なことが沢山ある。けれど『持たざる者』と違って、『持つ者』には無限の可能性があるんだ」
「無限の、可能性?」
「人は誰かのためになら、何でもできる。誰かのためになら、いくらでも強くなれる。そういう意味だよ」


シャナに勢いよく指先を突き付けて、奏夜は言った。


「本当の自分から逃げるな。お前の本心は、他者を拒絶したくなんかないはずだ。――平井、お前が何故、坂井を連れて行きたかったのか、よく考えてみろ。答えは全てそこにある」


俺が言いたいのはそれだけだ。


奏夜はテーブルから立ち上がり、コーヒーの御代わりを淹れに部屋から出ていった。
後には、呆然としたシャナだけが残される。


「シャナ」
「……大丈夫」


アラストールの呼び掛けに対する返事にも、覇気が見られない。


――奏夜は、あの男は自分の内面を見透かした。
シャナ自身が理解出来ないことを、悩んでいることを的確に突いていた。
それは決して、シャナを傷付ける目的ではない。


自分と向き合え。
そうさせたかったが故の行動だった。


だが、今のシャナがその真意に気付くのは、いささか以上に難題だろう。
彼女は奏夜の言う通り、心の機微に疎く、何処までも未熟なのだから。


(私が、悠二を連れて行きたかった?)


そう、なのだろうか。


――まただ。また、自分のことが分からなくなる。
訳の分からない感情に、自分の存在が掻き乱される。




あの不思議な“ミステス”のことを、考える時に限って。




「っ、何で、わからない!!」


全てを覆い尽くさんとする思いの奔流を感じるシャナ。
己を理解出来ない自分自身に苛立つ。




――心の監獄に囚われるシャナを解放したのは、自らの使命だった。




「!!」


感じる。世の全てを成す“存在の力”。
それらを駆使する自在法の波が、全身を通り過ぎた感触を。


「アラストール」
「広範囲を探る自在法か。自在師だな、用心しろ」
「うん、行くわ」
「うむ」


自在法の流れを探り、使用された震源地を割り出す。
向かうべき場所、シャナが望む戦いを得られる場所は――


「……平井?」


コーヒーを淹れて戻ってきた奏夜が、部屋の中心で立ち尽くすシャナを見つける。
――いや、立ち尽くすのとは、何か違う。
まるで、あまりにもの衝撃に身を凍り付かせているような印象だった。


静観していると、やがてその凍り付いた表情が、燃えるような凄まじい怒りに塗り替えられる。




「なんて、ところに、いるのよっ!!」




ギリッ、と歯を噛みしめて、シャナは奏夜の脇を俊足のスピードで駆け抜け、紅邸の玄関から飛び出していった。


「……ったく、せっかちなヤツめ」


シャナの姿を見送って、奏夜はコーヒーを一気に煽る。
すると二階から羽音を鳴らして、キバットが飛んできた。


「おい、奏夜!!  今の感じ……」
「ああ、感じてたよ。恐らくは、昨日の『弔詩の詠み手』ってフレイムヘイズが使ったんだろうな」
「って、なに呑気にコーヒー飲んでんだよ! 早く俺様達も、シャナちゃん追いかけねぇと!」
「慌てるコウモリは貰いが少ないぜ、キバット。第一、あいつが行きたいなら、放っておけばいいさ」
「なっ!」


投げやりな奏夜の態度に、キバットは目を剥く。


「あいつは恐らく、戦いが自分の悩みを吹き飛ばしてくれると思っている。それが更に自分を追い詰めるのに気付いてない。なら、一度痛い目を見るのも人生勉強だろうさ。
今の平井じゃ恐らく『弔詩の詠み手』には遠く及ばない。歯向かう相手がただの雑魚と分かれば、『弔詩の詠み手』も見逃すだろうよ」
「けどよぉ。『弔詩の詠み手』がシャナちゃんを見逃す保障は何処にも無いだろ?
昨日の感じからして、あいつらまさに戦闘狂ってイメージだぜ」
「だから行かないとは言ってないだろ。俺達は今回、裏方に回る。平井が苛められ過ぎないようにする、言わば歯止め役さ」
「……薄々気付いてたことなんだがよ。お前って、誰かを強くするためなら、どんなものでも使うよな」
「それには語弊があるな、キバット」


奏夜はコーヒーカップを置き、玄関に足を向けながら言う。




「俺はあくまできっかけをくれてやるだけ――成長するしないは、そいつの自由だよ」
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  1. 2012/03/18(日) 16:26:17|
  2. 仮面ライダーキバ/BLAZING.BLOOD
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