紅蓮の牙

二次創作中心。仮面ライダーキバと灼眼のシャナのクロスを連載中。

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【感想】特命戦隊ゴーバスターズ Mission10.戦う理由

・最初の戦いを見て思った。リュウさん他の二人と違って攻撃回避大変なんだなw

・「くだらねぇ……お前らカスだ!」
あああああまたリュウさんがぁぁぁぁぁぁぁ!
しかし片手のバスター撃ちはカッコイイ(え

・お姉さんと会うのを拒否るヒロム君。
お姉さんイラストレーターなのか……じゃあ一話の入院は元々病弱だからってこと?

・「お前姉さんに嫌われてるだろ!」
本日のヒロム君のストレート発言。
ニック、お前は自分を壁のシミと例えていいのか(笑)

・「どうせ行けない。方向音痴だから」
『……あぁ~」
あ、そうだったw

・「贈れ!今すぐ!待っている!」
珍しくマジェスティの会話が成立してる、だと……!?

・「どうしてあなた達は家族をバラバラにするの!」
うーん……言いたいことはわかるんだけど……お姉さん、それってヒロムの言い分ガン無視ですよね?小さな頃から言われてきたからそう思い込んでるだけ、ってのも、その認識自体が間違ってるかも知れないわけで……まぁこれは、答えが出ないタイプの問いなんでしょうけど。

・あの、エンターさん。子供の頭に触手とか、テレビの前のよい子が軽くトラウマになりますよ……?前回出し抜かれたから張り切ってるんですか?

・「何考えてんだ!作戦中に一般人を巻き込むな!」
「でも、俺はこうしなきゃと思った!」
ここの睨み合う二人がいいですね。その後ヒロムが「……わかった」と折れるまでの間、視線だけで全てを理解したって感じで。
やっぱり長い付き合いは伊達じゃないですね。

・何か今回のメタロイド、デザイン滅茶苦茶カッコイイんだけど!銃のメタロイドのようですが、剣も使うし、ヒロムと同じ加速能力もある……あれ、これ後半だすべきじゃね?

・武器を捨てて加速能力UP→しかしそれはプラフで空中で武器を組み立てバスターモードに
この流れが流麗過ぎて素敵です。

・結局資材はマジェスティの下へ。しかし彼らは人々を守る特命を帯びて戦うゴーバスターズ。
局長が最初わざわざ「誰も傷つけるな!」と言ったように、今回は間違いなく、ヒロム達にとっての勝利なのでしょう。

・「リカさんが俺の絵を書いてくれたー!」
ここのニックが本当に嬉しそうで、滅茶苦茶微笑ましかったです。お姉さんも、ニックとバラバラになりたくないと思ってくれたんですね。
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  1. 2012/04/29(日) 19:54:27|
  2. 【感想】特命戦隊ゴーバスターズ
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【感想】特命戦隊ゴーバスターズ Mission9.ウサダ奪還作戦!

前回のシリアスさから一転、滅茶苦茶なギャグ回……かと思いきや、ヨーコとウサダの絆がクローズアップされたなかなかのシリアス回。

・やけ食いするヨーコちゃんかわいいよヨーコちゃん

・「ウサダだけですけど何か?」
「一人は気楽だね」とか呟くあたり、めっちゃ気にしてんじゃんヨーコのこと。

・みんな機種番号じゃわからんのかウサダのこと……;
ここのヒロムとリュウジのシンクロが笑えるww

・局長の顔がすげえ冷めてんスけど(笑)
いや、職場にプライベート持ち込まれたくないのはわかるが。

・「ヨーコはまだ十六歳なんだから勉強も大事なの!」
喧嘩の原因はリュウさんとヒロムがヨーコの宿題をこっそり手伝ったから。
うん、保護者の立場からすればウサダ怒るよね……そらオーバーヒートもするわ。
しかしゴーバスターズは普通に学校教育もあるんですね。ヒロムとリュウさんの学生時代にも触れられるのか……

・ヒロム「どっちが先にできるか競争してたんだ!」
……ヒロム、それ体よく利用されて(ry

・だからマジェスティ話聞けやww

・ヨーコ「別に心配してないし!」
みんなの「ああ、心配してるんだね」っていう暖かい視線がいいです。

・今度は普通の誘拐犯ではなく、エンターに攫われてしまうウサダ。
しかしエンター、ムッシュウサダって何だよww

・ウサダ「ウサダがいなくなったら、ヨーコの面倒、誰も見てくんないよなぁ……」
自分よりヨーコの心配するウサダ、本当にいい子です。

・ちょ、ヒロムとヨーコの偽物超似てるwwwすぐバレるとか言ってるけど、今回みたいにわざとバラさない限り絶対分からんんぞwww

・「何か仕掛けてるなら、一度場を見出してみましょうか」
しかし、裏の裏をかいてくるエンター。やっぱり彼は今までの敵とは違いますね。

・「すっかり騙されましたよ……マドモアゼル」
エンターのエンター連打(笑)
しかしここまで彼がガチ切れしたの初めてですね……。

・ヨーコ&ウサダ『馬鹿ー!』
もうこの二人ホント可愛いなぁ!

・「俺達は三人じゃない!」「仲間で支え合うのがゴーバスターズだ!」
ここでしっかり整備士の皆さんが入ってるのがいいなぁ……本当に組織一丸となって悪に立ち向かっているんだなぁ。

・おお、合体せず三大マシンの連携とは!最後のフィニッシュシーンもかっけぇですね!
・「宿題?私は模範解答を頼まれただけだ」
局長ww

・「あの変装ですけど全然ダメですよね?」
いーや似てたよヒロム君。

・「平和だね~」「平和です」
激しく同意。なんだこのアットホームな秘密組織w
  1. 2012/04/29(日) 19:53:56|
  2. 【感想】特命戦隊ゴーバスターズ
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【感想】仮面ライダーフォーゼ 第32話.超・宇・宙・剣

神回すぎてヤバい。
そしてやはり髪を下ろした弦ちゃんはイケメン過ぎる

・「自分の友達を救う為に、他人の友達を奪っていいわけがない!」
なんかここ、初期の賢吾を考えるとグッときますね……本当に弦ちゃんと友達になれたんだなっていう。
流星は流星で「俺は絶対にお前を許さないぞ!」と言われた時の表情がもうなんか見てらんなかったです……きっと「もう後戻りできない」と改めて自覚してしまったんでしょうね。

・メテオスターまさかの自走。

・遂にタチバナさんライダー部サイドに接触。前回に引き続いて感情を露わにしてましたね……必死さが伝わるといいますか。

・「俺も誉められ人間じゃないッスけど……これよりクズな芝居は見たことがない」
JK超イケメン。

・「メテオも仮面ライダーだと思ってた!……でも違った!そんなの仮面ライダーじゃない!」
最近はメテオに守ってもらってばっかりだったからなぁ……友子としては、裏切られた悲しみはみんなよりも更に深いでしょう。
……まぁぶっちゃけ、メテオより酷いことやって尚、仮面ライダー名乗ってる奴ら結構いるけど(劇場版のニーサンとか)

・「如月弦太朗はここで終わるような男ではない!」
なんか「自分の目的の為に弦太朗は生かしておかねば」って感じの言い方じゃないよなぁ……巷で噂されてるけど、やっぱり賢吾の親父なのかな、タチバナさん(ラピッドハッチの外壁云々のメッセージまで知ってたし)

・「僕は約束を果たした…」
前回のバスターズでのエンターさんといい、今期の敵は律儀ですね。

・「いやいや、実に独創的で自由な活動だ」
理事長それマイルドに非難する時の鉄板フレーズです。

・「俺の為にお前は、自分を失った…」
これ、本当に流星を的確に表してると思うんだ。決して不幸せではなかった筈のライダー部の時間を捨てたこともそうだし、この後の「自分の本心を裏切った」ってセリフも、言い換えれば自分を捨てたってことだろうし。

・「こんな最後やだー!」
うん。やっぱりJKはこっちだwww

・「今更何しに来たのよ!」
ああ……これキツい……。流星の責任とはいえ……

・メテオドライバーを置く演出がまたニクいですね。仮面ライダーではなく、朔田流星として戦ってるって感じで。

・まさか田中で和む日が来ようとは…w

・「それでいい……助けに行こう!」
ここの弦太朗と賢吾の握手がすげーカッコいい。一話から築き上げて来たモノが見えましたよ。

・弦ちゃんおかえりぃぃぃぃぃぃ!
そしてOPキタァァーーー!

・「なんだそりゃ、別に詫びることなんて一つもねぇだろ!」
「お前も俺も、ダチを助ける為に全力で戦った!んでお前が勝った!ただそれだけじゃねぇか!」
全部受け入れられる器のデカさ!これでこそ弦太朗!

・そして遂に交わされた友達の証!
長かったなぁ……。

・「今から俺の身体は、超強くなる!」
最強フォームコズミックステイツ。
青が最強フォームの主役ライダーって初めてかな?ナイトを除くと。
んで、見た目とか技とかアクションとかは……正直どストライク。
元々ブルーって好きだし、あのゆっくりロケットが開いて出てくる刀身とか、フリーズ+ランチャーのユニゾン攻撃とか、神々しい感じの電子音とかマジかっけぇ!

・「そんな攻撃では傷一つ着かん!」ドヤァ
それにしてもこの賢吾、ノリノリである。

・え、ヴァルゴいつスイッチ回収した?似た力ってのが転送能力なのはわかるけども。

・タチバナさんは今後も積極的にライダー部と連絡取って来そうですな。
つまりは必然的に、彼の存在を知った理事長に対して足がつく可能性が……大丈夫なんかね?

・「お帰りなさい。秘密の仮面ライダー二号さん」

から~の、

・「ああ。――みんな、ありがとう」

の超絶コンボで私の中の感動ゲージがメモリブレイクされた。(※作者の語彙に多大なバグが生じたことを深くお詫びします)

おいおい公式はどんだけ私を満たすつもりですか……っ!
他ならぬ友子がドライバーを渡して、一度はその資格を失ったはずの流星を、またヒーローとしての名である『仮面ライダー』と呼んであげて、しかも当の流星は裏表のない本気の「ありがとう」だと……っ!?
これでしばらくは生きて行けるよ私!(落ち着け



感動の余韻のままに次回予告。
修学旅行編ですか……あのオジサンがレオゾディアーツですかね?
そして戦っていた場所――おや、おかしいな。あの場所にマツケンとパンツのライダーが見える(それは去年の映画だ
  1. 2012/04/22(日) 23:41:50|
  2. 【感想】仮面ライダーフォーゼ
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【感想】仮面ライダーフォーゼ 第31話.昴・星・王・国

……色々と絶句でした今回。

・さりげなくメテオが予告ジャックワロタwww
違うとわかっててもタチバナさんが解説してるように聞こえる……


・デンジャー→デンジャーデンジャーデンジャー→グッバーイ☆
賢吾のお父さん、アナタはこんな無意味なボイスまで設計図に入れてたんですか?www
あとこのシーン、アクセル登場話で翔太郎やったジョーカー乱打を思い出した人挙手ノ

・お、田中。よく橘さんに直談判できたな。権力には弱そうだったのに。

・借りた覚えがない「人形使い」の本。……凄く、フラグです。

・アリエス山田くん。聞くところによるとこの俳優さん、ディケイド版のムッキーだそうですな。
この俳優さんはイヤミな演技をする定めなのでしょうか…。

・アリエスの能力怖ぇぇぇぇぇぇッ!
羊モチーフなのは催眠能力があるからだったんですね……スイッチ無効とかどんだけチートよ。

・ユウキのシンクロ完璧+可愛いwww

・ホロスコープススイッチの回収が目的……?

・橘さんはどうしてこう後輩にナメられるんだよwwwしかも今回は蟹さんと違って確実に格上だから逆らえないしwww

・別に脚本の出来はどうだっていいんだけど、なんでよりによってヤンデレチックなストーリーなのよ?
いや、ユウキの妹ポジションはGJとしか言いようがないけど(え

・弦ちゃんやっぱり殺陣上手いなぁ。

・ダイザーさん久しぶりー!

・鉄パイプの扱いが鮮やかなのはやっぱり姫レッドだったからですか?w

・スタンプスイッチ面白いな……ワンピースでいうインパクトダイヤルみたいなもんですかね?

・「ダチの為なら、受け止めてくれると言ったよな……?なら受け止めて死んでくれ!」

ああ、メテオ……やっぱりこうなっちゃうのかよ……。
いや、予想はしてたよ?また戦い合うことになるって。
けど予想しててもこれは……だって流星完璧迷ってるもん。本音を言わないのが流星って人間なのに、わざわざ迷いを振り切るみたいに叫んでるし、トドメの一撃の時だって一度拳を止めてるし……!

・「なんてことを……!」
感情的なタチバナさん、その真意は果たして。

・「本当の想いが受け止められて嬉しいぜ……例え殺意でも、な……」

弦ちゃあああああああああん!



いや、なんかもう色々一杯一杯ですわ。
龍騎本編で真司が死んだ時と同じレベルのショックですよコレ……
  1. 2012/04/19(木) 17:17:29|
  2. 【感想】仮面ライダーフォーゼ
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【感想】特命戦隊ゴーバスターズ Mission8.マシン設計図を守れ!



・10分前を100分前……うん、俺ならキレるね←寝起き悪し

・「訓練を始めた時期の差は大きいんだよねー」
仕方ないじゃない。リュウさん28歳だもの。

・カメラに映るエンターさん何でそんなウキウキなのよ……あとポーズが無駄に乙女チックwww

・なんだろう。ウサダを撫でるヨーコに滅茶苦茶萌えた。

・「来るの早過ぎませんか?」
それが戦隊のお約束ですエンターさん。あとそのバレバレなコスプレも敵役の定番ですよ(笑)

・お、名乗りバンクかっけぇ!

・「ヨーコはピョンピョン飛ぶしなぁ」
「ひどい!」
「……俺が言ったんじゃない」
いや今のヒロム君が言ったようなもんだからwww

・高校時代の友達……なんか見た目の年齢が合わないような気が……リュウさんが若作りなのもあるけどさ。

・諦めてしまった夢、そして転送されてしまった先輩ですか……また新たな伏線ですな。

・リュウさんと突っ込んだ話ができないゴリサキと、その悩みを聞くニックとウサダ。……保護者会ですねわかります。

・エンターさんのホームセンターコスクッソ吹いたwwww
ヤバい、この人がどんどんお気に入りのキャラになっていくwwww

・リュウさんが少し怪訝そうな顔して、ヒロムがそれに気付いて……初期のヒロムなら、ここであのエンジニアの人を問い詰めてたでしょうね。
それをしなかったのは、やっぱりリュウさんに気を遣ったからなんでしょうな。まだまだストレートさは抜けないけど、 ちょっとずつ成長しとるんですね、ヒロム君も。

・「来ません!」
「来ませ~ん」
この二人の気の抜けた感じがイイ。

・「思ってたのと全然違うんだよ!」
就職にはよくある話。……俺的にはタイムリーなんでキツいです。

・「時間を間違えたとか?よくあることだしな」
ニック根に持ってたかww

・「これが止めた理由かな!?けど、どうかなっちまったのはお前の方だ!」
自分が諦めた夢を、叶えた人が簡単に捨ててしまったからこその怒りですね。

・エンターの金の渡し方が物凄い見下した感じ……ゴミ虫を見るような目と言いますか。
仕向けたのは彼ですけど、エンジニアさんのやったことに対しては、エンターも思う所があったんでしょうか。

・ソウガンブレード二刀流だと!?



次回はウサダ誘拐……まぁ、あの三人の中で一番捕まりそうなのはウサダですけど(酷)
  1. 2012/04/19(木) 16:23:58|
  2. 【感想】特命戦隊ゴーバスターズ
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第二十話・旅人/BLAZING.BLOODの世界.後篇

――小野寺ユウスケ達が、奏夜を拾う数十分前。紅邸で成された会話。

「じゃ、そんなわけでよろしく頼むわ」
「……ええ」
「なんだよ。不満そうだな」
「今の話のどこに、わたしを満足させる要素があったのかしらね」
「でも、引き受けてくれただろ」
「『これは主からの命令だ』なんて宣言しといてよく言えるわね。これじゃ、わたしに選択肢無いじゃない」
「ははは」
「笑い事じゃないわよ。まったく……」
「そう嫌な目で見ないでくれよ。キバットがいない今、頼れるのはお前だけなんだよ」
「シャナちゃんや名護さんは?」
「……正直な話、今回の敵はヤバそうなんでな。できるなら、俺一人で片付けたいんだよ」
「そう。……ねぇ、一ついいかしら?」
「なんだよ」
「あなた、自棄になってないわよね?」

「………」
「正直、不安なのよ。あなたはお兄ちゃんが捕らわれた途端、真っ先に私を頼ってきた。
簡単にそういう決断ができるのは、あなたがもう“自分の時間”を諦めてるってことなのかもって思ったから」
「……考え過ぎだよ」
「どうかしら? その割には、わたしとお兄ちゃん、タッちゃんとクイーン以外には話してないわよね。
――“あなたの時間”のこと」
「話す意味もないだろ。どうにもならないんだし」
「それ、本気で言ってる?」
「だから嫌な目すんなって。――今、キバの力を失うわけにはいかないんだ。わかってくれるだろ」
「ええ。理解はしてるし、力も貸してあげるわ。けど、絶対に納得はしないわよ」
「冷たいねぇ。ま、力の方だけはちゃんと貸してくれよ。んじゃ、そういうことでよろしく」




「……本ッ当にバカ。バレバレな嘘なんかつくんじゃないわよ」


◆◆◆


「あの門矢士って男、ただの人間じゃない」


ブランコに腰掛けるシャナが、いつもの無表情のまま告げた。


突如現れた謎の教師、門矢士。
彼が生徒達に強烈な印象を植え付けた日の帰り。
悠二はシャナに連れられ、市内某所の公園に来ていた。
御崎市では比較的広い公園だが、中途半端な時間だからか、人影はまばらである。


「士先生が? 僕は何も感じなかったけど」


連れてこられた矢先にそんなことを言われても、悠二としては混乱するばかりである。


『うむ、貴様の『零時迷子』による感覚は、常時働いているわけではないからな。無理もあるまい』


アラストールが話し終わるのを待ち、シャナが続ける。


「私達が感じたのも、殆ど勘に頼った違和感だけど、門矢士には何かある。これだけは確かだと思うわ」
「勘って……なんかシャナ達らしくないな。一体全体、士先生は何者なんだ?ファンガイアや“徒”の類なのか」


推論を立てるにしても、論理的な組み立てをするシャナが、自分の“勘”を信じるということは、それだけ得体の知れない相手ということか。


『違う。ただの人間ではないのは間違いないが、貴様達の定義する『人間』の範囲からは出てはおらぬ』
「えっ、じゃあ……?」


アラストールの意外な答えを、シャナが補足する。


「私達にもはっきりした言葉で、あの男の違和感は語れない。 それでも敢えて言うなら――あの男は、“世界から拒絶”されているの」
「世界から、拒絶?」
「光も、景色も、人でさえも、あの男を本格的に拒絶してる。まるで“歩く封絶”だわ」
「……そんな人間が、いるのか?」
「普通なら有り得ない。――だからこそ、あの男は異常なの」


シャナの口調には、明確な畏怖が込められていた。
彼女の見解をもってしても――門矢士の存在は、認知可能なレベルを超えているらしい。


「……士先生が、普通じゃないのは分かったよ。それで、具体的に僕らはどうすればいいんだ?」
「今のところ、向こうの出方次第ね。フリアグネの時みたく、あの男が何を企んでるか分かってる訳じゃないし……」




「士は何もしやしないよ。自分の瞳に、世界を写すだけさ」




『!!』


突然、いた。
シャナも悠二も、アラストールでさえ、声が発せられるまで、その男の気配に気が付けなかった、


「やあ、はじめまして。そこのお嬢ちゃんが『炎髪灼眼の討ち手』かな?」


遅れながらも、警戒の視線を向けるシャナ達に対し、青年は爽やかな笑みを浮かべる。


歳は二十代前半。
ライトブラウンのジャケットにジーンズを履き、やや横跳ねした髪型をしていた。


「やれやれ、“あのキバ”と会わないように姿を隠してたんだけど……やっぱりダメだね。どんなリスクも、お宝の魅力の前じゃ無意味だ」
「お前、何? 門矢士の仲間?」


困ったように頬を掻く青年に、シャナはそれだけを尋ねる。


「仲間、か。そう言われればそうかもね。君達の言う仲間とは、ちょっと違うかも知れないけど。――ま、君達には関係無い話さ」


青年は指先をピストルに見立てると、シャナ目掛けてバン、と撃つ真似をする。


「無駄話をしてる暇は無いから、単刀直入に言うよ。君の持つ宝具、『贄殿遮那』を僕に渡してくれないかい?」
「何ですって?」


シャナの目が見開かれる。
“愛染兄妹”の時を思い出す状況だった。


「僕は、様々な世界のお宝を集めていてね。史上最悪のミステス“天目一個”が残した名刀なら、僕が盗むに相応しいお宝だ。本当なら、そこの“ミステス”君の中身も戴きたいところだけど……」


悠二の肩が跳ね、シャナが悠二を庇うように立つ。


「でも、それはいいや。後味も悪くなりそうだし。というわけで、その代わりに贄殿遮那をくれ♪」
「――っ、誰が渡すか!」


シャナの瞳と髪が紅蓮に染まり、夜傘から取り出された贄殿遮那が、彼女の手に収まる。


「封絶!」


指先を天に掲げ、半円形の紅いドームが周囲を覆う。
しかし、青年は停止することなく、ただ感嘆するだけだ。


「ふーん。これが封絶ってやつか。 ちょうどいいや、邪魔が入らないなら、それに越したことはないしね」


シャナを相手にして、余裕の風格を漂わせる青年に、悠二は再び問う。


「あんた、一体何者なんだ?」


悠二の問いに、青年――海東大樹は不適に笑い、謎の戦士が描かれたカードを取り出した。




「そうだね。強いて挙げるなら、通りすがりの仮面ライダーってところかな?」




シアンにカラーリングされた銃器――ディエンドライバー側面のライドリーダーに、カードを装填。
ポンプアクションの要領で、銃をスライドさせる。


【KAMEN.RIDE】


紋章が浮かび上がったディエンドライバーを、海東はゆっくりと上空に向けた。




「変身!!」




声を張り上げ、トリガーを引く。


【DI-END!!】


発砲音と電子音が流れ、ディエンドライバーの銃口から、数枚のプレートが空中に打ち上げられる。
海東の身体に、幾重にも重なった虚像が、強化服、ディヴァインスーツとディヴァインアーマーへ。
落下してきた次元通行手形、ライドプレートが頭部に突き刺さり、鎧の色がシアンへと染まり、変身完了。




――仮面ライダーディエンド。
世界を旅するトレジャーハンター、海東大樹が変身し、複数の仮面ライダーの力を操る戦士だ。


「変わった?」
「ディエンドだって……?」


シャナ達の反応に、ディエンドは仮面の下で薄く笑い、彼女達へと銃口を向ける。


「さあ、贄殿遮那争奪戦の始まりだ!」


開戦の狼煙を上げるように、ディエンドライバーが火を吹いた。


◆◆◆

シャナとディエンドが戦う公園は、それなりに広い。
入り口も東側と西側に別れ、シャナ達がいるのは東側。
――そして、西側の噴水広場に、門矢士の姿はあった。


「……?」


噴水の縁に腰掛けていた士が、ふと顔を上げる。


「先生、どうかしました?」
「いや、なんでもねぇ」


まさか、反対側の広場で戦いの火花が散っているとは露知らず、士は首に下げた二眼レフカメラから、ファインダーに景色を収め、シャッターを切る。


――その傍らには何故か、吉田、佐藤、田中の姿もあった。


「で、なんでお前らがここにいるんだ?」
「成り行きですよ成り行き。帰る方向が同じだったんだし、先生に付き添うくらい構わないでしょ?」


佐藤の言葉には無論、門矢士への単純な興味、というのもあった。
口には出さないが、吉田と田中も同じである。


――案の定、というか何というか、門矢士の授業は滅茶苦茶だった。
一例として、士が授業で語った内容を拾ってみると、『目玉が右にあるのがカレイで、左にあるのがヒラメだ』だの、『身体が大きめで鼻先が尖っているのがアフリカ象、身体が小さめで鼻先が丸いのがインド象だ』等。


挙げ句『向かって左がマナ、右がカナだ』という十代には無理がありそうな知識(というかトリビア)を披露していた。


「そう言えば門矢先生、あの見分け方って一人しかいない時はどうするんですか?」
「………」


吉田のド直球な指摘に、士は一瞬沈黙し、


「おお、ここの噴水はなかなか良いデザインをしているな」


誰が見てもわかる誤魔化しに、三人は溜め息をついた。


「この辺り、奏夜先生そっくりだよな」
「奏夜先生?」


田中の呟いた名前に、奏夜はカメラを弄る手を止めた。


「誰だそりゃ?」
「うちのクラス本来の担任で、簡単に言えば生粋の常識ブレイカーです」
「田中くん、それはちょっと言い過ぎ……」


否定しつつも、吉田の声には力がない。
内心、常識ブレイカーは否定できないのだろう。その様子に苦笑しつつ、佐藤が続ける。


「だから俺達も、士先生がああいう風にクラスを纏めてくれて、ちょっと安心してるんですよ。
変にクラスの雰囲気が変わらずに済みましたから」
「ほう。あの内容でも、お前らにとっちゃ普通扱いか」


一応、滅茶苦茶な授業内容という自覚はあったらしい。


「俺と気が合いそうだな。その奏夜ってやつは」
「気が合いそう……ああ、確かにそんな気がしますね」


主に俺様な部分が。と佐藤は思ったが言わなかった。
田中も同意見だったが、やはりここでもフォローに回るのは吉田だ。

「でも先生、いつも破天荒なわけじゃないんですよ?他人の悩み事をすぐ理解しちゃうし、豪快な性格かと思ったら、バイオリンが趣味だったりして……」
「待て」


吉田が“バイオリン”という単語を口にした途端、士が彼女の言葉を遮った。


「その奏夜って男、名字は何だ?」
「えっ? “紅”ですけど……」


雰囲気の変わった士に戸惑いながら、吉田は答える。
しかし、士は彼女の様子に構っている暇は無かった。


(キバの世界で、“紅”の姓を持ち、バイオリン弾きだと?)


今まで巡った二つのキバの世界。
その際の経験と照らし合わせると、この符合は偶然とは思えなかった。


「お前ら、その奏夜ってやつのこと、もう少し詳しく……」


と、士が口を開いた時だった。




――ガァアアンッ!


『うわっ!』
「きゃっ!」


大気を震わす轟音と、巻き上げられた硝煙。
佐藤、田中、吉田は顔を伏せ、士はさすがと言うべきか、即座に、自分達へ敵意を向けてきた相手を捕捉する。


「グルル……!!」


羊を彷彿とさせる、ステンドグラスの意匠が成された羽毛。
ライフエナジーを喰らう獣、シープファンガイアだ。


「ふん、ファンガイアか」


士が発した単語に、彼の後ろにいる三人は少なからず驚く。


「か、門矢先生……ファンガイアのこと、知って……?」
「そういうお前達も、完全に堅気ってわけじゃなさそうだな」


言いながら、士は吉田にカメラを放る。危うい手付きながら、彼女はしっかりそれをキャッチした。


「それ持って下がってろ。さっさと片付けてやる」
「えっ、ちょ、士先生!」
「どうする気ですか! あんなの生身の人間が適う相手じゃ……」


佐藤と田中が止めるのも聞かないまま、士はどこからともなく、白いバックルを取り出した。


どこかカメラを彷彿とさせるデザインのそれを、士は腰の中央に当てる。
サイドから伸びた帯がバックルを固定すると、士はサイドハンドルを引き、バックル部分を回転。


ベルト脇に付けられた無限ホルダー『ライドブッカー』から一枚、謎の戦士が描かれたカードを引き抜き、手前に構える。




「変身!!」




カードを反転させ、バックルに装填。


【KAMEN.RIDE】


無機質な電子音と共に、士はサイドハンドルを押し込み、再びバックルを回転させた。


【DECADE!!】


ディケイドライバー内部に備え付けられた未知の鉱石『トリックスター』が輝くと、周囲に現れた十の幻影が士と重なり、ディヴァインスーツとディヴァインアーマーを形成。
次元通行手形であるライドプレートが頭部に突き刺さり、ボディが一瞬でマゼンダカラーに染まった。




――仮面ライダーディケイド。
士が変身し、全ての仮面ライダーの系譜を継ぐ存在にして“世界の破壊者”と呼ばれる姿だ。


「か、門矢先生が……」
「変わった……?」
「ディケイドだって……?」


三人が唖然とする中、ディケイドは、パンパンと両手を払うように叩き、シープファンガイアへ向かっていく。


「ギィィィ!!」


突如現れたイレギュラーにも動じず、シープファンガイアは手に装備したショットガンのトリガーを引く。


「フン!!」


ディケイドはライドブッカーを取り外し、ガンモードへ移行。
流れるような動作で、シープファンガイアの弾丸を撃ち落とした。
すぐ様ディケイドは反撃に転じ、ディケイドライバーにカードを装填する。


【ATTACK.RIDE-BLAST!!】


マゼンダの光弾が連なって放たれ、シープファンガイアの外皮を撃ち抜く。


「ガッ!!」


威力に押され、シープファンガイアはショットガンを取り落とした。


だが、武器無し、手負いとなったシープファンガイアだったが、まだ全ての手が封じられたわけではない。


「フッ!!」


地に伏していたシープファンガイアが立ち上がり、突如として姿を消した――否、よく見れば眼の端々に、高速で動き回る影がある。


「あのナリで高速移動か――っと!?」


シープファンガイアの特攻を紙一重で避けるディケイド。
なんとか回避には追いつけるが、この反撃できないのでは持久力が枯渇するだけだ。


「羊の癖にちょこまかと……いいだろう、本当の速さってヤツを見せてやる!」


ディケイドはまた新たに、ライドブッカーからカードを取り出す。描かれているのは、紅いカブトムシを模した戦士。


【KAMEN.RIDE-KABUTO!!】


緑色の六角形が身体中を覆い、ディケイドの姿は赤く雄々しい角と甲殻を持つ戦士――仮面ライダーカブトに変わる。
Dカブトは高速移動する影を睨みながら、また新たなカードをライドブッカーから引き抜く。

【ATTACK.RIDE-CLOCK.UP!!】


カブトの世界のライダーが持つ高速移動技術『クロックアップ』。
その速さは、端から見る吉田達三人を置き去りにし、一瞬でシープファンガイアのスピードに追い付いた。


「ハッ!!」



シープファンガイアの速さにぴったり張り付きつつ、ライドブッカーをソードモードへ切り替え、斬りつけていく。


「ギッ!?」


斬撃の火花が弾け、シープファンガイアは高速移動の世界から叩き出され、再び地を這う。


「これでトドメだ」


Dカブトはディケイドの姿へ戻り、ディケイドの紋章が描かれた黄色いカードを、ディケイドライバーへスロットした。


【FINAL.ATTACK.RIDE-DE.DE.DE.DECADE!!】


ディケイドとシープファンガイアの直線上に、十枚の巨大なカードが浮かび上がる。
飛び上がったディケイドが右足を突き出しながら、十枚のカードを通過していく。




「ハァァァ―――ッ!!」




「ギィ、ガァアア!」


ディケイドの必殺技『ディメンジョンキック』が炸裂し、シープファンガイアを粉々に粉砕した。


――圧倒的な強さと、爆炎の中に立つその姿はまさしく、破壊者と呼ぶに相応しいものだった。


◆◆◆


【ATTACK.RIDE-BLAST!!】


ディエンドライバーから発射されたシアンの光弾を、シャナの贄殿遮那の剣閃で弾く。


「シャナ!」
「悠二、下がってて!!」


悠二を下がらせ、シャナは足裏で爆ぜた紅蓮の炎を推進力に、ディエンドとの間合いを一気に詰める。


「はぁっ!!」
「やるね」


神速の刃を、ディエンドは銃身の腹で、贄殿遮那を受け止める。
だが、そこまではシャナの想定範囲内だ。


「ッ燃えろぉ!!」


阻まれた刃からディエンド目掛け、紅蓮の奔流が零距離で放射された。


「何っ!?」


慌ててディエンドは、刀から銃身を離すが、それこそがシャナの狙いだった。
直ぐ様刀を引き、紅蓮の炎を剣先に一点集中させ、ディエンドの身体へと刺突する。


「おっと!」


構え直されたディエンドライバーが火を吹き、刀の軌道をズラす。その隙にディエンドは、再び距離を取る。


「仕留め損なった」
「飛び道具主体のスタイルだな。遠距離では分が悪い、距離を詰めていけ」
「うん」


緊張の糸を張り直すシャナとアラストール。片やディエンドは、今にも小躍りせん勢いで、目の前のお宝が持つ力に酔っていた。


「素晴らしい! 絶対手に入れるよ、その力をね!」


言いながらディエンドは、ベルトサイドのホルダーから、二枚のカードを新たに装填する。


【KAMEN.RIDE-ACCEL!!】
【KAMEN.RIDE-TOUKI!!】


「行け!!」


ディエンドがトリガーを引くと、重なった七色のシルエットから、二人の戦士が姿を表した。


ヘルメットを模した仮面に、バイクの意匠を凝らした紅い装甲を持つ戦士――仮面ライダーアクセル。
大柄な体躯と白熊のような毛皮を持ち、この季節にも負けない凄まじい冷気を放つ鬼の戦士――仮面ライダー凍鬼。


「さぁ……、振り切るぜ!!」


アクセルが地面に刺さったエンジンブレードを振り上げ、


「仏のもとへ還れ!!」


鳴刀・音叉剣を携えた凍鬼が吠え、シャナに襲いかかる。


「なっ、こいつらどこから……!?」
『考察は後だ、来るぞ!!』


突如として出現した二体の仮面ライダー。
シャナにとって、いい状況ではなかった。


二体とも剣を使っている為、剣技に自身のあるシャナとしては、1対1ならまだ賞賛はある。
だが、アクセルも凍鬼も大柄で、パワーならシャナよりも上。持久戦になれば、勝機は薄い。
次第にシャナは、アクセルと凍鬼に押され出していた。
彼女が凍鬼に気を取られた隙に、アクセルはガイアメモリを、エンジンブレードのマキシマムスロットへ挿入する。


【ENGINE!! MAXIMUM.DRIVE!!】


「絶望がお前の、ゴールだ!!」


Aの形を模した衝撃波『エースラッシャー』がシャナ目掛けて飛んだ。


「っ!!」


すんでのところで反応し、凍鬼から距離を取ろうとする。
しかしそれよりも早く、


「邪鬼退散!」


凍鬼の口元から、凄まじい冷気が放出された。
噴射されたそれは、大気の温度を急激に冷やし、シャナの足元を氷付けにし、彼女の機動力を奪う。


「! しまっ……」


アクセルと凍鬼の連携により、回避行動を取れぬまま、放たれたエースラッシャーの衝撃波が、シャナに牙を剥いた。


「ぐ、あっ!!」


どうにか、刀は間に挟めたものの、それで相殺できるほど、甘い攻撃ではない。
足元の氷が砕けたと同時に、シャナは後方へ吹っ飛ばされた。


「素晴らしい反応だ。でも、ちょっと遅かったかな?」
「くっ……!」


ディエンドを睨み付ける瞳にも、疲労の色が濃い。
ディエンドは一片の容赦もなく、自らの紋章が描かれたカードを、ライドリーダーに装填する。


【FINAL.ATTACK.RIDE-DI.DI.DI.DIEND!!】


ディエンドライバーの銃口の先に、幾つものライダーカードが、シアンカラーのエネルギーとなって円環状に並ぶ。


『う、あぁぁぁ!!』


アクセルと凍鬼もまた、カードの螺旋に吸い込まれていく。
同時にディエンドは、地に伏すシャナへ狙いを定めた。


「手加減はしよう。耐えられるかはキミ次第だ」


呟くと同時に、ディエンドがトリガーを引く。
カードに眠る力を解放して放つ砲撃『ディメンジョンシュート』が、先のエースラッシャーとは比較にならないパワーで、シャナへと発射された。


「シャ――」


悠二が叫んだ気がしたが、シャナにはよく聞こえなかった。
夜傘をせめてもの防御に回し、シャナは襲い来る衝撃に目を閉じた。


◆◆◆


「ザンバット!!」
『イ・ク・サ・カ・リ・バ・ー・ラ・イ・ズ・ア・ッ・プ』


シャナを庇うかの如く、彼女の前に二人の人影が立つ。


掛け声と電子音が轟くと同時に、人影が持つザンバットソードとイクサカリバーの刀身が輝く。
魔皇力と光子力の光が弾け、ディメンジョンブラストのエネルギーを真っ二つに切り裂いた。


「なっ!」


これにはさすがのディエンドも驚いたのか、自分の技を切り裂いた相手の姿を見やる。


「ふぅ、間一髪だったな」
「大丈夫か。シャナ君、悠二君」
「奏夜、啓介……」


シャナの眼前に立っていたのは、ザンバットソードを携えた奏夜と、名護が変身するイクサだった。
シャナ、そして悠二の容体を確認し、奏夜はディエンドを睨む。
――奏夜に似つかわしくない、心に宿る負の感情を総動員したような、冷たい視線だった。


「ファンガイアの気配が消えたと思った矢先、新しい気配を感じ取ったと思えば……どうやら、キバットとは違う『探し物』を見つけちまったらしいな」
「……ちぇっ、キミと会う前に、贄殿遮那を戴きたかったんだけどねぇ」
「つれないな。俺はお前に会いたくて会いたくて仕方なかったぜ?」


シャナと悠二は、ディエンドの拗ねたような言い回しと、奏夜の怒りを孕みながらも親しげな口調に、違和感を覚えた。


「先生、あいつを知ってるんですか?」
「知り合いってほどでもねぇよ。ただの加害者と被害者だ」


悠二の質問を適当にあしらいつつ、奏夜は警戒の目線を送り続ける。
――と、そこへ声が割り込んできた。


「海東!!」
「大樹さん!!」



奏夜と名護を追いかけてきた、ユウスケ、夏海、彩香の三人だ。


「やぁ小野寺君。こんなところで何をしてるんだい?」
「それはこっちのセリフだ!! アンタこそ、そんな女の子に銃を向けて何やってるんだよ!」
「人聞きが悪いなぁ。お宝の為にはやむを得ないし、なるべく穏便に済まそうと努力はしたよ?」
「まず相手のものを奪うこと自体ダメなんですよ!」
「そーだそーだ、立派な犯罪だぞ大樹!」


三者三様の抗議を、素知らぬ顔で受け流すディエンド。
乱入者三人を、端から見るシャナと悠二は、信じられない顔で見ていた。


「シャナ。あの人達、封絶の中で動いてるぞ?」
「……そんなハズない。封絶は機能してるし、あいつらは確かに人間よ。悠二も分かるでしょう?」


反論するシャナだったが、現にこうしてユウスケ達は動きを止めてはいない。
ミステスでも“徒”でもない存在が、何故。


「アンタらも、この男の知り合いだったんだな」
「あ。いや、知り合いというか、腐れ縁というか……」


反応に困ったユウスケに一瞥をくれ、奏夜は視線を外した。


「まぁ、それはどうでもいいことか。……名護さん、シャナと悠二をお願いします」
「なっ、待ちなさい奏夜君! 今のキミはキバの鎧を……」


イクサの制止も聞かぬままに、奏夜はシャナと悠二を任せ、ディエンドと対峙する。


「最初に言っておく。お前が俺から奪ったものを返せ。そうすれば見逃してやらんこともない」
「出来ない相談だね。返せと言われてハイそうですかと渡すくらいなら、最初から盗みはしないさ」
「成る程。そりゃコソ泥側からすれば道理だな。なら……」


奏夜の内から、封じられていた魔皇力が噴き出す。
シャナ、名護、悠二は勿論のこと、ユウスケ達三人もまた、目の前にいる男から放たれる圧力に気圧されていた。


「ユウスケ、やっぱりあの人が……」
「うん。間違いない」


ユウスケと夏海は、奏夜が持つ力をもって、疑念を確信に変えていた。


「タツロットは力づくで奪い返させて貰うぞ、海東大樹!!」


言いながら、奏夜は腕をゆっくりと手前に掲げた。


「キバーラ!!」
「キャハハハ、行っくわよ~♪」


奏夜の呼び声に応えたのは、彼普段の相棒ではなく、その相棒の妹である白い蝙蝠――キバーラ。


飛来したキバーラは、奏夜の人差し指を小さな牙で甘噛みした。


「か~ぷっ♪」


指の先端からステンドグラスの紋様が広がったと共に、奏夜はキバーラを突き出し、叫ぶ。



「変身!!」




キバーラの頭部から放たれた紅いスペード型のウェーブが、奏夜の身体を覆っていき、ガラスとなって弾け飛んだ。
――その姿に一番早く、そして最も驚いたのが、光夏海だった。


「あ、紅い、キバーラ……?」


そう。奏夜が変身したのは、夏海が変身する戦士、仮面ライダーキバーラだった。
ただ、彼女の変身した姿とは異なり、やや身体つきが男性に近くなり、鎧の白かった部分は、血に染まったかのような赤色である。


「断罪の牙の下、転生の輪廻に沈め!」


専用武器キバーラサーベルと、ザンバットソードの二本を携え――仮面ライダーRキバーラは降臨した。


◆◆◆

ライダーデータ

仮面ライダーRキバーラ
キバーラの力を借り、奏夜が変身した姿。彼本人の魔皇力が反映され、鎧の白かった部分が紅く染まっている。
光夏海の場合、キバーラ自身の魔皇力を用いて変身するが、Rキバーラの場合、奏夜本人の魔皇力をキバーラが覚醒(ウェイクアップ)させることで変身する為、変身の際に、キバーラが噛み付くというプロセスが加えられた。
二人分の魔皇力+奏夜の実戦経験が相成って、光夏海のキバーラよりも更に強力なっている。
フォームチェンジこそ出来ないが、アームズモンスターやザンバットソードを呼び寄せることも可能。
ただし『黄金のキバ』よりも魔皇力消費が激しく、変身を長期間保てないという弱点があり、持久力では光夏海のキバーラに劣っている。
  1. 2012/04/18(水) 16:35:15|
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第二十話・旅人/BLAZING.BLOODの世界.前篇

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  1. 2012/04/18(水) 16:33:02|
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第十九話・ハーモニー/RIDER'S.FORCE.後篇

――御崎駅西口、駅舎メンテナンス用扉前。


「――よし、これでいいかな。佐藤、お前も」
「もう貼ったよ。後はマージョリーさんの仕事だ」
「よくやってくれたな、佐藤君、田中君。さぁ、早くこの場を離れなさい。もうじき戦いが始まる」
「はい、名護さんも気を付けてくださいね」
「俺と田中も、マル・ダムールでの花火、楽しみにしてますから」
「ああ、任せなさい」


白騎士を残し、二人の少年は去っていく。
街を守ると約束してくれたヒーローへの、激励と期待を残して。
自分が担う役割の重みを再認識し、白騎士――イクサは通信の自在式が込められた付箋を取り出す。


「準備は整ったぞ」
『よーっしゃ、上出来だ。ご両人も白騎士の兄ちゃんもやるねぇ』
『んじゃ、そろそろ行こうかしらね』


軽薄なマルコシアスの笑い声と共に、通話向こうで炎が弾ける音が聞こえてくる。
マージョリーが炎の衣『トーガ』を纏ったのだろう。


『遠慮容赦ナシの全力で行くから、せいぜいケイスケは吹き飛ばないよーにね』
「今更爆発如きでどうこう言わんさ。思い切りやりなさい」
『ヒーッヒヒ! 言ってくれるねぇ、んじゃ早速……』


駅舎の外で、トーガが鋭い牙の奥に、群青の炎をたぎらせ、駅舎内のイクサは、白色のフエッスルを取り出す。


『イ・ク・サ・カ・リ・バ・ー・ラ・イ・ズ・ア・ッ・プ』


光子力を纏った赤い刀身が、シャッターの先を睨む。


『ギィヤーーーッハハハハハハ! 殺すぜ、壊すぜ、食いちぎるぜえっ!!』
『ぶち壊してぶち壊してぶち壊してぶち壊すわよっ“紅世のっ、徒”ぁーーー!!』
「イクサ、爆現!!」




『んなぁ!?』


この駅舎を守る教授の“燐子”、ドミノでさえ、何が起こったか理解出来ぬまま、群青の火炎弾が、山吹色の剣閃が、駅舎のホームを吹き飛ばした。




◆◆◆


「たーまやーっ! ……って言うには、ちょっと情緒が足りないかね」
「馬鹿なこと言わないの。戦いなのよ」


狂乱の渦中から、少し離れた高層ビル。
太牙が経営する企業『D&P』本社の屋上にて、キバ、シャナ、サガの三人は待機していた。


御崎市駅には群青と山吹色の爆炎が上がり、さながら狼煙のように、戦いの始まりを告げている。


「私は“教授”を討滅する」


紅蓮の輝きを瞳に灯すシャナ。
憂いは完全に消え去り、フレイムヘイズとしての自分を取り戻している。


「駅を破壊するのが一番手っ取り早いけど、また何かされる可能性もある」
『うむ。その場合に備え、やはり大元を絶っておくべきであろう』


アラストールが補足し、キバとサガも同意する。


「では僕らは、予定通りに駅舎以外の飾りを破壊しよう」
「うん。粗方終わったら、兄さんは駅舎の方を手伝いにいってくれ。俺はシャナと一緒に“教授”を止める」


今回の相手は、あまりに奇天烈な戦法を取る。
シャナの直線的な力だけで、“教授”に対応できるかどうかは、正直微妙なところだ。


「シャナもそれでいいか?」
「うん、わかった。奏夜が来る頃には、終わってるかも知れないけど」
「はっ、お前も言うようになったな」

皮肉っぽい笑みを浮かべ合い、シャナは紅蓮の双翼を羽ばたかせ、夜空に紅い軌跡を描きながら飛び去っていった。


フレイムヘイズの少女を見送り、キバはオレンジの塗装が成されたフエッスルを取り出す。
サガはというと、見慣れないサファイアカラーのフエッスルを携えていた。


「兄さん、それは?」


キバが知る限り、サガが保有するフエッスルはウェイクアップフエッスルのみ。
最初期に制作されたが故の弊害であり、サガの弱点でもあったのだが……。


キバの心中を見越したサガは、


「サガの新しいフエッスルだよ。そろそろ、一本だけではキツくなってきたからね」


キバがよく見れば、サガークベルトのホルダーには、いくつか初見のフエッスルが収められていた。
彼なりに強さを追究した結果、といったところか。


「さっすが兄さん。じゃ、そろそろ……」
「ああ、行こう!」


それぞれのフエッスルを、キバットとサガークが吹き鳴らした。


『キャッスルドラーン!!』
『ヨルムンガンド』




――ギャオオオ!!
――キュルォォ!!


主の呼び掛けに応え、キャッスルドランとシュードランが、天空から屋上に降り立つ。


『奏夜、知り合いは全員、クイーンの洞窟へ避難させたぞ』
「サンキュ、次狼」


中から聞こえる次狼の声に礼を言うキバ。と、


――シャガァァァッ!!
次なる異形の鳴き声が、大気を震わせた。
高層ビル下の地面が大きく揺れ、巨大で細長い生き物が、硬質なアスファルトを砕いて飛び出してきた。


黒く固そうな鱗が身体を覆い、体面には禍々しい紋様。
同じく黒い鬣に、幾重にも彎曲し、枝分かれした角。
細長く黄色い瞳は、一睨みで相手を射殺せると錯覚するまでに鋭い。


――ヨルムンガンド。
サガの新たな眷属にして、キャッスルドランと同じドラン族でありながら、その出自を全く異にする蛇神だ。


「おお、またデカいの連れてきたね兄さん……」
「デカいだけじゃないぞ。僕でさえ、フエッスルを介さなければ扱えないじゃじゃ馬だからな」


サガがビルの縁に立ち、ヨルムンガンドに手を伸ばす。
しばらくして、ヨルムンガンドは恭しく頭を垂れ、主をその上に乗せた。


「僕は西側を殲滅する。お前は東側を頼む」
「りょーかい!!」


シュードランの足に掴まり、キバはキャッスルドランの頭上に着地。
シュードランはその後部、ドランマウントに合体した。


途端――キャッスルドランの眼が鋭く輝く。
瞳孔は開き、小さかった黒い翼は、ドランの側面全てを覆えるまでに広がる。


――ギャオオオオッ!!
普段は抑えられていた闘争本能が、シュードランによって覚醒(ウェイクアップ)したキャッスルドランは、天を震わす叫びと共に舞い上がった。


「兄さん、気を付けて」
「そっちもな」


戦士として、必要最低限の言葉を贈り、二人はそれぞれの目的地へ。


――兄は大地を、弟は天空を進む。



◆◆◆


一方、戦乱の渦中にある御崎市駅では。


「ちっ、これじゃ結構時間かかるわね」
『ドミノの野郎も逃げ回ってるみてーだしなぁ』
「愚痴を言う隙があるなら、手を動かしなさい」


火炎弾とトーガの剛腕で御崎市駅を破壊していくマージョリー。
イクサカリバーを乱射イクサは新たなフエッスルを取り出す。


「今は敵の自在式を破壊することだけを考えなさい。壊すのは君達の得意分野だろう」
「――は、言ってくれるじゃない、のッ!!」


ギラギラした戦意が迸り、トーガから再び特大の火球が吐き出された。


『パ・ワ・ー・ド・イ・ク・サ・ー』


――無機質なコールから程なくして、重厚なエンジン音が轟く。
駅舎の壁を豪快にぶち破り、イクサの所有するドラゴン型重機『パワードイクサー』が現れた。


「頼むぞ、パワードイクサー!!」


コックピットに、起動キーたるイクサナックルを差し込み、パワードイクサーが雄叫びを挙げる。


「ハッ!!」


機体を駆るイクサは、マシン後部のイクサポッドを、パワードイクサー頭部を使い投擲していく。
マージョリーの大破壊も相成って、威力は更に上がっていく。――と、


《ああ、『弔詞の詠み手』に名護啓介、聞こえますか》


通信用の付箋から、カムシンの淡々とした声が届く。


「どうした、何かわかったのか?」


《ええ、駅周辺の攪乱が消えたお陰で、お嬢ちゃんが敵の“自在式”の正体を感知出来ました。 奴の狙い――駅舎にあるものは、“探耽求究”到着によって起動する調律の“逆転印章”(アンチシール)です》
「はぁ!?」
『おーいおいおいおい!! 新手のパーティージョークにしちゃ悪質過ぎだろぉ!?』
「“逆転印章”?」


敵の狙いに、驚きを通り越して呆れるマージョリー達に対し、自在式に疎いイクサは、彼女らが取り乱す理由を理解出来なかった。


「何かマズいものなのか?」
「単体じゃ意味の無い自在式よ。自在法を正反対の向きに作動させる為の自在式でね。普通は防御陣なんかに使われるんだけど……」
「調理の正反対……待て、まさか!?」


ようやく話の根幹が呑み込めたイクサに「ご推察の通りだよ」とマルコシアス。


『俺達のミナミナ大破壊とは比べもんにならねぇ、まさに“完全破壊”ってヤツだ。
発動しちまったら最後、この街はごっそり、世界から切り取られちまうぜ?』


さすがのマルコシアスも、普段の軽薄な態度は微塵も見せなかった。
“教授”の目的成就が引き起こす大災害が、どれだけの影響をもたらすのかを物語っていた。


「……こうしてはいられない」


ショックから我に返り、イクサは操縦桿を握り締める。


「一刻も早く、ここを破壊しなければ!!」
《ああ、言われるまでもありません。我々も直ちに攻撃に加わり、駅舎を破壊しますので、よろしく》


カムシンの堂々とした宣言に、青ざめたのはマージョリーとマルコシアスだ。


「え、ちょっと待ちなさいよ!」
『馬鹿おめーら、俺達がまだ中に――』


抗議する二人を鮮やかに無視し、カムシンは一方的に通信を切った。


「あ、の、クソ爺い共……!!」


通信用の付箋をぐしゃりと握りつぶし、マージョリーはイクサに告げる。


「ケイスケ、もう一発デカいの叩き込んだら、さっさとずらかるわよ!!」
「何を馬鹿な! さっき早く駅舎を破壊すると言ったばかり……」
『いーからさっさとその恐竜をUターンさせろぃ!!』


いつになく焦る二人にただならぬものを感じ、イクサは渋々、三発ほどのイクサポッドを叩き込み(マージョリーも特大の炎弾を置き土産にした)、パワードイクサーが開けた風穴から脱出を図る。




――イクサとマージョリーが駅を出たのと、突然沸き起こった爆風が、二人をぶっ飛ばしたのがほぼ同時だった。




「なっ!?」
「んきゃー!?」
『オギャー!?』


間の抜けた悲鳴を挙げ、マージョリーはトーガごと、イクサはパワードイクサーごと、駅舎前の大通りに投げ出された。


「くっ、い、一体何が……?」


操縦桿を動かしてパワードイクサーを起こし、イクサは再び御崎市駅を見る。


天から降り注ぐ、炎を纏った岩石弾が、隕石よろしく駅舎に降り注いでいる。自分はあれに吹き飛ばされたのだ。


《よーくーもーやったなーー!?》


中を管理するドミノの叫びが聞こえ、イクサの隣にいたマージョリーは、自分の背後目掛けて怒号をぶつける。


「ちょっと爺い、外れてるわよ! 相手を怒らせただけじゃ意味ないでしょうが!」
《ああ、それはどうも。しかし事前に断りは入れておいた筈ですが》
『思いやりが足りねーんだよ、てめーらにゃ!』


マージョリーとマルコシアスのシャウトが届く先――ちょうどさっきまで自分達のいた、旧依田デパートの方に顔を向けるイクサ。


「な……!!」


見た途端、絶句した。




そこにはパワードイクサーを優に越す、瓦礫の巨人が立ち上がっていたからだ。


◆◆◆


カムシンが操る瓦礫の巨人を、キバは遠目から眺めていた。


「すげぇな……あの偉そうな態度は伊達じゃないってわけか」


ちょうど旧依田デパート付近をドランで飛んでいたキバは、その一部始終を目撃していた。


奏夜達に、“逆転印章”を伝えたかと思うと、カムシンは向かいの廃ビルに飛び込んだ。
途端、屋内から例の“カデシュの血脈”という綱のような炎が、廃ビルを駆け巡り、自在式が発動。
コンクリートが内部から爆ぜ、廃ビルが巨人生成の材料へと組み変わり、カムシンの力の証たる、褐色の炎を吹き出した。


カムシンが持っていた布巻き棒『メケスト』は、巨人が瓦礫を炎で繋げて作り出した、超重量級の鞭の柄になっている。
イクサ達を吹っ飛ばされた爆風は、この『メケスト』の一薙ぎによるものだ。


「あの破壊力じゃ、俺が行っても無駄骨だな……」
「なら、“教授”をさっさと止めちまおうぜ。ヤツの目的も分かったし、ここらの飾りを壊すよか効率的だ」


キバットの提案を聞き入れ、キバはキャッスルドランを、線路へ向けて駆る。


駅舎の飾りが壊れたのなら、それ以外の場所を壊すメリットは少ない。
ならば、相手の勝利条件を潰しにかかるべきだろう。


黒い翼を羽ばたかせるキャッスルドラン、その眼下には、見慣れた線路を疾走する奇妙な列車の姿があった。


「あれ、シャナがいない?」


訝しみながらも降下し、列車の隣にドランを付ける。


「取り敢えず、一当てしておくか。ドラン!」


――ギャオオオオッ!!
ドランが吼え、身体の側面に備え付けられたマジックミサイルが火を吹いた。
目映い爆炎と共に、列車の正面部分が消し飛ぶ――はずだったのだが、


「あ?」
「なぬっ?」


二人が目を剥いた。
ドランのマジックミサイルが、奇妙な方向へ弾道を曲げたのだ。
しかし、件の攪乱の自在式とは異なり、湾曲したミサイルは、列車の後部へ命中し、爆炎を上げた。


「ぬぁーーんて野蛮なことを、しぃーてくれるんですかぁ!?」


と、列車の前方に、せり上がった運転パネルと、その運転手“探耽求究”ダンタリオンが立っていた。


「攻ぅー撃をブチ当てるなら、真っ正面から当てなさい!! 側面から当てたせいで、後ろに弾道が曲ぁーがってしまったではありませんか!!」
「……初対面の相手、しかも敵にツッこむのはどうかと思うが、それでも敢えて言おう。 そんなに列車が大事なら、後ろにも自在式かけとけや」
「列車ですとぉ!? そぉーんなもので一括りにしないでもらいたいですねぇ!! そぉーもそもこの『夜会の櫃』は――」


教授の話が終わるより早く、ドランの第二波が列車を襲う。
が、今度は列車の中から現れた巨大な野球バットが、ミサイルを全て打ち返してしまう。


「タイムボカンに出てきそうなメカだな……ったく」


弾かれ、空中で爆発するミサイルを見ながら、キバがうんざりしたように呟く。


「おい、マッド博士。一つ訊かせろ。俺の仲間、『炎髪灼眼の討ち手』が先にここへ来てた筈なんだが」
「んんー? やぁーはりフレイムヘイズとのパイプを持っていたようですねぇ? ファーンガイアの王は」


メガネを押し上げ、心底面白そうに、教授はニヤリと笑う。


(こいつ……俺を、キバを知っているのか?)


反対に警戒心を強めるキバに、教授は言う。


「『炎髪灼眼の討ち手』はこぉーの中にいますよぉ?」


教授は自分の足元――つまり、『夜会の櫃車』の車両の一つをダンダンと踏み鳴らす。
見れば確かに、その車両だけ、隙間から微かに紅蓮の炎が漏れていた。


「さぁーきほど私の『夜会の櫃』をウェルダンにしてくれましてねぇー? 少々大人しくしてもら――んん?」


教授が言葉を切る。
贄殿遮那と思しき刀が、車両の屋根に突き出したのだ。


「あっ、さぁーては直接、私の『夜会の櫃』をぉ破壊しよぉーうとしていますねぇ? 全く無ぅー駄なことを、えいや」


教授は操作パネルの傍らにあったレバーを、グイと引っ張った。
途端、




『――――っ!!』




中からこの世のものとは思えないシャナの悲鳴が聞こえてきた。
何が起こったのかと心配するキバの目の前で、あまりの大暴れっぷりに、列車の車輪が2つ外れる。


「んんー? ぉ女の子なのに五百匹かぁらなるアグレェーッシブな『我学の結晶エクセレント29004―毛虫爆弾』が逆ー効果のよぉうですねぇ」
「いじめっ子か!!」


不憫過ぎるシャナの為、キバは全力で抗議する。


「何でそんなピンポイントかつ緊張感のない罠が搭載されてんだよ!! 俺が言うのもあれだが、もっと残虐性に特化したヤツ使えよ!!」
「わぁーかってませんねぇ。そぉーんな何の捻りもなさそうなもの作ってなぁーんになるんです? それと、罠ではあーりません!! 『我学の結晶エクセレント29004――」
「だぁーー!! うぜぇ!! どこのエクスカリバーだテメェはぁ――!!」


教授のあまりの変人奇人っぷりに、理性の許容範囲内を超えたキバは、キャッスルドランからジャンプし、ライダーキックを教授に叩き込もうとする。


「無ぅ駄ですと言ーってるでしょお?」


またレバーが引かれ、『夜会の櫃』内から飛び出してきたトンカチが、キバを殴りつけた。


「痛っ!」


回避が出来ぬまま、キバは車両の屋根を転がる。


「さぁーらに、ポチッと!」


教授が手近にあるボタンを押すと、キバのいた車両の屋根が、まるでどんでん返しのようにくるりと反転した。


「なっ、忍者屋敷かよ!?」


驚愕と共に、キバは車両内の床に叩き付けられた。
その間に屋根は再び回転し、閉じ込められてしまう。


「くそっ、まったく動きが読めねぇ。認めたくないが、かなり厄介な……」
「奏夜、気ぃ抜くな!!」


キバットの声で、キバも気付く。
床の一角が開き、大量の何かが這い出てきたのだ。


いやに細長く、色素が薄い。生物兵器か何かか。


「蛇、にしちゃ小さいな……奏夜、用心しろよ」
「ああ。毒か何かを持ってる可能性もあるからな。十分に間合いを取っ、て……」


キバの声が、どんどん尻すぼみになっていく。
蠢く“何か”の姿を視認した途端、仮面の下にある奏夜の顔から、色が失われていった。


「な、ななな……」


じりじりと、キバが後退りを始める。
何故なら、その“何か”は、奏夜の数少ない弱点だったからだ。





蠢くそれの名は――『我学の結晶エクセレント28223―糸こんにゃく蛇』。


父、紅音也が苦手としたものであり、その息子奏夜も、食べた瞬間気絶するという脅威の加工食品。





「――っだからなんでこんなピンポイントな発明があるんだよぉぉぉぉぉぉぉーーーー!?」





もっともな意見は、列車の喧騒によってかき消された。
あらゆる事態を想定し――おおよそ何にでも備えてある、それが教授の我学の強みなのである。


キバとシャナ、二人分の悲鳴がデュエットを奏でる中、『夜会の櫃』は汽笛を吹き上げ爆進する。


目と鼻の先にある、御崎市崩壊という名のゴールへと。


◆◆◆


巨人の放つ褐色の炎を纏った瓦礫『ラーの礫』が巻き起こす大破壊を、マージョリーとイクサは何とも言えない面持ちで眺めていた。


「さすがに負けるわ、これは」
『まー、俺達の役目は最初で終わったようなもんだからな』
「うむ。最後が他人任せなのは少々気が引けるが、あの力なら、我々よりも効率良く……?」


イクサは言葉を切り、闇に包まれた夜空を睨む。 数百羽の影が、御崎市駅を取り囲む形で近づいて来ていた。
攪乱の自在式を生み出す、例の鳥の看板である。


「いけない、ドミノの奴、破壊してなかった分を呼び戻してるわ!」
「何!? あれが一定量集まれば、攪乱の自在式がまた発動してしまうぞ!」
《ああ。ならば、集結する前に破壊しなければなりませんね》
『やーれやれ、この世ってなあ、我慢もさせてくんねえのかあ? ヒッヒヒ』


全員が、標的を鳥の看板へと移す。


それを狙い澄ましたかのように、駅舎前の大通りを這いながら、大蛇ヨルムンガルドが到着した。
頭部には、サガの姿もある。


「太牙!」
「済まない。いくらか破壊し損なった。――ヨルムンガルド!」


――シャガァァァ!
ヨルムンガルドが吼え、大きく裂けた口から、紫色の閃光が吐き出された。
命中した数十枚の看板が、一瞬で腐敗し、地に細かな木屑だけが残る。


全てを腐食させる神の毒、“ヘルデッドブレス”だ。


「大通り側は僕がやる。名護達も四方について、看板を迎撃してくれ!」
「ああ、任せなさい!」


イクサ、マージョリー、サガ、カムシンが、全方位を取り囲み、各方向から来る看板を迎え撃つ。


イクサの駆るパワードイクサーの投擲するイクサポッドが。
マージョリーの『屠殺の即興詩』による群青の火炎弾が。
カムシンの振るう『メケスト』から放たれる『ラーの礫』が。
サガが操るヨルムンガルドが吐き出すヘルデッドブレスが。


歴戦の戦士が放つ四位一体の攻撃に、看板は次々と爆砕していく。だが、


「ちっ、数が多いな」


サガの言うように、どれほど薙ぎ倒しても、すぐ次の波が来る。
防げはするが、攻撃に転じる余裕も無い。


「先に駅の“逆転印章”を破壊するのは、やーっぱ無理かしらね」
『ドミノの野郎を一撃で破壊できるんなら、それもいいがよー、奴は親玉に似て逃げるのだきゃうめえからな』
「逃げ回られている内に、攪乱に必要な看板が揃っては元も子もない。
今、我々に出来るのは足止めだけだ。“教授”討滅は、シャナ君と奏夜君に任せておきなさい」
「ったく、またソウヤとチビジャリに託すしかないってわけね……って」


マージョリーの目線は、高架上にある線路の先へ向いていた。


もうそれほど遠くない距離、“逆転印象”発動の最後のピースたる奇妙な列車『夜会の櫃』が近付いてきていたのだ。
多少破損してはいるものの、その周囲にキバとシャナの姿は無い。


無情にも吹き上がる汽笛に対し、マージョリーは額に青筋を浮かべる。


「あー、もう! 言ってる傍からなにやってんのよ! あの二人は!」
『あぁん? 気配はあん中だぞ。嬢ちゃんとキバの兄ちゃんが、大人しく捕まってるたぁ思えねーが』
「何にせよ、最悪のタイミングだな」


忌々しげにサガが舌打ちする。


手が離せないこの状況で、相手の勝利条件が破壊出来ていない。
あちらが立てば、こちらが立たずだ。


「こうなったら意地でも看板を破壊し尽くすしかないな。おい名護!!」


サガがイクサに呼び掛ける。
だが当の本人は、線路を爆進する『夜会の櫃』を見たまま、微動だにしない。


「名護?」
「ケイスケ?」


看板を壊す傍ら、サガとマージョリーは再度呼ぶと、イクサは仮面の下で、僅かに唇を動かした。


「―――んだ」
『は?』





「なんだあのふざけた列車はぁぁぁぁぁぁぁーーー!!」





ビール瓶300本は粉々にしそうな、イクサの壮絶なシャウトに、さすがの二人も肩を跳ね上げる。


「フォルム、蒸気機関、どれをとっても列車の常識を大いに逸脱しているッ!!
古き良き時代のロマンがまるで感じられん!」


人が変わったように、鉄道談義を始めるイクサ。


――あまり知られていない事実だが名護啓介、鉄道マニアである。


「大体なんだあの緑色の炎は!! 蒸気機関から迸る炎は、造り手と運転手達の汗と涙の結晶! それをあんな不細工な炎で汚すなど考えられん! 開発者の顔が見てみたいわ!!」
《ぬぁーーんですとぉーー!!》


さすがに届いたのか、当の開発者がいたく憤慨した様子で、拡張された抗議を飛ばす。


《聞ぃーき捨てなりませんねぇーー!! こぉーのかぁーんぺきなるフォルムが理ぃー解できないというんですかぁーー!?》
「黙りなさい! そんなもの、列車とは認めん!! 謝りなさい!! 偉大なるスティーヴンスンとトレビシックの墓前で、頭を擦り付けて詫びなさい!!」


価値観の相違が、無意味な論争を生み出していた。
置いてけぼりな周囲に、イクサはただ一言。


「あれを落とすぞ! あんなものがレールの上にあるなど耐えられん!」
『あぁん? 落とすったっておめー、トンチキ発明王もその辺りは警戒してるだろ。また妙な自在式で邪魔されんのがオチ……』
「違う。狙うのは高架と線路だ!」


イクサの言葉に、全員が水をかけられたようにハッとする。


いかに高度な発明でも、列車である以上、所詮はレールを走る乗り物。
足場を奪えば、下に自然落下する!


「『儀装の駆り手』。お前のパワーも必要だ、手を貸しなさい!」
《ああ、勿論――!!》
《うむ、『アテンの拳』を!》


巨人の腕とパワードイクサーが、線路方面に狙いを定める。


途端、巨人の腕がロケットパンチよろしく、褐色の炎を噴射しながら射出された。
パワードイクサーも、乗り手の怒りを示すように、有らん限りのイクサポッドが、豪速球のレベルで投擲していく。


頑丈なコンクリートと言えど、フレイムヘイズきっての壊し屋と、本気ギレ状態のイクサにかかれば一溜まりもない。
細かな瓦礫と粉塵が散り、『夜会の櫃』の進行方向から、進むすべき線路がごっそり抜け落ちる。


「のぉーう!! なぁーんてことぉしぃーてくれるんですかぁ――!?」


自らを待ち受ける断崖に、教授は絶叫する。
足場を失い、列車の終着駅は奈落の底。


となるはずだった。


「――が!!」


その場で一回転という、いっそ清々しいまでのオーバーアクションを決め、教授はパネル中央の巨大なボタンに、人差し指を添える。


「こぉーんなこともあーろうかとぉ! スイッチ――、オン!!」


ポチッ、という効果音も欠かさず、夜会の櫃の正面ライトが、ピカッと輝いた。


「なぁ!?」
『んげぇ!?』


マージョリーとマルコシアスが、本気で驚く。
サガとカムシンでさえ、驚愕に身体を硬直させていた。


シャキーンという耳障りの良い駆動音と共に、『夜会の櫃』の両サイドから、メカニカルな翼が飛び出したのである。


「さーーぁ飛べ、『我学の結晶エクセレント29182―夜会のぉーー櫃』!!」
「……どこまで列車を愚弄する気だ貴様ぁぁぁぁぁぁぁ!!」


イクサの怒号も虚しく、『夜会の櫃』は後部からのジェット噴射で、御崎市駅へと飛び立つ。


「――ェエーキサイティング!! ェエークセレント!! 見よ、世界はこんなにも美しい!!」


教授は屋根の上で両手を広げ、完全勝利の高笑いを挙げる。
吠える負け犬の表情を見てやろうと、列車下に目を向けた。


「っな、なな?」


教授の表情に、初めて焦りの色が浮かぶ。
『夜会の櫃』の進路が上反りになり、どんどん上昇していくのである。


――それもそのはず。
列車の床側に空いた穴から、シャナの腕が伸び、紅蓮の炎を放出していたのだから。
強大な推進力により、夜会の櫃はどんどん反り返っていく。


――ギャオオオッ!!


「おおおっ!?」


龍の激昂が、教授の鼓膜を突く。
主の身を安じるキャッスルドランが飛来し、トドメと言わんばかりに、下側から『夜会の櫃』をひっくり返した。


「あぁーーれぇーー」


真っ逆様に『夜会の櫃』は、乗り手を巻き込み落下していく。
刹那、床面を強引に切り裂き、車内から飛び出した二つの影があった。


毛虫の大群により、ガサガサにされた髪を逆立てるシャナ。
糸こんにゃく蛇のぬめった体面により、鎧全体が奇妙な光沢を放っているキバ。


両者とも憤怒に身を震わせ、(キバは仮面の下で)軽く半泣き状態だ。


『よくも、よくも――!!』


シャナの贄殿遮那に紅蓮の炎が、キバのザンバットソードに真紅の魔皇力が宿る。





『この、大バカ(野郎)ーーーッッ!!』





「ほんぎゃーー!?」


落下した列車は主を押し潰し、その頭上から、紅蓮の奔流と、巨大な半円形の衝撃波が、『夜会の櫃』ごと“教授”を呑み込んだ。




《きょ、教授――!!》


駅舎内から絶叫するドミノに構わず、シャナと共に着地したキバは、未だ怒りの収まらない声で叫ぶ。


「名護さーーん、兄ーーさん!!」


キバが赤いフエッスルを取り出したのを見て、イクサとサガは、呼び掛けの意味する所を察した。


「太牙!!」
「分かっている!!」


イクサは脚を模したフエッスルを、サガは蛇の意匠がなされたフエッスルを取り出した。


『WAKE.UP!!』
『イ・ク・サ・レ・ッ・グ・ラ・イ・ズ・ア・ッ・プ』
『ウェイクアップ』


キバの左足のヘルズゲートが解放され、真紅の翼が靡く。
イクサのコロナコアが展開し、生成された光子力エネルギーが、山吹色の光となって、右足に収束する。
サガはジャコーダーを両足に巻き付け、そのままサガークベルトへインサート。ジャコーダーを介し、サガークの魔皇力がサガの両足へ供給されていく。


「断罪の牙の下、転生の輪廻に沈めぇ!!」
「その命、神に返しなさい!!」
「王の判決を言い渡す。死だ!!」


各々の力の象徴たる三日月、太陽、蒼月をバックに、三人は天高く飛び上がる。


キバの翼を生やした左足からの『ダークネスムーンブレイク』。
イクサの太陽光に輝く右足から放つ『イクササンライズパニッシャー』。
サガの螺旋状の紅光を纏った錐揉みキック『スパイラルデスブレイク』。




《――はひぇ!?》


三人の戦士が放つトリプルライダーキックが、ドミノの守る御崎市駅に炸裂し、辿り着く列車を無くした駅舎は、爆炎を上げながら崩壊していった。




まだ毛虫と蛇が残っていないかと、身体中を粗探しするキバとシャナはふと、ほぼ同時に呟く。



『……なんで最初からあの翼で飛んで来なかったんだろう?』
「知らん」
「切り札にしておきたかったんじゃないか?」
『飛んで見せて、驚かせたかったのだろう』


イクサ、サガ、アラストールが、至極どうでも良さそうに答えた。


◆◆◆


「ゆかりちゃん、今日から『シャナちゃん』って呼ぶね」
吉田が穏やかな口調で言った。
「うん」


場所は『カフェ・マル・ダムール』。
全てを片付けた面々は、シャナ達を加え、当初の計画通り、小さな花火大会を開いていた。


「私ね、ずっと感じてたの」
「なにを」


調律は吉田のイメージを使い、今度こそ滞りなく行われた。
久しく感じなかった、街というコミュニティーが生み出す暖かさを、全員が感じていた。


「坂井君と、ゆ――シャナ、ちゃんとの間にある、私には見えない、絆みたいなもの」
「そう」


太牙が蛇花火に火を付け、カムシンとサガークは物珍しそうに、日本独特の花火に魅入っていた。


「それが、羨ましかった。きっと私には分からない、なにか特別な関係なんだと思ってた」
「その、通りじゃない」


名護と恵は、由利と共にスパーク花火に興じている。
辛い戦いの余韻を忘れさせてくれる、家族だけの時間だ。


「ううん、違う。特別じゃない。同じ場所に立ってるだけ。普通の人間には見えない世界に一緒にいる、そんな繋がりだと、今では思ってる」
「……だから、なんだっていうの」


佐藤と田中が、打ち上げ花火をセットする。祭りでは終ぞ見られなかった夜空に咲く花に、マージョリーもまんざらではなさそうだった。


「だから私、改めて言うね」


次狼とマスターが悪のりし、数個の爆竹花火の導火線を纏め、一気に火を付けた。
弾ける騒音に、ラモン、力、嶋が耳を塞ぐ。


「これで、私とシャナちゃんは、本当に対等だから」


“こちら側”に来る覚悟を決めた少女の言葉に、シャナは言い知れない恐怖を覚えた。


「……わ、私」


怯えから、自分の持つ線香花火に目を落とす。


もう吉田は、どうしようもなく強い敵となっていた。幼稚な独占欲などものともしない、強い想いを秘めた少女。


だがシャナの中では、自分から動くしかないという気持ちと、動くことでフレイムヘイズたる自分の有り様が変わってしまうという気持ちが、互いにせめぎ合っていた。


――それでも必死に、酷く弱々しい声で、シャナは言う。
そうすることしか、できなかった。


「私は、悠二が好きなの」
「うん、知ってる」


僅かな反撃さえも受け止め、吉田は揺らぐことなく、シャナを迎え撃った。


「私も、坂井君が好きなの」


◆◆◆


「………」


悠二、静香、キバットとキバーラの四人と、線香花火を楽しみつつ、奏夜は二人の少女の話を聞いていた。


(これは吉田が一歩リードだな)


今回の一件で、吉田はシャナと同じステージに立った。
カムシンや太牙との邂逅が、彼女を劇的に変えたのだ。


ならばシャナもまた、自分の殻を破らなければならない。
シャナが本当にしたいこと――心の声を聞かなければ、この状況はひっくり返せない。


いずれにせよ、二人の勝負はこれからだ。


(なるべく早めにケリがつくといいんだけどねぇ)


苦笑して、奏夜は誰にも聞こえない小さな声で、ぽつりと呟いた。









「俺には、あまり時間が無いからな」







奏夜の線香花火が、静かに地面へ落ちた。


◆◆◆


「やれやれ、ようやっと見つけたわ」
「んー?」
「はえ?」


『我学の結晶エクセレント7930―阿吽の伝令』により、すんでのところで難を逃れた教授とドミノを待ち受けていたのは、一人の女性だった。


長身に、タイトスカートを着こなす妙齢の美女で、その周囲には幾重もの鎖が蠢いていた。
右目に眼帯、しかし左目に加え額にも目がある、三つ目の女性。


〔仮装舞踏会〕三柱臣(トリニティ)、ヘカテー、シュドナイと並ぶその一柱“逆理の裁者”ベルペオルだ。


「はうぁー! 軍師さま!? きょきょきょ教授、みみみ見つかっちゃっはひはひひはひ(たいたい痛い)」
「あまり遠くにお行きでないよ、“教授”。“壊刃”に行き逢って行く先を聞けなんだら、どうなっていたことやら」
「んー、やぁはり、奴の雇いを解ぉーくべきではありませんでしたねぇ」


困ったように頬を掻く教授に対し、女性は感情の読めない笑みを浮かべた。


「実験も一段落したのだろう? そろそろ私たちの方も、手伝ってはくれないかね?」
「んんー、〔仮装舞踏会〕でぇすかー? 『星黎殿』も『暴君』も、いぃー加減いじるのに飽ぁーきたんでぇすがねぇ―?」
「近々、『零時迷子』が手に入るかもしれない、としたら?」


教授の目の色と気分が、一瞬で変わった。
ドミノをどつき、すぐ様、次の実験場への引っ越し準備にかかる。


その様子に口角を吊り上げたベルペオルは、思い出したように付け加える。


「ああ、そうそう。もう一つ、お前さんが興味のありそうなものがあるんだがね」
「ほぉーう? あなたにしては気ぃー前が良いですねぇ? なぁーにか裏があるんでぇーすか?」
「いやいや、これは単純に、我々の大命と関係ない話なだけさね」


訝しむ教授に向け、ベルペオルは告げた。






「教授、“深淵のキバ”について、興味はあるかい?」


◆◆◆


「おいドラグ、教授はやられたみたいだぜ? 早くしねーと感づかれるぞ」
「待て。もう、終わる」


奏夜達が戦った御崎市。
限られた者しか知らないある入り口を使い、ドラグとゼブは御崎市の遥か地下を通る、隠された洞窟の深部にいた。
続く道には何重にも罠が仕掛けられていたが、二人にとってはなんのこともない。


遂にドラグは、巧みに魔術を操り、奥へ続く最後の結界を破る。
石造りの重々しい扉が開き、中の光景が二人の目に飛び込んできた。


そこにあったのは――黒塗りの大きな棺桶だった。


古めかしい様式だが、貴重な宝石や装飾がいくつも成され、埋葬された人物の地位が見受けられる。
フードの下でドラグが歓喜に身を震わせ、軽薄なゼブでさえも、神妙な様子でその棺を見ていた。


やがて二人は棺の前で、恭しく膝を折る。






『お迎えに上がりました。我らが主よ』


◆◆◆


その日、奏夜は次の授業のため、一年二組へと足を運んでいた。
階段をゆったりとした動作で上がり、踊り場に立つ。


「……?」


ふと、頭上に位置する二階の廊下に、誰かが立っているのがわかった。
一昔前の旅人のようなコートを身に纏い、鍔のついた帽子と眼鏡を着た中年の男性。


見ない顔だ。生徒というには無理があるし、かといって教員なら奏夜が知らぬ筈がない。


「……あー、一応部外者の立ち入りは」
「いつか、君の前に悪魔が現れる」
「は?」


男は急にわけのわからないことを言い出しかと思うと、次の瞬間には、奏夜の背後に回り込んでいた。


「ッ!」


奏夜は慌てて飛び退く。


今、この男は何をした?
自分に視認されず、後ろに回り込むなど不可能。
異形の存在ならまだわかるが、気配でわかる。こいつはファンガイアでも“徒”でもない。


驚愕を隠せない奏夜に、男は続ける。


「その悪魔は、これまでも様々な世界を破壊してきた。完璧な調和の保たれたこの世界でさえも、あの悪魔は破壊してしまうかも知れん。――悪魔を破壊しろ。君の世界を破壊されたくなければ」


言い置いて、男の姿は突然現れた不気味なオーロラの中に消えていく。


「なっ! おい、待てよ!」
「その悪魔の名は“ディケイド”。忘れるな。ヤツを、世界の破壊者をこの世界から排除するのだ!」


言い終わるか言い終わらない内に、男はオーロラの壁に呑まれ、姿を消した。





「……世界の破壊者、“ディケイド”?」


  1. 2012/04/18(水) 16:29:00|
  2. 仮面ライダーキバ/BLAZING.BLOOD
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第十九話・ハーモニー/RIDER'S.FORCE.前篇

旧依田デパート屋上。


シャナやマージョリーに、悠二と吉田を見つけたと連絡を入れ、全員がそこに集まっていた。


問題はその後である。
亡き“狩人”フリアグネの宝具『破璃壇』を囲み、数名の人影が、互いのことを信じられない顔で見回していた。


黙っていても埒が明かない為、紅奏夜が代表して口火を切る。


「九時ダヨ、全員集合!!」
「全員集合、じゃありませんよ!」


奏夜の懐かしいフレーズに、マージョリーの子分、佐藤啓作がすかさずツッコむ。同じく子分、田中栄太も同様だ。


「名護さん、なんで先生がここにいるんすか!!」
「……ああ、そう言えばキミ達は知らなかったな」


名護が少々ばつが悪そうにする。


「奏夜君、あれから結局、佐藤君や田中君に話していなかったのか?」
「話す意味も無さそうでしたからね。……佐藤に田中よ。人がそこにいる意味を求めるのは、無粋だと思わんかね?」
「何故ちょっといい台詞!?」
「誤魔化されるな田中! 先生はぐらかす気満々だ!」


奏夜を問い詰めようとする二人を見て、悠二も呆然としている。


「なんで佐藤と田中がここにいるんだ?」
「いや、そりゃこっちの台詞なんだけどな……」


佐藤が逆に問い返す。


「そっちこそ、フレイムヘイズと“ミステス”だって? 吉田ちゃんまで?」


吉田も、今の状況に着いていけなくなりそうだった。


「坂井君が、その“ミステス”だって知ってたんですか?」
「いや、“ミステス”ってことだけで、誰かは……それより、平井ちゃんがフレイムヘイズ?」


訊く田中と佐藤を見て、シャナが彼らの親分を睨む。


「なんでこいつらがこんなところにいるのよ!?」
「……知り合い、だったわけ?」
『世間ってな狭えなあ、オイ』
『貴様ら、なにを考えてこの二人を巻き込んだ』


アラストールが低く唸ったところで、あまり顔の知られていないカムシンと太牙がストップをかけた。


「ああ、ちょっと落ち着いて、皆さん」
「積もる話もあるだろう。取り敢えず一人一人、自分の身の上を明かしたらどうだ?」
『ふむ、出来る限り簡潔にな』


ベヘモットが最後に付け加え、全員の混乱はようやく落ち着いた。


◆◆◆


互いの抱える事情を話すのは、やはり衝撃も大きかった。


本物の坂井悠二と、平井ゆかりが既に死んでいるのもさることながら、やはり奏夜=キバというのが一番驚かれた。


しかし、当の本人はどこ吹く風で、


「俺の天才性が、高校教師という器に収まると思っていたのか?」


と言ってのけていた。身も蓋もない。


「しかし、随分ごちゃごちゃした相関図だったな」
「よく言いますね先生。自分だけ誰がなにをやってたか知ってた癖に」


佐藤がジト目気味に一瞥をくれる。
その視線に、奏夜はおどけるように肩を竦めた。


「成り行きだよ成り行き。俺はある意味、物語を裏側から見てたようなもんだからな」
「キバ――っていうか、先生が前に姐さんと戦った時、もう俺達のことには気付いてたんすか?」


田中の問いに、奏夜は首を横に振る。


「いいや、あの後、マージョリーと個人的に話す機会があってな。お前らのことはそこで聞いた」
「はぁ……結構裏で動いてたんですね」
「意外と動揺しないんだな。悠二の事情を聞いた時もそうだったが」
「いえ、さっきの話じゃありませんけど、普段の先生見てれば、別に先生がキバでも可笑しくないかなーって」
「どういう意味だコラ」
「あー、つまるところ、『先生は何でもアリ』って認識なんです」


佐藤の言い分に、田中も乗っかる。


「そうそう。むしろお兄さんがいたことの方が吃驚でしたよ」
「……奏夜。お前は一体どんな身の振る舞いをしてるんだ」


太牙の白い目線が突き刺さる。


キバであることが大した問題じゃない。むしろ奏夜ならすぐ納得できる。
確実に、奏夜の日頃の破天荒っぷりが招いた結果だった。


「あはは。ま、まぁ、その辺は置いといて――」


さすがに兄の威厳には耐えきれないのか、奏夜は慌てて目線を『破璃壇』に移す。


現在『破璃壇』には、御崎市の“存在の流れ”が映し出されている。“探耽求究”が作り出した、自在式の全体像だ。


「ふむ。大通りに繁華街――人混みの多い辺りに、存在の力の流れが集中しているな」
「んで、花火打ち上げ用の艀に仕掛けられた自在式が、あの花火を歪ませたワケね」


名護とマージョリーの冷静な分析に、カムシンも頷く。


「ああ、我々が起動した自在式から制御を手放した、その一番最初に、この密集した自在式して、歪みを生み出したのですね」
「さて、悠二よ。現状把握が終わったところで、お前の策ってヤツを教えてくれねぇか?」


奏夜の口調からは焦燥が伺えた。


“教授”が着実に近づいて来ている為である。悠二も同じ気持ちだったが、自分の案に必要となる少女 への引け目から、


「……いいかい、吉田さん」
「はい、大丈夫です」


自分には向けられない気遣いから、シャナが顔をしかめていたが、気付いたのは奏夜だけだった。


そのまま、悠二が言う。


「僕は、もう一度、吉田さんに調律の元になるイメージを写し取る作業を、やってもらいたいんだ」
「えっ……?」


吉田を含む、全員が顔を驚きに染める。


「んなことしてなんになるのよ? もう実際におかしくなっちゃってるのに」
「……いや、待てよ。そういうことか」


調律に付き添った記憶から、太牙はいち早く、悠二の策に気が付いた。


「つまり悠二くん。もう一度、間違い探しをするんだね?」
「そういうことです、太牙さん」


頭が回って適応力も高まっているのか、初対面の太牙にも、悠二は親しみを持って頷く。


「調律の雛型になったイメージを持つ吉田さんに、今の……“自在式でいじられた御崎市”を見せて、どこがどう違っているのか、感じて貰うんだ」


太牙の言う通り、二回目の間違い探しだ。
“教授”によって改変された御崎市を、正しい見本を見ながら、違っている箇所を探す。
そして、発見した“違っている箇所”にこそ、この自在式のカラクリと、“教授”の真の目的が隠されているはずだ。


有効かつ現実的な案に、それぞれが感嘆の声を挙げた。


「ひゅー、さすが悠二」
「そうだな。今の段階では、最良の手だ」
「ふーん、やっぱやるじゃない」
『ふむ……たしかに、やってみる価値はあるな』
『ヒヒヒ、こーりゃいよいよしっかり掴まえとくべきだなぁ、嬢ちゃん』
「なっ、うるさいうるさいうるさい! そんなことより、早くしなさいよ!」
「ああ、それもそうですね。時間もありませんし……よいですか、お嬢ちゃん?」
「はい」


カムシンが肩に背負った鉄棒の布を解き、指揮棒の如く振るう。


「さあ、始めましょうか」


風を切る鉄棒の周囲から、褐色の炎が吹き出し、生み出された怒涛の輝きが吉田を包み込んだ。
悠二達が息を呑む中、炎の渦は球状の形に落ち着いて行き――


「……うわっ!?」
「――っえ!?」
「おおっ!!」


眼前の光景に悠二と佐藤と田中が叫んだ瞬間、群青色の光が弾けた。


「そこの六人、見たら死刑ね」
『ヒヒヒ、脅しじゃねーぞぉ?』


マージョリーとマルコシアスの警告に戦慄しつつ、三人は目を瞑って後ろを向いた。


無理もない。――カムシンの自在式『カデシュの心室』内に浮かぶ吉田一美は、一糸纏わぬ姿をしていたのだから。


見れば奏夜、名護、太牙の三人は――火が吉田を包んだ時から嫌な予感がしたのだろう――とっくに背を向けていた。



さすがに、歴戦の直感力が活きている。無駄に。


「……先生。ちょっと前に、このテの事に一喜一憂してたら、教師は出来ないとか言ってませんでした?」
「さすがにあれは許容不可」


悠二の非難めいた言葉に、奏夜はか細く言い訳をした。


「でも、先生はそうだとして、名護さん所帯持ちじゃないですか」
「そうっすよ。既婚者が今更――」
「……既婚者、という理由で、恵が許すと思うか?」


佐藤と田中は押し黙る。


思えない。 最悪、名護が神に命を返されることになる。
名護のかつてない真剣トーンからも、それは伺えた。


「みんな、あまり余計な口を叩かない方がいいぞ。……『弔詞の詠み手』に本気で消される」


太牙の呟きに、全員ただ同意するばかりだった。
男性陣のどうでもいい葛藤を余所に、間違い探しは続く。


◆◆◆


吉田の間違い探しから、理解したことは二つ。


一つ。
街に張り巡らされた自在式は、『フレイムヘイズやファンガイアの、存在の力やライフエナジーを利用して起動し、撹乱の効果を発言させる』ということ。


言わば、反射。
シャナの火炎弾が返されたのは、火炎弾自身に込められた“存在の力”を持って返された。
奏夜のマシンキバーやバッシャーアクアトルネードは、キバの鎧に内蔵された魔皇力によって、誤作動を起こしたのである。


二つ。
件の“撹乱の自在式仕掛け”は、ミサゴ祭りのシンボルとして、あちこちに取り付けられた鳥の飾りによって起動する。人間の業者に、配置と取り付けを任せ、フレイムヘイズに気取られぬようカモフラージュ。
後は勝手に包囲網が完成するというわけだ。


相手の戦略は、これで掴めた。
しかし、


「でも、どうやってこの仕掛けを壊す? 気付かれたら、また撹乱されるだけじゃないの?」
「確かにな」


シャナの意見に、奏夜も頭を抱える。
攻撃しなければ破壊出来ないのに、攻撃すればすぐ撹乱される。


二律背反だ。


「一個や二個は破壊可能だろうけどなぁ」
「だが、それではすぐ警戒されてしまうだろうな」
「ええ、大元の駅を叩こうにも、あそこは撹乱用の飾りもタップリあるしね。
実際、私もチビジャリもソウヤも、近付けなかったわけだし」
「しかも駅前の飾りは、不意打ちじゃ破壊出来ないくらいの量だもんね」


名護とマージョリー、頼みの綱の悠二にも、良い策は思い浮かばなかった。


「他に狙える標的と言えば、“教授”本体だろうが……」
「ああ、無理ですね。御崎市外周部の飾りを壊し、市外に出たとしても、その隙に駅の“燐子”が何をするかわかりません。最悪、戦力を分断される可能性もあります」


太牙の案をカムシンが否定し、再び一同が考え込む。


鉄壁にして穴のない計略。
“教授”の最終目的がなんであれ、彼が御崎市に到着すれば、成就する類いのものなのだろう。


(それを阻止するには、もう一手必要だ)


――奏夜の望むもう一手は、意外な人物にもたらされた。


「あ、あのー」


強者達の威圧感に畏縮しつつ、佐藤がおずおずと手を上げていた。


「なに、ケーサク」
「俺……駅の中、入ったんですけど」
「はぁ?」


マージョリーのみならず、全員が目を見開く。


「えっと、ここに来る途中、なんですけど」
「いやいやちょっと待て」


奏夜が佐藤の言葉を遮る。


「お前、そもそも何で駅に入ったんだ?  マージョリーの指示とは思えないし」
「っ、それは……」


不自然に言い澱む佐藤。
見れば、マージョリーと田中も、やや渋い顔になっている。


『あー、キバの兄ちゃんよ。あんま追求しねぇでやってくれや』


更に言及しようとした奏夜を、マルコシアスが諫める。


『我が麗しの酒杯が、じゅーぶんに叱っちまった後だからよ』
「……はぁ、わかったよ」


何となく事情を察した奏夜は、それ以上何も言わず、瞬時に思考を切り替える。


「佐藤が入れたのは、ただの人間だからか?」
「ああ、そうでしょうね。あの自在式は、あくまで存在の力や魔皇力に反応するものですから。恐らく“教授”は我々に重きを置き、人間に注意を払わなかったのでしょう」


人間があの繭に入ったところで、できることはたかが知れている。


その判断は妥当なものだが、今の状況では、こちら側の突破口に成り得る致命的なミスだった。


「……ケーサク、エータ」


ずっと思索に励んでいたマージョリーが、物凄く気が進まなそうに、二人の子分の名を呼ぶ。


「はい?」
「何です、姐さん?」
「アンタらにしか頼めないことがあるわ」


唐突に紡がれた提案。
呆けたように首を傾げる二人に向け、マージョリーが淡々と説明を付け加える。


「まず、アンタらに誘導標識の付箋を渡すわ。 これは私の自在法を引き寄せる効果がある――つまりは目印ね。
これを駅内のどこかに貼り付けてくれさえすれば、私の攻撃は撹乱の自在式に惑わされない。 そうすれば、私は警戒されずにデカい自在法を使えるから、一撃で駅付近の飾りもぶっ飛ばせる」
「おい待てマージョリー」


話の進行に、奏夜が慌ててストップをかける。


「確かにそれなら、少なくとも駅付近の撹乱の自在式は無効化出来る。でも、田中や佐藤へのリスクが高すぎるだろ」
「奏夜くんの言う通りだ。それなら、私が彼らの代わりに侵入し、イクサで中から駅を破壊すればいいだろう?」


名護もまた人間である為、駅への侵入は可能。
場数を踏んでいる彼の方が、適任であるように思えた。


「ダメよ。駅の中に入れても、アンタの白騎士には、周りの飾り全てを破壊するだけの火力はないでしょ」
「しかし……」
「……私だって、誉められた策じゃないのはわかってるわよ。けど、他に良い案あるの?」


正論に言葉を詰まらせ、しかし尚も異議を唱えようとする名護に、佐藤と田中が口を揃えて言う。
危険を伴う作戦に対する恐怖はなく――単純に、憧れの人から頼られた、という歓喜の方が勝っていた。


「名護さん、やらせてください。今んとこ、それしか対処策がないんでしょう?」
「俺達も何か、名護さん達みたいに、出来ることをしたいんです」


真っ正面から見つめられ、熱意に負けた名護は、肩を落として溜め息をついた。


「……わかった。ただし、私も同行させて貰うぞ」


名護はおもむろに、懐からイクサナックルを取り出した。


「護衛役くらいは構わないだろう? 『弔詞の詠み手』」
「ええ、最初から頼むつもりだったし、お願いするわ」
『ヒャーッハハ!! お前にしちゃ随分と配慮ある行動だブッ!』
「お黙り」


マルコシアスをブッ叩き、マージョリーはシャナ、カムシン、奏夜、太牙を見渡す。


「聞いての通りよ。私とケイスケで駅前の繭を何とかするから、アンタらは他の場所の飾りを破壊しときなさい」
「わかった」


シャナが使命感から強く頷き、奏夜と太牙もそれに習う。


「ああ、では私は残って、お嬢ちゃんと“教授”の目的を探りましょう」
『うむ、『弔詞の詠み手』が撹乱の自在式を破壊してくれれば、『カデシュの心室』を通じ、お嬢ちゃんがあの繭を調べられるからのう』
「じゃあ、悠二もここで待機しておけ。吉田の調査が進めば、また気付くことがあるかもしれないからな」
「はい、わかりました」


自らの分はわきまえている為、悠二の返答に迷いは無い。


――付け加えるように、奏夜は彼に耳打ちした。


「シャナとは、ちゃんと仲直りしとけよ」
「! ……わかってますよ、言われなくても」


悠二はシャナを目に収める。
凛とした態度は普段と変わらないが、ほんの僅かだけ、刺々しい雰囲気を醸し出しているようにも見えた。




悠二の目線に気付いたのか、シャナが傍へ寄ってくる。奏夜を挟み、じっと向かい合うような様子だ。


「……あの、シャ」
「悠二」


沈黙に耐えきれなくなった悠二より早く、シャナが口を開いていた。
彼女にしては珍しく、声の端々から緊張が感じ取れる。


「悠二……怒って、ない?」
「!」


声の調子を弱め、瞳の奥に不安を隠す少女の姿に、悠二は心底驚いた。
だがすぐに、


「……なんだ、そうだったんだ」


安心感から、相好を崩していた。


「な、なにがおかしいのよ!?」
「ご、ごめん、でも違うんだ。僕もてっきり、シャナが怒ってる……って思ってたから」


気づいてみれば、こんなもの。
すれ違って、互いに遠慮していただけ。最初のギクシャクした空気は、どこかにすっ飛んでしまっていた。


「……怒って、ない?」
「うん、僕の方こそ、怒鳴ったりしてごめん」
「……うん。私も、ごめんね」


仲直りから生まれた歓喜に、二人は笑みを交わし合う。


「街を、みんなを頼むよ」
「うん」


憂いの晴れた様子で、シャナは悠二から離れ、奏夜を見上げた。


「良かったな。仲直りできて」
「うん」


満面の笑顔を刻み、シャナは再び、髪を紅蓮に染め上げる。


「行こう、奏夜」
「ああ、さっさと済ませて、花火の続きだ」


言いながら、奏夜は名護と太牙に目配せで合図し、屋上の柵近くに立つ。


「じゃあ久し振りに、三人でいきますか!」
「ああ、任せなさい」
「この街を、必ず守ろう」


名護と太牙も、強い意志を持ってそれに応えた。




「キバット!!」
「っしゃあ! キバッて行くぜ!」


奏夜は、飛来したキバットをキャッチし、自分の左手を強く噛ませる。


『ガブッ!』


ステンドグラスの紋様が、奏夜の頬に刻まれ、腰に巻きついた鎖が真紅の止まり木・キバットベルトと化す。
キバットを正面に突き出し、奏夜は叫ぶ。




名護は取り出したイクサベルトを巻き付け、手甲型の変身ツール、イクサナックルを左手に押し当てる。


『レ・ディ・ー』


無機質な待機音が流れ出し、名護はイクサナックルを右横に構え、叫ぶ。




「サガーク!!」
『◎◆∈〆!!』


太牙の呼び掛けに応じたサガークが、彼の腰に取り着き、白銀に輝くサガークベルトとなる。
プロトタイプフエッスル・ジャコーダーを携え、太牙は叫ぶ。







『変身!!』






キバットがベルトに止まり、奏夜に巻き付いた光の鎖が弾け飛ぶ。


『フィ・ス・ト・オ・ン』


イクサナックルがベルトにジョイントされ、地面からアーマーの映像が現れた。
アーマーは名護の姿と重なり、頭部のクロスシールドが展開する。


『ヘン・シン』


スロットにジャコーダーをインサートし、一気に引き抜くと、サガークベルト中央部が回転。
蒼いウェーブが太牙の身体を駆け、目映いばかりの光が、ガラスになって弾け飛んだ。




――仮面ライダーキバ。
――仮面ライダーイクサ。
――仮面ライダーサガ。


御崎市が――ファンガイアの中枢都市が誇る、三人の仮面ライダーだ。




壮観な光景に、誰もが息を呑んだ。
佐藤と田中に至っては、かつて恵から聞いた話を、記憶の底から引っ張り出していた。
今なら分かる。あの言葉の意味が。




――四年前のこの街にはね、三人のヒーローがいたの。
人知れず、仮面で正体を隠して戦うヒーローがね。




ヒーロー。
そう呼ぶになんの不満があるだろうか。
それほどまでに、三人の後ろ姿は絶対的で、何処か羨望すら感じる風格を、見る者に与えていた。



  1. 2012/04/18(水) 16:28:07|
  2. 仮面ライダーキバ/BLAZING.BLOOD
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【感想】仮面ライダーフォーゼ 第30話.先・輩・無・用

田中の動向を心配しつつ感想。

・ある意味共依存関係な新入生二人。また面倒な……

・おや、メテオストームパニッシャーのエフェクト格好良くなりましたね。
前はこんな紅い発光してなかったのに。

・田中予想以上にうぜぇな……。

・七人ではなく、六人……まさか一人既に見つかってるのか?

・うーん……こりゃ先輩不信にもなるわな……。ハル君を縛り付けてることに関しては行き過ぎかと思いますが。

・あ、このシーン、なんかデジャヴ感じたと思ったら第一話で弦ちゃんが手紙探してた場所か。

・姫レッドktkr!!
……スイッチャーはこの子?

・これもう公式が流友認めてるってことでOK?
いやだって橘さんわざわざ友子に変身してしかもメテオはメテオで攻撃止めちゃうしああもうたぎりすぎてコメントできないいいい!!(落ち着け

・感じの悪い教師=田中の認識www

・なんか友達の証久しぶりだなー。

・田中3、2、1で顔芸やめろwww

・空中戦かっけぇぇぇぇぇ!!

・「俺が出るまでもないか」
リュウセイサーン、ナズェミテルンディス!!(0w0;)

・ネットスイッチは捕縛能力か。ネタバレみた時はまるで能力予想できませんけど、毎回毎回よく考えてるなぁ。

・「その時は歓迎するね」
友子の進歩がわかる言葉ですね。前回は「ライダー部はこのままがいい」みたいなこと言ってましたし。

・なんか田中が顧問になると思い立った理由が描かれてなかった気が……フォーゼに助けられたから?それとも教師がゾディアーツ化を促してると知ったから?
なんにせよ、今回の活躍はあまり名誉挽回にはならなかった……というのが本音です。今後の活躍次第ですな。


次回は遂にアリエスキター!!
最強フォームフラグも経ってますし、フォーゼもいよいよ折り返し地点ですね。ワクワク(^O^)


  1. 2012/04/14(土) 12:20:15|
  2. 【感想】仮面ライダーフォーゼ
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【感想】特命戦隊ゴーバスターズ Mission7.エース整備不良!?

感想遅れました……時間ナッシング……。

しかし、思った以上にいい回でした(^O^)

・なんか現代社会を端的に表してる気がする、この新人……。

・「あんなヤツにエースの修理を任せて大丈夫か?」
今回のストレート発言。ヒロム君の場合見下したわけではなく、エースの不調は死活問題だから入念なチェックが欲しいってことなんでしょうが……

・マジェスティ、エンターの話聞いてやれよwww今までの失敗、半分くらいはアンタがエンターの意見シカトしたのが原因だぞwww

・しかしまぁ、エンターは頭脳派というか、大局を見れる悪役ですな…(こういうヤツが一番厄介なんだよね

・「は~い、行ってらっしゃい」
エンターのこのなよなよした口調が好きです。

・「ガタンゴトン、ガタンゴトン!」
いやだからなんで今回の怪人達はこんなにキャラが濃いんだwww

・「アナタのようにエネルギー持ち歩くばかりが脳ではない」
あれ、エンターってウィークポイントのこと知ってたっけ?

・あああああああニックとエースがかががが!

・「ごめんで済むなら整備士はいらないんだよ」
「これは遊びじゃない。そう思うならそうすればいい」

ヒロム君怖い……普段からあまり笑う方じゃないですが、ここは顔に出さずマジ切れしてるのが伝わってきましたよ……

・「快速急行でございます。この駅には止まりませ~ん!」

吹いたw

・バ、バーチャルモード!?
なんだこれすげえ!さながら天幻星霧隠(ダイレンネタやめろ

・「俺は失敗なんかしない!」
なんだかなぁ……こういうところがヒロムの危うい部分なんだよな……。

・今回のフリーズは風見鶏かぁぁぁァァァァ!!www

・おお!三人が協力してるシーンでOP挿入はいいですね!

・今回のメタロイド電車ごっこか!!←恐らくは誰もが思ったこと

・「お互い助け合えばいいんじゃない? どうせ一人じゃ戦えないんだし」
リュウさんはホントいいまとめ役だなぁ……。

・「戦ってるのは俺達だけじゃない」
「一緒にこの世界を守ろう!!」
このシーン、かなりグッと来ました。王道中の王道展開ですけど、ヒーローを裏方で支える人もまた、同じ志を持った紛れもないヒーローなんですな……。


ちょお待て次回www新バスターマシン云々より、エンターの店員コスプレに全てを持ってかれたぞwww
  1. 2012/04/14(土) 11:46:11|
  2. 【感想】特命戦隊ゴーバスターズ
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【感想】特命戦隊ゴーバスターズ Mission6.合体!ゴーバスターオー

・苦戦中の合体。
合体訓練か……カーレンジャーにもあったな、こんなの。

・最初に合体してから向かえばいい……さりげなくヒロム、戦隊モノでの禁句をww

・でもちゃんと合体時間制限の説明があるのはいいな。

・お守りと侵略で大変ですねエンターさん。なんかいつか裏切りそうだなぁ……。

・もぐもぐするヨーコちゃん可愛い。

・ヒロムは天才故の苦悩が多いみたいですね。天道みたく常に迷わない天才じゃないのかな。

・リュウさんとヒロム、センターが初対面じゃなかったのか。

・ちょ、第六話にて基地潜入とかすげえなエンターww(←仮面ライダーに一話で壊滅したboardという組織があってだな……)

・「中から破壊されたらいくら頑丈な基地でも!」
……ぶっちゃけエネトロンタンクの紙装甲を考えれば、その強度もたかが知れ(ry

・「障壁破損しました!」
→そらみたことかw

・内側に敵、外側に敵、爆発、脱出不可……普通なら終盤まで取っとくレベルのピンチだよねコレ。

・指分離できんのかエンターw

・おお、リュウさんナイスプレー!

・ゴーバス見てていつも思うことだけど、怪人戦と巨大戦、同時進行でよく回せるなぁ。スタッフすげぇよ。

・リュウさんなる早ってww

・信用できないから集中できない、信用できるから集中できる。今年の戦隊は信頼関係の築き方が丁寧だのう。

・バンクかっけぇぇぇぇぇ!
しかし左腕のウサ耳カッターがww

次回、俺のゴーバスターエースが不調だと……!?(俺の言うな)
あと映像見る限り、またヒロムフリーズしそーだな……w
  1. 2012/04/05(木) 17:22:49|
  2. 【感想】特命戦隊ゴーバスターズ
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【感想】仮面ライダーフォーゼ 第29話.後・輩・無・言

・最近は慣れてきましたけど、弦ちゃんのあの対応なら引かれるのが普通なんですよね……この対応がみんなに浸透する日が来るのだろうか。

・「なんか変わった子だね」
ユウキ鏡見よう。

・「他人への無関心と拒絶、それが今時の若者だ」
賢吾第一話の自分を見よう。

・賢吾がすげー嫌そうw

・「新学期早々最悪の展開だ……」
はげどw

・校長粗忽過ぎワロタw

・なんかこの女の子、色々と見ててイタいなぁ。守ってあげなくちゃとか、自分の価値観を相手に押し付けてるだけみたいに見えるし……いや、何か理由はあるんでしょーけど。

・最初っからゾディアーツ正体バレてるの、何気にレアケースじゃね?

・「なんて間の悪いヤツだ……!」
この表面と本心を入り混ぜたような顔がなんともww

・友子はやっぱりまだ人付き合いが苦手なんですね。友子のあるがままを受け入れてくれたのが、ライダー部の人だけだったわけですから、新しい環境に後込みするのも当たり前ですけど。

・ワイルドに追跡した結果がそれか大惨事先輩……てか免許取るの早いなww

・ムスカ……まさかラピュタ王の(ry

・ホッピングとマジックハンドおひさ。

・「あまり策を弄しすぎると、墓穴を掘ることになるぞ」
どう考えてもフラグですね本当に(ry
つかヴァルゴ、キャンサーの件、本当はわかってるんじゃねぇのかな?

・「もっと強くならなくちゃ……」
こんな感じで悪堕ちした主人公がいましたね……最近土曜日から日曜日に移ったカードアニメに。

・田中ざまぁw

・「もしもしもしもーし!」
ユウキwww

・変化する……超新星とかじゃなく、フォームチェンジみたいなもんか。

・「メテオ…」
ごめん。友子のこのセリフで滅茶苦茶たぎった。
わざわざ賢吾のピンチじゃなく、友子のピンチで現れるあたりが わかってる(何が?)

・「ジャンピング頭突きー!」
おいww

・田中に見つかったーーっ!?
そしてアイキャッチまでも乗っ取られたーーっ!?

田中がライダー部顧問になるのかなぁ……今んとこあの人、いいとこが全然無いんで、結構複雑です。
ネタキャラとしては好きですが、芸人枠としてはあまり……なだぎさんや髭男爵やらが良キャラ過ぎたってのもありますけど。

次回、姫レッド役の人登場、流星の高校の異変……ちらっと本物の撫子とか出ないかな、流星と高校同じだったはずだし。
  1. 2012/04/05(木) 17:13:59|
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第十八話・トラジコメディー/絶望を振り切れ.後篇

「こーいう他力本願ってあんまり好きじゃないんだけどさ……」


奏夜達三人、調査を終え、合流した名護とカムシンの前で、マージョリーは口火を切った。


御崎駅の繭は破壊出来ない。
“教授”の目的も分からずじまい。
別行動だったカムシンも「調律への干渉は、ものの見事に阻まれました」と、まさに八方塞がり。


そんな中で、まさに不確定要素とも言うべき可能性に、彼女は手を伸ばした。


「あの“ミステス”の坊やに協力してもらうってのはどう?」


シャナが肩を跳ね上げたのが分かる。 しかし奏夜は、気付かないフリをした。
名護は顎に手を当て「なるほど」と同意する。


「確かに彼は、“愛染兄妹”の自在式を見破った。今の状況、彼の意見が突破口になる可能性は高い」
「ああ、その“ミステス”は何を蔵しているのですか?」


カムシンの事務的な質問に、アラストールが短く答える。


『零時迷子だ』
「! ……ほほう」
『ふむ、それは、また大したものじゃ』
「普段はヘタレだけどな」


しれっと、奏夜は辛辣な評価を下す。


「結構やるのよ。戦力としちゃ論外だけど、頭は切れるわ」
『あの“千変”相手にも、ハッタリで勝負をかけるようなムチャな兄ちゃんでなあ、今度もなんとかやってくれんじゃねぇか?』


名護やマージョリー達の口調からは、悠二に一目置いているのが窺い知れた。
――自分以外の人間が悠二を褒めることを複雑に思い、シャナは、


「……ちょっと共闘したからって、悠二のこと全部分かったみたいに」
「シャナちゃんよ」


シャナの小声を目ざとく聞いていた奏夜は、自らもまた、小さく唇を動かす。


「独占欲は、中途半端だと見苦しいだけだぜ」
「――っ! う、うるさ」
「反論は『うるさい』以外で頼むぞ」


心中を見抜かれ、シャナは反射的に怒鳴ろうとするが、即座に奏夜は言葉を被せてくる。


「『うるさい』はその場しのぎの防波堤だって言ったよな? 意見があるなら、誤魔化さずにはっきり言え」


口調こそいつも通りだったが、一方で奏夜の横顔は無表情だった。
畏縮し、シャナは黙りこくる。


何度目かの、整理がつかない気持ち。
悠二のことを考えると、冷静でいられなくなる。さっき悠二を怒鳴りつけてから、ずっとこの調子だ。
悲しくなったり、嬉しくなったり。どっちつかずで、訳が分からない。


(これも、“どうしようもない気持ち”なの……?)


思い詰めるシャナを余所に、マージョリー達とアラストールは、調律師達に悠二の特徴を伝え、捜索にかかろうとしていた。
去り際、カムシンは単なる情報追加のつもりで訊いた。


「ああ、そういえば、その“ミステス”の少年、名はなんと言うのです?」


マージョリー、奏夜、名護は無言で、シャナの方を見る。
不承不承といった風に、シャナは口を開く。


「坂井悠二」
「!」


カムシンの無表情の仮面が、僅かに揺らいだ。


「ああ、サカイ……“坂井君”?」
『ふうむ……なんと』
「悠二を知ってんのか?」


シャナに代わり、奏夜が問う。


「知っている……というより、どうやら、我々の協力者の知り合いのようでしてね」
『ふむ、そうか。出会った当初に匂っていた気配は、『炎髪灼眼の討ち手』の……』
「ああ、“見ていなければ”、いいのですが」


カムシンの言い回しに、奏夜は奇妙な違和感を覚えた。シャナも同様である。


(“見ていなければ”?)


思考が次々と連結していくのが分かった。
つい先刻の、悠二が口走った言葉が、二人の脳裏をよぎる。


(――「吉田さんに“、知られた”んだ」)


辿り着いた結論が、か細い声に乗った。


「……吉田、一美」
「……そうか。“お前が巻き込んだ”んだな」
「ああ、やはり知り合いでしたか」


シャナは、吉田がとうとう、自分と悠二の立つ世界に入ってきた、という事実から、凍るような恐怖を。
奏夜は、関係ない少女を巻き込んだ、目の前にいるフレイムヘイズへの怒りを、それぞれ抱く。


「ああ、では早々に、その坂井悠二君を探しに行くとしましょう」
『ふむ、必要性以外の理由でも、早く見つけることができればよいのう』


カムシンらが夜の虚空へ消えた後も、二人はしばらく、無反応のままだった。


「……マージョリー、名護さん」
「何よ」
「何だ?」


奏夜の低い声音に、マージョリーと名護は僅かに身構えた。


「俺はカムシンに付き添って、悠二を探します。名護さん達は名護さん達で、悠二を探してください。くれぐれも、俺のあとを追わないように」
「まぁ、バラけるのには賛成だけど、何であとを追っちゃダメなわけ?」




「お前や名護さんに、八つ当たりしかねないからだよ」




言い捨て、奏夜は振り返らずにマシンキバーへ乗り込む。
――マシンキバーは、乗り手の憤怒を主張するかのような、悪魔の唸り声を挙げ、遠ざかっていった。


「……」


シャナもまた、紅蓮の双翼を羽ばたかせ、刹那の煌めきを描いて飛び去った。
後には、名護とマージョリー達が取り残される。


『ありゃ、二人とも相当キてるよなぁ』
「……ねぇケイスケ。チビジャリはともかくとして、あの状態のソウヤは大丈夫なわけ?」
「大丈夫でなかったとしても、ああなった奏夜君は誰にも止められないさ」


名護が肩を竦めて見せる。


普段温厚な分、奏夜はキレると怖い。飄々としつつも、あれでキングと同格の実力を持つ戦士だ。
頭が冷えるまで、放っておくしかないだろう。


やれやれ、と名護は首を振りながら、イクサリオンに乗り込む。


「まったく……、この忙しい時に、太牙はどこで油を売っているんだ?」


◆◆◆


「落ち着いたかい? 一美ちゃん」
「は、はい……ありがとう、ございます」
『◆〆#〇!』


一方、太牙は神社へ続く石段に腰掛けていた。


隣には、顔を俯かせる吉田一美と、彼女を心配そうに見るサガークの姿があった。
吉田はサガークをそっと膝へ移し、円盤に手を乗せる。理解不能だったサガークの意思が、テーブルを通じて伝わってきた。


『カズミチャン。ダイジョウブ? マダ、ドコカイタイノ?』
「うん……大丈夫だよ。ありがとう、サガークくん」


言葉とは裏腹に、吉田の声は僅かに震え、泣き腫らした瞳は未だに潤んでいる。


名護と同じく、街境の調査を終えた太牙は、戻る途中、河川敷にうずくまっていた吉田を発見。
直後、急に泣きつかれたことから、並々ならぬ事情があると察し、彼はこうして、彼女の傍らに鎮座している。


――ただ、


(僕は、どう声をかければいいんだろうな……)


事情は、吉田の嗚咽混じりの言葉から、全て理解した。
カムシンから借りた宝具『ジェタトゥーラ』を使ってしまったこと。
彼女の想い人、坂井悠二が、トーチであったということ。


――もう彼女の気持ちが、どうにもならなくなってしまったこと。


これはもはや、絶望的としか言えない状況だった。 太牙が何と声を掛けようが、坂井悠二を人間に戻すことは出来ない。
動かしようがない世界のルールに、太牙は歯噛みする思いで一杯だった。


(ふざけている……ッ!)


理不尽だ。
何故、こんな年端もいかない少女が、世界の闇に苦しまなければならない。


この子のように、表の光ある世界で生きる人々が、世の裏側に引き込まれないようにする為に、自分はずっと戦ってきたんじゃないのか。


無力感から、太牙は拳を握り締める。何がサガだ。何がキングだ。


(僕は結局、何も出来ちゃいないじゃないか……!)


吉田の前で、サガに変身し、ファンガイアという非日常を教えてしまった時にも、思ったこと。


――僕は、奏夜のようにはいかない。
いつだって、誰かに手を差し伸べられる弟と違い、自分は何もできないまま、その手を取った人でさえ、助けられず、傷つけてしまう。


今、隣で泣いている少女のように。


(……奏夜、か)


あいつなら、どうするのだろうか。
太牙はおろか、誰にも見つからない答えを、あっさり用意してしまう気がする。


だが、ここにあいつはいない。
吉田に救済の光を与えられるのは――太牙だけなのだ。


(……そうだ。僕にしかいないなら、僕がやるしかないじゃないか)


自分でも気付かないうちに、太牙は選んでいた。


(一美ちゃんに、僕と同じ道を歩かせちゃいけない)


『良かれ』と思う決断を。





彼女が抱いている想いは、自分が二度と取り戻せないものだから。
それを、失くして欲しくないから。





「一美ちゃん」


固い決意を思わせる口振りで、太牙は吉田に向き直る。
吉田はゆっくりと、顔を上げた。


「一つ、昔話を聞いてくれるかい?」
「……昔、話?」
「ああ。二人の男と一人の女の、ひどい昔話だ」


◆◆◆


「昔々、あるところに一人のファンガイアがいました。
彼は生まれる前から、ファンガイアを統率する使命を背負う、言わば王族の血を引く存在でした。
成長した彼は、血筋、才気、地位、全てに恵まれた、歴代最強の王と称えられるようになります。
彼自身もまた、自分が王であることに、誇りを持っていました」

「やがてある時、彼はある女性を好きになりました。
彼が王ならば、その女性は王女に当たる存在であり、いずれにせよ、彼と結ばれる運命にあったのですが――彼はそんな運命とは関係無く、彼女を愛していました」

「ですが、その想いは、ずっと離れ離れだった彼の弟が現れた頃から、徐々に崩れ始めました。
女性が好きなのは彼ではなく、彼の弟だったのです。
そして彼の弟は、同朋を狩り、人間を守る戦士――言わば、彼の敵だったのです」

「初めこそ、彼は弟を自分の右腕として、自らが率いるファンガイアに引き込もうとしていました。
しかし、王としてのプライドと、弟への下らない嫉妬心から、彼は弟を敵視するようになっていきました。
二人の兄弟の絆は、同じ女性を好きになったことで、醜く歪んでしまったのです」

「やがて兄弟は互いにぶつかり合いました。
人間を喰らうファンガイアを倒す戦士と、ファンガイアの掟を守る王として。
同じ女性を好きになった恋敵同士として。
宿命の鎖は二人を引き寄せ、戦いはもはや避けられませんでした。
戦いでしか、ファンガイアの存亡と女性への愛を勝ち取れないまでに、二人の男と一人の女の関係性は狂っていたのです」

「そして運命は、二人の男に相応しい罰を与えました」





「二人を止めようとした女性は、兄弟の戦いに巻き込まれ、命を落としたのです」





「兄の絶望は計り知れませんでした。
やがて兄は、女性を殺した真の仇を見つけ出したのですが――それが切欠となり、兄は王の座を追われ、弟にその権威を奪われてしまいました」

「愛する人を失い、キングの資格を失い、自棄になった兄は失意の果てに、封印されていた『闇の鎧』を纏い、キングの座を奪い返すべく、弟に戦いを挑みました」

「しかし、彼はそこで、弟の真意を知りました。
弟がキングとなったのは、傷付いた兄を守る盾となり、ファンガイアの業を全て背負う為だったのです」

「全てを知り、兄は犯した罪から、王の座を諦めるつもりでした。
そんな時、弟は言いました。『違う、やっぱりキングは兄さんだよ。兄さんならきっと、ファンガイアと人間に、明るい未来をつくることができるはずだから』と。
敵であった兄さえも恨まず、弟は逞しく成長していました。
キングなどというものが、ちっぽけに見えるほどに」

「そして兄は、再びキングの地位に就きました。
人間もファンガイアも関係無く、みんなが笑っていられる未来を目指すために。
弟の想いに報いるために。
そして――彼女のような存在を、もう二度と生み出さないために」

「――ただ、彼は今でも思うことがあります。
彼女が自分と関わらなければ。
彼女を、王の資格にかこつけて、自分の傍に縛り付けていなければ。
彼女は幸せになれたのではないか、と。
どうしても――考えずにはいられないのです」




「そうして、彼は今も、罰を受け続けています。
正しさと過ちの狭間で、一生答えを探し続けるという罰を――」




◆◆◆


「そういう――昔話だ」


太牙の瞳は、まるでそこに風穴が空いたかのように、空虚だった。
傍らの吉田は、呆然と、彼の話に聞き入っている。


「今の話、は……」
「一美ちゃんが想像したので、間違ってないと思うよ」


言いながら、太牙か浮かべた笑みは、酷く自嘲めいていて、ふとしたことで消えそうなくらい、儚かった。


「僕はとっくの昔に絶望した人間だ。けどね……絶望なんて、それこそいつでもできるんだよ」


諦めさえしなければ、絶望は何処にもない。
希望への道が、どれだけ苦しくとも、そこに至る道筋は、決して不幸ではない。


太牙は、吉田の頭を軽く撫でた。


「一美ちゃん。キミなら、きっとまだ間に合う」
「……でも」


吉田が頷けないのももっともだ。


坂井悠二がトーチであるという事実は、動かしようがない。支えも何もない中、何を信じろというのだろうか。


――それこそ、都合のいい奇跡でも起きない限り。


「都合のいい奇跡か。いいね、それで十分だ」
「えっ?」
「可能性は0じゃない。ジタバタ動くには、十分過ぎる支えじゃないかな?」
「……」


吉田は目を瞬いた。
世の非常を目の当たりにしたばかりの吉田に、太牙は世のご都合を信じろと言っているのだ。


「坂井君が、本当は無事だっていう奇跡。確かにそれは、百分の一の確率かも知れない。けど万が一、それが起こったらどうする?諦めたら、全ての可能性は0だけど、諦めなければ、可能性は決して0にはならない。
現に僕は、百回目の確率で起きることが、一回目に起きるところを、何回も見ている」


太牙自身、こんな無茶苦茶な戯言が、正しいとは思っていない。常識的な判断とは思えない理屈を、妙な自信で固めているだけだ。


だが――そうだとしても、太牙は吉田を立ち上がらせたかった。


それがどんなに脆弱な希望でも、彼女に諦めて欲しくなかった。


「『誰かを好きになったのなら、悔いは残すな。最後まで好きでいろ』。一美ちゃんは、もう悔いはないのかい? こんな救いの無い終わり方で、本当に満足してるのかい?」
「……っ」


満足している、わけがない。


この絶望は、だからこそ生まれたものだ。 吉田の『何にもならない』気持ちを感じ取り、太牙は問う。


「どんなに脆い奇跡でも、それを信じてみたいかい?」
「……はい」
「そうすることで、更に傷付く覚悟はあるかい?」
「……はい」





「悠二君への想いを、諦めたくないかい?」
「……っ、はい!!」





普段からは考えられないほどに大きく、強い覚悟を込めて、吉田は叫んだ。


また涙が出そうになるが、ぐっと堪える。
こうすることで、絶望を振り切れなくても、もう後悔する気はない。
覚悟と、自分に出来る全てを懸けて、吉田は選んだのだ。


――だって、私は。


「……決して」
「?」


ぎゅっと拳を握り、吉田は自分の心を吐き出す。


「決して変えられなくても、絶対にどうしようもなくても……」





私は、坂井悠二君が、好きなんです。





曖昧さもごまかしも無い、真摯な決意。
太牙はただ、真正面からそれに応える。
かつて同じ感情を持っていた者として。


「好きでいることに、理由も境遇も関係ないよ」


太牙は立ち上がり、彼女に手を差し伸べる。


「キミ自身が好きでいさえすれば、ね」
「……はいっ!」


太牙の手を取り、吉田もまた立ち上がる。


『◆▽*!』


もはや定位置と化したのか、立った吉田の頭の上に、サガークが鎮座した。


「こらサガーク。お前は飛んでいけるだろう」
『□▼∞!!』


イヤイヤ、と身体を揺らし、退かないという意思を示すサガーク。


「ふふっ」


二人の緊張感の無いやり取りに、表情が緩む。


そこで吉田は、笑っていられる余裕が戻っていることに気が付いた。
不安定だったように思えた地面も、今はしっかりと踏みしめることが出来る。


「……大丈夫」


吉田の表情は、もう誰かに助けられてばかりの、弱い少女のものではない。


前に進むと決めた者にしか出せない、心の強さに満ち溢れていた。


「ちゃんと、進める」




――私の『良かれ』と思う選択は、坂井君を好きでいることなのだから。




◆◆◆


「カムシン」
「ああ、何でしょうか」


マシンキバーを走らせる奏夜と併走しながら、カムシンが答える。


バイクと、見た目子供なカムシンが、同速度で走るというのは、傍目から見ればとんでもない光景だったが、すぐに『平静の波』がその違和感をかっさらってしまう為、問題はない。


「お前さ、なんで吉田を巻き込まなきゃならなかったんだ? 協力者とか言ってたが、吉田の任意同行とは思えねぇし」
「ああ、調律のイメージ採取の為、ですね。この街で生まれ育った人間でなければ、イメージ採取は不可能なので」
「ふーん……」


感情の読めない口調で相槌を打つ。
奏夜の横顔は、不機嫌というより、完全な無表情だった。


興味本位から、カムシンは与太話として尋ねる。


「ああ、やはり怒りましたか?」
「怒ってないさ、ただぶん殴りたいだけだよ」


鉄面皮を一切崩さず、某池袋最強の男のようなセリフを吐く奏夜。
カムシンもまた、フード下の表情を、ピクリとも変化させなかった。


「ああ、殴るなら今の内ですよ」
「マゾ?」
「私への個人的な怨磋で、あなたの士気が下がっても困りますからね」


奏夜の額に青筋が浮き出る。
どこまでも、合理性に徹するフレイムヘイズに、形容し難い苛々が募った。


「ですから、あなたの怒りが晴れるのなら、それもやぶさかで無いと、思っただけですよ」
「魅力的な申し出ではあるが、止めておこう。 よくよく考えれば、殴るくらいじゃ収まりそうにねーわ」


殴るにしても、オベリスクゴッドハンドクラッシャーくらいの勢いでなければ気が済まない。


「だから、早くこの戦いを終わらせちまおう。お前とは、その後でじ~~っくり話をしよう」
「ああ、ではそのように」


まったく無関心なその様に、奏夜は本気でキレかけた。


――取り敢えず、こいつとは仲良くなれそうにない。
浅倉威もびっくりな苛立ちオーラを発散すべく、更にアクセルを入れる。


「!!」


と、奏夜は加速させかけたマシンキバーを急停車させる。


「この気配は……」
「ああ、向こうから知らせてくれましたか」


どうやら悠二は、自ら存在の力を放出し、それを狼煙として使ったようだ。
そう遠くもないから、すぐに辿り着けるだろう。


(だがこれは、場所を知らせるつもりって言うより……)


奏夜が気掛かりなのは、そこだった。


感知した気配は、確かに悠二のもの。しかし、そこにはいつもの柔らかさは無い。
響いてくる心の音楽も、弦をひたすらかき鳴らしているような、激しいビートだ。





(悠二のヤツ、怒ってるのか?)


確証を得られない内に「早く行きましょう」とカムシンは先へ。
一抹の不安を抱えながら、奏夜もマシンキバーの方角を変え、後を追う。


適当な場所でマシンキバーを停め、辿り着いた先は、河川敷だった。


教授の思惑が着々と進む中でも、夜店の賑わいは相変わらずである。
平静の波のせいで、何ら異常無く生み出される祭りの空気が、かえって非日常とのズレを明確にしていた。


――そして、肝心の悠二はその先にいた。
人だかりから離れた、祭りの余剰機材が積み上げられた広場。
二人を真っ直ぐに見据えるその様は、待ち構えていた、という表現がよく似合っている。


(ああ、やっぱキレてる)


もっともそれは、奏夜ではなく、カムシンに向けられたものだが。
彼がカムシンに怒る訳など、一つしか思い浮かばない。


奏夜と、同じ理由だ。


「ああ、実は、あなたに――」
「どうして」


簡単な自己紹介を済ませ、本題に入ろうとしたカムシンの声を、悠二は遮る。


「なんで、彼女を巻き込んだんだ」
「調律に必要な、人間の適性者だったからです」
「っ、そういうことじゃない!!」


滅多に聞かない悠二の怒声に、奏夜は少し驚いた。
だがカムシンは、やはりそれを平然と受け止め、


「ああ、つまり、彼女に“本当の姿”を見られてしまったのですね」
「!!」
「なぜ自分が“ミステス”だとばれるような真似をしたのか、と言いたいのですか?」


恐れからぼかしてきた事実を、カムシンは淡々と声に乗せていく。


「ああ、しかし、その怒りはお嬢ちゃんの選択への侮辱ですね。我々は、お嬢ちゃんに本当のことを……あなたのことを、知ろうとすべきではない、と勧めたのですから」
『ふむ、それでもお嬢ちゃんは自分で『良かれ』と思える方を選んだのじゃから、儂らを非難するのは筋違いというものじゃよ』


絶対的な正論に打ち負かされ、悠二は言葉を押し込められてしまう。


「だ、だからって、そんな……」
「悠二」


弱々しい反撃を止めたのは、意外にも奏夜だった。


「今は“それどころ”じゃねぇ。わかってんだろ?」
「っ!!」


見えない鎚が、頭に振り下ろされたような衝撃を受けた。


――悠二はこれまでの付き合いから、紅奏夜に全幅の信頼を置いていた。
間違ったことを許せず、一を切り捨て九を救うような、合理的な考えはしない。形振り構わず、十を救おうとする人だと思っていた。


だが今の、今の言葉は――、


「ここまで来ちまったんだ。決めるのは吉田だろう。
俺達には俺達で、やることがある」


――そう。吉田のことを、放っておけと言っているのだ。自分が傷付け、泣いているだろう少女を。
そうでないとわかっていながら、悠二は裏切られたような錯覚に陥る。


「先生は!!」


耐えきれず、悠二は叫んでいた。


「先生は、それでいいんですか!?」
「アホ。良いわけないだろ」


真っ向から言い返され、悠二は押し黙った。


「お前がカムシンに怒る気持ちも、俺に怒る気持ちもよく解る。けど、さっきお前が、吉田を探しに行く時も言ったよな? 優先順位を考えろって」


奏夜は駄々っ子に言い聞かすような口振りで、言葉をかける。


「吉田を放っておけなんて言ってねぇ。ただ、それは後からでも出来る。
吉田は聡い子だから、ちゃんと話しさえすれば、お前のことを理解してくれるだろうよ。だが、吉田を説得する前に、この街が滅んでもみろ、本末転倒じゃねぇか」


カムシンと同じ正論。違うのは、未熟な少年への気遣いがあるかないかだ。
奏夜の温情に、悠二は怒りに熱くなっていた頭が、急速に冷えていくのがわかった。


「この状況、突破するにはお前の力が要る。その後で、吉田を説得するなり、俺やカムシンを怒鳴るなり、好きにすりゃあいい」


伝えるべきことを伝え、奏夜は会話を切った。


(やっぱり、僕は馬鹿だ)


自分の浅はかさに嫌気が差し、拳を握りしめる悠二。
こんなことだから、彼女を傷付けてしまうんだ。


――先生が、誰かを気遣わないわけがないじゃないか。


素直に謝罪の言葉が、口から出てきた。


「……すみませんでした先生。勝手なこと言って」
「いいよ、別に」


軽い返答を聞き、悠二はカムシンに目線を移す。
その眼差しは、やや厳しいものではあったが。


「まず、その調律ってやつを、詳しく説明してくれ」


スイッチが切り替わったように、凛とした雰囲気を纏う悠二。
こうなった彼が導き出した答えは、戦況を大きくひっくり返すことになる。


◆◆◆


「ふむ、“探耽求究”は、随分と、面白いことを、しているらしいな」


特徴的な舌足らずの口調で、ドラゴンファンガイア――ドラグは、フード下の唇を動かす。


頭上を見上げれば、奇妙な自在式。
見れば見るほど不気味な空だが、自分達にとっては好都合だ。


「今なら、キバも、イクサも、サガも、動けはしまい。裏で動くには、またとない、機会だ」
「えぇー、もう行くのかよぉ?」


ブラックコートに、シンプルな仮面を被ったベルゼブブファンガイア――ゼブが、不満に口を尖らせる。


彼の両手には、一本ずつリンゴ飴が握られ、金魚が入った袋まで吊っている。


「……貴様は、ここに何をしにきた」
「祭りをエンジョイする為じゃね? あ、ドラグも一本どうよ?」


差し出されたリンゴ飴を、無言で受け取るドラグ。
次の瞬間、ドラグはリンゴ飴の割り箸部分だけを、力づくで引き抜いた。
流れるような動作で、割り箸をゼブの仮面――穴の空いた眼の部分へと突き刺す。


「ぎゃああああああ! 目が、目がぁーー!!」


某ラピュタ王の如くのたうち回るゼブを捨て置き、ドラグは目的地へと足を進める。


「急がなければ、なるまいな」


“アレ”は、我々の計画に不可欠なものなのだから。


◆◆◆


「一応、思いつきは、したけど……」


すべての事情を聞き、悠二はあまりにあっさりと答える。


「ああ、そんな、簡単に……?」
『ふむう?』
「おお、さすがだな。悠二」


三者三様の反応が返ってくる中、悠二はそれ以上先を言わなかった。


良策ではあるが、僅かなデメリットの為に、使うのを躊躇っている。
そんな印象から、奏夜は適当な推測を立てた。


「もしかして、吉田が関係しちゃってたりするのか?」
「!!」


易々と心中を見抜かれた悠二の動揺が、二人に伝わってくる。


どう促したものか、と悩む奏夜に対し、カムシンはなし崩しに話を進める。


「ああ、お嬢ちゃんを、そんなに巻き込みたくないのですか? それは、どうしてです? 彼女を恋愛対象として大切に思っているからですか?」
「な! なんで、そんなこと言わなきゃ……」


ド直球な物言いに、悠二は身じろぐ。


『ふむ、この場合は、割と重要な問いのように思えるがのう』
「俺も興味あるな。ここらでハッキリさせといたらどうだ?」
「先生まで……」


無回答、という選択肢は用意されていなかった。


「……吉田さんは、優しい人なんだ」


本心を絞り出すように、悠二は言葉を紡ぐ。


「いくら一度巻き込まれたからって、またこんな惨いことしかない世界に、覚悟もないのに、連れ込むようなことは、しちゃいけない人なんだ。できるのなら、元の世界に……」


都合のいい話だとは思う。 切欠はカムシンでも、彼女を傷付けたのは、間違いなく自分だ。


ただ、そうだとしても、悠二は吉田に、日常の中で生きていて欲しかった。 彼女と、日常の中で感じてきた思い出は、紛れもない幸福だったのだから。


「吉田さんは、僕が零れ落ちてしまった“あそこ”に、いるべき人なんだ」
「ああ、シャナ、と呼ぶあの少女は、違うのですか?」
「――シャナは、違うよ」


シャナの強い有り様と生き方から、単純な事実を口にする。


「シャナは、フレイムヘイズなんだ。彼女があの生き方を選んで、そこで強く、そうあるべきだと信じて立っている」
「つまり、シャナには、非日常で生きる覚悟があり、吉田にゃ非日常で生きる覚悟がないと?」


悠二が頷くと、奏夜は何故か、意地の悪い笑みを浮かべた。


「そいつはどうかな? あいつはお前が思ってるほど、弱い女の子じゃないぞ」
「えっ?」


含みのある言い回しに、問い返しかけた悠二の背に、





「シャナっていうのは、ゆかりちゃんのことですか?」





「!!」


反射的に振り返ると、見慣れた姿がそこにはあった。


「!! 吉田、さん」
「注意力散漫だな、悠二君?」


奏夜のみならず、カムシンまでもが、クックと笑っている。
あっ、と悠二はようやく気が付いた。


「さっきから変な質問ばかりすると思ったら……」
「ああ、さすがの『零時迷子』の“ミステス”も、人間の気配を察知することはできないようですね」
『ふむ、儂らのせいで、悲しい目に遭わせてしまった、ほんの罪滅ぼしじゃよ』
「気付かないお前も悪いって。なぁ、吉田?」


急に話を振られながらも、吉田は微笑み返してくれた。


「俺がなんでここにいるかは……わかってるみたいだな」
「来る途中、太牙さんから、全部聞きました」
「そっか」


まぁ、そんなことだろうとは思っていた。
カムシンと太牙が知り合いであった以上、そこに吉田がいたことは、想像に難くない。
そして太牙が、ファンガイアのことを話せば、彼の兄弟である奏夜の素性も、自ずと知れてくる。


「吉田、ここまで知っちまった以上、選ぶのはお前だ。後悔しないように選べ」
「――はい」


頷き、吉田は悠二の傍らに駆け寄っていく。
短い激励だけを送った奏夜は、手近にあった機材に腰掛け、その様子を見守る。


「彼が悠二君か」


と、その背後にはいつの間にか、太牙が立っていた。
身体を反らし、下から彼を見上げる。


「お疲れ様。随分と吉田に世話焼いたみたいだね」
「なに、僕は選ぶチャンスをあげただけだ。動いたのは、一美ちゃん自身の力だよ」
「うん。確かに吉田のヤツ、いい顔してる」


前に進むことを、非日常にいることを、選んだ者の顔だ。


「どうなるかな?」
「信じよう。一美ちゃんは不幸になっちゃいけない子だ」


兄弟が見守る中、二人の男女の会話は続く。


「覚悟」
「えっ」


吉田の瞳は、目を逸らすことを許さないほど、強い意志に満ちていた。


「私にだって、あります。ここに、坂井君のいるここに、入る覚悟が」
「駄目だ!」


悠二の即断でさえ意に返さず、吉田は続ける。


「ゆかりちゃんには、あるのに?」
「シャナはこのカムシンと一緒の、フレイムヘイズって特別な存在だからだよ! 吉田さんは普通の人間じゃないか!?」
「名護さんとかも普通の人間なんですけどー?」
「揚げ足取らないでください!」


振り向き様に奏夜を黙らせるも、吉田の勢いはまるで止まらなかった。


「坂井君は、先生やカムシンさんや太牙さん……ゆか、シャナ、ちゃんと同じなんですか?」


答えづらい質問に、しかし吉田がこちら側に来ることを認めたくない一心で、悠二はその事実を突き付けた。


「僕は……僕も、人間じゃないんだ」


零時迷子を蔵された“ミステス”であること。
自分はフレイムヘイズを助けられる力からこそ、ここにあること。


だが、それらをどれだけ突き放すように告げても、吉田はまだ反論してくる。


「でも、坂井君の考えた、私の関係している街を救う方法というのも、あるんでしょう? なら、坂井君と私は、役に立つっていう意味では、同じ立場のはずです」
「う……」


いよいよもって、手立てが無くなってきた悠二に、吉田は告げた。
すべてを包み込むような、温かい笑顔と共に。





「坂井君は、人間です」





何気ないそれに、悠二の思考がフリーズした。
全身を駆け巡った衝撃の正体は、吉田の言葉に込められた、真摯な想い。


「あんな風に私のことを言ってくれる人が、人間じゃないなんてこと、絶対にありません」
「……吉田、さん」


吉田が自分の手を握る。
再び、あの心地良い温かさが押し寄せてくる。


もう、彼女を止めることは出来そうになかった。
それだけの想いを、覚悟を、見せられてしまったから。


奏夜と太牙も、取り敢えず一安心し、悠二と吉田の微笑ましいやり取りを静観していた。


「ああ、さて、同意が得られたところで、話の続きをしたいのですが」


まるで空気を読まず、不躾にカムシンがそのムードを台無しにする。


『ふむ、時間も差し迫っておることじゃしのう』
「あっ、す、すいません!」


今になって恥ずかしさが押し寄せてきたのか、吉田は慌てて悠二の手を放す。


顔は耳まで真っ赤だ。


『………』


口を閉ざしたままではあったが、悠二、奏夜、太牙の心中は一致していた。


――やっぱりカムシンとは、仲良くなれそうにない。



  1. 2012/04/03(火) 21:57:17|
  2. 仮面ライダーキバ/BLAZING.BLOOD
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第十八話・トラジコメディー/絶望を振り切れ.前篇

歪んだ花火と、それになんら反応しない人々。


怪現象――非日常からの侵略。
温かな日常への幻想を捨て、奏夜は非日常の自分――キバとしての自分へと、スイッチを切り替える。


「次狼」
「わかっている。もう呼んだ」


次狼の二つ返事と共に、周囲に爆風が巻き起こる。


――ギャオオオッ!!


上空を仰げば、ビルの体躯を持つ紫色のドラゴン――キャッスルドランが飛翔していた。
奏夜とアームズモンスターズ、非日常との付き合いから、違和感を多少感じ取れる静香を除き、普通の人間には視認出来ない。


「静香。ドランに乗って、母さんのいる洞穴に避難しとけ」
「えっ?」


奏夜は真剣なトーンで告げる。


「あの花火を見りゃ分かるだろ。またこの街は戦場になる。程度によるが、正直、お前を守りながら戦える自信は無い」
「……足手まといってこと?」
「あほ。心配してんだよ」


静香の額を指先で弾く。


「痛ぁっ!?」
「ほら、さっさとドランの中に入れ。 お前にはちゃんと役割があるんだからよ」
「や、役割?」


額をさする静香に、奏夜はふっと相好を崩す。


「『マル・ダムール』での花火。ちゃんと計画立てとけ」


これから戦いに赴くとは思えない余裕。


奏夜は、今日という日を、戦いだけで塗り潰すつもりはさらさら無い。
先の言い回しは、静香の身を案じるばかりではなく、ちゃんと彼女のいる日常に帰ってくるという、決意でもあった。


それを理解した静香は、強く頷き、しかし何処か不安そうに、


「うん、わかった。奏夜も怪我しないでね?」
「善処するよ」


くしゃりと静香の髪を撫でて、次狼達に向き直る。


「静香をドランに入れたら、すぐ恵さん達を迎えに行け。お前達はみんなを母さんのとこに送ったら、ドランプリズンで待機してろ」
「仰せのままに」
「いつでも呼んで!」
「気を、つけて」


静香と次狼達に見送られながら、奏夜は河川敷を駆け出した。
次々と後方に流れていく屋台の景色。
やがて奏夜は目の端に、赤い浴衣に身を包んだ小柄な影を捉えた。


「シャナ!」


探し人を見つけ、下駄で器用に急ブレーキをかける。


「奏夜!」


少女――シャナも動きを止め、こちらに歩み寄ってくる。


「オイ、どうなってんだこれ?」
「解らない。最初は調律の失敗かと思ったんだけど……」
「調律、ってこの前言ってた、歪みを直す作業のことだよな。それを使うヤツってのは、未熟な連中が多いのか?」


シャナに代わり、彼女の内に宿る紅世の王、アラストールが遠雷の如き声を、ペンダントから発する。


『いや、調律師とは通常、使命感の塊となるまで戦い抜いた、熟練のフレイムヘイズが請け負う。加えて、この地へ来た調律師は、最古のフレイムヘイズと名高い存在だ』
「失敗は考えにくいってわけか。じゃあやっぱ、“徒”だな」
「恐らくはね。ファンガイアに動きは無いの?」
「いや、今のところ、その兆候は無い」


ブラッディローズの音色が、頭の中で鳴っていないのが良い証拠だ。


「いずれにせよ、判断材料が少な過ぎる。調律師――『儀装の駆り手』の下へ向かい、現状を把握すべきであろうな」
「だな」


何処かにいる名護とマージョリーも、きっとそう考えるだろうから、向こうで合流も可能だろう。


「後は悠二も拾ってきた方がいいだろうな……ってシャナ。我が儘は聞かんぞ」


悠二、という単語に顔を曇らせたシャナを、奏夜がたしなめる。


悠二の洞察力と、彼の中に眠る宝具『零時迷子』の超感覚は役に立つ。戦いへの骨組みとして、外すわけにはいかない。


「悠二の居場所、わかるか?」
「大体でいいなら」


シャナも私情を抑え込み、奏夜と共に、悠二の気配を追いかけ始める。
歪んだ花火が、嘲るように、周囲を照らしていた。


◆◆◆


滑稽――そう表現するのになんの不足があるだろう。


「あ、あ……」
「吉田、さん?」


非日常は、日常を食い潰す。
少女の儚いユメなど、歯牙にもかけない。


(どうして、そんな顔を)


普段の愛しみに満ちた笑顔はかき消え、吉田の瞳には暗い感情が揺れていた。


(どうして、なぜ、そんな顔で、僕を)


“本当はわかっている”にも関わらず、悠二は認めたくなかった。
吉田が自分をあんな風に見る理由など、他に無いというのに。


「……よ」
「っ――」


一歩、吉田が後ずさる。


非日常下での洞察力 が働いてしまったのは、幸か不幸か。悠二は吉田が何かを握っているのに気が付いた。


見事な意匠が成された片眼鏡。


(“宝具”だ)


直感的に片眼鏡『ジェタトゥーラ』の正体を見抜く悠二。
だが、この際それが宝具であるか否かはどうでもいい。 それが、吉田に何をもたらしたかだ。


(眼、鏡……“眼鏡”?)


単純な推測が、次々と組み上がっていく。
眼鏡。見る。そのガラスを隔てて。宝具。“紅世”から生まれしモノ。


今、彼女は何を見た? 自分だ。
なら彼女は、自分に何を見た?


それ以前に、自分は何だ?


(“トーチ”)


喰われた人間の形をした、陽炎。




既に死した人間の、残り滓。




「吉田さん」
「あ、ああ――」


吉田の震えが加速する。
瞳は潤み、絶望へと彩られていく。


二人の間は、歩幅にして僅か二歩。だが今や、その距離はあまりに遠く感じた。
それでも悠二は、凍りついた時の中で、吉田へと手を伸ばそうとする。


「吉」


「いやああああああああああーーーー!!」


拒絶。この世の、あまりに残酷な現実を知り、吉田は逃げ出した。


「田、さん……」


後には、呆然と立ち尽くす悠二が取り残された。
伸ばした手は空を掴み、そこにあった大切なものの喪失を、否応無しに伝えてくる。


“トーチ”であることを、彼女に知られた。


彼女が紅世を知るに至った経緯も、理由も分からなかったが、それだけは歴然とした事実。
空洞化した胸中、ただ悠二は、吉田からの拒絶に打ちのめされていた。


「おお、いたいた」
「悠二!」


と、吉田とほぼ入れ違いになる形で、よく聞き知った声が、悠二の耳を突く。


「……シャナ、先生」
「ったく、探したぞ」
「“これ”、分かるわね」


シャナは私情も何もかもを押し込み、ただ使命のみを告げる。
悠二もまた、単純な事実として答えを返す。


「う……うん」
「攻撃だと思う?」


彼の土壇場での洞察力に期待しながら、シャナは答えを待つ。
自分と悠二の間にある、信頼関係から来る言葉だった。


――しかし、悠二は口を開かない。


「悠、二?」
「おい、ちゃんと話聞いてんのか?」


シャナのみならず、奏夜も怪訝そうに尋ねる。
悠二は行動も熱意もなく、ただ祭りの雑踏に意識を向けていた。


――その様子と、ここにいるはずの人間がいないことから、奏夜は適当なアタリを付ける。


「悠二、吉田はどうした?」
『!!』


悠二とシャナが、同時に身を強ばらせた。
しかし仕草は同じでも、胸にくる痛みは別種だった。


「知られたんだな、あいつに」
「……はい」


肯定する悠二に、奏夜は溜め息をつきかけた。


(お前は何だっていつも、戦いの最中に戦い以外の厄介事を……)


白けたように視線を逸らす奏夜、片や、悠二は覚束無い足取りで、半歩踏み出そうとする。


「追いかけなきゃ」


自分が怖がらせてしまった少女を。


「追いかけて、説明しないと――」
「オイ、気持ちは分かるが今は――」
「“そんなどうでもいいこと”、放っときなさいよ!!」


奏夜と悠二の声を、無理やりシャナは遮った。


怒りしか無いように思えた。
しかし、奏夜は裏打ちされた想いを感じ取る。 悠二も同様だったろう。




――吉田一美なんかよりも、私と一緒に。




その想いに奏夜はやるせなさを、悠二は何故か、猛烈な怒りを覚えた。


「シャナ!!」
「あ、っ」


悠二の怒号に、シャナは身じろぎ、奏夜はそろそろ止めるべきか、と思いつつも、静観するのみだった。


「なんでそんな――」
「っ、うるさい!! うるさいうるさいうるさいうるさぁい!!」


割り込むようにシャナは怒鳴る。


「なんで今、今みたいなときに、そんなこと言うの!?」


悲しみと怒りを入り混ぜて、シャナは叫んだ。


「シャ――!」





「“うそつき”!!」





「!!」


直接ぶつけられた感情に気圧され、悠二は今度こそ、完全に思考が停止したようだった。
声の主であるシャナも、強く歯を噛んで俯く。


「……空気読めねぇな。お前はよ」


奏夜が髪を掻き上げつつ、悠二の後方を指差した。


「後でいくらでも説得できるとは思うが……ま、吉田を追うってんなら止めない」
「先、生」
「ほら、さっさと行け。ただ、優先順位くらいは頭の中に入れとけよ」


俯いたシャナを見て、しかし葛藤を押さえ込み、悠二は告げる。


「……ごめん、なさい」


ただ一言、謝罪を残し、悠二は人混みの中に消えていった。
シャナが何事か口にした気がしたが、それは人々の喧騒に紛れてしまう。


「大丈夫か?」
「……うん、大丈夫」


奏夜の気遣いが、無性に嬉しかった。


「あのバカは放っといてもいつか来るだろ。俺達は先に、その『儀装の駆り手』とか言うヤツのとこに行こうぜ」
『うむ。幸いそれほど遠くはない。直ぐに向かうとしよう』
「うん」


奏夜に続く形で、シャナは髪を揺らしながら走り出す。




「大丈夫。ちょっと前までと――同じ」




◆◆◆


気配の端を辿り、二人が着いた先は御崎大橋だった。
そこには既に、マージョリー、名護、カムシンの三人が揃っていた。


「遅いわよ」
『ヒーッヒッヒ、俺達の方も来て一分と経ってねえだろブッ』


普段のやり取りは、状況が状況なので全員スルーした。


「奏夜君」
「どうも、名護さん。キャッスルドランは行きましたか?」
「ああ、助かったぞ。恵と由利だけでなく、嶋さんとマスターも避難済みだ。礼を言おう」
「いえいえ、恐悦至極。……で」


名護から、隣に立つ小柄な影――カムシンに目を移す。


「あんたが『儀装の駆り手』か」
「ああ、お初に御目にかかります。もう一人の王、『キバ』。御兄弟より、お話は伺っておりました」
「は? 御兄弟?」


聞き捨てならない単語に、奏夜が顔をしかめると、


「おい、『儀装の駆り手』。近くのマーキング位置を見てきたが、やはり僕では詳しい分析が――」


背後から聞こえてきた懐かしい、しかし聞き知った声。
振り返れば、そこには、白いジャケットに青いジーンズを着た姿。


「兄さん!?」
「太牙!?」
「奏夜、それに名護」


奏夜と名護を見た太牙も、再会への喜びを見せる。


「久しぶりだな。元気そうで何よりだ」
「兄さんこそ久しぶり!」
「帰ってきてたとは聞いてたが、また妙なところで会うな。太牙」
「ああ、僕もそう思うよ。名護」


フレンドリーな会話を展開する三人。
吃驚したのはフレイムヘイズ二人だ。


「兄さん?」
『あん? 兄貴なんていたのかよ?』


マージョリーとマルコシアスが、現れた青年を見ながら、驚愕を刻んだ声を発す。
さすがのシャナも、目を見開いていた。


「奏夜の、兄弟?」
「ああ、シャナやマージョリーには話してなかったっけ。兄さん、電話で話したろう。俺の仲間」


シャナとマージョリーに向け、太牙は頭を下げる。


「『炎髪灼眼の討ち手』と『弔詞の詠み手』だな。奏夜から話は聞いてる。チェックメイトフォーのキング、登太牙だ」


似てない。
シャナとマージョリーは素直にそう思った。


礼儀正しいなんて言葉とは無縁の奏夜と、こんな礼節をわきまえた人間が兄弟なわけがない。


「なんかすげー失礼なこと考えなかったか?」


奏夜は鋭かった。無駄に。


「ああ、そろそろ話を進めても?」


場の空気をまるで読まないカムシンだったが、今回ばかりは、その判断は正しいだろう。
奏夜絡みの話は、どうやっても、会話の本筋から反れる。


「ああ、頼むよ。一体何がどうなってるんだ?」


奏夜の言葉を皮切りに、六人の話は始まる。


◆◆◆


「つまり、纏めるとこういうことか」


粗方の事情を聞き終え、名護が現状を整理していく。


――現在行っている“異常”は、カムシンの作り出した、調律の自在式の支配を、ある“紅世の王”に奪われたことが原因である。


“探耽求究”ダンタリオン。通り名は“教授”。
彼は紅世とこの世の双方に関心を持ち、それらの有り様を解き明かす、研究者のような活動をする強力な王。
知識欲に忠実かつ、気分屋な彼の行動は、熟達したフレイムヘイズでも読みづらい。


端的に表現すれば、紅世の王屈指の変人だ。


事実、カムシンやマージョリーといった歴戦の猛者までも、今回のダンタリオンの『目的』は想像がつかなかった。


「ふむ。なるほどね……なぁカムシン。参考までに聞くが、調律のコントロールってのは、そのマッド博士が目をつけるほどのモンなのか?」
「正直な話、あまり価値があるとは言えませんね」
『ふうむ。こと教授の知識欲を満たす、という点で言えば、調律は既に確立し尽くされた自在式じゃしのう』


カムシンが短く答え、ベヘモットが補足する。
事件の糸口は、そう簡単に見つからないようだ。


「だが、やはり妙だな」


そこへ太牙が口を挟む。


「いずれにせよ、高度な自在式であるのは確かだ。なら、使用者の気配がまるでない、というのは可笑しいだろう」
『あー、確かにキングの兄ちゃんの言う通りだぁな。こーやって自在法は動いてんのに、あのトンチキ発明王の気配を気ほども感じねぇ』
「そうね。あの“愛染の兄妹”でも、自在法の起動後には気配を現してたのに」


経験と照らし合わせ、マージョリーとマルコシアスも唸る。


「とにかく、ここで考えてても埒があかねーぜ。その調律とやらの自在式を、片っ端からぶっ壊していこう」
「そうね。調律ならやり直しが効くし、ぐずぐずしてたら、何かしらの手が打たれてしまいかねないわ」


奏夜の単純な提案に、シャナも同意する。


「ああ、できればいいのですが」


だが、カムシンは同意しかねるという風に、重々しい仕草で、顎に手を当てる。


「はあ? その自在式はあんたたちが設置したんでしょ?」
「僕に破壊は無理だったが、仕掛け人であるお前が、破壊できないということはないだろう」


太牙とマージョリーの抗議にも、カムシンは思案する態度を崩さない。


「ああ、いえ、単純な推測です。あの“探耽求究”が、自らの仕掛けの鍵とした血印に、易々と手出しをさせるとは思えませんから」
「確かに。聞いた限りでは、かなり狡猾なヤツのようだからな。罠を仕掛けている可能性は高い」


名護も慎重に、これからの行動を見極めていく。


「じゃあさ、マッド博士の自在法の範囲から、発生源――中心を推測して辺りを探ってみるってのはどーよ? 何か俺達がアクションを起こしゃ、向こうもリアクション取るだろ」
『まー当面はそんなトコか。隠れてる奴を炙り出してブチ殺す。基本中の基本だ。ヒッヒ』


マルコシアスは安直に同意したが、全員もとりあえず、それが最善策と取ったらしく、太牙がカムシンに聞いた。


「自在式の中心地はわかっているのか? “儀装の駆り手”」
「ああ、感じていますよ。答えはごくごく単純です」
『ふむ。つまりは市街地の、人通りの多い駅前から大通り辺りじゃな』


カムシンとベヘモットが言い終わるか言い終わらない内に、シャナは紅蓮の翼をはためかせ、


「じゃあ、行く」


言い捨て、夜の帷へと舞い上がった。


「なに焦ってんのかしら、あいつ」
「そっとしといてやってくれ。シャナも思春期真っ最中だからさ」
「いや思春期……ってああ、そっか。坊やと喧嘩でもしたの?」
「ご明察」


奏夜の適当なフォローを聞きながら、マージョリーもグリモアに腰掛け、宙に浮かぶ。


「それじゃ、私たちも行きますか」
「そだな。あ、名護さんと兄さんは、念のため、別の場所調査してみて下さい。
こっちの頭数は、三人で十分ですんで」
「わかった、任せなさい。適度な時間で落ち合うとしよう」
「よし、啓介と僕は市境を中心に当たろう。御崎市以外にも、被害があるのか否か、探りは入れるべきだ」
『ふむ。では我々も、マーキングしたカデシュの血印を探し、本当に妨害があるか、その動きで奴が僅かでも、尻尾を出すか試してみるとしようかのう』
「ああ、結構、それでいきましょう」


各々方針を定め、成すべきことを果たすべく散っていく。


戦いの狼煙が、夜の闇に上がった。



◆◆◆


「シャナァー―! 何か見えっかぁ!?」


御崎市大通り。
爆音を轟かせながら、真紅の鉄馬・マシンキバーは走らせる。


来る途中、浴衣から着替え、普段の着崩したワイシャツとスーツに戻った奏夜は、自在式の中心地に向かっていた。


紅蓮の翼で飛翔するシャナが、上空から声を張り上げる。


「御崎駅! 繭みたいなものが巻き付いてる!」
「マッド博士の気配は!」
「ううん、やっぱり“王”の気配は感じない!」
『あの妙な建造物が隠蔽しているようだ!』
「成る程。――それなら!」
「うん!」


奏夜とシャナ、二人の声が重なる。


「ぶっ壊すッ!」
「焼き払うッ!」


シャナの双翼が、煌々と輝く軌跡を描き、コードや電気パイプが絡みつく奇妙な繭へ突っ込んでいく。


「奏夜ぁ~~!」


マシンキバーを駆る奏夜、そこへ金色のコウモリ、キバットバット三世が飛んでくる。


「探したぜぇ! 一体何がどうなってんだこりゃ?」
「話は後だ。あの繭を壊す、キバの鎧出してくれ!」
「うぇ? いいのかよ、ここかなり人目につくぜ?」
「安心しろ。今回は大丈夫だ」


――現在、御崎市には“平静の波”というものが発生している。
簡単に言えば、“そこにある異常を、それが普通だ”と強制的に納得させてしまう作用。


カムシンが言うには、誤作動を起こした調律の“歪みを正す”という特性が中途半端に生きた結果らしい。


「だから、キバへの変身も思う存分にできるってわけさ」
「なるほどねぇ~。よっしゃ、んじゃま、キバッて行くぜ!」


奏夜が翳した手を、飛び回るキバットが力強く噛む。


「ガブッ!」


アクティブフォースが注入され、奏夜の頬にステンドグラスが浮かび上がる。


『変身!』


キバットベルトにキバットが止まり、奏夜に光の鎖が巻きつき、弾け飛ぶ。
夜の闇に、蝙蝠の仮面を輝かせ、キバへの変身が完了した。


「おい、あれ!」「蝙蝠、いや吸血鬼?」「違う、あれ仮面ライダーだ!」「マジで!」「風都以外にも居たのか!」「でもあれって都市伝説だろ!」「すげー、本物だ!」


ギャラリーの歓声が、バイクが切る風に乗って入ってくるものの、構いはしない。
また平静の波が来れば、キバの姿も常識に埋もれてしまうのだから。


「シャナ! 同時攻撃だ!」
「わかった!」


贄殿遮那の刀身に、紅蓮の炎が渦を巻き、キバはベルトからバッシャーフエッスルを取り出す。


『バッシャーマグナム!』


キバットが吹き鳴らす音色。呼び寄せられたバッシャーマグナムを掴んだキバは、バッシャーフォームへと変わる。


「ラモン、手加減なしでいくぞ!」
『りょうかいっ!』
『バッシャーバイト!』


キバットが銃身の後部を噛み、魔皇力がチャージされる。
夜空に浮かぶ月が霧に覆われ、キバBFのテリトリーである半月へと変わった。
バイクを止め、繭に向けて照準を合わせる。


『いけぇ!』


シャナが生み出す凄まじい熱量の奔流が、キバBFがアクアフィールドから作り出した水球『バッシャーアクアトルネード』が、御崎市駅へと牙を剥く。


――しかし、


「なっ!?」
「げっ!?」


急に、攻撃の道筋が反れた。
シャナの火炎流は、天に向かって直角に立ち上り、キバBFの水球に至っては、進んでは戻り、進んでは戻りを繰り返している。


「くっ!」
「……いい攻撃だ。感動的だな。だが無意味だ」
『この状況でそのセリフ止めてくれます?』


ラモンのしょげた声を聞くに、余程自信のある一撃だったのだろう。


バッシャーアクアトルネードは、狙いを定めた敵をどこまでも追いかける、ホーミング攻撃。
しかし、その追尾能力はターゲットをロックできたに過ぎず、何らかの力に阻まれ、弾丸はいったり来たりを繰り返している。


「これじゃ多分、次狼も力も効果ナシだな」


遠距離戦は無意味と悟り、一旦バッシャーフォームを解除するキバ。


「なら、直接突入して」
「だな」
『待て、キバ、シャ』


アラストールの警鐘を無視し、シャナとキバはそれぞれ、繭に向かって特攻をかける。が、


「っあ!?」
「っとぉ!?」


突然だった。


シャナは双翼のコントロールを失い、アスファルトの地面を砕きながら落下。
キバは、マシンキバーの前輪があらぬ方向に向き、そのまま見事に横転した。


「く……しまった」
『どうした、迂闊だぞ』


アラストールの冷静な声がシャナを諭す。


「……なぁキバット。マシンキバーに保証書って付いてたっけ」


「心配しなくても、新型プリ○スみたいな問題はこのマシンにねぇよ」


早よ立て、とキバットに促され、キバは気怠そうに、シャナの傍へ。


「俺達自身も、軌道を反らされる範囲内ってわけか」
「うん。いきなり翼が操れなくなった」


予想以上に堅牢な防御に立ち往生する二人。と、そこへようやく、グリモアに乗ったマージョリーが舞い降りた。


「見事な横転だったわね」
「言っとくが、車検にはちゃんと行ってるからな。で、お前の方はどうだ?」
「うーん、そうね……」


グリモアに手を添え、自在式を繰るマージョリー。


「とりあえず、こんなもんかしら」
『あいあいよー。弾は』
「あれ」


マルコシアスに答えるマージョリーが指差した先――ビルの避雷針が根元から折れ、群青の炎を噴きながら、彼女らの元に飛来する。


『バンベリーの街角へ』
『馬に乗って見に行こう』
『白馬に跨る奥方を』
『指には指輪、胸に鈴』


『弔詞の詠み手』の十八番『屠殺の即興詩』が紡がれ、避雷針に幾多の自在式が巻き付いていく。


『どこへ行くにも伴奏つき、よ!』


駅を指差したマージョリーに呼応し、群青に輝く避雷針が、閃光となって突撃する。
バッシャーアクアトルネードが阻まれた先へ、避雷針は突き進んでいく。


しかし、進む距離に比例して、避雷針に刻まれた自在式は剥がれ落ちていき、最後には弾かれてしまった。


「あーらら、あれだけ念入りに干渉への防御を施したってのに、半分もいかない内に解除されたか」
『こーりゃ、ちょいと厄介だな。我が技巧の自在師、マージョリー・ドー?』


さすがに行き詰まりの空気は否めない。


優れた自在師たるマージョリーでどうにもならなければ、シャナとキバなど論外だ。


「闇雲にやるだけじゃダメってことね」
『うむ……さすがは世に名だたる“探耽求究の自在式よ。色々と不審な点もあるが、正攻法で崩すのは難しかろう』
「かといって、こっちにあるカードじゃ、対抗策は練れそうにないぜ。 幻想殺しか赤い鉄砕牙でもあれば、話は別だけどよ」


キバの例えはともかくとして、確かに事態は深刻だった。
繭を忌々しげに睨みながら、全員が頭を抱えることになる。


そんな時だった。


《姉さん!》
「わっ!?」
「おっ」


マージョリーとマルコシアスしか聞こえない声が、二人の意識内に入ってくる。


「遅い! なにグズグズしてたのよ」


傍目から見ると、独り言にしか聞こえない様子に、キバとシャナは怪訝そうな顔つきになる。


「マージョリー、誰と話してんだ?」
「こっちの協力者。ソウヤも知ってんでしょ」
『ちぃっと離れた場所から、この自在式の観察頼んでんだよ、ヒッヒ』
「協力者……って、ああ。なるほど」


田中と佐藤のことか。


浴衣姿のマージョリーからして、祭りに来ていたのは明らかだった為、田中と佐藤が一緒にいるのは、別に可笑しくない話だった。
マージョリーは最初、通話先と揉めているらしかったが、すぐ的確な指示を与える。


「で、自在式はどうなってるの。表現できる範囲でいいから説明して」


シャナとキバに向き直りつつ、マージョリーは人差し指を二人の額に添える。
マージョリー達にしか聞こえない会話を、二人にも聞かせる為のものだ。


《道路沿い、でしょうか。以前の“愛染の兄妹”の『ピニオン』みたいに、街のあちこち、所構わず、って状態じゃなくて……ほとんど道路だけに張り巡らされてます》


頭に響く声は、田中栄太のもの。


「……? この声、どこかで……」


マージョリーと彼の関係を知っているキバはともかくとして、シャナはそれを奇妙に思う。


『うーむ、やっぱ規模から見ても、トンチキ発明王が自分で直接、ドでけえ自在法をしかけなきゃなんねぇはずだがな』
「それって、気配消して出来る芸当なのか?」
「難しい……っていうか、ほぼ無理ね。“教授”はかなり力の強い王だから、どうやっても気配の残滓くらいは残るわよ」


それが無いから、問題なのだ。
キバは顎に手を当てる。


「完全に雲隠れってわけか。ちっ、今にも立木さんボイスで『INVISIBLE』とか聞こえてきそうだ。いくらなんでも手掛かり無さ過ぎだぜ」
「この分じゃ、気配探知にも引っかからないわね」
《?》


通話向こうで、田中は首を傾げた。
この気だるさの権化のような声と、凛とした張りのある声。
どこかで聞いたような気がしたからだ。


『いっそ、でけぇ封絶でも張って、人間以外を吹き飛ばしちまうってのはどうだ? ヒッヒヒ』
「そーね。自在式が消えたら御の字。そうでなくても、街に自在式が仕込まれてんだから、街をブチ壊せば、手掛かりくらいは見つかるんじゃない?」
「うーん、気乗りしねーけど、確かに封絶張っとけば、街や人は再生可能だしなぁ」


かーなーり渋々ながら、キバはゴーサインを出しかけて――


「待って」


シャナが制止の声をかけた。


「なによ、文句――って」


言い返しかけたマージョリーが固まる。


『馬鹿な』
『どーいうこった?』


声を驚愕に染める二人の王。


「なるほど。俺達は初動捜査からして間違ってたわけだ」
「見つからねぇわけだぜ」


キバとキバットも、遥か彼方――“教授”のけたたましい気配を感じ取っていた。


初動捜査の誤り。
この周辺――御崎市から“教授”の気配はしない。


当たり前だ。




そもそも“教授”本人が御崎市にいなければ――気配など捕捉しようがないのだから。




◆◆◆


御崎市から遥か遠くに位置する白峰駅。
ここでも一つの“異常”が、日常を食い潰していた。


なんと、御崎市方面への線路上――それこそ戦隊モノのセットよろしく、地面が開き、奇妙な車両『我学の結晶エクセレント29182―夜会の櫃』が姿を表したからだ。


地の文にするのも躊躇われるネーミングのそれは、ウィーン、ガシャン! というお約束極まりない効果音を立てながらせり上がってくる。
同時に拡張機から無駄にハイテンションな声が轟く。


《ェエークセレント! やーはり発進は地ぃー下からが基本ですねえ―?》


“教授”がよくわからない美学を語りつつ、


《そぉーれでは、いぃーよいよ実験もクライマーックス!! 『我学の結晶エクセレント29182―夜会の櫃』……発―――ッ、――ッ、進!!》


教授の合図とポチッ、という人によってはかなりイラッとくる音と共に、機体とエンジンからは蒸気が沸き立ち、付属する汽笛が一斉に雄叫びを挙げた。


《いーざ征かん!! 心ときめく実ーっ験場へ!!》


凄まじいスピードで、教授の研究成果は御崎市に向かい始める。


◆◆◆


(助けて)


吉田一美は河川敷の一角にしゃがみこんでいた。


浴衣はやや着崩れ、目を泣きはらしている。
悲哀、絶望を体現したようなその様を、道行く人々は物珍し気に眺めるが、その視線に構っている余裕は、吉田に微塵も残ってはいなかった。


(ここから、私を出して)


――受けたショックを鑑みれば、当然の話だった。


(お願い、誰か、ここから、私を、坂井君を、助け出して!)


彼女が味わった絶望は、どう見積もっても、一般的な高校生の女の子が許容可能なレベルを超えている。


否――誰にでも、許容など不可能だろう。
ただ一つ信じたかった現実――大切な人は生きているということを、『坂井悠二は生きている』という希望を、根刮ぎ打ち砕かれたのだから。


失意の内の逃避も、至極当然な反応。奈落の底に叩き落とされた少女はただ、世界の理不尽さを嘆く。


(坂井君が、もう……どうして、坂井君が、坂井君だけは無事でいてって、“それだけ”なのに!!)


泣こうが喚こうが、どうしようもない願いを聞けるほど、世界の真理は暇ではない。
世界はただ、少女を苛み続ける。


――坂井悠二はトーチ。
いずれは燃え尽き、墓標もない忘却へと消える存在。





彼女の抱いた想いさえも、全ては無に帰す。





(嫌だ!)


認めたくないと、吉田は懸命に抗う。
それが決して、世界に聞き届けられない“どうしようもないこと”だと、自覚したくない一心で。


(嫌だ嫌だ嫌だ! 私は坂井君が好きなの、なのに、どうして――)




「一美ちゃん?」
『◆〆〇▲?』




なんの前触れもなく、そこにいた。
声に振り向き、吉田の眼前に飛び込んできたのは、銀色の浮遊物体。


『◎∂◆〇?』
「サガーク、くん?」


吉田の掌に乗るサガークの瞳は、何処か心配そうに、彼女を見つめていた。
次いで、土手沿いの道から掛かる、聞き知った声。


「こんなところで、何かあったのかい?」


白いジャケットを羽織った青年もまた、吉田の纏う雰囲気に、目を瞬かせていた。


「太牙、さん……」


吉田の頼りなく、縋るような口調から、太牙は慎重に言葉を選ぶ。


「なにかあったなら聞こう。泣き顔は、女の子には似合わないよ」
『◆◎∇∂!』


太牙の優しい笑顔と、サガークの励ますような声。


――今の吉田にとって、それはあまりに温かく、安らぎを与えてくれるモノだった。


「――ぁ」


抑え切れなかった感情が、涙となって零れ落ちる。
次の瞬間、吉田は堰を切ったように泣き出した。
太牙達がくれた安堵も、未だに残る不安も、全てがごちゃ混ぜになり、ただ嗚咽を洩らすことしか出来なくなる。


「え、ちょ、一美ちゃん!?」
『◆∂〇!?』


太牙とサガークが慌てているのが分かったが、結局それを止めることは出来なかった。




――世界に助けは届かずとも、違う誰かに助けは届く。


絶望の淵に立つ少女の声は、確かに裁きの蛇へと届いていた。


  1. 2012/04/03(火) 21:53:54|
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第十七話・歪曲/非常なる現実.後篇

◆◆◆


「うし、本日の授業オシマイ。ミサゴ祭りに行く連中は、トラブル云々にゃ気を付けろよ」
『はーい!』


きっちりとかみ合った返事を最後に、教室内の生徒はばらばらと解散していく。


中には残って「今日どうするー?」だの「一緒に行こー」だの、祭りに関する最終確認をする生徒もいる。
無論、それは奏夜の身近にいる生徒も例外ではない。


シャナは授業が終わった後、これ以上ないほどウキウキしていた。
それとなく、奏夜が理由を聞いてみると、


「今日、悠二を誘ってみる!」


だそうだ。


「へぇ。これから誘うのか?」
「うん、千草が浴衣用意してくれてるから、悠二が帰って来た時にびっくりさせるんだ!」


稀にみるご機嫌状態だった。
感情がここまで顔に出るのは、シャナの純粋さ故だろう。


「そっか、良かったな!」


微笑ましさからか、奏夜も表情を緩める。


「お前の浴衣姿見たら、悠二のヤツ絶対驚くだろうから、そこで一気に祭りまで引っ張ってけ!」
「分かってる!」


期待に胸を膨らませる少女を見送り、奏夜は一言。


「青春だねぇ」


まぁ、かく言う奏夜にも予定が入っていたりするのだが。


腕時計を見ると、静香との約束にはまだ余裕がある。 家に帰って、着替える時間をふまえても十分だ。


「なつき先生の手伝いでもするかな」


結局、祭りの見回りについては、同僚の机なつきに替わって貰った。
教員としては付き合いが長い為、奏夜が事情を話すと、快く引き受けてくれたのだ。


……引き受けた後の「紅くんも、ようやくそういう子が出来たのね」というセリフはともかくとして、貸しがあるのには違いない。


「オケ部の楽器のチェックとかなら手伝えるしな……。取り敢えず音楽室で時間潰して、4時くらいに帰りゃ間に合うか」


予定を纏めつつ、奏夜は階段の踊場にさしかかる。


「あ、先生!」


後ろからの声に振り返ると、小柄な女子生徒が近づいてきた。


「良かった。まだ帰ってなくて……」
「おう吉田、どうかしたか?」


こいつが自発的に話し掛けてくるなんて珍しい。
理由を想像しつつ、奏夜の目線は、彼女が持つ紙袋に向く。


と、吉田はおもむろに、紙袋を手渡してきた。


「これを先生に渡したかったんです」
「あん? 俺に?」


中を見ると、果物の詰め合わせだった。
だが奏夜には、受け取る理由が思い浮かばない。


「えっと、正確には先生じゃなくて……」


吉田は言いづらそうに、唇を動かす。


「先生、お兄さんいますよね?」
「!」


予想外の言葉に、奏夜は目を剥いた。


「えっ、なんでお前知ってんの?」


兄、太牙のことは、学校内の誰にも話していないはずだ。


「昨日偶然お会いして、色々お世話になったんです」


吉田は何故か気恥ずかしそうに、経緯を説明する。


「だから、そのお礼がしたかったんです。先生なら連絡先を知ってるかなと思って」
「成る程ね。ったく、本当に世間は狭いなぁ……兄さん、何か言ってた?」
「先生のこと、嫌わないでって言ってましたよ。太牙さん、素敵なお兄さんですね」
「くあっ」


メチャクチャ恥ずかしい。
兄からの心配を、それも自分の生徒に伝えられるのは、自分の頼りなさを露呈させてしまった気分だ。


頬を掻き、奏夜は平静を装う。


「まぁ、分かった。この果物を兄さんに渡せばいいんだな」
「はい。よろしくお願いします」


最後にぺこりと頭を下げ、吉田はやや急いだ様子で、奏夜の脇をすり抜けていく。


(……そう言えば)


奏夜は、吉田の後ろ姿に声を投げかける。


「誘うつもりなのか?」


誰を、とは言わなかった。
吉田は振り返り、


「はい」


力強く頷いた。 緊張はあるようだが、普段のオドオドした態度は欠片も見られない。


「坂井くんと、一緒に行きたいですから」
「……そっか」


今までの彼女には無かった、確かな覚悟がそこにあった。


先の少女のことを思うと複雑だったが、それでも奏夜は、シャナに掛けたのと同じ言葉を送る。


「頑張れよ」


奏夜の激励に笑顔で応え、吉田は階段を降りていった。
悠二の帰宅ルートは、池あたりから聞いているだろうから、舞台セットは問題なし。
シャナは浴衣の準備で一旦先に帰っている。
トドメに――あの吹っ切れたような表情。


あの様子なら、臆さずに告げることが出来るだろう。




――坂井くん、今日のミサゴ祭り、一緒に行きませんか、と。




(……ありゃ兄さんか誰かが、何かアドバイスしたな)


皮肉めいた笑みを浮かべる奏夜。
悠二と吉田が祭りに行くことについて、奏夜はなんら不満はない。
むしろ祝福すべきことだ。


しかし、シャナの――戦いしか知らなかった彼女の、祭りに対する期待に満ちた様子を目の当たりにしているため、素直に喜べる気にもなれない。




あちらを立てればこちらが立たず。それは――奏夜のみならず、太牙も嫌というほど味わっているのだから。




「兄さんも、タイミングが良いんだか悪いんだか」


フルーツの入った紙袋に目をやり、溜め息をつく。


(まぁ、悠二がシャナを選ぶにしろ、吉田を選ぶにしろ、俺が口出しできることじゃねーけどさ)


教員である以上、奏夜は生徒の問題には、積極的に関わるべきだ。
しかし、こと恋愛に置いては、個人個人の問題。
アドバイスはしても、深く関わり過ぎるのはNG。
どちらの味方もせず、中立であらねばならない。


「もどかしいよな、こういうのも」


見てられない、という方が正確かも知れない。




かつて――あの三人と同じ関係性を持った人間として。




「……俺と兄さんみたいにならないでくれよ。シャナ、吉田」


奏夜は願わずにはいられなかった。
その願いが、決して実現しないと分かっていても。


◆◆◆


御崎市郊外のとある山奥。
岩肌の濃い洞穴に、四人分の声が反響する。


「久しぶり、母さん」
「ええ、お帰りなさい、太牙」
「サガークも息災のようだな。安心したぞ」
『◆〆〇¥!』


太牙は今日、帰国したことを伝えようと、母親である真夜に 会いに来ていた。
長らく留守にしていたため、母の元気な姿を見たかった、というのもあるが。


「二世にも世話をかけたな」
「気にするな。俺とお前の仲だ」


キバットの父、キバットバット二世は、羽音を鳴らしながら答える。


「奏夜にはもう会ったの?」
「いや、予定がつかなくてまだ会ってないんだ」
「あら、じゃあ会いがてら、二人でミサゴ祭りに行ってきたら? 確か今日だったでしょう」
「あー、それも考えたんだけれど……」


真夜の提案に対し、太牙はやんわりと言葉を濁す。


「ここに来る途中、名護達から連絡が来てね。一緒に花火大会を見ないかと誘われたんだ」


正確には、嶋のコネで特別席が確保出来ているらしく、そこで待ち合わせないか? という誘いである。
真夜は訝し気に、首を傾げた。


「嶋さんがみんなの為に、花火を出すのは聞いてたけど……それにしたって、随分急なお誘いね」
「ああ、僕もそう思って、詳しく聞いてみたんだ。そしたら、名護達の都合じゃなくて、奏夜の都合みたいでね」
「? どういう意味?」
「今日、奏夜は静香ちゃんと行くみたいなんだ」


太牙の説明に真夜と二世は『ああ、そういうことね(か)』ようやく合点がいったようだった。


「ふふっ、奏夜も隅に置けないわね」
「だろう?」


要するに名護達は、奏夜と静香の邪魔をしないようにしたいのだ。


静香と並ぶ息子(弟)の姿を想像し、どちらからともなく、太牙と真夜は笑い合う。
四年前、あんなことがあっただけに、奏夜と静香のことは、二人にとって喜ばしい出来事だ。
ならば協力は惜しまない、と太牙も、名護の提案に乗ったのである。


「それで、せっかくだから母さん達も誘おうと思ったんだけど、どうかな?」
「ありがとう。でも、遠慮しておくわ。人が多いところは苦手だし」


ここから静かに眺めるだけで満足よ、と真夜。
二世も「俺が行くのはマズいだろう」と妥当な見解を見せた。


「分かった。名護達にも説明しておくよ」
「ごめんなさないね。みんなにも謝っておいて頂戴」


目尻が少し下がった真夜は、本当に申し訳ない気持ちで一杯らしかった。


『タイガ、ボクモココニノコルヨ』


と、そこへサガークも加わる。


「えっ? でもいいのか? お前がいいなら、バックの中にでも入れば……」
『ソレジャア、タイガガタイヘンデショ。ダイジョウブ、キバットクンタチモサソウカラ、サミシクナイヨ』


確かに、キバットやキバーラも、サガークや二世と同じ理由で、留守番をしている可能性は高い。
あの面子なら、寂しくなるということはないだろう。


「分かった。悪いな、サガーク」
『キニシナイデ。アッ、デモオミヤゲニ、ワタアメヲカッテキテクレルトウレシイナ』
「ああ、任せろ。それと、祭りの後にはマル・ダムールで小さな花火をやるらしいんだが、そこなら来ても大丈夫だからな」
『ウン、ワカッタ』


互いの気遣いに感謝する。
二人もまた、奏夜とキバットのように、小さな頃から苦楽を共にしてきた親友なのだ。


「それじゃあ母さん、また来るから。今後は奏夜も連れてね」


太牙が手を差し出し、真夜がそれを握り返す。


「ええ。楽しみにしてるわ」


屈託のない笑顔を最後に、太牙は洞穴から去った。
その姿を最後まで見送っていた真夜は、 握手をした方の手を見る。


「また来るから、か」


自然と、顔が綻んだ。


四年前は考えられなかった、息子からの暖かな愛情。久しぶりに感じたそれは、真夜にとって何物にも勝る幸福だった。


「誘ってくれただけで十分よ。太牙」


手から伝わった太牙の優しい“音楽”に、真夜はそっと目を閉じた。


『◆*▽?』
「そっとしておいてやれ」


真夜の様子を伺うサガークを、二世がたしなめる。


――空は、茜色に染まりつつあった。


◆◆◆


同時刻、紅邸。


「キバット、キバーラ、やっぱこれっておかしくないか?」
「何を言う。俺様とキバーラが着付けしたんだぜ。パーフェクトさ」
「やっぱり奏夜は元がいいから、何でも似合うわね♪」


二匹のコウモリの評価に対し、奏夜は落ち着かなそうに、鏡に映る自分を見る。
奏夜が纏った黒一色の浴衣は、シンプルながら、日本の和を意識した装いとなっていた。


「つーか、祭りだからってここまで気合い入れるか? 私服でいいだろうがよ」
「あら、冷たいわね。静香ちゃんとのデートなんだから、これくらいはしなきゃ♪」
「だからデートじゃねぇっての……。大体、こういう江戸っ子みたいな服装は、俺よりもキバットがするべきだろ。中の人的に」
「奏夜。お前はいい加減、メタ発言の限度を覚えろ」


俺様じゃ浴衣なんざ着れねーし。
キバットが至極もっともな意見を述べたところで、下のインターホンが鳴った。


「む、お相手のご到着だな」
「ちゃ~んと、エスコートしてあげなさい♪」
「お前ら今回、妙にテンション高ぇな……」


自分との温度差にやや戸惑いつつ、奏夜は下に降り、ドアを開ける。


庭に出ると、見慣れた少女の姿が――。





(……あれ?)





突如、身体が硬直する。
冷静な判断力を失った思考は、目に映るものを受け入れられなくなった。


「あ。奏夜」


こちらの様子に気付かないまま、その少女は普段と変わらない態度で接してくる。
濃い藍色染めの布地に、薄いピンクの紫陽花が映えた浴衣。
母親にでも着付けて貰ったのか、着こなしは完璧だ。


「30分くらいの遅刻は想定してたから、早めに来ちゃったけど、奏夜にしては珍しく、ちゃんと準備してたみたいだね」


感心感心、という皮肉も、ろくに耳に入らなかった。
普段の幼さが残る顔立ちは、凛とした優雅さに変わり、口調でさえも大人びたものに聞こえてくる。


だがそれでも、間違いなくこの少女は、野村静香だ。
いつもバイオリンを教えている、奏夜の一番身近にいる女の子。


「………」
「? 奏夜、どうかした?」


言葉を失い、立ち尽くす奏夜の頬に触れる静香。


「……っ!」


静香の手から伝わる体温は冷たかった。
つまり、自分の体温が上がっているということ。


「なんか奏夜、ちょっと熱くない? 顔も少し赤いし」
「い、いやいやいや、なんでもない!」


わたわたと、狼狽えながら、静香の手を引き剥がす。
だがその後も、静香を直視することは出来なかった。


(なんでだ? そりゃ吃驚はしたけど、何も目を合わせられないなんてことは……)


奏夜自信も、自分が動揺している理由が分からなかった。
混乱する奏夜に、静香がからかい半分に告げる。


「あ♪ ひょっとして、私の浴衣姿に見とれちゃったかなー奏夜くん?」


袖を持ってくるりと回る静香。


「っ!」


無論、その可愛らしい仕草は、奏夜を更に追い詰めるには十分で。


(やばい。上手く言えないが、今日の静香は本当にやばい)


しかし、いくら心の中で警鐘を鳴らそうが、静香のご機嫌にはまるで変わりがない。


「ほらほら、可愛いなら可愛いと素直に言いなさいな♪」


顔を紅潮させる奏夜が珍しく、静香はつい、普段なら言えない大胆なことを聞く。
だが最後の最後で、静香は墓穴を掘ってしまった。


「……ああ、可愛いよ」
「えっ?」
「だから、可愛いって」
「……」


いやいやいや。
有り得ない。聞き間違いだ。
可愛い? あの朴念仁の奏夜が? そんなの、天地がひっくり返っても、言わないセリフじゃないか。


恐る恐る、静香は聞き返す。


「か、可愛いって、誰が……」
「……お前以外誰がいるんだよ」


奏夜が未だに顔を赤らめながらも、呆れたように告げる。


「浴衣も似合ってるし、その……うん、とにかく、今日の静香、凄ぇ可愛い」
「………」


奏夜の比にならないほど、静香の顔が赤く染まっていく。
漫画表現なら、煙が上がっているだろう。


「あ、ありがとう……。奏夜の浴衣も似合ってるよ」
「お、おう。ありがとな」
「……」
「……」


二人が、赤面しながら黙り込む。


(ど、ど、どうしよう?)


軽い冗談のつもりが、こんな羞恥を味わうことになるなんて。
可愛いと言わせるよう強いたのは静香自身なため、完全なる自爆だった。


(や、やばい。ワケ分かんなくなって、とんでもない台詞言っちまった……)


奏夜は奏夜で、どうしたらいいのか分からなかった。
静香と、ここまで気まずい雰囲気になるのも久しぶりだし、昔とはその理由も違う。
ただ――静香が可愛いと再認識しただけなのに。


「と、取り敢えず、時間だし、行くか!」
「う、うん。そうだね! 行こう行こう!」


不自然な早口は、緊張か、照れ隠しか。
そんな微妙な空気のまま、二人のミサゴ祭りは始まった。


◆◆◆


「行ったな」
「行ったわね♪」


二階から二人の様子を観察していたキバットとキバーラ。
その口元には、ニヤニヤ笑いが浮かんでいる。


「ひょっとしたら脈ナシなのかなって心配もしてたけど……余計なお世話だったかしら」
「ああ。奏夜も静香に対して、異性としての意識が無いわけじゃないみたいだな。安心したぜ」


鈍感な奏夜には、あれくらい静香が『女の子』の雰囲気を出すくらいで丁度いい。
わざわざキバーラが「せっかくの祭りなんだし、浴衣着ていったら?」と静香に進言しておいた甲斐があった。


「さ、俺様達のお膳立てはここまでだ。あとは静香に任せよう」
「そうね。私達はキャッスルドランから、ゆっくり花火でも……あら?」


キバーラが目を向けた窓の外に、白い円盤のような影が見える。
影はしきりに、鍵のかかった窓ガラスを叩いていた。


「お、サッちゃんじゃねぇか!」
『◆*▽〆!』


キバットがロックを外すと、工房にサガークが飛び込んできた。


「サッちゃ~ん、久しぶりだなぁ!」
『ヒサシブリ!』
「元気そうで何よりだわ♪ で、何かご用かしら?」
『ウン。コレカラマヤノトコロデ、イッショニハナビヲミルツモリナンダケド、フタリモコナイ?』
「おお、いいねぇ! キバーラと二人じゃ寂しいと思ってたとこだし、ご一緒させて貰うかな!」
「ええ、クイーンのとこならお父さんにも会えるし、みんなで盛り上がっちゃいましょう!」


キバット達は宴の準備(主に食品類)に飛び回る。
不思議生物三匹も、なんやかんやで祭りを楽しんでいた。


◆◆◆


「……」
「……」


祭りの客でごった返す大通りを歩く、奏夜と静香。
だが二人の間に、会話はない。 ただ気まずそうに、目を逸らし合っているだけ。
互いに居心地の悪さを感じながらも、二人は口を開けないでいた。


――今、顔を見合わせでもしたら、確実にまた赤面してしまう。


(ってか、今でも多分、顔赤いよなぁ……)


伝わる火照りを感じながら、奏夜は小さく嘆息する。
まったく、あそこでからかいの一つや二つ口にすれば、こんな面倒なことにはならなかったものを。


かと言って、あの時静香を『可愛い』と思った気持ちに嘘はなく、冷静さを欠いていたあの時では、どう転んでも軽口は叩けなかっただろうが。


「……あー、静香」


このまま黙っているわけにもいかない。取り敢えずこちらから、会話のボールを投げる。


「にゃ、にゃにかな?」


静香は静香で緊張しているのか、セリフをものの見事に噛んでいた。


「いや、まだお礼言ってなかったなーって思ってさ」
「お礼?」
「うん。今日のことだけど、誘ってくれてありがとな」
「あ、ああ、そのこと。そんなお礼言われるほどのことじゃないよ」


どの道、奏夜と行きたかったし。とは言わなかった。


「いや、それでも嬉しかったよ。てっきり静香は、学校の友達と一緒だと思ってたから」


ここ四年は、高校、大学とあって、奏夜も静香と中学生の頃ほど頻繁には会えなかった。
静香も学校生活が楽しいのだろう、と納得してはいたが、若干気兼ねしていたのは間違いない。


それもあってか、誘いがあった時には本当に驚いたのだ。


「だから、今年はちょっと新鮮だよ。二人で歩くのも良いもんだな」
「――そうだね」


静香は奏夜と目を合わせた。


「私も新鮮だよ。奏夜と一緒に歩くの、凄く楽しい」
「そりゃどうも、お嬢さん」


やっと普段の調子が戻ってきた。
まだ気恥ずかしさはあるが、さっきに比べれば大分マシだ。


「さて、花火は名護さん達と見るとして、その間はどうする?」
「そうだね……奏夜は行きたい出店とかある?」
「いや、特に無い。今日は静香に付き合うよ」
「そう? じゃあやっぱり定番で、かき氷が食べたいかな」
「お、いいな。確か次狼たちが、かき氷の店出してたから、先ずはそこに行くか」
「やっぱりミサゴ祭りでも働いてるんだ……。あの三人は逞しいよねぇ」
「あいつらは下手な人間より人間らしいからな」
「漫画で例えるなら怪物くんだよね。で、奏夜がドラキュラさん」
「怪物くんじゃないんだ! そしてそれだとラモンが仲間外れ!」


と、楽しくも恐らくは本編とは関係ない話をしながら、二人は祭りの会場へ足を進める。
照れも抜け、普段通りの関係性が戻ってきた。


(うん。やっぱり俺と静香はこうでなくちゃな)


居心地が良く、一番気楽に話せる間柄でなければ。


「……」


ただ少し、本当に少しだけ、さっきの空気が惜しいとも思ってしまうのだけれど。


(あの空気の何処に惜しむ要素があるんだかな……)


思考を巡らすも、答えは出ない。
しかも、考えれば考えるほど、何故か羞恥心が嵩んでいく。


(ま、いっか。別に)


奏夜はあっさり結論算出を放棄し、通りの角を曲がった。





――どんっ!





「わっ!」
「きゃっ!」


衝撃。


よろめいた身体を反射的に立て直し、二人は自分達にぶつかってきた何かを、視界から導き出す。
目の端に捉えた影は二人を横切るような形で、ミサゴ祭りが開かれる河川敷とは、逆方向に走っていく。


後ろ姿から得られた情報は、長い黒髪と小柄な体躯。


「……シャナ?」


奏夜は適当な判断から、さっきの影と知り合いの少女を重ねる。


「奏夜、知り合いの子?」


静香が、少女の走り去った方を見ながら尋ねる。


「ああ、多分俺の生徒だ」
「どうしたのかな。なんか急いでたっていうより、無我夢中で走ってるみたいだったね」
「……無我夢中、か」


その言葉だけを復唱する奏夜。直感的に、嫌な予感がした。
シャナが我を忘れるほどに走る、という状況もそうだが、もっと直感的な不安である。


(……どうすっかな)


奏夜は踏み切れずにいた。


本音を言うと、今ここでシャナの後を追いかけたい。だが、静香を一人にしてしまうというのも問題だ。
彼女の気持ちを考えれば、礼儀を仕損じるようなことは、静香を幻滅させるようなことは、奏夜もしたくない。


「奏夜」


頭の中を読んだように、静香が奏夜の浴衣の袖を引っ張る。


「行ってあげた方がいいよ」
「えっ? でも、それじゃ静香が……」
「ばか」


ぺちっ、と軽く頭を叩かれる。


「多少のロスくらいは大目にみてあげるから、早くさっきの子を追いかけなさい」


静香は人差し指を、奏夜の眼前に突き出した。


「生徒が困ってたら助ける、それが先生でしょ?」
「……」


本当――この子には適わない。
感情と謝罪の気持ちで一杯になりながら、奏夜は頷く。


「ごめん。すぐ戻るから、出店の入り口辺りで待っててくれるか?」
「うん。着いたらケータイで連絡してね」
「わかった。本当にごめんな、静香」


去り際、もう一度頭を下げて、奏夜は踵を返し、シャナのあとを追いかけていった。
残された静香は軽く溜め息をつき、


「本っ当に、奏夜は誰にでも優しいなぁ」


人の気も知らないで、奏夜は誰も彼も助ける。
彼の優しさは、自分にだけ向けられるものではない。
それは、ほんの少し悔しい。


でも――そんな奏夜だからこそ、私は好きになった。


「惚れた弱みだよね」


皮肉っぽく笑いながら、静香は歩き出す。


――戻ってきた時のために、りんご飴でも買っておいてあげようかな、と思いながら。


◆◆◆


程なくして、シャナは見つかった。
団地に囲われた小さな公園だが、今日がミサゴ祭りなのと、大通りから外れているのとで、人影はない。


奏夜と、シャナを除いて。


「シャナ」


ベンチに座る小柄な姿に声をかける。
肩が僅かに揺れ、俯いていたシャナが顔を上げた。


「!!」


奏夜は絶句した。


「……そう、や?」


普段よりずっと小さな声は、僅かに震えていた。
潤み、赤くなった目からは、一筋の涙の跡。




泣いていた。
あのシャナが、フレイムヘイズ『炎髪灼眼の討ち手』が。




「……隣、いいか」


かろうじて言えたのはそれだけだった。
シャナが小さく頷いたのを確認し、奏夜はベンチに腰掛ける。


重い沈黙。
さっきの静香とは、また違う種類の気まずさだった。


「話したくないなら、話さなくていい」


彼女のことを重んじ、慎重に言葉を選ぶ。


「けど、話すことでお前が楽になるなら話してくれ。俺でよければ聞き手になろう」


それだけ言って、奏夜は口を閉ざした。
あくまでも、そこにいるだけ。 だがシャナが望むなら、いくらでも助けを出す。


――奏夜なりの気遣いが、今はとても嬉しかった。


「私……言え、なかったの」


安心感と共に、こらえていたものが溢れ出す。


「吉田、一美に、先に言われちゃった……私、行きたかった、のに、悠二、取られ……」


「……そっか」


全てを察し、奏夜は嗚咽する少女の背中を撫でた。


「ごめんな、シャナ。俺が、祭りに誘ってみろなんて言ったから……」
「ち、違うの、奏夜は悪くないの……私が……嫌だって言え、なかった……一緒に行って、って……私が言えなかった」


奏夜の手から伝わる優しさを感じながら、シャナは泣き続ける。


「それで私、悠二、連れてどこかに行こう、とか思って、ひどい、でも、私」
「うん」
「取られるの、やだから、取っちゃやだ、って思って」
「うん、うん」
「そんな、こと、私、でも……」


まともな声はそこまでだった。
慟哭するシャナの心が奏でたのは、深い悲しみの音楽。
悲哀に満ちた旋律は、奏夜の心にも伝播し、シャナの辛さを否応無しに響かせてくる。


――何も出来ない無力感を噛みしめながら、奏夜は静かに、シャナの感情を受け止め続けた。


◆◆◆


「落ち着いたか?」
「……ごめん。迷惑かけて」
「いいさ。泣ける時に泣けるのは、悪いことじゃない」


ひとしきり泣いて、多少落ち着いたシャナに、奏夜は言う。


「シャナ、やっぱりお前は変わったよ。今までのお前じゃ、絶対に泣かなかっただろうからな」
「……私、やっぱり、弱くなったのかな」


拳を弱々しく握る。


こんな情けなくなって、フレイムヘイズとしての使命さえ果たせなくなる。
それはシャナに取って、もっとも恐怖することだった。


だが奏夜は、


「違う違う。むしろ強くなったと俺は思ってる」
「えっ?」


予想しなかった答えに、シャナは首を傾げる。


「いつだったか言ったよな。『持たざる者の強さには限界がある。だが持つ者の強さに限界はない』って」


覚えている。
悠二と一緒なら、何でもできる。そう思えたのも、奏夜の助言がきっかけだった。


「そしてお前は、もう大切なものを手に入れてる。今流した涙――感情もその一つだ」


どこが嬉しそうに笑いながら、奏夜は言葉を紡ぐ。


「お前、吉田が悠二を誘った時、悠二を連れて行きたいって思ったんだよな」
「……うん。でも」
「できなかった。正確には踏みとどまった、って感じかな?
でもさ、悠二と出会う前のお前なら踏みとどまりもしないし、そもそも悲しんだりしなかったんじゃないか?」


強引に、相手の気持ちを配慮に入れず、理性的に行動する。
完全なフレイムヘイズであった頃のシャナなら、そうしていただろう。


「お前は悠二を連れて行かなかった。だから苦しんでる。
でも、苦しみはイコール悪いことじゃない。苦しいってことは、お前の中に感情が芽生えてるってことなんだ」
「感、情?」
「そう、感情。歓喜、憎悪、悲哀、快楽。誰かへの好意も、感情の一つだ。
お前は悠二を好きだと想えるようになった、それって凄く素敵なことだろ?」


感情が無ければ、こんなに苦しまなかった。


――でも同時に、悠二を好きだと想うことも無かった。


(……そんなの)


いやだ、シャナは強く思った。


悠二を好きでいたい。苦しくても、この想いは無くしたくない。
理屈も何もなく、シャナはそう考えることが出来た。



「だから、泣きたい時には思いっきり泣けばいいんだ。
人は時に、本能のままに動いた方がいい時もある。一人で泣くのが辛いなら、遠慮なく誰かを頼れ。 俺でも、千草さんでも、それこそ悠二にでもいい。
感情だけじゃなく、お前は大切な人も持ってるんだからな」


笑顔のまま、くしゃりとシャナの髪を撫でる。


(……温かい)


無条件の心地よさが、痛くて仕方なかった心に染み渡っていく。
奏夜の心の音楽は、それほどまでに優しい音色を奏でていた。


「悠二と吉田のことは、まだいくらでも何とかなるさ。お前がちゃんと、悠二を好きでいるならな」
「……そう、かな」


「そうだよ」と奏夜は撫でる手を止める。





「――お前らは、俺達とは違うんだからな」





「っ!」


さっきとは違う、暗がりから聞こえてくるような声。
シャナの心に、再び悲しみが去来する。
だが、それはシャナ自身の悲哀ではない。


(これって、奏夜の……?)


奏夜から伝わる旋律は変わっていた。


果てしない絶望と悲痛。
奏夜に目立った変化は無いが、真っ黒な瞳が、底の見えない奈落を連想させた。


(なんで、どうして奏夜が、こんな悲しい音楽を……?)


戸惑うシャナを余所に、奏夜は唇を動かす。




「シャナ。一つ、昔話をしてやろう。二人の男と一人の女の、ひどい昔話をな」




奏夜は語り出す。
四年前を境に、誰にも言わなかった――ただの単純な、バッドエンドに繋がる物語を。


◆◆◆

「昔々、あるところに一人の男がいました。
彼は他人に興味を持てず、自分に近付く人間を全て拒絶し、狭い箱庭のような世界から出ようとしません。
彼だけにあった特別な力も、ただ頭に聞こえる『ファンガイアと戦え』という声に従った時しか使えない。
どうしようもなく情けない男でした」

「しかし、ある出会いを境に、彼は変わり出しました。
他人と触れ合い、時に笑い、時に泣き、様々な人の中に宿る『心の音楽』を知りました。 彼は自分だけの世界から飛び出し、人の中に流れる『心の音楽』を、悪いファンガイアから守りたいと、強く願うようになりました」

「そんな折、彼はある女性と出会いました。
その女性は、彼と同じく引っ込み思案ながらも、綺麗な音楽を持つ女性でした。
二人は互いに惹かれ合い、やがて恋に落ちました」

「しかしその幸せは、彼の父親違いの兄が現れた頃から崩れ出しました。
その女性はファンガイアの女王。つまり彼の敵だったのです。
そして、彼の兄もまた、ファンガイアの王であり、女王は彼の兄と結ばれる運命にありました。
二人の兄弟の絆は、同じ女性を好きになったことで、醜く歪んでいきました」

「やがて兄弟は互いにぶつかり合いました。
人間を守る者と、人間を搾取する者として。
同じ女性を好きになった恋敵同士として。宿命の鎖は二人を引き寄せ、戦いはもはや避けられませんでした。
戦いでしか、人間の未来と女性への愛を勝ち取れないまでに、二人の男と一人の女の関係性は狂っていたのです」

「そして運命は、二人の男に相応しい罰を与えました」




「二人を止めようとした女性は、兄弟の戦いに巻き込まれ、命を落としたのです」




「弟の絶望は計り知れませんでした。 直線的でないにしろ、女性が死ぬ発端となったのは間違いなく彼でした。
女性と出会いさえしなければ、女性は兄との未来を歩めていたのですから」

「彼は自らの力で過去へ渡り、自分の存在を消し去ろうとしました。
しかし彼は、そこで物心つく前に死んだ、偉大な父親と、大切な友人の母に出会います。
大切な友人の母は言いました。『彼女はきっと、あんたと出会ったことを後悔していない』と。
偉大な父は言いました。『彼女を生かすためには、お前が強く生きるしかない』と」

「彼は再び立ち上がりました。彼女を心の中で生かすために、彼女のような人を、もう二度と生み出さないために」

「そして遂に、運命の鎖を解き放った彼は、兄との関係に決着をつけ、兄弟はファンガイアと人間の共存を成し遂げました。自分の世界に閉じこもっていた頃とは違う、大切な仲間と共に」

「――ただ、彼は今でも思うことがあります。
彼女が自分と関わらなければ、自分と出会っていなければ、彼女は幸せになれたのではないか、と。どうしても――考えずにはいられないのです」

「そうして、彼は今も、罰を受け続けています。
正しさと過ちの狭間で、一生答えを探し続けるという罰を――」


◆◆◆


「そういう、昔話だ」


顔を上げ、“どうしようもなく情けなかった男”は夕日を仰ぐ。
シャナはただ呆然と、奏夜の話を聞いていた。


「今の話……って」
「多分、お前のご想像の通りだ」


奏夜の浮かべた微笑は、今までのどれよりも儚く、寂しい笑みだった。


「お前らは、俺達とは違う」


それは、“そうであって欲しい”という願いにも似ていた。


「だからまだ、いくらでもやり直せる。 シャナ。お前も悔いだけは残すな。最後の最後まで、悠二を好きでいろ」


強く言い切り、奏夜はシャナに背を向け、公園から出ようとする。


(……ダメだ)


このまま、奏夜を行かせてはいけない。
シャナは、直感的に思った。


「奏夜」


小さく、シャナが呟く。


「……ありがと」
「ん、気にすんな」
「それから……ごめんね」


あんな話を、させてしまって。


「……それも、気にすんな。あれは俺の問題だ」


感情の読めない口調を最後に、奏夜は公園から姿を消した。


◆◆◆


「……なーんであの話しちまったかなぁ」


誰に問うでもなく、奏夜はぼやく。


意図的に避けてきた話題、だったのは間違いない。名護達でさえも、滅多に口にしない奏夜の傷。


だが今日、奏夜は何故か、自らあの話を語った。
恋愛でどんなことがあっても、俺よりマシだと告げたかったからだろうか?


「……無いな」


そこまで被害妄想は激しくない。
では結局……。


「あ、紅先生!」


考えを巡らせていた奏夜を呼び止める声。 見ると、前方から見知った人が走ってきた。


「千草さん?」


息を切らしながら、悠二の母、坂井千草は、彼女にしては珍しく、何か焦っているようだった。


「すみません、この辺りでシャナちゃんを見かけませんでしたか!?」


その剣幕に驚きつつも、奏夜は千草の目的を大体理解した。


「ああ、そこの公園にいましたよ」
「本当ですか!」


千草の表情に安堵が混じった。
もしかして、歩きでずっとシャナを探していたのか。


本当に大した人だ。と感心する。


「一応俺がいくらか言っておきましたけど、千草さんからも何か慰めてあげてください。男の俺じゃ、伝わらないこともありますから」
「はい。わざわざありがとうございます」


丁寧な礼をして、千草は足早に公園へと走っていく。


あの人がいれば、シャナも大丈夫だろう。俺の滑稽な昔話より、ずっと温かい言葉を掛けてくれるはずだ。


「――俺は、シャナになんて声をかけたら良かったのかな」


もう一度、沈みかけた夕日を仰ぐ。





「深央――キミならどう思う?」





どこからも、答えは返ってこなかった。


◆◆◆



投げられた輪が、くまのぬいぐるみに嵌る。


「はい当たりぃ~!」


輪投げ屋のオヤジが挑戦者――名護にくまのぬいぐるみを手渡す。


「わぁー、おとうさんありがとう!」
「おー、さすがっすね、名護さん」
「俺らじゃどうやっても出来ませんよ」
「ポイントは手首のひねり具合だ。慣れれば、田中君と佐藤君も出来るようになる」


ゲットした景品を由利に渡しつつ、名護は田中と佐藤に、輪投げのコツを伝授していた。


「マージョリーさんは、お祭りとかって行ったことあるの?」
「メグミの言う祭りの定義によるけど、外国のパレードみたいなヤツは見たことあるわ」
『お前さんの場合、酒さえありゃどこでもパレードだがな、ヒャハハハ!』


恵の隣、マージョリーが「お黙り」とマルコシアスをぶっ叩くというお馴染みのやり取りを繰り広げていた。


「でもラッキーだったなぁ。偶然名護さん達に会えて、しかも特等席で花火を見れるなんてさ」


思わぬ幸運に歓喜する田中、佐藤も同じく嬉しそうだが、一応礼儀として、名護に尋ねる。


「でも良かったんですか? せっかくの家族水入らずだったのに」
「ああ、気にすることはない。せっかくの祭りなんだ。人数が多い方が楽しいだろう」
「栄太おにいちゃんも、啓作おにいちゃんも、マージョリーおねえちゃんも、みんなで花火見ようよ!」


由利の無邪気に楽しむ様は、5人の空気を和ませる。
佐藤と田中とじゃれあう由利を見ながら、マージョリーは感心しているのか呆れているのか、微妙な口調で、


「ガキはいつも一直線ね」
「ふふ、でもいいことじゃないかしら」
「……そーかもね」


私と違って。とは付け加えなかった。


「ねぇメグミ」
「なに?」
「ソウヤやケイスケは、この街を守ってるのよね」
「そうよ。もう何年もね」
「私達が出てった後も?」
「えっ?」


虚を突かれた恵に、マージョリーは簡単に伝えた。


以前から、調律師を生業とするフレイムヘイズが来た時、この街を出ると決めていたこと。
その調律師『儀装の駆り手』カムシンが、数日前に到着したこと。
佐藤と田中に付き合い、ミサゴ祭りに来たのも、最後の思い出作りのつもりだということ。


「そんな……まだもう少しくらいは」
「私達は、あんまり一所に止まらない方がいいのよ」
『俺達の周りにゃ、否応無しに面倒事が飛び込んでくっからなぁ』
「――そっか」


全てを聞いた恵は、残念そうに顔を伏せる。


「でも、何でその話を私にしたの?」
「……あー」


一転して言いづらそうに、マージョリーは頬を掻いた。
その様子から、恵は適当な当たりをつける。


「啓作くんと栄太くんのこと?」
「……」


沈黙。つまり肯定だ。


自分達がいなくなっても、“徒”はいる。
通常、一度襲った街を、もう一度“徒”が襲うことは滅多にない。


だがこの街は、無害だったラミーを含め、三回の襲撃を受けている。
もう一度が起こらない、という保障は無かった。


「あいつらは私に着いて行きたい、なんて言ってたんだけどね」


そればかりは、どうやっても無理だ。マージョリーは苦笑混じりに、恵を見る。


「だから、今のうちに、頼んでおこうかなって思ったの」


自分がいなくなった後も、二人を守ってほしいと。
マージョリーの想いを汲み取り、恵は強く頷く。


「――うん、わかった。名護くんにも言っておくし、私も、出来る限りのことはする。約束するわ」
「ありがと」


短い礼には、彼女の最大限の感謝が込められていた。


「姐さーん、置いてっちゃいますよー!」
「恵さんも早く早く!」
「ほら、呼んでるわよ。行きましょ」
「ったく、あいつらはもっと落ち着いて回れないのかしらね」
『ヒッヒヒ! お前さんの口から“落ち着き”なんて言葉が出るとは思わなかブッ!!』
「お黙り」


普段より気合いの入った拳をマルコシアスに叩き込み、マージョリーと恵は、先を行く四人と共に、雑踏へと紛れていった。



◆◆◆


川沿いに並ぶ出店の一角。
怪物二人が経営するかき氷屋にて。


「おっす、ラモン、力。儲かってるか~?」
「お。来たね、お兄ちゃん! ありゃ? 珍しいね、静香お姉ちゃんも一緒か」
「ひさし、ぶり」
「うん、久しぶり。ラモンくん、力くん」


注文受け付けのラモンと、奥で氷を削る力が、奏夜と静香を出迎えた。


「お前らは気付けば店出してるよなぁ」
「うん。嶋さんの知り合いが、人手が足りなくて困ってたみたいでね。半分は手伝いみたいなもんかな」
「お祭りは回らなくていいの? これからみんなで、花火見るつもりなんだけど」
「あはは、ありがと。でも、僕らは取り敢えず、祭りの雰囲気だけ楽しめればいいから」
「おかねで、かえないたのしみ」


なかなか情緒深い楽しみ方をする二人だった。
まぁ、よくよく考えれば100年近く生きてる連中だ。 祭りの楽しみは味わい尽くしてるのかも知れない。


「ま、そんなことより、せっかくだからかき氷買ってってよ。サービスするからさ」
「んじゃ俺は、ブルーハワイ」
「私はレモンかな」
「はいはーい。力、ブルーハワイとレモンを一つずつ!」
「いえす、さー」


力の怪力により、氷がどんどん削られていくのを見ながら、ラモンは「それにしても」とニヤついた笑みを浮かべる。


「お兄ちゃんも隅に置けないね~。祭りの日に女の子とデートなんてさ♪」


奏夜は額に手を当てる。
キバットやキバーラに続きお前もか。


「だからよぉ、そういうんじゃないって」
「うんうん、恋仲を誤魔化す時は、みんなそう言うよね」
「もう一回彫像に封印してやろうかコラ。静香からも何か言ってやれ」
「ふえっ!? あ、えっと……」


急に話を振られ、慌てた様子で赤面した顔を隠そうとする静香。


「御馳走様」
「おしあわせに」
「だから違うって」


笑いをこらえるラモンと、変わらず無表情な力から、かき氷を受け取る。
そこで奏夜は、ふと尋ねる。


「あれ? そういや次狼は?」
「ああ、次狼は別行動だよ。太鼓叩きの手伝い」
「太鼓? あいつの場合、使える楽器はギターだろ」
「お兄ちゃん、祭りの日くらい、ギリギリなネタは控えようね。祭りの企画で、太鼓体験みたいなこともやってたみたいだから、今頃、誰かに太鼓教えてるんじゃないかな」



四人の声は、祭り囃子と人々のざわめきに溶けていく。



◆◆◆


「おい、そこの坊主」
「はい?」


呼び止められ、悠二とその隣りを歩く吉田は足を止めた。
見ると、黒い甚平羽織と袴を纏う男――次狼が、祭りの大太鼓の前に立っていた。
鋭い風貌に、木製のばちを持った姿は、『粋』の文字が良く似合う。


「一度叩いてみないか? 今なら空いてるぞ」
「えーっと……」


どうしたものか。 せっかくの祭りなのだから、勢いに乗ってみるのもやぶさかではない。
だが、今は一人ではなく、吉田もいるのだ。自分だけが楽しんでも意味はない。


確認のつもりで、吉田を横目で見ると、彼女は笑って、


「私のことなら、気にしないでください」
「でも……いいの?」
「ほら、せっかくのお祭りなんですから」


吉田に促され、結局悠二は太鼓の前に立つ。


「ん? お前、どっかで見たと思ったら、奏夜と一緒にいた小僧か」
「えっ?」


思わぬ名前が飛び出し、次狼を見上げる悠二。


「先生を知ってるんですか?」
「……ああ、そうか。お前さんと、この姿で会うのは初めてだったな」


吉田に聞こえていないことを確認しつつ、次狼は声を落とす。


「俺の名は次狼。蒼い狼の剣……って言ってわかるか?」
「蒼い狼……あっ!」


奏夜――キバの使っていた剣、ガルルセイバーが脳裏をよぎる。


「……普段は、そういう姿にもなれるんですね」
「ああ。まぁ、これも本当の姿じゃないんだがな。そっちは彼女か何かか?」
「そ、そういうわけじゃ、ないんですけど」


わたわたと焦る悠二に苦笑いしながら、次狼はばちを手渡す。


「よし、もう少し腰を落として、ばちを大きく振り上げろ!」
「? な、なんか一気に気合い入りましたね……」
「ダメだダメだ、もっと世界中の憂いを全て晴らす気で叩け!」
「縁日にしちゃレベル高くないですか!?」
「音撃欧・一撃怒涛!!」
「必殺技!?」


余計なスイッチが入ったらしい次狼に振り回されながらも、悠二の叩く太鼓の音は、吉田の耳にも届いた。
悠二の様子が何処かおかしく、つい吉田は笑ってしまう。


一緒にいるという充実感、それが与えてくれる笑顔。
紛れもなく、それは吉田の望んだ、幸せな日常の証明だった。


(これが、“あんな世界”だなんて……信じられない)


袂にある片眼鏡『ジェタトゥーラ』を握りしめる。


(早く会って、これを返そう)


動くきっかけをくれた感謝と、別れの言葉を添えて。


◆◆◆


その片眼鏡の持ち主、カムシンは花火の見物人に紛れ、堤防の土手に座っていた。


「ああ、これを見ながらの調律実行というのも、また乙なものですね」
「この辺りじゃ大きい花火大会だからな。僕の知り合いも花火を出している」


その傍らには――何故か太牙が座っていた。
彼のキャラに似合わない綿アメ(ちなみに二つ。甘党なのだろう)を持ち、カムシンと同じく河川敷を眺めている。


「ああ。そろそろ始まるようですが、待ち合わせている方々のところへ行かなくても?」
「予想以上に混雑していてな。花火が始まれば、人も多少はけるだろうから、しばらくはここで待つよ。1つどうだ?」
「ああ。どうも」


薦められた綿アメを受け取り、一口かじるカムシン。
その様子は、年相応の少年だ。


「そう言えば、一美ちゃんとの約束は大丈夫なのか?」
「先に調律を済ませるつもりです。まだ時間はありますからね」


カムシンの左腕津の飾り紐から、ベヘモットの声が聞こえてきた。


『ふむ、おじょうちゃんは、選んだことで、幸せを得られたじゃろうか』
「ああ、そうですね。そうであってほしい。彼女がどんな選択をしたにせよ、結果的に、幸せであって欲しい……」
「……?」


カムシンの言葉を、太牙は意外に思った。
今の口調からは、使命や常識ではなく、心からそう願っているのが感じ取れたからだ。


(感性が全て、枯れ果てたわけではないんだな)


そんな皮肉を、太牙が心の中で思ったところで、スピーカーから花火開始の一報が入る。


「ああ、では我々も、始めますか」
『ふむ、そうじゃのう。さぞかし綺麗な、輝きの元に、調和が戻るじゃろうて』


カムシンは立ってフードを下ろし、太牙に綿アメを預ける。


「ここでやるのか? 人目につくぞ」
「ご安心を。周りには、大道芸か何かにしか見えませんよ」


野晒しにしてあった鉄棒を振り上げ、左手を胸の前に出す。


「起動」


カムシンの掌に、先日吉田から写し取った、調和の風景が、炎となって灯る。


『自在式、カデシュの血脈を形成』


ベヘモットの声に合わせ、御崎市に付けられたマーキングに、複雑な文字列が刻まれた光が灯った。


「展開」


調和の炎が、鉄棒に絡みつき、紋様が移り込んでいく。


「おお……」


高ランクの技術に、周囲の人間のみならず、魔術の心得を持つ太牙も、感嘆の声を挙げる。


「自在式、カデシュの血流に同調」


この街の“本来あるべき姿”のイメージが、歪んだ箇所を矯正していく。
失われ、途切れたものを、温かな力が癒やしていった。


「調律、完了」
『自在式、自己崩壊させる』


歪みは正され、ここに調律が成される。





はずだった。





夜空を照らし、煌々と輝いた花火が、歪んだ。


◆◆◆


「えっ……?」


千草と共に、祭りに来ていたシャナは、有り得ない方向に光を放ち、ねじ曲がる花火を見た。


「調律の、失敗?」


◆◆◆


「なにが……?」
「起こって……ない、のか?」


歪んだ花火を人々は気にも止めない。
その異様な状況に、佐藤と田中は息を呑む。


「あんたたち、まだ、一仕事あるみたいよ!!」
『ヒャーッ、ハーッ!! ったく、なんてえトコだ、この世ってのはよぉ!?』


「“徒”め……また、この街を荒らそうというのか!!」


マージョリーとマルコシアスの狂喜と、名護の怒声がかみ合った。


◆◆◆


「『儀装の駆り手』、あの花火は一体どういうことだ!?」
「奴、ですね……外界宿で何度となく警告を受けておきながら、迂闊でした」
『気配を全く感じなかったしのう。この歪みも、いったい何を狙っておるのか……』


カムシンとベヘモットの苦々しい後悔。
そこから太牙は、事態がいかに切迫しているのかを知らされた。


◆◆◆


「どうやら、無粋な連中がいるようだな……」
「なになに!? 一体何がどうなってるの!?」
「はなび、ぐにゃぐにゃ」


合流した次狼を含むアームズモンスターズの中から、祭りの余韻が霧散していく。


「こんな、こんなことって……」
「……上等じゃねぇか」


言葉を失う静香の横で、奏夜は口元を怒りで吊り上げる。


「おばあちゃんが言っていた……祭りの邪魔をするヤツは万死に値するってな!!」



◆◆◆


「くそっ! そんな……また、またなのか!?」


周りとは明らかに違う悠二の反応に、吉田は違和感を覚えた。


(“またなのか”)


この異常な景色を見て、何故そんな言葉が出る?
そんなまるで、この異常を“知っている”かのように……。


チャリン。
袂の中で、片眼鏡が揺れた。
日常を塗り潰す混沌の中、震えながら、吉田は片眼鏡を手に取る。


『良かれ』と思って。
自分が大好きな少年が、確かな存在だと、信じられるように。
今までの楽しかった時間が、儚いユメでないと証明する為に。





――そして、彼女は見た。





非常なる、現実を。


  1. 2012/04/03(火) 21:53:00|
  2. 仮面ライダーキバ/BLAZING.BLOOD
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第十七話・歪曲/非常なる現実.前篇

ファンガイア。人間を糧とし、それは太古より栄えてきた闇の一族。
チェックメイトフォー。ファンガイアを管理し、その秩序を守る四人の戦士。
キバ。サガを始め、装着した者に絶大な力を与える魔の鎧。


そして――キング。チェックメイトフォーの中でも一線を画し、ファンガイア全てを統率する権限を持つ王。


◆◆◆


「そのキングが……、太牙さんなんですね」
「うん。闇の一族の王にして、サガの鎧の資格者。それが僕、登太牙だ」


御崎市のとある路地裏。
結局あのまま、カムシンのマーキングに付き合うことになった吉田一美と登太牙の両名。
カムシンは現在「この辺りのマーキングは複雑なので、しばらくここで待っていてください」と言い残し、何処かへ消えていた。


結果的に、この二人きりという状況下は、太牙にとって逃げ場が無くなったのと同義だった。


不可抗力とはいえ、サガの変身を見せてしまった太牙は、吉田への説明を余儀無くされてしまったのである。
ここまでしてしまったのなら、知らないよりも知った方が、彼女の危険は減るとの考えだった。


(『儀装の駆り手』のことも言えないな……)


度重なるショックに俯く吉田を見つつ、太牙は自己嫌悪に陥る。
幾分か配慮はあるものの、結果的に彼と同じことをしてしまった。


「……僕らの名誉の為にも言っておくけれど、今のファンガイアの殆どは、人間を餌としていない。“徒”と比べれば、格段に友好的な種族だよ」


口から出る励ましも、今の吉田にとっては、酷く頼りない支えに過ぎない。


(なんで……私は“こんなところ”にいるんだろう)


自分の認知から外れた世界、そこから現れるファンガイアの恐ろしさを、彼女は身を持って体感してしまった。
常識をいとも簡単に破壊する恐怖は、なかなか拭い去れるものではない。


『◆〇〆¥!!』
「きゃっ!?」


突然視界に現れた円盤――サガークに驚く吉田。
外に出られた喜びからか、くるくると吉田の周りを飛び回る。


「この子って、さっき太牙さんと一緒にいた……」
「ああ、サガークと言ってね。悪いやつじゃないよ」
『☆△●∂!』


サガークはしきりに奇妙な言葉を発しているが、無論吉田に、その意味はわからない。


「えっと、サガークくんは何て言ってるんですか?」
「サガークの円盤に手を置いてごらん」


太牙に促され、吉田はサガークの頭部(?)にある青い円盤へ手を乗せる。


『ハジメマシテ』


緩やかに円盤が回ったかと思うと、吉田の脳に、機械的な声が届く。
奇妙な感覚に驚きつつも吉田は、


「は、初めまして」


ぺこりと可愛らしく頭を下げるサガークに、吉田も軽く会釈する。


『ゴメンネ。サッキハコワガラセチャッテ』
「う、ううん。別に太牙さんやサガークくんが悪いわけじゃないよ」
『デモ、ヤッパリイマモコワガッテル』


心中を見抜かれ、吉田は肩を跳ね上げる。


『ダイジョウブ。タイガハツヨイカラ、キットマモッテクレルヨ』


機械的な声からでも、はっきり伝わる温みのある言葉だった。
……今のは、なぐさめてくれたのだろうか。
太牙がこそばゆそうに頬を掻く一方、吉田は暗くなりかけていた心が、少しだけ軽くなるのを感じた。


自然と、顔が笑みを作る。


「……ありがとう。サガークくん」
『∞◎●☆!!』


気を良くしたのか、サガークは吉田の頭の上へちょこんと乗る。


「珍しいなサガーク。一美ちゃんが気に入ったのか?」
『∂◆£◎!』


サガークの表情は変わらないものの、吉田と同じく笑っているようだった。


「すまないね。こう見えて子供っぽいヤツだから」
「あ。いえ、気にしないでください」


サガークが与えてくれる和やかさは、吉田も純粋にありがたかった。
が、その空気を読まないのが、あの老成したフレイムヘイズである。


「ああ、お待たせしました」


音も立てず、路地裏に現れたカムシンに、吉田の肩が跳ね上がった。


「マーキングとやらは終わったのか?」


太牙が変わらず、不機嫌そうに問う。


「ええ。少々手こずりましたが、これで昨日からつけておいたものと合わせて、何とかなるでしょう」
「……」
「本当に手伝ってもらうのはこれからですが……よいですか、お嬢ちゃん」
「安心してくれてよいぞ。この作業が終われば、まずお嬢ちゃんの生きている内は、人喰いがこの街を襲うようなことはあるまい」


ベヘモットの言葉がどこから本当で、どこからが希望的観測なのか、吉田には判断する術がない。
よいですか、と聞かれても、彼女にはそれを信じるしかなかった。


吉田が頷いたのを確認し、カムシンは彼女の手を握る。


「お嬢ちゃん。怖ければ、目を瞑っているように」


今までの恐怖からか、吉田は言われたとおり目を閉じる。


「キング、あなたは自力で着いてこられますか」
「みくびるな、僕を誰だと思っている」
「ああ、これは失敬」


そんなやり取りを聞きつつ、吉田が次に感じたのは、まるでジェットコースターにでも乗っているかのような圧迫感と風の轟音。
目を開けた時、吉田の視界は御崎駅付近にある、高いビルの屋上へと移動していた。


「っと」


隣で太牙が、左足から地面に着地した。
――彼の姿を見るに、どうやら自分はカムシンに連れられ、ここまで飛んできたらしい。


「では、そろそろ始めるとしましょう」


手際良く、カムシンは準備を進めていく。


「おかしなところを直すために、あちこち行くんじゃなかったんですか……?」
「ああ、それはそれで間違っていませんが、例えでもあるんです。さっきまで行っていたマーキングによって、お嬢ちゃんはこの街を自由自在に感じることになります」
「?」
『◆〆?』


吉田が首を傾げ、頭に乗ったサガークがそれを真似た。


「ああ、そうですね。とりあえず、作業を始めた方が早いかもしれません」
「うむ。キング、少々自在法の操作を手伝ってもらえんかね」
「僕がか?」
「ええ。何分この街は魔皇力の色が濃く、自在法の発動が僅かに阻害されるのです。
私の力は全体を上手く纏めるのに向いているのですが、そのせいかそこら中の魔皇力まで自在法に組み込んでしまうようでして」
「成る程。だから魔皇力が入らないようにしたいというわけか」


自在法と魔皇力は、互いに発動システムが大幅に異なるため、併用すればどちらかが誤作動を起こす。
ここ一帯には、人造ライフエナジーのプラントもいくつかあるため、それも無理からぬことだった。


「いいだろう。だが、一美ちゃんに手荒な真似はするなよ」
「勿論」


カムシンとしても、そのつもりはまるでない。 もっとも、彼からすれば、それも何十回と繰り返してきた手順に過ぎないのだろうが。
カムシンは無造作に、オレンジ色のフードを取った。


『!!』


その下にあった顔の全体に、吉田のみならず、太牙も息を呑んだ。
褐色の肌に、痛々しく走る無数の傷跡。


二人がその異様さに身を強ばらせる。


「……フレイムヘイズに、視覚的な変化は起こらないと聞いていたが」
「本当は全て治せたんじゃが、こ奴がきかなくてのう」
「治、せた……? 消せた傷を、残したんですか」


背中に背負っていた布巻き棒を、片手で巧みに操りながら、カムシンは吉田の疑問に答える。


「ああ、これは私の戦いの思い出なのです。
キングの言う通り、我々の体は本来変化しないのですが、誰かとのやり取りを……その結果、刻みつけられたものを受け入れることで、自然と跡が残ることがあるのです。戦歴が長いとその分、思い出もたくさんたまってしまう」


一言一句に、歴戦の中で培われた貫禄が垣間見えた。
僅かな畏敬を感じつつ、太牙は魔皇力の操作を手伝いつつ、隣のカムシンに問う。


「『儀装の駆り手』。なぜわざわざ、過酷な戦いの傷跡を、思い出として刻む?」
「つらいからこそ、です。痛みを覚えていなければ、そこにあった他の思い出をも忘れてしまいますから。
――あなたも立場上、似たような感情を抱いたことがあるのでは?」


太牙の顔が、引きつり、次に苦虫を噛み潰したような表情に変わる。


「……随分、見透かしたようなことを言ってくれるな」
「失礼。気を悪くされましたか」


琴線に触れたのを感じ、あっさり退くカムシン。だが、太牙の心に落ちた不快感は消えない。
四年前のつらい戦いがあったからこそ、自分はここにいる。




“あの人”との別れも――また然り。




否応なしに、今の喜びは過去の悲しみによって培われたということを、再認識させられてしまった。
魔皇力を操る手は止めないまま、太牙は隣に立つ淡白なフレイムヘイズを睨む。


どうも太牙は、カムシンが好きになれそうになかった。


◆◆◆


場所は移って『カフェ・マル・ダムール』。
既に店は閉まり、限られた人間のみが店内に残る程度。
普段ならば、マスターが静かに明日のコーヒー豆の準備をしている時間。


――そう、普段ならば。


「さすがにそれは聞き捨てならんぞ奏夜君!」


名護の鋭い声が、店内に響く。
テーブルには、本日の夕飯、クリームシチューとご飯。


「そりゃこっちのセリフです! いかに名護さんと言えど、こればっかりは譲れませんよ!」


奏夜の下にもシチューはあるが、傍らにあるのはご飯ではなくフランスパンだ。


「黙りなさい! 俺は常に正しい! 俺が間違うことはない!」
「懐かしいフレーズをどうも! だが俺は謝らない!」
「……まーだやってんのね、向こうは」


別のテーブルで、同じくシチューを口に運ぶ恵が、悲しいものを見るような目で、奏夜と名護を見ていた。


「静香お姉ちゃん。お父さんと奏夜お兄ちゃんは何やってるの?」
「今の二人を見ちゃいけません。大丈夫、由利ちゃんは永遠に理解しなくていいことだから」


静香の淡々とした答えに首を傾げる由利だったが、食欲には勝てないのか、すぐに食べる作業へ戻る。


――状況説明。
祭りの約束をした奏夜と静香は、そのまま紅家で夕飯を食べる予定だった。
だが、ここ連日忙しかった(主に第X話の騒動)奏夜は、買い溜めしていた材料が切れていたのを忘れていたのである。


年頃の女の子にインスタントは忍びない。ということで、マル・ダムールへと足を運び、夕飯にあやかろうとしたわけだ(ちなみにキバットとキバーラは、インスタントで満足したため留守番)。


幸い、名護ファミリーもまたマル・ダムールで夕飯作りをしていたため、二人は手伝いをする条件で、夕飯をご馳走になることとなった。


「ここまでは良かったんだけどね……」
「まさか奏夜と名護さんに、こんな無駄なこだわりがあったなんて……」


シチューに目を落としつつ、恵と静香は溜め息をつく。そう、シチューを作ったまでは良かったのだ。
問題はその付属品。
主食となるべきものに対し、奏夜と名護の意見がはっきり分かれたのだ。


要するに、


「私に同じことを二度言わせるな! シチューはご飯と合わせてこそ美味いんだ!」
「考えらんねぇ! カレーでもあるまいし! シチューに合う主食はパン以外ありえません!」




こういうことである。
ありがちな、食べ物に対する無駄なこだわりだ。


『どっちでもいいのにねぇ』


恵と静香は、騒がしい二人を捨て置き、自分のペースで食を進める。


「ここまで言っても分からないか! ならばそのふざけた精神、食の神に返しなさい!」
「いいでしょう、ただしその頃には、名護さんは八つ裂きになってるでしょうけどね!」


奥の席では物凄い激論が繰り広げられているが、まぁ、あの二人のことだから、その内自然と仲直りするだろう。
長い付き合い故に許される、完全スルー。


「そう言えば静香ちゃん。ミサゴ祭りって誰かと行くの?」


奥の席の二人に意識を向けないよう、恵はタイムリーな話題を振る。


「もし静香ちゃんが良かったら、私達と一緒に回れないかなーって思ってたんだけど」
「静香お姉ちゃんも、由利たちと行こうよ!」
「あ……えっと」


期待100%の笑顔に、歯切れ悪く言いよどむ静香。


「ごめんなさい。私、その日はちょっと……」
「あら、もう予定入ってたかな」
「や、あの、予定っていうか……」


静香の目線が、恵の背後へと動いた。
目ざとくそれに気付いた恵は、振り返って静香の視線の先を追う。


行き着いた先は、自分もよく知る茶髪の青年――紅奏夜。


「……あぁ」


ニヤニヤと、楽しいおもちゃでも見つけたような笑みを浮かべる恵。
片や静香は、顔を耳まで紅潮させていた。


「? 静香おねえちゃん、顔まっかだよ?」
「だ、大丈夫よ由利ちゃん。にゃんでもないから」


動揺からか、見事に言葉を噛んでいた。
恵は口に手を当て、笑いを堪えている。


「そっかそっか。静香ちゃんもよーやく、そういうアクションが取れるようになったかー」
「茶化さないでくださいよ……。私にとって、今回はかなり冒険だったんですから」
「あはは。ごめんごめん。けど、まだ安心しちゃダメよ」


恵は静香ちゃんの前で、人差し指をビシッと立てる。
自分と名護のことを思い出し、世話を焼きたくなってしまったようだ。


「奏夜くん、他人のことに目が行きがちで、自分のことが疎か気味だから、かなりはっきりした好意を見せてあげなきゃ、静香ちゃんの気持ちには気付かないわ」


静香は頷く。
それは常日頃から思っていることだ。


「だからさっさと押し倒しちゃえ♪」
「っ!? いいい、いきなり何言ってるんですか!」


奏夜に聞かれないかと様子を見るが、幸いにもシチュー道を語るのに忙しい彼には届かなかった。


「いいじゃない。なんかもう色々と捧げちゃいなさいな」
「何をですかっ!? 突飛な話しないでください! 大体、私と奏夜はまだそういう関係じゃないですっ!!」
「ふ~ん?」


まだ、か。


(そういうことしたい願望が無いわけじゃないのね♪)


これをネタにしようかと思うも、顔を赤く染め、若干涙目になりつつある静香をこれ以上いじめるのは、さすがに可哀想だった。
その思考を飲み込み、恵の静香いじりはひとまず終息する。


「――でも、静香ちゃん。これだけは覚えておきなさい」


さっきのからかい口調から一転、恵は真剣なトーンと共に唇を動かす。




「あなたが奏夜くんに向ける感情は、必ず彼を苦しめる」




貴女が報われるか報われないかに関わらず、ね。と恵。


「……」


静香は閉口し、恵の話を聞く。


「それに、もしすべてが上手くいったとしても――」
「わかってます」


自分がどれだけ、身勝手なことをしているのかは、とうに理解していた。 ――奏夜が、“その感情”のせいでどれだけ傷付いたのかは、まだ記憶に新しい。


(私が想いを伝えたら、きっと奏夜は“その感情”を思い出してしまう)


それはあまりに醜悪で、残酷こと。だが、それだけではない。


恵の言う通り、静香の想いが実るということは――





奏夜の中から、“あの人”を消し去るという意味だ。





奏夜はいつも前を向いて生きている。
“あの人”との約束だから――と奏夜は言っていた。 だが時たま、奏夜はとても辛そうに、顔を曇らせる時がある。
その時、静香は気付いた。


――奏夜は心のどこかで、まだ“あの人”のことを、自分のせいだと思っている。


幸せになってはいけないと、自らを縛り付けている。
心の暗闇を見据える奏夜に、自分の想いを伝えればどうなるか――それは容易に想像できる。


「……わかってますよ、恵さん。私は本当に自分勝手で、酷いやつです」


それが当然、と言わんばかりに、静香は言葉を紡ぐ。


――私は奏夜がたまに見せる、悲しい顔が凄くキライだった。
だから、暗闇なんて抱え込まなくてもいいから、奏夜に心から笑って欲しかった。
ずっとずっと、そう思い続けて、いつの間にか彼は、自分の一番身近にいる男性になっていた。


『静香、大丈夫か?』


四年前、そう言って私を背負ってくれた彼の背中は、とても大きくて、頼もしかった。


――それは、自分の想いを認識するには十分過ぎる出来事で。


「でも私、諦められないんです」


“あの人”の影がどれだけ強敵であっても。
この選択が不幸しか呼ばなくても。


それに負けないくらい、奏夜を幸せにしたい。


「そのためなら、奏夜を幸せにするためなら、どんな茨道でも歩いていきます」


だって、私は。




「奏夜が好きですから」




迷いのない表情の静香を見て、恵は「……そっか」と呟く。
本当にこの子は――奏夜くんにはもったいない。


「だったら私からは何も言わないわ。友達として、静香ちゃんを全力で応援してるわよ!」
「はい!」


強く頷き合う二人。間に挟まれた形の由利は、ただきょとんとしていた。


片や、恵と静香がそろそろ仲直りしたかな、と思い、奏夜と名護の方を見てみると、どれだけ暴れたのか、二人とも仰向けで床に倒れていた。


「っはぁ、はぁ、どうやら、勝負はドローのようですね……」
「その、ようだな……。ライス派とパン派、どちらが正解か、答えを出すのはまだ先のようだ……。その日まで、勝負は預けよう」
「はい、きっと今度は、俺が勝ちますよ……」


何故か『いがみ合っていた味方同士が、拳と拳で語り合い、互いの実力を認め合った』みたいな空気が漂っていた。
しかも奏夜のセリフが、某沢木さんのようになっている。


……いまだかつて、ここまで無意味な割に激しいバトルがあっただろうか。
そのおかげで、恵と静香の会話が、奏夜に聞こえなかったのだから、複雑な話だ。


取り敢えず、言えるのは一つ。


『二人とも、食事の時はなるべく静かに』
『……………すんません』


女性二人の低い声に、身の危機を感じた男二人は、即座に詫びを入れた。
確かに、テンションが上がりすぎていたのを自覚し、そのまま何事もなく、夕食は終了。


各々談笑に戻る中、店のドアの鈴が鳴った。入ってきた人物を見て、マスターが手を上げる。


「お疲れ様、嶋ちゃん」
「やあマスター。お、奏夜くんと静香くんも一緒か」
「ちわっす」
「お邪魔してます、嶋さん」


二人が頭を下げる傍ら、嶋は何やら、長方形の箱をテーブルの上に置いた。


「あ! 嶋さん、出来上がったんですか?」
「ああ。ギリギリだったが、何とか間に合った。出来る限り、恵くん達の要望に答えたつもりだと自負している」
「ありがとうございます、嶋さん。わざわざ時間をかけさせてしまったようで……」
「気にするな、名護くん。君達のためなら、いくらでも時間を割かせてもらうよ」


礼を言う名護夫妻に、嶋は疲れなど微塵も見せず、むしろ達成感に満ちた顔をしていた。


「嶋おじちゃん、これなぁに?」
「見たとこ、そんなに大きいものじゃないっすよね」
「このサイズだと、服とかですか?」
「静香くん、少し正解」


おどけた口調で、嶋は箱の蓋を外し、中にあったものを由利に手渡す。


「はい由利ちゃん、お父さんとお母さんからのプレゼントだ」
「わぁ!」


箱の中身は、子供サイズの浴衣だった。


ピンクの布地に、黄色い花がよく映えた可愛いらしいデザインだ。
由利が瞳をキラキラさせながら、嶋から浴衣を受け取る。


「へぇ。可愛い浴衣ですね。名護さんと恵さんが頼んだんですか?」
「まあねー。由利も大きくなってきたし、そろそろお洒落してみるのもいいかなって」
「デザインは私と恵で決めてみたんだが、どうだ由利、気に入ってくれたか?」
「うん! ありがとう! おとうさん、おかあさん!」


由利は本当に嬉しそうに、愛情の詰まった宝物を抱え込みながら、華のように笑う。
無邪気な笑顔に、店内がほんわかした雰囲気に包まれた。


「あ、そうそう」


名護ファミリーが浴衣の話題で盛り上がる中、嶋が奏夜へ向き直る。


「奏夜くん、キミに言伝がある」
「? 俺に?」
「ああ、さっき連絡があってな。太牙がこっちに帰って来ているらしい」
「兄さんが!?」


先程の由利のように、目を輝かせる奏夜。


「今日ってことは、もう御崎市にいるんですよね!」
「ああ、だが昼間に少し用事があったらしくてな。今日はどこかのホテルにでも止まって、明日会いに行くと言っていたよ」
「明日か……。じゃあどうせなら、ミサゴ祭りを一緒に回れるようにすれば……」
「えっ」


隣にいた静香が、小さく声を漏らす。
恵が「あちゃー」と額に手を当てる。


「? 恵、どうした?」
「名護くん、ちょっと……」


首を傾げる名護に、恵が耳打ちする。
その間、二人の視線は奏夜と静香に向いていた。


やがて名護が「……なるほど」と呟き、


「奏夜くん、太牙には私達と合流するように言っておくよ」
「へっ?」
「実はミサゴ祭りが終わった後、『マル・ダムール』の前で、花火をやろうかと思っていてね。太牙となら、そこででも会えるだろう」
「は、はぁ、わかりました」


――何だろう、名護さんと恵さんから有無を言わせないオーラが……。


無言の圧力に畏縮する奏夜。
隣で静香が口パクで「ありがとうございます」と伝え、「気にしないで(するな)」と名護と恵もまた、口パクで返事をした。
奏夜の鈍感さ加減には慣れているのか、名護と恵も、これくらいの気遣いは手慣れたものである。


無論、そんな気遣いなど知るよしもない奏夜は、祭りへの期待を胸に、拳を高く上げる。


「じゃ、明日はみんな楽しく盛り上がろう!」
『おー!』


なんだかんだで、キバの周りは今日も平和だった。


――そう、“今日”は。




◆◆◆


時間は少々巻き戻り、夕方。
ビルでの調律を終えたカムシン、吉田、太牙の三人の姿は、夕方で込み合う大通り沿いの道にあった。


「では明日の夜八時、西側堤防の大石段で待ち合わせ、ということで」
「か、勝手を言って、すいません」
「ああ、構いませんよ。ただ、私としては」


カムシンは自分が貸し与え、今は吉田の手が握っている、片眼鏡のような宝具『ジェタトゥーラ』に目を落とし、


「それを使うのは、止めた方がいいと思います」
「……」
「ありきたりな言い回しをするのなら、『知らない方が幸せなこと』もありますからね」
「うむ。我々は助言したぞ? 使わぬ方が良い、と。だからあとは、おじょうちゃんが『良かれ』と思う方を選ぶんじゃ」
「……はい」


カムシンとベヘモットの言葉を重く受け止め、吉田は頷いた。


「ああ、ではまた後ほど。キングも、助力感謝致します」
「別に大したことはしちゃいない。……調律の件については、こちらも礼を言っておくよ。『儀装の駆り手』」


未だ刺々しい太牙の返事を最後に会話は途切れ、カムシンは街の雑踏へと消えていった。


手持ち無沙汰なまま、吉田と太牙はフラフラと大通りを歩く。その間吉田は、ずっと片眼鏡『ジェタトゥーラ』を見つめていた。


「一美ちゃん」


見るに絶えず、太牙は口を開く。


「迷うくらいなら、僕もそれは使うべきではないと思う」
「……」
「その――悠二くんと言ったか。その子が喰われたかどうか確かめたところで、やはりキミにはどうにも出来ない。キミのみならず、誰にもね」


酷なことを言うようだが、こうでもしないと、吉田は迷ったままだろう。


「……分かってます」


ぎゅっ、と両手で片眼鏡を握り締める。


「分かってます、けど」


やはり、簡単に結論は出せない。


(どうしたら、いいんだろう)


その思考だけが、吉田の中で蓄音機のように再生され続けていた。


――調律における、吉田の手伝い自体は、すぐ終わった。
カムシンのマーキングを中継点に、この街の存在の力の流れを、吉田が感じ取れるようにリンクさせる。
街本来の姿を知る彼女が、歪みによってズレた場所を、存在の力の流れから見つけ出していく。要するに、間違い探しのようなものだ。


あとは、修正ポイントを把握したカムシンが、調律によって歪みを正すというだけ。
問題はその後だ。


――カムシンとの会話の中から、吉田はある可能性に行き着いた。行き着いてしまった。
何故気が付かなかった、と思うようなレベルの話。
だがそれは、吉田の心に恐慌をもたらすには十分だった。


かつて、この街にいたという人喰い。
大量に生み出された、力の残り滓『トーチ』。




――その中にもし、自分の知り合いがいたのなら。




坂井くんが、いたら。




吉田は、カムシンにそれを打ち明けた。
だが返ってきたのは、『それは、どうしようもありません』という至極当然で、残酷な答え。
どちらにせよ、ただの人間である吉田には、仮に坂井悠二が消滅しても、その違和感を感じ取れない。認識出来ても、そこにあるのは悲しい別れ。


勿論、無事な可能性も十分にあるが、確実とは言えない。
その“もし”という考えが拭いきれなかったのだ。


葛藤する吉田を見て、カムシンは何を思ったのか、彼が彼女に貸していた、人間をトーチかどうか見分ける宝具『ジェタトゥーラ』を、もう1日預けると言ってきた。


『それを使うかどうか、おじょうちゃんが、自分で選ぶのです。無事だという十分な可能性に賭け、それを使わず、今までと同じように暮らしてゆくか……それとも、リスクしかない真実を欲してそれを使い、安心を得るか……それとも、結局は忘れてしまう、その場だけの懊悩を得るか』


あくまでも、選択を吉田に任せる形で、カムシンは『ジェタトゥーラ』を渡したのである。


「『良かれ』と思う方を選びなさい」


カムシンの言葉が、脳内で幾度も反芻される。


(……坂井くんとの、『良かれ』と思える選択……)


カムシンの与えたきっかけをトリガーに、吉田はある決意を固めつつあった。


確かめるか否かの結論はまだ出せないが、代わりに自分が真に望んでいたものを、得ることが出来た。


強い想い。 『良かれ』と決めた選択。


――明日のミサゴ祭りで、絶対に。


「……」


太牙は、不安そうにしながらも、芯の通った決意をした少女を複雑そうに見ていた。


話を少し聞く限りでもわかる。その坂井くんという子は、この子にとって、どういう存在なのか。


(奏夜は、この子にどんな風に言葉をかけたんだろうな)


きっと、必要以上に親身になっていただろう。
“あの人”のようには、なって欲しくなかっただろうから。


(……いけない。どうも考えが後ろ向きになる)


太牙が髪を軽く引っ掻いたところで、大通りが四つ辻に別れる。


「じゃあ、一美ちゃん。僕はこの辺りで失礼するよ」
「えっ?」


唐突な別れに声を挙げるが、よくよく考えれば、太牙は自分が付き合わせたようなものだ。
時間的にはむしろ、振り回し過ぎてしまっている。


「その、ごめんなさい。散々付き合わせて、大したことも出来なくて……」
「いいさ。弟の生徒さんと話すのは初めてだったからね。僕も楽しかったよ」


カムシンと違い、会おうと思えばいつでも会えるのだ。


(……そう言えば)


吉田はもう一つ、引っかかりを覚える。


(太牙さんがファンガイアなら、先生は――)


異父兄弟とは、言っていたけれど。
吉田は太牙に聞こうとしたが、すぐに止めた。


(太牙さんがこんなにいい人なんだもの)


だったら、先生は、あの鳥のファンガイアみたいに、誰かを傷付けたりしない。


トーチの時と違い、吉田は恐れずに受け入れることが出来た。 ファンガイアである太牙が自分を守ってくれた、というのが大きかったのだろう。


「それと一美ちゃん、最後に一つだけ」


去り際、太牙は言い残す。


「もし誰かを好きになったなら、悔いは残さないようにね。何があっても、最後までその人を好きでいるんだ」


吉田は目を瞬かせ、小さく笑う。


「太牙さんは、やっぱり先生のお兄さんなんですね」
「えっ?」
「さっきの言葉、先生も言ってましたから」
「……そっか」


可笑しさからか、つい太牙も、口元を緩めてしまう。


「じゃあまたね。一美ちゃん」
「はい。サガークくんもまたね」
『◆〆〇*!』


太牙のバックから、僅かにサガークの声が聞こえてきた。


多分『マタネ』と言ってくれているのだろう。
また会いたい、ということを心に留め、二人は別々の道へと歩き去っていった。




――次の邂逅が、二人にとって、思いもよらない状況下になるとも知らずに。


◆◆◆


どことも知れない空間。


「しかぁーし、あぁの街は本当に興味深いでぇーすねぇ」


背骨に針金が入ったかのような細身の体格に、白衣を纏う男“教授”が、手を淀みなく動かし続けながら言う。


「えーっと、例のファンガイアがどうとかってヤツですよね。けど教授、前にドラグだかゼブとかいうヤツを引っ張りこんで、ファンガイアについては粗方理解しははひはいひはい」


ガスタンクのように真ん丸なボディを持つ“燐子”が、ガシャンガシャンと、機械らしい擬音を響かせながら言う。
ちなみに後半のセリフは、教授のマジックハンドにより、頬を抓られた為に出た声である。


「ドォーミノォー、分かぁーり切ったことを言うーんじゃありません。わぁーたしが興味深ぁーいと言ったのは、ファーンガイア云々とは似ぃーて非なるものです」
「ふぁ、じゃあ、なにが気になっとひはいひはい」


抓る力が更に上がる。


「がぁーくがありませんねぇ。
フレェーイムヘイズの連中に加え、ファーンガイアの連中が集まる街にぃー、おあぁーつらえ向きの“歪み”。 こぉーんな偶然が、はぁーたしてただの偶然と呼べるのかぁーという話でぇすよ!」


今がまさに至福の一時。


教授の特徴的なしゃべり方からは、飽くなき探求心が伺い知れた。



「こぉーたびの実験は、ひょぉっとしたら本来の目的以ぃー上の結果がでぇーるかも知れませんねぇ! 嗚呼、すぅばらしい! 真理の探求はやはり、なにものにも勝る、ェエーキサイティングでェエークセレントなものですねぇ!」


教授と燐子の背後で輝く自在法が、教授の意志に呼応するかのように蠢き続けていた。


  1. 2012/04/03(火) 21:51:55|
  2. 仮面ライダーキバ/BLAZING.BLOOD
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第十六話・Roots.of.the.King/裁きの蛇.後篇

「先生にお兄さんがいたなんて知りませんでした」
「仕事の都合で外国にいてね。あいつも話す機会が無かったんだろう」


期せずして、奏夜の兄を名乗る青年、登太牙と出会った吉田一美。
最初は吉田も半信半疑だったが、嘘を言う理由も分からなかったし、彼の語る奏夜の人間像はあまりに忠実だった。


――何より、あの奏夜そっくりの笑顔は、なかなか出せるものじゃない。
強いて、疑う余地があるとすれば――、


「でも、太牙さんと先生、苗字が違いますよね」
「異父兄弟でね。小さい頃から互いを知ってはいたんだが、四年くらい前まで兄弟だとは知らなかったんだ」
「あ……」


複雑な事情が想像出来る話に、吉田は聞いたことを後悔する。


「ごめんなさい……。余計なことを」
「いや、気にしないでくれ。僕もあいつも気にしちゃいないから」


吉田の不安を感じ取った太牙がそう言い、ひとまず重い空気は収束する。


「奏夜は元気にしているかい?」
「はい。最近少し落ち込んでたこともありましたけど、今は元気過ぎるくらいですから」
「そうか……いや、元気ならそれでいいんだ。一美ちゃんも苦労するだろう、普段のあいつは元気を通り越して破天荒だからな」
「い、いえ、そんな。いつもお世話になりっ放しです」
「からかわれながら、だろう?」
「……」


否定出来なかった。
その反応は当然だとでも言うように、太牙は苦笑いする。


「奏夜の考えは、理解しづらいと思う。でも一美ちゃん、あいつを嫌わないでやってくれ。ああ見えて、結構寂しがりなヤツだからさ」


太牙の紡ぐ一言一言からは、兄弟としての優しさが伺えた。


(……本当に、お兄さんなんだ)


吉田は今までのやり取りで、段々と太牙の人格を察しつつあった。




――優しいのだ。奏夜と同じく。




「……嫌ったりなんかしませんよ、太牙さん」
「?」
「私、先生が担任でいてくれて良かったと思ってますから」


世辞でも何でもなく、紛れもない本心から、吉田は答える。


先生はいつも、教室を明るくしてくれた。
困っている時、いつも相談に乗ってくれて、滅茶苦茶なやり方ながら、いつも悩み事を解決してくれた。
言ったこと全てを現実にするような、底が知れない人。


「あんな凄い先生を、嫌いになれるわけがないですよ」


太牙はしばらく無言だったが、段々とその目は喜びに彩られていく。


「――ありがとう、一美ちゃん。 安心したよ。あいつをちゃんと理解してくれる生徒さんがいて」
「私だけじゃないですよ。私達のクラスで先生を嫌いな人なんていませんから」


これも本心。というより単純な事実。
彼の奇行に呆れの視線を向ける人はたくさんいるが……それはともかく、彼は何だかんだで好かれてるのだ。


――それからもしばらく、太牙と吉田は他愛ない話に興じていた。
太牙がとても話し易い人物だった、というのもあっただろう。


その心地よい時間が途切れたのは、二人の目の前に音もなく、カムシンが現れた時だった。


「お嬢ちゃん」
「あ、カムシンくん……」
「遅れてすみません。少々、マーキングの位置特定に手間取ってしまいまして」


起伏のない口調で、カムシンは唇を動かす。


「待たせてしまいましたか?」
「う、ううん、私が早く来すぎてたから」


そもそも、吉田が来たのは約束の30分以上前だ。
約束の時間自体には、カムシンはそれほど遅れてはいない。


「ああしかし、私の方に非があるのは確かなので、謝罪はさせてもらいます。本来ならもう少し早く済むのですが、何分この街は複雑な作りで……おや? こちらの方は?」


そこでようやく、カムシンは太牙の存在に気付いたらしかった。


「あ、この人は……」


太牙を紹介しようとした吉田は、突然口を閉ざした。


「……お前」


太牙の声は、吉田を怯えさせるには十分なものだった。
さっきまでの柔らかな物腰は息を潜め、張り詰めた糸のような警戒心を、目の前にいる少年、カムシンに向けている。


「……お前が嶋さんの言っていたフレイムヘイズだな」


思わぬ指摘に、さすがのカムシンも目を見開く。
周囲の雑踏など気にも止めず、カムシンと太牙は視線を交差させた。
やがて「ああ、なるほど」とカムシンが呟き、


「あなたが現代の“キング”ですか」
「ああ、チェックメイトフォーが一人、キング継承者、登太牙だ」
「御会い出来て光栄です。ファンガイアの王よ。フレイムヘイズ“儀装の駆り手”カムシンと申します」


恭しく礼をするカムシンに続き、


「御初にお目にかかる。同じく、紅世の王“不抜の尖嶺”ベヘモットじゃ」


カムシンの飾り紐から、ベヘモットの声が響く。
一連のやり取りに、驚いたのは吉田だ。


(えっ、あれ? 二人って知り合いなの? それにキングって……?)


戸惑う吉田が入る隙を与えず、話は進む。


「ああ、手間が省けました。下準備の折、キングがこの街を管理していると聞きまして、近々挨拶に伺おうと思っていたところだったのです」
「僕を知っているのか」
「現代のキングは名君と名高いからのぅ。我々も聞き及んでおったのじゃよ」


身長差倍以上の男性二人、という奇妙な絵面の会話は、外観とは裏腹に、重い緊張感が漂っていた。


「お手数をかけますが、ご同行願えませんか? 積もる話もありますし、あなたもこの街の状況を知りたいでしょう」
「ああ、いいだろう。――出来れば何も知らない女の子を連れている理由も、教えて貰えるとありがたいな」


頷く太牙の瞳に一瞬、蛇のような獰猛さが走った。


◆◆◆


「……新手のテロかこりゃ」


坂井家を訪れた奏夜は、鼻をつく臭いに顔をしかめた。


「あら、奏夜先生!」


台所に立つ悠二の母、坂井千草の出迎えに、奏夜は軽く頭を下げる。


「勝手にお邪魔してすみません。一応インターホンは押したのですが、灯りが見えたもので。あ、これ、この前お茶に招待して下さった時の御礼です。よかったら召し上がってください」
「まぁまぁ、すみません。お気遣いをさせてしまったようで」
「いえ、お気になさらず。俺としても、あのお茶会は楽しかったですから。……それで、この惨状は一体」
「ええ、ちょっとシャナちゃんが……」


苦笑する千草の傍らには、この焦げ臭い臭いの原因を作り出したと推察される少女、シャナが立っていた。
かなり不機嫌そうに、黒こげの物体Xをへばり付かせたフライパンを睨みつけながら。


「一応確認しますけど……料理、ですよね?」
「はい。シャナちゃんがどうしても、悠ちゃんに作ってあげたいとのことで」


恐らく、吉田がいつも悠二に弁当を作っているのを見ての思い付きだろうが……。


(シャナも随分、積極的になったもんだ)


声に出さず、奏夜は感心する。


「ちなみに、今日のメニューは?」
「野菜の炒めものです」
「………」


簡単な炒めものでこの有り様か。


「――千草さん。台所をお借りしてもよろしいでしょうか」
「えっ? はい、構いませんが……」


千草の了承を受け、奏夜は軽く手洗いをし、別のフライパンを用意する。


「奏夜?」
「シャナ、料理全てに共通するコツを伝授してやろう」


シャナを居間に下がらせ、奏夜はてきぱきと準備を始めた。
一人暮らしなだけあって、経験も豊富な奏夜は淀みない動きでフライパンや食材を操っていく。
食卓に待機するシャナと千草は、料理人の姿を黙って見守るしかなかった。


「お待ちどう様」


フライパンの熱が奏でる音が止み、完成品の乗った皿が運ばれてくる。


「……オムライス?」


出された料理は、何の変哲もない、ただのオムライスだった。
上手には出来ているが、なんら特別な様子は見受けられない。
本当にコツなんて使ったのだろうか?


訝しげに、シャナはスプーンを口に運んだ。


「………!!」


舌に衝撃が走った。


「美味しい……」


思わず声を漏らす。
美味。その一言以外で表現出来ないような一品。
少し味見させてもらった千草でさえも、先ほどのシャナの感想を繰り返すばかりだった。


作り手である奏夜は満足気に笑いながら、


「美味いだろー。コツを掴めば、お前もすぐ作れるようになるぞ」


シャナにとっては、これ以上ない救いの言葉だった。


「教えて! どうしたら奏夜みたいに出来るの?」


身を乗り出すシャナに、奏夜は特に隠し立てもせず答える。


「このオムライスの作り方な。俺の母さんが教えてくれたんだが、ポイントは隠し味だ」


もっとも、真夜は音也に教わったらしいのだが。
しかし音也も真夜も、恋する女の子になら、教えるのを許してくれるだろう。



「隠し味に、食べてもらう人への愛情を込めるんだとさ」
「あいじょう?」
「そ。愛情。お前は、誰に料理を作ってあげたいんだ?」


奏夜の意地悪に、シャナは「うっ」と言葉を詰まらせ、顔を逸らす。


「……さっき千草から聞いたでしょ」
「俺はお前の口から聞きたい。ほらほら、素直に言っちゃえ」
「……………………悠二に」


気恥ずかしそうに呟くシャナ。
微笑ましい限りだ。


「俺が言った愛情ってのは、正確に言うと『お前の作った料理を、悠二に食べて貰いたい』っていう想いのことだよ。その想いがさえあれば、技術なんて後からいくらでもついてくる」


食べさせる相手である奏夜への愛情があったからこそ、真夜 の料理はいつも美味しかった。
今も、奏夜はシャナへ“料理に込める愛情”を伝えたかったからこそ、美味く作ることができたのだ。


「お前は飲み込みは早い方だから、すぐ上手になるよ。俺も協力するからさ、相手への想いを忘れずに頑張れ」


ずっと話を聞いていたシャナは、嬉しさがこみ上げてくるのを感じた。
千草やアラストールとは、違う意味で尊敬する人からの励ましに、自然と笑みを浮かべることができた。


「――うんっ、頑張る!」
「よし!」


この頑張る姿が見られただけでも、このコツを教えた甲斐があった。
着替えのため、居間を出て行くシャナの後ろ姿を見ながら、千草は言う。


「ふふっ、やっぱり奏夜先生は、立派な教育者ですね」
「買いかぶりですよ。千草さんには遠く及びません」


成長する少女の行く末を思い、二人の保護者は笑みを交わし合った。


◆◆◆


「この世には、そこに在るための根元の力……“存在の力”というものがあります。
この街に、その“存在の力”を奪う、人喰いが潜入しました」
「……えっと、ゲームか、なにかのお話?」


カムシンの歩きながらの説明に、吉田は至極当然の反応を示す。


カムシン側も、すぐ納得してもらえるとは思っていない。
絵空事と捉えられても仕方ないことだ。


「いや、心配せずともよいのです。もう私の同志がやっつけました」
「殺人鬼とか、そういう怖い人が来たってこと?」
「……そうだったら、まだ可愛い方だな」


隣を歩く太牙がぽつりと呟く。
カムシンも同意見だが、口には出さない。


「人ではありませんが……ともかく、その人喰いは、自分が人を喰ったのを気付かれないよう、ある細工をしていました。 トーチという仕掛けです」


カムシンがトーチの仕組みを簡単に教えると、吉田は「……怖い話」という、未だ目の前にいる少年の話を、空想と信じているが故の感想を述べる。


信じてはいなくとも、話は聞いてくれている、いい傾向だ。


「私は主に、その後始末を生業としています。人と人、互いに影響し合うはずだった本来の調和の欠如……そこには不自然な歪みができ、規模が大きいと、ひどい災いが起こる可能性も出ます」
「随分と曖昧な表現だな。ひどい災いとは」
「今まで調律が失敗したことは滅多にありませんからね。 記録としてはその前段階……予兆までしか起こっていませんから、詳しいことまでは何とも」
「だが確実に“よくないこと”は起こる、か」
「……?」


顎に手を当て、考え込む太牙を見た吉田は、不自然さを覚える。


あまりに、積極的過ぎるのだ。
ばかなことをしている自覚がある自分はともかく、何故太牙がここまで、この少年の話に付き合っているのだろうか?


「だから私は、災いが起きぬよう、その歪みを修正し、調整するために世界を巡り歩いているのです」


太牙のことを考える間もなく、吉田の思考はカムシンの言葉で遮られた。
慌てて意識を、会話に戻す。


「カムシン君? あの……」
「うむ、訊けることなら、訊いておくのがよい。話しておくれ」


どこからともなく聞こえるベヘモットの声に驚きつつ、吉田は口を開く。


「え、と、カムシン君たちのお仕事がそうだとしたら、この街はもう、人喰いにたくさん食べられた後ってこと? 気付かないだけで、もういっぱい人が死んで、そのトーチだらけになってて……それって大変なこと、だよね?」


正鵠を射た内容に、カムシンは立ち止まり、感嘆の声を上げる。


「ふーむ、おじょうちゃん、あなたは、なかなか……」


今までの話の中から、これだけのことを理解してくれれば、、もういいだろう。


「百聞は一見にしかず、と言うでしょう」


そう判断したカムシンは、左手を手品師か何かのような仕草で、軽く胸元で振る。
金属が擦り合う音が鳴り、カムシンは左手を開いた。
そこにあったのは、鼻にはめるためのブリッジとパッドが付いた小さなガラス板。


「最近は、これの元となった道具もとんと見ませんが……知っていますか?」
「僕はまだ、“見たまま”の年齢なのでね。だが、どういうものかは知っている」
「……眼鏡?」
「ああ、その通りです。片眼鏡(モノクル)というんですが……これで周りを御覧なさい」


――あるいはここで、吉田の側にいた人間が奏夜だったのなら、まだ話は違ったのかも知れない。


(一美ちゃんに何を見せようとしているんだ?)


不幸にも太牙は、奏夜と違って“紅世”の存在との経験が浅すぎた。


(……いや、待てよ…?)


だから――気づくのが遅れてしまった。


(片眼鏡、周囲には人間、街はトーチだらけ、映す、見せる、ただの人間に……!)


今の状況から得られる情報を繋ぎ合わせる。


(まさか――!?)


太牙もようやく理解する。
カムシンが、吉田に何を見せようとしているのか。
片眼鏡が、何を映し出す『宝具』なのか。


「ダメだ、一美ちゃん!」


僕の――“僕達のいる世界”を見てはいけない!
太牙が片眼鏡を奪おうとするが、彼の手は届かなかった。


それよりも早く、吉田は片眼鏡から“見てしまった”。


「――っ!?」


トーチを映す力を持つ法具から、本当のことを――太牙や奏夜、シャナや悠二が立つ世界を。


◆◆◆


紅邸に響くバイオリンの音色――と聞けば、演奏者は紅奏夜と思われるかも知れないが、今回は違う。


「――うん、合格。静香も上手くなってきたな」
「奏夜が言うと嫌みにしか聞こえないよ」


バイオリンをテーブルに置く静香が苦笑混じりに言う。


静香が紅邸に来ているのは、何も生活破綻者の奏夜を気遣っているだけではない。
彼から、バイオリンの技術を学ぶためでもある。
普段何かと静香に頭が上がらない奏夜も、この時ばかりは立場が上だ。


「まぁ、嫌みに聞こえようが聞こえまいが、本当に静香は上手になってきてるよ。 なぁキバット」


バイオリン型の巣箱から、キバットが飛んでくる。


「うむうむ、俺様も大満足の演奏だぜ。……なぁ静香、そろそろ本格的に下克上を……」
「待ちなさいキバット。それはまだ早計だわ。相手の実力は計り知れないし、技術を奪うだけ奪ってから……」
「俺の知らないところで、教え子と親友の間に不穏な動きが!?」


そんなやり取りにキバットと静香が笑い、つられて奏夜も相好を崩す。


――四年前からのメンバー内では、この三人が一番付き合いが長い。
奏夜も静香もキバットも、こんな風に冗談を言い合える仲を気に入っている、


(ありがたいよな)


こうして一緒にいるだけで、“日常”を感じることが出来る。
自分が戦うだけの価値が、ここには沢山詰まっている。
そのことに感謝しながら、奏夜は言う。


「よし、じゃあ今日の練習はここまで。お疲れ様でした」
『お疲れ様でしたー』


三人が一礼し、練習が終わりを迎える。


「静香はこの後どうする? もし夕飯食べていくなら、親御さんに連絡は入れとけよ。帰りは俺が送ってってやるから」
「うん、わかってる。………ねぇ、奏夜」
「ん?」


夕飯の支度のため、一階に降りようとした奏夜が振り返る。


「どうした?」
「あ、あの……えっとね」


歯切れが悪そうに俯く静香。
何事もはっきり口にする彼女にしては珍しい仕草だ。


「そ、奏夜は明日って……誰かと一緒に行くの?」
「明日? ……ああ、ミサゴ祭りのことか。いや、別に誰と行く予定も無いぞ。見回りもサボる気満々だし」
「あ……そう、なんだ」


静香は何処か安堵したように、肩の力を抜いた。


(……今の話に安心するポイントがあったか?)


奏夜にはわからなかった。


「じゃ、じゃあ、さ。もし、奏夜が良かったら、私と一緒に行かない?」
「えっ?」


奏夜は目を丸くする。


てっきり静香は、大学の友達と一緒に回るとばかり思っていたからだ。
静香はというと、顔を耳まで赤くしていたが、その様子は二階の薄暗さに隠れ、奏夜には見えなかった。


「――静香、がんばれ」


夜目が利くため、静香の状態を見ることができたキバットは、小さく親友の女の子を激励する。


「……ダメ、かな?」


答えが無いことを不安に思ったようだ。
今にも泣きそうな静香の表情に、奏夜は慌てて言う。


「い、いや、ダメじゃないぞ。わかった。一緒に行こうぜ」
「ほ、本当?」
「ここで嘘ついてどうすんだよ」


奏夜の答えに、静香の表情がぱあっと明るくなる。


「やった!」
「やった?」
「あ……ううん、何でもない! じゃあ明日の5時くらいに、この家の前で待ち合わせね! 奏夜も忘れちゃだめだよ!」


矢継ぎ早に約束を取り付け、静香は親への連絡のためか、奏夜の脇をすり抜けていった。


「何だってんだ、静香のやつ……?」


一緒に祭りに行くくらいで、今更あそこまで喜ぶなんて。


「やれやれ、お前も罪な男だよなぁ」


怪訝そうに頭を掻く奏夜に、キバットがニヤニヤ笑いを浮かべる。


「罪? 何がだよ」
「何がってお前、あんな可愛い女の子と二人でデートだぜ。いや~ニクいねぇ」
「何がデートだよ。ただ静香が気ぃ使ってくれただけだろ。浮き足立ち過ぎだっつの」
「……」


キバットは、親友のてんで見当違いな発言に、怒りを通り越した哀れみの目線を送る。


「お前は一度、秘密組織にでも誘拐されて、脳改造を受けるべきだ」
「俺そこまで言われるようなことしましたか!?」


奏夜は目を剥くが、キバットはかなり本気だった。


――静香のためにも、こいつは自分の鈍感さ加減を直すべきだろう。




◆◆◆


「――っしゃ!!」


真南川の土手。
柔らかい地面目掛け、カムシンは担いでいた布巻き棒を突き込む。
派手な音と共に、先端の形――円形の穴が空いた。


「さて、これで昨日からつけておいたものと合わせて、何とかなるでしょう」
「……」
「本当に手伝ってもらうのは、これからですが……よいですか、おじょうちゃん」


カムシンの言葉は、吉田にとって虚ろにしか響かなかった。


(私、本当の、馬鹿だ)


愚かな決断をしてしまった、昨日の自分を悔いる。


(なんでこんなこと、引き受けてしまったの)


こんな恐ろしい存在と、関わるべきではなかったのだ。
自分が変わるきっかけになるかも知れない。
そんな――ふざけた理由で。


あまりに残酷な“本当のこと”を知り、俯く吉田を一瞥し、カムシンはあくまで、使命遂行の過程として口を開く。


「おじょうちゃんの精神の平衡を乱したことについては謝ります。
しかし我々への協力には、違和感を決定的に感じてもらう必要があったのです。
おじょうちゃんの賢さに油断して、少々先走ってしまったようです。すいません」
「ふうむ、儂からも、謝らせてもらおう」


飾り紐から、ベヘモットの声が聞こえる。


「じゃがな、我々の行いによって、これから人喰いがこの街を目指す確率を格段に減らすことができるんじゃ。我々を恨んでくれてもよい。おじょうちゃんにはその権利がある」
「しかし、協力はして欲しいのです。 他でもない、おじょうちゃんのためにも」
「……でも、あんな、あんな……」
「『偽装の駆り手』」


肩を震わせる吉田を庇うように、太牙が、彼女とカムシンの間に割り込む。


――太牙の表情にもはや柔らかさはなく、彼が放つ威圧感は空気を震わせ、眼光は蛇の如く研ぎ澄まされている。


「ああ、何かご不満がありますか、キング」


それでもカムシンは一瞬の揺らぎも見せず、太牙と対峙する。
キングの威圧と言えど、歴戦で培われた貫禄の前では意味をなさなかった。


「もし、巻き込んだことに関して不満があるのでしたら、それはどうにもならない。とだけ言わせてもらいます」
「ふうむ、もしおじょうちゃんが、今日の約束に来なかったのであれば、我々は違う人間を探しただろうからのう」
「ああ、そうだろうな」


今回はたまたま、選んだ相手が、弟の教え子だっただけ。
では見ず知らずの他人だったなら不満は無かったか、といえば、それもまた違う。
他人にも、それぞれの世界があり、人生がある。


そしてカムシン達は吉田と同じように、その誰かの世界を、容赦なく破壊するだろう。
もっと大勢の人々を救わなければならない、という大義の下に。


「……御崎市は、人間とファンガイアが共存するための架け橋。キングである僕は、ここを管理し、守らなければならない身だ。 だから、お前達の働きにはむしろ感謝しているし、一美ちゃんを巻き込んだことを、咎めることも出来ない」


自分は誓った。愛する人と弟に、立派なキングになると。
上に立つ人間が、私情に左右されるなど、あってはならない話だ。


「『大勢の命のため、一人の平穏を破壊する』。だが何も、その一人が死ぬわけでもない。お前達のしたことは全て正しいものだ。それくらい僕にも理解できるさ」
「ああ、なら――」
「だが」


カムシンが、次の調律の手順を教えようとした時、もう太牙は動いていた。





「“その行いを理解すること”と、“その行いを許すこと”は別の話だ」





太牙の左拳が、カムシンの頬に叩き込まれた。


骨と骨がぶつかる、気味の悪い音が土手に響く。
太牙の背後、吉田が「ひっ」と声を挙げた。


それはそうだろう。
見た目からすれば、大人が子供を殴り飛ばす凄惨な光景だ。


だが、太牙に躊躇いは無かった。
きっと、弟もこうしただろうから。


「……」


カムシンは、常人なら確実に骨が砕けていたであろう一撃にも仰け反らず、無表情のまま太牙を見つめ返す。


「ああ、さすがはキングですね」
「――避けられただろう」
「あなたの気が済むのなら、いくらでも。“そんなこと”に構っている暇はありませんから」


二人の間に再び、一触即発の雰囲気が漂う。


傍らで見守る吉田はもう、心の許容量の限界を超えかけていた。
張り詰めた糸のように、緊張仕切った状態。


――その膠着は、突然降り注いだ光弾により幕を引いた。


「!!」
「むっ」
「きゃっ!!」


幸いにもエネルギー弾は逸れ、硝煙を巻き上げる。


「一美ちゃん、大丈夫かい?」
「は、はい」


頷くも、突然のことに吉田の動悸は収まらなかった。


「ああ、どうやら、予期せぬ客のようですね」


カムシンは、光弾の飛んできた方向を睨む。


「ギギギ……見つけたぞぉ、キング……!!」


硝煙が晴れ、夕暮れは異形の姿を映し出す。


ステンドグラスの身体に、浅黒い体毛と翼。
平面で大きく湾曲した嘴。
カモノハシを思わせる怪物、プラティプスファンガイアが、不気味な鳴き声を挙げる。


「ギギギ……キングが戻ってきたとは聞いていたが、まさかここまで早く見つかるてはなぁ……」
(な、何? あの、お化け……?)


非日常の存在は、吉田は恐怖に陥れる。


(いや……いや! なんで、なんでこんなことばっかり……!!)


ショック続きの彼女に、もはや身体の震えを止める術はなかった。
目から涙が零れ、平穏が壊れたことを否応なしに自覚させられる。




どうして、どうしてこんなところにいなきゃ――、




「一美ちゃん」


暗い感情に支配されかけた吉田の手を、暖かさが包む。


「たい、が、さん……」
「大丈夫」


静かに、太牙は言葉を紡ぐ。
手袋を隔ても、太牙の手から伝わる熱は、吉田の心を光に照らしていく。


「すまない。キミが巻き込まれるのを、止められなくて」


心の底から申し訳なさそうに、太牙は頭を下げ、立ち上がる。


「……やはり僕は、奏夜のようにはいかないみたいだ」


呟かれた言葉は、誰に向けてのものだったのか。
それは太牙にも分からなかった。


「『偽装の駆り手』。一美ちゃんを頼む」
「ああ、手は貸さなくても?」
「愚問だ。それより、話はまだ終わっていないからな。覚悟しておけ」


突き放すように言い、太牙はプラティプスファンガイアに向かっていく。


「貴様がキングかぁ……ギギギ、人間とファンガイアとの共存を成し遂げた愚かな王……その座、俺が貰い受ける……!!」


欲望にギラつく目を、太牙は路傍の石を見るような目つきで睨み返す。


「キングへの反乱、それが意味することはわかっているな?」
「何を今更ァ! 貴様がキングの器でないことを証明してやる!」
「……そうか」


太牙はゆっくりと、左の手袋を外す。


「ならば、人間とファンガイアの共存を乱す者よ」


太牙の左手の甲と内側、一つずつ刻まれた刻印――チェックメイトフォーの証が、紅く輝いた。





「王の判決を言い渡す。……死だ」





太牙の顔にステンドグラスの模様が浮かび上がり、彼の背後に王冠を模した紋章が現れる。


紋章に記された称号は――【KING】。





「サガーク!」


太牙の呼び掛けに答え、土手に置かれた彼のバックから、白銀の影が飛び出した。


『〇◆∞∂!』
(円、盤?)


それが、その生き物に対する吉田の率直な感想だった。


円盤のような薄い身体を持ち、側面には小さな牙とつり上がった目。
太牙にしか理解できない言語――古代ファンガイア語で鳴きながら、人工ゴーレム『サガーク』は、太牙の腰に取り付き、『サガークベルト』に変わる。


待機音が鳴り、太牙は、右手に握られた縦笛の意匠を持つプロトタイプフエッスル『ジャコーダー』を構え、叫ぶ。





「変身!」





ベルトのスロットに、ジャコーダーをインサートし、一気に引き抜く。





『ヘン・シン』





サガークベルトが回転し、蒼い螺旋状のウェーブが太牙の身体全身に行き渡る。


目映いばかりの光は、やがてガラスになって弾け飛んだ。


キバの鎧に巻き付くカテナとは異なり、サガの力を強化する鎖『デュナミスカテナ』。
ファンガイアの体組織に酷似しているステンドグラス状の胸部アーマー『エターナルラング』。
その中央には、『黄金のキバ』が持つ三つの魔皇石に匹敵し、代々キングに受け継がれてきた『漆黒の魔鉱石』がはめ込まれている。
頭部には魔石『ファングストーン』で作られた、キングの威光を示す王冠『キングクラウン』。
その下にある蒼色の仮面『サガ・ペルソナ』の輝きが、変身完了を告げる。





――仮面ライダーサガ。





『運命の鎧』の異名を持つ、キングのみが装着を許される鎧だ。


「太牙さんが、変わった……?」
「あれが、サガの鎧ですか」
「ふうむ、初めて見るのう」


三者三様の反応を受けつつ、サガはゆっくりとプラティプスファンガイアに足を進めていく。


「ギィッ!」


プラティプスファンガイアは、嘴から先程見せた光弾を三発発射する。


「フン、つまらん技だ」


サガが握るジャコーダーからは、いつの間にかバイパートングと呼ばれる、赤いロッドが伸びていた。


「ッハァ!」


サガがジャコーダーを一振るいすると、ロッドだった部分は鞭のようにしなり、プラティプスファンガイアの弾丸を薙ぎ払った。


「なっ!?」


攻撃はあっさり防がれ、プラティプスファンガイアは動揺した。


ジャコーダーのバイパートングは、ブラッディアイアンという形状記憶合金で出来ており、ロッド剣状の武器である『ジャコーダーロッド』と、鞭状の武器『ジャコーダービュート』に自在に変化する。


つまりはサガの意思に合わせ、多彩な攻撃を可能とする武器なのだ。
動揺の隙を逃さず、サガはジャコーダーを再びロッド剣状態に変える。


「ふっ!!」


ジャコーダーを振るうサガの剣さばきは、突きと払いが主体のフェンシングスタイル。
淀みない動きからの攻撃は、的確にプラティプスファンガイアの身体を斬りつけていく。


「ぐっ、舐めるなよ!!」


言うが早いか、プラティプスファンガイアは、エラのついた鍵爪を構える。この鍵爪には毒が仕込んであり、一掠りでも致命傷を負わせることができる。


爪が走り、サガと激しく斬り合う。
プラティプスファンガイアの戦闘技術はなかなかのもので、サガの攻撃の手を防ぎ、時には反撃までこなしてみせる。


だが、


「甘いな」


距離を取ったサガは、ジャコーダーを鞭状にチェンジ。
ジャコーダービュートを伸ばし、プラティプスファンガイアを絡め取る。
そのまま指揮棒のようにジャコーダーの柄を操り、プラティプスファンガイアを振り回していく。


「あっ、ガァアアァ!!」


固い岩石が敷き詰められた地面に何度も叩き落とされるプラティプスファンガイア。
地を這うプラティプスファンガイアを、サガは威圧感と共に見下す。


「ヒッ……!!」


その時点で、プラティプスファンガイアの心は折れていた。
後悔が全身を駆け巡る。
歴然とした格の違いに呑まれ、プラティプスファンガイアは悲観的なイメージしか浮かべることができなかった。


「そろそろ、終わりにするとしよう」


サガは蛇の紋様が描かれたフエッスルを取り出し、ベルトの上部――サガークの口にくわえさせる。



『ウェイクアップ』


サガークのコールと共に、サガは再びジャコーダーをスロットにインサート。
覚醒エネルギーがジャコーダーを伝い、バイパートングが赤い光に包まれる。
サガがビームサーベルのようなそれを眼前に構えると、蒼い霧が景色を塗り潰していく。


「夜……?」


「こうも容易く、世界の理をねじ曲げるとは……」


「さすがはキング、といったところかのう」


吉田のみならず、カムシンとベヘモットさえも感嘆の声を挙げた。


さっきまで夕日が輝いていた空は、夜の帳に包まれ、サガの仮面と同じ蒼い月が浮かんでいる。


「ヒ、ヒィイイイイイ!」


恐怖しか与えないキングの姿、臆病風に吹かれ、プラティプスファンガイアは敵に背を向け逃げ出す。
だが無論、サガはそれを逃しはしない。


――夜空に、彼の魔力によって作り出された『キバの紋章』が、漆黒の闇を切り裂き顕現した。
絶対的強者の威光は、王に刃向かう愚か者を絡め取る。


「――ハァッ!!」


サガがジャコーダービュートを突き出すと、紅い光に包まれた刀身が伸びる。
伸縮した閃光は、一瞬でプラティプスファンガイアを刺し貫いた。


「グッ、ガァァアア!!」


プラティプスファンガイアの悲鳴をバックコーラスに、サガは上空へ飛び上がる。
キバの紋章を潜り抜けて着地すると、ジャコーダービュートの光は紋章を支点に、まるで絞首刑の縄の如く、プラティプスファンガイアを吊り上げた。




――畏怖しか生まない行為に躊躇うことなく、サガは静かな手付きで、ジャコーダーを一撫でする。




「フンッ!!」


ジャコーダービュートから、生成された増幅魔皇力が注ぎ込まれていく。


「ギャアアァァア!!」


聴くに耐えない断末魔と共に、サガの必殺技『スネーキングデスブレイク』は貫いた対象を内側から破壊した。


――雨のように降り注ぐ、砕けたファンガイアのガラス片
渦中に悠然と立つ一人の戦士。


恐ろしくも、高貴な美しさを漂わせるサガの姿はまさに――王そのものだった。


  1. 2012/04/03(火) 21:50:53|
  2. 仮面ライダーキバ/BLAZING.BLOOD
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第十六話・Roots.of.the.King/裁きの蛇.前篇


「この景色も久しぶりだな」


御崎市最寄り駅、入り口に立つ青年の目には、見慣れながらも懐かしい景色が飛び込んでくる。


――と、青年が片手に下げていたバックが不自然に揺れた。


『●△Φ♯!』
「こらこら、早くみんなに会いたいのはわかるが、ここで顔を出すな。周りに迷惑がかかるだろ?」


中から聞こえてきた理解不能な鳴き声を窘め、青年はバックを担ぎ直す。


「さて、奏夜も母さんも、元気にしているかな」


再会への高揚感に胸を踊らせ、青年は道行く人々の雑踏の中へと消えていった。


◆◆◆


「落ち込むこともあるけれど、俺は元気です!」


教卓に立つ奏夜は、帰りの会が始まるなり、声を張り上げた。


「……いきなり何言ってるんですか先生」


前列に座る池速人が、白けた目線を向ける。


「いや、場面転換の繋ぎに必要だったからな。文章構成上の都合というヤツだ」


またわけのわからないことを。
だか奏夜は「よし、じゃあ諸連絡だけするぞー」と、クラスの反応を鮮やかに無視し、話を進める。


「知ってるヤツがほとんどだろうが、そろそろ『御崎市ミサゴ祭り』の時期だ」


奏夜が放った単語に、クラスのテンションが僅かに上がる。


御崎市ミサゴ祭り。
早い話が夏の風物詩、ありふれた花火大会である。
だが、ありふれたとは言っても、真南川の河川敷をメインに行われ、市外からの参加客も多く、当日には繁華街にも熱気が伝播し、御崎市が誇るビッグイベントだ。
クラス内でも、最近はこの話題でもちきりで、誰と行くーだの、出店どこ回るーだの、ミサゴ祭りに関する雑談に溢れている。


「当日は教師も、交代で見回りに入る。このクラスは大丈夫だと思うが、あまりハシャぎ過ぎて補導されたりしないようにな。節度を守ってれば、面倒くさい大人の介入も少なくてすむぞ。俺からはそれだけだ。夏のイベントを、各々存分に楽しむように。以上!」


形式的な連絡が終わり、礼をして全員が帰り支度を始める。
奏夜もこの後は仕事が無いため、帰宅するだけだ。


「奏夜」


と、そこへ彼の生徒、平井ゆかり――もとい、世界のバランスを守るフレイムヘイズ、シャナが声をかける。


「おう、どうしたシャナ」
「今日の夜、悠二の家に来られる?」
「夜?」


二人の立場上、聞きようによってはかなり危ない会話だが、彼女の素性を知る奏夜は、気にせず答える。


「まぁ時間によるが、多分大丈夫だぞ。一体どうした」
「その時間、悠二の鍛錬をしてるの。 もうお互い知らない仲じゃないし、奏夜がいいなら、悠二の鍛錬を手伝って欲しいって、アラストールが」
「ああ、キバットが言ってたトレーニングのことか……」


――奏夜はつい先日、長らく秘密にしていた自分の正体を、シャナと悠二に明かした。


仮面ライダーキバ。ファンガイアの王。


あれから、同じ敵と戦う者同士、関わり合いが増えてきていた。
紅奏夜としても。キバとしても。
今後、協力していかなければならない仲だ。断る理由は無い。


「わかった。悠二が頑張ってるかどうか興味もあるし、参加させて貰うかな」
「ありがと」


礼を言って、シャナが時間を伝える。


「了解、じゃあその時間に」
「うん」


頷き合って、奏夜はそこでふと尋ねてみる。


「そう言えばシャナ、お前はどうするんだ?」
「? 何を?」


シャナは首を傾げる。


「何って、ミサゴ祭りだよ」


てっきり悠二を誘っていくかと思っていたのだが。


「お祭りって行かなきゃダメなの?」
「いや、だから……」


素朴な、というか、疑問をそのまま跳ね返しているようなシャナの態度から、奏夜は思い出す。


(そっか。こいつはそういう娯楽に興味無さそうだもんな)


フレイムヘイズという職業柄、シャナの性格柄、そういう楽しみからは無縁でも何ら不思議ではない。
それでも一応、奏夜は教師として彼女の視野を広げようとする。


「えっとだな。祭りっていうのは夏のテンション上がる時期に、みんなで集まって騒ぐイベントであってだな。見たことくらいはあるだろ?」
「あるけど、周りが熱狂するのって息苦しくなるから、あんまり好きじゃない」


逆効果だった。


「いや、まぁ、俺も以前は人混みとか熱狂とかって好きじゃなかったから、分からんでもないけどよ」
「そうなの? 今は全然そんなことなさそうだけど」
「ってか出たくても出られなかったんだよ。あの頃は迂闊に人前へ出ると“この世アレルギー”がな……」
「この世アレルギー?」
「あ……いや、何でもねぇ」


自分の語彙に無い単語に反応するシャナをそうあしらって、奏夜は話を戻す。


「とにかくだ。暇があれば行ってみろよ。きっと楽しいぜ」
「わかった。考えとく」


シャナはあまり気が進まなそうに、素っ気なく答える。
と、そこへタイミングよく、帰り支度を終えた悠二が合流した。


「シャナ。用事終わった?」
「ん。お待たせ」


頷き、悠二の隣に並ぶシャナ。


「じゃあ先生、僕らはこれで」
「またね」
「ああ、お前らにゃいらん心配だろうが、気ぃつけて帰れよ」


シャナと悠二はそのまま、取り留めのない会話をしながら去っていく。
二人の後ろ姿を見送りながら、奏夜は一言。


「……うーむ。今回の勝負は、ちょっと展開が読めないな」


よし。ここはシャナの恋敵にも、話を聞いてみるとしよう。



◆◆◆


そんなこんなで下校の途。
以下は、夕方になっても未だに人だかりが出来ている大通りにて、為された会話である。


「そう言えば、ミサゴ祭りの話だけどさ。一美はもう坂井くん誘ったの?」
「ふぇっ!?」


クラスメート、緒方真竹のいきなりな質問に意表を突かれ、吉田の顔が真っ赤に染まった。


「緒方、もう少しオブラートに包めよ。切り出し方が急過ぎだ」
「そんなこと言っちゃって、先生も気になってたんじゃないんですかぁ?」
「……む」


図星。
奏夜は大人しく閉口する。


――現在の場面登場人物は、紅奏夜、吉田一美、緒方真竹という何とも珍しい組み合わせ。
ミサゴ祭りというビッグイベントを前に、何となく吉田がどうするのか(悠二へのアプローチ的な意味で)気になった奏夜が、既に帰る約束を取り付けていた緒方と吉田に付き添った、という経緯である。


「ほらほら、先生も気になってることだし、一美も正直に言っちゃいなさい!」
「そ、そんなこと……簡単になんか、言えないよ……」
「何だ。まだ言ってなかったのか」


吉田の性格を思えば、ある意味予想通り だが。


「もうあんまり時間無いぜ。誘うなら誘っとかねーと」
「で、でも」
「あーもうじれったいわね! 『わたしと一緒に行きませんか?』、これだけなんだからビシッときめなさい!!」


緒方もこの膠着状態に、もどかしさに近いものを感じているようだ。
友人を叱咤激励すべく、緒方はもう一人、悠二の傍にいる女の子の名を出す。


「そんなんじゃ、ゆかりちゃんに先越されちゃうわよ」
「!」


吉田の気弱そうな瞳に、一瞬力が籠もった。


「……地雷起爆」


二人に聞こえないよう、奏夜がボソッと呟いた。
その言葉の通り、吉田は伏せがちだった視線を僅かに上げる。


(ゆかりちゃん)


同じ人を好きである女の子。


(負けたく、ない)


声にこそ出さなかったが、あの少女の名を聞くと、吉田は自然とそう思うようになっていた。


あの屋上での、いや、校庭での一件。
ゆかりちゃんには負けない、と宣言した。
悠二をミサゴ祭りに誘いたいと思うのに、シャナへの対抗心があるのは否めまい。


少し前なら考えられなかった吉田の姿に奏夜は、


(吉田もちゃんと、前に進んでるんだな)


教え子の進歩は、教師としては嬉しいものだ。


――実際に今日、奏夜とシャナが話している間にも、彼女は悠二に話し掛けようとしていた。
もし良かったら、私と一緒に。と。
はっきり言って、これだけでもかなりの変化である。


(あとは、シャナにせよ吉田にせよ、何かきっかけがあればいいんだが……)


いや、それは高望みし過ぎか。


実質的な可能性としては、シャナ、吉田、悠二の三人でミサゴ祭りに行く――という可能性が一番高い気はするが。


(それこそ、俺が考えることじゃないな)


こうして探りを入れてみたところで、結局自分は傍観するしかないのだ。
悲しいかな、誰が誰とミサゴ祭りに行こうが、奏夜には何の影響もない。


影響が無ければ――関わろうと思っても関われないのだ。


(……あ、そう言えば)


ふと奏夜は、緒方に会話対象を切り替える。


「緒方、お前はどうなんだ?」
「えっ?」


急に話をふられ、緒方は戸惑う。
だが、次の奏夜の言葉は、完全に緒方の意表を突いた。


「お前だって、田中とか誘うんじゃねーの?」
「…………」


緒方は急に足を止めた。


「緒方さん?」


驚いた吉田が気遣うのも構わず、奏夜の問いを何回も反芻し、ようやくその意味を理解する。


「――――なっ!?」


彼女にしては珍しく、本気で顔を赤くした。


「な、ななななんなんで、そそそんなこと――」
「……吉田からかう資格ねーぞお前」


プロフィールに設定追加。
緒方真竹は、奏夜の仲間、マージョリーの子分、田中栄太に好意を寄せている。
それも、奏夜からすれば、吉田と同じくらい分かりやすい好意で、何故田中が気付かないのか不思議なくらいだ。


(田中も罪だねぇ。悠二ほど鈍感でもあるまいに)


どいつもこいつもじれった過ぎだ。呆れたように奏夜は肩を竦める。


「お前の方こそ、さらっと誘っちまえば いい気がするけどな。田中もどうせヒマだろうし」


彼が尊敬するところのマージョリーは、お祭り事に興味がありそうなタイプではない。


「な、なんでさっきから田中を誘うこと前提なんですかっ!」
「おや、誘わないのか?」
「さ、誘いませんよ! そんな高校生にもなって、今更……」


否定こそしたが、語気がどんどん小さくなるあたり、まだ葛藤が見られる。


「煮え切らねぇな。お前ら普段から仲良いじゃんよ。佐藤から聞いたけど、中学も同じだったんだろ」
「関係ないですよ、そんなの。……むしろ仲が良過ぎるせいで、逆に田中も気付いてないみたいですし」
「……うわ、難儀だな。お前も」
「ふんだ。同情するなら金下さいってんですよ」


べーっ、と舌を出す緒方。


最後少し誤魔化された気がしたものの、奏夜はそれ以上、緒方と田中について言及しなかった。


「って言うか、先生こそどうなんですか。私と一美にだけ聞いといて、ちゃっかりミサゴ祭りに行く相手とか決めてたりして」


余裕が戻ってきたのか、緒方は仕返しと言わんばかりに、ニヤついた笑みを向ける。


「誰と行くも何も、俺は見回りがあるから……」
「嘘ばっかり。先生がそんなマトモに職務するわけないじゃないですか」
「ひどっ!」


だが何気に、否定はしない奏夜だった。
実際、当日はサボる気満々だったのである。


「ほらほら、ネタは上がってるんですから、言えばラクになりますぜ」
「何で急に刑事口調なんだよ。おい吉田、お前からも……」


助け舟を求める奏夜。
だが吉田は、


「……ごめんなさい先生。私もちょっと、気になります」
「本当に裏切ったんですかーー!」


吉田の目には好奇心が見て取れた。
まさかの裏切り、人生はライアーゲーム。


「だからよ、本ッ当に誰かと行く予定はねぇっつの」
「え~? 先生なら引く手数多だと思うのに。カッコいいし、女の人はべらせてそう」
「おい、俺はプレイボーイかコラ」


父親がああなので、奏夜にとってはシャレにならない話だった。


「それに、当日、知り合いはみーんな予定入ってるから、誘うに誘えないのだよ。分かったかね? 緒方くんに吉田くん」
「……なんか意外です」
「むぅ、つまんないなぁ」


奏夜の面白エピソードが聞けると思っていたのか、少し残念そうに、吉田は肩を落とし、緒方は唇を尖らせた。


そんな顔されても、本当なんだから仕方ない。


名護は恵と由利を連れて楽しむつもりだし(奏夜も誘われたが、家族水入らずを邪魔したくなかっため辞退)、嶋とマスターは、そんな名護ファミリーのために、『素晴らしき青空の会』名義で花火を出すらしい。
次狼達は夜店のアルバイト。真夜は二世と一緒に、遠くから花火を眺めると言っていた。


(静香も多分、大学の友達と回るだろうし、キバットとキバーラは外に出られねーしな)


キバット兄妹に関しては、鞄にでも入れて『ぬいぐるみです』と答えればいいが、それであの二匹が納得するかは疑問だ。


そんなわけで、奏夜はものの見事にぼっちなのである。


(……考えてたら悲しくなってきた)


いかんいかん。前向きに行こう、前向きに。


奏夜が気を取り直したところで、三人は交差点にさしかかる。
帰り道の関係上、ここで奏夜はお別れだ。


「ま、俺みたいなヤツよりも、お前ら自身のことを考えろよ。命短し、恋せよ乙女だ」
「あはは、キザったらしいですねー」
「いやいや、本心からそう願ってるよ。 じゃあな。吉田、緒方」
「はい、また明日!」
「さよなら」


信号が切り替わり、奏夜は軽く手を振りながら、人混みに溶け、見えなくなった。


「じゃあ一美、私も行くね」

二人でしばらく歩いた後、緒方も他の交差点で吉田と別れる。


「あの、緒方さん」


去り際、吉田は口を開いた。


「ん? なに」
「……頑張って」


小さく、しかし不思議とはっきりした声だった。


「私も、頑張るから」
「――うん。ありがとね、一美」


二人とも何を頑張るのかは、言わずとも分かっていた。
緒方と別れ、吉田は一人帰宅路を、どこか物寂しく感じながら辿る。


(頑張るから、か)


本当に、そうしなければならない。ミサゴ祭りに関して言えば、猶予はもうないのだから。
だが、緒方にああはいったものの、その頑張りをどういう形で見せればいいのだろうか。


(どうしたら、坂井君を誘えるのかな)


考えれば考えるほど、思考が堂々巡りになっていく。


(どうしよう)


惑うことしか出来ない自分に、苛立ちさえ覚える。


(どうして、こうなんだろう、私……)


気持ちの整理がつかないまま、吉田は伏し目がちに歩き続ける。




そんな時――だった。




「っ!?」


ぞわり、と得体の知れない悪寒が、吉田を頭上から貫いた。


日常に漂う残滓は、その源泉へと吉田をいざなう。


「ぁ……!」


そこに、いた。


10になるかならないかという少年。
左手には、小さなガラス玉を繋ぎ合わせた飾り紐。
パーカーのフードから覗く褐色の肌をした顔に、表情らしい表情は浮かんでいない。


ただじっと、吉田の方を見ていた。
違和感の極めつけに、少年の背中には、その身の程二倍はある巨大な棒が立てかけられている。


何かが、“違う”。


(な、なに……?)


吉田は自分に直感に問いかけた。
答えは勿論無く、彼女の脳に、奇妙な違和感だけを送信し続ける。
――やがて少年は、ゆっくり口を開いた。


「あなたは、知っているのですか?」


年相応のトーン。


「……ぁ」


しかし吉田は、それにさえも違和感を覚える。
まるで、何年も何年も生きてきた老人――枯れ果て、老成したような口調に思えた。


「さて、はて……」


顎に左手をやる動作、子供には有り得ない仕草だ。


「気配の端が濃く臭ったのですが……協力者ではないのですか?」
「ふうむ」


少年の見た目とは合わない声と違う、嗄れた声が、どこからともなく聞こえてくる。


「偽装して定住する者の傍におるがゆえの影響じゃろう。この歪みを目指す“徒”を警戒しておると見たが、ふうむ」
「ああ、気配だけはやたら大きいですからね。何やら同胞とは違う気配も感じますが……これは、もしやファンガイアですかね?」
「ふうむ。いずれにせよ、仕事の合間にでも、挨拶に出向くとしようか。もしここがファンガイアの領地なら、尚更じゃろう」
「ああ、そうですね。ともあれ、このおじょうちゃんには是非、協力していただきたいところですが」
「……あ、あの」


一人で(吉田にはそう見える)会話を続ける少年に、吉田は声をかける。


あまりにおかしい少年。
日常にはない光景を人は認めない。


この違和感を――早くに拭い去りたかったのだ。


「ああ、すみません」


吉田を置いてけぼりにしていたことに気が付き、少年は軽く頭を下げる。


「申し遅れました。私は『儀装の駆り手』カムシン……カムシン、で構いません」
「儂は“不抜の尖嶺”ベヘモット。儂も、ベヘモットでよいぞ、おじょうちゃん」




――運命の鎖が、吉田一美へと絡みつく。



◆◆◆


「う~ん、月夜の晩、気持ちがいいねぇ~」
「どこがだよ。……ふわぁ~。やっぱ眠ぃな」


零時少し前。人々が寝入り、静寂に包まれる住宅地を、奏夜は歩いていた。
彼の肩に止まるキバットが、眠気覚ましに奏夜の頭を叩く。


「おいおい、行くっつったのはお前だろうが。シャキッとしろシャキッと」
「はぁ……。キバット、お前は夜行性でいいよなぁ。どうせ俺なんか……」
「その某兄貴っぽい態度もやめい。ほら、着いたぜ」


キバットが翼で指し示す先には、二人の目的地、坂井悠二の自宅があった。
もっとも今は、シャナが形成したと思わしき紅の陽炎『封絶』により、あの空間は因果から切り離されてはいるが。


「ま、俺には効果ありませんけどね」


封絶に停止することなく、石造りの門構えを過ぎ、庭に回る。
そこから見える屋根には、見知った姿が月光の下照らし出されている。


シャナ、悠二、マージョリー。そして姿は見えないが、アラストール、マルコシアスの五人。
屋根に飛び乗る奏夜とキバットに、全員の視線が注がれる。


「あら、ソウヤも呼んでたの?」
「うん。悠二の鍛錬ついでにね」
「よー、みんな揃って御機嫌麗しゅう」
『ヒッヒッ、兄ちゃんも相変わらずみてーだな。蝙蝠クンも息災かい?』
「まぁな。変わらずキバッてるよ、“蹂躙の爪牙”」


気軽に話す様は、全員がこのメンツに慣れてきた表れだろう。


「先生、少し遅かったですね」
『約束の時間は11時頃と言っておいたはずだが』


悠二とアラストールの問いに、奏夜は「フッ」と微笑み、右手を翳しながら、夜空の月を仰ぐ。


端正な顔立ちであるため、その様子は(無駄に)絵になっていた。


「ちょっと、池袋の都市伝説になりにな……」
「首無しライダー!?」


確かにライダーはライダーだが。


ちなみに本当の理由は、単純に奏夜が時間を間違えていただけだ。


「いやー、悠二は欲しいところにツッコミを入れてくれるよな。感心感心」
「不本意です! 僕ここまで嬉しくない感心のされ方初めてですよ!」
「タイトルは『キバババ!』か『シャナナナ!』だな」
「語呂悪っ!」


御崎市にはカラーギャングも、情報屋も、コンビニのゴミ箱をぶん投げるバーテンダーもいない。念のため。


「はいはい。遊んでないで、さっさと話進めましょ」


マージョリーが手をぱんぱんと打ち、脱線した話を軌道修正する。


「話って?」
「この前話したでしょ。このボーヤの中にある“千変”の腕のこと」
「――ああ、名護さんが言ってたやつか」


奏夜は手を悠二の頭に置き、存在の力を汲み取る。


「確かに違和感があるな。悠二、何か悪いとこはないか?」
「今のところ特にありませんけど……腕がもう一本あるみたいな感じです」


奏夜と悠二が感じた、正常に機能する流れの中にある一点の淀み。
この街を襲った“王”、“千変”シュドナイが、悠二を分解しようとした時に千切れ、残った腕だ。


奏夜が、マージョリーに問う。


「悠二を分解しようとしたって言うけどよ、なんでシュドナイの腕が千切れたりしたんだ?」
「ボーヤの“零時迷子”には『戒禁』がかけられてんのよ」
『カイキン?』


自分達の魔術に無い名前に、奏夜とキバットが首を傾げる。


『簡単に言えば、『ミステス』に収められた宝具を守るための自在式だ』
『加えて言うとだ、かけた際の意志力に比例して、スグレ物だと封絶の中でも動けたりするわけよ、ヒヒヒ』


無知な二人に呆れることなく(そもそも魔術と自在式はフィールドが違うのだ)アラストールとマルコシアスがレクチャーを入れる。


「『解禁』か、誰が仕掛けたかはわからないのかよ」
『さーな。俺らは“約束の二人”の片割れだと思ってたんだが……』
「“約束の二人”……ああ、『零時迷子』本来の持ち主ね」
『む、聞いたことがあるのか?』


アラストールの問いに、奏夜は何の気なしに答えた。


「ああ、フリアグネと戦った時に聞いたんだ。 ファンガイアなんだけど、その人は『“約束の二人”の片割れが“壊刃”に仕留められた』とかなんとか……」
『!!』


悠二以外、全員の目の色が変わった。


「ちょっと奏夜、なんでそれ黙ってたの!?」
「いや、もう、知ってるもんかと思って……」


詰め寄るシャナの剣幕は、奏夜の話した事実の価値を物語っていた。


『確かなのか』
「ああ。ちなみに情報源は、ファンガイアのクイーンとキバットの父上」
『クイーンだと?』


予想だにしなかった名前に、アラストールの声が揺れた。


(やっぱ知り合いだったのか)


奏夜は、真夜が先代『炎髪灼眼の討ち手』とは知り合いだ、と言っていたのを思い出す。


「クイーンって誰? アラストールの知り合いなの?」


クイーンを知らない現代『炎髪灼眼の討ち手』、シャナが尋ねる。


『うむ。古い友人だ。……そうか。クイーンからの話なら、疑いようがないな』
『でもよぉ、主犯が“壊刃”なら、誰かの依頼を受けてやったってことだよなぁ?』
「しかも、『これほど早く見つかるとは』なんて言ってたし、“千変”の知る範囲で行われたんでしょうね……ん?」


マージョリーは自分の推測の中から、一つの言葉に引っかかりを覚え、


「“千変”の知る、範囲内……いや、そうか、[仮装舞踏会]――!」


マージョリーはパートナー共々、苦々しそうに言う。


「まさか、“逆理の裁者”の絡んだ企みなのかしら」
『おーいおい、カンベンだぜ、“千変”の野郎。今さら忠勤を気取る柄かよ』
「[仮装舞踏会]って何だ?」


奏夜が隣に立つシャナに聞く。


「“徒”の大集団の一つよ。最近は目立った活動をしてないって聞いてたけど……」
『うむ。坂井悠二』
「え、はい!?」


今まで置いてけぼりだったため、アラストールの声に悠二は反射的に背筋を伸ばす。


『貴様の『零時迷子』に関する事態は、我らが考えていたよりも、意外に大きいやも知れぬ』
「……」
『奴らが動き出すとなれば、あらゆる可能性を視野に、今後の方針を決めてゆくことになろうからな』


あらゆる可能性。
それはつまり、




「……お前らが、この街を出てく可能性もあるってわけか? アラストール」
「!!」


奏夜の補足に、悠二は心の中で息を飲んだ。


(旅、立つ……?)


相手が『零時迷子』を狙う以上、一所にいるのは危険だし、何より周りに迷惑がかかる。


いつか来るとはわかっていたこと。だがその事実が、急に眼前へと突き付けられたことで、悠二は平静を保てなくなっていた。


「御崎市を、家を、出る……?」


震える声に、誰も答えを返さない。
シャナだけが、彼の心境を知りながらも、はっきりと告げる。


「そう、出る」


シャナの言葉に、悠二は嬉しさと恐怖が入り混じっていくのを感じた。


シャナ達と一緒に行けるのは嬉しい。むしろ、自分から望んでさえもいた。
けれどそれは、15歳の少年が背負うにはあまりに重い、生まれ育った街や大切な人々との別れと同義だ。


それだけではない。
この街を出る。それは次に何らかの形で“徒”が騒ぎを起こせば、それを迎え撃つ者がいなくなるということだ。
可能性の話、と言って割り切れるほど、悠二は強くも合理的でもない。


――自分の知らないところで、日常が破壊される。
大切な人達の未来がすべて、絶望に彩られている気さえした。


「……」


シャナはただ無言で、悠二の手を握り締めた。


「!!」


手から伝わる暖かさは、悠二を暗い思考の海から引き戻す。


「あ……、ごめん」
「……まだ、今すぐ出るわけじゃねぇんだろ。アラストール」


悠二の気持ちを察してか、奏夜は彼に猶予を与えるべく問いかけた。


『うむ。この街の歪みは大きすぎる。フレイムヘイズの中に、この歪みを調整、修復出来る『調律師』を生業とする存在がいる』
「せめて調律師が来るまでは、“徒”の襲撃を警戒しないと」
「裏を返せば、その調律師が来たら出てくってわけか」


シャナが首肯したのを確認し、奏夜は悠二に向き直る。


「安心しろよ悠二。お前らが去った後も、俺や名護さんはここにいる」
「えっ? ……あ」


そうだった。
彼らは悠二達が出て行こうが、ここにいる。
あの強さだ。“徒”が来ても、街を守り抜くだろう。


「お前がまだ、この街を出て行きたくないのはわかる。だからこれだけは約束しよう。例えお前やシャナがいなくなっても、その後でお前の大切な人達が喰われる、なんてことは絶対にない」
「その通りだぞ悠二。オレ様たちは、ずーっとそうやって、人々を守ってきたんだからな!」


笑いながら告げる奏夜とキバットの姿に、悠二は無条件の安心感が広がっていくのがわかった。
――勿論、大切な人々と別れる決心がついたわけではない。


でも、


(少しだけ、楽になったかも知れない)


みんなを守ってくれる人がいる。
他力本願でもなんでも、悠二はそれが嬉しかった。


「……ありがとうございます。先生」


「は、よせよ。俺は俺の義務を果たしてるだけだ。……ま、俺個人としちゃ、お前らとは別れたくねーってのが本音だけどさ」
「あら、ひねくれ者のアンタにしちゃ素直ね」
「うっせ」


マージョリーの冷やかしに、気恥ずかしさから目を逸らす奏夜。
その様子に苦笑しつつ、悠二はシャナに言う。現実に向き合い、前に進む覚悟を抱きながら。


「もう少し、待ってよ」
「……うん」


シャナもまた、この少年の覚悟を受け止め、頷いた。
一連のやり取りを目の端に捉えつつ、ぼんやりと夜空を見上げる。


(別れ……か)


シャナや悠二が、日常から消える。
果たしてそれは、周りにどれだけの影響を与えるのだろう。


特に――あの臆病なりに、悠二に想いを伝えようとするあの少女には。


(……いや、影響も何もないか)


どのみち、悠二がいなくなる時、吉田の記憶から彼の痕跡は忘失される。




何も変わらないのだ。
例え彼女が悠二を好きであっても、世界は例外を認めなどしない。


(ちっ、なんて虚しいのかね)


軽く舌打ちをし、奏夜は一言。


「面倒くさくなってきやがったな……」


さっきまでただ美しいと思っていた月は、まるで迷える者を嘲笑っているかのように、青白い光を放っていた。


◆◆◆


「ちょっと、早く来過ぎちゃったかな」


翌日。真夏の夕刻という人通りの多い時間。
学校の終わった吉田一美は、大通りに沿うビルの壁に寄りかかり、ぽつりと呟く。


(やっぱり、変な悪戯だったのかも)


そうだったのなら、変な子供に騙され、自分がちょっと馬鹿を見た、ということで済む。
だが、そうなったらいい。と思う一方で、そうなって欲しくない。と思う自分も確かにいて、


(……約束の時間はもう少し先だし、待ってみよう)


結局吉田は、待ってみることにしたのだ。


――昨日出会った奇妙な少年、カムシン。
名乗った後、カムシンはわけのわからないことを羅列していた。


街の歪みがどうだの、違和感を感じ取れる人間を探していただの。
吉田がかろうじて理解できたのは、「この仕事には人間の手助けがいるため、おじょうちゃんには是非とも、その手伝いをしてもらいたい」ということだけだった。


(おかしな子)


そう一笑に付すことも出来ただろう。むしろ、その方が一般的な対応だ。


だが、吉田はここにいた。
つまりは、カムシンが待ち合わせに指定した場所と時間に。
勿論、あの戯言を信じたわけでは決してないが――


(もしかしたら、何かが変わるかも知れない)


自分が何も出来ず、ただ手をこまねいているこの状況に、日常では有り得ない違和感。
うじうじした自分を引っ張り上げてくれるかも知れない力。


それが持つ甘美な誘惑に負け、吉田は、


「じゃ、じゃあ……少しくらいなら……」


と答えたのである。


怖いことがあれば、そこでやめればいい。
騙されただけなら、それもよし。 ただの笑い話になるだけだ。
無理やり自分を納得させ、吉田はここにいる。


自分を変える瞬間を、待ちわびながら。


「……まだ暑いなぁ」


照りつける夕暮れの日差しを、翳した手で遮る。
せめて日除けになる場所って言っておけば良かったかな。


そんな風に、吉田が思った時だった。


「……?」


足元に、何かが当たったような気がした。
目線を落とすと、そこには赤い果実。


「林檎?」


それを拾い上げ、何の気なしにまじまじと見つめる吉田。


「キミ」


聞き覚えのない、張りのある声。
反射的にを振り向くと、そこには一人の青年が立っていた。


艶やかな黒髪の下には、どこか貫禄を漂わせる風貌。
薄手のジャケットにジーンズ。肩に下げる大きめのショルダーバックは、いかにも旅行帰りというイメージ。
違和感があるとすれば、真夏日に、しかも左手にだけに手袋をつけていることか。ちなみに、もう一方の手は紙袋を支えている。


「すまない。その林檎、僕が落としたんだ」
「あっ、ごめんなさい」
「いや、いいんだ。拾ってくれてありがとう」


吉田が慌てて返した林檎を、青年は手袋をした方の手で受け取った。
改めて、吉田はその青年を見据える。


(……あれ?)


初対面の人間を相手に、受けるはずのない印象を持つ。


(なんだろう。どこかで会った……ううん、違う)


“誰かに似ている”ような……。


吉田の視線を気にした様子もなく、青年は彼女の制服に目をやる。


「その制服、御崎高校のだね」
「は、はい」
「懐かしいな。僕もあそこに通ってたんだよ。もっとも、色々あって中退してしまったんだけどね」
「そ、そうなんですか」


自分でもよくわからない相槌を打つ。 初対面の人間とフランクに話せるほど、吉田は対人能力があるわけではない。
青年も、あまり会話の風呂敷を広げるつもりはないらしく、年長者としての注意だけを述べる。


「夏は何かと物騒だからね。気をつけるんだよ」


青年は裏表のない笑顔を浮かべる。


(……あっ)


その笑顔を見て、吉田は気づいた。


この既視感の正体が。
この青年が誰に似ているのか。




「奏夜先生に、似てるんだ……」




吉田が、ついその名前を声に出すと、


「奏夜?」


それを聞き取った青年が反応した。


「キミ、奏夜を知っているのか?」
「えっ? はい、担任の、先生です……」


青年の反応に驚き、吉田は事実だけを伝える。
目を丸くしていた青年はしばらくして、声を上げて笑い出した。


「あははは! そうかそうか、あいつの教え子さんだったのか! いやぁ、まさか帰ってきて早々、こんな出会いがあるとは思わなかったな」


心底愉快そうに、青年は相好を崩す。


「キミ、名前は?」
「よ、吉田、一美です」
「一美ちゃんか。いい名前だね」
「あの……、先生をご存知なんですか?」


話の流れとして、吉田は問う。


しかし、次に返ってきた答えは、吉田の想像を遥かに超えるものだった。




「ああ、すまない。自己紹介が遅れたね。
僕はあいつの兄なんだ」




「……………」


その情報を処理するのに、吉田はたっぷり数十秒かけ、


「……っええ!?」


彼女にしては珍しい、かなりの大声を挙げた。


「せ、先生のお兄さん!?」


吉田にとっては、かなり驚きの素性を持つ青年は、その弟と同じ、柔らかな笑みを浮かべながら頷く。


「ああ、登太牙だ。よろしく。一美ちゃん」




――『偽装の駆り手』は、少女の日常を破壊する。


『裁きの蛇』がもたらすものは、破壊か、救済か。


  1. 2012/04/03(火) 21:50:14|
  2. 仮面ライダーキバ/BLAZING.BLOOD
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第十五話・開演vib/キバの正体

「はぁっ!」


両手を大きく広げる独特の構えのまま、キバはヘルホーネットファンガイアに特攻をかける。


「くっ!」


もう認識操作は無意味と悟ったのか、ヘルホーネットファンガイアもまた肉弾戦を取ったらしい。
キバのジャンプからの踵落としを腕で防御する。


「甘いっ!」


防御された右足を支えに、キバは空中で、残った左足をヘルホーネットファンガイアの顔面にヒットさせた。


「う、ぐおっ!」


よろめくヘルホーネットファンガイア、着地したキバはすかさず、ヘルホーネットファンガイアの身体に拳を次々と叩き込む。
ガガガッ、とパンチの音が連なり、比例してダメージも蓄積されていく。


「せいっ!」


フィニッシュにキバは、ヘルズゲートの装備された右足での回し蹴りを放つ。


「ごぶッ!」


肺の空気を吐き出しながら、ヘルホーネットファンガイアはキックの勢いに負け、アスファルトの地面に沈む。


「っしゃ! 一気にキメっか!」
「あっ、先生待ってください!」


ウェイクアップフエッスルに手を伸ばすキバを、悠二の声が止める。


「倒す前に、そいつからシャナの解毒方法を聞き出さないと!」
「解毒? ――ああ、成る程」


ただの怪我にしては妙にシャナが大人しいと思っていたが、そういうことか。
状況を把握し、キバはウェイクアップフエッスルをしまって、


「じゃ、こいつがいいな」


ウェイクアップフエッスルの代わりに、緑色のフエッスルをキバットに吹かせた。


『バッシャーマグナム!』


空から飛来したバッシャーマグナムを右手でキャッチし、キバは『バッシャーフォーム』へとフォームチェンジ。


「さて、さっさと解毒法を読み取るとしますか」


バッシャーマグナムを構え、キバはヘルホーネットファンガイアを凝視する。


バッシャーフォームの能力は遠距離戦だけではない。
緑色に染まった仮面『エメラルドレンズ』は4フォーム中最高の視力を持ち、敵の観察力にも優れているのだ。


――キバの視界が、相手の全てを見透かしていき、やがてヘルホーネットファンガイアの一点に照準を合わせる。


「そこだッ!」


バッシャーマグナムのフィンが回転し、射出されたアクアバレットは、ヘルホーネットファンガイアの右腕に装着された針を弾き飛ばす。


「っ、しまった!」


宙を舞った針を、キバは即座にキャッチし、悠二へ放った。


「その針刺して、平井を解毒しろ」
「で、でもこれ、毒針なんじゃ……」
「毒を使う者は、解毒の術を常に持っていなくてはならない。つまり、ヤツの中には必ず免疫成分が存在する。あいつが、あいつ自身の毒で死なないようにな」


いつもの授業のように、キバは言葉を繋いでいく。


「さっきの観察で、ヤツの体内にある免疫成分もまた、その針から分泌されているのはわかっている。外部から衝撃を受けた時、ほんの少しだけな。
さっきのオレの攻撃で、その針にはもう免疫成分しか残ってはいない」


悠二は舌を巻く思いだった。
たった一瞬で、キバはそれだけのことを理解し、行動に移している。


(やっぱり……先生はキバなんだな)


真実を改めて自覚し、悠二はシャナの解毒作業に取りかかる。
横目でそれを確認し、キバはバッシャーマグナムのトリガーを引く。


「ハッ!」


寸分違わず、アクアバレットはヘルホーネットファンガイアへ吸い込まれていく。


「ぬぅっ! 舐めるなよキバ!」


着弾したアクアバレットにも怯まず、ヘルホーネットファンガイアは残った左腕の針を発射する。


「チッ!」


地面を転がることで針を避け、体勢を瞬時に立て直し、バッシャーマグナムを撃つ。
片やヘルホーネットファンガイアもまた、キバの攻撃を寄せ付けず、針による反撃を繰り返す。
キバとヘルホーネットファンガイアの戦いは、平行線を辿っていた。


「ハハハ! 最初の勢いはどうしたキバ!」


ヘルホーネットファンガイアの嘲りにもキバは動じない。
バッシャーマグナムを撃ち続けるだけ。


「クックック、話す余裕も無いか?」


だとすればしめたものだ。
遠距離戦は、ややこちらが有利。
このまま長丁場に持ち込めさえすれば、いずれは――、




「油断し過ぎだよ」




キバが仮面の下で笑うのとほぼ同時に、解毒を終えたシャナがヘルホーネットファンガイアの背後に回り込んでいた。


「なっ!?」


ヘルホーネットファンガイアが青ざめる。どうにか贄殿遮那による斬撃は免れるが、


「だぁっ!!」


回避した先にあった、シャナの回し蹴りは防げなかった。
蛙を踏み潰したような呻き声をあげ、ヘルホーネットファンガイアは数メートル床を転がり、地に臥す。


着地したシャナは、隣に歩み寄ったキバの仮面を見上げる。
その下にある表情は伺えないが、なんとなく笑っているような気がした。


「……いろいろ言いたいことはあるけど」


シャナは贄殿遮那を構え直す。


「今はこいつを倒すのが先ね」
「よくわかってるな」


言いつつ、キバは新たに、二本のフエッスルをサイドケースから取り出した。


「片付いたら、きっちり全部説明してもらうから」
「ああ、そのつもりだよ。なんならコーヒーもお付けしましょうか、お客さん」
「コーヒーは好きじゃない。それよりも、一回殴られることは覚悟しときなさい」
「手厳しい」


大袈裟に肩をすくめて、キバは二本のフエッスルをキバットにくわえさせる。


『ガルルセイバー! ア~ンド、ドッガハンマー!』


青と紫の彫像が現れ、キバの左腕、胸部と融合する。
キバフォームをベースに、左腕にはガルル、胸部にはドッガ、右腕にはバッシャーの力が憑依。
四位一体の形態、ドガバキフォームだ。


「さあて、一気に終わらせるぜ、乗り遅れんなよ!」
「そっちこそ!」


何処か余裕のあるやり取りを交わし、二人は強く地を蹴る。


「くっ!!」


敵は二人。どちらを迎え撃てばいい?
今まで幻覚により、圧倒的な勝利を修めてきたヘルホーネットファンガイアにとって、これは普段有り得ないことだった。


その一瞬の逡巡が、決定的な隙を作る。


「フンッ!!」


ドッガハンマーのスイングが、ヘルホーネットファンガイアの腹部に叩き込まれる。
ダメージに呻く暇も与えぬまま、キバはバッシャーの能力を使い、地面を覆う水面、アクアフィールドを展開した。


「そらよっ!!」


アクアフィールドを滑るように移動するキバ、右手のバッシャーマグナムから、バンバンバンッ、と連なった発射音が鳴り響く。


「ぐ、あっ、き、貴様ァ――!!」


逆上したヘルホーネットファンガイアは防御を捨て、キバへと突進してくる。


「冷静さを欠いたら、勝負は負けだぜ?」
「っ!?」


キバが言い終わるより早く、シャナが上空から怒涛の勢いで、贄殿遮那を振り下ろす。


「はぁっ!!」


鋭い剣閃は、ヘルホーネットファンガイアの片翼を切り落とした。
つんざくような悲鳴を上げるヘルホーネットファンガイアに、シャナは不敵な笑みを向ける。


「暗示が効かなくなった途端これ? 基礎からやり直してきなさい」
「くっ、う……!」


暗示にばかり頼ってきた報いが、ここにきて表面化していた。


「お、のれぇ……!」


ヘルホーネットファンガイアは屈辱に歯噛みする。


激情のベクトルを向けられたキバはそしらぬ顔で、ゆっくりとアクアフィールドに右手を浸す。


「さて、化学は専門外だが、ここで特別授業といこう」
「……?」


指先からドッガの能力である雷の力が、アクアフィールドを伝っていく。


「化合物を水溶液、または溶融状態として、これに電気を通し、化学変化を起こすことを『電気分解』と言います。ではここで問題」


水を分解した場合、生成されるものは何でしょうか?


「―――っ!」


ここでようやく、ヘルホーネットファンガイアは、キバの意図に気が付いた。
慌てて上空に退避しようとするも、片翼 のため、飛ぶことができない。
――シャナの攻撃は、このための布石だったのだ。


『正解は』


シャナとキバが口を揃える。




『水素と酸素』




贄殿遮那から、小さな火の粉が弾ける。


――大気を震わせる轟音と共に、屋上は爆炎に包まれた。




生み出された暴風による衝撃、煌々と燃える炎の熱。
それらの渦中から、最初に這い出たのはヘルホーネットファンガイアだった。


「が、は……!」


吹き飛ばされることはどうにか避けられたものの、ヘルホーネットファンガイアのステンドグラスのような外皮には、あちこちにヒビが入っている。


水素爆発によって再び生まれた水を被り、ヘルホーネットファンガイアは膝をつく。


「し、信じがたい連中だ……はぁっ、まさか、こんな、自分たちまで吹き飛ばすような爆発を……」


自分がこのザマだ。
相手も無事ではいまいが……。


そう、ヘルホーネットファンガイアが考えた時である。




『WAKE.UP!!』




粉塵と硝煙を隠れ蓑に、キバとシャナが飛び出してきた。


「なぁっ!?」


バカな。
あんな爆発の後で、すぐ攻撃に転じられるわけがない。
しかも、二人はまったくの無傷。
混乱するヘルホーネットファンガイアだが、キバとシャナの背後――煙の中の一点が紅く輝いているのに気が付く。


「僕が持ってたものは、イクサだけじゃないんだよね」


――そこには、いつの間にか悠二が立っていた。 火除けの指輪『アズュール』の結界を張り巡らせて。




「ハァァーーッ!!」
「っだぁ!」




事態を理解するのと同時に、キバの『ダークネスムーンブレイク』とシャナの炎剣が炸裂した。




「が、ぐぅ、く、おのれぇ、キバぁぁぁぁァァァァ!」


聞くに耐えない絶叫が、ヘルホーネットファンガイア最後の言葉だった。


――ギャオォォォ!


砕け散った身体から飛び出したライフエナジーも、飛来したキャッスルドランが飲み込んだ。


◆◆◆


「あら」
「ん?」
『ああん?』


施設前で戦っていた名護、マージョリー、マルコシアスの動きが止まる。
操られていた人々が、急に大人しくなったのだ。


立ち尽くしたまま、だらりと頭を垂れている。


「支配からは、みんな逃れたみたいね」
『つーことは……』
「奏夜くんか『炎髪灼眼の討ち手』が、やってくれたようだな」


名護はほっと胸を撫で下ろし、マージョリーも戦い詰めだった身体を伸ばす。


「さて、あとは操られていた全員の混乱を治めるだけだな」
「あー、私がやるわよ。ここにいる理由を刷り込むくらい、封絶の応用で簡単にでき……!?」


マージョリーが言葉を切った。
名護も緩めていた緊張を張り直し、操られていた人々を見る。


『こりゃあ、もうひとオチありそうだなオイ』


マルコシアスがうんざりしたように、グリモアから火の粉を吹き出す。




――何かにあてられたかのごとく、操られていた人々が一斉に奇声を上げた。




◆◆◆


その様子を、別の三人が屋上から見下ろしていた。


「ど、どうなってるんだ。あのファンガイアは倒したのに」


悠二が見つめる先には、声を上げながら、奇妙な行動に走る人々の姿があった。
ある者は他の人間を殴りつけ、ある者は頭を抱えてうずくまり、ある者は自傷に走り、混沌としか表現できない状況だった。


「まだあいつの洗脳が残ってるの?」
「でも、街を包んでた違和感は無いわ。あの人間達にも、変なところは感じない」


キバーラの推測を、シャナが否定する。


「マズイな。心の音楽が暴走してる」


理解不能な現況に、キバが答えを出す。


『どういうことだ、キバ――いや、紅奏夜』
「今まで強制的に操られてたのが、あのファンガイアが消えたせいで、暴走しちまったんだろうよ。普通、魔術はかけた本人が死ねば消えるが……あいつが操ってた脳は複雑な作りだからな。
――脳内操作なんて負担をかけられてたとこに、コントロールを失って、誤作動を起こすのは当たり前だ」


淡々と説明するキバに対し、悠二の顔は青ざめていく。


「じゃあこのままじゃ……」
「ああ、泣き喚く赤ん坊と同じで、何が起こるかわからないな。マトモな判断が出来ないだろうから、最悪高いトコから飛び降りたり、なんてことも考えられる」
「っ!」
「大変じゃないですか!」


シャナが焦燥に駆られ、そのまま下へ飛び降りようとする。
だが、キバがそれを呼び止めた。


「止めとけ。大方、暴れてる人間を気絶させようとしてるんだろうが、大元の解決にゃならん」
「じゃあどうしろって言うのよ! 他に何か手があるの!? 頭の中の誤作動なんて、一人一人診てたら拉致があかないわよ!」
「殴ってどうにかなるもんでもねぇだろ。壊れたメガドライブじゃあるまいし。
――ま、ここは俺の出番かな」


危機感など微塵も感じさせない口調だった。
いつの間にか、キバの手には一器のヴァイオリン――ブラッディローズが握られている。


「先生、ヴァイオリンなんか出してどうするんですか?」
「要はヴァイオリンの修理やチューニングと同じさ。ズレた弦を戻してやればいい。幸いにも、ここにはあのファンガイアが使ったアンテナもある」
「……まさか、今度はヴァイオリンの音色で人間を操る気なの?」
「ばーか。んなことするかよ。街の人達の脳は、あのファンガイアの操作に気を取られてるようなもんだ。だったら、それ以外のものに目を向けさせればいい。
“俺達を襲え”なんて負担のかかるものじゃない、もっと楽しいものにな」


つまり、




「俺はただ、演奏をするだけだよ」




シャナと悠二、アラストールとキバーラが見守る中、キバはパラボラアンテナに、魔力を注ぎ込む。
もっとも、流す音はヘルホーネットファンガイアのような超音波ではないため、キバにとっては巨大なアンプのようなものだ。


「さあ、野外コンサートの時間だ」


ヴァイオリンを顎と鎖骨部分で固定し、右手で弓を弦に添える。





「俺の音楽を聞け!」





◆◆◆


――次の瞬間には、音楽が全てを支配していた。


拡張されたヴァイオリンの音色が、電波塔のみならず、御崎市全域に響き渡っている。
洗練された技術によって生まれる旋律。
それが届く対象は、暴走した人も例外ではない。


破壊の音楽により傷を追った心を、優しく包み込んでいく。


「――凄い」
「うわぁ……」
「やっぱり素敵だわ、奏夜の音楽!」
『まったく……、とことん“あ奴”を思い出させてくれる』
「これ、ソウヤが?」
「相変わらずの腕だな、奏夜くん」
『ったく、自在法顔負けだぜ』


操られていない者達も、演奏者への賞賛を捧げながら、安らかな音色に聴き入る。


――ポロン。
弦を一本弾き、キバは演奏を終えた。


悠二とシャナがもう一度下を見ると、操られていた人々は眠るように倒れていたが、気絶しているだけのようだ。直に意識を取り戻すだろう。


――ブラッディローズを下げ、キバは静かに変身を解除した。


シャナと悠二を振り返った奏夜は、いつもと同じ――正体を明かす前と変わらない、柔らかい笑顔を浮かべた。




「ご静聴感謝します」




恭しく、演奏者は鑑賞者に頭を下げる。
その姿に惜しみない拍手が贈られたのは、言うまでもない。


◆◆◆


「名護さん、これ、お返しします」


テーブルの上に置かれたイクサナックルを、名護が懐にしまい、悠二が頭を下げた。


「すいませんでした。勝手に借りたりして……」
「気にするな、今回は状況が状況だ。――それに、盗ったのはキミではないからな」
「俺にゃまったく覚えがないんですけどね」


名護の非難がましい目に、奏夜は苦笑いを浮かべる。
自分のそ知らぬところで、犯罪者扱いされるのはさすがに嫌らしい。


「言い訳は見苦しいわよ、ソウヤ」
『ヒャーハッハ! ネタは上がってるんでぇってか?』
「ちょっと、どーでもいいのよそんなことは」


シャナが脱線しかけた話を軌道修正し、奏夜を睨む。
悠二も、いつになく真剣だ。


「何もかも、全部、きっちり、説明してもらうわよ、奏夜!」
「……も」
「先に選択肢潰しておきますけど、『黙秘権を行使します』とか言わないでくださいよ!」
「……坂井、お前最近逞しくなったな」
「ええ、お陰様で!」


シャナと悠二の剣幕は相当なもので、やや奏夜も引き気味である。


――戦いが終わり、奏夜、シャナ、悠二、名護、マージョーリー、キバット、キバーラは、人払いが済んだカフェ・マル・ダムールに集まっていた。


人々の混乱は警察の迅速な対応により(『素晴らしき青空の会』が根回ししたらしい)、ひとまず沈静化され、街の住人は元の日常に戻っている。
死者は出ず、こちらの知り合いにも、マスターが「なぜか腰が痛いんだよね~」とぼやいていたこと以外は、被害ナシである(名護が思い切りばつが悪そうにしていた)。


そして現在、シャナと悠二の希望通り、奏夜にキバやその他諸々のことを説明してもらおうと、こうして審問……もとい集会を開いているわけだ。


「ま、まぁ、悠二くんもシャナちゃんも落ち着いて、ね?」
「そーそー、こちらとしてもやむを得ない事情があったりなかったりだったわけで」


キバットとキバーラが二人を宥めるが、逆に火に油を注ぐ結果となった。


「キバーラも知ってたのよね? 奏夜がキバだって!」
「キバットも何で教えてくれなかったんだよ。言う機会はいくらでもあったのに」


思わぬ叱責に、キバットとキバーラはしゅんと頭を垂れた。


『シャナ、坂井悠二、気持ちはわかるが落ち着け』


アラストールが諫め、二人は取り敢えず勢いを静めた。
その様子を見て、奏夜が言う。


「アンタは気付いてたみたいだな、アラストール。俺がキバだって」


放たれた言葉に、アラストールは特に動じた様子もなく答える。


『……ふん。今までの貴様とキバを照らし合わせ、答えに至ったまでのことだ』
「そんな簡単にバレちゃうもんかなー。キバと俺を結び付けられないよう、俺はこんなキャラ立てをしていると言っても過言ではないのに」


嘘つけ。
その場にいた全員がそう思った。


「まぁアレだ。さっき見せた通り、キバの正体は俺だよ。んでもって、ファンガイアの王様……の代行人なんだけどな」
「……じゃあ先生は、やっぱりファンガイアなんですか?」


悠二が恐る恐る、といった風に問う。
それは悠二の中で『奏夜が味方なのかどうか』という質問にも似ていた。


「半分だけ正しい。俺はファンガイアと人間のハーフなんだよ」
「ハーフ?」
「そう、だから俺はキバになれる。人間とファンガイア、どちらでもあるし、どちらでもない。それが俺さ」


奏夜は九九でも唱えるかのように、自分の身の上を説明する。


「だから安心していいぜ。坂井」
「えっ?」
「とぼけんなよ。俺の正体知って、俺が味方なのかどうか分かんなくなっちまったんだろ」


見透かされていた。
決まりが悪そうに顔を俯かせる悠二に、奏夜は軽い調子のまま告げる。


「心配すんなよ、俺は今まで通り、お前らの味方だ。『人とファンガイアの共存』の提唱者が、余所様に迷惑かけられるはずもねーしな」
「じゃあ、なんで私達に正体を隠して来たの?」


今度はシャナが、まっすぐ奏夜を見た。


「やましいことが何もないなら、私達に話してたでしょう? 私達に話さなくて、『弔詞の詠み手』に話したのだっておかしいじゃない」
「………」


奏夜は閉口し、頬を掻いた。


ごまかしは利かない。 直感的に、奏夜はその雰囲気を感じ取っていた。


「……あー」


後ろめたさに苛まれながらも、奏夜は意を決して、重い唇を動かした。





「ぶっちゃけ、言うタイミング外してたから」





『………』


急に静かになったシャナと悠二は、ゆっくりと、奏夜の言葉の意味を理解していく。


段々と、シャナの目元がピクピクと震え出す。
ピシリ、とシャナが触れていた机の一部にヒビが入った。


悠二は破壊衝動にこそ駆られてはいないものの、額に青筋が浮かんでいる。
器用にも、表情はにこやかな笑みのまま。


その場にいた全員が固唾を飲んで見守る中、二人は息を吸い込み、溜め込んだ感情を解放する。






『なんだそりゃあああああああ!!』






「なによそれ! そんな理由で納得できると思ってるの!?」
「さんざん勿体付けた挙げ句、何ですかその微妙なオチ!」
「いやあ、そう言われてもねぇ」


事実は事実だ。
はっきり言って、それ以外に理由が思い付かない。


「マージョリーに正体明かしたのも、ほとんど成り行きだしな」
「そうね。私が初めて会った時、ソウヤはキバになってなかったし」
『んでそのままバトルに突入しちまったもんだから、兄ちゃんも仕方なくキバになったって感じだったからなァ』


マージョリーとマルコシアスも同意する。
要するに、奏夜は特に本腰を入れていたわけではなかったが、極力隠すようにはしていたというわけだ。


「私はてっきり、奏夜くんが何か理由があって隠していたと思っていたからな」
「名護に同じ」
「名護さんとお兄ちゃんに同じ」


名護、キバット、キバーラも、あまり気を払ってはいなかったらしい。
『いつか気付く時には気付くだろう』という雰囲気だ。


『我は一応、それとなく話していたのだがな、坂井悠二』
「うっ……で、でも、あんな遠回しな言い方じゃ分かるわけないだろ」


確かにアラストールは、悠二に奏夜のことを聴かれた際、『キバをどう思う』と聞かれていた。


だが、そこから答えを連想するのは、シャナでも難しかったかもしれない。
――わざとかどうかはさておいて、さっき奏夜の言ったように、キバ=奏夜のイメージは、なかなか浮かばないのだ。


『……………はぁ』


――全てを知り、シャナと悠二は大仰に溜め息をつき、肩の力を抜いた。


「……なんか、どうでもよくなっちゃった」
「だね。いちいち聞いてたら、自分が馬鹿みたいに見えてきたよ」
「おいお前ら、自分から話せとか言っといてそりゃねーだろ」


拍子抜けした、と言外に語る二人に、さすがの奏夜も眉をひそめる。


しかしシャナは、


「だって、全然変わらないんだもの」
「は?」
「キバだってことが分かっても、全然奏夜の印象が変わらないんだもの」


シャナの表情は苦笑いには違いなかったが、僅かな喜びのようなものが感じられた。


「うまく言えないけど、キバが奏夜で良かった」
「うん。今考えてみれば、変に納得しちゃいましたよ。先生はいつも、僕達を助けてくれてたんですね」
「助けるって……んな大層なことしてねぇよ」
「先生はそうかもしれないけど、僕達からすれば、そういうことなんです。シャナもそうだよな」
「――まぁ、謙遜されたら、こっちの立場が無いってくらいにはね」


奏夜に向かって、二人は声を揃えた。




『ありがとう。助けてくれて』




「………」


どうしよう。
顔にこそ出さなかったが、奏夜はかなり戸惑っていた


(すげー嬉しい)


火照った表情を悟られぬよう、奏夜は顔を逸らす。


「あー。そういうの止めようぜ。辛気くさい」


奏夜は頭を軽く掻いた。


「助けるのなんか当たり前だろ。俺はお前らの担任なんだしさ。だからさ、これから俺がお前らを助けても、礼なんか言うなよ。お前らが俺を助けた時も同じだ。
そういう理屈抜きで助け合うのが、“仲間”ってもんだろ?」


ま、要するに。
席から立ち上がり、奏夜はシャナと悠二 に手を差し出した。




「今後ともよろしくな。“シャナ”、“悠二”」




奏夜が二人の呼び方を変えたことが、全てを物語っていた。


改めて、奏夜は認めたのだ。


二人を、仲間だと。
一緒に戦おうと。


シャナと悠二は、込み上げた嬉しさを隠すことなく、笑顔で手を握り返した。


「うん。よろしく、奏夜!」
「よろしくお願いします、先生!」


◆◆◆


「結局学校はサボっちゃったね」
「しょうがないでしょ。封絶も張られてなかったから、操られてた時の記憶はごっそり抜け落ちちゃってるだろうし。授業どころじゃないわ」


今頃は臨時休校よ、とシャナが締めくくる。


マル・ダムールからの帰り道。
悠二はふと、周囲の景色に目線を向ける。
警官の姿をちらほら見かけるものの、御崎市からはようやく混乱が消えつつあるようで、人々がそれぞれの生活に戻ろうとしていた。


あれだけのことがあっても、日常はそう簡単には揺るがない。
悠二はそれがとても頼もしく、そして少し怖くもあった。


(でも今日は、僕も早く休みたいな)


顔にこそ出ていないが、シャナもそうだろう。


色々、驚くことがありすぎた。
そのほとんどに、奏夜が絡んでいるのは笑える話だが。


(――そういえば)


思考が非日常から日常にシフトし、悠二はふと、あることを思い出した。


(あの時――)


ヘルホーネットファンガイアにシャナが拐われた前、悠二は攻撃を喰らった。
そして気が付いた時には、学校の保健室に運ばれていた。


――そう、“運ばれていた”。


「アラストール」
『何だ?』
「あの時、誰が僕を保健室まで運んでくれたんだ?」


アラストールは一瞬沈黙して、


『……紅奏夜だ』
「あ。やっぱり先生だったんだ」


肝心な部分を隠した答えに、あっさり悠二は納得してしまい、以後、この話題を振ることはなかった。


だが、この答えにしろ、嘘は言っていない。


(それに、本当のことを言って、どうなるものでもないだろうな)


――あの時交わした会話は、限られた者にしか通じないのだから。




◆◆◆

――あったかも知れない会話。


『なるほど。俄には信じ難いが、そうすれば全て説明がつく』

「頭の固いお前にしちゃ、案外すんなり信じたな」

『貴様を最初から理解しようとなど思ってはおらんわ。いや、理解しようとしても出来んだろう。なら、最初から全て受け入れてしまう方が利口だ』

「相変わらず気にくわねぇな、堅物魔神。ま、話が早いならそれに越したことはない。
オレが時を渡って“大戦”時代に現れたことと、この身体――ってか、奏夜がオレの息子で、キバだってことを信じてくれりゃあいい」

『誰か他に、それを知っている者はいるのか?』

「マティルダには話したぜ。ヴィルにも話したが、ありゃ信じてなかっただろうな」

『あれだけ毛嫌いされていれば、それも致し方無かろうな。あの跳ねっ返りと我が、何度『万条の仕手』から貴様に関わる愚痴を聞かされたか……』

「そういや、ヴィルはどうしてんだ?  てっきり一緒かと思ってたんだが」

『いや、あの子が独り立ちした時に別れたきりだ』

「独り立ちね……。じゃあ、お前もヴィルもメリヒムも、約束を果たしたわけだな」

『ああ。だが、我にしろ、『万条の仕手』にしろ、“虹の翼”にしろ、きっかけを作ったに過ぎん。それが実を結ぶかどうかは、あの子次第だ』

「ああ、それについちゃ大丈夫だろ」

『?』

「そいつ――確か悠二だっけ? あの嬢ちゃんとそいつが奏でる音楽、お前とマティルダが奏でた音楽にそっくりだ」

『……こ奴はまだ、“そういった者”に足る器ではない』

「はっ、過保護者」

『黙れ軟派が』

「……」

『……』

「……っくく」

『……ふ、ふ』

「変わんねー」

『変わらんな』

「いいことだから、別に構わないんだけどな。……さて、オレはそろそろ行くぜ。約束は守れよ、堅物魔神」

『お前が“大戦”でやったことを、紅奏夜には言わない、だったな』

「頼むぜ。代わりにオレが、あの嬢ちゃん助けるのを手伝ってやろう」

『……嫌な予感しかせんが』

「気のせいさ、好意はありがたく受け取っとけよ。じゃあな堅物魔神、また会おう」

『ああ、できれば、三度目は無いとありがたいがな……待て、何故我を持つ。ぬぉっ!? 止めろ、わざとらしく枕の下に入れていくな――!』




――こうして、過去と現在を繋ぐ橋は再び閉じた。


だが、全ては起こるべくして起こる。


運命の鎖は再び、紅蓮と牙を引き合わせるのだ。




◆◆◆


奏夜が去った後、謎の噴水広場。
音也は噴水の縁に腰掛け、高層ビルを眺めていた。


「別れは済んだようですね」


と、涼やかな印象を受ける声を、音也の耳が捉える。


「別れじゃないさ。あいつは、俺の魂を立派に受け継いでくれた。奏夜がオレの魂を未来に繋いでくれる限り、オレは常にあいつと共にある。――お前も、そうだろ?」
「……ええ。その通りです」


ビルから零れる光と月明かりが、暗闇から現れた声の主を照らし出す。


音也とそう年齢は変わらない青年だった。


髪は音也と同じ、茶髪。
その下にある表情は物憂げだが、端正な顔立ちも手伝ってか、むしろミステリアスな雰囲気を醸し出している。
白いセーターにマフラー。青いジーンズが、背の高さを引き立てていた。


「で? 今日はどうした。お前が来たってことは、何か計画に狂いが出たのか?」
「ええ。少々……いえ、かなりマズい状況です。“世界の破壊者”が、九つの世界のライダーを、すべて仲間にしてしまいました」
「――世界の破壊者は、全てのライダーと戦い、消えゆくライダー達の歴史を繋ぎ、人々の記憶に刻まなければならない。だったな」
「はい。大ショッカーからは、アポロガイストが動いているようです。世界の融合は更に加速するでしょうね。――このままでは、『完全なる融合を果たしたこの世界』でさえも、滅びの現象に呑み込まれる可能性があります」
「予断を許さない状況ってわけか……。よし、オレが“あいつ”を見極めてくるとしよう。“あいつ”に、旅を続ける資格があるかどうかをな」
「お願いします。ではこれを」


青年が手渡したものは、マゼンダと黒でカラーリングされたタッチパネル式の携帯端末だった。


「世界の破壊者にその資格があるなら、これを渡して下さい」
「わかった。オレはどの世界に渡ればいい?」
「彼は今、光夏海の世界の裏側――ネガの世界に向かっています。先回りできるよう手筈を整えますから、その間に準備を整えてください」
「ネガの世界……。確かダークライダーの世界だったな」
「ええ。あなたには仮の身体と『闇のキバ』の力を与えます。今後のためにも、ネガの世界を支配し、ダークライダーとモンスターを抑えておくべきでしょう」
「悪役を演じろってワケか。嫌な役回りだぜ」


不服そうに、音也は鼻を鳴らす。


「世界の破壊者が使命を全うしさえすれば、世界は再生されます。少し間だけ耐えてください」
「やれやれ、人気者はツラいな」


おどけるように言いながらも、音也はシニカルな笑みを作る。


「ま、仕方ないか。――他ならぬ“息子”の頼みだからな」


青年は少し驚いたように目を見開く。
無表情だった顔に、僅かな笑みが浮かんだ。


「――どの世界にいても、あなたは変わらないんですね」
「はっはっは、オレ様の天才性は、世界すら越えるのさ」


青年に見送られ、音也は地面から現れたオーロラの中に消えていった。


残された青年は、ふと夜空を見上げる。
そこには、先ほど奏夜が見たビルの代わりに、無数の青い惑星――地球が瞬いていた。


「……この世界を頼みましたよ。紅奏夜――僕に最も近い、仮面ライダーキバ」
  1. 2012/04/03(火) 21:49:27|
  2. 仮面ライダーキバ/BLAZING.BLOOD
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