紅蓮の牙

二次創作中心。仮面ライダーキバと灼眼のシャナのクロスを連載中。

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第一話・運命/WAKE.UP

優美な三日月の光が降り注ぐ夜。
漆黒の帳を照らす街明かりに一点、揺らめく不気味な陽炎。
その空間に囚われたものは、人間も動物も機械も、全てが活動する権限を奪われていた。


「わーい、義馳走だ御馳走だ!」


万物が停止した空間にあって、唯一蠢くのは人形の如き容姿を持つ異形――“燐子”
己が存在理由を実行すべく、燐子達は人間にその牙を向ける。
非日常からの侵略に気付くこともなく、人々は音も無き炎上を待つばかりだった。


「へっへっへ、じゃあいただきま――」





「おーおー、随分と派手な晩餐会じゃねぇか」





陽炎の中に響く高い声。
現実を隔てる境界線を越えて、一人の男がその姿を現す。


若い男だった。
歳の頃は二十代半ば。赤いマフラーと黒っぽいジャケット。
柔らかそうなセミロングの茶髪。その下にある表情は整っているが、今は掴みどころの無いシニカルな笑みを浮かべている。


「んなもん食ったら腹壊すぜ? お前らに腹なんて上等なもんがあるかどうかはしらね―けどよ」
「……貴様、何者だ」


突然の乱入者に、燐子達の視線は全て男に注がれる。
警戒心を一身に浴びながら、男は笑顔を崩し、代わりに獣のように獰猛な眼光を放つ。




「答える必要はないな。――断罪の牙の下、転生の輪廻に沈め!」




燐子達は気付いた時にはもう遅かった。
男の影は三日月をバックに歪み、その姿を変えていく。


破壊の魔帝たる『真紅の吸血鬼』へと――。


◆◆◆


「……うや! おい……、きろ!」


何だようるさいなぁ……。こっちはまだ眠いんだよ…。
軽くうめいて、布団を被り直す。


「おい奏夜(ソウヤ)! さっさと起きろ!」


ゴンッ!


「〜〜〜っ! 痛ってぇ!」


頭上から落ちてくる衝撃に飛び起きる。
顔面に落下してきたのは黒光りするフライパン。
空中には見慣れた金色のコウモリ。


「何すんだよキバット!」
「アホ! もう真面目な人間は活動を開始してる時間なんだよ!
さっさと起きろ!」
「それが昨日の夜中、身体張って人々の安眠を守ったヤツへの態度か! 俺は頑張ったんだよ! 疲れてるんだよ! 寝かせてくれよ!」
「今日は平日だろうが。さっさと着替えて学校行きやがれ。子供の規範になるのがお前の仕事だろが」
「子供の成長より、俺の健康だ」
「……教師のセリフとは思えないな」


お前がなんでクビにならないのかが不思議でならんわ。
キバットはそう言い捨て、クローゼットからハンガーにかけられたワイシャツを口にくわえ、ベッドの上に落とす。


「ほれ、早く着替えろ。朝飯は、静香がわざわざ早めに来て作ってくれたぞ。
静香、今年から大学生で忙しいのにな。お前はその厚意を無駄にしちゃうのか?」
「……わかったよ」


そこまで言われたら、もう反論の余地はない。
頭を軽く掻いて、身体を起こす。


――朝6時30分。紅奏夜、活動開始。


◆◆◆


ここで、彼のプロフィールを明かしておこう。


名前、紅奏夜。
年齢24。誕生日9月9日。
現在は一昔前の古い屋敷に一人暮らし――もとい、一人と一匹暮らし。
職業は御崎高校一年二組担任教師。専門教科は現国。
兼業――いや、本業でバイオリン修理もしているが、そちらはあまり知られていない話だ。


他に特筆すべき点は多々あるが、ここではそれは割愛させてもらう。


――その日、奏夜はいつものようにキバットに叩き起こされ、電話で嶋に昨晩の報告を済ませて家を出た。
多少の気掛かりはあれど、今は四年前に比べれば、あまりにも平和な世の中だ。


「そっか。あれから、もう四年なんだな」


春の空を見上げると、自分の中で四年前の様々な出来事が浮かんでは消えていく。
本当に、自分がこんな風に暮らす日がくるなんて考えられなかった。
名護さんや恵さんにも、「本当に変わった」とよく言われる。



――でも俺は、本当に変われたのだろうか。



そう自問自答する日々。


それが四年後――つまりは現在の彼の日常だった。


◆◆◆


「あ……、奏夜先生」


その日に受け持った授業を滞りなく終え、幸いにも学校に残って片付けるべき仕事も無かった奏夜は、近くのCDショップに立ち寄っていた。


音楽はいい。


自分の専門はバイオリンであるが、音楽にはジャンルの壁を越えて、作り手が込めた、それぞれ違う思いがある。
こうして様々な音楽を聞くことが、この四年間で奏夜の新たな趣味となっていた。
いつものように何枚か気になるCDを買い、店から出ようとした矢先に、後ろから声を掛けられたのだ。


振り向けば、自分が働く高校の制服を来た少年が一人。
見覚えがある。
一学期が始まってまだ一ヶ月あまり。
しかも奏夜が受け持つ学年は一年生であり、まだ覚えていない顔も多いが、さすがに自分のクラスの人間は覚えている。


「よう、坂井。奇遇だな」


気さくに返す奏夜に対し、返された当人、坂井悠二は「はぁ、どうも……」と曖昧に言葉を発す。


学校外で先生に会うというのは、意外に緊張するのだ。
まして、知り合ってまだ日が浅いなら、尚更である。


「先生、ここで何やってるんです?」
「何って、CDショップに来てるんだ。みんな目的は一つだろ」


そう言って、買ったばかりのCDが入ったビニール袋を見せる奏夜。


「奏夜先生、音楽好きだったんですか」
「おいおい、音楽は万国共通の文化だ。聞かないヤツなんてほとんどいないさ」
「――あはは。確かにそうですね」


からからと笑う奏夜の姿に、悠二もつられて表情を緩ませる。


――紅奏夜。
彼をよく知る人間ならば、万人が口を揃えて言う彼のイメージ。


『自由』。


基本的に生徒は放任主義。
学校行事にもほとんど手は出さず、生徒の希望に任せ、いかなる案にも、それがクラス全員の総意なら実行に移す。
登校時間は常にバラバラ。遅刻も珍しくない。
授業に置いても、はちゃめちゃな授業内容をすることも多々ある。


彼が御崎高校に赴任してから約二年。
クビにならないのはひとえに、彼の自由奔放スタイルに生徒ウケがいいこと、教員として最低限のルールを守っていることにある。


良く言えば自由。悪く言えば人格破綻者。
そんな混沌とした人間が彼、紅奏夜なのだ。


事実今も、彼は一人の生徒の信任を得た。



「ま、寄り道もほどほどにしとけよ」
「最近は世の中は物騒、ですか? それこそ万国共通ですよ」
「いや、なんかお前、幸薄そうな顔してるし」
「ひどっ!」
「はっはっは、冗談だっての。んじゃ、気ぃつけて帰れよ」


ひらひらと手を振って、奏夜はCDショップを後にする。



――奏夜の一言。


それが図らずも、数分後に起こる坂井悠二の運命を、皮肉なまでに予言していたことを、まだ、どちらも知らない。


◆◆◆


CDショップを出た奏夜が次に向かったのは、市内の外れにある小さなカフェだった。


『カフェ・マル・ダムール』。
正確な年号はわからないが、奏夜が知る限り、少なくとも30年近くは営業している。
ここのマスターが出すコーヒーは絶品であり、その筋の人間を何人も唸らせるレベル。
隠れた名店なのだ。


――紅奏夜が、ここの常連客になったのは約四年前。
それから幾度となく足を運ぶ――いや、運ばざるを得なくなったカフェ。
この日も奏夜は、付き合いの浅からぬ友人と会う約束をしていた。


しかし、


「っ!」


奏夜が異変に気が付いたのは、マル・ダムールの白い外装が見えてきた時だった。
時代を感じさせる古い作り。
しかし今、それらは全て、深く赤いドーム状の陽炎に覆われていた。


(くそっ! ここにまで!)


まさか、中にいる人はもう――
最悪のイメージを振り払い、陽炎のドームへと入り、加減など考えない力で、カフェの扉を開けた。


「あ……」


口から、驚愕と安堵の溜め息が洩れる。
店の中も、陽炎の色と同じ赤に包まれ、静寂が周囲を支配していた。
コーヒーを淹れるマスターも、天井で回る換気扇も、ここで飼われているマスコット犬ブルマンも、全てが動きを止めている。


その中で、動く姿はただ二つだけだった。


「ここはコーヒーを飲む場所……この世で一番神聖な場所だ。
この場所を汚すからには、相応の覚悟をしてもらわなくてはならんな」


鋭い眼光を放ちながら、唸るように低い声が店内に響く。


奏夜の目に飛び込んできた光景。


それは、狼のように鋭い風貌の男が、奇妙な人形の首元を掴み上げているというもの。
掴み上げられている人形は、苦し気に顔を歪めており、それは寸分違わず生き物のそれだったが、身体の節々にあるパーツの継ぎ目が、それを否定している。


「が……ぐっ、な、なんで『封絶』の中で動ける……っ? お前、何なんだよぉ……!」
「それはこっちのセリフだ。……いや、構わんか。貴様が何者であれ、この場所を荒らした罪は重い」
「け、けけけ……バカめ、ぼくのご主人様が黙っちゃいないぞ……」
「ふん、面白い。ご主人様が仇を討ってくれるよう、せいぜいあの世で祈るんだな」


ごきり。


気味の悪い音と共に、男は人形の首を折った。
人形は悲鳴を上げる間もなく、霞みとなって消えていく。


「次狼」
「……奏夜か」


ようやく奏夜の存在に気付いたらしく、次狼と呼ばれた男は、人形の残骸に一瞥をくれ、奏夜に目線を移す。


「『闇の盟約』の規制を緩和しておいたのが役に立ったな。俺がいなければ、ここにいる全員がこいつに喰われていた」
「……ありがとう」
「別に感謝はいらん、成り行きだ。……それに、音也との約束はまだ生きているからな」


素っ気なく次狼は言い放つ。


「それよりも、さっきの人形がお前の言っていた『燐子』とやらか? それに、この空間は――」
「ああ。『封絶』ってヤツらしい」
「ふん、なるほどな。確かに外界との接触は完全に絶たれている。
それで? これはどうやったら解除できる」
「俺が見た時は、『燐子』が消えて少し経ってから、勝手に解除されたけど」
「ふむ。ならば、待つしかないか」


次狼はカウンターに腰掛け、飲みかけのコーヒーを手に取った。


「……チッ、忌々しい空間だ」


時が止まったカップの中のコーヒーは、凍ったように固形化していた。


◆◆◆


「はい。奏夜くん、お待ちどうさま」
「ありがとう、マスター」


『カフェ・マル・ダムール』のマスター、木戸明に礼を言い、出されたコーヒーを啜る。


現在テーブルに座るのは、奏夜に次狼。
そして、二人の目の前に座る五十代くらいの男性――嶋護だ。


「すまないな、奏夜くん、次狼くん。私はまた何も出来なかった」
「気にするな、アレはさすがに仕方のないことだ」
「そうですよ。あの『封絶』ってのは、俺達から見ても異質ですから」


封絶にとらわれた事を悔いる嶋だったが、二人がそれを気にした様子はない。


「それよりも、今何が起こっているのかを考えるべきです」
「ふむ。『燐子』、か。ファンガイアの一種ではないのか?」



ファンガイア――
それは太古よりこの世界に栄える闇の一族。
人間と同じ姿を持ちながら、人間が持つ生命力の源たる力――ライフエナジーを糧とする。
人間を餌以上の存在と思うことなく、ただ人間の命を貪る怪物。


だが、その見識はもう昔のものだ。


――四年前、奏夜は嶋護率いるファンガイア討伐組織『素晴らしき青空の会』と共に、ファンガイア一族から人々を守っていた。
死闘と様々なすれ違いの末に、人間とファンガイア、二つの種族の長きに渡る戦いは『両者の共存』という形で幕を閉じた。


この四年間に、ファンガイアを統べる存在『キング』は、ライフエナジーに代わる新たな食糧エネルギーを開発。
それらをファンガイア達に支給することで、人間を襲うファンガイアは格段に減少し、今では人間となんら変わらず、静かに暮らしている。


しかし中には、まだ古くからの『人間は餌』という考えを捨てきれないファンガイアも少なからずいる。


今回の一件を、嶋はそう推理したのだが、


「違いますね」


奏夜がそれを否定する。


「その根拠は?」
「まずこの『封絶』です。ファンガイアにも魔術を使うヤツはいますが、こんな高度な技術は見たことがありません。
先代キングなら、まだわかりませんけど」


最後に呟かれた名前。
それに次狼が顔をしかめたが、奏夜は構わず続ける。


「もう一つ。これは次狼からの判断なんですが、ファンガイアとライフエナジーの食い方が違うみたいなんです」
「食い方が違う?」
「食う量が違う、と言った方がいいかもしれんな。
ファンガイアが食うのは、人間が生きるために必要な生命力としてのライフエナジーだけだ。
しかし、人間には元来、その人間が『存在』するために必要である根源的なライフエナジーがある」
「根源的な、ライフエナジー……」
「仮にこれを『存在の力』としよう。
あの燐子という化け物、生命力としてのライフエナジーだけでなく、『存在の力』としてのライフエナジーまで食っているんだ」
「その『存在の力』とやらを食われると、どうなる?」
「………」




――その人間は、いなかったことになるな。




重い衝撃が、その場にいた全員にのし掛かる。
話した次狼本人にも、だ。


「いなかったことになるって、どういう意味だよ。次狼」
「そのままの意味だ。その人間が存在したという記録、その人間を知る人々の記憶。
それら全てが消滅し、食われた人間が存在していたと証明できるものは、何一つとして………消、え、る」


食われた人間を例えたつもりか、次狼は空になったカップをテーブルに置く。


「今のところ情報は『燐子』と『封絶』という単語のみ。それさえも、敵から聞き出したに過ぎない、か。
……事態は、思っている以上に深刻のようだな」


嶋の判断に、二人も同意する。


「一度、太牙に連絡を取ってみよう。キングである彼なら、何か知っているかもしれん。
奏夜くん、キミは引き続き、『燐子』を探してくれ。我々ではどうやら『封絶』には入れないらしいからな。
基本的には討伐優先だが、出来る限り情報を聞き出してくれるとありがたい」
「わかりました」
「次狼くん。キミの立場はわかっている。協力とまでは言わないが、もし何かわかったことがあれば連絡してもらいたい」
「……ふん、仕方がないか。これも約束の内だろうからな」


棘のある言い方だったが、次狼は一応は了承し、マスターにコーヒー代(一万円)を支払い、店内から姿を消した。
奏夜も残ったコーヒーを飲みほして、席から立ち上がる。


「奏夜くん」


カフェから出ようとした奏夜を、嶋が呼び止める。


「すまないな。出来ればキミを巻き込みたくはないんだ。
キミは四年前からずっと、戦い続けてくれている。そのことには、感謝しても仕切れないくらいだ。
だからなるべく、我々の手で始末をつけたかったんだが……」
「あはは、何を藪から棒に。
名護さんに兄さん、健吾さんも海外で活動してるし、恵さんも引退した身じゃないですか。
俺しか動けないなら、俺がやるしかないでしょう」


それに、と奏夜はからりと笑う。



「俺は俺のやりたいように生きてるだけですから」



その後ろ姿を見送り、二人は思う。



「本当に変わったねぇ。奏夜くん」
「……ああ、父親にそっくりだ」


亡き仲間の影を奏夜に重ね、嶋と木戸は昔を懐かしむように、微笑を浮かべた。


◆◆◆


「おぉ〜、上手く出来てるなぁ」


キバットが感嘆の声を上げる。


屋敷に帰った奏夜は、休む間もなく自分の本業――バイオリン造りに勤しんでいた。
奏夜の右手には、数週間前から造っていたバイオリンが握られている。


「大分親父に近づいたんじゃないか?」
「さあ……自分じゃなんとも。でも父さんがいたらきっとこう言うね。『息子が親を越えるにはまだまだ十年足らん』」
「あはは、かもな」


本当にそう言う奏夜の父――紅音也の顔が、二人の頭に浮かぶ。


「でも真面目な話。まだ父さんを越えられたとは思えないな」


奏夜の目の先には、父が作り上げた最高傑作のバイオリン――『ブラッディローズ』があった。


「あれから四年――本当に大きな壁だよ、父さんは」
「だな。でもアレには音也だけじゃない。真夜の魂も注ぎ込まれてんだぜ? 一朝一夕で越えられたら二人も立つ瀬がないってもんだ。
まだまだ人生は長いんだ。気長にいこうぜ。オレ様も見たいからな。『お前のバイオリン』」
「ああ、今に凄いヤツを作ってやるさ。俺は稀代の天才、紅音也の息子だからな!」


自信たっぷりに言う奏夜の様子は、とても輝かしかった。
完成したバイオリンを机に置き、夕食の支度をするべく、奏夜とキバットは一階に降りていく。


その時だった。



――〜〜〜♪



突然聞こえ出した高らかな音色。
奏夜とキバットが振り向くと、部屋の一角に飾られているブラッディローズが、独りでにその弦を震わせていた。


「――まぁ取り敢えずは目の前のこと、か」



◆◆◆


時刻はもう夕暮れ時。
人気の途絶えた公園で、奇怪な生き物が、仕事帰りらしい女性を襲っていた。


奇怪な生き物は一見するとサソリのような外観をしているが、その体表はステンドグラスのように妖しく煌めいており、不気味さをより一層助長していた。


「貴様のライフエナジー……我が糧とさせてもらおう」


空中に透明な牙が浮かび上がり、女性目掛けて射出される。
女性は死を覚悟したのか、目を瞑った。


「待〜て待て待て待てぇ〜い!」


突如飛来したそれ――キバットバット三世が、間一髪で光る牙を弾き飛ばした。
その隙に現れた奏夜は、化け物にタックルを決め、女性を救い出す。


「振り返らずに逃げて下さい」


女性は頷いて、一目散に逃げていく。
それを確認して、奏夜は化け物――ファンガイアに向き直る。


「何故人間を襲う。人間を襲うことに、もう意味はないはずだ」
「貴様、我々ファンガイアを知っているらしいな。
――しかし、随分と間抜けな質問をする」


ファンガイアはくつくつと笑い、奏夜に爪を突きつける。


「今のファンガイアは生ぬるい!
人間に肩入れするキングの作った人工エネルギーにすがり、誇りを失った腑抜け達だ!
人間は餌! 人間のライフエナジーを喰らうことこそ我らの誇り!
それを実行することに、何の理由が必要になる!」
「……なるほど。お前の言い分はよくわかったよ。――キバット!」
「おう! よっしゃあ、久々にキバッていくぜぇ!」


陽気な掛け声と共に、キバットは奏夜の右手に。
そのまま奏夜は、キバットの尖った歯で、自らの左手を噛ませる。


「ガブッ!」


キバットの牙を介して、膨大なる力――アクティブフォースが奏夜の身体に流れ込み、彼の顔に目の前のファンガイアと同じ――ステンドグラスの紋様が浮かび上がる。


腰には鎖が巻かれ、赤色の止まり木『キバットベルト』に変化する。
奏夜はキバットを正面に掲げ、叫んだ。



「変身!」



ベルトにキバットが逆さまに止まると、奏夜の身体全体を、光の鎖が包み込む。
やがて鎖が弾け飛ぶと、そこにはもう奏夜の姿は無かった。


血を想起させる真紅のボディに、銀色の甲冑。そこを血管の如く駆け巡るエネルギー供給機関、ブラッドベッセル。
身体のそこかしこに巻かれた封印の鎖『カテナ』。
そして、コウモリをモチーフにした黄色い大きな仮面――キバ・ペルソナ。


『仮面ライダーキバ』。


それが今の奏夜の姿だ。


「その姿……! そうか、貴様が『キバを受け継ぐ者』か!」


化け物――スコーピオンファンガイアは驚愕するも、すぐにその顔は狂喜に変わる。
キバはそれに臆することなく、スコーピオンファンガイアを指差す。


「お前の道が選べる二つ。
一つ。悔い改め、人間とファンガイアの共存を乱さぬと誓うこと。
二つ。断罪の牙にかかり、転生の輪廻に流れること。
さあ、選べ」
「ふん。知れたこと!
全ての発端である貴様を消し、堕落したキングの前に首を差し出してやる!」
「そうか。――なら、俺も容赦はしない!」


キバは両手を大きく広げるように構え、スコーピオンファンガイアに向かっていく。
キバはパンチと蹴りを主体とする格闘術。
スコーピオンファンガイアもまた格闘戦だが、こちらは両手に付いたハサミも、その攻撃力を上げるのに一役買っていた。


「ハァッ!」


拳のラリーの一瞬を突き、キバの重みが乗った拳が、スコーピオンファンガイアの身体を打ち抜く。


「くっ! おのれぇ!」


よろめいたスコーピオンファンガイアは直ぐに体制を立て直し、両のハサミから、半月状の衝撃波を発射する。


「ヤバっ!」


瞬時に危機を察知し、キバは横っ飛びにそれをかわし、走る。
衝撃波の当たった地面はざっくりと抉れ、いかにキバと言えども、当たればただでは済まないだろう。


「どうしたキバ! こんなものか!」


スコーピオンファンガイアはインターバルを挟むことなく、衝撃波を乱射してくる。
キバの脚力ならどうにかかわせるスピードだが、現段階では近づくことさえ敵わない。
避けた衝撃波は、周囲の景色を次々と変えていく。


このままでは押しきられる。
そう判断したキバは、今までがむしゃらだった走る方向を、スコーピオンファンガイアに定め、全力で地面を蹴る。


「バカめ! 自ら的へなりに来たか!」


決定的チャンスを見逃さずに、スコーピオンファンガイアは衝撃波を、自分目掛けて突進するキバに放つ。キバのスピード上、もう回避は出来ない。


しかしキバに、左右に回避する気はもう無かった。


「ハァッ!」
「なにっ!?」


スコーピオンファンガイアの驚く声を聞きつつ、キバは衝撃波ごと、スコーピオンファンガイアを飛び越え、その背後に回り込む。


形勢は逆転した。


「喰らえっ!」


逆転の好機に、キバは拳のラッシュを浴びせ、止めに渾身のキックを叩き込んだ。


「がっ、ぐ……!」


これにはスコーピオンファンガイアも耐えきれず、数メートル先まで蹴り飛ばされる。
衝撃で、しばらくは起き上がれまい。


「よし! チャンスだぜ!」


そう叫ぶキバットが止まるベルト、そのサイドケースから、キバは赤い水晶のような笛を取り出し、キバットの口にくわえさせる。



『WAKE.UP!』



ベルトから外れたキバットは、勢いよくその笛『ウェイクアップフェッスル』を吹き鳴らす。


「ハァ〜〜〜ッ!」


キバが両手をクロスさせると、何処からともなく赤い霧が立ち込め、空を黒く染め上げる。
まだ夜になるには早すぎる時間。にも関わらず、キバの力は常闇を呼び寄せ、キバフォームに最も適したフィールド、『三日月の夜』を作り上げた。


「ハッ!」


キバが思い切り右足を振り上げ、周囲を飛び回るキバットが、キバの右足に装着されている甲冑『ヘルズゲート』の鎖を解き放つ。
中から現れたのは、悪魔の翼を思わせる赤い翼。
残った左足で飛び上がり、真紅の翼でキバは飛翔する。


「ハァーーッ!」


三日月をバックに、キバは天から放つ必殺キック『ダークネスムーンブレイク』をスコーピオンファンガイアにキメた。
その威力は、倒れたスコーピオンファンガイアに致命傷を与え、その背後にはコウモリを模したキバの紋章が、さながらクレーターの如く刻まれる。


「グッ……おのれぇ、キバァァァァァ――!」


天を突く絶叫を残して、スコーピオンファンガイアの身体はガラスのように砕け散り、跡からは球状のライフエナジーが放出される。



――ギャォォォ!



空に響く咆哮。


持ち主の消えたライフエナジーを、キバの居城にして、彼の使役せしグレートワイバーンと呼ばれるドラゴンモンスター、『キャッスルドラン』がパクリと飲み込んだ。
そのまま飛び去っていくキャッスルドドランを見送って、キバは「ふぅ」と一息つく。


「お疲れさん。いや〜、いい汗かいたぜぇ。……ん? どうした奏夜、浮かない顔だな」
「……ああ。今までの生き方を変えられないファンガイアが、まだたくさんいるんだなって思ってさ」


そう言ってキバは自分の手を、たった今、『同族』であるはずのファンガイアを殺めた手を見る。


「俺と兄さんがやったことで、救われたファンガイアもたくさんいるだろうけど、逆に苦しむファンガイアもいるんだよな。この四年間、ずっと人間を襲ったファンガイアだけを倒してきたけど、それって正しいことだったのかって……今更ながら考えちゃってさ」
「奏夜。反対意見皆無の掟なんて、絶対に有り得ないんだよ。
ファンガイアの『人間は餌』って考え方は、何百年も前から続いた考えだ。変えられない奴らはいるし、そいつらを責めることは出来ない。
けどそいつらを倒さなきゃ、人が死ぬ。
俺様達が選んだのは、そういう罪を背負わなきゃならない道なんだ」
「キバット……」
「今更迷うなよ奏夜。みんなで選んだ『人間とファンガイアが共存する道』だ。俺様達も、お前と一緒に罪を背負ってやるさ」
「……そうだな。ありがとうキバット」
「気にすんな。俺様とお前の仲だろ?」


自分が生まれた時からの親友に感謝し、キバは変身を解いて、その場を去ろうとする。


突然、炎が視界を満たした。


◆◆◆



「なっ!」
「うぉ! またこれかよ!」


突如、公園全体を包み込んだ『封絶』は炎の先に見える世界との因果を切り離す。


「ちくしょう!
またあの燐子って奴らが――ん?」


キバットが違和感に気付く。


「奏夜、前に俺様達が見た『封絶』と、炎の色が違くないか?」
「えっ?」


キバットの言葉に、もう一度辺りに揺らめく陽炎を見る。


確かに言われてみれば、微妙に色が違う。
自分達が見た色よりも、更に煌々と燃え上がっている。


その色に名を付けるなら『紅蓮』か。


しかし、その差異に何の意味が――




「『封絶』も使わずに顕現するなんて、随分とお粗末な『徒』ね」





凛とした、威圧感のある声。
キバが振り向くと、そこには一人の少女が立っていた。


漆黒のマントのようなコート。
右手に握っているのは、少女の身の丈もある大太刀。
剣呑さを帯びた瞳と、棚引く見事な長髪は、『封絶』と同じ灼熱の赤を宿している。
この世のものとは思えぬ神秘的な雰囲気を漂わせる少女に、キバは驚愕しながらも、その姿に見入っていた。


「まったく、今日は変なやつに会ってばっかりね。妙なものを入れた『ミステス』に会ったかと思えば、次は『封絶』を使わない『徒』」


本当にわけわかんない街、と少女は少し愚痴るように言う。


『気を抜くな。先ほどこの『徒』から感じた力、かなりのものだぞ』
「うん。わかってる」


少女のものではない、やや渋みのある重い男の声に頷き、少女は射抜くような眼光でキバを見る。


「見たとこ、お前はここを根城にしてる『王』じゃないわね。
私達の邪魔をせず、何かしらの事情があるなら、見逃す余地をあげてもいいけど?」


少女の言う単語のほとんどは理解不能なものだ。
しかし、キバはその中から一つ、聞き逃せない言葉を拾う。


(私達の邪魔……?)


『燐子』が出現する度に現れる『封絶』。
そして今度は、この少女が現れた時に出現した。


キバの中にある仮説が生まれる。


まさかこの娘が――


「………」


キバは無言で、戦いの構えを取る。
その仕草を見て、少女の顔にも好戦的な笑みが浮かぶ。


「そう。ならこっちも、遠慮なくやらせてもらうわね」


少女が太刀を両手で握り締めると、刀身が紅蓮の炎を覆う。
その光景を静観するキバだったが、次の瞬間、少女は足を一気に踏み込み、キバとの距離を瞬時に詰めていた。


「っ!?」


信じられない速度で振り抜かれた刃が、反応の遅れたキバの身体を捕らえた。
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  1. 2012/03/16(金) 00:11:32|
  2. 仮面ライダーキバ/BLAZING.BLOOD
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