紅蓮の牙

二次創作中心。仮面ライダーキバと灼眼のシャナのクロスを連載中。

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第零話・プレリュード/覚醒の夜.後篇


気絶状態から覚醒した奏夜は、休む間もなく街を駆け回っていた。


「はぁ、はぁっ……くそっ!!」


苛立ち紛れに舌打ちし、辺りに目を走らせていくが、恵の姿はない。
あんな目立つ化け物と一緒にいるのだから、誰か目撃者がいてもおかしくはない。
しかし相手はファンガイア。証拠を残さない完全犯罪はお手のものだ。


「おい!」
「は、はいっ! なんでしょうか?」


近くにあった弁当屋の店員に声をかける。
人嫌いだなんだと言っている場合じゃない。


「このあたりで怪しいヤツ見かけなかったか!?」
「あ、怪しい人ですか? さ、さぁ……私は今日、朝からずっとここにいましたけど」
「おーいバイトくーん、ちょっとこっち手伝ってくれー!」
「あ、はーい! あの、お役に立てなくてすみません」


ぺこりと頭を下げ、店員は弁当屋の中に消えていく。
時計を見ると、気絶時間込みで一時間は過ぎている。


「マズいな……早くしないと」


奏夜はまた駆け出す。
商店街から離れ、どんどん人影が消えていくが、肝心の恵だけは何処にも見あたらない。


「畜生、どうしろってんだよ……」


焦りと苛立ちをミックスさせながら、奏夜は御崎市外れの雑木林に差し掛かる。
今は使われていない幽霊物件が乱立し、恵を連れ去ったのなら、隠し場所にはもってこいなのだが……。


「うぉーい、奏夜ぁ――!」


パタパタと小刻みに聞こえてきた羽音。
飛来した金色の影は、奏夜のよく見知った相棒の姿。


「キバット!!」
「ふいー、ようやく見つけたぜぇ。こんな町外れで一体何やってんだ?」
「一切合切全部後だ! お前、ここに来る途中までにファンガイア見かけなかったか!? 早くしないとあの人が!」
「あの人? 誰のことだよ」
「あーもう! 前に風呂場で話したろう! お前が言ってたモ、モデ……」
「モディリアーニ?」
「多分それだ! お前がモディリアーニがどうとか話してた時!」
「……ああ! お前のマスク取ったって女のことか!」


キバットは羽の先で器用にポンと手を打つ。


そして切羽詰まった奏夜の様子。そしてブラッディローズの覚醒から、キバットは大体の事情を察した。


(にゃるほどねぇ……)


僅かな時間で変わるもんだ。
本当に成長する兆しはどこにでも転がっている。
だがキバットは、敢えて聞いた。


「探す分には構わねぇけど……いいのかよ?」
「は?」


奏夜は本気でわからないという顔をした。
ほんの数時間前まで、浮かべなかっただろう感情である。


「お前、そのモディリアーニの姉ちゃん助けようとしてるみてーだけど、もし助けたら、今までのお前にゃ戻れねぇぞ?」


奏夜はあからさまに表情を曇らせ、口を閉ざした。


「誰にも関わらない。自分だけが世界の全て。モディリアーニの姉ちゃんを助けるってことは、今までのお前を全て否定するってことだぞ。
それだけじゃない。お前は今まであまりに排他的だった。今更他人を受け入れるなら、そのツケを支払わなくちゃならない。それ、とんでもなくツラいことだと思うぜ」


それでも。





「助けるのか? その姉ちゃんを」





「……」


奏夜はぎゅっと拳を握り締める。
改めて、自分が今までどういう人間だったのかを自覚させられた。
紅奏夜を理解しようとしてくれた人達を全て拒絶し、容赦なく傷付けてきた。


わかっている。
今頃になって誰かを助けても、これまでの罪状は消えない。ただ、苦しいだけだ。


けど。それでも。




「…………助けるよ」




小さく、しかしハッキリとした口調で答える。


「正直、まだ人間は苦手だ。ファンガイアと敵対するのだって凄く怖いし、そもそも助けられるかどうかだって怪しい」


どう見てもリスクしかない行動。
まさに奏夜の嫌いな正義のヒーローの如き行いだ。


「けど、動かなきゃいけない気がするんだ」
「ほーう?」
「俺、さっき初めて、心の底から人を助けたいって思ったんだ。そしたら、ブラッディローズの音色が聞こえた。『戦え、戦え』って」


あの音色が聞こえてきた時から、胸の鼓動が止まらない。
奏夜の心は、名前のつけられない衝動で満たされていた。


「正義のヒーローになるつもりはない。でも、俺の心が言ってるんだ――ここで動き始めなきゃ俺、絶対に後悔する!」


制御不能な感情が、戸惑いを焼き払い、昨日までの自分を忘失させていく。
生まれ変わっていく自分を止められないまま、奏夜の『心の音楽』は、一際大きな波動を生み出した。
世界中に響き渡るかのように。
新しい自分の目覚めを伝えるかのように。





「俺がどれだけ変わったって構わない!
ただ俺は、あの人を助けなきゃいけない! いや、助けたいんだ!」





魂の咆哮と共に吹き上がった魔皇力。
奏夜が忌み嫌い、抑えつけてきた力が今、再び覚醒した。


(文句なしの合格だな、真夜)


ニヤリと笑うキバット。しかし不敵な仕草とは裏腹に、その表情はどこか嬉しそうでもあった。


「よーし、お前がそこまで言うんなら、このオレ様が力を貸してやるよ」
「……力?」
「ああ。真夜から預かってた、ファンガイアにも負けない特別な力だ」
「母さんから、預かってた力? おいキバット、どういう……」


奏夜が尋ねるよりも早く、キバットは奏夜の左腕あたりにまで降下した。
その口からは、鋭い犬歯が覗く。


「ファンガイアに受け継がれし至高の魔装具『黄金のキバの鎧』。これより継承の試練を執り行う!!」




――ガブッ!!




膨大な魔皇力――アクティブフォースがキバットの牙を介し、奏夜の中に流れ込んでいく。力の注入に伴い、奏夜の頬にはファンガイアと同じ、ステンドグラスの紋様が浮かび上がった。


「う、あああああああぁぁぁぁぁぁ!?」


焼け付くような痛みを感じながら、奏夜の意識は遠のいていった――


◆◆◆


そこは、漆黒の闇が支配する世界。
美しい三日月が、下界の人間を嘲笑うかのように浮かんでいる。
そして、月が放つ孤高の光をバックに立つのは、禍々しい容姿を持つ異形。


「誰、だ」


異形は答えない。
蝙蝠を模した仮面越しに此方を見続けるだけだった。
やがて、銀色の甲冑を揺らしながら、異形はゆっくりと近付いてくる。
淀みない動作で、血に染まったように赤い手が差し出された。


「……」


一瞬、躊躇いに手が震えた。
弱い感情と戦いながら、恐る恐る手を伸ばし、相手の手をしっかりと握る。
異形は頷くと、仮面の下からくぐもった声が聞こえてきた。





「継承の儀は終わった。闘おう、共に」





うん――頼りない主だけど、よろしく。




◆◆◆


御崎市郊外にある寂れた礼拝堂。
若い男女が永遠を誓う祭壇の傍らには、気を失い、黒い気品溢れるドレスを纏った恵が、花の詰まった棺の中で眠っていた。やはりダメージが大きかったのか、気絶から目覚める様子はない。


「おぉ――! 美しいぃぃぃぃ……! まぁさに天使だぁ……」


その側には、歓喜に身体をくねらせるスパイダーファンガイア。
ドレスを着た恵の美しさには誰もが同意するだろうが、スパイダーファンガイアの喜び方は、完全に変態のそれだ。


「さぁて、衣装も整ったし……遂に、遂に念願の結婚式をぉぉぉぉぉぉぉ!」


一際オーバーな動きをしつつ、スパイダーファンガイアは顔と思わしき部分を、眠り続ける恵に近付けていく。


「めぇぐみぃ……これでお前は俺のものだ――」


ステンドグラスから零れ落ちる月光が照らす礼拝堂。
歪んだ誓いが、神の下で交わされる――






ガッシャーーン!!





「ヒッ!」


突然の轟音。
礼拝堂上部にあるステンドグラスの窓が次々と割れ、彩りの破片がぱらぱらと落ちていく。
まるで虹の雨だ。


「な、何が……!」


スパイダーファンガイアに思考の余裕は与えられなかった。
割れた窓から、無数の黒い影が、礼拝堂になだれ込んで来たからである。


「ヒッ、な、なんだこりゃあ!?」


影の正体は、無数の蝙蝠だった。
夜の獣達はスパイダーファンガイアの視界を奪い、再び漆黒の闇に消えていく。


「くっ、一体何がどうなって……っ!?」


言いかけて言葉を失う。
いない。さっきまで棺で眠っていたはずの花嫁――恵がどこにもいない。


「恵!!」


慌てて外に飛び出したスパイダーファンガイア。
眼前にある荒れ果てた広場には霧が漂い、より不気味さが募っていた。


「!! 誰だ!!」


ファンガイアの鋭敏な聴覚が、物音を捉えた。
霧は段々と彼方に消え、仇なす敵を映し出す。


「貴様は……!」


愛しの恵を両手に抱き抱える男――紅奏夜を、スパイダーファンガイアは憎しみを込めた目で睨む。


「何故ここが分かった!?」
「聞いただけだ。この人の――恵さんの『心の音楽』をな」


そっと、恵を近くの柵に寄りかからせながら、奏夜は抑揚のない声で告げた。


「一応忠告しておく……。死にたくなければ、さっさと消えろ」
「ふざけるな! 恵は俺のものだ、人間風情が出しゃばるな!」
「そうか。なら……」


手加減できなくても恨むなよ。
奏夜はゆっくりと、その左手を掲げた。


「キバット!!」
「おう!!」


飛んできたのは金色の蝙蝠、キバットバット三世。


「よっしゃあ! キバッて、行くぜ!!」


キバットを右手でキャッチし、そのまま左手を強く噛ませる。




「ガブッ!!」




牙から注入されるアクティブフォース。
鎖と共に巻かれる真紅の止まり木『キバットベルト』。
そして、頬に浮かび上がるステンドグラスの紋様は『破壊の魔帝』覚醒の証。


突如、スパイダーファンガイアの顔が恐怖に歪んだ。
先刻まで狩る側の目だったそれは、更なる強者に狩られる獲物でしかない。


「き、貴様……それは、その、力は……!!」


奏夜は研ぎ澄まされた眼差しで、スパイダーファンガイアを睨んでいた。
自らの力となった『鎧』を保有するキバットを手前に突き出し、奏夜は叫ぶ。





「変身!!」





キバットベルトに逆さまに止まったキバットの瞳が点滅し、円環状のウェーブが巻き起こる。


変化はそれだけではなかった。
光で構成された鎖が、奏夜の身体に巻き付いていく。


じゃらり、と鎖が軋み、まるで、生まれた力に耐え切れなくなったかのように、光は弾け飛んだ――


◆◆◆


(……う)


暗い夜の冷たさが身を貫く。
背中に堅い感触。
少なくとも家にいるわけではないのは分かった。
首を僅かにもたげると、ぼんやりと古めかしい教会が見える。


(なんで、こんなとこに……)


寝起きで動作不良を起こす頭を全力で回しながら、恵は今までのことを思い出していく。


(……そうだ。私、あのファンガイアに負けて、気を失って……)


身体を起こそうとするが上手くいかない。ダメージは大きいようだ。


(……っそうだ。あのコは……)


さっきまで一緒にいた青年。
自分が無事だからといって、彼が無事である保障はない。
段々と意識が覚醒し、それに伴い、霞んでいた目の視力が戻っていく。
――庭園の中心部。対峙する2つの影。


一人はスパイダーファンガイア。





そしてもう一人は――





「……っ!!」


恵は言葉を失った。
その瞳に飛び込んで来たのは、血の如き真紅の外皮。
重厚感溢れる目映い銀色の甲冑。
夜の闇の中にあっても、狩り人の鋭い光を失わない、蝙蝠を模した仮面。


(あれ、は……まさか!!)


間違いない。
その名をファンガイアに轟かせ、リーダーである嶋からも、幾度となくその危険性を聞かされてきた『ファンガイア以上の脅威』。





「キバ……!!」




全てを無に帰す破壊の魔帝。
その存在が今、恵の目の前にいた。



◆◆◆


「ハッ!」


両腕を大きく広げた独特の構え。
重量感漂う鎧からは想像もつかないスピードで、キバはスパイダーファンガイアに真っ正面から突っ込んでいく。


「グッ……、うぉぉぉ!」


思わぬ敵の出現に怯みこそしたが、スパイダーファンガイアも負けるわけにはいかない。
花嫁を取り返すべく、こちらも小細工抜きでキバを迎え打つ。


―-ガンッ! 
生物同士が奏でるとは思えない重厚な音が激突する。
拳がぶつかり合ったことを認識した瞬間、両者はすぐさま次の攻撃に転じる。


「はっ!」
「しゃあっ!!」


拳と脚の壮絶なラッシュ。間合いをとったかと思えば、次の瞬間には距離が詰まっている。人外としての強大な力が、夜の暗闇の中でしのぎを削っていた。
激しさを増す戦いは、雑木林に場所を移していく。


「ふっ!」


未だに続く攻防戦の最中、キバは突如スパイダーファンガイアに背を向け、彼の拳を回避しつつ、鮮やかな宙返りを決めた。
しかし、それは防御を優先させての行動ではない。
キバは空中にある脚を、近くに立つ木の枝に引っ掛け、そのモチーフに恥じぬコウモリのように、逆さまの状態でぶらさがったのだ。


「はぁぁぁぁっ!」
「ご、はっ!」


宙吊りから、スパイダーファンガイアへの猛烈なパンチの嵐。
雑木林に移動したことをすぐさま駆け引きの中に取り入れる手腕が、キバの戦闘センスを物語っている。


「クッ……出でよ!」


肉弾戦では不利と判断したのか、スパイダーファンガイアは左腕に魔力の流れを集める。すると、左腕のステンドグラスの外皮が輝き、ぱらぱらと細やかな破片を落としていく。
落ちたガラスはひとつの形として集束し、一本の長剣を生成した。


「はっ、せいっ!」


鈍く輝く剣が振り抜かれる。伸びたリーチにキバは一旦距離を取るが、攻守が逆転してしまったのは痛い。キバも徐々に追い詰められ、逃げ場を失っていく。
ふいに、背中に何かが当たる感覚。
木が邪魔で後退できない、追い詰められた。


「ハァッ!」
「ぐっ!?」


生まれたチャンスに、キバへと浴びせられる無数の斬撃。
斬られた部位の鎧からは紅い火花が散り、装着者へのダメージも着実に蓄積されていく。


「トドメだぁ!」


勝利を確信し、スパイダーファンガイアは最後の一撃を放つ。


――ドスッ!!


申し分ないスピードで突き出された鋭き刃が、キバの胴体を貫いた。


「あっ!!」


キバを追いかけてきた恵が、息を呑む。
スパイダーファンガイアに勝利の余韻が、恵に「まさか」と思う気持ちが、それぞれ錯綜する。
しかし、


「へっへっへ~~!」
「何ィ!?」


必殺の一撃にも関わらず、キバには傷一つ無かった。
ベルトに止まっていたキバットが、刃を口に咥えることで防いでいたからだ。


「じゃんにぇん(残念)でした!」
「はぁっ!!」
「ごふっ!?」


驚愕に注意力を削がれたスパイダーファンガイアは、キバの強力なストレートをモロに食らう。
木々を薙ぎ倒しながらもその勢いは止まらず、木々の切り開かれた広い伐採所まで、スパイダーファンガイア吹き飛ばされてしまった。


「ぐ、おのれぇ……!」


悔しさに歯を軋ませるが、ダメージは大きい。
動けぬスパイダーファンガイアの前に、甲冑が擦れるような音を響かせながら、キバが近づいてくる。
月明かりを浴び、敵を冷たく見下すその姿は、まるで処刑人だ。


キバは静かに、ベルトのサイドケースから、水晶のように輝く笛『ウェイクアップフエッスル』を取りだし、ベルト中央部のキバットにそれを咥えさせる。


「よし、行くぜぇ!! 『WAKE.UP!』」


ベルトから外れたキバットはキバの周囲を飛び回りながら、高らかにフエッスルを吹き鳴らす。まるで夜の静寂を切り裂くように。


「ハァ〜〜〜ッ!!」


キバが両手をクロスさせた途端、何処からともなく立ち込めた紅い霧が、夜空に立ち上っていく。
すると、半円だったはずの月が突如、キバフォームの力を最大限にまで発揮できる三日月へと変貌する。
世界の摂理以上に優先される力。その恐ろしさとは裏腹に、夜の漆黒に浮かぶ三日月は妖艶な美しさを放っていた。


「ハッ!」


キバが右足を振り上げると、周囲を飛び回っていたキバットが、右足に装着されている甲冑『ヘルズゲート』の鎖――否、強大な力を抑える封印を解き放つ。
地獄の門が開かれ、顕現するは悪魔を思わせる赤い翼。
残った左足に力を込め、天高く飛び上がるキバ。真紅の両翼は彼を夜空へと誘っていく。
三日月をバックにキバは空中反転。スパイダーファンガイアへと狙いを定め――




「ハァァァァァァァ―――ッ!!」




勢いをつけての急降下攻撃。
天より闇を裂く必殺キック『ダークネスムーンブレイク』が、スパイダーファンガイアに叩き込まれた。


「ぐっ、おおおおおおおおお!?」


スパイダーファンガイアは正面からそれを受け止めるが、凄まじい勢いには勝てず、土埃を上げながら後退していく。
まずい。このままでは――!!


「うっ、あああああ―――!」


『逃げ』へと転じる判断はすぐに下された。
渾身の力でスパイダーファンガイアは身体をよろけさせ、ダークネスムーンブレイクのプレッシャーから逃れる。腕が深く抉られはしたが、命には代えられない。


「!!」


キバが驚愕するも、発動した技は方向転換できない。
空振りに終わったキックの力は大地へと叩き込まれ、コウモリを模したキバの紋章を、クレーターとして遺すだけに終わった。
一応周囲を見渡すも、既にスパイダーファンガイアは逃げ延びた後だった。


「……逃した」
「じゅーぶんじゅーぶん。犠牲者もいねーし、初めてでこれだけやれりゃあ上出来だ」


ふうっ、と一息入れるキバ。しかし、難はまだ去っていなかった。


「――キバ」

振り向くと、そこには恵が立っていた。こちらに突きつけられているのは、銀色の銃器・ファンガイアバスター。
彼女の瞳には驚愕と恐怖の二つが宿っている。


「動かないで」
「……」


キバは動かない。
なめられているのか。自分など、簡単に消せるという意思表示か。
恵は内心冷や汗をかきながら、キバと対峙する。


「……うっ」


突如、キバの身体がふらりと揺れ、地面に倒れた。
魔皇力強化による負担が身体に襲いかかり、キバの鎧も強制解除を余儀なくされる。


「……えっ?」


これにはさすがの恵もきょとんとする。
恐る恐るといった風に、キバがいたはずの場所に倒れている人影へと近づいていく。
やがて月光が、キバの正体を映し出す。


「! キミ……!」


そこにいたのは、ついさっきまで自分と一緒にいた青年――紅奏夜が倒れていた。
傍らには、奇妙な金色のコウモリ、キバットが「お、おーい。大丈夫か奏夜~!」と声をかけ続けている。


「そんな、キミが……キバ?」
「う……」


次から次へと襲い来るサプライズの連続に混乱する恵だったが、すぐに我に返る。
キバだなんだというよりもまず、倒れた奏夜へのケアが最優先ではないか。


「ちょ、ちょっとキミ! 大丈夫!?」
「う……、は、は……」
「は?」


何が情報になるか分からない。恵は必死に奏夜の声を聞き取ろうとする。


「腹、減った……」
「……」


……何のことはない。ただのベタ過ぎる欲求だった。




出会いの夜は明ける。
覚醒の時を、告げるかのように。




◆◆◆


――後日。市内某所のトレーニングジムにて。


「キバが現れたとは、確かなのか?」
「はい。私もこの目でキバを見るのは初めてなのですが……」


恵が話しているのは『素晴らしき青空の会』リーダー、嶋護。彼女の上司にあたる男だ。


「そうか……わかっているとは思うが、名護君には言うな。彼が聞けば、真っ先にキバを倒そうとするだろうからな」
「はい。……あの、嶋さん」
「なんだ」
「嶋さんは以前、キバをファンガイア以上の脅威と言っていましたよね?」
「……ああ」


嶋は重量感のあるバーベルを持ち上げながら答える。


「だが私も、キバに関して詳しいわけではない。相手のカードがわからない以上、こちらからカードを切るのは危険だ。
キミの情報を疑うわけではないが、キバに関しては、しばらく様子を見た方がいいだろうな」
「……はい。了解しました」
「? どうした。何か言いたいことがあるのか?」
「いえ、何でもありません。……失礼します」


ぺこりと頭を下げ、恵は嶋に背を向けた。
嶋が首を傾げたのがわかったが、努めて平静を装い、トレーニングジムの扉を開けて外に出た。
歩きながら、恵は考える。


(……どうしよう)


嶋には言えなかったこと。
知ってしまったキバの正体――紅奏夜。


素晴らしき青空の会の一員としては、嶋に報告するべきだっただろう。人類の脅威を野放しにはできない。
だが、奏夜がキバであると知れれば、最悪彼は処分される。
彼の普段の姿を知っている手前、それは嫌だ。


「はぁ……ホントどうしよう」


慣れないダブルバインドに重くなる頭で、恵はなんとか『マル・ダムール』に辿り着く。
コーヒーでも飲んでスッキリしよう。
そう考えての行動だったが――




『……あ』




店の扉を開けた瞬間に後悔した。
カウンター席に誰であろう、さっきまで自分の脳内の大部分を占めていた青年、紅奏夜が座っていたからだ。





「あ、恵ちゃん恵ちゃん。ちょーど良かった」


奏夜と話していたらしいマスターが、恵に笑いかける。


「あの、マスター。その子は……」
「うん。なんか恵ちゃんに用があるんだってさ。――ほらキミ、恵ちゃん来たよ」


マスターに促され、 奏夜は立ち上がって恵を凝視する。
どこか居心地が悪そうな、オドオドした顔つきだった。


「……あの、えっと……」
「……なによ。言いたいことがあるなら、はっきり言いなさい」


もしかして、キバについてだろうかと勘ぐりながら、恵は言う。奏夜は尚も唸り続けていたが、ややあって、恵を真っ直ぐに見据え――深々と頭を下げた。


「その……ごめんなさい!!」
「えっ!?」


いきなり謝られた。
しかもあまりにキッチリとした前屈姿勢付きで。


(な、なに!? なんでいきなり謝られてるの私!!)


むしろ助けてもらった手前、自分は礼を言うべき立場だ。
戸惑う恵に、奏夜は傍らにあった包み紙に入った箱を差し出す。


「あの、これ……ひ、ひどいものですが」
「あ、うん。ありがとう……」


ちなみにこの場合、「つまらないものですが」というのが正解である。


「でも、どうしたのキミ。いきなりこんなお詫びの品まで持って……私、何も謝られるようなことされてないわよ?」
「いえ……あなたがそう思ってなくても、その、俺自身のけじめって言うか……」
「――もしかして、今までのつっけんどんな態度のお詫びってこと?」


奏夜は押し黙る。
図星だったらしい。


「俺、あれからいろいろ考えたんです……。変わるには、どうしたらいいのかって。そしたら、生まれた時からの親友が『まずは歩み寄ることから始めろ』って言ってくれて……だからまずは、今まで迷惑をかけた人に謝ろうって、ここに来たんです……」


あの不遜な態度が欠片も見られないほど、奏夜は緊張しているように見えた。
恵はようやく気が付く。恵が会話の中で見抜いた奏夜の本質――奏夜は今、本当の自分と向き合えるように、始まりの一歩を踏み出そうとしているのだ。


「だ、だからその……ひ、ひどいこと言って、ごめんなさい。図々しいお願いだって、分かってます。でも、もしまだ許してくれるなら――」


掌が、恵に向けて差し出された。





「俺の、友達になってください……!」





目を伏せて、掌を震わせて、奏夜は恵の返事を待つ。


「……ふふっ」


恵はついつい笑ってしまう。
なんだこれは。さっきまで悩んでいた自分がバカみたいじゃないか。
何がキバだ。何が人類の脅威だ。


(こんないいコが、人を滅ぼすわけないじゃない)


今目の前にいるのは、臆病で、不器用で、けれど変わるために精一杯の勇気を示している、ただの男の子。
そして多分、これから長い付き合いになるであろう――友達だ。


何の迷いもなく、恵は奏夜の手を握り返す。
顔を上げた奏夜を真正面に見つめ、恵は笑顔と共に言う。


「これからよろしく。奏夜くん!!」


奏夜の表情はみるみるうちに喜びに彩られていく。
――それが、奏夜が恵に見せた最初の笑顔だった。


「はいっ! よろしくお願いします、恵さん!!」






――全てはここから始まった。
これはやがて、紅蓮の炎を引き寄せることになる運命の牙。
その誕生の記録である。


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  1. 2012/05/31(木) 11:06:33|
  2. 仮面ライダーキバ/BLAZING.BLOOD
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第零話・プレリュード/覚醒の夜.中篇

俺がこの力を自覚したのは、小学生の頃だった。


当時の俺は、いじめから守ってくれる兄さん(この頃はまだ、兄さんだとは知らなかったけれど)がいなくなって、再びいじめの渦中に立たされていた。
所詮は悪戯の域を出ないものであり、学校の教師も手を出さず、俺自身も我慢できていたと思う。


だが、あの一度だけは違っていた。
いじめっ子の一人が、からかい目的で俺のバイオリンに落書きをしたのだ。
そのバイオリンは、音楽を習い始めた俺に、母さんがプレゼントしてくれた大切な宝物であり、顔も知らない内に死んでしまった父さんと自分を繋ぐ、唯一の架け橋だった。


――そして事は起こった。吹き上がった怒りをトリガーに、俺の中で眠っていた魔力が覚醒したのである。


幸いにも、そのいじめっ子は軽傷で済んだが、俺と母さんはその地を後にすることを余儀無くされた。
――俺を「化け物」と恐れる人々の視線を、背中に受けながら。


「奏夜、あなたは悪くないわ。悪いのは、私……」


自分がしたことを知り、泣きじゃくる俺を、母さんはただただ抱き締めてくれた。


今にしてみれば、母さんは俺以上に、自責の念を抱いていただろう。
母さん自身が宿す血を――人としての生き方を許さない異形の血を、俺に受け継がせてしまったことに。


だが勿論、子供だった俺は、そんな母さんの想いに気付かず、一つの結論を出した。


――俺が絶対に誰かを傷付けるなら、俺はずっと一人でいればいい。
誰も近寄らないように、俺がみんなから怖がられるやつになればいい。




そう。まるでTVに出てくるような、ただヒーローに淘汰されるような、『化け物』になればいい、と。




◆◆◆


ぱち。
目を開くと、見慣れた天井。右側には昨日まで睡眠の友としていた筈のベッド。
どうやら寝返りを打って落下してしまったらしい。


「……起きます」


固まった身体をほぐし、今日の新聞を取りに行こうと、テーブルの上にあったマスクとゴーグルに手をかける。





――ほら、全然平気じゃない。なーにがこの世アレルギーよ。気のせいよ気のせい。





「………」


脳裏によぎるのは、あの不愉快な女の言葉。
伸ばした手が、不自然な形で止まる。
――いや、関係ないだろう。あんなどこの馬の骨とも知れないような女の言うことなど気にする必要はない。今まで培ってきた『紅奏夜』という人間の在り方を、たった一日のイレギュラーを原因にひっくり返すつもりか。


「~~~!!」


凄まじい葛藤の中、奏夜はこの世アレルギー対策グッズに腕を近付けたり、引っ込めたりを繰り返す。
端から見ると、その光景は拙いパントマイムようで、甚だ異様な光景である。


「何やってんだ奏夜のヤツ……」


親友の奇行を目撃したキバットは、軽く奏夜との付き合い方を考え直したくなったという。


◆◆◆


結局、マスクとゴーグルは着けて出掛けることにした。この世アレルギーを克服した――いや、してしまったことを認めたくないが為の、見苦しい抵抗である。


(不幸だ……)


某幻想殺しの常套句を心中で呟きながら、奏夜は休日で人も多い通りを歩く。
春も近いこの季節、ゴーグルはともかくマスクをしてる人は多いので、奏夜としては気兼ねなく外出できる。しかし、胸に残るモヤモヤは依然として晴れない。


(俺がこの世アレルギーじゃない、か……)


キバットに言った通り、奏夜は少なからずショックだった。
そもそも『この世アレルギー』はある意味、奏夜自身が望んで生み出したとも言える体質だ。
誰も傷付けたくない、だから誰とも関わりたくない、世界と繋がらなければ、誰も傷付かない。恐れから来る拒絶こそが、この世アレルギーの発生要因だからである。


だが奏夜は『この世アレルギー』を社会的なハンディだと思ったことは一度もない。
むしろ、己の本質とも言える『化物』を封じ込める、鉄壁の監獄だと解釈していた。


この体質を知った時は嬉しかったな。
歪んだ感性だと分かっていつつも、奏夜はつい思ってしまう。
だって、これさえあれば、誰も傷付けずに済む。内に秘めた獣を飼い慣らし、この汚れた世界を生き抜いていけると。


――まぁそれも、あの奇妙な女に、完璧に閉じたはずの扉をこじ開けられるまでの話だったが。


目の前の信号が青に変わった。
ばらばらに歩き出す通行人に混じって、奏夜も足を進める。


(公園で、材料集めでもするか)


物憂げな思考を止める方法は、やはりヴァイオリンしかなさそうだ。
本日のスケジュールを決め、奏夜は公園方面に進路を取る。


――と、反対側の歩道に渡ったところで、子供とすれ違った。小学校高学年くらいの男子で、サッカーボールを片手に、休日を満喫しようとしている。


(子供は呑気なもんだな)


こっちの悩みがどうでもよくなる――否、むしろ子供の無知さが馬鹿馬鹿しくなる、と言うべきか。
マスクとゴーグルの下の表情を僅かに歪め、奏夜は子供から目を離す――はずだった。

「……?」


音楽家の鋭敏な聴覚が、不愉快なノイズを捉える。
奏夜は、横断歩道に交差する車道の先へ顔を向けた。


連なって止まる自動車。その間を縫うようにして、一台のバイクが突っ込んで来たのだ。
乗り手はガラの悪そうな若い男。青信号にじれでもしたのだろう。アクセルを緩めずにマシンを進めている。


魔のホイールが進む先には、先程の小さな男の子。――あの様子では、バイクに気付いていない!!


「っ!!」


余計な理屈を考えるより早く、奏夜は駆け出していた。
地を強く蹴り、一瞬で子供とバイクの間に割って入る。
ようやく互いの存在に気が付いた子供と若者をよそに、奏夜はバイクに向かって手を突き出した――


◆◆◆


「……うそ」


事の一部始終を、恵は反対側の歩道から見ていた。
恵もまた、バイクと子供の存在を認知し、事故を止めるべく飛び出しかけていた。
しかしそれよりも更に早く、反対側にいた奏夜――恵にとっては、昨日出会った奇妙な少年という認識だが――が横断歩道に飛び出し、あのままなら確実に、子供をひき殺していたであろうバイクの前に立ちはだかったのだ。


――そして今。
少年はバイクを“片手”で止め、あろうことか、バイクの前輪を力任せに“捻り切った”。


(回転してるホイールを掴んで止めて、しかもフレームごと捻り切るって……!!)


常識的に考えて有り得ない光景に、恵のみならず、集まってきた野次馬達も唖然とする。

当の奏夜はというと、バイクのホイールを無造作に投げ捨て、最早粗大ゴミと化したバイクのグリップを握り続ける若者を睨み付けた。


「……俺も人のこと言えるほど立派な人間じゃねぇが」


地獄の底から聞こえてくるような重低音に、若者は「ヒッ!」と息を呑む。


「交通ルールくらいは守れよ。ゴミが」
「は、はいぃぃ!!」


壊れた玩具のように首を縦に振り続ける若者を余所に、奏夜は後ろの子供を見た。
自分に迫っていた脅威を知り、横断歩道にへたり込みながら震えている。


「…………大丈夫か」


奏夜は「自分のキャラじゃない」と思いつつ、躊躇いがちに男の子に声をかける。
男の子は小さく、こくりと頷いた。瞳の奥には、人外の技を見せた奏夜への、明らかな『畏れ』があった。


「………ちっ」


別に慣れた反応ではあるが、いい気はしない。
舌打ち混じりに、奏夜は転がっていたサッカーボールを拾い上げる。
球体の表面には、手書きでこの子供のものと思しき名前が書かれていた。


――ふーん、『さかいゆうじ』か。


「ほらよ」


サッカーボールを持ち主に放り投げ、奏夜は興味を無くしたと言わんばかりに、踵を返す。
人も増えてきている。今の規格外な所行を考えると、警察に掴まるのは面倒だ。


「あ、あの!」


呼び声に振り向いた奏夜に、ゆうじはおずおずと、しかしはっきりした声で、


「あ、ありがとう、ございました」


ぺこりと頭を下げる少年。奏夜はまさか礼を言われるとは考えていなかったらしく、紅潮した顔を隠し、逃げるように横断歩道を渡っていく。
そのせいか、恵とすれ違ったことにも、気付いていないらしい。


「あ、キミ!」


恵自身もようやく放心状態から脱し、走り去っていく奏夜を追いかけていった。


◆◆◆


朝の喧騒に邪魔され、一旦は奏夜を見失った恵だったが、ややあって、公園のベンチに座る影を見つけた。
――奏夜は何故か、ノラネコを抱き上げ、肉球の感触を楽しんでいる。


(……いや、確かにネコの肉球は癒されるけど)


何故今やる?
あれか、さっきの事故のショックから抜け出す為か。
だが、この前のやり取りからは、なかなかに図太い印象を受けたのだけれど。


「ねぇ、キミ」
「……」


ゴーグル下の目が不快そうに歪み、恵を捉えた。
また貴女ですか。と言外に訴えている。


「隣、いいかしら」
「………」


ポケットを探る奏夜。しかしそれより早く、恵がその手を掴む。


「こら、ポケット台詞帳で会話しない。返事は口でしなさい。この際マスク着けててもいいから」
「……………………………………どうぞ」
「今、かなり激しい葛藤があったわね……」


隣に腰掛ける恵に意識を向けないよう、奏夜はなお必死にノラネコを愛でる。


「キミ、名前は?」
「……………」


どうやらこの人は、自分を逃がしてはくれないらしい。


「奏夜。紅奏夜」
「ふーん。奏夜くんか……いい響きの名前ね。私は恵、麻生恵よ。一応モデルもやってるんだけど、知らないかしら?」
「……世俗に疎いので」


鬱陶しい。この人の腹は読めている。
どうせこれらの質問は切り出し口で、本当に聞きたいのはさっきの信号の騒ぎについてだろう。あれだけのギャラリーだ。見られていても不思議じゃない。


案の定、恵はやや歯切れ悪そうに、


「ねぇ、間違ってたら悪いけど――キミ、ファンガイアでしょ?」


奏夜は少なからず驚いた。
人間じゃないのがバレることは予想していたが、ごくごく普通な女性の口から『ファンガイア』の単語が出るとは。


「……知ってんのか。ファンガイアのこと」
「そりゃね。私、ファンガイアハンターだから。素晴らしき青空の会って組織、知らない?」
「知らない」
「あら意外」
「世俗に疎いって言ったろが」


だが、ファンガイアハンターの名前から、大体予想はつく。
人間を襲うファンガイアから世界を守る秘密組織――そんなところだろう。


「ハンター、ハンターね。はっ、そりゃあいい。つまり、偶然見つけた俺のことも狩りに来たってわけだ」
「む。見くびらないで欲しいわね。私は人喰いしてるかどうかも不確かなファンガイアを狩るほど、盲目的なことはしないわよ」
「アンタの見てないとこで喰ってるかも知れないぜ? 勝手な価値観で俺を見逃しでもしたら、アンタの面目丸つぶれだぞ」
「だから、見くびらないでってば」


獰猛そうに顔を歪める奏夜だが、恵は何一つ動じた様子はなかった。


「子供を助けるためになり振り構わず飛び出して、幼い命を奪いかけたバカ野郎に怒って、ついでに公園でネコと戯れてるような“人間臭いファンガイア”、狩る方がどうかしてるわ」


ぴくりと奏夜の手が反応する。
奇妙な指の動きに不快感を覚えたのか、野良ネコは奏夜の手から飛び出し、草むらへと走り去っていく。


「まぁ端的に言うと、キミともう少し話して見たくなったのよ。私が今まで会ったファンガイアって、それこそ人間らしさの欠片も無かっ」
「……俺は化け物だ」


奏夜が恵の言葉を遮る。地獄の底から聞こえるような低い声だった。


「俺は人間じゃない。……いや、ファンガイアからも弾き出された、ただの化け物だ」
「ファンガイアからもって……」


説明すべきか否か迷ったが、結局奏夜は何かを諦めたように口を開く。
……そう言えば、キバット以外に自分の心境を吐露する、というのも、久しぶりだった。


「俺は、半分ファンガイアで半分人間なんだよ」
「半分人間? えっと、つまりハーフファンガイアってこと?」


奏夜は小さく頷く。
恵もハーフファンガイアの存在は嶋から聞いたことがあったが、出会ったことは無かった。


「でも、化け物ってどういうこと? ハーフなだから、ただのファンガイアよりか人間に近いんじゃないの?」
「……そんな単純な比率の問題なら、誰も苦労しねぇよ。俺は完全な人間でも、完全なファンガイアでもない。ただそこに存在するだけの亡霊だ」


奏夜の声がどんどん影を帯びていく。
恵は黙って奏夜の話を聞いていた。


「アンタ、世界から拒絶されたことあるか?」
「え?」


いきなりの規模が飛んだ。世界から拒絶? 意味が分からない。


「……世界全てを敵に回すっていう意味なら、無いけど」
「俺はある」


奏夜はぼんやりと空を見上げた。
さながら、世界に恨み言を吐くかのように。




「人間からはファンガイアの力を忌み嫌われて、ファンガイアには人間の血を汚らわしい目で見られる。どっちの世界も俺を拒絶して、世界の全てが俺の害悪になった。
歩み寄ってきてくれるヤツもいたよ。でも、俺の正体を知ったらみんな離れてった。俺のそばにいるヤツなんて、今じゃ俺と同じはみ出し者が一匹だけだ」


いつもヴァイオリンを習いに来る少女も、自分の正体を知れば逃げ出すに決まってる。
さっき助けた子供も、物事が考えられる年頃になったら、バイクを片手で止めた自分をどう思うことか。


……どうせ傷付くなら、一人の方がずっといい。幼い頃、苛めっ子を殺しかけた時に決めていたことだ。


「可哀相自慢をするつもりはねぇ。ただ、アンタも不幸になりたくないなら、俺に関わらないことだ。関われば、ファンガイアどころか人間も敵に回すぜ」




俺は、化け物だ。




繰り返しそう告げ、奏夜はベンチから立ち上がる。


「まぁ、アンタの目につくような行動はしないよ。俺、ライフエナジー吸う必要ないみたいだしさ。……それじゃ」


去り際に、せめてもの別れの挨拶。
だが、奏夜の話を聞いていないのか、恵は口元に手を当て、ブツブツ呟いている。


「……ふむふむ、成る程そういうこと」
「? どうしたんだよ」
「これならこの子の社会復帰にもなるか……けど問題は嶋さんが許すかどうかね……」
「おい、聞いてんのか」
「特に名護くんは要注意ね……取り敢えず身分は秘密にしてればいいか。うん、そうしよう」
「……っ、おいアンタいい加減に」
「キミッ!」


いきなりガシッと両手を掴まれる。
美人の部類に入る恵の行動に、奏夜は驚きと羞恥に顔を染め上げる。


「な、なんだよいきなり!」





「気に入ったわ! キミ、『素晴らしき青空の会』に入りなさい!」





「……」


恵の言葉を脳内で幾度も反芻する。
素晴らしき青空の会。さっきも聞いたファンガイアハンターの組織。そしてファンガイアハンターは、ファンガイアを狩ることを生業とする人間、たち、で……。


「……はぁッ!?」
「いやー、ちょうど良かった! 嶋さんからメンバーが不足してるから、誰か優秀そうな人をスカウトしてくれって頼まれてたけど、まさかこんなとこで、キミみたいな人間らしいファンガイアに会えるなんて思わなかったわ~!」
「な、おい、ちょっと待」
「さっきの横断歩道の様子を見てる限り、体力とか筋力も申し分なさそうだし、キミ、即戦力になるかも知れないわよ」
「いや、だから人の話を聞」
「あ。ハーフファンガイアだとかは気にしなくていいからね。黙っときゃ誰も気付かないだろうし、ファンガイアさえ倒しちゃえば誰も文句は言えないから。
ちなみに仕事にはカフェの手伝いとかもあるから、キミの社会復帰にも役立つし……」
「だからちょっと待てと言ってるだろアンタの耳には相手の反論遮断するフィルターでも着いてんのか!!」


トントン拍子に決まっていく話を、奏夜の大声が強制中断させた。
――ちなみに、これが奏夜の生まれて初めてのツッコミである。


「アンタ頭おかしいんじゃないか!? 俺にファンガイアハンターになれ!? 今までの流れからどうしてそんな話になんだよ!」
「うん? ごくごく自然な流れだと思うけど。言ったでしょ、私は優秀な人材を探してるの。
一番必要な身体能力は超有力株。しかもす~~~っごく優しい。私的に採用基準はオールクリアよ。何の問題があるっていうの?」
「俺の意思が何一つ反映されてねぇのが問題だろが!! だいたい何だ! す~~~っごく優しいって! さっきまでの話聞いてて、何で俺にそんな印象を持つんだよ!」
「何でもなにも、私はさっきの話を聞いて、キミがす~~~っごく優しいって思ったんだけど」
「……何?」


激昂が立ち消え、奏夜の顔に無表情が戻ってくる。
若干引きつってはいたが。


「どういう意味だよ」
「そのままの意味よ。――実を言うとさ、キミに初めて会った時から、なーんか違和感はあったのよね。ちぐはぐっていうか、言動と中身が一致してないっていうか。けど、もう一度しっかり話してみて分かったわ」
「だから何が」
「キミ、自分の力が怖いから、自分の力で他人を傷付けたくないから、そんな態度取るんでしょ?」
「――っ!」


顔が急に強張るのを感じた。
自分の内側に、土足で踏み入れられたかのような感覚。


「な、何を訳の分からないことを……」
「訳は分かってるはずよ。他でもないキミ自身がね。まぁそれでも詳しい話をするなら……」


恵は言う。


「アナタの態度はパッと見だけだと、協調性の無さから来るものに見える。
けど、全体を見るとただの暴言じゃない。それは全て相手を『拒絶』する言葉だった。
これにさっきの話を加えると、アナタの人間性が見えてくる。
化け物である自分が、他人を傷付けるのが怖いから『拒絶』する。す~~~っごく優しいからこそ、キミは他人を傷付けることに耐えられない」
「か、勝手な推測は止めろ! 俺はただ他人と関わりたくないだけだ! 他人なんかどうでもいい、まして優しさなんか持っちゃいない!」
「じゃあ何で、さっきの子を助けたの? 形振り構わず、バイクの前に飛び出してまで」


恵が強く言い放つ。
奏夜は言葉に詰まり、なにも言い返せなかった。


「――キミは優しい。だから他人を傷付けたくないっていうのも分かるわ。でも、一生その生き方を貫けるの? ツラいわよ、ずっと一人きりって」


胸がズキリと痛む。
知っている。嫌というほど。


「他人を拒絶することは、優しいキミにとって楽なものじゃないでしょう?
傷をずっと抱えたままいたら、いつか潰れちゃうわよ。
――だからさ、ほんの少しだけでもいいから、誰かを信じてみなさい」
「……けど、俺はやっぱり」
「難しい? じゃあまず、私から信じてみなさい。
さっきはああ言ったけど『素晴らしき青空の会』に入るかどうかはキミの自由。
でも、キミと私はこうして知り合った。だから『素晴らしき青空の会』に入らなくても、キミが望むならこうしてお喋りだってできるのよ?
私はファンガイアのことも知ってるし、ついでに神経も図太いから、ドーンとぶつかってらっしゃいな」


最後は冗談めかしく、恵は締めくくる。
片や奏夜は震えていた。自分の根底が揺らいだことに対する恐怖心か。心の中を次々と見透かされたことに対する怒りからか。


いや、違う。
混乱こそしているが、その理由は降って湧いた清々しさからくるものだ。
今までのしかかって重圧が取り払われたかのような感覚。


こんな――簡単なことなのか?
こうも軽々と、価値観はひっくり返るものなのか?
孤独を貫いてきた奏夜に、人間を知らない奏夜に、答えは出ない。
人を拒絶してきたことが――今だけは恨めしかった。


「ま、いろいろ講釈並べちゃったけどさ。手っ取り早く纏めると」


すっと奏夜に向けて手を差し出す恵。




「私と、友達にならない?」





◆◆◆


――奏夜が恵の手を取ることはなかった。
真昼の公園に似つかわしくない轟音。
視界を覆う赤い電光が、二人の周囲で弾けたからである。


「っ!」
「きゃっ!」


光に目を覆いながら地面を転がり、どうにか受け身を取る二人。
一体なんだ?
その疑問に答えが出るまで、そう時間はかからなかった。


「やぁ~~。また会えたね恵ちゅわ~ん!」


いやに間延びした声と共に、雑木林の影から奇妙な生き物が現れる。
ステンドグラスに覆われた外皮に、クモを彷彿とさせる八本足と上顎を持つ異形の姿――糸矢ことスパイダーファンガイアだ。


「……ファンガイア」
「あーもう、まーたアナタなの?」


恵がうんざりしたように髪を掻く。
何を隠そうこの糸矢は、以前名護が言っていた、恵を執拗に付け狙うストーカーのようなファンガイアなのだ。


「お~いおい、そんな冷たいこと言うなよぉ。こうしてまた会えたんだ。もっと再会を喜び合おうじゃないかぁ!」
「お断りよ。ぶっちゃけるとアナタ、全ッ然タイプじゃないの。不快さで言ったら名護くんといい勝負だわ」
「ぐわーーん!! な、なんというつれなさ……だが、それでこそ、あのゆりの娘だ!! 絶ぇっ対に手に入れるぞ、お前を!」
「うわウッザ。私に目をつけるとこまでは良かったけど、しつこいのはNGね」


俄然やる気を出したらしいスパイダーファンガイア。
片や心底面倒くさそうにしながら、恵は懐から、小型のボウガンのような銃器『ファンガイアバスター』を取り出し、構える。


「神は過ちを犯した。アナタのような存在を許した過ち――私が正すわ」


鋭い眼差しで、恵はトリガーを引く。
銃口から放たれるシルバーアローが、容赦なくスパイダーファンガイアへと突き刺さる。


「ぐおっ! くっ、恵を手に入れる為、これしきの痛みなど何のこともないっ!」
「チッ、やっぱ一筋縄じゃいかないか……キミ、ちょっと離れてなさい」
「……」


奏夜は迷っていた。
――いいのか? ただ見てるだけで、俺は戦わなくていいのか?


「ちょっとキミ、聞いてるの!?」


ファンガイアバスターからワイヤーを伸ばし、スパイダーファンガイアを薙ぎ払いながら、奏夜に呼び掛ける恵。
だが、奏夜は棒立ちになったままだ。


(……たた、かう)


それは、力を自覚した時から、ずっと禁忌にしてきた行為。
敵も味方も、何もかもを無差別に滅ぼす忌まわしい力。
この力のせいで、自分の中に眠る怪物への恐怖心のせいで、奏夜は他人との繋がりを拒絶した。


(身体中が熱い)


だが今は違う。
煮えたぎるような闘争心が、内から湧き上がってくる。


最初は不快感しかなかった。心に土足で踏み入るこの女性が、鬱陶しくてたまらなかった。


――だが、何故だろう。ずっと閉ざしていた心を開けた女性が、今目の前で戦っている。そして自分は、何もせずに佇むだけ。
力に怯えて何もしない、無能な自分。
それは、凄く――




(嫌、だな)




ほんの数分前まで考えもしなかったこと。


(逃げたくない)


目に見える不安を数えて、立ち止まりたくない。


(動き出したい)


閉ざされた窓の奥に隠れていて、何が始まるんだ?
窓を蹴破って、絡みつく鎖を引き千切れ。


「……たい」


心の底から噴出してくる高揚を感じながら、奏夜は呟く。


「……戦い、たい」






――~~~~♪






「っ!!」


突如、奏夜の頭の中に響く音色。
単調ながら、尚も優雅さを失わないリズムを奏でるそれは――


(ブラッディ、ローズ……!?)


父である紅音也の残した最高傑作。彼と奏夜、親子を繋ぐ唯一の絆が作り出す音色が今、奏夜の頭の中に響いていた。


(――戦え)


リズムの中に紛れる声。


「な、にっ……!?」


(戦え)


頭蓋を襲う激痛。
それに伴い、脳裏に鮮明なイメージが流れこんでくる。





それは三日月をバックに、蝙蝠の仮面と、真紅の甲冑を纏う戦士。





(戦え―――に流れ―――を―る為に!!)





「う、あぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
「奏夜くん!?」


一際大きな痛みの波に、奏夜は膝から地面に崩れ落ちる。
スパイダーファンガイアに応戦していた恵は驚き、一瞬意識を奏夜に向けてしまう。
スパイダーファンガイアにとって、それは大きな隙だった。


「ふっ!!」


スパイダーファンガイアの口から吐き出された糸が、恵のファンガイアバスターを絡め取る。
そのままスパイダーファンガイアが支点である頭ごと振り上げると、糸に付着したままだったファンガイアバスターが恵の手を離れ、宙を舞う。


「!! しまっ……」
「ふんっ!」


間髪入れず、スパイダーファンガイアは体内の魔皇力を集め、紫色のエネルギー弾を射出する。


「きゃああぁぁぁぁ!」


生まれた衝撃が恵と奏夜を吹き飛ばす。
手加減していたのか、それが生み出す結果は、二人の意識を奪うに止まった。


「チュ~リッヒヒヒ! やった、つ~いにやったぞ!! さあ、俺と一緒に行こう! 恵ちゅわ~ん!」


スパイダーファンガイアの勝利の高笑いが、雑木林に轟いた。




◆◆◆


――~~~~~♪


「むむっ!? この音色は!!」


紅邸。
ヴァイオリン型の巣箱から飛び出したキバット。
その瞳が捉えたのは、ショーウィンドウに飾られたブラッディローズ。


演奏者がいないにも関わらず、立てかけられたブラッディーローズの弦は震え、何かの警告の如きリズムを奏でていた。


「遂にこの時が来たんだな……よっしゃ、待ってろよ奏夜!! 今こそお前に『鎧』を渡してやるからな!!」


キバッて行くぜ~~!!
意気込みもハイテンションに、キバットは紅邸から飛び出して行った。

  1. 2012/05/31(木) 11:05:52|
  2. 仮面ライダーキバ/BLAZING.BLOOD
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第零話・プレリュード/覚醒の夜.前篇




この世界は汚れている。


空、海、大地、動物、人間。
どれもこれも鬱陶しくて堪らない。
同じ空気を吸いながら生活するなんて虫酸が走る。
こればかりは、生まれついた性格だったのだから仕方がない。
俺がそもそも“そういう存在”だったというだけの話だ。


まぁ、それを差し引いても、色々と歪んでいたのは間違いないだろう。


ガキの頃に抱いていた思想が『ヒーローなんか殺されて解されて並べられて揃えられて晒されればいい』というひねくれ具合からも、それは想像に難くない(ひねくれる、という言葉では済まないかもしれないが)。


何を好き好んで、ヒーローは他の人間なんか守っているのだろうか。
しかも、傷つくのは自分で、さしたる見返りもない。ハイリスクローリターンにも程がある。


どちらかといえば、怪人の方に共感していただろう。
彼らが見せる見事なまでの散り様は、ある意味、ストーリーの中で憎まれ役を買って出た結果だ。
ヒーローの引き立てとしての仕事を全うし、ただ物語の舞台を降りていく。


悪役であるという、それだけの理由で。


自分と同じく、何の文句も言えないまま、ヒーローに淘汰されていく怪人を、俺は幼心ながらに可哀想と思ったものだった。


――あの頃の俺は、常人からすればあまりに逸脱した価値観を包括しながら、数少ない友人と共に、打算的な生き方を貫いていた。


変わることはない。その必要もない。


そう、思っていた。




だから多分――何かが変わったとするなら、あの日が全ての発端だったんだろう。




◆◆◆


御崎市某所の公園。
午後と言えど平日であるため、人の数はまばらだ。


「オイ、何黙ってんだよ!」


と、その和やかな風景に、一際似付かわしくない罵声。
柄の悪い三人組の男に、一人の青年が絡まれていた。


「なぁ、ぶつかっといて詫びも無しかァ!?」
「あ! こいつ知ってるぜ、近所でお化け太郎とか言われてるヤツだ!」
「格好もおかしけりゃ、態度もおかしいみたいだなぁ!」


三人組の言う通り、青年の姿はやや異質だった。


右手には薔薇の花びらが詰め込まれたビニール袋。
目深に被った毛糸の帽子に、目元全てを覆うゴーグル。
極めつけに風邪予防のマスクを付け、表情は完全に隠れている。
体躯から男性だというのはわかるが、不審者と捉えられても文句は言えない格好だった。


「………」


青年はゴーグルの奥で目を細め、ポケットから手帳を取り出した。
片手で器用にページをめくり、三人組に突き出す。


『うざい、五月蠅い、鬱陶しい。さっさと消えろ雑草が』


それは、沸点の低い三人組を怒らせるには十分なセリフで。


「あぁッ!? テメェ馬鹿にしてんのか!」


振り被られた拳が、青年の顔面を狙う。
青年は面倒臭そうに、拳を突き出してきた男の足を払った。


死角からの攻撃に男はバランスを崩し、ひっくり返る。
青年はそのまま、思いっ切り男の胸を踏みつけた。


「ごぶっ!?」


奇声を挙げ、肺から空気が全て吐き出される。


「こ、このっ!!」


残る二人も拳を振り上げるが、それよりも早く、青年の放つ拳が、彼らの顔に炸裂した。
バキッ、という気味の悪い音を鳴らし、二人は地に沈み、激痛に悶える。


「……」


青年は踏みつけた男を見下げ、再び足を宙に浮かせる。
確実なトドメを刺すためだ。


「ひっ……!」


自分の辿るであろう末路に、男は声を漏らす。


――が、


「奏夜!」


聞こえてきた甲高い声。
奏夜と呼ばれた青年が足を寸止めし、声のした方に目をやる。


「ちょっとなにやってるの! 喧嘩なんか私が許さないわよ!」


現れた中学の制服に身を包んだ少女――野村静香は、後ろで纏めた髪を振り乱しながら近付いてくる。


「……チッ」


去り際、男の腹を蹴飛ばしつつ、奏夜は静香を無視して、公園を後にする。


「あっ、こら! 待ちなさいよ!」


静香は律儀にも男達に「ごめんなさい」と謝罪し、慌てて彼の後ろ姿を追いかける。


「……オイ、着いてくんじゃねぇ」


心底鬱陶しそうに、奏夜はゴーグル下の目を細めた。


「奏夜!  喧嘩なんかしちゃダメって、何度言えばわかるのよ!」
「……お前は俺の母親か? あいつらが勝手に絡んできやがったんだ。正当防衛だろうが」
「だからってすぐ暴力を使うなんて最低だよ! 言葉があるんだから話し合えば……」
「アレが話し合いでどうこうなるシチュエーションに見えたかよ。状況よく見てからモノは言え」


奏夜はゴーグルの下で、静香を睨む。
苛烈に研がれた視線には、一片の温かみもなかった。


「いいからもう俺に関わるな。鬱陶しいんだよ。お前」


苛々を吐き出し、頭に上がった血が退いていく。
冷静さが戻った時、静香は今にも泣き出しそうに震え、涙目になった顔を俯かせていた。
さすがに罪悪感が生まれるが、それでも奏夜は突き放すような口調を止めない。


「……ヴァイオリンを教わりたいなら余所を当たれ。それこそ部活に入るなりしろ」
「っ、私は、奏夜に教えて貰いたいの!!」


そこだけは譲れないとばかりに、静香は声を荒げた。


「音楽が大好きで、あんなに凄い演奏が出来るんだから、教えるのだって……」
「買いかぶりだ。例え教えたとしても、二流三流が関の山だって何度も言っただろうが」
「……私に、音楽を習うだけの才能が無いってこと?」
「俺に、教えられるだけの余裕が無いんだ」


そこだけは、刺々しい口調ではなく、卑下するようなトーンだった。
そう、本当に余裕など無い。 まして、他人に教えられる才能など。


――否。俺はそもそも、


(他人になんか、興味は無い)


世界は、自分だけが全てだ。
他人だからこそ得られるものがある?
吐き気がする。 そんなもの、自分が大切に保ってきた世界への侵略に他ならない。


――イラナイ。




「他人なんか、いらない」




◆◆◆


「これは……確かに酷い臭いだ」


鼻を突く異臭に、呼ばれた警察官は顔をしかめる。


場所は、御崎市某所のとある邸宅。
通報は、付近の住人から。
この家から漂ってくる異臭に、ほとほと困り果てているのだと言う。
城門の前には、警察官の他、訴えを起こした住人達が詰めかけていた。


「強制立ち退きでも何でもいいから、とにかく何とかして!」
「その前に家宅捜査だろ!」
「遺体でもでりゃ、それこそ大事件だよ!」
「いや……それはさすがに」


飛躍し過ぎた話に、警察官が苦笑していると、邸宅に続く坂道から、二人の男女が歩いてくる。


奏夜と静香だ。


「あ、ほら、お化け太郎よ!」


我が家に向かおうとする奏夜に、住民達は指差した。


「あ~、君がここの住人だね」


警察官が、「近所の人も迷惑してるから」だの「下手をすれば公害の可能性もある」だの、形式的な質問をする傍ら、奏夜は終始無言だった。
周囲に群がる住民に目もくれず、まるで自分が世界の中心、とでも言いかねない立ち振る舞いだった。


「ちょっと! マスクとんなさいよ! おまわりさん聞いてんだから!」


奏夜の態度にじれたのか、小太りした体格の中年女性が、無理やりマスクを剥ぎ取ろうとする。


「まったくもう、こんな迷惑かけやがって! 親の顔が見てみたいもんだ!」


住民の誰かが口走った台詞に、奏夜は初めて反応した。


「………あ゛?」


ゴーグル下の目は据わり、激怒一歩手前といった声音だった。
鋭い眼孔に睨み付けられ、警官を含めた住民達が、恐怖にたじろぐ。
張り詰めた空気を、危険信号と捉えた静香が、慌てて奏夜と警官の間に入る。


「あの、すいません! この人アレルギーなんです!」
「アレルギーって……花粉症には、まだ早いんじゃないか?」


疑わし気な警官の目の前で、静香は無造作に、奏夜のマスクを剥ぎ取った。


「……!! うぅっ!?」


さっきまでの剣幕が嘘のように、奏夜は晒された口を、両手で抑えながら、うずくまった。


「『この世アレルギー』」
「こ、この世アレルギー?」


どよめく住民に、静香が淡々と告げる。


「病気というより、奏夜の特異体質みたいなものです。
なんていうか、この世界の全てに、免疫機能が過剰反応を起こし、下手にマスクを外すと、最悪命にかかわります。
それでもというのなら、こちらでも医師の立ち合いを求め、家宅捜査をするのであれば、捜査令状の提示を要求します」


凛とした態度の静香と、苦しみながら、彼女からマスクを取り返そうとする奏夜。


異様と言えば異様な光景に、住民と警官は二の句が継げなくなっていた。


◆◆◆


一連の様子を、紅邸の窓から眺めている影があった。
羽音を鳴らす翼と、暗闇でも怪しく輝く、赤い複眼。


犬歯を覗かせながら、金色のコウモリは、ニヤリと笑う。


「静香、グレイト」


◆◆◆


「はいOK!! 恵ちゃん、お疲れ様!」
「お疲れ様でしたー!」


場所は市内某所の撮影スタジオ。
アイドル界期待の新星である彼女――麻生恵は、達成感を含んだ挨拶で、今日の仕事を終えた。


「ふう……やっぱり笑顔を作るとなーんか疲れるのよねー」
「ふっ、相変わらず呑気なものだな、キミは」


撮影室から出ようとした矢先、恵は先ほどまでの笑顔が嘘のように、表情をひきつらせた。
彼女と同年代位の、猫っ気のある髪をした長身の男――彼女の天敵とも呼べる人物が、入り口の壁に寄りかかっていたからだ。


「今こうしている間にも、世界では数多くの人々が、不幸になっている。キミには戦士としての自覚が足りな過ぎるな」
「……こんなとこにまで来て言うことが嫌味? 自覚がないのはどっちなのかしらね、名護くん」


入り口に立ち、恵に辛辣な言葉を投げかけてきた男。


名前は名護啓介。
恵の“本職”の同僚にして、その中でも卓越した能力を持つエリートだ。
恵の皮肉を意に返さず、名護は笑みさえも浮かべてみせる。


「馬鹿を言うのは止めなさい。まだ私がイクサに選ばれたことを妬んでいるのかな?」
「妬んでないわ。ただ、貴方みたいな人にイクサを渡す『素晴らしき青空の会』の行く末が心配なだけよ」
「手厳しいな。私は選ばれた人間なりの責任を果たすつもりなのだがね」



よく言うわこの偽善者が。
喉元まで出掛かった罵倒をどうにか飲み込み、代わりに恵は溜め息をつく。


「もういいわ。他に要件が無いなら、私はこれで失礼させて貰うわよ」
「待ちなさい。嶋さんからの伝言だ。いつだったかキミの取り逃がした蜘蛛のファンガイア――再び動き出しているらしい」


取り逃がした、の部分を強調され、恵は再び青筋を浮かべるが、名護は素知らぬ顔で続ける。


「しかも、今度はキミを狙っているようだ。どうやらあのファンガイアは昔、君の母親にご執心だったらしくてね。当時からストーカー紛いの行動を続けていたらしい。その娘だと知られた以上、ヤツの目は必ずキミに行く。用心するように――とのことだ」
「……ふん、母さんからの因縁なら望むところよ。次に来たら今度こそ返り討ちにしてやるわ」
「出来るのかな? キミの力で」
「なんですって?」


恵の瞳に剣呑な光が宿る。
名護はやれやれと首を振り、恵に背を向けた。


「まぁ、努力は怠らないようにしなさい。何かあれば、私が助けに向かおう」


名護の姿が通路の端に消えるまで、恵は怨磋の視線を向け続け、


「~~~っ! あぁーー! ムカつくムカつくムカつくムカつくーーっ!!」


腹癒せに近くのゴミ箱を蹴飛ばした。


◆◆◆


結局、ゴミ箱を蹴飛ばしても苛々が収まらなかった恵は、スタジオ近くの定食屋でヤケ食いに走っていた。


「ったく、あの偽善者がどうしてイクサの資格者なのよ! 店長、ごはん(大)追加!」
「はいよっ!」


今日の恵ちゃんは荒れてるなぁと思いながらも、店長は自分の職務を果たし、大盛のご飯をテーブルに置く。
ちなみに、恵の机には優に20枚の皿が積まれている。


「ふぅ……ま、八分目ってとこかしら」


そら恐ろしいことを呟きながら、怒声と食事によって苛々が払拭された頭が、冷静な思考を生み出していく。


(……でも、私がイクサに相応しくないっていうのも確かなのよね。名護くんは性格がずば抜けて駄目だけど、それ以外は完璧超人だし)


恵も、名護の強さだけは認めている。
あの偽善的な態度だけは絶対に認められないが、裏を返せばそこさえ直してくれるなら、名護がイクサを使うことには何の問題もないとさえ思っている。


(だとしたら……やっぱ単純に、名護くんを妬んでる部分もあるのかな、私)


イクサは恵の祖母が立案し、恵の母、ゆりが完成させたもの。
言わば麻生家の志だ。
祖母、母の魂が籠もったイクサを、麻生家以外の者に使われたくない。という気持ちは、そうそう拭い去れるものではない。


「……あー、もう! ヤメヤメ!」


後ろ向きな考えではダメだ。
こんな体たらくでは、それこそ名護に馬鹿にされる。


イクサは今、恵の手元にはない。
けれど、自分がやらなければならないことに変わりはないのだ。
イクサを手にしたいという気持ちはあるが、先ずは目先のことから片付けていかなくては。


「よし! そうと決まれば『マル・ダムール』に行かなきゃね! 店長、お勘定を――」


席から立ち、飯代を払おうとしたところで、恵は言葉を切る。
無い。さっきまで白米と共に自分が食べていた魚料理。
その残りである骨が消えていた。


「あれ? 店長、片付けるなら皿も片付けな、きゃ……?」


恵は視線の端に、奇妙な人影を捉える。
毛糸の帽子とマフラーをつけ、厚手のコートを着た青年。
――その手元には、ビニールで包まれた魚の骨。


「ちょ、ちょっとキミ!」


恵の声が轟き、青年は面倒そうに振り返る。
マスクをした口から声は発さず、ゴーグル下の眼が恵を睨む。
彼はビニールを持っていない方の手で、開いた手帳を彼女に突き付ける。


『いらないでしょ。別に』
「いや、そりゃそうかも知れないけど、女性が食べたものを勝手に持っていくっていうのは倫理的に……ってだから無視して出て行こうとしない!」
「グッ!?」


マフラーを引っ張られ、苦しそうに喘ぐ青年。他の客の奇異の視線など、もはや恵の頭の中には無い。


「人の話も聞かず逃げようとするってどういう了見よ! キミ、ちょっと着いてきなさい!!」


飯代を置き、『はーなーせー!!』と書かれたページを広げる青年を引きずりながら、恵は料亭を後にする。




――二人はまだ知らなかった。
この出会いが、彼らの運命を大きく変えてしまう結果になることを。


◆◆◆


なんでこんなことになったんだろう。


「だ~か~ら、何で魚の骨なんか盗もうとしたのよ?」


向かいの席に座る恵の執拗な追究に、青年――紅奏夜は鬱陶しそうに視線を逸らした。


あの後奏夜は、恵によって馴染みのないコーヒーカフェ『マル・ダムール』なる店に連行され、魚の骨を盗った理由を、根ほり葉ほり聞かれる羽目になった。


他の客のことなど歯牙にもかけず、恵は奏夜に詰め寄り続ける。


(うざいなぁ……)


どうせ魚の骨なんか食わないんだから、ここまでしつこく理由を聞いてこなくてもいいのに。
気だるそうな動作で、奏夜は会話用の手帳をめくっていく。


「……キミ、取り敢えず、そのマスクとゴーグル取りなさい! 表情が見えないんじゃ会話し辛いわ!」
「!!」


何を言ってるんだこの女は。
俺に死ねと言うのか。


「――! ――!」
「こら、暴れないの!」


決死の抵抗を見せる奏夜だったが、日頃から鍛えている恵には適わず、マスクとゴーグルを剥ぎ取られてしまう。
恵は初めて、奏夜の素顔を正面から見た。


「あら! 意外とかわいい顔してるじゃない!」


恵の言う通り、奏夜は鋭い風貌ながらも、どこか子供っぽいあどけなさを残し、大多数の人間がイケメンと評する顔をしていた。


「――むぐっ!?」


慌てて口を押さえるが、焼け石に水だ。
空気を遮断するものが無くなり、この世アレルギーが奏夜を蝕む。
だが、そんな事情を知る由もない恵は、


「え? なに、どうしたの? ……はは~ん。私があまりにも美人だから緊張してるんだ」
「ち……がうっ!!」


間髪入れず否定する青年に、さすがの恵も顰めっ面を向ける。だが、命に関わる状況で、奏夜に恵のことを気にしている余裕は無かった。


「お、俺は、アレルギーなんだよ……! この世アレルギーって言って……と、とにかく、早くマスクとゴーグル返せ……!」


奏夜からすれば切実な要求だったのだが、『この世アレルギー』などというふざけた病名を、常識人である恵が信じるはずもなく、


「この世アレルギー? 何言ってるの、有り得ないから。ほら、深呼吸深呼吸」


恵は奏夜の背中に回り、彼の腕を持ち上げて万歳の姿勢を取らせる。


「あ、アンタ、なんで更に空気吸わせようとしてるんだよ! うっ!? し、死ぬ! 本当に死ぬ!」
「死ぬわけないでしょ、アニメの見過ぎ。……ほら、吸って~吐いて~吸って~吐いて~」


腕を上下させながら、奏夜の深呼吸を手助けする恵。
最初こそ吐き気に身悶えしていた奏夜だったが、呼吸を繰り返す度に、その苦悶に満ちた表情も和らいでいく。


――数十秒後には、奏夜の息は完全に整い、あの気持ち悪さも消えていた。


「ほら、全然平気じゃない。なーにがこの世アレルギーよ。気のせいよ気のせい」
「…………」


恵の言葉も、驚愕した奏夜の耳には入らない。
自分の身体に起きた事実を受け入れることができないまま、奏夜は魚のように口を開閉させることしか出来なかった。



◆◆◆


その様子を、一世代前の望遠鏡で覗く男が一人。


「あれが恵ちゃんかぁ……う~ん、やっぱり母親と同じで綺麗だねぇ」


ややウェーブのかかった髪に、白いタキシードに手袋。音楽家のような出で立ちだが、木の幹に身を潜め、女性の様子を覗き見している姿はただの変質者だ。


「二十二年前は失敗したけど……今度は逃がさないよ。待ぁっててね恵ちゅわ~ん……チューリッヒヒヒヒヒ!!」


手にはめたネズミのパペットを不気味に動かし、男――糸矢は意地汚い笑みを浮かべた。


◆◆◆


カポーン。
この擬音を考えたのは某有名漫画家らしい。


「おい、奏夜。お前まだ昨日の女のこと考えてんのか?」


紅邸の浴室。
体育座り気味に浴槽へ浸かる奏夜へ語りかける声。


声の主はなんと、赤い複眼に金色の身体を持つコウモリだった。
ヴァイオリン型の小さな桶に乗り、湯の上を漂いながら、コウモリ――キバットバット三世は問う。


「そんなにいい女だったのか? ジャンヌの肖像画みたいな!」
「誰だよ。それ」
「お前、何度言ったら分かるんだ! 偉大なる画家、モディリアーニが描いた肖像画の女だよ! あの長い首がど~~にもたまらん!」
「関係ねぇよ、ってかどうでもいいよそんなこと。
問題なのは、俺が本当はこの世アレルギーじゃないかもしれないってことだ」
「何だ、そんなことかよ。それならそれでいいじゃねーか!」
「そんな簡単なことかな……」


奏夜は蒸気の立ち上る天井を、ぼんやりと見上げた。


「こんな汚れた世界の空気を吸っても生きていけるってことは、俺も汚れた人間なんじゃないか? ……そう思うと、なんかショックでさ」
「へっ、アホゥ」


見当違いな悩みを抱える友人に呆れつつ、キバットはぽつりと呟く。


「やれやれ。まだ『鎧』を渡すには早いかねぇ……真夜」


  1. 2012/05/31(木) 11:05:15|
  2. 仮面ライダーキバ/BLAZING.BLOOD
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第二十四話・超新星/帰還のエンペラーゴールド.後編



「う~ん、やっぱタッちゃんがいると違うぜぇ!」
「ええ、ワタシも奏夜さんとキバットさんがいる場所が一番落ち着きますよ!」


遂に本来の姿、エンペラーフォームに強化変身したキバ。
興奮の余り語らうキバットとタツロットを目に収めながら、キバEFは声を張り上げる。


「門矢! シャナ! 一瞬でいい、あの竜の幕瘴壁を撃てないようにしろ!」
『!!』


八方塞がりなこの状況にあって、確信の籠もったキバの宣言。
――奏夜が突破口を切り開く。
そう信じ、彼の指示に従うことに一瞬の躊躇もなく、シャナとディケイドは目線を交差させる。


「シャナ、炎を最大まで刀に集めろ! あの生意気な外皮をぶった斬る!」
「わかった!」


シャナの刀が紅蓮の輝きを増していく中、ディケイドはマゼンダと黒でカラーリングされた、タッチ式の携帯端末『ケータッチ』を取り出す。
ディケイドは中にカードを挿入し、描かれたライダー達の紋章を画面越しにタッチしていく。


【KUUGA.AGITO.RYUKI.FAIZ.BLADE.HIBIKI.KABUTO.DEN-O.KIVA!!】
【FINAL.KAMEN.RIDE-DECADE!!】


ケータッチのコールと共に、ディケイドの瞳が赤色に変化。
肩幅にかけて装着されたヒストリーオーナメントには、9枚のライダーカードが収められ、仮面の額には、ライダー世界の王者の証、ディケイドクラウンが輝く。
ケータッチをベルト中央部に付け替えれば、変身完了。


全ライダーの力を引き出すディケイドの真の姿、仮面ライダーディケイド・コンプリートフォームがここに光臨した。


「切り札が出揃いましたか……異形の竜よ、迎え撃て!!」


エンペラーフォーム、コンプリートフォームを楽観視できるほど、レティシアは自分の力を過大評価してはいない。
早期決着を狙い、死者の書でイルヤンカの動きを操る。


――ゴオッ!!


イルヤンカが肺に空気を吸い込み始める。幕瘴壁へのアプローチだろう。


「向こうもやる気満々みたいだな」
「なら、真っ向から勝負するだけ」


シャナの炎剣は彼女の身の丈を優に越し、その熱気は大気を揺らがせるほど強い。
ディケイドCFの言葉通りに、彼女の全力を注いだのだろう。


「士、半端な攻撃なら必要ないわよ」
「ハッ、それはこっちのセリフだ! お前こそ、俺の足を引っ張るなよ!」


ディケイドCFはケータッチに描かれたクレストの一つ――仮面ライダー響鬼の紋章をタッチする。


【HIBIKI!! KAMEN.RIDE-ARMD】


ヒストリーオーナメントのカードが反転し、ハードターピュラーの右翼に、赤く重厚な装甲を纏う戦士『仮面ライダー装甲響鬼』が現れる。


これこそがディケイド・コンプリートフォームの力。九人の仮面ライダーを最強フォームの状態で呼び出し、その力を使役することができる。
装甲響鬼と動きをシンクロさせながら、ディケイドCFは、右腰に移動したディケイドライバーにカードを装填する。


【FINAL.ATTACK.RIDE-HI.HI.HI.HIBIKI!!】


『はぁぁぁぁ……ッ!!』


ディケイドCF、シャナ、装甲響鬼が各々の剣を振り被る。
すると、ディケイドCFのライドブッカー、装甲響鬼のアームドセイバーからも、マゼンダと赤色の炎が立ち上っていく。
勝負の時と言わんばかりに、正面のイルヤンカは吸い込んでいた息を止め、


「バハァァ――――ッ!!」


凄まじい勢いで発射された攻撃用の幕瘴壁が、風を切る轟音と共に撃ち出される。


『ハァッ!!』


迸る三本の炎剣が、一寸のズレも無く振り抜かれた。
一本では力不足だったその剣も、三本分となれば話は別。
刹那の鍔迫り合いの末、三本の炎剣は幕瘴壁を切り裂き、そのまま延長上にある、絶対の硬度を誇っていたイルヤンカの右腕を深く抉った。


「オォォォォォ――ッ!?」


切り口から鈍色の光を噴出させ、イルヤンカは激痛にその巨体を捩る。


「くっ!!」


レティシアの死者の書に光が灯るも、イルヤンカの支配権はなかなか戻らなかった。
例え意志がなくとも、ダメージを受容する感覚までもが失われたわけではない。
錯乱したイルヤンカの精神が、レティシアの支配を妨げているのである。


「上出来だぜ。門矢、シャナ」


次は自分の仕事だ。


クウガゴウラムから様子を窺っていたキバEFの右手には、いつの間にかバッシャーマグナムが握られていた。
そのままキバEFは、左腕に止まっているタツロットの角『ホーントリガー』を引く。
すると、タツロットの背中に装備された『インペリアルスロット』が回り始める。
やがて回転を止めた図柄が示すのは、緑色の銃器。


『バッシャー・フィーバ~~!!」


タツロットが左腕から外れ、代わりにバッシャーマグナムの銃口部分にジョイントする。


「カチャッ!!」


アームズコネクターから魔皇力が注入され、バッシャーマグナムをフィーバーモードへ移行する。
トルネードフィンが、通常とは比にならないレベルで回転し、大気中の水分を限界まで吸い込んでいく。


「喰らえッ!!」


――バァンッ!!


バッシャーアクアトルネードが水球だったのに対し、今回射出口から放たれた『エンペラーアクアトルネード』は、水蒸気に近い細かな水が螺旋を描く姿は、渦潮のような形状だ。


だが、魔皇力が含まれていようと所詮は水。
イルヤンカの脇腹に勢いよく噴射されたそれは、頑丈な外皮に弾かれ、パラパラと地上に落ちていく。


だが、それでいい。
“頑丈だろうがなんだろうが、その皮膚が上皮組織と結合組織から成り、身体の内側にまで続いてさえいれば”、この技からは逃れられない。


「爆ぜな」


――キバEFが指を鳴らすと、突如としてイルヤンカの腹部から水の粒が飛び散った。太陽光を反射し、美しく輝く様子とは裏腹に、イルヤンカの悲鳴は更に激しさを増す。


それはそうだ。


(何せ、“内側から体内器官をブッ壊されてんだからなぁ)


通常のバッシャーアクアトルネードは魔皇力を含んだ水球により、外側から敵の細胞結合を弛緩させるもの。
対してエンペラーアクアトルネードは、“細かな水の粒一つ一つ”に魔皇力が込められており、例え堅い外皮であろうとも、僅かな隙間から体内に入り込み、内側の細胞結合を弛緩させる技だ。


水の一発一発が細かい粒の為、粉塵の盾である『幕瘴壁』では、本体に届くより先に塵へと付着し、阻まれてしまう技だが(ディケイドCFとシャナに隙を作って貰ったのもこの為だ)、バッシャーアクアトルネードよりも多人数戦に優れ、水球では覆い切れない巨大な敵にも効果がある。


あれなら防御用の幕瘴壁は、しばらく貼れまい。


「ふう……さすがに、しんどいかな」


バッシャーマグナムを下ろし、キバEFはクウガゴウラムの背に膝をつく。
周囲にはディケイドCF、シャナ、キバーラに抱えられた悠二らが集う。


「王サマとしちゃ、及第点ってとこだな」
「……はは、お前のジャッジは厳しいな。門矢」


キバEFの声には、疲労の色が濃い。
当然だ。
エンペラーフォームに戻れたとはいえ、ここに来るまでの奏夜は連戦に次ぐ連戦。
正直な話、いつ限界が来ても可笑しくない状態のまま、この戦いに望んでいたのだから。


「先生、やっぱり今まで無理して……」
「奏夜、もう離脱した方がいい。あとは私達で何とかできると思う」


気遣わし気な悠二とシャナの言葉に、キバEFは自分のボロボロな身体を省みる。
――レティシアとの決着はつけねばならないが、しかしシャナやディケイドの足手まといになるのでは話にならない。


「……そうだな。確かにこのままじゃ、お前らの邪魔になっちまうか」
「いや、そうでもないかも知れないぜ?」


だが、ディケイドCFは平然と現実を鑑みずに告げる。


「レティシアと決着をつけるべきなのはお前だ。あれだけの啖呵切って逃げるなよ」
「ちょっと士くん、それはいくらなんでも無茶苦茶ですよ……」
「夏海ちゃんの言う通りだぞ! レティシアだけならまだしも、それに加えてあの竜と戦えるほど、奏夜の力はもう残ってないだろ!」
「『奏夜の力』は、だろ?」


呆れるキバーラと食ってかかるクウガゴウラムに、ディケイドCFは涼しい口調のまま、一枚のカードを取り出す。
絵柄は、ディケイドとキバが輝く光の糸で繋がれているというもの。


「なら、他の力を借りればいいだけだ」


【LINK.RIDE-KIVA!!】


ディケイドライバーの音声と共に、細い光の糸のようなものが、ディケイドCFとキバEFを繋ぐ。


「わ! 何だこりゃ!?」


――ファイナルアームライドに次ぐ、ディケイドの新たな力、リンクライド。
そのカード効果は、対象のライダーと味方の間で、それぞれに掛かっている能力を共有すること。
だが、光の糸が繋ぐライダーは二人だけではない。


◆◆◆


「何だこの光の糸は。敵意は無いようだが……」
「ああ。むしろ逆に力が湧いてくるようだ」


地上で戦っていたライジングイクサとサガは、突如として上空から降り、自分の背中と繋がった光の糸に困惑していた。


「自在法……じゃないわね。かといって魔術でも無いわ」
「士の力だよ。君達は今、士とあのキバと能力を共有しているのさ」


トーガから聞こえるマージョリーの分析に、ディエンドが質問を加えた。


「早くその力を使ってみてくれたまえ。いい加減僕も、この屍達にはウンザリしてきたところだ」
「言われなくてもそうしてやるさ。名護、始末をつけるぞ」
「ああ、任せなさい」


未だにひしめき合っている屍のファンガイア達を真正面から見据え、ライジングイクサとサガが並び立つ。


『ハァァァ……ッ』


動作とタイミングを揃えながら、二人は両手を広げるような構えを取る。
ややあって、二人の足元に朧気な光が集束し、太陽と王冠――ライジングイクサとサガを象徴する紋章を象った。


『ハァッ!』


キバEFとの能力共有によって作られた紋章は、二人の意志に従い、荒れた大地を滑り出す。
紋章は徐々に面積を広げながら、屍のファンガイア達を目映いスパークで捕縛した。


――ギィィィィィィィ!!


荒々しく弾ける光は、屍のファンガイア達の動きを縛り、動作を起こすことを許さない。
動かせるのは悲鳴を上げる口だけだ。
無論その状態は、四人からすれば好機以外の何物でもない。


「さっきのはソウヤの魔術……」
『なーるほどなぁ、力を共有するってのはこういうことか!』
「感嘆は後にしたまえ。攻撃するなら今だよ」


トーガの反応を余所に、ディエンドは新たなカードをドライバーに挿入する。


【KAMEN.RIDE-OOO!!】


「取って置きだ。――行け!!」


トリガーが引かれると共に、幾重にも重なった影が、一人の仮面ライダーの姿を作り出す。
身体は上から赤、黄、緑を三段重ねにしたようなカラーリング。
頭部の仮面は鷹を模したタカヘッド。虎の猛々しさを示すトラアーム。圧倒的な跳躍力を秘めたバッタレッグ。
胸部には、ベルトに装填されたメダルの特性を示すオーランドサークルが刻まれている。


【タカ、トラ、バッタ!!】
【タ・ト・バ!! タトバ、タ・ト・バ!!】


同種のメダルによるコンボ発動を認識したベルトが発する奇妙な歌をバックコーラスに、メダルの力を操る仮面ライダー、オーズが召還された。


傍らでその歌を聞いていたマージョリーはしばし沈黙し、


「……何よ、今の耳に残る歌」
「歌は気にしない。さぁ、終わらせるよ」


【ATTACK.RIDE-CROSS.ATTACK!!】


召還したライダーとの同時攻撃を発動する『クロスアタック』のカードを使うディエンド。
ディエンドライバーの銃口が輝き、弾丸のエネルギーが溜められていく。
オーズは専用武器である大剣『メダジャリバー』に、銀色のセルメダルを三枚投入し、オースキャナーで刀身をスキャンする。


【トリプル!! スキャニングチャージ!!】


甲高い音声と共に、メダジャリバーの刃を青白い光が覆う。


「その命、神に返しなさい!」


ライジングイクサは、イクサライザーのグリップ部分にあるライザーフエッスルを取り外し、ベルトのイクサナックルに読み込ませる。


『~~♪』


法螺貝を吹き鳴らすような深みのある音色が流れ、ライジングイクサ胸部のコロナコアから、右手のイクサライザーへと、光子エネルギーが吸い込まれていく。


『ウェイクアップ』


無機質なコールと共に、サガークがウェイクアップフエッスルを奏でる。
サガはジャコーダーをベルトにインサートし、赤い魔皇力に染まったロッド部分を構えた。


『木を削れ、土を練れ、岩を運べや堀を掘れ』
『築いた牙城は一級品』
『余剰分は?』
『積み木に使え!』


屠殺の即興詩が紡がれ、トーガが吐き出した火の玉の一つ一つが回り出し、サーカスの如き円環状の火の輪を作り出す。


ファンガイア勢が迫り来る攻撃に『ギッ!?』と呻くが、自らを縛る結界は一向に力を緩めない。


――それに、動けたとしても、回避出来たかどうかは怪しかっただろう。


ディエンドのシアンに煌めく光弾の嵐。
オーズの空間ごと敵を切断する『オーズバッシュ』。
ファンガイアの肉体を一瞬で破壊するライジングイクサの『ファイナルライジングブラスト』。
鞭のように敵を刺し貫くサガの『スネーキングデスブレイク』。トーガの頭上の輪から放たれる群青に燃える火炎弾の一斉砲撃。


五人の強者達の持つ必殺の一撃が、ほぼ同時に牙を剥いたのだから。


耳を貫く衝撃音。
それぞれの武器(トーガは腕)を下げた五人の眼前に残ったのは、炎と大量のステンドグラス片。
ふう、と全員が安堵と疲労から来る溜め息を付く。


「ご苦労様」


何を思ったか、召還時間を過ぎて消えていくオーズに、労いの言葉をかけるディエンドに、


「ライダーは助け合いでしょ」


その一言だけを継げ、オーズの輪郭は霞ようにぼやけ、瞬く間に消え去った。


「さて」


虚空から目を離し、ディエンドは上空を見上げる。


「向こうもそろそろケリがついた頃かな」


◆◆◆


「……魔力が、少し戻った?」


リンクライドの光に繋がれながら、キバEFはゆっくりと腰を上げる。
戻った力は僅かだが、戦うには十分だ。


「下にいる太牙とも力を共有してるからな。ホラ、行くぞ」
「ああ!」


二人が手を広げると、足元にキバとディケイドの紋章が浮かび上がる。


『ハァッ!!』


平面的なそれらは空中で向きを変え、イルヤンカの巨体を双方向から挟み込む。


「くっ!?」
「オォォォッ!?」


赤とマゼンダのスパークが散り、レティシアごと対象を捕縛した。
ディケイドCFはライドブッカーから、二枚のカードを取り出す。
どちらもファイナルアームライドのカードだが、一枚目はポジ・キバの世界で紅渡をファイナルアームライドさせたもの。
二枚目は、先程悠二づてに海東から貰ったカードだ。


「海東からの貰い物ってのが癪だが……仕方ねぇ、使ってやるとするか」


しばし悩んだ末、ディケイドCFは海東から貰った方のカードを選び、左腰のディケイドライバーに装填する。


【FINAL.ARM.RIDE-KI.KI.KI.KIVA!!】


「奏夜、ちょっとくすぐったいぞ」
「は?」


仮面の下で口を開くキバEFを無視し、ディケイドCFは先程のクウガの時と同じように、彼の背中へ手を突き入れる。


「のわっ!?」


背中から金と赤色の翼が現れ、足の部分が折り畳まれるように収納。そのままキバEFは更に様相を変えていく。


――見た目は、巨大なキバット。
だがその姿の至る所には、キバEFの鎧の名残が見られ、おでこには巨大なインペリアルスロット、足に当たる部分には銃のグリップ。
前方には、タツロットの頭部が融合しており、開いた口からは、ヘルズゲートの甲冑を模した矢が覗いている。
キバEF、もう一つのファイナルアームライド――エンペラーキバボウガンだ。


「奏夜が、武器に?」
「ちょ、ちょっと士さん! これ中の先生は大丈夫なんですか!?」
「心配すんな。本人はちょっとくすぐったいだけだ」


驚愕を覚えつつ、視覚的にかなり惨い変型を遂げた奏夜の身を案じるシャナと悠二。
ディケイドCFは素知らぬ様子でグリップを握る。
すると、エンペラーキバボウガンから、かなり動揺したキバEFの声が聞こえてきた。


「オイ、ちょっとどうなってんだこれ!? 視界が明らかにおかしいし、さっき足があらぬ方向に曲がったぞ!?」
「喧しい。痛みは無いんだから我慢しろ。ユウスケ、後ろから支えてくれ。このバイクの上じゃ、反動でぶっ飛んじまう」
「よっしゃ!」


乗り手のいなくなったクウガゴウラムがディケイドCFの背に回り、角で挟むようにして彼を支える。狙撃体制が整い、ディケイドCFはエンペラーキバボウガンの照準をイルヤンカに合わせていく。


「シャナ、まだ炎は出せるか?」
「? ええ、余力はまだ残ってるけど」
「十分だ。お前もグリップを持ってみろ」


ディケイドCFに促され、シャナは怪訝そうにしながらも、エンペラーキバボウガンのグリップを握る。
その途端、エンペラーキバボウガンの金色だった外装が、紅蓮の炎に包まれ、目も覚めるような真紅に染まる。


「!! これって、私の力を……」
「そうだ。使い手の力を吸収し、己のパワーに加える。これがこのボウガンの――いや、俺達の力だ!」


キバの鎧は、ガルル達アームズモンスターの力を反映し、フォームチェンジを行う。
故に、このエンペラーキバボウガンにも、その特性は引き継がれているのだ。
煌めく紅蓮はまさに、シャナの力を吸収した証であり、その色に紛れ、ディケイドCFのマゼンダのエネルギーと、キバEF本人の持つ真紅の魔皇力も視認出来る。


「キバッて!!」
「テンション、フォルティッシモ!!」


――バキィィン!!
キバットとタツロットの声が重なり、エンペラーキバボウガンの先端にあるヘルズゲートが開放される。
弓が引き絞られていき、弾け飛んだ鎖の下には、紅蓮、マゼンダ、真紅の光を交互に放つ、三叉の矢。




『はぁぁっ!!』




トリガーが引かれ、緊張していた弓が戻ると同時に、先端から目映い光の矢が放たれた。
四方八方に飛び散っていく無数の閃光は、マゼンダ、紅蓮、真紅の軌跡を描きながら、イルヤンカの巨体を射抜いていく。


百を優に超える、破壊の流星群。
連なった刺突音を奏でる閃光の勢いに負け、イルヤンカの巨体は急速に高度を下げていく。


「オォォォォォ――――ッ!!」


広がった翼をも閃光に貫かれ、イルヤンカは回避の術を失っていた。
強固だった筈の外皮も次々に剥がれ落ち、矢によるダメージを追っていく。


――強大な“王”は遂に大空を離れ、叩き落とされた大地には、王の威光を示すキバの紋章が、巨大なクレーターとして刻まれる。
完全敗北を喫したイルヤンカは、自らを葬った者達を瞳に移すと、その肉体は砂のように崩れ落ち、元の屍へと帰っていった。



◆◆◆


(ここまで、ですか)


イルヤンカの残滓とも言える霞が、風に乗って流れて行く。
閃光に貫かれ、歪にひび割れたステンドグラスの肌を見ながら、ロブスターファンガイア――レティシアは静かに、自分自身の幕引きを受け入れていた。


あの矢に射抜かれた傷から、魔皇力が流出していくのが分かる。
身体は地に吸い付いているかのように重く、寄りかかっている木々には、ファンガイアの青い血が滲む。


――腕にあった筈の『死者の書』も無い。
イルヤンカと共に落下した際に紛失したか、それとも跡形も無く砕けたのか。
今となっては、もはや気にすべくも無いが……。


「……カロンには、謝らないといけませんね」


皮肉めいた笑みを浮かべる余裕も、終わりを迎える今だからこそ湧いてくるものだった。


……そう。やっと終わる。


サミュエルとジェフを失った時から始まった、この長い旅路が。


「よぉ」


状況に似つかわしくない軽い声。
顔を上げると、輝かしい黄金の光が目に飛び込んでくる。
その後ろには、彼の仲間の姿もあった。


「あら、ごきげんよう」


そう返したものの、機嫌はまったくよろしくない。
今にも意識が飛びかねないのだ。


余裕ぶってはいるが、あれだけ連戦を積み重ねていたキバEFも、致命傷は負っていないにしろ似たような容態だろう。肩で息をし、足元は目に見えてフラついている。


「……何だよ、逝っちまうのか」
「ええ。そのようです」


キバEFはボロボロになった自分を仮面に映したかと思うと、こちら目掛けて何かを放り投げる。
いつの間にか手から離れていた愛剣、クレイモアが土塊を巻き上げ、近くの地面に突き刺さった。


「俺達はお互いに、もうズタボロだ」


行動の意図が読めないままに、キバEFは告げる。


「最初の戦いも、二回目の戦いも、俺は病み上がりだったからな。今回も門矢達の力を借りた以上、フェアとは言い難い」
「……?」
「けど今は」


二人共、満身創痍。
背後で見守るディケイド達にもシャナ達にも、手は出さないように言ってある。



「――レティシア、最後の勝負だ。俺とお前のケリをつけようぜ」


疲労を感じさせない気迫を纏うキバEF。


「…………ふふ」


レティシアもまた口元に笑みを蓄えながら、クレイモアを杖代わりに立ち上がる。


「良いですね。貴方を倒して散るという幕引きも、悪くない」
「悪いが、俺は死ぬつもりは無ぇぞ。お前は俺の超カッコいい勝利ポーズを見ながら散るんだ」


冗談めかしい態度を取るキバEF。
だがレティシアには、彼の本意が見えていた。


キバEFの理想、レティシアの理想。どちらが正しいのかは、永遠に答えの無い問題。求められるのは、正誤の枠組みに囚われず、理想を追い続ける強い意志。
1対1で対等な条件の元、互いの信念をぶつけ合うキバEFとの勝負。
それは正に、レティシアが最後の一瞬まで理想を貫いた証に他ならない。


(まったく貴方という人は……つくづく甘い)


こんな勝負、私をただの負け犬にしないための手向け花じゃないか。


どこまでも甘く、優しさに溢れた王に向けた笑みは、敬服か、それとも嘲りか。 レティシアが握るクレイモアが、今までとは比べ物にならないほど濃密で、凄まじい量の魔皇力に包まれる。


「……凄ぇな」


文字通り、死力を尽くした最後の一刀。
彼女が奏でる心の音楽は、死にもまるで臆さず、凛とした力強さに満ちている。


(全力で行こう)


後のことなんざ知るか。
今、レティシアの音楽に応えられるだけの力があればいい。


敬意と共に、キバEFはタツロットのホーントリガーを引き、インペリアルスロットを回転させる。
出た絵柄は、大きく広がった真紅の両翼。


『WAKE.UP.FEVER~~!!』


タツロットのコールに呼応し、足裏のルシファーズナイフに真紅の魔皇力が集束していく。
腕を交差させるキバEFの周囲は、溢れ出した力が大気を震わせていた。


渾身の力を持って望む真剣勝負。
ディケイドCF達にせよ、シャナ達にせよ、今はキバEFの勝利を信じることしか出来なかった。





――視線を交錯させ、二人はほぼ同時に動く。
キバEFは上空へと飛び上がり、レティシアが踏み込みから一気に距離を詰め――





『はぁぁぁぁぁ―――ッ!!』


レティシアの青白い魔皇力で生成された巨大なエネルギーブレードと、真紅の翼を生やした両足から繰り出すキバEFの『エンペラームーンブレイク』が、真っ向から衝突した。






轟音と、剣の切っ先と両足の境目に起こった力の激突が、周囲にいた全員の視界と聴覚を奪う。
見えるのは、輝く真紅と蒼の閃光のみ。


――光が止んだ頃には既に、キバEFとレティシアは地に足を付いていた。互いに微動だにせず、まるでそこだけ時が止まっているかのよう。


どちらに軍配が上がったか判断しかねている一同だったが……。


「……っ!!」


苦渋に満ちた呻きと共に、キバEFの身体が僅かに揺れた。
まさか。という思いが全員の胸中を駆け抜ける。





「……お見事」





――ほんの僅かに唇を動かし、レティシアは地に崩れ落ちる。
エンペラームーンブレイクのダメージからか、倒れた瞬間にレティシアの身体は砕け、元の人間態に戻っていた。
手を離れたクレイモアが下に突き刺さり、身体の一部だったステンドグラスが散らばる。


キバEFは紙一重で致命傷を避けた身体を引きずりながら、レティシアの傍に歩み寄る。仰向けのまま、自分を見上げてくるレティシアに、キバEFは静かに告げる。


「……謝んねぇぞ」
「ええ。それでいいのです」


謝れば、すべてが無駄になる。
貫くべき自分の覚悟も、結果的に自分が砕いたレティシアの覚悟も。


「まぁ……、貴女が謝ろうと……謝るまいと……、私は自分の人生を悔やむつもりは、ありませんよ」


一字一句を紡ぐ間にも、レティシアの身体は崩れていく。
だが、彼女にとってそれはさして重要ではないようだった。
ただぽつり、ぽつりと自分の心情を吐露していく。


「私の人生は全部、私が選んで……この結末を迎えた。私は、何も後悔しません……。きっと何度選択の岐路に立たされようとも……同じ道を行くでしょう……」
「……シャナも言ってたが、本当に馬鹿だな。アンタ」
「ふふっ……貴方も、でしょう?」


その言い草に反論する気は――何故か起きなかった。


「おや――そろそろ、時間、です、ね……」


砕け、身体から離れた右腕を眼に収めながら、レティシアは僅かに首をもたげた。


「転生の輪廻の先で……貴方の理想が――作る景色を、見極めさせて貰いますよ……」
「ああ、言われなくても見せてやるよ。アンタが真に望んでた世界をな」


迷いを感じさせない言葉に、レティシアは皮肉っぽくも満足そうにも見える表情を浮かべた。


「……ああ」


朦朧とする意識の中で、彼女はおもむろに虚空へと手を伸ばした。
まるで、そこにいない誰かの手を取ろうとしているかのように。


――蒼い瞳からは零れ落ちたのは、一滴の涙。
震える声で、レティシアは唇を動かした。





「……やっと、一緒にいられるね。サミュエル、ジェフ……」






――暖かな過去を取り戻す為、必死に運命と戦い抜いた女性。
愛した者の名前を最後の言葉に、レティシアは命という名の音楽に幕を引いた。


砕け散った身体から浮かび上がったライフエナジーは、雲一つない空に溶けていく。


舞い上がっていくライフエナジーをやるせない気持ちで見送り、そのまま所在なさげに佇んでいたキバEFの肩を、誰かが叩く。
振り向けばそこにはディケイドとシャナ。
更にその後ろには、自分を支えてくれた仲間達。


「終わったな」
「お疲れ様、奏夜」
「……おう」




二人の労いを素直に受け取り、己の信念を巡る長い戦いは、遂に終焉を迎えた。





◆◆◆


「行くんだな」
「ああ。この世界で、俺達がやるべきことは果たした」


数日後。レティシアの弔いを済ませた一同は、光写真館の前に集まっていた。


見送りの席に現れたのは奏夜、シャナ、悠二の三人で、ディケイド一行の面子は士、ユウスケの二人だけである。


「士、夏海や海東は?」


二人を探すシャナだったが、彼は姿を見せてはいない。


「あいつなら、写真館の中でふてくされてる。魔皇竜を手放した挙げ句、この世界じゃ何の宝も手には入らなかったからな。夏みかんは彩香と爺さんと一緒に、そのお守りだ」


いい気味だ、と言わんばかりに意地悪く顔を歪める士。
ユウスケは「あはは……」と苦笑いを浮かべるしかなかった。
一方の奏夜はと言うと、


「それならちょうど良かった。門矢、こいつを海東に渡してくれ」


言って、奏夜が士に押し付けれ形で手渡したのは、粗末な造りの湯のみ。


「なんだこりゃ、湯のみか?」
「ああ。かのわび茶を大成したとされる偉人、千利休が障害使ったという幻の湯のみだ」


「……先生、湯のみの底に文字を修正した跡があるんですけど。これ寿司屋の湯のみの改造品じゃ……」
「何を言うか悠二。別にタツロットを返して貰っても俺のムカムカは消えないのでせっかくだからちょっと仕返しをしようとかは全然思ってないぞ」


早口でまくし立てる奏夜。
どうやら悠二の考えは正しかったようだ。


「てなわけで、忘れずに渡してくれよな」
「……フッ。任せとけ。必ず渡してやる」


完全に利害が一致し、いたずらっ子のような笑みまでシンクロする士と奏夜。
その他三名の心境も「本当にいい性格してるよ」で統一されていたのは余談である。


「けど、何から何まで世話になっちまったな。今回の一件、お前らがいてくれて本当に助かった」
「気にすんなって。それが俺達の使命なんだからさ」


ドンと胸を張るユウスケ――此度、自分が立ち上がるキッカケをくれた青年に、奏夜は徐に手を差し出す。


「なら、また連れて行ってくれるか? 俺の本当に行きたい所まで」
「――ああ、勿論さ!」


例え異なる世界を生きる人間同士でも、それが友となることの妨げにはならない。
奏夜とユウスケの間で交わされた固い握手が、その証拠だった。


「じゃあ、シャナちゃんも悠二くんも元気でね」
「はい! 色々、ありがとうございました!」
「士も、油断して怪我しないようにね」
「ふん、俺様の心配するなんざ百年早ぇよ。お前の方こそ、せいぜいフレイムヘイズの使命とやらを全うしろよ」


ぴんっ、とシャナのおでこを弾き、士はもう一度奏夜に歩み寄る。
額を押さえるシャナの抗議を無視しながら、士は怪訝そうにする奏夜の耳元で、小さく呟く。




「負けるなよ、奏夜。“お前の運命”に」




「……ああ」


その言葉の真意を読み取った奏夜が短く答え、士は近付けていた顔を離した。
一連の動作に気付いたシャナが首を傾げ、


「奏夜、どうかした?」
「いや、なーんも」
「嘘。何か隠してる」
「隠してねぇって。俺が正直者なのは、お前が悠二を好きってことと同じくらいに周知の事実――」


言い終わるか言い終わらない内に、顔を紅潮させたシャナの上段回し蹴りが、奏夜の首筋にヒットした。


「がっ!! お前、俺一応ケガ人だぞ!?」
「うるさいうるさいうるさーーい!!」


痛みに悶えるよりも早く、額に怒りマークを刻む奏夜が反撃を繰り出し、二人の間で子供の喧嘩が始まる。


「ちょっ、先生もシャナも落ち着いて! 端から見てると凄くみっともないから!」


止めに入る悠二を含んだ三人のやり取りに、ユウスケは困ったように頬を掻いて、


「喧嘩するほど仲が良いって言うけど……」
「あいつらほど、それが似合う連中はいないな」


言いながらも、士はどこか楽しそうしながら、首に下げたカメラのフレームを三人に向け、シャッターを下ろした。


◆◆◆


「~~♪」


光写真館。
テーブルにつきながら、鼻歌混じりに湯飲みを眺めている海東大樹。
どうやら結局、士づてに奏夜の嘘情報を信じ込まされたようだ。


(……すっげー嬉しそう)
(カブトの世界の時も思いましたけど、海東さんって、案外ピュアですよね……)
(アホだね♪)


ユウスケ、夏海、彩香が複雑そうに海東を見る中、士だけは手元にある写真を見つめていた。
そこには、じゃれあうように喧嘩する奏夜とシャナ、焦りながらも二人を止めようとする悠二の姿が映っている。


「おお、士くんも随分腕を上げたねぇ。この写真、喧嘩しているように見えて、彼らの仲の良さが伝わってくるよ」
「だろ?」


栄次郎の賞賛を受けながら、士はその写真をアルバムに収め、今までのライダー世界と同じく、その姿を自分の旅路として記録する。


「奏夜達、きっとこれからも大丈夫だよな」


ユウスケがアルバムを覗き込みながら問う。


「ああ、あいつらなら、どんな運命も乗り越えられる。――さて、そろそろ俺達も行くとするか!」


立ち上がった士は、そのまま撮影室奥の鎖を引っ張った。


――ガララララッ!


背景ロールが回転し、新たな世界の絵が降りてくる。


さあ、次なる世界は――?




◆◆◆

「……」


紅邸。
物憂げな表情で自身の手を見つめる紅奏夜。
傍らの机には、キバットバット三世とタツロットが止まっているが、こちらもあまり顔色は優れていない。


「……奏夜」
「ああ、分かってるよ。あのコンディションでエンペラーフォームになれば、こうなるってことは分かってた」
「すみません奏夜さん、ワタシが戻ってきてしまったから……」


うなだれるタツロット。
奏夜は彼を安心させるように、普段と変わらぬ柔らかな表情を見せる。


「何言ってんだよタツロット。お前が戻ってきてくれて、俺は本当に嬉しかったぜ。
エンペラーフォームになるって言ったのは俺なんだし、タツロットが気にすることじゃねぇよ」
「けどよ、奏夜。タッちゃんのことはいいとしても、エンペラーフォームの多用を控えた方がいいのは確かだぜ。 このままエンペラーフォームへの変身を続けたら、お前は……」
「いや、エンペラーフォームはこれからの戦いに必要な力だ。ファンガイア相手にしろ“徒”にしろ、四年前と同格……もしくはそれ以上の力を持つ連中がうようよ出てきてる。そんな中で、我が身可愛さに変身を躊躇うつもりはない」
「けどよぉ……」
「それに、まだ“そう”なると決まった訳じゃない。母さんの話じゃ、兆候が見え始めたとしても、確率は五分らしいしな」


「だからこそ」と奏夜はキバットとタツロットを真っ正面から見つめる。


「キバットにタツロット。お前らは俺の“時間”を知る数少ない存在だ。 俺が変身すると言った時には、必ず変身させろ。お前らはその傍らで、俺を支え続けてくれ」
『……』


奏夜の言葉と瞳には、何があっても曲がらない芯が打ち立てられているように思えた。 レティシアとの戦いが、彼の中の信念を更に強くしたのだろうが……。


果たしてそれは、本当に良いことだったのだろうか?


疑念と不安を入り混ぜながらも、主の力強い姿に平伏したのか、キバットとタツロットは恭しく頭を下げる。


『仰せのままに。我らが王よ』


満足げに二人の答えを聞き、奏夜は木漏れ日の差し込む窓を見やる。






「急がないとな……。“俺”が俺を殺す前に」




呟く奏夜の右手は、ひび割れたステンドグラスに覆われ、窓から差し込む光を鈍く跳ね返していた。





◆◆◆


「スリーカード」
「わん、ぺあ」
「フルハウス。また僕の勝ち~♪」


したり顔をするラモンに、次狼は悔しさから舌打ちし、力は「のぉ~~」と頭を抱えている。
キャッスルドランの中で、ポーカーに興じるアームズモンスター達。
つい数時間前まで、レティシアとの戦いを繰り広げていたとは思えない朗らかっぷりだった。


――しかし、嵐は唐突に現れるものである。


「貴方達は相変わらず楽しそうね」
「!!」


不意を突く声に、臨戦態勢を取る三人。
しかし、声の主を見た途端、敵意は驚愕にすり替わる。


『クイーン……!』


自分達のゲーム場であるホールの中央には、誰であろう、奏夜の母にしてファンガイアの元クイーン、真夜が悠然と立っていた。


「お久しぶりね。四年前の結婚式で会って以来かしら?」
「……ああ、久しぶりだな、クイーン。今日は一体どうした?」
「そうそう。キャッスルドランに顔を見せるなんて珍しいじゃん」
「とりあえず、おちゃとおかし」


気を落ち着かせる為か、椅子に腰掛けた真夜に、紅茶とケーキを差し出す力。
「ありがとう」と微笑み、紅茶を一口啜る真夜だったが、三人はその優美な姿よりも、彼女がここに来た理由が一番気になっていた。


クイーンの力を剥奪され、山奥に移り住んでから、彼女は表舞台に出ることを極端に避けるようになっている。
危険、ということもあるが、それは彼女自身の戒めにも近い。
故に、彼女が洞窟から外に出るのは、余程の事なのだ。


「今日来たのは、貴方達に頼み事ができたからよ」
「頼み事だと?」
「ええ、“これ”をキャッスルドランに封印しておいて貰いたいの」


真夜はフード袖から包みを取り出し、巻かれていた紐を解く。その中身は、三人の予想の斜め上を行く代物だった。


「これは……!!」
「あのカロンって“徒”が持ってた手甲じゃないか!」
「ししゃの、しょ」


レティシアが最後の最後まで無くしたと考えていた宝具『死者の書』。
それが今、三人の目の前で鈍い輝きを放っていた。


「奏夜達とレティシア・リネロが戦った森の近くで見付けたわ。この宝具をその時が来るまで、誰にも言わずに封印しておいて」
「『その時』だと? 」


反芻する次狼に、真夜が頷く。




「そう。過去と現在の扉が、再び開かれるその時まで」





◆◆◆


「どうだ。世界の破壊者の様子は」
「問題ありません、無事に『BLAZING.BLOODの世界』を通過したようです」


周囲を摩天楼に囲まれた小さな噴水広場。
壮観な景色から切り取られたかのようなその姿は、どことなく寂しさを感じさせる。


本来は星が支配している筈の夜空には、高層ビルが鏡合わせの如く立ち並ぶという非現実的な世界で、二人の青年が言葉を交わしていた。


「『BLAZING.BLOODの世界』への影響も殆どありません。我々が出向くこともないでしょう」
「それは僥倖だ。あの世界のバランスを崩すわけにはいかないからな」


鋭い風貌に、サングラスと黒ずくめのスーツを身につけた青年が、僅かにその表情を緩める。


「ただでさえ今は、『フォーゼの世界』が誕生したばかりで、世界の理が不安定な時期だ。ディケイドが鳴滝を追っている以上、余計な問題は少ない方がいい」
「ええ。しかし、危惧すべき問題が消えたわけではありません。……何より今回の一件で、紅奏夜がエンペラーフォームを取り戻してしまいました」


白いセーターにマフラーを巻いた青年が物憂げに目を伏せ、黒スーツの青年もまた、再び顔を曇らせる。


「……紅奏夜。お前に最も近いキバであり、お前の――オリジナルの『残像』か」
「このまま行けば、僕があの世界に出向く日もそう遠くはないでしょう。――なるべく、そうならなければ良いのですがね。あなたはどう思いますか、剣崎さん」
「……俺も最悪の事態は避けたいが、難しいところだろうな」


黒スーツの青年、剣崎一真は、先ほどまで高層ビルが立ち並んでいた夜空を見上げる。
いつの間にか空には、無数の惑星が瞬いていた。




「あのキバが――いや、『BLAZING.BLOODの世界』が、オリジナルの世界の残像である限りな」







◆◆◆


――ヨーロッパのとある国で交わされた会話。


「うーん、さすがに7月ともなると、欧州も暑くなるなぁ……。ま、こっちはカラッとした暑さやし、向こうのむわっとした暑さよりはマシやけど」
「俺様にとっちゃあ、どっちの暑さも地獄だぜぇ……季節はクールな冬にかぁぎる」
「ああ。お前にとっちゃそうやろな……。あーあ、せめて秋くらいまでには日本に帰りたいでぇ」
「だがもうじき、仕事は片付くんだろぉ?」
「うーん、もうじきっちゅうても八割方ってトコやけどな。ファンガイアに加えて最近は、名護さんから聞いた『トモガラ』っちゅーワケの分からんヤツらもおるし」
「徒か……。聞くところによっちゃあ、ヤツらはファンガイアの一派と手を組んでるらしいが、一体何を企んでいるんだろぉな?」
「まだそっちは噂話の領域やしな、俺にも推測は立たん。せやけどな、噂話にかまけとってもあかんで。俺達は、日本で踏ん張っとる奏夜達の分まで、俺達にしかでけへんことをするんや」
「……フッ、そぉれもそうだな」
「分かればよし。さ、休憩は終わりや。また頼むで、相棒」
「ああ、任せとけ。では行こうか! 華麗に激しく!!」





――それぞれの思惑は絡み合い、世界の歴史に新たな1ページを刻む。

  1. 2012/05/31(木) 11:04:41|
  2. 仮面ライダーキバ/BLAZING.BLOOD
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第二十四話・超新星/帰還のエンペラーゴールド.前篇


「ほいさっと!」


炎の衣『トーガ』に身を包んだマージョリーの剛腕が、ファンガイアの軍勢を叩き潰す。
やはり、この再生態は相手ではないが――


「死者を生み出すペース、段々上がってきてるわね」
「あくまでも、僕達と奏夜達の合流をさし止めるつもりだろう」


サガがジャコーダーを振るい、キバーラがサーベルで敵を斬りつけつつ、城に鎮座するイルヤンカを見上げた。


「早く行かなきゃいけないのに……。いくら士くんやユウスケでもあんな龍を相手にしてたら……きゃっ!?」


突如巻き起こった衝撃に、キバーラのみならず、全員が一瞬怯む。
地上に待機していたイルヤンカが飛翔したことに伴い、巻き起こされた爆風だ。
その巨体の背中では、時折紅蓮とマゼンダの光が視認できる。


「名護さん、シャナ達が……」
「ああ、見えているよ。――これは出し惜しみしている場合ではなさそうだな」


悠二の傍でファンガイアを蹴散らしていたイクサは、仮面の口元からイクサライザーを取り外し、コードを入力していく。


【1.9.3.ラ・イ・ジ・ン・グ】
【ENTER】


アーマー胸部のコロナコアと頭部のクロスシールドが展開し、装甲の一部が弾け飛ぶ。ガーディアンコバルトの鮮やかな青がイクサを覆い、ライジングイクサへの変身が完了した。


「死者達よ、その命、今一度神に返しなさい!」


イクサライザーから放たれるオレンジのエネルギー弾が、ファンガイアを打ち抜いていく。
マージョリー、ライジングイクサ、サガ、キバーラ。火力は十分のはずだが、全てを殲滅するとなれば、時間がかかるだろう。
それまで奏夜達があの龍を落とすか、持ちこたえてくれればいいが、戦いに絶対はない。


早期決着は全員が望むところだった。


「どうやら苦戦してるみたいだね」
「!」


涼やかな声と、後方で煌めくシアンの光弾。
その影は軍勢の一角を撃ち抜きながら、凄まじいスピードで5人の前に現れた。


「大樹さん!」
「海東さん!」
「やあ、夏メロンにミステス君」


声を揃えた悠二とキバーラに片手を挙げ、ディエンドは振り向き様にディエンドライバーの引き金をひく。


「海東さん、何でここに……?」
「愚問だね。僕の行動理由はお宝だけ……と言いたいところだが、今回はそれだけじゃないかな。――ほら、これを受け取りたまえ」


ディエンドは握り拳を解き、何かを悠二の掌に落とす。
悠二が目を落とすと、そこにはゴールドカラーのフエッスルが光っていた。




「これって、先生が使ってる笛ですか?」
「ああ、魔皇竜を呼び出すための起動キーさ」
「魔皇竜……って、まさか!?」


ディエンドが奪った、奏夜の友達の名前ではないか。
口を開きかけた悠二だったが、ディエンドは「おっと」と言葉を遮る。


「勘違いするなよ。今はレティシアの持ってる『死者の書』――あっちの方が貴重なお宝だと思っただけさ」


さすがにそれが建て前だということは分かったが、それを口に出すほど、悠二は野暮ではなかった。


「それと、こっちは士に渡してくれ」


ディエンドがベルトのケースから一枚のカードを悠二に手渡す。
絵柄には、悠二も見たことがない姿のキバと、弓のような武器が描かれていた。


「FINAL.ARM.RIDE……なんですかこのカード?」


「士に渡してくれれば分かるよ。あのキバをファイナルアームライドさせるには、このカードじゃなきゃダメなんだ。
――紅奏夜は、オリジナルの『残像』だからね」
「……?」


一瞬、悠二はディエンドの口調に引っかかるものを感じたが、切迫した状況に、その思考は直ぐに埋没してしまった。


「ま、とにかく、僕はこの屍達を片付けるから、キミはそれを士とキバに届けてくれたまえ」
「いや、届けろって言われても……」


困惑した悠二は上空を仰ぐ。
どうしろと言うのだろうか。
例え悠二が百人肩車しても、これを届ける為に必要な高さには足りない。


「世話が焼けるねぇ……夏メロン、ミステス君を二人のとこまで送ってくれ」
「だから! 私は夏メロンでも夏みかんでもなくて夏海です!」


いつになったら覚えてくれるのだろうか。


「それに大樹さん、二人の所になら私が一人でも行けますよ。……あんな場所に悠二くんを連れてくのは危ないです」
「いや、ここは彼が行かなきゃダメだ」


ディエンドは有無を言わせぬ雰囲気のまま、悠二に向き直る。


「『炎髪灼眼の討ち手』やあのキバがキの言う“仲間”なら、そのくらいはやってみせてくれ」
「!」


挑発。いや、試されている。
悠二は本能的にそれを感じ取った。
海東に仲間の意味を説いたのは悠二。
ならば、身を持ってその意味を証明すべきなのも悠二だ。


「はい!」


首肯し、悠二はキバーラに頼み込む。


「お願いします夏海さん、僕を上まで運んで下さい!」
「――分かりました。悠二君本人がそう言うなら」


悠二の眼光に並々ならぬものを見て取り、キバーラも彼の願いを承諾した。
片手で悠二を抱き留めるように支え(情けない体勢ではあるが、バランスの関係上仕方ない)、紫色に輝く両翼を生やすと、キバーラはイルヤンカ目指して飛翔していく。


「ま、あとは彼次第か。――さて、こっちもさっさと片付けちゃうかな」


二人を見送り、ディエンドは仮面の下で不敵に笑った。


◆◆◆


「落ーーちーーる――!」
「この高さはシャレにならねぇな」


キバの絶叫とディケイドの舌打ちが重なる。
――悠二達が贈り物を届けるべき4人は、現在空を絶賛落下中であった。


戦闘開始直後、レティシアは四対一の戦いを最初から不利とみたのか、イルヤンカを操り、両翼を羽ばたかせる。


その巨体にそぐわぬ速さで龍は飛翔し、背中に乗っていたキバ、ディケイド、シャナ、クウガは空中に放り出されていた(レティシア当人は、愛剣であるクレイモアを突き刺し、踏みとどまっていたが)。


「くっ!」


シャナは紅蓮の双翼を顕現させ、


「奏夜、掴まってくれ!」
「悪い!」


再びクウガゴウラムにファイナルフォームライドしたクウガの足に、キバが掴まり、


「空の勝負ならコイツだ!」
【ATTACK.RIDE-JET.SLIGER!!】


地上に乗り捨ててあったマシンディケイダーを、Φを模した紋章が通過。
オールレンジホイールと五つものジェットエンジンを搭載した、銀色に輝く高性能バイクマシン――ジェットスライガーが、エンジンの噴射で滑空し、主であるディケイドの下へ飛んでいく。


「奏夜、シャナ! 一気に叩くぞ!」
「分かった!」
「おう!」


操縦席に乗り込み、ディケイドはパネルを操作。
ジェットスライガーのフロントが開き、二段重ねに搭載されたミサイル弾が、パネル上でイルヤンカをロックオンする。


「はぁ……ッ!!」


シャナの構える贄殿遮那の刀身が煌めき、紅蓮の奔流に包まれる。
全てを灰燼に帰すには十分な火力だ。


「バッシャーマグナム!! ア~ンド、バッシャー・バイト!!」


飛来したバッシャーマグナムにより、キバはバッシャーフォームへ。
キバットの魔皇力チャージにより発動した『バッシャーアクアトルネード』の水球が、銃口付近に生成される。


「ユウスケ、悪いが弾の反動は我慢してくれ!」
「俺は気にしないでいい、思いっきりやってやれ!」


掴まるクウガゴウラムの声援を受けながら、キバBFはトリガーに指をかけ、


『行けぇ!!』


バッシャーの魔力が込められた水球『バッシャーアクアトルネード』が放たれ、それに伴い、シャナの大太刀から特大の火炎流と、ディケイドのジェットスライガーから無数のミサイル弾が発射された。


イルヤンカは迫り来る脅威に対し、開いた口から並んだ牙を覗かせ、


「ッガハアアアア――――!!」



イルヤンカが吐き出したのは、蒸気にも似た鈍色の粉塵。
空中で広範囲に広がったそれは、三人の攻撃を阻むにはあまりにお粗末な代物に見える。


しかし、三人の攻撃が粉塵と接触した途端、豪快な衝突音と共に、水球は弾け、火炎は掻き消え、ミサイルは部品さえも残さず砕け散った。
その光景をジェットスライガー内から見ていたディケイドは、他三人の気持ちを代弁するかのように呟く。


「おいおい、ミサイルを弾く煙ってどんな煙だよ」
「アラストール、あれは?」
『“甲鉄竜”イルヤンカの持つ、最硬の防御力を誇る自在法、『幕瘴壁』だ』
「幕瘴壁……」


シャナの問いに対するアラストールの答えを、キバBFが復唱する。


『先のように拡散させれば無敵の防御壁に。集束させれば全てを貫く鋼の砲弾にも成り得る』
「攻守自在ってワケか……。遠距離がメインで、一撃のダメージが低いバッシャーフォームじゃ勝ち目ねーかもな」
「近距離で攻撃を入れていくしかなさそうね。反撃のリスクもあるけど、あっちはあの巨体だから、小回りの利くこっちの方が回避はし易い筈」
「だな。レティシアの方は援護に回ってるみたいだし」


クウガゴウラムの言う通り、レティシアは現段階で攻撃を仕掛けてきてはいない。
蘇生陣に使った魔皇力が回復していないのだろう。イルヤンカの力をメインに、自分は後衛にということか。


「俺も病み上がりなんだがな……ま、仕方ないか。門矢、シャナ、バラけて攻撃するぞ。固まってたら幕瘴壁の餌食だ」
「うん。奏夜、負傷中なのが分かってるなら、無茶しないでよ」
「油断して落とされるんじゃねぇぞ、お前ら」


キバBFがシニカルに言い放ったのを合図に、散った三人はそれぞれ別の方角からイルヤンカへと迫る。


(それにしても、なんて威圧感)


スピードの差から、最初にイルヤンカへ辿り着いたシャナは、改めてイルヤンカの強さを肌で感じ取る。
歴戦の中で磨き上げられた力は、例え操られた身であっても褪せることはない。


(でも、勝つ)


巨竜の正面近くに描かれた紅蓮の軌跡に、闘争心しか無かったはずのイルヤンカの瞳に、微かな感情の炎が灯った。


『炎髪灼眼の――討ち手……!』
「――久しいな。かつての好敵手よ」


紡がれた声に、アラストールは懐かしさと敬意を込めた言葉 だけを送る。
だが、その余韻も直ぐに戦いへと呑まれていく。


「斬る!」


瞬時に形成された巨大な炎剣が、イルヤンカの外皮に振り下ろされる。



「!!」


シャナの表情が驚愕に彩られる。
手加減なしの一撃にも関わらず、自身の炎剣は、イルヤンカの肌に僅かな傷と焦げ跡を残しただけだったからだ。


『離れろ!』
「っ!」


アラストールの声に反応し、ギリギリで回避行動を取ったシャナのすぐ傍を、イルヤンカの翼が掠めた。
巻き起こる爆風に踏みとどまり、シャナは再び距離を取る。


『油断するな。屍と言えど、あやつは大戦にその名を轟かせた強力な王だ』
「うん」


気を引き締め、シャナは紅蓮の翼を羽ばたかせる。
その下方、ディケイドはジェットスライガーを走らせ、攻撃の機を伺う。


(さっきのシャナの攻撃からして、コイツの外皮はかなり硬い。攻撃を加えるなら――)


やはり、この竜を操っている本人。
ジェットスライガーを浮上させ、イルヤンカの背中――レティシアをミサイルの射程圏に入れるディケイド。


「やはり私を狙いますか」


現れた銀色のマシンを見やり、レティシアは不敵な笑みを浮かべる。


「ですが――よもや私が、それを予想していなかったとお思いですか?」


レティシアはゆらりと、手を動かす。


―――ガガガガガッ!!


「なっ!?」


ディケイドの乗るジェットスライガーが、連なって襲い来る衝撃に揺れる。
レティシアもイルヤンカも、攻撃を加えてきた様子は無い。
だが現に、ジェットスライガーは見えない攻撃に火花を散らし始めている。


「クソッ!!」


せめて撃墜だけは避けなければ。
ディケイドは新たなカードをバックルに装填した。


【ATTACK.RIDE-HARD.TERPULAR!!】


ジェットスライガーをWの紋章が通過し、その機体を黒いフロント部分に、赤い安定翼とジェットエンジンを搭載したマシン――『ハードターピュラー』に変えた。
バイクの表面積が少なくなったことで、衝撃は止んだ。だが未だに、レティシアの攻撃はディケイドでも視認できない。


「ッバハア――!!」
「チィッ!!」


隙を突き、先刻の防御用ではない――煙を集束させた幕瘴壁の弾頭が、ハードターピュラーを狙う。


アクセルを入れ、幕瘴壁を緊急回避するディケイド。
そして見た。
避け際、先程まで自分がいた場所を幕瘴壁が通過すると、何か水泡のようなものが弾けたのを。


「しゃぼん玉……いや、そうか!」


ディケイドは気付く。
先の見えざる攻撃は、レティシアの魔皇力が籠もった、破壊力抜群のしゃぼん玉。
消えていたのは、恐らく光の三原色を利用していたからだ。



(三原色の赤、緑、青が交錯すれば、しゃぼん玉は無色となり、太陽光を反射する透明球と化す……!)


光を扱うカメラマンである彼の知識が解答を導き出すが、分かったところで対処のしようがない。


レティシアが先程手を動かしていたのを見ると、あのしゃぼん玉はある程度方向操作ができるとみていい。
これではレティシアへの攻撃も未然に防がれる。
アクアクラスのレティシアなら、魔皇力もそれほど消費せず、しゃぼん玉を生成できるだろう。


重厚なジェットスライガーを揺らす威力のしゃぼん玉なら、迂闊に割ることもできない(最悪、バイクから落ちてしまう)。
しかもその間に、幕瘴壁でのカウンターも考えられる。


「考えてやがるぜ、敵ながら」


当面は、ジェットスライガーより小回りの利くハードターピュラーで、突破口を見つけるしか――




「先生ーー!! 士さーーん!!」




『!!』


戦場に響く自分達を呼ぶ声に、ディケイドとバッシャーマグナムの弾丸を放っていたキバBFが、声のした方を振り返る。


「悠二!?」
「夏みかん?」


イルヤンカからやや離れた後方。
輝く翼で飛翔するキバーラと、彼女に抱えられた悠二に驚く二人。


「悠二、お前何しに……!」
「話は後です! 先生、これを!!」
「士くんも!」


悠二、キバーラが投げて寄越した何かを、キバBFとディケイドは器用にキャッチする。


「!! お前、これ……!」
「なんだ、新しいカードか?」


キバBFの掌には、黄金に輝くフエッスル。
ディケイドの手には、ファイナルアームライドのカード。
どちらも、戦局を変える切り札と成り得るものだ。


「海東さんが二人に渡してくれって!!」
「……ハッ、こそ泥が、粋なことするじゃねぇか!」


仮面の下で満面の笑みを浮かべながら、キバはバッシャーフォームを解除。
クウガゴウラムの足から背中によじ登る。


「ユウスケ、ちょっと背中借りるぜ」
「へ? 別にいいけど……何をするんだ?」
「なぁに、大したことじゃないさ。……寝ぼすけな友達を、ちょっくら起こしてやるだけだよ!」


イルヤンカを見据えながら、キバは金色のフエッスルを構える。


「キバット、頼むぜ!」
「おうよ! 久々の再会だぁ!!」


ベルトに留まるキバットも、キバと同じく歓喜の声を挙げた。
黄金のフエッスルをくわえ、キバットは高らかに覚醒の号令を吹き鳴らす!!





『タツロットォーー!!』





◆◆◆


――~~♪


「ねぇねぇおじいちゃん! こっちこっち!」


その頃の光写真館では、まるで何かを呼ぶかのように、絶え間ない音色が響き渡っていた。


「おお、彩香ちゃん。音の出所が分かったのかい?」
「うん、ホラ。あの鞄!」


栄次郎を引っ張る彩香が指差すのは、部屋の片隅に置かれた年代物の鞄。


「こりゃ大樹くんの鞄じゃないか」
「なんだろ? 携帯の着メロかなにかかな?」


どこか緊張感の無い二人は、心の中で海東に断りを入れつつ鞄の中を探り、この奇妙な音の出所を突き止める。


彩香が中から取り出したのは小さな小箱。
何故か鎖が幾重にも巻かれ、それこそ携帯電話のバイブの如く、音を鳴らしながら小刻みに震えている。


「この箱が出所っぽいねぇ」
「でもこの箱、鎖が巻き付けてあって外れないよ? どうやって止めたら――」


そう彩香が言い終えるか言い終わらない内に、小箱の震えは更に激しさを増し、鎖を引きちぎらんばかりに暴れ初めた。


「わぁっ!?」


突然の振動に驚いた彩香は、つい小箱を床に落としてしまった。


――ガッチャーーン!!


箱の『中身』の目覚めにより脆くなっていた封印の鎖は、落下の衝撃により粉々に砕け散る。
それとほぼ同時に、箱を構成する六面の板が吹き飛んだ。





「じゃっじゃ~ん!! 」





「おおっ!?」
「わわっ、竜だ! 金ピカの竜だ!」


彩香の言う通り、中から飛び出したのは、翼に銀色の二本角を持つ小さなドラゴンだった。


「ドラマチックに行きましょ~~う!!」


黄金の身体を歓喜に震わせ、魔皇竜『タツロット』は、自分を呼ぶ主の元へ飛び去っていく。




◆◆◆


「奏夜、なにぼんやりしてるのよ!」


クウガゴウラムの上に乗ったまま、急に動きを止めたキバをシャナが叱咤する。


「慌てるなシャナ」


だがキバは動じない。
威風堂々と、何かを待ち続けていた。


「そういや、お前にはまだ見せてなかったっけな。――俺の切り札を見せてやるよ」
「切り札? ちょっと、何のはな――」





「ビュンビュンビュンビュンビューーン!!」





ハイテンション極まりない甲高い声。
彼方から雲を掻き分け、猛スピードで接近してくる黄金の影。
キバとキバットにとっては見慣れた、しかし懐かしい親友の姿だ。


「タツロット!」
「タッちゃ~ん、こっちだこっち!」
「奏夜さぁ~ん、キバットさぁ~ん!!」


主と友達の元に到着したタツロットは、久方ぶりの再会に涙まで浮かべていた。


「久しぶりだなタッちゃん! 無事で何よりだ!」
「ううっ、本当にお久しぶりですぅ~! ずっと会えなくて寂しかったですよぉ~!」
「ああ、悪かったなタツロット。一人ぼっちにさせちまって」


よしよしとタツロットの頭を撫でるキバ。状況に着いていけないのは周りの面々だ。
キバの近くを浮遊していたシャナが、突然の乱入者であるタツロットをじっと見つめる。


「何なの、こいつ……金色の竜?」
「おんやぁ? なにやら知らない人がチラホラいますねぇ」
「話は後だ。タツロット、久しぶりに頼むぜ」
「おっとっと、そうでしたそうでした! ワタシの役割を忘れちゃいけませんね!」
「役割?」


シャナが首を傾げ、キバに何が起こるのかを見守る。


「そんじゃ、いっちょうキバッて――」
「テンション、フォルティッシモォーー――!!」


タツロットがキバの周囲を飛び回り、キバの肩当て――プテラプレートに巻き付いた封印の鎖『カテナ』を解き放つ。
鎖の外れた肩当ての隙間から零れた黄金の光が、無数の蝙蝠を型取り、空へと舞い上がっていく。
全ての準備が整ったキバが左腕を振り上げると、そこに装着された真紅のとまり木『パワールースト』に、タツロットが収まった。


――カチャリ!


タツロットによって鍵が回され、キバの力を封印していた最後の枷が遂に究極覚醒(ファイナルウェイクアップ)した。




「変・身!!」




キバの全身を、黄金の光の蝙蝠が飛び交い、その姿を『キバ本来の姿』に変えていく。
膝にはヘルズゲートの代わりに、クローを展開することによって強烈なニークラッシュを放つことができるルシファーメタル製のニーパッド、シルヴァ・ニークロー。
全身には魔皇力の影響で金色に染まったルシファーメタルにより、防御力を通常の5倍に跳ね上げたインペリアルアーマー。
宙、水、地の魔皇石を固定するヘルズマウントは、キバの強大な魔皇力を制御すべく右脚から移動し、身体の中心部に位置するヘルズブレストに変化している。
顔を覆う仮面は、並のファンガイアでは見ただけで戦意を喪失するとされる、キバ本来の禍々しき面構えを象徴したエンペラー・ペルソナに。
炎と共に背中に伸びた、血霞の如き真紅のマントを翻せば――変身完了。




――仮面ライダーキバ・エンペラーフォーム。




奏夜の持つ『黄金のキバ』本来の姿であり、封印された魔皇力を究極覚醒させた、キバの最強形態だ。


(――王)


傍目から見ていたシャナ、悠二にも、理屈抜きでそう思わせるほどの神々しく、気高い姿。
帰還せし王は自らの道を阻む者に、己の誇りを持って宣言する。


「断罪の牙の下、転生の輪廻に沈め!!」



  1. 2012/05/31(木) 11:02:42|
  2. 仮面ライダーキバ/BLAZING.BLOOD
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